「副業の確定申告は20万円から」——この一文はあちこちで目にしますが、いざ自分の数字を当てはめようとすると手が止まります。その20万円は振り込まれた金額のことなのか、経費を引いた後なのか。20万円以下なら本当に何もしなくていいのか。SNS では「住民税は別だ」という声も見かけて、かえって分からなくなる。副業を始めて最初の確定申告シーズンを迎えた方の多くが、この地点でつまずきます。
迷いが深くなる理由はもう一つあります。2025年(令和7年)分の所得税から、基礎控除・給与所得控除・扶養の判定ラインが大きく動きました。「基礎控除58万円」「上乗せで95万円」「年収の壁が160万円に」といった見出しが並ぶなかで、では20万円ルールも変わったのか、自分が読んでいる記事は改正後の数字なのか、判断する材料がありません。2026年に行う申告はまさにこの改正が初めて適用される回であるため、古い数字のまま判定してしまうリスクは無視できません。
やっかいなのは、税務の判断ミスは後から静かに効いてくることです。申告漏れが後日指摘されれば加算税と延滞税が乗りますし、住民税の通知経由で勤務先に副業の存在や金額が伝わることもあります。副業を長く続けたい人ほど、ここでの取り違えは避けたいはずです。
そこで本記事では、「いくらから」という問いを税目ごとに4つの金額基準へ分解し、自分の数字を当てはめれば結論が出せる形に整理します。そのうえで、2025年の税制改正で動いた数字と動いていない数字を切り分け、2026年の申告で実際に使う数値だけを残します。エンジニアの副業に多い受託開発の報酬・技術記事の原稿料・クラウドソーシング経由の入金についても、収入形態ごとの扱いを具体的に見ていきます。
なお、本記事は国税庁の公表資料をもとに一般的な取扱いを整理したものです。個別の判断は所轄の税務署または税理士にご確認ください。
副業収入の確定申告はいくらから?先に結論と4つの金額基準
会社員の副業は「所得20万円超」で確定申告が必要
先に結論をお伝えします。1か所から給与を受け取り、その給与について年末調整が済んでいる会社員の場合、給与所得・退職所得以外の所得金額の合計が20万円を超えると、所得税の確定申告が必要になります。国税庁のタックスアンサー「No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人」に、確定申告が必要な人の条件として明記されている内容です。
ここでいう「20万円」は、振り込まれた金額そのものではありません。売上から必要経費を差し引いた後の金額を指します。この点は判定の起点になるため、のちほど詳しく整理します。
一方で、20万円以下だったからといって「何もしなくてよい」わけではない点にも注意が必要です。この20万円ルールは所得税の確定申告についての取扱いであり、住民税には同じ仕組みがありません。多くの人がここで取り違えます。
「いくらから」の答えは税目で変わる——4つの金額基準
「副業はいくらから確定申告が必要か」という問いは、実際には複数の問いが混ざっています。税目や目的ごとに基準となる金額が異なるためです。自分がどの問いに答えようとしているのかを、まず切り分けてみてください。
判定したいこと | 基準となる金額 | 判定に使う数字 | 根拠 |
|---|---|---|---|
所得税の確定申告が必要か | 20万円超 | 給与・退職所得以外の所得(=副業の売上−必要経費) | |
住民税の申告が必要か | 金額基準なし(所得があれば原則必要) | 副業の所得 | 各自治体の案内(例: 港区) |
家族の扶養に入り続けられるか | 合計所得金額58万円以下 | 本人の合計所得金額(給与+副業) | |
消費税の申告が必要か | 基準期間の課税売上高1,000万円超 | 前々年の課税売上高(インボイス登録者は登録時点から課税事業者) |
副業を始めて1〜2年目の会社員が実際に向き合うのは、上の表の1段目と2段目です。3段目は家族の副業や学生アルバイトを扱うとき、4段目は副業が事業規模に育ってきたときに関わってきます。
言い換えると、「20万円」は所得税だけの数字です。この一点を押さえるだけで、ネット上の情報がなぜ食い違って見えるのかが説明できます。
3ステップで判定する——自分がどの基準に当てはまるか
自分のケースを判定する手順は、次の3つの問いに順番に答えるだけです。
ステップ1: 給与は1か所からだけですか。年末調整は済んでいますか。
1か所からの給与のみで年末調整済みなら、標準的な20万円ルール(所得で判定)が使えます。アルバイトなどで2か所以上から給与を受け取っている場合は判定式が変わるため、後述の「給与が2か所以上あるときは『収入』20万円で判定する」をご覧ください。
ステップ2: 副業の「所得」はいくらですか。
1年間(1月1日〜12月31日)の副業の売上を合計し、そこから必要経費を差し引きます。この結果が20万円を超えていれば、所得税の確定申告が必要です。20万円以下なら、所得税の確定申告そのものは不要ですが、住民税の申告が必要になります。
ステップ3: 別の理由で確定申告をしますか。
医療費控除や住宅ローン控除(初年度)などで確定申告をする場合は、副業の所得が20万円以下であっても申告書に含める必要があります。20万円ルールは「確定申告をしない場合に限って使える取扱い」であるためです。この点は本記事の後半で改めて扱います。
この3ステップで、自分が「確定申告が必要」「住民税の申告だけで済む」のどちらに該当するかは判定できます。以降のセクションでは、判定の起点になる金額の出し方と、2026年の申告で使う具体的な数字を確認していきます。
20万円は「収入」ではなく「所得」——副業収入の判定の起点を間違えない

副業の収入と所得の違い——判定に使うのは経費を引いた後の数字
判定でもっとも間違えやすいのが、「20万円」を売上(収入)と読んでしまうことです。正しくは次の式で計算した所得で判定します。
副業の所得 = 副業の総収入金額 − 必要経費
たとえば、週末の受託開発で年間45万円の報酬を受け取り、開発に使ったクラウド利用料・ドメイン費用・技術書籍・PC の按分費用などで合計28万円を必要経費として計上できる場合、副業の所得は17万円です。この場合、所得税の確定申告は不要(ただし住民税の申告は必要)という結論になります。
逆に、同じ45万円の報酬でも経費が10万円しか計上できなければ所得は35万円となり、確定申告が必要です。同じ入金額でも、経費の積み上げ方によって結論が変わるという構造を理解しておくと、判定に必要な作業が見えてきます。
つまり最初にやるべきことは、「いくら振り込まれたか」の合計と「その収入を得るために支出した金額」の合計を、それぞれ集計することです。ここが曖昧なままだと、どの記事を読んでも判定は終わりません。
副業の経費はいくらまで認められる?エンジニアの費目と考え方
必要経費は「その収入を得るために直接必要だった支出」が対象です。金額の上限が決まっているわけではなく、副業の収入との対応関係を説明できるかが判断の軸になります。エンジニアの副業でよく登場する費目を挙げます。
費目 | 例 | 考え方 |
|---|---|---|
クラウド・インフラ費用 | AWS・Vercel・Supabase などの利用料 | 副業案件のために使った分。プライベート利用と混在する場合は按分する |
開発ツール・サブスクリプション | IDE ライセンス、AI コーディング支援ツール、デザインツール | 同上。副業専用契約なら全額、兼用なら按分 |
書籍・学習費用 | 技術書、有料の技術ドキュメント、オンライン講座 | 副業の業務に直接関係する範囲 |
通信費 | 自宅の回線・モバイル通信 | 副業に使った割合で按分 |
機材 | PC、モニター、外付けストレージ | 金額と使用実態により、一括計上か減価償却かが変わる。私用と兼用なら按分 |
支払手数料 | クラウドソーシングのシステム手数料、振込手数料 | 収入から差し引かれている分も経費として集計する |
私用と兼用しているものを「家事按分」でどこまで経費にできるかは、実務でもっとも判断に迷うところです。按分の考え方や具体的な計算方法は、複業エンジニアの確定申告で詳しく扱っています。本記事では「経費の積み上げ次第で20万円の判定結果が変わる」という点だけ押さえていただければ十分です。
なお、経費として計上する以上、領収書やクレジットカードの明細など支出を裏づける資料は保存しておく必要があります。判定のためだけに概算で引いてしまうと、あとで説明できなくなります。
給与が2か所以上あるときは「収入」20万円で判定する
副業がアルバイトやパートで、給与として支払われている場合は判定式が変わります。国税庁 No.1900 では、2か所以上から給与を受け取っている人については「年末調整されなかった給与の収入金額と、給与所得・退職所得を除く各種の所得金額との合計額が20万円を超える人」が確定申告の対象とされています。
ここでのポイントは、副業がアルバイトの場合、経費を引く前の収入金額で判定するという点です。副業先の給与が年24万円であれば、それだけで20万円を超えるため確定申告の対象になります。
なお同ページには、給与の収入金額から各種控除の合計額を差し引いた残額が150万円以下で、かつ給与所得・退職所得以外の所得金額が20万円以下の場合には申告が不要となる旨の注記もあります。該当しそうな場合は原文と所轄税務署でご確認ください。
エンジニアの副業では、業務委託契約(報酬)と雇用契約(給与)が混在することもあります。契約書と支払明細で、自分の収入がどちらの区分なのかを先に確認しておくと、判定式を取り違えずに済みます。
2026年の申告で変わった数字——基礎控除58万円と給与所得控除65万円の影響

基礎控除58万円と上乗せ特例——2025・2026年分限定の数字
2026年に行う確定申告は令和7年分(2025年1月〜12月の所得)が対象で、令和7年度税制改正が初めて適用される回にあたります。国税庁の「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」によると、基礎控除は次のように変わりました。
合計所得金額 | 令和7年分・令和8年分の基礎控除 | 令和9年分以後 |
|---|---|---|
132万円以下 | 95万円 | 95万円 |
132万円超336万円以下 | 88万円 | 58万円 |
336万円超489万円以下 | 68万円 | 58万円 |
489万円超655万円以下 | 63万円 | 58万円 |
655万円超2,350万円以下 | 58万円 | 58万円 |
改正前の基礎控除は一律48万円でしたので、まず下限が48万円から58万円へ引き上げられたという理解が出発点です。そのうえで、合計所得金額655万円以下の層には上乗せがあり、最大で95万円になります。
注意すべきなのは、この上乗せのうち88万円・68万円・63万円の3区分が令和7年分と令和8年分の2年間限定の措置である点です。令和9年分(2028年春に行う申告)からは、合計所得金額132万円超2,350万円以下の層は一律58万円に戻ります。一方、合計所得金額132万円以下の95万円は期間を限定しない措置で、令和9年分以後も95万円のままです。上の表で132万円以下の行だけ令和9年分以後も95万円になっているのは、この違いによるものです。
つまり、上乗せには「2年間限定のもの」と「そのまま続くもの」の2種類があります。来年以降に同じ判定をするときは、その時点の年分に対応した金額を確認し直してください。
給与所得控除65万円と住民税の非課税ライン(110万円)
給与所得控除についても、最低保障額が55万円から65万円へ引き上げられました(同じく令和7年分以後)。会社員として給与を受け取りながら副業をしている方にとっては、本業側の給与所得の計算に効いてきます。
この給与所得控除の引き上げは、住民税の非課税ラインにも波及しています。東京都江戸川区が公開している令和8年度分住民税から適用される改正によれば、扶養親族がいない給与収入のみの方の場合、住民税が非課税となる給与収入のラインが100万円以下から110万円以下(合計所得金額45万円以下)に変わりました。
ただし住民税の非課税基準は自治体によって扱いが異なる部分があります。ご自身がラインの近辺にいる場合は、お住まいの自治体の住民税担当課の案内で確認してください。
扶養の判定ラインが58万円に——家族の副業・学生アルバイトの場合
扶養の判定基準も動きました。同一生計配偶者および扶養親族の合計所得金額の要件が、48万円以下から58万円以下に引き上げられています(給与収入だけの場合は103万円から123万円に相当)。勤労学生控除の要件も、合計所得金額75万円以下から85万円以下へ変わりました。
あわせて、令和7年分から「特定親族特別控除」が新設されました。国税庁「No.1177 特定親族特別控除」によれば、生計を一にする19歳以上23歳未満の親族で合計所得金額が58万円超123万円以下の人がいる場合、その所得に応じて最高63万円の控除が受けられます。
自分自身が誰かの扶養に入りながら副業をしている場合や、家族の扶養状況に影響する立場にある場合は、20万円ルールとは別にこちらの数字も見る必要があります。「所得税の申告義務は生じないが、扶養からは外れる」という組み合わせが起こりうるためです。
「20万円ルール」は変わっていない——改正で動いた数字と動いていない数字
ここまでの内容を、判定という観点から整理し直します。
項目 | 令和7年分(2026年の申告)での扱い |
|---|---|
給与所得者の確定申告要否の20万円基準 | 変更なし(20万円超で申告が必要) |
基礎控除 | 48万円 → 58万円(合計所得655万円以下は上乗せ、最大95万円) |
給与所得控除の最低保障額 | 55万円 → 65万円 |
扶養親族等の合計所得金額要件 | 48万円以下 → 58万円以下 |
住民税が非課税となる給与収入(扶養なし・給与のみ) | 100万円以下 → 110万円以下(令和8年度課税分から) |
住民税に20万円ルールがあるか | 元からない(改正とは無関係) |
結論として、副業の申告要否を判定する20万円という数字自体は動いていません。動いたのは、その周辺にある控除額と扶養・非課税の判定ラインです。「年収の壁が160万円になった」という話題は給与所得控除65万円と基礎控除95万円を足した数字であって、副業所得20万円ルールとは別の話になります。
この切り分けができていれば、改正の話題を目にしても判定が揺らぐことはありません。
20万円以下でも確定申告・住民税の申告が必要になるケース
住民税に20万円ルールはない——雑所得20万円以下でも申告が必要
もっとも見落とされやすいのがここです。20万円ルールは所得税の取扱いであり、住民税には対応する規定がありません。
各自治体の案内を見ると、その年の1月1日時点で住民登録がある人のうち、税務署に確定申告をした人・所得が給与のみで勤務先から給与支払報告書が提出されている人などを除いて、住民税の申告が必要とされています(例: 港区の案内)。給与以外に雑所得などがあり、所得税の確定申告書を提出しない場合は、住民税の申告書を市区町村へ提出することになります。
つまり、副業の所得が15万円だった会社員は、所得税の確定申告は不要だが住民税の申告は必要という状態です。「20万円以下だから何もしなくていい」と結論づけてしまうと、この住民税の申告が抜け落ちます。
提出先はお住まいの市区町村(住民税担当課)で、期限は例年3月15日です。休日にあたる場合の取扱いや様式・提出方法(窓口・郵送・電子申請)は自治体ごとに異なるため、自治体サイトで確認してください。なお、副業によって住民税がどの程度増えるのかを具体的に試算したい場合は、副業エンジニアの住民税で計算例を扱っています。
医療費控除・住宅ローン控除で申告するなら副業所得も合算する
20万円ルールは「確定申告をしない場合に使える取扱い」です。別の理由で確定申告書を提出するときは、副業の所得が20万円以下であっても、その所得を申告書に含める必要があります。
該当しやすいのは次のようなケースです。
- 医療費控除を受ける: 年間の医療費が一定額を超えた場合の控除。年末調整では処理できないため確定申告が必要です
- 住宅ローン控除の初年度: 初年度は確定申告が必要です(2年目以降は年末調整で処理できます)
- ふるさと納税のワンストップ特例が使えなくなる場合: 確定申告をすると、提出済みのワンストップ特例申請は無効になります。国税庁の令和7年分確定申告特集(ふるさと納税をされた方へ)でも、確定申告書にふるさと納税分を含めて寄附金控除を計算するよう案内されています
「医療費控除だけ申告して副業所得は書かない」という選択はできません。確定申告をすると決めた時点で、その年の所得を一通り申告書に載せる必要がある、と理解しておくと安全です。
源泉徴収された報酬がある・インボイス登録済みの場合
副業の報酬から源泉所得税が差し引かれている場合、確定申告をすることで納めすぎた分が還付される可能性があります。原稿料や講演料などは支払時に源泉徴収されるため、経費を差し引いた後の実際の税額より多く納めている状態になりやすいためです。この場合の確定申告は義務ではなく、還付を受けるための選択になります。
一方で、インボイス制度の適格請求書発行事業者として登録している場合は状況が異なります。国税庁「No.6501 納税義務の免除」によれば、基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも、適格請求書発行事業者の登録を受けている場合は納税義務が免除されません。副業の規模にかかわらず消費税の申告・納付が必要になります。所得税の確定申告とは別の手続きである点にご注意ください。
副業収入の種類別に見る確定申告の判定——エンジニアのケース

受託開発・業務委託報酬——源泉徴収されるもの・されないもの
源泉徴収の対象となる報酬・料金は、所得税法で範囲が定められています。国税庁「No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは」に挙げられているのは、原稿料・講演料、弁護士や公認会計士などへの報酬、デザイン料といった区分です。
エンジニアの副業で実務上よく問題になるのが、プログラム作成やシステム構築の報酬は、この列挙に含まれていないという点です。そのため、受託開発の報酬は源泉徴収されずに満額が振り込まれるのが一般的です。一方で、Web サイト制作のうちデザインにあたる部分の報酬は、デザイン料として源泉徴収の対象と扱われることがあります。国税庁の通達「〔原稿等の報酬又は料金(第1号関係)〕」では、デザインの範囲として工業デザインやクラフトデザインなどが例示されています。
判定の実務としては、次のように考えると整理しやすくなります。
- 振込額と契約金額が一致している → 源泉徴収なし。契約金額をそのまま収入として集計する
- 振込額が契約金額より少ない → 源泉徴収されている可能性がある。支払明細で内訳を確認し、源泉徴収前の金額を収入として集計する
20万円の判定に使うのは、差し引かれる前の総収入金額から必要経費を引いた所得です。振込額ベースで集計すると収入を過小に見積もることになるため、明細の確認は省略できません。
技術記事の原稿料・登壇謝礼——10.21%が引かれている場合の考え方
技術記事の原稿料や、イベント登壇の謝礼は、源泉徴収の対象になる典型例です。国税庁「No.2795 原稿料や講演料等を支払ったとき」によれば、源泉徴収税額は支払金額の10.21%(同一人に対して1回に支払う金額が100万円を超える場合、超える部分は20.42%)です。謝金・取材費・調査費など、実質的に原稿料・講演料と同じ性質のものも対象に含まれます。
たとえば原稿料5万円の案件で、振込額が44,895円になっていれば、5,105円(=50,000円 × 10.21%)が源泉徴収されている計算です。この場合、収入として集計するのは44,895円ではなく50,000円です。
そして、この源泉徴収は経費を考慮せずに支払額へ一律で課されるため、確定申告で経費を差し引いて税額を計算し直すと、納めすぎになっているケースが少なくありません。副業の所得が20万円以下で確定申告の義務がない場合でも、還付を受けたいなら申告するという選択肢があります。
なお、還付を受けるために確定申告をする場合は、副業の所得すべてを申告書に含めることになります。「原稿料の還付だけ受けて他の副業所得は書かない」という切り分けはできません。
クラウドソーシング経由の報酬——手数料と集計の実務
クラウドソーシングやスキルマーケットを経由した報酬では、集計の起点に注意が必要です。プラットフォームのシステム手数料が差し引かれて振り込まれるため、通帳の入金額と実際の収入金額が一致しません。
考え方はシンプルで、手数料を差し引く前の金額が収入、システム手数料は必要経費です。振込額だけを見て集計すると、収入も経費も過小になります。
もう一つ実務的な注意点として、支払調書は必ず届くとは限りません。支払者に発行義務があるのは法定調書としての税務署提出分であり、受け取る側へ交付する義務はないためです。「書類が届かないから申告不要」ではなく、プラットフォームの管理画面から取引履歴をダウンロードして自分で集計する、という前提で進めてください。年をまたぐ前に、案件ごとの報酬額・手数料・入金日を一覧にしておくと後の作業が短くなります。
副業は事業所得か雑所得か——帳簿保存と判定の目安
副業の所得区分は、事業所得か「業務に係る雑所得」のいずれかになるのが一般的です。会社員の副業では雑所得となるケースが多く見られますが、区分は形式的に決まるものではありません。
2022年10月に改正された所得税基本通達では、その所得を得る活動が社会通念に照らして事業といえる程度で行われているかを基本としつつ、帳簿書類の記録・保存があるかどうかが重要な判断要素とされています(国税庁 所得税基本通達の改正)。収入金額300万円以下であっても、帳簿書類の保存があれば原則として事業所得に区分されるという整理です。
業務に係る雑所得については、記帳・保存の義務も定められています。国税庁「No.1500 雑所得」によると、前々年の収入金額が300万円を超える場合は現金預金取引等関係書類(請求書・領収書など)の保存が必要で、1,000万円を超える場合は確定申告書に収支内訳書などの添付が必要になります。
事業所得と認められる場合、青色申告を選択して最大65万円の控除を受ける道もあります。ただし事前の承認申請が必要で、複式簿記による記帳など満たすべき条件があります。詳しくは青色申告65万円控除をご覧ください。
いずれにしても、区分の判定は個別の実態によって結論が変わります。副業が一定の規模に育ってきた段階では、所轄税務署または税理士に確認したうえで判断されることをおすすめします。
副業の確定申告をしないとどうなる?ペナルティと会社に伝わる仕組み
申告しなかった場合に発生する加算税・延滞税
申告義務があるのに申告しなかった場合、本来の税額に加えて無申告加算税と延滞税が課されます。国税庁「No.2024 確定申告を忘れたとき」に示されている割合は次のとおりです。
申告したタイミング | 50万円までの部分 | 50万円超300万円までの部分 | 300万円を超える部分 |
|---|---|---|---|
税務調査の通知前に自主的に期限後申告した場合 | 5% | 5% | 5% |
調査の通知後、更正等を予知する前に期限後申告した場合 | 10% | 15% | 25% |
調査による更正等を予知した後に期限後申告した場合 | 15% | 20% | 30% |
割合が3段階に分かれているのがポイントです。税務署から調査の連絡が来た後でも、実際の調査で指摘される前に自分から申告すれば、割合は一段低く抑えられます。気づいた時点で早く動くほど負担が軽くなる設計です。
なお、法定申告期限から1か月以内に自主的に申告し、納付期限までに全額納付済みで、過去5年間に無申告加算税・重加算税を課されていないなどの要件を満たす場合は、無申告加算税が課されない取扱いもあります。また、過去5年内に無申告加算税等を課されたことがある場合などには、上記の割合に10%が加算されます。
これとは別に延滞税もかかります。国税庁「No.9205 延滞税について」によると、令和8年(2026年)1月1日から12月31日までの期間は、納期限の翌日から2か月を経過する日までが年2.8%、それ以降が**年9.1%**です。放置期間が長くなるほど負担が増える設計になっています。
「申告しなければ気づかれないのでは」と考える方もいますが、原稿料など源泉徴収の対象となる報酬については、支払側が支払調書を税務署へ提出しています。支払側の記録と本人の申告内容が突き合わせられる構造がある以上、把握されない前提で判断するのは現実的ではありません。
住民税で会社に伝わる仕組みと普通徴収という選択肢
副業が勤務先に伝わる経路として、住民税の通知はよく挙げられます。給与から住民税が天引き(特別徴収)される仕組みでは、勤務先に住民税額の通知が届きます。副業の所得が上乗せされていれば、給与額に対して住民税が不自然に多いことから気づかれる可能性があります。
これに対して、確定申告書の第二表にある「住民税に関する事項」で、給与・公的年金等以外の所得に係る住民税の徴収方法として「自分で納付」(普通徴収)を選択する方法があります。この欄に記載がなければ特別徴収が原則となるため、選択する場合は記入漏れに注意が必要です(例: 茅ヶ崎市の案内)。
ただし、この選択が常に通るとは限りません。副業がアルバイトなど給与所得の場合は普通徴収を選べないのが一般的で、自治体の運用によっても扱いが異なります。確実性を求める場合は、お住まいの自治体の住民税担当課に事前に確認するのが確実です。普通徴収の手続きの詳細や、副業で住民税がどう変わるかについては副業エンジニアの住民税で扱っています。
なお、副業の届出が必要な就業規則であれば、税務上の徴収方法にかかわらず社内ルールに従って手続きを済ませておくことが前提になります。
判断に迷ったときは申告した方が損をしにくい理由
「申告が必要かどうか微妙」という状態で迷い続けるくらいなら、申告してしまう方が結果的に負担が小さいことが多くあります。理由は3つです。
- 申告義務がないのに申告しても、ペナルティは発生しない。逆に、義務があるのにしなかった場合には加算税と延滞税が生じます
- 源泉徴収されている報酬があれば、還付を受けられる可能性がある。経費を差し引いた実際の所得に対する税額が源泉徴収額を下回っていれば、その差額が戻ります
- 住民税の申告は結局必要になる。所得税の確定申告をすれば、そのデータが自治体へ連携されるため住民税の申告は不要になります。申告書を2回作る手間が1回で済みます
もちろん、申告作業そのものに時間はかかります。ただ、収入と経費の集計は住民税の申告でも必要な作業なので、「所得税の申告をやめても作業量が半分になる」わけではない点は押さえておくとよいでしょう。
確定申告が必要と分かったら——2026年の申告期限と準備するもの

申告期間・提出方法と、住民税申告だけで済む場合の提出先
令和7年分(2025年1月〜12月の所得)の確定申告は、2026年2月16日(月)から3月16日(月)までが申告・納付の期間です。国税庁の「令和7年分 確定申告特集」では、所得税および贈与税の申告・納付期限が令和8年3月16日(月)、個人事業者の消費税等の申告・納付期限が令和8年3月31日(火)と案内されています。例年の期限である3月15日が日曜日にあたるため、翌開庁日にずれている年である点に注意してください。
提出方法は主に次の3つです。
方法 | 特徴 |
|---|---|
e-Tax(スマホ・PC) | 確定申告書等作成コーナーで作成しそのまま送信できる。マイナンバーカードとスマートフォンの組み合わせが手軽 |
郵送 | 作成した申告書を所轄税務署へ郵送する。通信日付印が提出日として扱われる |
窓口提出 | 所轄税務署へ持参する。申告期間中は混雑しやすい |
一方、副業の所得が20万円以下で所得税の確定申告をしない場合は、住民税の申告書をお住まいの市区町村へ提出します。提出先は税務署ではなく市区町村の住民税担当課で、期限は例年3月15日です。様式や電子申請の可否は自治体によって異なります。
そろえる書類と、年内にやっておくと楽になること
申告に向けてそろえる書類は、おおむね次のとおりです。
- 本業の源泉徴収票(勤務先から交付されたもの)
- 副業の収入が分かる資料(支払明細、報酬の入金記録、クラウドソーシングの取引履歴)
- 源泉徴収された金額が分かる資料(支払調書が届いている場合はその内容、届かない場合は支払明細)
- 経費の領収書・クレジットカード明細
- 各種控除証明書(生命保険料、iDeCo、ふるさと納税の寄附金受領証明書など)
- マイナンバーカード等の本人確認書類
- 還付を受け取る本人名義の口座情報
作業を軽くするうえで効果が大きいのは、年内の記録です。副業の入金があったらその都度、案件名・報酬額(源泉徴収前)・手数料・入金日を記録し、経費のレシートは月ごとにまとめておく。この習慣があるかどうかで、翌年2月の作業時間は大きく変わります。副業を継続していくなら、初年度のうちに記録の型を作っておくと、案件が増えても対応できます。
経費の按分方法や申告書の記入手順など、申告が必要と判定された後の実務については複業エンジニアの確定申告をあわせてご覧ください。
税理士に相談する目安と、この記事の情報の使い方
次のような状況では、税理士や所轄税務署への相談を検討する価値があります。
- 副業の収入が年間数百万円規模になり、事業所得と雑所得の区分の判断が必要になった
- インボイス登録をしており、消費税の申告が必要になった
- 過去の年分について申告漏れがあり、修正申告や期限後申告を検討している
- 経費の按分方法や、機材の減価償却の扱いに確信が持てない
なお、確定申告期間中は税務署でも相談を受け付けており、確定申告書等作成コーナーの操作案内も用意されています。まずは所轄税務署に問い合わせるという選択肢も現実的です。
本記事は国税庁の公表資料をもとに一般的な取扱いを整理したものであり、個別の事案に対する税務判断ではありません。所得区分・経費の可否・普通徴収の可否などは、個別の事情や自治体の運用によって結論が変わります。最終的な判断は、所轄の税務署または税理士にご確認ください。
まとめ——副業収入の確定申告はいくらからか、自分の数字で判定する
最後に、判定に必要な内容を整理します。
「いくらから」の4つの基準
判定したいこと | 基準 |
|---|---|
所得税の確定申告 | 給与・退職所得以外の所得20万円超 |
住民税の申告 | 金額基準なし(所得があれば原則必要) |
扶養の判定 | 合計所得金額58万円以下 |
消費税の申告 | 基準期間の課税売上高1,000万円超(インボイス登録者は登録時点から課税事業者) |
判定の3ステップ
- 給与は1か所からで年末調整済みか(2か所以上なら「収入」20万円で判定)
- 副業の売上 − 必要経費が20万円を超えるか
- 医療費控除など別の理由で確定申告をするか(するなら副業所得も合算)
2026年の申告で押さえる数字
- 20万円ルールそのものは変わっていない
- 基礎控除は48万円 → 58万円(合計所得655万円以下は上乗せで最大95万円。88万円・68万円・63万円の3区分は令和7年分・令和8年分の2年間限定で、132万円以下の95万円は令和9年分以後も継続)
- 給与所得控除の最低保障額は55万円 → 65万円
- 扶養親族等の合計所得金額要件は48万円 → 58万円
- 住民税の非課税ライン(扶養なし・給与のみ)は給与収入100万円 → 110万円
- 申告期間は2026年2月16日(月)〜3月16日(月)
判定に使う数字は、結局のところ「1年間の副業の売上」と「必要経費の合計」の2つに集約されます。この2つさえ手元にあれば、本記事の基準に当てはめて自分で結論を出せます。逆に、この2つが曖昧なままではどれだけ記事を読んでも判定は終わりません。
副業を継続していくなら、入金と経費を月次で記録する習慣が翌年以降の負担を確実に下げます。初年度の申告を、記録の型を作る機会として使ってみてください。
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よくある質問
- 副業を年の途中から始めた場合、20万円の基準は月割りになりますか?
いいえ、月割りにはなりません。20万円の判定は1月1日から12月31日までの暦年単位で行うため、副業を何月から始めても、その年に得た副業所得の合計額だけを見て「20万円を超えるか以下か」を判定します。
- 副業の所得が20万円以下で確定申告をしない場合、経費の領収書は保存しなくてよいですか?
保存が必要です。所得税の確定申告をしない場合でも住民税の申告では所得の内訳を示す資料が求められるほか、後日税務署や自治体から問い合わせを受けた際に経費の内容を説明できるよう、領収書やクレジットカード明細は日頃から保管しておく必要があります。
- 所得税の確定申告をした場合、住民税の申告も別途行う必要がありますか?
不要です。所得税の確定申告をすると、その申告内容は税務署から1月1日時点で住民登録がある市区町村へ自動的に連携される仕組みになっているため、住民税の申告書をあらためて市区町村へ提出する必要はありません。
- 住民税を「自分で納付」にすれば、会社に副業が絶対に伝わりませんか?
確実ではありません。申告書で「自分で納付」を選べても、副業がアルバイトなど給与所得の場合は選べないのが一般的で扱いは自治体の運用によっても異なるため、確実性を求める場合はお住まいの自治体の住民税担当課に事前に確認してください。
- 副業所得が20万円をわずかに超えそうな場合、経費を見直せば申告不要にできますか?
実態のある支出であれば経費として計上し所得を圧縮できますが、裏付けのない経費の水増しは認められません。領収書やクレジットカード明細で収入との対応関係を説明できる範囲でのみ計上し、無理に20万円以下へ寄せようとしないでください。



