「複業の収入もそれなりに増えてきたし、そろそろ確定申告をしないとまずいらしい」——副業で開発や技術顧問の収入を得ている会社員エンジニアの方なら、年末が近づくにつれてこんな不安がよぎるのではないでしょうか。SNS では「副業は20万円を超えたら申告」「住民税で会社にバレる」といった断片的な情報が飛び交っていて、結局自分が何をすればいいのかがはっきりしない、という状態に陥りがちです。
しかも厄介なのは、複業エンジニア特有の論点が多いことです。私物の PC、自宅のネット回線、GitHub Copilot や AWS のサブスク——これらは本業でもプライベートでも使うものなので、「どこまで経費にしていいのか」「いくらの割合で計上していいのか」の判断が一筋縄ではいきません。間違えれば申告漏れで追徴課税が来るかもしれず、逆に怖がって控えめにすると払いすぎている気もする。会計ソフトを契約してみたものの、所得区分や按分の入力画面で手が止まってしまう——そんな方も多いはずです。
エンジニアリングはできても税務は専門外、というのは当然のことです。ただ、確定申告は「申告が必要か → 所得区分の判定 → 経費・按分の判断 → 申告手続き → 住民税の処理」という決まった流れに沿って進めれば、ひとつずつ確実に片付けられる作業でもあります。判断軸さえ持てば、迷う場面は大きく減らせます。
本記事では、会社員として働きながら複業で開発収入を得ているエンジニアを念頭に、確定申告の全体像を一本のフローで解説します。特に複業エンジニアがつまずきやすい「私物 PC・自宅回線・開発サブスクの按分」については、割合の決め方と税務署に説明できる根拠の残し方まで具体的に掘り下げます。読み終えたとき、自分のケースに当てはめて「申告が必要か」「雑所得か事業所得か」「どの経費をどれだけ計上してよいか」を自分で判断できる状態を目指します。
複業エンジニアに確定申告が必要なのはいくらから?まず申告要否を判定する
最初に片付けるべきは「そもそも自分は確定申告が必要なのか」という問いです。ここがはっきりしないまま経費や按分の話に進んでも落ち着きません。まずは申告要否を確定させましょう。
「20万円ルール」の正確な意味を理解する
よく聞く「副業は20万円を超えたら確定申告」というルールは、正確には給与を1か所から受けている会社員で、給与以外の所得の合計が年間20万円を超える場合に、所得税の確定申告が必要になるというものです。2026年(令和7年分)の申告でもこのルールに変更はありません(freee「副業所得20万円以下でも確定申告と住民税の申告は必要?」)。
ここで最も誤解されやすいのが、判定の基準が「収入」ではなく「所得」だという点です。所得とは、次の式で計算した金額を指します。
所得 = 収入 − 必要経費
たとえば複業の受託開発で年間 30 万円を受け取っていても、開発に使ったサブスク代や機材費などの必要経費が 12 万円かかっていれば、所得は 18 万円となり 20 万円以下です。つまり、額面の入金額だけを見て「20万円を超えたから申告だ」と早合点する必要はありません。逆に、経費がほとんどかからない技術顧問のような働き方では、入金額がほぼそのまま所得になるため、20 万円を超えやすくなります。
この「収入と所得は別物」という感覚は、後述する経費・按分の判断にも直結します。まずは複業に関わる入金と支出をすべて洗い出し、ざっくりでよいので「収入 − 経費」を計算して、20 万円のラインを超えるかどうかを確認してみてください。
20万円以下でも住民税の申告は必要—申告要否セルフチェック
ここが多くの会社員が見落とすポイントです。「20万円以下なら確定申告は不要」というのは所得税の話であって、住民税には20万円以下で申告不要という特例がありません。所得税の確定申告をしない場合でも、複業の所得が少額であってもお住まいの市区町村に住民税の申告が別途必要になります(freee「副業所得20万円以下でも確定申告と住民税の申告は必要?」)。
ただし、所得税の確定申告をした場合は、その内容が税務署から市区町村へ自動的に共有されるため、住民税の申告を別途行う必要はありません。整理すると次のようになります。
複業の所得(収入−経費) | 所得税の確定申告 | 住民税の申告 |
|---|---|---|
20万円超 | 必要 | 確定申告をすれば別途不要 |
20万円以下 | 不要 | 必要(市区町村へ申告) |
自分のケースに当てはめると、次の流れで要否を判定できます。
- 複業の「収入 − 経費」を計算する
- 20万円を超えるなら → 所得税の確定申告が必要(住民税の申告は不要)
- 20万円以下なら → 所得税の確定申告は不要だが、住民税の申告が必要
「20万円以下だから何もしなくていい」と思い込んで住民税の申告を忘れると、後述する申告漏れのリスクにつながります。まずはこのセルフチェックで自分の立ち位置を確定させましょう。
複業の収入は「雑所得」か「事業所得」か—経費・節税の前提を決める所得区分

申告が必要だと分かったら、次に決めるべきは複業の収入を「雑所得」と「事業所得」のどちらで申告するかです。この区分は、これから解説する経費の引ける範囲・按分・節税のすべての前提になるため、早めに押さえておきましょう。
雑所得と事業所得の判定基準
両者の違いは「その活動が社会通念上、事業と呼べる程度のものか」で判定されます。継続的・反復的に行われているか、相応の時間や労力をかけているか、収入の規模はどうか、といった点が総合的に見られます。
判定基準として近年大きく変わったのが、2022年の国税庁の通達改正です。改正後は、取引を記録した帳簿書類を適切に保存しているかどうかが重要な判断要素になりました。前々年の業務にかかる収入が300万円を超える場合は帳簿書類の保存が求められ、収入が300万円以下であっても帳簿書類を適切に保存していれば事業所得として取り扱われる可能性があるとされています(弥生「副業300万超は帳簿があれば事業所得になる?」、国税庁 法第35条(雑所得)関係 通達)。
会社員の複業の多くは、本業のかたわらでスポット的に行われるため雑所得に区分されやすいのが実情です。ただし、継続して受託案件をこなし、帳簿をきちんとつけて事業として営んでいる実態があれば、収入規模が小さくても事業所得と認められる余地はあります。「帳簿をつけているか」が分かれ目になるという点は、複業を本格的に育てていきたい人ほど意識しておきたいところです。
区分によって変わること—損益通算・青色申告特別控除
雑所得か事業所得かで、使える節税の選択肢が大きく変わります。主な違いは次のとおりです。
項目 | 雑所得 | 事業所得 |
|---|---|---|
損益通算(赤字を給与所得などと相殺) | 不可 | 可能 |
青色申告特別控除(最大65万円) | 不可 | 可能(青色申告の要件を満たす場合) |
純損失の繰越控除 | 不可 | 可能(青色申告の場合) |
少額減価償却資産の特例(30万円未満を一括経費) | 原則不可 | 可能(青色申告の場合) |
たとえば事業所得で青色申告を選べば、複業の赤字を本業の給与所得と相殺して所得税の還付を受けられたり、青色申告特別控除で課税所得を圧縮できたりします。一方、雑所得ではこうした節税策が使えず、経費を引いた残りがそのまま課税対象になります。
ただし、事業所得として申告するには帳簿付けと開業届などの手続きが前提になり、相応の手間がかかります。複業を始めたばかりで規模が小さいうちは、まず雑所得(または白色申告)でシンプルに申告し、収入が安定して育ってきた段階で事業所得・青色申告へ切り替える、という進め方が現実的です。自分の複業が「どこまで本気で育てていくものか」を踏まえて区分を選ぶとよいでしょう。
複業エンジニアが経費にできるもの—会社員ならではの判断軸

所得区分が見えてきたら、いよいよ経費の話です。「どこまで経費にしてよいか分からない」「払いすぎているかもしれない」という不安は、経費の大原則と会社員特有の注意点を押さえれば解消できます。
経費の大原則と会社員特有の注意点
経費にできるかどうかの判断軸はシンプルで、その支出が複業の収入を得るために直接必要だったかという一点に尽きます。複業の受託開発に使ったサブスク代やサーバー代は経費になりますが、複業と無関係なプライベートの買い物は当然経費になりません。
会社員の複業ならではの注意点として、次の2つを押さえておきましょう。
- 本業の会社から支給・精算される機材や費用は経費にできない:会社が貸与している PC や、会社の経費精算で落としている書籍・交通費などは、あなた自身の複業の経費にはなりません。あくまで「自分の複業のために、自分で負担した支出」だけが対象です。
- 本業とプライベートと複業で兼用している支出は、複業に使った分だけが対象:自宅の家賃や私物 PC のように、複業以外でも使っているものは、全額ではなく複業に使った割合だけを経費にします。この割合を決める作業が「家事按分」で、複業エンジニアが最もつまずきやすい論点です(くわしくは後述します)。
この線引きを意識すると、「会社が負担しているものまで経費に入れてしまう」という申告漏れ方向のミスと、「兼用しているものは一切経費にできないと思い込む」という払いすぎ方向のミスの両方を避けられます。
複業エンジニアの経費費目早見表
複業エンジニアの確定申告で頻出する費目を、按分の要否とあわせて整理しました。自分の支出を当てはめてみてください。
費目 | 具体例 | 按分の要否 |
|---|---|---|
開発サブスク | GitHub Copilot、Claude / ChatGPT の有料プラン、各種 SaaS | 複業専用なら全額。本業・私用と兼用なら按分 |
クラウド利用料 | AWS、GCP、Vercel、Cloudflare などの従量課金 | 複業案件分のみ。アカウントを分けると判断が明確 |
ドメイン・サーバー代 | 独自ドメイン、レンタルサーバー、VPS | 複業で使う分は全額。私用ブログ兼用なら按分 |
PC・周辺機器 | ノート PC、モニター、キーボード、外付け SSD | 私物兼用なら按分。高額なものは減価償却の対象 |
通信費 | 自宅のネット回線、モバイル回線 | 本業・私用と兼用するため按分が必須 |
学習・情報収集 | 技術書、オンライン講座、有料記事の購読 | 複業に関連するものは全額 |
勉強会・カンファレンス | 参加費、登壇のための交通費 | 複業に直接関連する範囲で計上 |
外注費 | 複業案件で他のエンジニア・デザイナーに依頼した費用 | 複業案件分のみ全額 |
PC や周辺機器の按分、減価償却(10万円以上のものを複数年に分けて経費化する処理)、30万円未満を一括計上できる少額特例の使い方など、機器まわりの細かい判断は副業エンジニアのPC・周辺機器の経費処理でくわしく解説しています。また、経費にできる費目をフリーランス目線で網羅したフリーランスエンジニアの経費一覧・節税もあわせて参考にしてください。本記事では、これらの中でも特に判断が難しい「家事按分」に絞って次章で掘り下げます。
複業特有の「家事按分」—自宅家賃・通信費・サブスクの割合をどう決め、どう証明するか

ここが本記事の核心であり、複業エンジニアが最も不安を抱える部分です。「按分割合をどう決めればいいのか自信がない」「適当に決めて税務調査で否認されたら怖い」——こうした悩みに、割合の決め方と根拠の残し方の両面から答えていきます。
家事按分とは/合理的な基準の選び方
家事按分とは、自宅家賃・水道光熱費・通信費・私物 PC のように、プライベートと複業で兼用している支出のうち、複業に使った分だけを合理的な基準で区分して経費に計上する仕組みです。たとえば家賃 10 万円のうち複業に使っている割合が 20% なら、2 万円を経費に計上します。
ポイントは、按分割合に「これが唯一の正解」という決まった数字があるわけではないことです。重要なのは、税務署に説明を求められたときにその割合に合理的な根拠を示せることです(弥生「按分とは?家事按分の割合の決め方」)。逆に言えば、根拠なく「なんとなく半分」と決めてしまうと、否認されるリスクが高まります。
複業エンジニアの場合、よく使われる合理的な基準は次の3つです。
- 使用面積で按分(家賃・電気代など):自宅のうち複業の作業に使っている部屋・スペースの床面積が、全体の何%かで計算します。たとえば 50 平米の自宅のうち、10 平米の一室を作業部屋にしているなら按分率は 20% です。
- 使用時間で按分(通信費・サブスクなど):1日や1週間のうち、複業に使っている時間の割合で計算します。週7日のうち平日夜と土日に複業で使う時間を見積もり、本業・私用との比率を出します。
- 利用実態で按分(クラウド・回線など):複業案件で発生した通信量・処理量が分かる場合は、その実績割合で按分します。アカウントやプロジェクトを複業用に分けておくと、実態が明確になります。
家賃なら面積、通信費なら時間、というように、費目の性質に合った基準を選ぶのが基本です。
複業エンジニアの按分の具体例と、按分根拠の残し方
具体的なイメージを持てるよう、複業エンジニアのよくあるケースで按分例を示します。あくまで一例であり、実際の割合は各自の利用実態に合わせて決めてください。
費目 | 状況の例 | 按分の考え方 | 計上額の例 |
|---|---|---|---|
自宅家賃(月10万円) | 50平米の自宅のうち10平米を作業部屋に使用 | 床面積比 10/50 = 20% | 月2万円 |
自宅ネット回線(月6,000円) | 平日夜・土日に複業で使用、本業・私用とも兼用 | 使用時間比で約30%と見積もり | 月1,800円 |
私物PC(20万円) | 複業と私用で兼用、複業利用は約半分 | 利用割合50%で按分(減価償却とあわせて計算) | 利用割合分を減価償却で計上 |
開発サブスク(月3,000円) | 本業の学習と複業で兼用 | 複業利用時間の割合で約50% | 月1,500円 |
そして、この按分割合は**「決めて終わり」ではなく、根拠を後から説明できる状態で残しておく**ことが何より大切です。否認されないための記録として、次のようなものを残しておきましょう。
- 間取り図や部屋の写真:作業部屋の床面積比で家賃を按分した根拠として、間取り図に作業スペースを示しておく
- 稼働ログ・カレンダー:複業の作業日・作業時間を記録しておくと、時間按分の根拠になる。複業用にカレンダーや作業ログを分けておくと示しやすい
- アカウント・プロジェクトの分離:クラウドやサブスクを複業専用アカウントで運用すると、利用実態がそのまま按分根拠になる
- 領収書・請求書の保管:按分の元になる支出そのものの証憑は当然保管しておく
按分の考え方として押さえておきたいのは、「合理的な根拠を示せる範囲では認められるが、実態とかけ離れた高い割合は否認リスクが高い」というバランスです。複業の実態に即した割合を、説明できる根拠とセットで決めておけば、税務調査を過度に恐れる必要はありません。逆に、根拠を残さずに高い割合だけを計上すると、後で説明できず否認される——これが最も避けたいパターンです。「実態どおりに、根拠を残して按分する」を徹底すれば、自信を持って申告できます。
確定申告の進め方—必要書類・申告書の作り方・提出方法

申告の要否・所得区分・経費と按分の判断が固まったら、いよいよ実際の申告手続きです。ここでは初めての方でも迷わないよう、準備から提出までをステップで整理します。
申告に必要な書類と会計ソフトでの準備
まず手元にそろえておきたい書類は次のとおりです。
- 本業の源泉徴収票:年末調整後に会社から受け取るもの。給与所得の金額を申告書に転記します
- 複業の収入が分かる書類:報酬の支払調書(発行される場合)、請求書・入金記録など
- 経費の領収書・請求書・帳簿:前章までで整理した経費と按分の根拠資料
- 各種控除の証明書:本業で年末調整済みのものは基本的に不要ですが、医療費控除やふるさと納税などを追加する場合は関連書類
準備が整ったら、会計ソフト(freeeやマネーフォワードなど)に複業の収入と経費を入力していきます。会計ソフトを使うと、按分の計算や所得区分の選択、申告書の作成までを画面の案内に沿って進められるため、初めての方ほど活用する価値があります。給与所得(源泉徴収票の内容)と複業の所得を両方入力すれば、合算した上での所得税額が自動計算されます。
申告書の作成・提出の流れと期限
申告書の作成と提出は、おおむね次の流れになります。
- 会計ソフトや国税庁の確定申告書等作成コーナーで、給与所得と複業所得を入力する
- 複業を雑所得とするか事業所得とするかを選び、経費・按分を反映する
- 各種控除を入力し、納付税額(または還付額)を確認する
- e-Tax(電子申告)または書面で税務署へ提出する
- 納税が必要な場合は期限までに納付する
提出期限は、2025年(令和7年)分の所得税の確定申告で2026年3月16日までです(通常の3月15日が日曜のため翌営業日となります。マネーフォワード クラウド確定申告「2026年の確定申告期間」)。期限を過ぎると後述のペナルティが発生するため、余裕を持って取りかかりましょう。
事業所得で青色申告を選ぶ場合は、事前手続きが必要です。原則として、開業届と青色申告承認申請書を、青色申告をしたい年の3月15日まで(その年の途中で開業した場合は開業から2か月以内)に提出しておく必要があります。この事前手続きを踏んでいないと、その年は青色申告ができません。複業を始めたばかりの初年度は白色申告でシンプルに済ませ、翌年から青色申告に切り替える、という進め方も十分に現実的です。
なお、複業の年間売上が一定規模を超えると消費税やインボイス(適格請求書)への対応も論点になります。インボイス登録の要否や請求書の書き方については複業エンジニアのインボイス対応でくわしく解説しているので、取引先から適格請求書を求められた場合はあわせて確認してください。
申告漏れ・会社バレを防ぐ—住民税の普通徴収とリスク管理
最後に、多くの複業エンジニアが最も気にする「申告漏れの追徴課税」と「会社バレ」のリスク管理を解説します。正しく申告した上で、不要なリスクを避ける方法を押さえておきましょう。
申告漏れのペナルティと、住民税で会社にバレる仕組み
確定申告が必要なのに申告しなかった場合、本来の税額に加えて無申告加算税と延滞税が課されます。無申告加算税は、税務署の指摘を受けてから申告すると税率が高くなり、自主的に期限後申告した場合より重い負担になります。延滞税も、納期限の翌日から日数に応じて加算されていきます(辻・本郷 税理士法人「期限後申告の延滞税・無申告加算税の基本」)。「少額だからバレないだろう」と放置するのは、後から大きな負担を招くリスクがあります。
そして、会社員が複業を会社に知られる主な経路は住民税です。複業で所得が増えると住民税額も上がりますが、住民税は通常、本業の給与から天引き(特別徴収)されます。このとき、本業の給与だけでは説明がつかない住民税額が会社に通知されることで、複業の存在が推測される——これが「住民税でバレる」と言われる仕組みです(マネーフォワード「副業は住民税でバレる?」)。
住民税「普通徴収」の選び方と注意点
この会社バレを避ける手段が、住民税の普通徴収(自分で納付)の選択です。確定申告書の住民税に関する欄で、給与・公的年金以外の所得にかかる住民税の徴収方法を「自分で納付」に指定すると、複業分の住民税は会社の給与天引きに乗らず、自分宛てに届く納付書で支払えます。これにより、本業の会社に通知される住民税額は本業の給与に対応する分だけになります。
ただし、いくつか注意点があります。
- 複業がアルバイト・パートなどの「給与所得」の場合は、普通徴収を選べないことが多い:給与所得は原則として特別徴収(天引き)になるため、複業がアルバイト形態だと会社に伝わる可能性が高くなります。受託開発のように事業所得・雑所得となる働き方のほうが、普通徴収を選びやすい傾向があります。
- 自治体によって運用差がある:普通徴収への切り替えの取り扱いは市区町村によって異なる場合があります。確実を期すなら、お住まいの自治体の住民税担当に確認すると安心です。
そして大前提として、住民税のリスク管理は「正しく申告した上で」行うものです。前章で触れたとおり、複業の所得が20万円以下で所得税の確定申告が不要な場合でも、住民税の申告は必要です。申告そのものを省くことはできません。正しく申告し、その上で徴収方法を選ぶ——これが安全で誠実なリスク管理の基本です。
複業エンジニアの確定申告でよくある質問
本文で拾いきれなかった、複業エンジニアからよく上がる疑問にお答えします。
複業が赤字なら確定申告はしなくていい?
複業が赤字(経費が収入を上回る)の場合、雑所得であれば申告義務は生じないことが一般的です。ただし、事業所得であれば赤字を給与所得と損益通算して所得税の還付を受けられる可能性があるため、あえて申告するメリットがあります。自分の区分とメリットを踏まえて判断しましょう。なお、住民税の申告は別途必要になる場合があるため、市区町村の案内を確認してください。
会社にバレずに複業の確定申告はできる?
確定申告そのものが会社に直接通知されることはありません。会社に伝わる主な経路は前述の住民税であり、普通徴収を選ぶことでリスクを下げられます。ただし、複業がアルバイト形態(給与所得)の場合は普通徴収を選びにくく、伝わる可能性が高い点には注意が必要です。
税理士に頼むべき規模の目安は?
複業の収入が小さく、雑所得でシンプルに申告できる段階であれば、会計ソフトを使って自分で申告するのが現実的です。事業所得として青色申告を始める、売上規模が大きくなって消費税やインボイスの対応が必要になる、複数の取引先と継続的に取引する、といった段階になると、税理士に相談する価値が出てきます。「自分で手に負えなくなってきた」と感じたタイミングが一つの目安です。
会計ソフトは必ず必要?
法律上、会計ソフトの使用が義務付けられているわけではありません。ただし、按分計算・所得区分の選択・申告書作成を手作業で行うのは負担が大きいため、初めての方ほど会計ソフトの利用をおすすめします。特に事業所得で青色申告を目指す場合は、帳簿付けが要件になるため会計ソフトが実質的に必須といえます。
複業を複数掛け持ちしている場合はどうする?
複数の複業をしている場合は、それぞれの収入と経費を合算して所得を計算し、合計が20万円を超えるかどうかで申告要否を判定します。費目や案件ごとに収入・経費を分けて記録しておくと、按分や経費の根拠が示しやすくなります。
まとめ—自分のケースに当てはめて、迷わず確定申告を終えるために
複業エンジニアの確定申告は、次の一連のフローに沿って判断していけば、ひとつずつ確実に進められます。
- 申告要否を判定する:複業の「収入 − 経費」が20万円を超えるかを確認。超えれば所得税の確定申告、20万円以下でも住民税の申告は必要
- 所得区分を決める:雑所得か事業所得か。帳簿の有無が分かれ目で、事業所得なら損益通算・青色申告特別控除などの節税策が使える
- 経費と按分を判断する:複業に直接必要な支出だけを計上。自宅家賃・通信費・私物 PC・開発サブスクは家事按分し、合理的な根拠を残す
- 申告手続きを行う:会計ソフトで給与所得と複業所得を入力し、期限(2026年3月16日)までに提出
- 住民税を管理する:正しく申告した上で、必要に応じて普通徴収を選び、会社バレのリスクを下げる
最も不安が大きい家事按分も、「実態どおりに、説明できる根拠とセットで割合を決める」という原則さえ守れば、過度に恐れる必要はありません。逆に、根拠を残さないまま控えめに申告して払いすぎたり、放置して申告漏れになったりするほうが、長い目で見れば損になります。
そして、複業をこれからも続けて育てていくつもりなら、早い段階から帳簿付けと按分根拠の記録を習慣にしておくことを強くおすすめします。日々の収入・経費を記録しておけば、毎年の確定申告が格段に楽になるだけでなく、収入が育ってきたときに事業所得・青色申告へスムーズに移行でき、節税の選択肢も広がります。確定申告を「面倒な義務」ではなく「複業を持続可能な収入の柱に育てるための土台づくり」と捉えれば、最初の一歩を踏み出す価値が見えてくるはずです。自分のケースに当てはめて、迷わず確定申告を完了させましょう。



