初めて直接契約したクライアントの初月分。「そろそろ請求書を出さないと」と思った瞬間に手が止まってしまった方は少なくないはずです。いつ発行すればいいのか、メールにどう書けば失礼にならないのか、もし入金されなかったらどうするのか——項目の埋め方は調べればわかるのに、運用の正解だけが見えてこない、という状況ではないでしょうか。
それもそのはずで、エージェント(SES・フリーランスエージェント)経由で案件を受けていた頃は、請求事務はエージェントが代行してくれていました。いざ自分でやるとなると、お金にまつわる一連の流れがまるごと手元にない、という不安は当然のものです。
しかし、直接受注の請求でつまずきやすいのは、請求書の「中身」ではなく「運用」の部分です。いつ発行し、どう送り、どう入金を確認・回収するか——この流れさえ一度つかめば、毎月同じリズムで回せるようになります。
本記事では、請求書を発行するタイミングと毎月の請求フローを起点に、送付メールの例文、やりがちな失敗と対策、入金確認と未払いへの対応までを、そのまま使える例文つきで解説します。記載項目やインボイス制度の細かい話は関連記事に整理し、本記事は「毎月の請求をどう回すか」に集中します。
請求書を発行するタイミングと毎月の請求フロー

直接受注で最初にぶつかるのが「いつ発行すればいいのか」という疑問です。エージェント経由では意識せずに済んでいたタイミングの問題に、ここで正面から答えていきます。
締め日と支払サイトは契約時に必ず確認する
請求のタイミングを決めるのは「締め日」と「支払サイト」の2つです。締め日とは、1か月分の稼働や納品を区切る日のことで、月末締めが一般的です。支払サイトとは、締め日から実際に入金されるまでの猶予期間を指します。
企業間取引では「月末締め翌月末払い」が主流で、これは月ごとの日数の違いに関わらず「30日サイト」と呼ばれます。「翌々月末払い」なら「60日サイト」です(マネーフォワード クラウド請求書)。
ここで知っておきたいのが、2024年に施行されたフリーランス保護法(フリーランス・事業者間取引適正化等法)です。発注事業者は、成果物を受け取ってから原則60日以内に報酬を支払う義務があります。「月末締め翌月末払い」は60日以内に収まりますが、「翌々月末払い」は60日を超えてしまうため、契約時に支払サイトが長すぎないかを確認しておくと安心です(GVA法律事務所)。締め日・支払サイト・振込先・振込手数料の負担先は、契約書や発注書の段階で必ず確認しておきましょう。
月額固定(準委任)は毎月同じリズム、請負は納品ごとに発行
請求のタイミングは契約形態によって変わります。
- 準委任・月額固定の場合: 毎月の稼働に対して月末締めで請求するのが基本です。金額も毎月ほぼ一定なので、月末に締めて翌月初に発行、というリズムが固定できます。月次の定例業務として組み込みやすい形です。
- 請負・スポットの場合: 成果物の納品ごとに、その都度発行します。検収(クライアントによる成果物の確認)が完了したタイミングで請求するケースが多いため、納品から検収までのスケジュールも意識しておきましょう。
直接受注で多い月額固定の準委任契約なら、毎月決まったリズムで回せるため、慣れてしまえば負担はそれほど大きくありません。
毎月の請求フローを1本の流れにする
タイミングが整理できたら、毎月の流れを次の5ステップとして固定しておきます。
- 稼働報告: その月の稼働内容・工数をまとめ、必要に応じてクライアントに共有する
- 締め: 締め日(多くは月末)で1か月分を区切り、請求金額を確定する
- 発行: 確定した金額で請求書を作成する
- 送付: クライアントへメール等で送る(送り方は後述します)
- 入金確認: 支払期日に入金されたかを確認し、記録に残す
この5ステップを毎月繰り返すだけ、というイメージが固まれば、請求はぐっと怖くなくなります。直接受注を続けていくうえでの土台になる流れなので、最初のうちはこの順番を手元にメモしておくとよいでしょう。
請求書に書く項目をおさらいする
請求書に最低限記載する項目は、おおむね次の9点です。
- 宛先(クライアントの会社名・担当者名)
- 発行日
- 請求番号
- 取引内容(業務名・期間など)
- 金額(小計・消費税・合計)
- 消費税
- 源泉徴収税額(対象となる場合)
- 振込先(銀行・支店・口座番号・名義)
- 発行者情報(氏名・住所・連絡先)
各項目の詳しい書き方や、月額固定・請負・時間精算それぞれのケース別の記入例はフリーランスエンジニアの請求書テンプレートで詳しく解説しています。本記事では項目の埋め方には立ち入らず、発行から入金までの運用に話を進めます。
作成した請求書の送り方とメール例文

請求書ができたら、次は送付です。「どう送れば失礼にならないか」という不安は、形式とメール文面を一度押さえてしまえば解消できます。
PDF化とファイル名の付け方
請求書はPDF形式で送るのが主流です。Excelやスプレッドシートのまま送ると、相手の環境で体裁が崩れたり、誤って編集されたりする恐れがあるため、必ずPDFに変換してから送りましょう。
ファイル名は、相手が保存・管理しやすいように内容がひと目でわかる形にします。たとえば次のような命名です。
請求書_2026年5月分_山田太郎.pdf
「請求書」「対象月」「自分の氏名(または屋号)」を入れておくと、クライアント側が複数のフリーランスから受け取った請求書をフォルダで管理する際にも探しやすくなります。日付や連番だけのファイル名は相手の手元で埋もれやすいため避けましょう。
請求書を送るメールの例文テンプレート
メール送付の文面は、丁寧かつ簡潔であれば十分です。そのままコピーして使える例文を用意しました。
件名:
【請求書送付】2026年5月分請求書のご送付_山田太郎
本文:
株式会社〇〇
〇〇部 〇〇様
いつも大変お世話になっております。
山田太郎です。
2026年5月分の請求書を作成いたしましたので、
本メールに添付の上お送りいたします。
・請求書番号: 2026-005
・ご請求金額: 〇〇,〇〇〇円(税込)
・お支払期限: 2026年6月30日
ご確認のほど、よろしくお願いいたします。
ご不明な点がございましたら、お気軽にお申し付けください。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
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山田 太郎
メール: yamada@example.com
電話: 090-XXXX-XXXX
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件名に「請求書送付」「対象月」「氏名」を入れておくと、相手の受信トレイで見落とされにくくなります。本文では請求番号・金額・支払期限の3点を明記しておくと、クライアントが請求書を開く前に概要を把握でき、社内の支払処理もスムーズになります。
郵送やクラウドツールでの送付が必要なケース
クライアントによっては、原本の郵送を求められたり、指定の請求書受領システム(クラウド請求書サービスや発注管理ツール)への登録を求められたりすることがあります。これは相手の経理フローによるものなので、契約や初回のやり取りの段階で「請求書はメール添付でよいか、それとも指定の送付方法があるか」を確認しておくと、初月から迷わずに済みます。
インボイスと消費税の請求書への書き方
請求書へのインボイス(適格請求書)対応は、登録状況に応じて2パターンです。
- 登録済みの場合: 登録番号(「T」+13桁)を記載します。
- 未登録の場合: 登録番号は記載せず、消費税の扱いに注意します。
詳しい登録判断や制度の損得はフリーランスエンジニアのインボイス制度対応、記入例は請求書へのインボイス番号の書き方を参照してください。
直接受注でやりがちな失敗と対策
初めての直接受注では、エージェントが吸収してくれていたトラブルが自分の手元に降りてきます。先回りして知っておけば、防げる失敗ばかりです。代表的な4つを「失敗→なぜ起きる→対策」で整理します。
振込手数料の負担先を取り決めていない
なぜ起きるか: 契約時に振込手数料の負担について取り決めをしていないと、クライアントが手数料を差し引いた金額を振り込み、手取りが数百円ずつ目減りしてしまうことがあります。
対策: 振込手数料は、法的には弁済費用として支払う側(発注者)が負担するのが原則です。加えて2026年1月施行の取引適正化法では、発注者が報酬から振込手数料を一方的に差し引くことが認められなくなりました(ROBOT PAYMENT)。とはいえ認識のずれを防ぐため、契約時に負担先を取り決め、請求書の備考欄に「恐れ入りますが、振込手数料は貴社にてご負担をお願いいたします」と一文添えておくと確実です。
締め日・支払サイトのすれ違いで請求が遅れる
なぜ起きるか: 締め日や支払サイトを互いに確認しないまま稼働を始めると、「いつ請求書を出すべきか」がずれ、請求漏れや入金遅延につながります。
対策: 先に整理した通り、締め日と支払サイトは契約段階で確定させ、毎月の請求フローに落とし込みます。月末締めなら「毎月末に締めて翌月初に発行」とカレンダーに繰り返し予定を入れておくと、出し忘れを防げます。
インボイス登録番号の記載漏れ
なぜ起きるか: 登録事業者なのに請求書へ登録番号を書き忘れると、クライアントの経理処理で支障が出て、再発行を依頼されます。再発行はお互いの手間になり、入金も遅れがちです。
対策: 登録番号は請求書テンプレートにあらかじめ固定値として埋め込んでおき、毎回ゼロから入力しないようにします。これだけで記載漏れはほぼ防げます。
ファイル形式・拡張子のミス
なぜ起きるか: ExcelやWordのまま送ってしまう、PDF化したつもりが拡張子が違う、といったミスは、体裁の崩れや「開けない」という連絡につながります。
対策: 送付前に「PDFになっているか」「ファイル名は規則どおりか」を毎回チェックする習慣をつけます。送信ボタンを押す前のひと手間が、信頼を守ります。
入金確認と未払いが起きたときの対応

請求書を送って終わり、ではありません。直接受注では入金の確認と回収まで自己責任です。ここを押さえておけば、「お金を取りこぼすかもしれない」という不安からも解放されます。
入金確認は「いつ・いくら入ったか」を記録する習慣に
請求書を送ったら、支払期日を手帳やカレンダーに控えておきます。期日が来たら銀行口座を確認し、請求金額どおりに入金されているかを請求書の控えと突き合わせます。
このとき、「どの請求書に対して」「いつ」「いくら入金されたか」を一覧で記録しておくと、取りこぼしが起きません。表計算ソフトや会計ツールで「請求月・クライアント名・請求額・入金日・入金額」の列を作り、入金を確認したら埋めていくだけで十分です。複数のクライアントを抱えるようになると、この記録が未入金の早期発見にそのまま役立ちます。
支払期日を過ぎても入金がないときの催促手順
支払期日を過ぎても入金がない場合は、慌てず段階的に対応します。いきなり強い言葉を使うと関係を損ねるため、まずは「行き違いかもしれない」という前提で穏やかに確認するのが鉄則です(弥生株式会社)。
ステップ1: やわらかい確認メール
そのまま使える確認メールの例文です。
件名:
【ご確認のお願い】2026年5月分請求書のお支払いについて_山田太郎
本文:
株式会社〇〇
〇〇部 〇〇様
いつも大変お世話になっております。
山田太郎です。
先日お送りいたしました2026年5月分の請求書(請求番号: 2026-005、
お支払期限: 2026年6月30日)につきまして、
本日時点で入金の確認ができておりません。
行き違いでお手続きいただいておりましたら、誠に恐れ入ります。
お手数ですが、お支払い状況をご確認いただけますと幸いです。
なお、請求書の再送が必要でしたら、すぐにお送りいたします。
何卒よろしくお願いいたします。
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山田 太郎
メール: yamada@example.com
電話: 090-XXXX-XXXX
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「行き違いかもしれませんが」というクッション言葉を添えることで、高圧的にならずに確認を促せます。多くの場合、この確認メールで解決します。
ステップ2: 電話で直接確認する
確認メールに数日経っても返信がない場合は、電話で直接連絡します。メールが見落とされていたり、担当者が不在になっていたりするケースもあるため、口頭で状況を確認すると早く進むことがあります。
ステップ3: 書面(内容証明郵便)を送る
メールも電話も反応がない場合は、入金期限を明記した書面を送ります。内容証明郵便は「いつ・誰が・どんな内容を送ったか」を郵便局が証明する制度で、法的な強制力はないものの相手にプレッシャーを与えられます(弥生株式会社)。
それでも解決しない場合は、簡易裁判所への支払督促や少額訴訟といった法的手続きもあります。判断に迷うときは、厚生労働省が委託し第二東京弁護士会が運営する無料相談窓口「フリーランス・トラブル110番」に相談できます。ひとりで抱え込まず、使える窓口があることを覚えておきましょう。
請求書作成ツールの選び方
毎月の請求を仕組み化すると負担が減ります。作成手段は大きく3区分です。
- Excel・スプレッドシート: 無料で始められますが、毎月の手入力や計算ミスのチェックに手間がかかります。
- 無料の請求書作成Webサービス: テンプレートに入力するだけで体裁が整い、PDF出力も簡単です。
- 有料のクラウド会計: 請求書発行から確定申告まで連携でき、取引量が増えた方に向いています。
テンプレートの入手や選び方は請求書テンプレートの選び方を参照してください。
まとめ|請求実務をおさえて直接受注を増やそう
直接受注の請求は、「いつ発行し、どう送り、どう回収するか」という運用さえ押さえれば、毎月同じリズムで回せるようになります。本記事の要点を振り返ります。
- 締め日と支払サイトを契約時に確認し、稼働報告→締め→発行→送付→入金確認の月次フローを固定する
- 請求書はPDF化し、わかりやすいファイル名と丁寧な送付メールで送る
- 振込手数料の負担先・登録番号の記載漏れ・ファイル形式など、やりがちな失敗を先回りで防ぐ
- 入金は「いつ・いくら入ったか」を記録し、未入金時はやわらかい確認メールから段階的に対応する
請求まわりの流れが一通り見えれば、直接受注はもう怖いものではありません。請求実務に自信が持てたら、次は案件そのものを増やしていく段階です。受注のステップはフリーランスエンジニアの直接契約で解説しているので、あわせて参考にしてください。



