子どもの小学校入学が近づき、学童保育の申込書類を手にして初めて「4月から今の働き方が成り立たない」と気づく方は少なくありません。学童の閉所時間は保育園の延長保育より早く、入学直後は給食がなく午前で帰ってくる日が続き、夏休みは40日ほど朝から預け先が必要になります。いわゆる「小1の壁」です。
会社員向けの記事を読むと、対策として挙がるのはたいてい「時短勤務」「部署異動」「転職やパートへの転換」の3つです。しかしフリーランスエンジニアには時短勤務制度も育児休業の受け皿もなく、稼働を減らせばその分だけ報酬が減ります。しかも学童の選考結果が出るのは1〜2月、入学直後にどれくらい生活が乱れるかが分かるのは4月です。確定情報が来ないまま、案件更新の話を切り出すべきかどうか判断できず、気づけば3月になっている——これが多くのフリーランスがはまる構図です。
ただ、小1の壁でなくなる時間は、実はかなりの部分がカレンダー上で事前に計算できる欠損です。学童の閉所時刻、入学直後の短縮授業の期間、長期休暇の日数、行事や振替休日の回数は、いずれも入学前に調べられます。欠損時間さえ数字にできれば、「学童に受かっても受からなくても、ここまでは組み替えておく」という決め打ちができるようになります。
そして、フリーランスには会社員が持たない3つの変数があります。案件ポートフォリオ・契約条件・1日の稼働設計です。この3つを学校のカレンダーに合わせて組み替えれば、稼働時間を単純に減らさずに可処分時間を作れる余地があります。
本記事では、小1の壁で生じる時間欠損を数字にする方法、入学9か月前からの逆算カレンダー、単価を下げずに条件を組み替える3パターン、契約への反映の仕方、外部サービス費用と減収の損益分岐、そして学童に落ちた場合のプランBまでを順に整理します。
フリーランスエンジニアの「小1の壁」が会社員より重い3つの理由
小1の壁とは何か — 保育園と小学校・学童で預かり時間がどう変わるか
小1の壁とは、子どもが保育園を卒園して小学校に入学したことで、それまで成立していた仕事と育児の両立が難しくなる状態を指します。原因は子どもの成長ではなく、預け先の時間割が変わることにあります。
保育園は朝7時台から開所し、延長保育を使えば19時前後まで預かってもらえるところが一般的です。一方、小学校の授業は低学年で14〜15時台に終わり、その後の受け皿となる放課後児童クラブ(学童保育)は多くが18時台に閉所します。加えて、保育園にはなかった以下の運用が加わります。
- 入学直後は給食が始まるまで午前授業で、11時台から12時台に下校する日が続く
- 夏休み・冬休み・春休みは学校が終日ないため、学童の開所時刻(朝8時前後)まで自宅で子どもを見る必要がある
- 長期休暇中は給食がないため、毎日弁当を用意する
- 運動会の振替休日、授業参観、個人面談、暴風警報による臨時休校など、平日の予定変更が保育園時代より多い
つまり小1の壁は「夕方が早くなる」だけの問題ではなく、朝・日中・夕方・長期休暇の4方向から稼働時間が削られる構造だと捉えたほうが実態に近くなります。
会社員の定番3対策(時短勤務・部署異動・転職)がフリーランスに使えない理由
小1の壁の対策として広く紹介されるのは、育児短時間勤務制度の利用、フレックスや在宅勤務が可能な部署への異動、そして働き方を変えるための転職やパートへの転換です。いずれも雇用契約があることを前提にした制度であり、業務委託で働くフリーランスには適用されません。
- 時短勤務は労働者の権利として法律に基づくもので、業務委託契約には存在しません
- 部署異動に相当するものはなく、「別の案件に移る」ことはできても、それは契約の切り替えであり交渉が必要です
- 転職に相当する案件の乗り換えは可能ですが、実績や単価の積み上げをいったんリセットするリスクを伴います
会社員向けの記事を読んでも解決策が見つからないのは、読者の理解力の問題ではなく、参照している対策の枠組みがそもそも違うからです。
フリーランス固有の制約 —「稼働を減らす=即減収」という構造
フリーランスエンジニアが小1の壁で直面する制約は、次の3点に整理できます。
- 稼働の削減が即座に減収になる:時間清算型の準委任契約では、稼働時間が減れば報酬もそのまま減ります。減った分を補填する制度はありません
- 休業・時短の受け皿がない:一時的に稼働を落としても、その間の所得を支える仕組みは自分の貯蓄以外にありません
- 条件変更のタイミングが契約更新月に限られる:思い立った月に働き方を変えられるわけではなく、多くの場合は契約更新のタイミングでしか条件を動かせません
裏を返せば、フリーランスが動かせる変数は案件の組み合わせ・契約条件・1日の時間配分の3つに集約されます。本記事の後半では、この3つをどう組み替えるかを扱います。育児全般における案件選びの判断軸については育児中のフリーランスエンジニアの案件選び5条件で整理していますので、土台としてあわせてご覧ください。
学童保育で生まれる時間ギャップ — 待機・閉所時間・長期休みの実態

学童保育の待機児童は今どうなっているか(公的データと地域偏在)
対策を考える前に、まず「学童には入れて当然」という前提を外しておく必要があります。
こども家庭庁が公表した放課後児童クラブの実施状況(2025年5月1日現在)によると、登録児童数は157万645人で過去最高を更新し、クラブ数は2万5,928か所となりました。一方で待機児童数は1万6,330人と、前年から1,356人減ったものの依然として1万6千人規模で高止まりしています(こども家庭庁「放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)」、2025年12月公表)。
注意したいのは、待機児童の分布に強い地域偏在があることです。東京都3,360人、埼玉県1,681人、兵庫県1,464人、千葉県1,106人、神奈川県1,067人の5都県で全体の約5割を占めています(教育新聞「放課後児童クラブの待機児童が減少 学校施設の活用を推進へ」、2025年)。
全国平均で語ると「待機は減っている」ように見えますが、都市部で働くフリーランスにとっては、自分の自治体・自分の学区の状況がすべてです。まずはお住まいの自治体が公表している学区別の申込状況や前年度の待機数を確認してください。
閉所時間・登所時間のギャップ — 保育園時代の稼働前提が崩れる時間帯
次に、閉所時刻の分布を見ます。放課後児童クラブの平日終了時刻は、17時まで0.4%、17時01分〜18時が17.2%、18時01分〜18時30分が21.7%、18時31分〜19時が53.1%、19時01分以降が7.7%という分布でした(出典: 令和4年 放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況、厚生労働省、2022年)。
19時以降まで開所しているクラブは1割弱にとどまります。保育園で19時までの延長保育を使っていた家庭であれば、夕方に1時間から1時間半程度の可処分時間が失われる計算になります。しかも学童は保育園と違い、お迎えではなく子どもだけで帰宅する「自主降所」を選べる場合もありますが、その場合は帰宅時刻に自宅で受け入れる必要があり、結局その時間は在宅が前提になります。
朝も同様です。小学校の登校時刻は保育園の登園より早いことが多く、朝の可処分時間はむしろ増えるケースがあります。ただし長期休暇中は学童の開所が8時前後となり、保育園時代より遅くなることが少なくありません。「平日は朝が早まり、長期休暇は朝が遅くなる」という非対称性を、あらかじめカレンダーに織り込んでおきます。
入学直後・長期休み・行事 — 年間カレンダー上の稼働欠損を洗い出す
小1の壁で失われる時間は、おおむね次の4種類に分解できます。数値はいずれも自治体・学校によって幅があるため、目安として自分の地域の数字に置き換えてください。
欠損の種類 | 発生時期 | 影響の目安 |
|---|---|---|
夕方の閉所ギャップ | 通年(授業日) | 保育園の延長保育比で1日あたり1〜1.5時間 |
入学直後の短縮授業 | 4月上旬〜中旬の約2週間 | 給食開始まで午前下校。学童が昼から受け入れ可でも弁当準備が必要 |
長期休暇 | 夏休み約40日、冬休み・春休み各2週間前後 | 朝の開所待ちと弁当準備で1日あたり0.5〜1時間、加えて学童を利用しない日は終日 |
行事・振替・臨時休校 | 通年、年間10〜15日程度 | 半日〜終日の欠損。警報による臨時休校は当日判明 |
このうち上3つは事前に日付が分かる欠損です。学校から配布される年間行事予定と自治体の学童運営規程を突き合わせれば、入学前の段階でほぼ確定させられます。読めないのは最後の「臨時休校・急な発熱」だけで、これは後述するプランB側で手当てします。
欠損時間を月あたりの稼働工数に換算する
ここまでを月あたりの工数に換算してみます。以下は月80万円・月160時間稼働(実効時間単価5,000円)のフリーランスエンジニアを想定した試算例です。
- 通常月:平日20日 × 夕方1.25時間 = 月25時間の欠損(約3稼働日分、稼働の約15%)
- 夏休みのある月:上記に加えて朝の対応 平日20日 × 0.75時間 = 月40時間前後の欠損(約5稼働日分)
- 年間合計:おおよそ300〜350時間(行事・臨時休校を含む)
実効時間単価5,000円で換算すると、何も対策しなければ年間150万〜175万円相当の稼働が消える計算になります。逆に言えば、この300〜350時間をどう埋めるか、あるいはどう単価に振り替えるかが本記事のテーマです。数字が出た時点で、「なんとなく不安」は「年間300時間の設計課題」に変わります。
入学9か月前から4月までの逆算カレンダー

4つの締切を1本の時間軸に重ねる
小1の壁の準備が後手に回る最大の理由は、締切が別々のカレンダーに散らばっていることです。就学時健診は学校から、学童申込は自治体から、選考結果は年明けに、そして案件更新月は自分の契約書に書かれています。これらを1本の時間軸に並べると、意思決定の順番が見えてきます。
時期 | 発生するイベント | 決めること |
|---|---|---|
前年6〜9月 | 民間学童の説明会・見学が始まる時期 | 欠損時間の試算、自治体の学童制度の確認 |
前年10〜11月 | 就学時健診、学童の申込案内配布 | 学童申込、民間学童の見学・仮押さえ |
前年11〜1月 | 学童の申込締切(自治体により幅あり) | 案件更新月の棚卸し、プランA/Bの骨子作成 |
1〜2月 | 学童の選考結果通知 | プランの確定、クライアントへの初期共有 |
2〜3月 | 契約更新の交渉時期 | 稼働条件の契約反映、引き継ぎ余地の確保 |
4月以降 | 入学、実測 | 実際の欠損との差分を測り、微調整 |
日程は自治体によって前後します。とくに学童の申込締切と結果通知の時期は差が大きいため、秋のうちに自治体の窓口ページで正確な日付を控えておくことを最初のアクションにしてください。
前年夏〜冬にやること — 欠損試算と選択肢の仮押さえ
この時期にやるべきことは、判断ではなく選択肢を確保しておくことです。
- 欠損時間の試算:先ほどの換算方法で、通常月と長期休暇月の欠損時間を出します
- 自治体の学童制度の確認:閉所時刻、長期休暇中の開所時刻、延長の有無と料金、申込要件(就労時間の下限など)、選考の点数配分を確認します。フリーランスの場合、就労証明として開業届や契約書、確定申告書の写しを求められることがあるため、必要書類は早めに把握しておきます
- 民間学童の見学と仮押さえ:人気の施設は年内に枠が埋まることがあります。公立に受かった場合はキャンセルする前提でも、見学と申込の締切だけは押さえておきます
- 案件更新月の棚卸し:手元の契約すべてについて、更新月・更新通知の期限(「1か月前までに書面で通知」等)・稼働条件の記載内容を一覧にします
この段階では「学童に受かるか」は分かりません。分からないまま、受かっても落ちても使える準備だけを進めるのがポイントです。
1〜3月にやること — プランの確定と契約への反映
選考結果が届いたら、プランを確定させて契約に落とします。
- 結果が合格の場合:閉所時刻を前提に、後述の「1日の稼働設計」で組んだスケジュールを確定し、契約更新の交渉に稼働条件を載せます
- 結果が不合格の場合:後述するプランBに切り替えます。二次募集・民間学童・ファミリーサポートの組み合わせを、この時点で具体的な曜日単位まで決めます
いずれの場合も、3月中に契約への反映を終わらせることを目標にします。4月に入ってから条件変更を切り出すと、クライアント側も新年度の体制が動き出しており、調整の余地が小さくなります。育児期を通じた意思決定の流れ全体はフリーランスエンジニアの育児期の意思決定マップで時系列に整理していますので、就学前フェーズの前段としてご確認ください。
学童の合否を待たずに決め打ちしてよいこと/待つべきこと
ここが本記事でもっとも重要な判断ルールです。合否を待つ必要があるものと、待たずに決めてよいものを分けます。
合否を待たずに決め打ちしてよいこと
- 夕方の離脱時刻(学童に受かっても落ちても、17時台以降に子ども対応の時間が必要になる点は変わりません)
- 長期休暇中の稼働縮小幅(学童に受かっても朝の開所は遅く、弁当準備は発生します)
- 常駐案件をリモート中心に切り替える方針(欠損の下限値ベースで判断できます)
- クライアントへの初期共有(「4月以降、平日夕方の稼働時間帯が変わる見込みです」と幅で伝える)
合否を待ってから決めること
- 民間学童・ファミリーサポートに月いくら払うか(合格すれば不要になる支出があります)
- 週あたりの稼働日数を実際に減らすかどうか
- 案件本数を増減させるかどうか
つまり、欠損の「下限値」で動ける部分は秋のうちに動かし、「上限値」に関わる支出と稼働日数だけを1〜2月まで保留するという二段構えです。全部を保留にすると、更新交渉の締切に間に合わなくなります。
案件条件の組み替え — 単価を下げずに可処分時間を作る3パターン

先ほど算出した欠損時間を、実際の案件条件に落とし込みます。ここでは学校のカレンダーに合わせた組み替えに絞って扱います。育児期全般の案件ポートフォリオ設計の考え方は既存の記事に譲り、本セクションは「小1固有の制約をどう吸収するか」に集中します。
パターンA|常駐・ハイブリッドからフルリモートへ入れ替える
もっとも効果が大きいのは、移動時間そのものをなくす組み替えです。片道1時間の常駐案件であれば、往復2時間が毎日固定で消えています。フルリモート案件に入れ替えれば、稼働時間を1分も減らさずに1日2時間の可処分時間が生まれ、夕方の欠損1〜1.5時間をそのまま吸収できます。
一方で、常駐案件はリモート案件より単価が高く設定されている場合があり、単純な入れ替えで単価が下がることがあります。この差を埋める交渉材料は「単価を下げずに条件変更を通すための交渉材料」で扱います。
- 向いているケース:現在が週3日以上の常駐またはハイブリッドで、通勤に片道45分以上かかっている
- 注意点:入学直後の4月は学校行事や慣らし期間が集中します。案件の切り替えとタイミングが重なると負荷が二重になるため、切り替えは前年度中か、6月以降に寄せるほうが安全です
パターンB|1案件集中から週3+週2の分散へ
週5日を1案件に投じている構成は、収入が安定する反面、欠損の影響がその1案件に集中するという弱点があります。夏休みに稼働を落とす必要が出たとき、交渉相手が1社しかないため、条件が通らなければ全額が減ります。
週3+週2のように2案件に分散しておくと、長期休暇の縮小交渉を「週2側だけ一時的に休止する」といった形で局所化できます。また、片方の案件が終了しても収入がゼロにならないため、入学直後の不安定な時期のリスクヘッジになります。
- 向いているケース:長期休暇中に大きく稼働を落とす想定があり、かつ複数案件の並行管理に慣れている
- 注意点:会議体が2倍になるため、同期作業の総量はむしろ増えます。会議時間の上限をあらかじめ契約時に合意しておくことが前提条件になります
パターンC|時間清算型からスコープ確定型へ寄せる
準委任の時間清算型(月160時間±20時間で精算、など)は、稼働時間がそのまま報酬に直結します。これを成果物・スコープを確定させる形に寄せられれば、いつ作業するかの裁量を取り戻せます。夕方に離脱しても、夜間や早朝に振り替えて成果を出せば報酬は変わりません。
ただし、スコープ確定型は見積り精度が低いと自分の首を絞めます。仕様変更の扱い、追加要件の単価、検収基準を契約時に明確にしておかないと、実質的な時間単価が下がります。
- 向いているケース:担当領域の仕様が安定しており、見積りの精度に自信がある
- 注意点:全案件をスコープ確定型にすると収入の変動が大きくなります。時間清算型を土台に残し、一部をスコープ型に寄せる混成が現実的です
単価を下げずに条件変更を通すための交渉材料
稼働時間帯を変える交渉は「わがまま」ではなく、継続的な戦力提供のための条件調整として持ち込むと通りやすくなります。用意しておきたい材料は次の4点です。
- 成果の可視化:稼働時間ではなく、担当領域のアウトプット(実装したモジュール、削減した障害件数、レビュー対応数など)を提示できる状態にしておく
- 時間帯依存の低い役割への移動:設計、コードレビュー、技術調査、ドキュメント整備など、同期的なやり取りが少ない役割の比重を上げる提案をする
- 引き継ぎ設計の提示:「離脱する時間帯に発生した障害はどう扱うか」を先に設計して持ち込む。相手の不安の核心は、あなたの不在そのものではなく不在時に判断できる人がいないことです
- 段階的な移行案:いきなり最終形にせず、4〜6月は移行期間として現行条件に近い形を維持し、7月から新条件に移す、といった段階案を示す
3パターンの比較表と、自分に合うパターンの選び方
観点 | パターンA(フルリモート化) | パターンB(複数案件へ分散) | パターンC(スコープ確定型) |
|---|---|---|---|
生まれる可処分時間 | 大(移動時間ぶん) | 中(曜日単位で調整可) | 大(時間帯の裁量) |
単価への影響 | 下がる可能性あり | 案件次第で維持しやすい | 見積り精度次第で上下 |
収入の安定性 | 変化なし | 高まる | 変動が大きくなる |
切り替えコスト | 中(案件探索・立ち上げ) | 高(2案件の立ち上げ) | 中(契約条件の再設計) |
相性のよい欠損 | 夕方の閉所ギャップ | 長期休暇 | 行事・臨時休校 |
選び方の目安は次のとおりです。
- 通勤している人は、まずパターンAを検討します。単価を落とさずに時間が生まれる可能性が最も高い選択です
- すでにフルリモートで、夏休みの40日が最大の懸念であればパターンBを検討します
- フルリモートかつ長期休暇の目処も立っていて、日中の会議拘束が主な制約であればパターンCを検討します
1日の稼働設計 —「16時に一度離脱する」を前提に組み直す

乳幼児期の稼働設計と何が違うか
保育園時代の稼働設計は、突発対応型でした。発熱による呼び出し、感染症による登園停止など、いつ何が起きるか読めない前提で、常にバッファを持たせる設計をしていた方が多いはずです。
就学後は、この性質が変わります。学童の閉所時刻・下校時刻・長期休暇の日程はいずれも事前に確定しており、定時離脱型の設計に切り替えられます。突発対応が消えるわけではありませんが、頻度は下がり、代わりに「毎日決まった時刻に必ず抜ける」という制約が加わります。
定時離脱型のほうが、実は設計はしやすくなります。読める制約は、スケジュールに組み込めるからです。乳幼児期の年齢別スケジュールや緊急時の対応設計については子育て中のフリーランスエンジニアの稼働設計で詳しく扱っていますので、就学前のお子さんがいる方はそちらをご覧ください。
朝・日中・夜間の3ブロック再配置と、会議を前倒しする交渉
1日を次の4ブロックに分けて組み直します。
ブロック | 時間帯の目安 | 主な用途 |
|---|---|---|
朝の集中ブロック | 8:30〜11:30 | 実装・設計など中断されたくない作業 |
日中の同期ブロック | 11:30〜16:00 | 会議、ペア作業、レビューのやり取り |
夕方の離脱 | 16:00〜19:30 | 学童のお迎え・帰宅対応・夕食 |
夜間の非同期バッファ | 20:30〜22:00 | 残作業、翌日の準備(常態化させない) |
ポイントは、同期ブロックを16時前に終わらせることです。多くのチームでは夕方に定例会議が置かれがちですが、これを日中前半に寄せる交渉は、意外に通ることがあります。交渉の際は「家庭の事情で」と伝えるより、「参加者の集中時間を確保するため、定例を午前または午後前半に移すことを提案したい」とチーム全体のメリットとして提示するほうが受け入れられやすくなります。
離脱中に案件を止めないための非同期化と作業単位の切り方
夕方に離脱しても案件を止めないためには、自分がボトルネックになる時間帯を作らない工夫が要ります。
- 作業単位を小さく切る:1つのPull Requestを大きくすると、レビュー待ちと修正のやり取りが長引き、離脱時刻に間に合わなくなります。レビューしやすい粒度に分割し、離脱前にレビュー依頼を出し切る運用にします
- 判断待ちを先に投げる:仕様確認や設計判断は、離脱後に相手が動けるよう、遅くとも15時台までに質問を投げておきます
- 仕掛かりの可視化:離脱時点の進捗と次にやることを、チームが見られる場所に書き残します。これは自分が翌朝すぐ再開するためにも有効です
- 障害時の一次対応を決めておく:離脱時間帯に障害が起きた場合、誰が一次対応し、どこまでで自分に連絡するかを事前に合意しておきます
夜間バッファを常態化させないためのルール
夜間の非同期バッファは便利ですが、常態化すると小1の壁は「解決した」ように見えて実際には睡眠時間を削っているだけになります。次のようなルールをあらかじめ決めておくことをおすすめします。
- 夜間バッファの使用は週2回まで、1回あたり1.5時間までを上限とする
- 上限を2週続けて超えたら、それは自助努力の限界を超えたサインとみなし、案件条件の組み替え(前セクションの3パターン)か、外部サービスの追加を検討する
- 夜間バッファを常時使う前提でスケジュールを引かない(前提に組み込んだ瞬間、バッファではなく通常稼働になります)
この「上限を超えたら契約を見直す」という線引きが、自助努力で吸収できる範囲と、契約を変えるべき範囲の境界になります。
契約条件への反映とクライアントへの伝え方
いつ切り出すか — 契約更新月から逆算する
稼働条件の変更は、口頭の了解だけで済ませると、担当者の交代や体制変更で簡単に失われます。契約更新に載せることが基本です。
タイミングの目安は、更新月の2か月前です。多くの準委任契約には「更新しない場合は1か月前までに通知する」といった条項があり、その締切の直前に条件変更を持ち出すと、相手には「更新しない」と同義に見えかねません。1か月の余裕を持って相談を始めることで、条件調整の選択肢を検討してもらえます。
この時点で学童の合否が出ていない場合は、幅で伝えます。「4月以降、平日は17時台に一度離脱する形になります。長期休暇中の稼働については1月中に確定させてご相談します」といった伝え方であれば、確定していないことを隠さずに、相手が体制を考える時間を確保できます。
何をどこまで伝えるか — 稼働条件として翻訳して伝える
家庭の事情を詳細に説明する必要はありません。相手が必要としているのは、あなたの稼働可能な時間帯と、不在時の対応方針です。
伝えること(稼働条件) | 伝えなくてよいこと(私生活の詳細) |
|---|---|
平日の稼働時間帯(例: 9〜17時、夜間に一部非同期対応) | 子どもの年齢・学校名・家庭の分担事情 |
連絡が取れる時間帯と、返信の目安時間 | 学童の合否や申込の経緯 |
長期休暇中の稼働見込み(時期と縮小幅) | 配偶者の勤務状況 |
急な離脱が発生し得る頻度と、その際の代替対応 | 個別の行事の内容 |
「小学校入学に伴い、平日17時以降は非稼働となります」という一文で、必要な情報は伝わります。事情の説明が長くなるほど、相手は「例外的な配慮を求められている」と受け取りやすくなります。稼働条件の提示として、淡々と伝えるほうが通ります。 稼働縮小を伝える文面の型そのものについては稼働調整の伝え方でテンプレートを整理しています。
契約書・発注書に明記しておく5項目
更新時に、次の5項目が書面に残っているかを確認してください。
- 稼働時間帯:「平日9:00〜17:00」など、開始と終了を明記する
- 稼働日数・月間稼働時間:週あたりの日数と、月間の下限・上限(清算幅)
- 連絡可能時間:即時応答が期待される時間帯と、非同期での返信となる時間帯の区別
- 急な離脱時の代替対応:臨時休校・発熱等で当日稼働できない場合の振替の可否と方法
- 長期休暇中の特例:夏休み等で稼働を縮小する期間と、その期間の報酬の扱い
とくに5番目は忘れられがちです。「7月20日〜8月31日は月間稼働時間を◯時間とする」と入学前に書面化しておけば、夏休み直前に交渉し直す必要がなくなります。
条件明示に関する制度面の後ろ盾
条件変更を切り出すことをためらう方は少なくありませんが、取引条件を書面等で明示することは、発注側の法的な義務でもあります。
2024年11月1日に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス法)では、フリーランスに業務委託をした発注事業者に対し、業務の内容・報酬の額・支払期日などの取引条件を、書面または電磁的方法(メールやチャット等)で直ちに明示することが義務づけられています。口頭のみの明示は認められていません(公正取引委員会 フリーランス法特設サイト、政府広報オンライン)。
明示の様式に決まりはなく、契約書という名称である必要もありません。メールに箇条書きで条件を記載する形でも要件を満たします。つまり、稼働条件を書面で確認し合うことは、特別なお願いではなく通常の取引実務です。むしろ稼働条件を曖昧にしたまま4月を迎え、後から「聞いていない」と食い違うほうが、信頼を損なうリスクは大きくなります。
減収と外部サービス費用、どちらを取るか
実効時間単価を出す — 比較の共通単位をそろえる
「民間学童に月5万円払うのは高いのか」という問いには、自分の実効時間単価を出さないと答えられません。
実効時間単価は、次の式で概算します。
実効時間単価 = 月額報酬 ÷ (月間稼働時間 + 移動時間 + 事務・営業に使う時間)
月80万円・月間稼働160時間で、移動や事務に月20時間を使っているなら、実効時間単価は80万円 ÷ 180時間 ≒ 4,400円です。案件の稼働時間だけで割った5,000円より低くなります。この実効単価を基準に、外部サービス費用と守れる稼働時間を突き合わせます。
民間学童・ファミサポ・シッターの費用感と守れる時間
主な選択肢の費用感は次のとおりです。地域・事業者・自治体によって幅が大きいため、いずれも目安として扱い、実際の金額は必ず個別に確認してください。
選択肢 | 費用の目安 | 守れる時間の目安 |
|---|---|---|
公立の学童保育 | 月額数千円程度(おやつ代等が別途) | 平日放課後〜18時台 |
民間学童 | 週5日利用で月額4万〜8万円程度、入会金2万〜3万円程度、延長は30分600〜800円程度、食事提供は1食700〜800円程度(ウィズダムアカデミー、学童のくちコミ) | 平日放課後〜19〜20時台、送迎付きの施設もあり |
ファミリーサポート | 1時間あたり500〜900円程度で自治体差が大きい。平日700円・時間外や土日祝900円とする自治体(岡山市、習志野市)がある一方、利用者負担を一律500円に抑えている自治体(徳島市)もある | 送迎・短時間の預かりをスポットで |
ベビーシッター | 1時間あたり2,000円前後〜(事業者・時間帯により変動) | 自宅での預かり・送迎をスポットで |
ファミリーサポートは、自治体が独自に利用料を補助しているかどうかで実質負担が大きく変わります。上の例でも、岡山市・習志野市が平日700円・土日祝900円であるのに対し、徳島市は依頼会員の負担を1時間500円に抑えています(提供会員への報酬との差額を市が負担する仕組みです)。「相場はいくらか」ではなく、自分の自治体がいくらかを必ず確認してください。加えて、送迎を伴う場合は交通費などの実費が別途かかります。
損益分岐の計算手順と、費用対効果で決めきれない要素
計算の手順は単純です。
- そのサービスで守れる稼働時間を月あたりで出す
- 守れる時間 × 実効時間単価 = 守れる報酬額
- 守れる報酬額 − サービス費用 = 差額
先ほどの実効時間単価4,400円のケースで、民間学童(月5万円)を利用して1日1.5時間 × 月20日 = 月30時間を守れるとすると、守れる報酬額は13万2,000円、差額は約8万2,000円のプラスになります。この計算をすると、「月5万円は高い」という直感が必ずしも正しくないことが見えてきます。
ただし、金額だけで決めきれない要素があります。
- 子ども本人が通えるか:本人が強く嫌がる場合、金額に関係なく継続できません
- 通所距離と送迎の負担:送迎が必要な施設だと、守れるはずの時間が送迎で相殺されることがあります
- 子どもの疲労:入学直後は学校生活だけでも消耗します。長時間の預かりが本人の負担になっていないかを見ます
- 単年の収支で見ないこと:入学年度だけは費用が上回るとしても、案件を維持したことで翌年以降の単価・実績が積み上がるなら、複数年で見て回収できる場合があります
所得が下がる年の資金繰り(税・社会保険のタイムラグと生活防衛資金)
稼働を落とすことを選んだ場合、フリーランス特有の注意点があります。住民税・国民健康保険料は前年の所得を基に算定されるため、所得が下がった年の負担は下がらず、翌年になってから軽くなります。つまり「収入が減った年に、前年の高い所得を基準にした納付が続く」というタイムラグが生じます。
対策としては、次の2点を入学前の段階で準備しておきます。
- 減収を見込む年に備え、前年所得ベースの税・社会保険料の年額を試算し、その分を先に確保しておく
- 生活防衛資金は、稼働が読めない4〜6月と長期休暇を含めて、通常より厚め(生活費の6か月分以上が一つの目安)に持っておく
資金の余裕があるかどうかは、「どこまで稼働を落とせるか」の上限を決める要素でもあります。数字を出しておくことで、稼働縮小の判断が感覚論でなくなります。
学童に落ちた場合のプランB — 4月からの3か月をどう乗り切るか
学童に落ちたらまず確認する3つの選択肢
選考結果が不合格だった場合、最初に確認すべきは次の3つです。
- 二次募集と年度途中の空き:4月時点で満員でも、5〜6月に辞退が出て空きが生じることがあります。キャンセル待ちの登録方法と、繰り上げの連絡時期を自治体に確認します
- 学校内の放課後事業:多くの自治体で、学童保育とは別に、学校施設を使った放課後の居場所づくり事業(放課後子供教室など)が運営されています。学童より終了時刻が早いことが多いものの、下校直後の数時間をカバーできる場合があります。国も学校施設を活用した受け皿の整備を進めており、自治体ごとに提供内容が異なるため個別に確認が必要です
- 民間学童のスポット利用:月極契約ではなく、必要な曜日だけ利用できるプランを設けている施設があります。週5日で契約するより費用を抑えられます
単一手段に依存しない代替構成の組み方
プランBの設計で重要なのは、1つの手段に全曜日を任せないことです。単一手段に依存すると、その手段が使えなくなった瞬間にすべてが止まります。
例えば、次のような曜日別の組み合わせが考えられます。
曜日 | 放課後の預け先 | 自分の稼働 |
|---|---|---|
月・水 | 民間学童(スポット利用) | 通常稼働 |
火 | 放課後の学校内事業 + 16時以降は在宅対応 | 16時以降は非同期作業 |
木 | ファミリーサポート(送迎+預かり2時間) | 通常稼働 |
金 | 在宅で自分が対応 | 午前に稼働を寄せ、午後は軽作業 |
この形にしておくと、民間学童が満員になっても火・木の構成でしのげますし、ファミリーサポートの提供会員が都合悪くなっても他の曜日は影響を受けません。曜日ごとに手段を分散させることが、そのままリスク分散になります。
一時的に稼働を縮小する場合の復帰計画の決め方
どうしても稼働を落とさざるを得ない場合は、落とすと同時に戻す条件を決めておくことをおすすめします。復帰の条件を決めずに縮小すると、そのまま元に戻らないまま年度が終わることがあります。
決めておくのは次の3点です。
- 戻す時期:「二次募集で学童に入れたら」「夏休みが明ける9月から」など、判定できる条件で書く
- 戻す条件:「子どもが1人で帰宅して30分過ごせるようになったら」など、状態で書く
- 戻す先の条件:「週4日・月140時間・フルリモート」など、復帰後の稼働条件を数字で書く
そのうえで、縮小を伝える際にクライアントにも「9月からは週4日に戻す想定です」と共有しておくと、案件を継続してもらいやすくなります。相手にとっても、いつ戦力が戻るかが分かっているほうが体制を組みやすいからです。
小4の壁を見据えた中期設計
最後に、今回の組み替えを使い捨てにしないための視点です。
放課後児童クラブの対象は、2015年の児童福祉法改正により「小学校に就学している児童」へと広がり、制度上は6年生まで利用できるようになりました。ただし実際には、低学年を優先する運用をしている自治体があり、4年生への進級を機に利用が難しくなる「小4の壁」が指摘されています(一般社団法人民間学童保育協会)。
つまり、小1で組み立てた体制は、3年後にもう一度見直しが必要になる可能性があります。であれば、今回の組み替えは「3年間の一時しのぎ」ではなく、学校のカレンダーに合わせて稼働を調整できる案件構成そのものを作るという中期的な投資として捉えたほうが得です。フルリモート化、複数案件への分散、スコープ確定型の契約は、いずれも小4以降にもそのまま効きます。
まとめ|小1の壁は「4月までに何を決めたか」で決まる
小1の壁は、感情的に受け止めると「なんとなく大変そう」で終わってしまいますが、分解すれば5つのステップで扱える設計課題です。
- 欠損を数える:夕方の閉所ギャップ、入学直後の短縮授業、長期休暇、行事を月あたりの稼働時間に換算する
- 逆算カレンダーで締切を決める:就学時健診・学童申込・選考結果・案件更新月を1本の時間軸に並べ、決め打ちする部分と保留する部分を分ける
- 案件・稼働・契約を組み替える:フルリモート化・複数案件への分散・スコープ確定型への移行から、自分の制約に合うパターンを選ぶ
- 費用と減収を比較する:実効時間単価を出し、外部サービス費用と守れる稼働時間を突き合わせて損益分岐を出す
- プランBを用意する:学童に落ちた場合の曜日別の代替構成と、稼働を縮小した場合の復帰条件を先に決めておく
そして、今日中に着手できることは次の3つです。
- 自治体の学童の閉所時間・長期休暇中の開所時刻・申込締切を確認する(自治体の公式サイトで5分で分かります)
- 手元の案件の更新月と、更新通知の期限を書き出す(契約書を開くだけです)
- 夕方の欠損時間を月あたりの稼働時間に換算する(平日日数 × 1〜1.5時間で概算できます)
小1の壁で減収するかどうかを分けるのは、4月の頑張りではなく、4月までに何を決めたかです。学童の合否が出るのを待たなくても、この3つは今日決められます。
学校のカレンダーに合わせて稼働時間帯や稼働日数を調整できる案件をお探しの方は、Workee(フリーランス向け)で条件を指定した案件検索をご利用いただけます。フルリモート・稼働日数の相談可といった条件から探すことができます。
よくある質問
- 学童保育に落ちた場合、フリーランスエンジニアはどう対応すればいいですか?
二次募集・放課後子供教室・民間学童のスポット利用の3つをまず確認し、曜日ごとに複数の預け先を組み合わせるのが有効です。単一の手段に依存すると、その手段が使えなくなった瞬間にすべてが止まるため、リスク分散を優先してください。
- クライアントに稼働条件の変更をいつ伝えればよいですか?
契約更新月の2か月前を目安に相談を始めるのが基本です。多くの準委任契約には「更新しない場合は1か月前までに通知する」といった条項があり、締切直前に条件変更を切り出すと「更新しない」と同義に受け取られかねないため、1か月の余裕を持たせます。学童の合否が未確定の段階では「幅」で伝え、確定後に契約書へ反映することで、更新拒否と誤解されるリスクを避けられます。
- 民間学童やファミリーサポートの費用は高すぎませんか?
自分の実効時間単価(月額報酬÷総稼働関連時間)を算出し、守れる稼働時間×単価とサービス費用を比較してください。多くの場合、守れる稼働時間の価値が費用を上回り、「高い」という直感が外れることがあります。
- フルリモート案件に切り替えると単価は下がりますか?
常駐案件よりリモート案件の単価が低く設定されている場合、切り替えによって下がる可能性はあります。成果の可視化や引き継ぎ設計を交渉材料として提示すれば、単価を維持したまま切り替えられる余地があります。
- 小1の壁を乗り切れば、その後は元の働き方に戻せますか?
3年生まではこの体制で対応できても、4年生からは学童の受け入れが縮小される「小4の壁」に再び直面する可能性があります。今回の組み替えは一時しのぎではなく、学校カレンダーに合わせて調整できる案件構成への中期的な投資と捉えるのが得策です。



