「2026年にフリーランス取引関連の法改正が複数あるらしい」――顧問先や経済紙のメールマガジンでそう聞き、社内で「うちは大丈夫なのか」と問われた発注企業の担当者は少なくないはずです。実際、2024年11月のフリーランス新法施行から1年あまり、2026年は再び複数の法改正が同時並行で施行・運用開始されます。
しかも厄介なのは、改正の所管が公正取引委員会・厚生労働省と分かれ、施行日も1月・4月とバラついていること。個別の法律名で検索すれば単体記事は出てきますが、「結局自社(発注者)として、どの法律のどこを、どの順番で、いつまでに対応すればよいのか」という横断的な視点で整理された情報は見つかりにくいのが現状です。
社内に弁護士はおらず、顧問弁護士もすべての法改正に精通しているとは限らない。そんな状況で「3つの改正を漏れなく押さえる」のは、想像以上に負荷の高い仕事です。
本記事では、2026年に発注者として押さえるべきフリーランス活用関連の法改正3つ(取適法/フリーランス新法解釈ガイドライン改正/労働安全衛生法改正)を一覧化し、それぞれが自社の業務委託運用に与える影響と、対応タイムライン・優先度を整理します。読了後には「2026年のフリーランス関連法改正は計3つ、影響範囲はA・B・C、自社の優先タスクはX・Y・Z」と社内で説明できる状態を目指します。
なお、本記事は全体俯瞰を目的としているため、個別論点(60日支払い・ハラスメント・契約解除予告など)の深掘りは社内の関連記事に委ねます。最後のセクションで参照先を整理していますので、必要に応じて深掘りしてください。
2026年、フリーランス活用に関わる発注者向け法改正は3つ同時に動く
2026年は、フリーランス(業務委託の個人事業主)を活用する発注者にとって、対応漏れが起きやすい年です。理由はシンプルで、3つの法改正が同時並行で施行・運用開始されるからです。所管も施行日も異なるため、ひとつの記事や説明会で全体を網羅した情報を得るのは難しい構造になっています。
2026年に発注者に影響する3つの改正一覧
# | 改正名 | 施行日 | 所管 | 発注者への主な影響 |
|---|---|---|---|---|
① | 取適法(中小受託取引適正化法/旧下請法) | 2026年1月1日 | 公正取引委員会 | 従業員数基準の新設で新たに対象になる企業が拡大/振込手数料の売手負担禁止 |
② | フリーランス新法 解釈ガイドライン改正 | 2025年10月1日改正・2026年1月1日運用開始 | 公正取引委員会・厚生労働省 | 既存契約も新ガイドラインに基づく運用が求められる/支払期日・買いたたき認定の解釈が変更 |
③ | 労働安全衛生法改正 | 2026年4月1日(一部は2027年1月・4月) | 厚生労働省 | 労働者と同一場所で作業する個人事業者への安全衛生措置義務(客先常駐型フリーランスも対象になり得る) |
3つの改正に共通するのは「フリーランスを保護対象として明確に位置づける」という政策方向性です。逆に言えば、発注者側には「保護対象が広がった分だけ、新たな運用義務が課される」ことを意味します。
なぜ同時並行で進行するのか
3つの改正が同時期に動く背景には、フリーランス保護を一貫した政策パッケージとして整備したいという政府の意図があります。2024年11月にフリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が施行されて以降、運用上の課題や下請法との重複が明らかになり、それを補完・整合させる形で2025年〜2026年の改正が組まれた経緯があります。
つまり3つの改正は別々の法律ではあるものの、政策的には「ひとつのパッケージ」と見るのが実態に近い。発注者としても、3つを個別対応ではなく「フリーランス取引運用の一括見直し」として捉えるほうが、結果的に手戻りが少なくなります。
改正①:取適法(旧下請法)の2026年1月施行と発注者への影響

まず最初に押さえるべきは、2026年1月1日に施行される取適法(中小受託取引適正化法)です。これは旧「下請法」の改称・改正版で、フリーランス活用の文脈で最も影響範囲が広い改正と言えます。
取適法とは:旧下請法からの改称と主旨
取適法は、旧下請法(下請代金支払遅延等防止法)の名称・規制内容を見直し、中小事業者(個人事業主=フリーランスを含む)を保護対象として強化した法律です。「下請」という呼称が実態にそぐわなくなったことから、「中小受託取引適正化法」へと改称されました(政府広報オンライン)。
旧下請法では「資本金基準」のみで適用対象を判定していましたが、取適法では資本金基準に加えて「従業員数基準」が追加されました。これにより、資本金は小さいが従業員数の多い企業(例: 資本金1,000万円・従業員200名のスタートアップ等)が新たに規制対象に組み込まれます。
発注者が押さえるべき3つの変更点
取適法の変更点は多岐にわたりますが、フリーランス活用の発注者として最低限押さえるべきは次の3点です。
1. 従業員数基準の新設
委託類型 | 委託事業者の従業員数 | 受託事業者の従業員数 |
|---|---|---|
製造委託・修理委託・特定運送委託等 | 300人超 | 300人以下(個人事業主含む) |
情報成果物作成委託・役務提供委託等 | 100人超 | 100人以下(個人事業主含む) |
資本金基準と従業員数基準のいずれかを満たす場合に取適法が適用されます(公正取引委員会 リーフレット)。システム開発・デザイン・記事制作等の役務提供委託では、従業員数100人を超える発注者は、フリーランスへの業務委託において自動的に取適法の対象になる点に注意が必要です。
2. 振込手数料の売手負担禁止
合意の有無にかかわらず、振込手数料を受託側(フリーランス)に負担させて代金から差し引く運用は禁止されます。これまで「契約書に明記してあるから」「合意済みだから」という理由で差し引いていた企業も、2026年1月以降は「不当な減額」として違反扱いになります(政府広報オンライン)。
3. 運用基準の改正・新たな禁止行為
「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」「手形払い等の禁止」など、買いたたきや不当な支払い条件を抑制する規制が追加されます。発注者は、見積協議の議事録を残す・代金決定プロセスを文書化するといった運用整備が求められます。
自社が取適法の対象になるかの判定フロー
「自社は資本金が小さいから下請法は関係ない」と認識していた企業は、2026年から判定基準が変わる点を再確認してください。簡易チェックは次の流れです。
- フリーランス(個人事業主)に業務を発注しているか? → YES なら次へ
- 委託する業務は「情報成果物作成」「役務提供」「製造」「修理」「特定運送」のいずれかに該当するか? → YES なら次へ
- 自社の常時使用する従業員数は、委託類型に応じた閾値(製造系300人、役務系100人)を超えているか? → YES なら取適法の対象
- 3.が NO の場合でも、自社の資本金が旧下請法の基準(製造系で資本金1,000万円超、役務系で資本金1,000万円超)を満たすか確認 → YES なら取適法の対象
3または4のいずれかでYESになれば、自社は2026年1月以降、取適法の規制対象となります。「常時使用する従業員」のカウントには正社員だけでなく契約社員・パートも含まれる場合があるため、判定は人事部門と連携して行うのが安全です。
改正②:フリーランス新法 解釈ガイドライン改正(2025年10月改正・2026年1月運用開始)
2024年11月に施行されたフリーランス新法は、2025年〜2026年で法本体の改正ではなく、「解釈ガイドライン」が改正されます。具体的には、公正取引委員会・厚生労働省により2025年10月1日に解釈ガイドラインが改正され、2026年1月1日から運用開始となります。
「2024年11月の施行時に契約書テンプレを修正したから、もう対応は完了している」と認識している発注者は少なくありません。しかし解釈ガイドラインの改正により、既存契約であっても2026年1月以降は新しい解釈に基づく運用が求められる点が見落とされがちです。
解釈ガイドライン改正で変わるポイント
改正解釈ガイドラインの主なポイントは次の通りです。
- 取適法との優先関係の明確化: 取適法とフリーランス新法が同時に適用され得る取引について、原則としてフリーランス新法が優先適用される旨が整理されました
- 支払期限の運用解釈: 「受領後60日以内」のルールに関する解釈が具体化され、「月末締め翌々月末払い」(例: 10月末締め12月末払い)が60日を超えるケースの判定が厳格化される見込みです
- 買いたたき・契約変更の認定基準: 「一方的な単価据え置き」「業務範囲の事後追加」等が買いたたきに該当する場合の判定基準が明確化されました
- 執行体制の拡充: 公正取引委員会の調査・指導の運用体制が強化され、違反時の是正勧告・公表のスピードが上がる見込みです
既存契約の見直しが必要な発注者の特徴
「2024年11月時点で対応済みだから大丈夫」と判断する前に、次の特徴に当てはまる契約が自社に残っていないか確認してください。
- 月末締め翌々月末払いの契約: 受領日から起算した支払日数が60日を超える可能性があります。締日・支払日を見直すか、受領日基準で60日を超えない条件に改める必要があります
- 単価据え置きの長期契約: 業務範囲が増えているのに単価が改定されていない契約は、改正後ガイドラインで買いたたきと認定されるリスクがあります
- 事後的に業務範囲を追加するグレー慣行: 当初の契約書に明記されていない作業を「追加でお願い」する運用は、書面化義務違反・買いたたき認定の両面でリスクが高まります
- 振込手数料の差し引き運用: 取適法と並んでフリーランス新法でも問題視されるため、両法対応として早めに見直すべき論点です
支払期日の論点はフリーランス保護法 60日支払いルールで、ハラスメント・優越的地位の濫用についてはフリーランス保護法 ハラスメント規制と禁止行為で詳しく扱っています。
改正③:労働安全衛生法改正(2026年4月)でフリーランスも保護対象に

3つ目は、2026年4月1日から段階的に施行される改正労働安全衛生法(安衛法)です。「安衛法は製造業や建設業の話で、IT・オフィス系の発注者には関係ない」と認識している方は、その前提を一度見直してください。
改正安衛法は、労働者と同じ場所で作業する個人事業者(フリーランス)を新たに保護対象として位置づけました。この「同じ場所で作業する」要件が、実はオフィス常駐型のフリーランスエンジニア・デザイナーを発注している企業にも関わる可能性があります。
改正安衛法の概要と段階的施行スケジュール
改正安衛法は2025年5月14日に公布され、段階的に施行されます(厚生労働省 個人事業者等の安全衛生対策について)。
施行日 | 主な内容 |
|---|---|
2026年4月1日 | 元方事業者の安全衛生措置対象が、自社労働者・関係請負人の労働者に加え、現場で働く個人事業者へ拡大 |
2027年1月1日 | 個人事業者等の業務災害発生時、厚生労働大臣による調査・報告要求の権限 |
2027年4月1日 | 労働者と同じ場所で作業する個人事業者等への、構造規格適合設備の使用義務等の具体的措置 |
加えて、ストレスチェックの全事業場義務化(労働者50人未満の事業場も含む)など、フリーランス活用とは別文脈の改正も並行して進みます。
IT・クリエイティブ系の発注者でも影響を受けるケース
改正安衛法の典型的な想定シーンは建設業の混在現場ですが、IT・クリエイティブ系の発注でも次のようなケースは適用範囲に入る可能性があります。
- 自社オフィスに常駐するフリーランスエンジニアと、自社社員が同じ場所で作業している: 同一の執務スペースで作業している場合、改正安衛法の「労働者と同一の場所で作業する個人事業者」に該当し得ます
- 客先(エンドクライアント)のオフィスに自社社員とフリーランスを共に常駐させている: システム開発の業務委託でよく見られる形態。注文者・元方事業者としての安全衛生措置義務が問われる場合があります
- 撮影スタジオ・イベント会場等で、自社社員とフリーランスクリエイターが同一空間で作業している: 短時間の作業でも「同じ場所」に該当する可能性があります
オフィス内作業は建設現場ほど直接的な労災リスクが高いわけではありませんが、長時間労働対策・メンタルヘルス・受動喫煙対策など、安全衛生措置の対象は広範です。「自社にフリーランスが常駐する形態がある」場合は、人事・労務部門と連携して影響範囲を整理しておくべきです。
ただし、適用範囲の細部は厚生労働省の通達・ガイドラインで今後具体化される見込みのため、最新情報を継続的に確認することをおすすめします。
偽装請負との切り分け
ここで注意したいのが、「安全衛生指示」と「業務指示」の境界線です。発注者が常駐フリーランスに対して安全衛生上の指示(例: 「火災時はこの避難経路を使ってください」)を出すことは安衛法の義務として認められますが、業務の進め方や勤怠について指示すると、業務委託契約の実態が偽装請負と判定されるリスクが高まります。
安衛法対応と偽装請負回避は、運用ルールを明確に分けて整備する必要があります。具体的には、安全衛生指示の範囲を文書化し、業務遂行指示と区別したコミュニケーションフローを設計するのが望ましい対応です。
発注者向け 2026年法改正対応 タイムラインと優先度マップ

ここまで3つの改正を個別に見てきましたが、発注者として最も知りたいのは「結局、いつまでに何をすればよいか」のスケジュール感のはずです。本記事執筆時点(2026年5月)では、すでに取適法とフリーランス新法解釈ガイドラインは運用開始済み、安衛法は4月に施行済みです。期限切れの対応がないかをまず点検した上で、未着手項目を優先度順に進める段階に入っています。
2026年法改正対応タイムライン
フェーズ | 対応事項 | 関連改正 | 優先度 |
|---|---|---|---|
施行済み事項の対応状況確認(2026年5月時点) | 取適法対象判定の再確認/契約書テンプレの取適法対応状況/振込手数料運用の見直し完了状況 | ① 取適法 | 高 |
施行済み事項の対応状況確認(2026年5月時点) | フリーランス新法 解釈ガイドラインに基づく既存契約の運用見直し/支払期日60日ルールの再点検 | ② 解釈ガイドライン改正 | 高 |
施行済み事項の対応状況確認(2026年5月時点) | 改正安衛法の影響範囲調査(自社オフィス常駐/客先常駐のフリーランスの有無確認) | ③ 安衛法 | 中 |
3ヶ月以内(2026年8月まで) | 安全衛生措置の運用ルール策定・周知(混在作業の有無・避難経路・連絡体制等) | ③ 安衛法 | 中 |
6ヶ月以内(2026年11月まで) | 2027年1月・4月の追加施行に向けた対応計画策定(業務災害報告体制・構造規格適合設備の確認) | ③ 安衛法 | 中 |
通年 | フリーランス取引運用の全体監査(契約書・支払・コミュニケーションログの整合性確認) | ①②③ 横断 | 高 |
優先度別 発注者の対応タスク一覧
優先度 高(直ちに着手)
- 取適法の対象判定(資本金基準+従業員数基準)の再実施
- フリーランス新法の支払期日(受領後60日以内)が既存契約で守られているかの点検
- 振込手数料の差し引き運用の全廃確認
優先度 中(数ヶ月以内)
- 安衛法対象となる「混在作業」の有無調査と運用ルール策定
- 契約書テンプレートの最新版整備(取適法・解釈ガイドラインの両対応)
- 業務委託発注の社内承認フロー見直し(口頭発注の禁止・書面化の徹底)
優先度 低(中長期)
- 2027年に追加施行される安衛法項目への対応計画策定
- フリーランス活用全体のガバナンス体制構築(部門横断のレビュー会議体等)
社内チェックリストの形式で対応状況を整理したい場合は、フリーランス新法 企業対応チェックリスト15項目も活用できます。
各法改正の詳細を深掘りするための社内リソース整理
本記事は3つの改正の「全体俯瞰」を目的としているため、個別論点の深掘りは別記事に委ねます。読了後に「次に何を読めばよいか」を以下に整理しました。
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- 著作権・知的財産の契約運用: フリーランス業務委託で著作権・知財を守る契約と運用
公的機関の一次情報
法改正の最新情報は、所管省庁の一次情報を必ず確認してください。法改正は通達・Q&Aで運用解釈が随時更新されるため、二次情報だけでは見落としが発生します。
- 公正取引委員会 フリーランスの取引適正化に向けた取組: https://www.jftc.go.jp/fllaw_limited.html
- 内閣官房 フリーランス・事業者間取引適正化等法 関連ページ: https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/freelance/index.html
- 厚生労働省 個人事業者等の安全衛生対策について: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/anzeneisei03_00004.html
- 政府広報オンライン 取適法施行解説: https://www.gov-online.go.jp/article/202511/entry-9983.html
まとめ:2026年法改正は「同時並行」だからこそ、全体俯瞰から始める
2026年のフリーランス関連法改正は、取適法(1月施行)・フリーランス新法解釈ガイドライン改正(1月運用開始)・労働安全衛生法改正(4月施行)の計3つが同時並行で進行しています。
それぞれを個別の法律として対応すると、契約書・運用ルール・社内体制の整備で重複・矛盾が生まれやすくなります。「フリーランス取引運用の一括見直し」として統合的に進めるほうが、結果的に手戻りが少なく、ガバナンスも強固になります。
本記事執筆時点(2026年5月)では、すでに3つの改正は施行・運用開始の段階に入っています。優先度の高いタスク(取適法対象判定・支払期日点検・振込手数料運用見直し)から着手し、未着手項目があれば早急に対応状況を点検してください。
個別論点を深掘りする際は、本記事の「各法改正の詳細を深掘りするための社内リソース整理」セクションで紹介した社内記事と公的機関の一次情報を活用してください。



