フリーランス保護法(正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が2024年11月1日に施行されました。多くの発注担当者はすでに「60日以内の支払い」「書面による取引条件の明示」といった義務への対応を進めているかと思います。
しかし、発注者に課される義務はそれだけではありません。「ハラスメント防止のための体制整備」と「禁止行為(優越的地位の濫用)の遵守」は、対応が後回しになりやすいテーマでありながら、違反時には企業名の公表や罰金のリスクがある重要な義務です。
「社員向けのハラスメント研修はすでに実施している」「取引の中でフリーランスに無理を言ったことはない」と感じている担当者でも、この記事を読んで改めて自社の対応状況を確認することをお勧めします。知らないうちに義務を果たしていなかったというケースが、施行後の行政指導でも明らかになりつつあります。
フリーランス保護法が発注者に求める2つの重要義務
フリーランス保護法とは
フリーランス保護法は、個人で仕事を請け負うフリーランス(特定受託事業者)と発注者(特定業務委託事業者)の取引を適正化するために制定されました。2023年5月に成立し、2024年11月1日から施行されています。
適用対象は「従業員を雇用している事業者が、フリーランス(従業員を雇用していない個人)に業務を委託する場合」が基本です。発注者が個人事業主であっても、フリーランスへの発注が継続的に行われる場合は一部の義務が適用されます。
法律が定める発注者の義務は、大きく分けると以下の内容があります。
- 取引条件の書面明示(3条書面の交付)
- 60日以内の報酬支払期日設定と期日内支払
- 募集情報の正確表示
- 中途解除の30日前予告
- 育児・介護への配慮
- ハラスメント防止のための体制整備(第14条)
- 禁止行為の遵守(第5条)
本記事が扱う2つの義務
本記事では、対応が見落とされがちな2つの義務を取り上げます。
ハラスメント防止のための体制整備(第14条)は、発注者の従業員等がフリーランスに対してハラスメントを行わないよう、体制を整備する義務です。社員向けのハラスメント対策とは別に、フリーランスに対しても対応が必要です。
禁止行為の遵守(第5条)は、1か月以上継続してフリーランスに業務を委託する場合に、「受領拒否」「報酬の減額」「買いたたき」など7類型の行為を禁止するものです。慣習的に行ってきた取引上の行動が該当する場合があります。
ハラスメント防止のための体制整備義務(第14条)
対象となるハラスメントの3類型
フリーランス保護法第14条が防止を求めるハラスメントは、以下の3類型です。
セクシュアルハラスメント(セクハラ)
発注者の従業員等がフリーランスに対して行う、性的な言動によって就業環境を害する行為です。「身体的な特徴についての発言」「性的な冗談や質問」「不必要な身体的接触」などが該当します。相手がフリーランスであっても、発注者の従業員が行えば発注者が義務違反を問われます。
パワーハラスメント(パワハラ)
業務委託上の優越的な関係を背景とした言動で、業務の遂行に必要かつ相当な範囲を超え、フリーランスの就業環境を害するものです。「過大な業務量の一方的な押し付け」「達成不可能な要求」「人格を否定するような発言」「業務上関係のない場での強制的な飲み会への誘い」などが具体例として挙げられます。
マタニティハラスメント(マタハラ)
フリーランスの妊娠・出産・育児に関する言動で、就業環境を害するものです。「妊娠を理由とした契約打ち切りの示唆」「育児配慮の申し出への否定的な反応」などが該当します。
社員向けハラスメント対策では不十分な理由
「うちはハラスメント対策をしている」という発注担当者がよく見落とすのが、既存の労働関連法(労働施策総合推進法等)によるハラスメント対策はフリーランスを対象としていないという点です。
労働施策総合推進法(パワハラ防止法)は「労働者」を対象としており、雇用関係のないフリーランスには適用されません。フリーランス保護法は、この空白を埋めるために、発注者にフリーランスへのハラスメント防止体制整備を別途義務づけたものです。
つまり、社員向けのハラスメント防止措置がどれほど整っていても、フリーランスへの対応は別途整備が必要です。
発注者が講じるべき具体的措置
第14条に基づき、発注者が講じなければならない措置は以下の4点です。
① 方針の明確化と周知・啓発
フリーランスへのハラスメントを許さない旨の方針を明確にし、従業員に周知・啓発する必要があります。具体的には、就業規則や社内ガイドラインへの記載、社内研修での周知、社内報での告知などが該当します。「フリーランスへのハラスメントも許さない」という方針が明示されていることが重要です。
② 相談体制の整備
フリーランスがハラスメントを受けた際に相談できる体制を整備する必要があります。社内に相談窓口を設置するか、外部の相談機関に委託する方法が認められています。相談窓口の連絡先はフリーランスに伝える必要があります(契約書や発注書への記載、口頭での案内など)。
③ 事後の迅速・適切な対応
ハラスメントの申し出があった場合、迅速に事実関係を把握し、被害者への配慮措置と行為者への指導・処分を行う必要があります。対応が遅れたり、申し出を放置したりすることは義務違反となります。
④ 不利益取扱いの禁止
フリーランスがハラスメントを相談・申告したことを理由として、契約の打ち切り・報酬の減額・発注量の削減などの不利益取扱いをすることは禁止されています。「相談したことで契約が打ち切られた」という事態を防ぐことが求められています。
禁止行為(優越的地位の濫用規制)7類型の整理
7類型一覧と各類型の概要
フリーランス保護法第5条は、1か月以上継続してフリーランスに業務を委託する場合に、以下の7類型の行為を禁止しています。
# | 禁止行為 | 内容 |
|---|---|---|
① | 受領拒否 | フリーランスの責めに帰すべき事由なく、成果物の受領を拒否すること |
② | 報酬の減額 | フリーランスの責めに帰すべき事由なく、合意した報酬を減額すること |
③ | 返品 | フリーランスの責めに帰すべき事由なく、受領済みの成果物を返品すること |
④ | 買いたたき | 通常の相場と比べて著しく低い報酬を不当に定めること |
⑤ | 購入・利用強制 | 正当な理由なく、自社指定の物品購入やサービス利用を強制すること |
⑥ | 不当な経済上の利益の提供要請 | 金銭・役務など経済的な利益を不当に提供させること |
⑦ | 不当な給付内容の変更・やり直し | フリーランスの責めに帰すべき事由なく、成果物の内容を変更させたり、やり直しをさせたりすること |
特に注意すべき行為と実務での「やりがち事例」
7類型の中でも、発注担当者が「慣習的に行ってきた行動」として気づきにくいのが以下の行為です。
報酬の減額(②)
発注後に「予算が厳しくなった」「思ったより作業が少なかった」などの理由で、合意した報酬を下げるよう求めることは禁止行為に該当します。なお、2026年1月1日以降は振込手数料をフリーランスに負担させることも「報酬の減額」にあたるとされており、注意が必要です。
不当な給付内容の変更・やり直し(⑦)
発注後に仕様を大幅に変更する、フリーランスの責任ではない理由でやり直しを強制する、といった行為が該当します。「クライアント側の都合で方向が変わった」という理由でも、フリーランスの責めに帰すべき事由がない場合は違反です。
買いたたき(④)
複数のフリーランスに見積もりを取り、相場よりも著しく低い金額で「これ以下でないと発注しない」と交渉することが該当しえます。適正な競争は問題ありませんが、「著しく低い報酬を不当に定める」行為が規制されています。
不当な経済上の利益の提供要請(⑥)
「取引量を保証するから値引きして」「次の仕事をあげるから今回は安くして」といった形で、取引の継続を担保に経済的な利益を求める行為が該当しえます。
対象となる取引の範囲
禁止行為の適用対象は、1か月以上の期間、継続して業務を委託する場合です。単発の発注(1回限りで終了する依頼)には原則として適用されませんが、実態として継続取引となっている場合は1か月未満であっても適用されるケースがあります。
「単発か継続か」の判断が曖昧な場合は、安全側に倒して7類型を意識した対応をとることをお勧めします。
なお、2025年3月28日、公正取引委員会はゲーム会社など45の事業者に対し、フリーランス保護法に基づく是正指導を初めて行いました。施行から間もなく行政指導が実施されていることからも、対応を急ぐ必要があります。
発注者の実務チェックリスト
ハラスメント体制整備のチェックリスト
以下の項目を確認し、未対応のものに取り組んでください。
方針の策定と周知
- フリーランスへのハラスメントを禁止する旨の方針を文書化している
- 上記方針を社内の従業員に周知している(就業規則への記載、研修での告知等)
- フリーランスとの接点がある部署の担当者に対し、ハラスメント防止の周知・啓発をしている
相談体制の整備
- フリーランスがハラスメントを相談できる窓口(社内担当者または外部委託先)を設置している
- 相談窓口の存在とその連絡先をフリーランスに伝えている(契約書・発注書への記載、口頭案内等)
事後対応の準備
- ハラスメントの申し出があった場合の対応手順(事実確認→被害者への配慮→行為者への処分)を定めている
- 相談・申告を理由としてフリーランスへの不利益取扱い(契約打ち切り等)を行わない旨を徹底している
禁止行為(取引慣行)のチェックリスト
以下の行為が自社の取引慣行の中にないか確認してください。
報酬・費用関連
- 合意後に、フリーランスの責任ではない理由で報酬を減額していない
- 振込手数料をフリーランスに負担させていない(2026年1月以降は「報酬の減額」に該当)
- 相場に比べて著しく低い報酬を設定していない(取引量の確保等を条件にした値引き要求を含む)
- 取引の継続を条件に、金銭・役務等の経済的な利益を要求していない
成果物・仕様変更関連
- フリーランスの責任ではない理由で、成果物の受領を拒否していない
- 発注後に一方的に仕様を変更したり、フリーランスの責任ではない理由でやり直しを強制したりしていない
- 受領済みの成果物をフリーランスの責任ではない理由で返品していない
その他
- 自社指定の物品購入やサービス利用を正当な理由なく強制していない
未対応項目がある場合の対応優先順位
未対応の項目が複数ある場合は、以下の優先順位で対応を進めてください。
優先度1: 相談窓口の設置と方針の策定
フリーランスへのハラスメント防止で最初に着手すべき対応です。外部の相談機関(産業カウンセラー等)への委託から始めることも可能です。方針はA4一枚程度の文書でも構いませんので、まず文書化・周知を行いましょう。
優先度2: 禁止行為の社内周知
発注を担当する部署に対し、フリーランス保護法の禁止行為7類型を周知してください。特に「やり直し」「報酬の減額」「買いたたき」は無自覚に行われやすい行為です。
優先度3: 契約書・発注書の確認
既存の業務委託契約書に相談窓口の連絡先を記載しているか確認し、必要に応じて更新してください。新規の発注書には相談窓口情報を記載するフォーマットを用意しましょう。
違反した場合のリスクと相談窓口
違反時の行政対応の流れ
フリーランス保護法の違反に対する行政対応は、以下の流れで進みます。
ハラスメント体制整備義務違反(第14条違反)
厚生労働大臣による助言・指導→勧告(従わない場合)→企業名の公表。企業名公表は採用活動・取引先との関係に直接影響するレピュテーションリスクです。
禁止行為違反(第5条違反)
公正取引委員会または中小企業庁長官による助言・指導→勧告→命令(従わない場合)→企業名の公表・50万円以下の罰金(命令違反または検査拒否)。
違反行為が発覚した場合でも、自主的に是正すれば命令や公表にまで至らないケースが多いとされています。しかし、指摘を受けてから対応しても取引先のフリーランスや社内外の信頼が損なわれるリスクは避けられません。早期の自主点検と対応が重要です。
発注者向け相談窓口・公式情報
公正取引委員会 フリーランス法特設サイト
禁止行為・取引適正化に関する情報が整備されています。フリーランスからの申告窓口も設置されており、申告内容によっては調査が入る場合があります。 https://www.jftc.go.jp/freelancelaw_2025/
厚生労働省「あかるい職場応援団」フリーランスのハラスメント対策ページ
ハラスメント防止措置の具体的な手順、相談窓口の設置方法、規程例などが掲載されています。実務対応の参考として活用できます。 https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/freelance/
フリーランス・トラブル110番(厚生労働省委託)
フリーランスが相談できる窓口ですが、発注者側として自社の対応が適切かどうか相談することもできます。電話・メールで対応しています。
J-Net21(中小企業基盤整備機構)
フリーランス保護法に関する法律コラムが公開されており、各義務の詳細を確認できます。 https://j-net21.smrj.go.jp/law/20241030.html
まとめ — 「フリーランスが安心して働ける取引先」への対応
フリーランス保護法が発注者に課すハラスメント防止義務と禁止行為規制は、「気づいたときに対応すればよい」という性格のものではありません。施行済みの義務であり、2025年3月にはすでに45事業者への行政指導が行われています。
この記事で取り上げた内容を振り返ります。
- ハラスメント体制整備は、社員向けの対策とは別に、フリーランスへの方針策定・周知・相談窓口・事後対応体制の整備が必要です
- 禁止行為7類型は、慣習的な取引行動が該当しうる場合があり、「報酬の減額」「やり直し強制」「買いたたき」は特に注意が必要です
- 違反時は企業名の公表・罰金のリスクがあり、取引先や採用市場での信頼に直接影響します
フリーランスとの継続的な取引を行う企業にとって、法令対応は「コスト」ではなく「信頼の基盤」です。外部人材を安心して活用し続けるために、本記事のチェックリストを使って自社の対応状況を今一度確認してみてください。
フリーランスとの取引管理をよりスムーズに進めたい方は、Workeeの活用もぜひご検討ください。フリーランスへの業務委託における契約・取引の管理をサポートしています。



