「フリーランス新法、うちの会社は対応できているのか?」——上司や取引先からこう問われて、即答できない発注担当者の方は少なくないはずです。2024年11月1日に施行された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(通称: フリーランス新法)は、フリーランスへ業務を発注するすべての企業に対し、契約条件の書面化・60日以内の報酬支払・ハラスメント相談体制の整備など、多岐にわたる義務を課しています。
難しいのは、これらの義務が法律条文の順番ではなく、自社の「契約締結→発注→検収→支払い→関係終了」という業務工程の各段階に散らばっている点です。法律解説記事を読んでも、「自社のどの業務をどう直せばよいか」までは結びつきにくく、点検が後回しになっているケースが多く見られます。さらに、2025年10月には公正取引委員会・厚生労働省により解釈ガイドラインが改正され、2026年1月1日から運用が見直されます(公正取引委員会 フリーランス法特設サイト)。執行体制の強化も進んでおり、対応の先送りはリスクを大きくするだけです。
そして違反の代償は決して軽くありません。命令違反や報告拒否には50万円以下の罰金、ハラスメント体制整備の報告違反には20万円以下の過料が定められ、両罰規定によって行為者個人と法人の双方が処罰対象になります。さらに行政手続きの過程で企業名が公表されると、採用や取引にレピュテーションの影響が及びます。
本記事では、フリーランス新法で発注企業に課された義務を「業務工程の時系列」に沿って整理し、自社のどこに不備があるかを即座に点検できるYES/NO形式のチェックリストを提示します。あわせて、2026年1月改正に向けた中長期の対応方針、そして自社単独で全てを整備する以外の選択肢(マッチングプラットフォームの活用)まで含めて解説します。読み終わる頃には、明日から着手すべき具体的なアクションが3つに絞り込めている状態を目指してください。
フリーランス新法とは|発注企業に関係する3つの要点
まず、法律の全体像を3分で掴めるように整理します。詳細な義務リストは次の章で業務工程ごとに分解して解説しますので、ここでは「自社に関係するかどうか」だけを判断できれば十分です。
法律の目的と施行日
フリーランス新法の正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」で、2023年5月に公布され、2024年11月1日に施行されました(内閣官房 フリーランス・事業者間取引適正化等法)。
この法律は、大きく2つの軸で構成されています。
- 取引適正化: 契約条件の書面化、報酬の支払期日設定、買いたたきや受領拒否の禁止など、発注事業者とフリーランスの間の取引ルールを定める
- 就業環境整備: 募集情報の的確表示、ハラスメント対策、育児介護への配慮、中途解除時の事前予告など、フリーランスが安心して働ける環境を整えるための義務を定める
取引適正化の部分は公正取引委員会・中小企業庁が、就業環境整備の部分は厚生労働省が所管します。複数省庁が連携して執行する点が大きな特徴です。
自社が「発注事業者」に該当するかの判定
下請法と異なり、フリーランス新法は資本金や業種による適用除外がありません。フリーランスに業務委託を行うすべての事業者が対象になり得ます。
ただし、発注側の事業者を以下のように区分し、課される義務の範囲が変わります(政府広報オンライン)。
- 業務委託事業者: 従業員を雇用しておらず、自身もフリーランスである個人事業主や一人法人。最低限、取引条件の明示(第3条)の義務を負う
- 特定業務委託事業者: 従業員を雇用している事業者(法人格・資本金不問)。第3条に加え、報酬支払期日(第4条)・禁止行為(第5条)・募集情報の的確表示(第12条)・育児介護配慮(第13条)・ハラスメント対策(第14条)・中途解除予告(第16条)など、ほぼすべての義務を負う
中堅〜中小企業の発注担当者の多くは「特定業務委託事業者」に該当します。本記事は主に特定業務委託事業者の対応を前提に解説します。
取引相手のフリーランスが「特定受託事業者」に該当するかの判定
法律が保護対象とする「特定受託事業者」は、業務委託を受ける側のうち、従業員を使用していない個人事業主または一人法人(代表者1人のみで従業員を雇用していない法人)を指します。
逆に言えば、従業員を雇用している法人や個人事業主への発注は、フリーランス新法の対象外です。下請法など他の法律が適用される場合があります。
判定にあたって特に注意したいのが「短期の臨時的な労働力の使用」が従業員雇用にカウントされない点と、「代表者1人だけの法人」も保護対象に含まれる点です。「法人だから新法対象外」と早合点せず、相手方の従業員数を確認することが重要です。
発注企業に課される義務|業務工程に沿って整理

ここからが本記事の中心部分です。フリーランス新法の各義務を、発注業務の時系列フロー(契約締結→発注→検収→支払い→関係終了)に沿って整理します。法律条文の番号順ではなく、自社の業務動線に沿って読むことで、「どの工程を直せばよいか」が明確になります。
フリーランス保護法(フリーランス新法)の義務概要については「フリーランス保護法で発注企業が守るべき義務7つと2026年の対応手順」もあわせてご参照ください。
【契約締結時】取引条件の明示(第3条)
業務委託の契約を締結する際、発注事業者は以下の事項を書面または電磁的方法でフリーランスに明示する必要があります(厚生労働省 フリーランス特設)。
- 業務委託をする発注事業者と特定受託事業者の名称
- 業務委託をした日
- 給付の内容(業務の内容)
- 給付を受領する期日(納期)
- 給付を受領する場所
- 検査を行う場合は検査完了期日
- 報酬の額
- 報酬の支払期日
- 現金以外の方法で報酬を支払う場合の支払方法に関する事項
メール・チャット・電子契約サービス等で送付・記録すれば書面でなくても問題ありません。ただし「明示した」と後から証明できる形である必要があります。口頭発注のみで済ませている企業は、最優先で対応すべき項目です。
なお、特定受託事業者から書面の交付を求められた場合は、電磁的方法による明示であっても書面交付が必要になります。
発注書の書面交付義務と必須記載事項の詳細については「フリーランス保護法の書面交付義務とは?発注書ひな形・記載例で実務対応」で確認できます。
【発注時】募集情報の的確表示(第12条)
求人サイト・自社採用ページ・SNS・マッチングプラットフォームなどでフリーランスを募集する際、発注事業者は虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしてはならず、内容を正確かつ最新に保つ義務を負います(公正取引委員会 Q&A)。
特に以下の項目は、不正確だと第12条違反になりやすい点です。
- 募集を行う者の氏名・名称、住所(所在地)、連絡先
- 業務の内容
- 業務に従事する場所
- 報酬(金額・支払方法)
「実態と異なる報酬条件で募集している」「すでに募集を締め切ったのに掲載を放置している」といった状態は要注意です。掲載済みの募集情報を定期的に棚卸しする運用が必要になります。
【検収時】受領拒否・返品の禁止(第5条)
1ヶ月以上の業務委託の場合、フリーランスの責めに帰すべき事由がないのに納品物の受領を拒否したり、返品したりすることは禁止されています(第5条)。
検収プロセスで起こりがちなのは、「発注内容が曖昧だったため受領段階で『これは違う』と差し戻す」ケースです。これはフリーランス側の責めではなく、発注時の仕様明確化が不十分だった発注事業者側の責任とされる可能性が高くなります。
第3条の取引条件明示と連動して、検収基準を発注時にどこまで具体化しておくかが実務上のポイントになります。
【支払い時】60日以内の報酬支払期日設定と遵守(第4条)
発注事業者は、納品物を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で報酬支払期日を定め、その期日内に支払う義務を負います(公正取引委員会 Q&A)。
ポイントは以下のとおりです。
- 「60日」は上限であり、原則は「できる限り短く」設定することが求められる
- 支払期日を定めなかった場合、受領日が支払期日とみなされる
- 受領日から60日を超える期日を契約で定めても、その契約は無効となり、受領日から60日目が支払期日として扱われる
- 元委託から再委託する場合は、元委託の支払期日から30日以内のできる限り短い期間で再委託先への支払期日を定めることができる(30日ルール)
「月末締め翌々月末払い」という慣行のままだと、月初に受領した案件は60日を超える可能性があります。締め支払いサイクルの見直しは早期に着手すべき項目です。
あわせて第5条では、買いたたき・報酬減額・著しく低い報酬の押し付け・購入や利用の強制・不当な経済上の利益の提供要請・不当な給付内容変更ややり直しが禁止されています(1ヶ月以上の業務委託が対象)。
60日支払いルールの詳細については「フリーランス保護法 60日支払いルール|自社の支払いサイクルは適合?」で解説しています。
【関係終了時】継続業務委託の中途解除30日前予告と理由開示(第16条)
6ヶ月以上の継続的業務委託に係る契約を中途解除する、または契約期間満了で更新しない場合、発注事業者は解除日(不更新の場合は契約満了日)の少なくとも30日前までに、その旨を予告する義務を負います(厚生労働省 フリーランス特設)。
加えて、予告日から契約満了日までの間に特定受託事業者から解除理由の開示を請求された場合は、遅滞なく理由を開示しなければなりません。
ただし、災害その他やむを得ない事由がある場合、特定受託事業者の責めに帰すべき重大な事由がある場合、元請契約の解除等で業務の大部分が不要となった場合など、限定的なケースでは即時解除が認められます。
「成果が出ないから即終了」という運用は、6ヶ月以上の継続契約では認められないと考えるのが安全です。
【継続的に守るべき配慮】ハラスメント防止体制(第14条)と育児介護配慮(第13条)
業務工程のどの段階というよりも、発注事業者が継続的に整備しておく必要がある義務として、以下の2つがあります。
ハラスメント対策に係る体制整備(第14条)
特定業務委託事業者は、業務委託の過程でセクシュアルハラスメント・妊娠出産等に関するハラスメント・パワーハラスメントが発生しないよう、フリーランスからの相談に応じる体制を整備し、必要な措置を講じる義務を負います。
社内向けハラスメント相談窓口を、業務委託先のフリーランスにも利用できる体制に拡張するイメージです。窓口の連絡先・利用方法をフリーランスに周知する運用も求められます。
ハラスメント対策・禁止行為の詳細については「フリーランス保護法 ハラスメント規制と禁止行為|発注者の実務対応チェックリスト」をご参照ください。
育児介護等への配慮(第13条)
6ヶ月以上の継続的業務委託について、フリーランスが妊娠・出産・育児・介護と両立しながら業務に従事できるよう、フリーランスからの申出に応じて必要な配慮をする義務を負います(労働政策研究・研修機構)。
具体例として、稼働時間帯の柔軟化、業務量の調整、納期の延長、オンライン会議への切り替えなどが挙げられます。なお6ヶ月未満の業務委託では、第13条は努力義務として課されます。
違反すると何が起きる?|罰則と企業名公表のリスク
法律の存在は知っていても、「違反するとどうなるか」を具体的にイメージできている発注担当者は意外と少ないものです。ここでは行政手続きの流れと罰則の中身を整理し、対応の優先度を判断する材料を提供します。
行政手続きの流れ
公正取引委員会・中小企業庁長官・厚生労働大臣は、違反事業者に対して以下のステップで対応します(公正取引委員会 フリーランス法特設サイト)。
- 報告徴収・立入検査: 違反の有無を調査する
- 助言・指導: 軽微な違反については行政指導で是正を促す
- 勧告: より重い違反について是正を勧告する
- 命令: 勧告に従わない場合に命令を発する
- 公表: 勧告・命令の事実を公表する
施行から約11ヶ月(2024年11月〜2025年9月)の実績では、勧告・指導が合計445件(勧告4件、指導441件)に達しており、執行は着実に進んでいます(公正取引委員会 事務総長定例会見記録 2025年11月5日)。
罰則の具体的内容
行政処分に応じない場合や報告義務違反に対して、以下の罰則が定められています。
- 50万円以下の罰金: 命令違反、報告徴収への報告拒否・虚偽報告、立入検査の拒否・妨害・忌避
- 20万円以下の過料: ハラスメント対策に係る報告義務違反
加えて両罰規定により、違反行為を行った行為者個人だけでなく、その所属する法人も罰金の対象となります。
罰金額そのものは大きくありませんが、注目すべきは「企業名公表」というレピュテーションリスクです。勧告・命令の事実が公表されると、採用市場・取引先・既存顧客に対する信用にダメージが及びます。中堅〜中小企業にとっては、罰金額以上に重い影響となり得ます。
違反が発覚するきっかけ
違反が表に出るルートは主に2つです。
- フリーランスからの申告: 公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省それぞれに相談窓口が設置されており、相談件数は2024年に5,018件、2025年は9月までに2,050件と推移しています(公正取引委員会 フリーランス法特設サイト)
- 行政の職権調査: 公正取引委員会・中小企業庁等が独自に調査を行うケース
申告のしきい値はそれほど高くありません。「契約書がもらえなかった」「報酬の振込が遅れた」「不当な値引きを求められた」といった、フリーランス側にとって日常的に起こり得る不満が申告の引き金になります。
今すぐ自社を点検するチェックリスト

ここまでの内容を踏まえ、自社の発注フローを点検できるYES/NO形式のチェックリストを示します。NOが多い項目から優先的に対応してください。各項目に優先度(高/中/低)と対応の方向性を添えています。スマートフォンのスクリーンショットで保存し、社内ミーティングで共有することを想定した粒度にしています。
契約書・発注書のチェック(5項目)
# | 質問 | 優先度 | 対応の方向性 |
|---|---|---|---|
1 | 業務委託のたびに、業務内容・納期・報酬額・支払期日を含む書面または電磁的記録を相手に送付しているか | 高 | NOの場合: 第3条違反のリスクが大。発注書ひな型を整備し、口頭発注を禁止する社内ルールを策定する |
2 | 発注書のひな型はフリーランス新法第3条の必須記載事項(9項目)を網羅しているか | 高 | NOの場合: ひな型を改訂し、漏れている項目を追加する |
3 | 検収基準(合格・不合格の判定基準)を発注時に明示しているか | 中 | NOの場合: 第5条の受領拒否禁止に抵触するリスクあり。発注書に検収基準欄を追加する |
4 | 電子メール・チャット等で発注した記録を、後から検索できる形で保管しているか | 中 | NOの場合: 違反時に「明示した」と立証できない。電子契約サービスや共有ドライブでの一元管理を検討する |
5 | フリーランスから書面交付を求められた場合の対応フローが社内で決まっているか | 低 | NOの場合: 求められた際の対応担当・期限を社内マニュアルに明記する |
支払いプロセスのチェック(3項目)
# | 質問 | 優先度 | 対応の方向性 |
|---|---|---|---|
6 | 報酬の支払期日が、納品物受領日から60日以内に設定されているか | 高 | NOの場合: 第4条違反。締め支払いサイクル(月末締め○○日払い)を見直し、最悪のケースでも60日以内に収まる設計に変更する |
7 | 「成果物に不満があった」という発注側の事情で報酬減額を行っていないか | 高 | NOの場合: 第5条の報酬減額禁止に該当。減額には必ずフリーランス側の責めに帰すべき事由が必要 |
8 | 元委託から再委託する場合、元委託の支払期日から30日以内のできる限り短い期間で支払期日を設定しているか | 中 | NOの場合: 再委託のケースがあるかを棚卸しし、該当する場合は30日ルールを契約書に反映する |
募集・採用プロセスのチェック(3項目)
# | 質問 | 優先度 | 対応の方向性 |
|---|---|---|---|
9 | フリーランス募集情報(求人サイト・自社採用ページ・SNS等)の業務内容・報酬・募集者情報は実態と一致しているか | 中 | NOの場合: 第12条違反。掲載中の募集情報を棚卸し、実態と一致しない部分を修正する |
10 | すでに募集を締め切った情報を放置していないか | 中 | NOの場合: 「正確かつ最新に保つ」義務違反。月次で募集情報を棚卸しする運用を設ける |
11 | マッチングプラットフォーム経由の募集も含めて、自社が出している募集情報を一覧で把握できているか | 低 | NOの場合: 情報の棚卸し対象が把握できていない状態。営業・人事・各事業部の発信を一元管理する |
ハラスメント・配慮義務のチェック(4項目)
# | 質問 | 優先度 | 対応の方向性 |
|---|---|---|---|
12 | フリーランスが利用できるハラスメント相談窓口を整備し、フリーランスに周知しているか | 高 | NOの場合: 第14条違反。既存の社員向け窓口を業務委託先にも開放し、契約書・発注書に窓口情報を記載する |
13 | ハラスメント防止に関する社内研修・啓発を行っているか | 中 | NOの場合: 体制整備の一環として研修プログラムに組み込む |
14 | 6ヶ月以上の継続契約フリーランスから育児介護等の配慮申出があった場合の対応フローが決まっているか | 中 | NOの場合: 第13条への対応として、申出受付窓口・対応決裁者・想定される配慮内容(稼働時間調整等)を社内ガイドラインに記載する |
15 | 6ヶ月以上の継続契約を中途解除する際の事前予告(30日前)・理由開示の社内フローが決まっているか | 高 | NOの場合: 第16条違反のリスク大。解除決裁プロセスに「30日前予告チェック」「理由開示準備」を組み込む |
NOが3項目以上ある場合は、自社単独での整備に時間がかかることが予想されます。次の章以降の中長期対応や、自社対応以外の選択肢も併せて検討してください。
長期契約(6ヶ月超)で追加対応が必要なこと
同じフリーランスに継続的に発注している中堅企業は多いものの、「6ヶ月以上」の継続契約に該当した瞬間に追加で発生する義務を見落としているケースは少なくありません。スポット契約と継続契約で対応が変わることを明確に押さえておきましょう。
「継続的業務委託」の定義
フリーランス新法における「継続的業務委託」は、6ヶ月以上の期間にわたって行う業務委託を指します。1回の契約が6ヶ月以上のケースだけでなく、契約更新により通算で6ヶ月以上継続するものも含まれます(厚生労働省 フリーランス特設)。
「3ヶ月契約を2回更新したから、合算で6ヶ月以上の継続的業務委託に該当する」というケースが現場では頻発します。契約管理台帳で、同一フリーランスへの累計委託期間を可視化する運用が重要になります。
中途解除時の30日前予告と理由開示の実務手順
6ヶ月以上の継続契約を中途解除する場合、または契約期間満了で更新しない場合は、解除日(不更新の場合は契約満了日)の少なくとも30日前までに、その旨を予告する必要があります(第16条)。
実務上の流れは以下のとおりです。
- 解除方針の社内決裁を、解除予定日の30日以上前に完了する: 通常の解除決裁プロセスより早期に着手する必要がある
- 書面・メール等の形で予告通知をフリーランスに送付する: 「いつ解除するか」を明確に記載する
- 解除理由の開示請求があった場合に備える: 「契約に合致しなかった」では不十分。具体的な事実関係を整理しておく
- やむを得ない事由による即時解除が必要な場合は例外規定を確認する: 災害・特定受託事業者の重大な責め・元請契約の解除等に限られる
「成果が思わしくないから来月で終了」という運用は、6ヶ月以上の継続契約では原則認められません。解除を検討する時点から30日以上のリードタイムを確保することを習慣化してください。
育児介護等への配慮義務(第13条)の対応例
6ヶ月以上の継続的業務委託では、フリーランスからの申出に応じて、育児・介護・妊娠出産との両立に必要な配慮を行う義務があります(牛島総合法律事務所)。
具体的な配慮例として以下が挙げられます。
- 稼働時間帯の柔軟化: 通常業務時間外の柔軟な稼働を認める
- 業務量の調整: 一時的に発注量を減らす
- 納期の延長: 育児・介護の事情を踏まえた納期再設定
- コミュニケーション方法の調整: 対面ミーティングをオンラインに切り替える
- 業務内容の見直し: 物理的な現場業務を在宅可能な業務に振り替える
なお、6ヶ月未満の業務委託では第13条は努力義務として課されます。「6ヶ月未満だから対応しなくてよい」のではなく、「可能な範囲で配慮する」姿勢が求められる点は押さえておきましょう。
2026年1月改正に向けた中長期の対応

フリーランス新法は2024年11月施行で終わりではなく、運用面の見直しが継続的に進んでいます。2025年10月には公正取引委員会・厚生労働省により解釈ガイドライン「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」が改正され、2026年1月1日から運用が変わります(公正取引委員会 フリーランス法特設サイト)。
公取委が示している執行強化の方向性
2026年1月改正の主なポイントは以下のとおりです。
- 面的執行の強化: 公正取引委員会・中小企業庁に加えて、事業所管省庁の主務大臣にも指導・助言の権限が付与され、複数省庁が連携して違反行為に対応する体制になる
- 下請法(取適法)との優先関係の整理: フリーランス新法と取適法(2026年1月1日施行の改正下請法)が競合する場合、原則としてフリーランス新法が優先適用される(政府広報オンライン)
- 解釈ガイドラインの精緻化: 個別事例への適用判断がより明確化される
執行体制の強化は、違反企業の摘発スピードが速くなることを意味します。「これまで指摘されていないから大丈夫」という認識は、2026年以降は通用しなくなる可能性が高いと考えるのが安全です。
今やる最低限 vs 2026年までに整える体制
対応の優先順位を整理すると、以下の2段階で考えるのが現実的です。
今やる最低限(チェックリスト対応の徹底)
- 発注書ひな型の改訂と運用徹底
- 60日以内の支払期日への切替
- ハラスメント相談窓口のフリーランスへの開放と周知
- 募集情報の棚卸しと更新
2026年までに整える体制
- 契約管理システムによる継続契約期間の自動把握
- フリーランス向けハラスメント研修・啓発の制度化
- 育児介護配慮の対応ガイドライン整備
- 中途解除決裁プロセスへの30日予告チェック組み込み
- 全社向けフリーランス新法研修の定期実施(少なくとも年1回)
最低限の対応で違反を回避しつつ、2026年改正以降の執行強化に備えて体制を中長期で整備していく——この二段構えで取り組むことが、中堅〜中小企業にとっては現実解になります。
自社で全て整備する以外の選択肢
ここまで解説してきた対応を、自社単独で全て整備しようとすると、相応のリソース投下が必要になります。中堅〜中小企業の発注担当者にとっては、すべてを内製化するのが現実的でないケースも多いでしょう。
自社で整備する場合に必要なリソース
主な対応項目と、必要なリソースの目安を整理します。
- 法務確認・契約書ひな型改訂: 顧問弁護士による条文レビュー、改訂版ひな型の作成、社内承認プロセス
- 発注書テンプレート整備: 業務委託の類型ごとに発注書テンプレートを整備し、運用ルールを社内周知
- 支払いシステム改修: 締め支払いサイクルを60日以内に収める運用への切替、会計システムの設定変更
- ハラスメント相談窓口の拡張: 既存の社員向け窓口を業務委託先にも対応できる体制に拡張、外部委託先との契約見直し
- 募集情報管理: 全部署が出している募集情報を一元管理する仕組み、棚卸し運用の定期化
- 社内教育: 発注担当者向けフリーランス新法研修、定期的な啓発活動
これらをゼロから整備すると、社内法務・人事・経理・各事業部を巻き込んだ数ヶ月単位のプロジェクトになります。
マッチングプラットフォーム活用で標準化できる範囲
近年、フリーランス活用を前提に設計されたマッチング・契約管理プラットフォームが整備されてきており、これらを活用することで新法対応の多くを標準化できます。
プラットフォームで標準化されやすい対応範囲は以下のとおりです。
- 取引条件の明示: プラットフォーム上で電子契約・電子発注書が完結し、第3条の記載事項が漏れなく含まれる
- 報酬支払期日の管理: プラットフォーム側で60日以内の支払サイクルが標準設定されているケースが多い
- 募集情報の管理: プラットフォーム上で募集情報が一元管理され、更新・締切処理が自動化される
- 取引記録の保管: 後から「明示した」と立証できる電子記録が標準で残る
一方、以下の対応は自社でしか対応できないため、プラットフォームを使う場合も並行して整備する必要があります。
- ハラスメント相談窓口の整備と周知: 自社の社内体制として整備する必要がある
- 社内教育・啓発: 発注担当者の理解と運用徹底は自社の責任
- 育児介護配慮の個別対応: 個別フリーランスとの関係性に基づく対応であり、自社判断が必要
- 中途解除の判断と理由整理: 解除の意思決定そのものは自社で行う
「プラットフォーム経由の発注 + 自社のハラスメント窓口・教育体制」を組み合わせるのが、中堅〜中小企業にとって最も負担の少ない構成です。
まとめ|まずやるべき3つのアクション
ここまでフリーランス新法の発注企業対応について、業務工程の時系列に沿って解説してきました。最後に、明日からの動きを3つのアクションに絞ってまとめます。
- 今日中に着手: チェックリストで自社の現状を点検する — 本記事の「今すぐ自社を点検するチェックリスト」(15項目)を使って、自社の発注フローのどこに不備があるかを把握してください。NOがついた項目を優先度(高・中・低)で並び替え、対応すべき項目を可視化します
- 今週中に着手: 優先度「高」の項目から対応に取り掛かる — 特に「発注書ひな型の改訂」「60日以内の支払期日への切替」「ハラスメント相談窓口のフリーランスへの開放と周知」「中途解除フローへの30日予告チェック組み込み」は優先度が高い項目です。社内の関係部署(法務・経理・人事・各事業部)と連携して、着手日と完了目標日を決めてください
- 今月中に着手: 中長期の体制整備計画を策定する — 2026年1月の改正と執行強化に向けて、契約管理システムの整備、定期研修の制度化、配慮義務の対応ガイドライン作成などを計画します。自社単独での整備が難しい場合は、マッチング・契約管理プラットフォームの活用も選択肢に入れて検討してください
フリーランス新法への対応は、一度きりの整備で完結するものではありません。執行体制が強化されていく中で、継続的なコンプライアンス体制を社内に根付かせることが、結果として中長期のリスク低減と、フリーランス人材から選ばれる発注企業としての信頼獲得につながります。
業務委託契約書の改訂や発注フローを体系的に整備したい場合は、「フリーランス新法対応 業務委託発注の法律・契約リスク点検ガイド」をご活用ください。フリーランス新法の7つの義務対応から契約書の必須記載事項・偽装請負リスク・知的財産権の確保まで、発注担当者が実務で使えるチェックリスト付きでまとめています。


