業務委託でフリーランスエンジニアを活用している企業担当者の皆さまにとって、「偽装請負」は決して他人事ではありません。「偽装請負って何となく分かるけど、うちの現場のコミュニケーションが実際に問題なのかどうか判断できない」という声をよく聞きます。
法律の概念をつかんでいても、日常業務の中で「このSlackのメッセージは大丈夫か?」「朝会で進捗を確認するのはNGなのか?」という具体的な判断に迷う場面は多いはずです。
この記事では、業務委託でフリーランスを活用する企業担当者向けに、日常業務の中で起きがちな偽装請負NG行為をシーン別に解説します。また、社内で明日からすぐに実践できる防止手順とセルフ診断チェックリストもご用意しました。
偽装請負と指揮命令:なぜ問題になるのか
偽装請負とは
偽装請負とは、契約上は「業務委託(請負・準委任)」でありながら、実態として「労働者派遣」と同じ状態になっていることを指します。具体的には、発注企業が受託者(フリーランス)に対して直接的な指揮命令を行っている場合が該当します。
厚生労働省の「37号告示(昭和61年労働省告示第37号)」は、請負と派遣の区分基準として「受託者が自ら労働者に指揮命令を行っているか」を重要な判断基準としています。
なぜ問題になるのか
偽装請負が発覚した場合、発注企業には以下のリスクが生じます。
- 労働者派遣法・職業安定法違反: 1年以下の懲役または100万円以下の罰金
- 会社名の公表: 行政による指導・是正勧告の対象となり、社名が公開されるリスク
- 未払い社会保険料の遡及請求: フリーランスを雇用労働者とみなされ、過去に遡った社会保険料の支払いを求められるケース
- レピュテーションリスク: コンプライアンス違反企業としてのブランドイメージの毀損
問題は、偽装請負の多くが「悪意のある行為」ではなく、現場のコミュニケーションの中で無意識に起きている点です。
指揮命令の判断ポイント
偽装請負を判断する上での核心は「誰が受託者に対して業務の内容・手順・時間を指示しているか」です。
- NG(偽装請負リスクあり): 発注者(企業の社員)が受託者(フリーランス)個人に対して、業務内容・手順・時間・方法を直接指示している
- OK: 受託者が自らの裁量で業務を遂行しており、発注者は成果物・納期・品質の要求のみを伝えている
偽装請負の法的根拠・適法範囲の詳細については「業務委託で適法な指揮命令の範囲とは?発注者が知るべき法的根拠と実務判断」もあわせてご確認ください。
日常業務で偽装請負になりやすいNG行為
ここでは、フリーランスを活用している企業でよく見られるNG行為をシーン別に解説します。「うちの現場でもやっているかも」と感じる項目がないか、確認してみてください。
Slackなどのチャットでの指示
チャットツールでのやりとりは、ついカジュアルな指示になりがちです。以下のような送り方には注意が必要です。
NG例:
- 「〇〇さん(フリーランス名指し)、今日の午前中に△△の機能実装を進めておいてください」
- → 特定個人への作業内容 + 時間指定がセット
- 「17時までに進捗を報告してください」
- → 時間を拘束する報告指示
- 「今日の作業はこの順番でお願いします:①〇〇 ②△△ ③□□」
- → 作業手順の直接指定
判断基準: 特定のフリーランス個人に対して、「いつまでに」「何を」「どのように」という3要素が揃う指示はリスクが高まります。
定例会議・朝会での指示
毎日の朝会や週次定例で、知らぬ間に指揮命令になっているケースがあります。
NG例:
- 「〇〇さん(フリーランス)、今週は△△機能の実装に集中してください」
- → 業務内容の直接指示
- 「今日のタスクを全員で共有してから作業を始めてください」
- → 日次業務の直接管理
OK例:
- 「プロジェクト全体のマイルストーンを確認します。今週末に〇〇フェーズを完了する予定ですが、チーム全体で認識をそろえましょう」
- → 全体情報の共有・方向性の確認(個人への指示ではない)
タスク管理ツールでの割り当て
JiraやBacklogなどのタスク管理ツールでの運用も要注意です。
NG例:
- 発注企業の社員がフリーランス個人のタスクをアサイン・変更する
- 優先順位を発注側が一方的に操作する
OK例:
- ユーザーストーリー(要求・ゴール)を発注側が登録し、タスクへの分解・担当割り振りは受託側が行う
- 「〇〇機能が必要です。詳細は添付の仕様書を参照してください」という成果物起点での依頼
勤怠・就業時間の管理
NG例:
- 出退勤時刻の報告を求める
- 「9時〜18時でオフィスに来てください」という時間拘束
- タイムカードや業務管理ツールで稼働時間を記録・管理する
OK例(境界線):
- 双方合意の上で、「〇〇時〜〇〇時はオンライン対応可能」という稼働時間帯を契約書に明記することは可能。ただし、実態として時間管理・拘束にならないよう注意が必要
評価・フィードバックの方法
NG例:
- 「もっと丁寧にコードレビューを受けてから提出してほしい」(プロセスへの指示)
- 「作業のペースが遅いので、改善してください」(業務遂行方法への介入)
OK例:
- 「提出いただいたUIコンポーネントですが、〇〇の仕様に合わせて修正をお願いします」(成果物の品質・仕様へのフィードバック)
- 「納品後のバグが〇件ありました。次回は検証フェーズを強化してください」(成果物の結果に基づくフィードバック)
これはOK!安全なコミュニケーション例
NG行為の整理に続いて、「これはやっていい」というOKパターンを確認しておきましょう。
場面 | OKなコミュニケーション |
|---|---|
成果物への要求 | 「〇〇機能のUIはこのデザイン案に沿ってください」 |
納期の確認 | 「今週金曜日までに〇〇機能の完成をお願いします」 |
情報提供 | 「実装に必要な仕様書・APIドキュメントを共有します」 |
緊急対応 | 「セキュリティ上の問題が発見されました。至急〇〇の修正が必要です」 |
プロジェクト全体共有 | 「全体のマイルストーンを共有します(個人への業務指示なし)」 |
受託側管理者への連絡 | フリーランス個人ではなく、受託側の窓口担当者を通じた連絡 |
OKの判断基準: 「受託者が仕事の進め方・手順・スケジュールを自分で決める余地が残っているか」を確認する習慣が重要です。
偽装請負を防ぐ社内ルール整備5ステップ
「今の現場でNG行為をしてしまっているかもしれない」と気づいたら、以下の5ステップで社内ルールを整備しましょう。
ステップ1: 契約書と実態を一致させる
業務委託契約書に「受託者が業務の進め方・手順を自律的に決定する」旨を明記し、現場の運用がそれを体現しているか確認します。「契約書には書いてあるけど、現場では全然守られていない」という状態が最もリスクが高いため、定期的に実態を確認してください。
ステップ2: 現場担当者への教育を実施する
フリーランスと日常的に接する社員全員が「指揮命令のNG行為」を理解する必要があります。特に、新規でフリーランスの受け入れを始めるタイミングで、関係者全員への周知を行いましょう。法務部門や外部弁護士を交えた研修も効果的です。
ステップ3: コミュニケーションガイドラインを文書化する
Slack・会議・タスク管理ツールでの「NG行為」と「OK行為」を具体的なガイドラインとして文書化し、社内で共有します。本記事の事例も参考に、自社の業務実態に合ったルールを作成してください。
ステップ4: 受託者側の窓口担当者を設ける
フリーランス個人への直接連絡ではなく、受託側の管理者(窓口担当者)を通じた連絡体制を構築します。「〇〇さんに直接Slackで聞く」という習慣をやめ、「受託側の担当者に確認してもらう」という流れを定着させましょう。
ステップ5: 定期的なセルフチェックを実施する
四半期ごとに現場の実態をヒアリングし、偽装請負に該当する状況が生まれていないかを確認します。「何となく問題なさそう」ではなく、チェックリストを使った定点確認が重要です。
今すぐ確認!偽装請負セルフ診断チェックリスト
以下の項目を確認してください。一つでも「はい」に当てはまる場合、偽装請負リスクが存在します。
日常業務のチェック
- 社員がフリーランスの特定個人に、直接タスクをアサインしている
- 毎日の作業内容や優先順位を、社員側が決定している
- 出退勤時間・稼働時間を社員側が管理・確認している
- 朝会や定例会議で、フリーランス個人への業務内容の指示がある
コミュニケーションのチェック
- Slackで「今日中に〇〇を進めてください」と特定個人に送っている
- 業務の進め方・手順・作業順序について社員側が細かく指示している
- 成果物の品質ではなく、「どう作業するか」のプロセスへのフィードバックをしている
関係性のチェック
- フリーランスが「できません」「この方法は使いません」と言いにくい雰囲気がある
- フリーランスが社員と同じミーティングに毎日参加し、同じ管理下で働いている
対策のチェック
- 契約書と現場の実態が一致しているか、最後に確認したのが1年以上前
- 偽装請負について、現場の社員に説明・教育を行ったことがない
1〜4個 当てはまる: リスクあり。本記事の「社内ルール整備5ステップ」を実施してください。
5個以上 当てはまる: 高リスク。現状の運用を早急に見直し、必要に応じて専門家(弁護士・社労士)に相談することをおすすめします。
まとめ
偽装請負は、悪意があって起きるケースよりも、「フリーランスとスムーズに仕事をしたい」という善意のコミュニケーションから気づかないうちに生まれることが多い問題です。
重要なのは、日常業務レベルでのルール徹底と、社員への教育です。フリーランスとの良好な関係を守りながら、会社として法的リスクを適切に管理するために、まずは本記事のチェックリストから始めてみてください。
Workee を通じてフリーランスエンジニアを活用されている企業の皆さまには、適切なコミュニケーション設計が業務のスムーズな進行と信頼関係の構築につながります。
業務委託の法律・契約リスクをより体系的に把握したい方には、「フリーランス新法対応 業務委託発注の法律・契約リスク点検ガイド」をご参照ください。フリーランス新法(2024年11月施行)への対応も含め、発注企業が知るべき法的実務をまとめています。



