エンジニアを採用しようとしたものの、面接まで漕ぎ着けられずプロジェクトが止まっている。そんな状況に直面している経営者や担当者は少なくありません。経済産業省の試算では2030年に最大約79万人のIT人材が不足するとされており(経済産業省「IT人材需給に関する調査」)、採用市場での競争はますます激化しています。
「外部人材に委託しよう」という方向性は固まっているのに、なぜか発注の一歩が踏み出せない。その原因のほとんどは、「コストがどのくらいかかるか」「品質は本当に担保されるか」「どの契約形態が自社に合っているか」という判断軸が固まっていないことにあります。
本記事では、IT人材不足の解決策として外部人材活用を選んだ企業の事例を業界・規模別に紹介し、発注の意思決定に必要な「判断の3つの軸」と、失敗を防ぐための「発注前チェックリスト」を解説します。他社の事例と判断軸を持てば、「外部人材活用は怖くない」と感じていただけるはずです。
IT人材不足の今——外部人材活用が「最初の選択肢」になった理由
2030年最大79万人不足——採用だけでは解決しない構造的な問題
経済産業省が2019年に公表した「IT人材需給に関する調査」では、需要の伸び率が高い場合、2030年には最大約79万人のIT人材が不足すると試算されています。中位シナリオでも約45万人の不足が見込まれており、いずれにせよ「採用市場を通じてエンジニアを確保できる数」は、企業が必要とする数を大幅に下回ります。
中小企業にとって状況はさらに厳しく、採用競争では大手企業やスタートアップに対して条件面で劣位に立たされがちです。給与水準の差(大手との年収差は150〜200万円程度)、知名度のハンデ、採用活動にかける工数の不足——これらが重なり、「エンジニアを採用したいが応募が来ない」という状態が常態化しています。
多くの企業が外部人材に頼る理由——採用コスト・育成コスト・スピードの壁
正社員採用の難しさに加え、「採用できたとしても」という問題もあります。採用後の育成コストと、育成が終わる前に退職するリスクは、特にエンジニアが1〜2名しかいない組織では許容しにくいものです。
こうした背景から、多くの企業が外部人材の活用へと舵を切っています。即戦力を確保でき、プロジェクト単位の契約が可能で、採用・育成コストが不要という点が、特に「今すぐ動きたい」という状況にある企業にとって大きな利点です。ただし、「どこに頼むか」「どんな契約をするか」を誤ると逆に損失を生む可能性もあります。次のセクションで、形態ごとの特徴と判断軸を整理します。
外部人材活用の主な形態と選び方の基準

IT人材を外部から調達する手段は主に4つあります。それぞれの特徴を理解した上で、自社の状況に合う形態を選ぶことが重要です。
4つの外部人材形態の概要と費用感の比較表
形態 | 概要 | 月額費用の目安 | 管理負荷 | 向いているケース |
|---|---|---|---|---|
フリーランス(個人・直接契約) | 特定のスキルを持つ個人と業務委託契約を結ぶ | 40〜90万円(スキルレベルによる) | 中〜高(仕様書・進捗管理が必要) | 特定の技術が短期で必要な場合 |
SES(システムエンジニアリングサービス) | 企業と業務委託契約を結び、エンジニアが常駐・稼働 | 80〜150万円(スキルレベルによる) | 中(指揮命令は発注側が持つ) | 一定期間、継続してリソースを確保したい場合 |
開発会社(請負・準委任) | 成果物または業務プロセスごと外注する | プロジェクト単価制(数十万〜数百万円) | 低〜中(成果物ベースの管理) | 要件が固まっており、成果物を確約してほしい場合 |
複業・副業エンジニア | 本業を持ちながら週数時間〜稼働する人材と契約 | 10〜50万円(稼働時間による) | 中(コミュニケーション設計が重要) | 特定スキルのスポット相談・小規模な機能実装 |
フリーランス月額単価の平均は2025年時点で76万円前後とされています(フリーランススタート、エン・ジャパン調べ)。これはミドルレベル以上の実績を持つエンジニアの平均値であり、ジュニアレベルでは40〜60万円程度が目安となります。
「管理リソースが少ない場合」は開発会社、「特定スキルが短期で必要」はフリーランス——形態選択の判断軸
形態を選ぶ際の判断軸は主に3つです。
軸1: 要件の明確さ 要件が固まっており「この機能を作ってほしい」と明示できる場合は、開発会社への請負契約が適しています。逆に、「何を作るかは一緒に考えたい」という場合は、個人のフリーランスや複業エンジニアとの準委任型の方が柔軟に動けます。
軸2: 社内の管理リソース フリーランスやSESは、指示・仕様の提供・進捗確認を発注側が担います。「エンジニアと日常的にコミュニケーションを取れる担当者がいない」という場合は、プロジェクト管理を含めて請け負ってくれる開発会社の方がリスクが低くなります。なお、フリーランス活用に特化した判断軸や、よくある不安の解消法についてはエンジニア不足をフリーランス活用で解消する判断軸と3つの不安解消法で詳しく解説しています。
軸3: 期間・継続性 単発のシステム改修であればフリーランスか開発会社への請負、継続的な保守・機能拡張が必要であれば開発会社(ラボ型契約)や複業エンジニアが向いています。
複業・副業エンジニアという新しい選択肢——中小企業が始めやすい理由
近年、副業・複業を認める企業が増えたことで、本業を持ちながら他社の案件に関わるエンジニアが増えています。厚生労働省の「副業・兼業の事例集 〜24社から学ぶ〜」(2025年3月)でも、企業が副業人材を受け入れることで得られるメリットとして「他社で培ったスキルの活用」「新たな視点の導入」が挙げられています。
複業エンジニアの最大の利点は、「週10〜20時間程度の稼働から始められる」点です。フルタイムの外部人材を抱えるコストや管理負荷を抑えながら、特定の技術知識を持つ人材に相談できます。特に「どんなシステムが必要か整理したい」「技術的な選定で専門家の意見が欲しい」という初期フェーズには有効な選択肢です。
外部人材活用の事例——業界・状況別のパターン

実際に外部人材活用でIT人材不足を乗り越えた企業のパターンを、業界・状況別に紹介します。いずれも実際の活用パターンを参考に構成した事例です。
【事例A】製造業・社内エンジニア0名でDX推進——開発会社との準委任契約で伴走開発
状況: 従業員80名の製造業。生産管理の一部をExcelで運用しており、データ集計に週10時間以上を費やしていた。DX担当を任命したが、当人はエンジニアではなく、何から手をつければいいか分からない状態。
選んだ形態と理由: 要件が固まっていなかったため、請負ではなく「準委任型」で開発会社に依頼。月額固定で週1回のオンライン定例を行いながら、要件整理から一緒に進めてもらう体制を選択。「何を作るか」「どう作るか」を専門家と並走しながら決めていきたいという意図があった。
成果: 6ヶ月でデータ集計の自動化ツールが完成し、週10時間超の手作業が約1時間に短縮。開発完了後は月1回程度の保守契約に移行し、継続的に改善を加えている。
ポイント: 「まず相談できる相手を決める」ことが最初のステップ。要件が曖昧でも受け入れてくれる開発会社(準委任型)を選んだことで、自社担当者の学習機会にもなった。
【事例B】小売業・繁忙期のみシステム改修が必要——フリーランスで短期スポット対応
状況: 従業員150名の小売業。年2回の繁忙期前に在庫管理システムの改修が発生するが、常駐の開発者を抱えるコストは見合わない。毎回、知り合いのエンジニアに依頼していたが、スケジュールが合わなくなった。
選んだ形態と理由: フリーランスエンジニアのマッチングサービスを利用し、PHPとMySQLのスキルを持つエンジニアを選定。3ヶ月の業務委託契約で繁忙期前の改修を依頼した。マッチングサービスを使うことで、スキルシートと実績レビューを事前に確認できた点が決め手。
成果: 改修期間の2.5ヶ月で必要な機能追加が完了。費用は月額50万円×2.5ヶ月で125万円。前年まで別の形態で依頼していたときよりも要件のズレが少なく、修正コストも削減された。
ポイント: 「毎年同じ時期に同じ規模の作業が発生する」というパターンは、フリーランスとの中長期的な関係構築に向いている。初回に詳細な仕様書を整備しておくと、翌年以降の依頼がスムーズになる。
【事例C】サービス業・新規Webサービス立ち上げ——複業エンジニアでMVP開発
状況: 従業員50名のサービス業。新規事業として予約管理Webアプリの開発を企画しているが、本格的な開発会社に依頼する前に「どんな機能が必要か」を小さく試したかった。予算は月20〜30万円が上限。
選んだ形態と理由: 複業エンジニアのマッチングサービスを経由し、週20時間稼働できる経験5年のエンジニアと契約。MVPの設計・実装を3ヶ月で行い、社内でプロトタイプを試用して仮説を検証するという方針を立てた。
成果: 3ヶ月でMVPが完成し、社内5名でのテスト運用を開始。実際に使ってみて「予約管理より顧客通知機能が重要」という気づきが生まれ、本格開発前に方向修正できた。本格開発は開発会社に依頼し、MVP段階の知見を活かした要件定義が可能になった。
ポイント: 「まず小さく検証してから本格開発へ」というアプローチでは、複業エンジニアは費用対効果の高い選択肢になります。MVP完成後は「本格開発の発注者として明確な要件を持てる」という副次的効果もあります。
【共通点の整理】成功パターンに見られる3つの条件
上記3事例に共通する成功の条件は次の3点です。
条件1: 自社の「管理できる量」を把握していた いずれの事例も、「社内が対応できるコミュニケーション量・管理量」を考慮した上で形態を選んでいます。管理コストを見誤ると、外部人材を使いこなせずに費用対効果が下がります。
条件2: 契約形態と成果物のスコープが最初から明確だった 「何を持って完了とするか」が不明確なまま進むと、認識のズレから追加コストが発生します。3事例とも、契約前に「何を依頼するか」「どのような状態になれば完了か」を言語化していました。
条件3: 初回の投資を「学習コスト」として捉えていた 初めての外部発注では、思い通りにいかない部分が出ることがあります。3事例とも、初回の取り組みを「完璧な成果物を得る」ためではなく「自社に合う進め方を見つけるプロセス」として捉えており、次回以降の改善につなげています。
外部人材活用で失敗しないための発注前チェックリスト

外部人材活用で失敗するケースの多くは、契約前の準備不足に起因しています。以下に、よくある失敗パターンと、それを防ぐための発注前チェックリストを紹介します。
よくある失敗パターン——要件の曖昧さ・コミュニケーション不足・品質確認の欠如
パターン1: 要件が曖昧なまま発注した 「こんな感じのシステムを作りたい」という依頼で動き出したものの、途中で「そういう意味じゃなかった」という認識のズレが発覚。追加費用と工期延長が発生したケースです。特に請負契約では、要件の変更は追加費用の原因になります。
パターン2: 進捗確認を怠った 外部に任せた安心感から進捗報告を求めなかった結果、「完成したと思ったら全然動かない」という事態に。フリーランスやSESとの契約では、発注側が定期的に確認する責任があります。
パターン3: 完了基準を定めていなかった 「システムの納品」を完了基準にしたが、実際には初期設定・テスト・データ移行が残っており、追加費用が必要になったケースです。
発注前チェックリスト5項目——要件定義の粒度・成果物の検収基準・連絡手段と頻度・機密情報の取り扱い・継続性の設計
外部人材への発注を行う前に、以下の5点を確認してください。
- 1. 要件定義の粒度: 「何を作るか・何ができるようになるか」を文書化できているか。特に請負契約では、要件書の品質が成果物の品質に直結します
- 2. 成果物の検収基準: 「どうなれば合格か」を事前に合意できているか。動作確認の方法・テスト条件・バグの修正範囲を明確にしてください
- 3. 連絡手段と頻度: 進捗共有の方法(SlackやTeamsなど)と報告頻度(週次など)を契約前に決めているか。特にフリーランスとの契約では、コミュニケーション設計が品質に大きく影響します
- 4. 機密情報の取り扱い: NDA(秘密保持契約)を締結しているか。自社の顧客データや業務ノウハウにアクセスする場合は必ず締結が必要です
- 5. 継続性の設計: 開発完了後の保守や機能拡張について、誰が担当するかを最初から想定しているか。「作りっぱなし」では、のちのち困るケースが多くあります
複業・副業エンジニアの活用が広がる背景と実際の活用イメージ

複業・副業エンジニアとは——週数時間から相談できる柔軟な外部人材
複業・副業エンジニアとは、本業(正社員として在籍している企業)のほかに、他の企業のプロジェクトに参加しているエンジニアのことです。働き方改革の推進や副業解禁の流れを受け、こうした人材のプールは年々拡大しています。
週10〜20時間程度の稼働から依頼できるという柔軟さが特徴で、フルタイムの外部人材を抱えるコストや管理負荷を大幅に下げられます。「本業で最先端の技術に触れているエンジニアが、週末や夕方に自社のプロジェクトを手伝ってくれる」というイメージです。
どんな業務に向いているか——スポット相談・技術顧問・特定機能の実装
複業・副業エンジニアが特に力を発揮するのは、次のような業務です。
- 技術顧問・相談役: 「どのシステムを選ぶべきか」「どの技術スタックが適切か」という意思決定の場面で、専門家の意見を聞きたい場合
- 特定機能の実装: 既存システムへの機能追加や、特定のAPIとの連携など、スコープが明確な小規模開発
- コードレビュー・品質確認: 社内で開発しているが、専門家の目でコードの品質を確認してほしい場合
- MVP開発: 先ほどの「サービス業・新規Webサービス立ち上げ」の事例で示したように、本格開発の前に小さく検証するための最小限のプロダクト開発
一方、プロジェクト全体の設計・管理を任せたり、緊急対応が必要な保守業務を担わせたりするには稼働時間の制約があるため、向いていません。
マッチングサービスを通じた発注フロー——依頼から契約までの実際の流れ
複業・副業エンジニアとのマッチングには、専門のプラットフォームを活用するのが一般的です。依頼から契約までの大まかな流れは次のとおりです。
- 依頼内容の整理: 「何を依頼したいか」「稼働時間の希望」「期間」「予算」をまとめる
- プラットフォームへの掲載または候補者の検索: スキルや実績でフィルタリングして候補者を選定する
- カジュアル面談: 候補者と30〜60分程度の面談を行い、依頼内容の認識合わせと相性の確認をする
- 業務委託契約の締結: NDAや業務内容・報酬・稼働条件を明記した契約書を締結する
- 稼働開始・定期コミュニケーション: 週次の定例や非同期のメッセージツールを通じて進捗を管理する
Workee などの複業・副業人材マッチングサービスでは、スキルシートや実績の確認、契約サポートまでをプラットフォーム上で一元管理できるため、初めての発注でも進めやすい仕組みが整っています。
まとめ——外部人材活用は「事例と判断軸」を持てば怖くない
本記事では、IT人材不足の解決策として外部人材を活用した企業の事例と、発注判断に必要な「3つの軸」を紹介しました。
- 外部人材の主な形態は「フリーランス」「SES」「開発会社」「複業エンジニア」の4つで、それぞれ向いている状況が異なります
- 形態選択の判断軸は「要件の明確さ」「社内の管理リソース」「期間・継続性」の3点です
- 成功事例に共通するのは「管理できる量の把握」「完了基準の明確化」「初回を学習機会として捉える姿勢」でした
- 失敗を防ぐためには、発注前に「要件の粒度・検収基準・連絡方法・NDA・継続性」を確認することが重要です
外部人材活用への第一歩は、「自社が今抱えているIT課題を言語化すること」から始まります。「何をしたいか」が明確になれば、どの形態が合うかが見えてきます。まずは具体的な課題を書き出してみてください。
外部エンジニアの活用について、スモールスタートで試してみたいという方は、複業・副業エンジニアとのマッチングをサポートするお役立ち資料もご参考になれば幸いです。



