外部エンジニアの活用が広がる中で、「先月分の交通費と機材費を立替請求したい」という連絡が受託者から届き、経理担当者が慌てて対応することは珍しくありません。既存の業務委託契約書に経費立替の取り決めがなく、支払い判断・会計処理・契約整備を短期間で組み立てなければならない場面です。
しかも、判断すべき論点は一つではありません。今回の請求を「立替金」で処理するのか「外注費」で処理するのか、インボイス制度下で受託者に何を求めるべきか、フリーランス新法の支払期日ルールとの整合はどうか、契約書にどう追記すべきか、社内の経費精算フローをどう設計するか。税務・法務・業務のどれか一つでも落とすと、監査での指摘や外部人材との信頼関係悪化につながります。
さらに、現場のプロジェクトマネージャーからは「早く支払わないと関係が悪化する」と急かされる一方、経理部内では「本当にこれで処理していいのか」という不安が拭えません。「今回どう対応するか」と「今後どう整備するか」の両方を同時に迫られているのに、上位の検索結果は受託者側視点の記事が多く、発注者側の判断軸がまとまった情報にたどり着きにくい状態です。
本記事では、業務委託の経費立替について発注企業の経理・発注管理担当者の視点から、判断・処理・契約整備・社内フロー設計の4領域を統合的に解説します。今回の請求への即応と、今後の再発防止のための予防整備を、両輪で組み立てられる状態を目指します。
業務委託の経費立替で発注者が判断に迷う3つの局面
業務委託の経費立替をめぐって発注企業の担当者が迷う局面は、大きく3つに分けて整理できます。まずは判断ポイントを切り分けることで、社内議論の空回りを防ぎましょう。
局面1: 契約書に記載がないまま立替請求が届く
もっとも多いのが、既存の業務委託契約書に経費立替の取り決めがない状態で、受託者から実費請求が届くケースです。契約書の「報酬」条項には月額または成果物単位の金額しか書かれておらず、「別途協議」の一言で済ませているひな型を流用していることが背景にあります。
この段階では、まず契約形態(請負か準委任か)と業務実態を照らし合わせて「支払うべきか」を判断し、次に「どう処理するか」と「今後どう整備するか」に分けて考えるのが実務的です。なお、業務実態が指揮命令に該当しないかの判断軸も併せて確認しておくと安心です(業務委託における指揮命令の適法範囲)。
局面2: 立替金・外注費・旅費交通費の勘定科目選択
支払うと決まった後の論点が、会計処理での勘定科目選択です。受託者から届いた請求書の書式(立替金精算書付きか、交通費込みの一括請求か)と、費用の実質負担者が誰かによって、立替金勘定・外注費勘定・旅費交通費勘定のどれを使うかが変わります。
勘定科目の選び方は消費税の仕入税額控除にも影響するため、後述の「発注者側の会計処理と勘定科目の使い分け」で実務判断を具体化します。
局面3: インボイス・源泉徴収・フリーランス新法の3制度への同時対応
業務委託の経費立替は、インボイス制度(適格請求書・立替金精算書の要件)・源泉徴収(所得税法204条の判定)・フリーランス新法(支払期日60日ルール)の3制度が同時に絡む論点です。それぞれ独立した制度ですが、実務上は同じ請求書で判断することになるため、担当者が最も混乱しやすいポイントです。
本記事では以降、この3局面のそれぞれについて発注者側の判断軸と実務手順を整理していきます。
業務委託契約における交通費・経費立替の負担原則(請負型/準委任型の違い)

業務委託の経費負担を検討する出発点は、契約形態が「請負」なのか「準委任」なのかを見極めることです。民法上の位置づけが異なるため、原則負担者も変わります。
請負契約における交通費・実費の原則負担者
請負契約は、受託者が「仕事の完成」を約束し、発注者は完成に対して報酬を支払う契約類型です(民法632条)。成果物の完成に必要な費用は受託者側で見込んでおくのが原則であり、交通費や機材購入費といった実費も、報酬の中に織り込まれていると解釈されるのが一般的です。
つまり、請負契約では 原則として受託者が経費を負担 します。発注者側が別途負担するには、契約書の中で「対象費目」と「精算方法」を明示的に定める必要があります。
準委任契約における交通費・実費の原則負担者
一方、準委任契約は法律行為以外の事務処理の遂行を委託する契約類型で、成果物の完成ではなく「業務の遂行」自体に報酬が支払われます(民法656条・648条)。準委任では、受任者が委任事務を処理するために支出した費用について、委任者に前払いや償還を請求できると民法649条・650条で規定されています。
このため、準委任契約では 原則として発注者(委任者)が経費を負担 します。エンジニアが客先常駐で準委任契約の場合、常駐先までの交通費や現地で必要な機材購入費は発注者側が実費精算するのが自然な運用です。
なお、実務では請負契約であっても「常駐が必要な工程」「発注者都合の出張」など、受託者の当初想定を超える実費が発生することがあります。この場合は個別合意で立替精算を認めるケースが多く、契約書側での柔軟な受け皿が必要になります。
発注者視点の契約形態選択と経費負担の紐付け
発注者が業務委託を発注する際は、「請負か準委任か」の選択と「経費負担の設計」を切り離さずに考えることが重要です。判断軸としては、次の3点が実務的な目安になります。
- 成果物性: 明確な納品物(システム・機能)があるか、業務の継続性が主か
- 常駐性: 発注者の拠点や客先で常駐して作業するか、リモート主体か
- 移動頻度: プロジェクト期間中に発注者都合の移動が発生する頻度はどれくらいか
常駐性・移動頻度が高い案件で請負契約を選ぶと、受託者が想定外の交通費を報酬に織り込みきれず、精算交渉が難航する典型パターンに陥ります。契約設計の段階で「準委任+実費精算」または「請負+発注者都合の出張のみ実費」といったハイブリッドを検討することで、後の摩擦を大幅に減らせます。契約形態そのものの選び方はフリーランスエンジニアの成果物と検収の実務も参考にしてください。
業務委託契約書に明記すべき5項目|経費立替の記載例(発注者側)

経費精算のトラブルを防ぐには、契約書または覚書に必要事項を明記することが最も効果的です。発注者側の視点で押さえておきたいのは、次の5項目です。契約書全体で押さえるべき条項の網羅性は業務委託契約書テンプレート・必須13項目(発注者向け)にまとめており、経費関連条項を追加する際の土台として参照できます。
対象費目と範囲の明確化
まず「何を経費として認めるか」の範囲を明示します。「別途協議する」といった曖昧な文言は、精算時に「これは含まれるのか」の判断が必要になり、担当者間の解釈違いを招きます。
記載イメージとしては、対象費目を「交通費(公共交通機関の実費に限る)」「宿泊費(発注者が事前に承認した出張のみ)」「機材購入費(発注者名義で購入するものに限る)」のように具体列挙し、それ以外は原則対象外とする方針を明示します。列挙外の費用が発生した場合の扱いも「事前書面承認を要する」と併記しておくと安全です。
事前承認フローと上限額
次に、精算対象となる経費の事前承認フローと上限額を定めます。受託者が独断で高額な機材を購入して事後請求する事態を防ぐため、金額の閾値(例: 1回3万円以上は事前承認必須)や、承認者(発注者のプロジェクトマネージャー等)を明記します。
月次の合計上限額を設定するのも有効です。「月間5万円までは事後精算可、超過分は事前承認必須」といったルールにしておくと、少額の交通費は簡素に運用しつつ、大口の支出は必ず可視化される仕組みになります。
精算書類の要件(領収書・立替金精算書)
会計処理と仕入税額控除のために、受託者に提出を求める書類の種類を明記します。標準的には、次の3点セットを求めるのが実務的です。
- 支出の宛名が受託者名になっている領収書または適格請求書の写し
- 立替金精算書(後述の「業務委託の経費立替とインボイス制度」で詳解)
- 立替の内訳一覧(日付・金額・目的・訪問先等)
書類要件を契約書に明記しておくことで、受託者側も精算のたびに「何を出せばいいか」を確認する手間が省け、結果として精算のスピードが上がります。
支払期日とフリーランス新法との整合
支払期日は、報酬本体と経費立替で別サイクルにすると混乱の元です。原則として 同一サイクル・同一期日 で支払うことを契約書に明記し、フリーランス新法の支払期日ルール(後述)との整合を担保します。
記載イメージとしては、「甲は乙が立て替えた費用を、対象月の翌月末日までに、報酬と併せて支払う」といった形で、締め日と支払日を明確にします。
契約締結後に覚書で追記する場合の実務手順
既存の業務委託契約書に経費立替の条項がない場合は、覚書または契約変更合意書として追記する運用が現実的です。既存契約を全面改訂するより、経費精算に関する条項だけを切り出した覚書を締結する方が、契約管理上も軽量に扱えます。
覚書のタイトルは「業務委託契約に関する経費精算の取り決め」といった内容を示すものにし、原契約との関係(「本覚書は原契約を補完し、経費精算に関する事項を定める」等)を冒頭に明示します。押印・署名は原契約と同じ当事者で行い、原契約書と一緒に保管するのが実務の基本です。
発注者側の会計処理と勘定科目の使い分け(立替金・外注費・旅費交通費)

支払い判断が済んだ後、経理担当者が悩むのが勘定科目の選択です。同じ「交通費の立替」でも、書類の構成と実質負担者によって処理が変わります。
立替金として処理するケースと仕訳例
受託者が発注者のために一時的に費用を立て替えた場合、受託者名義の領収書と 立替金精算書 の写しを添えて請求してくるパターンです。この場合、費用の実質負担者は発注者であり、受託者はあくまで一時的な立替人にすぎません。
仕訳例(発注者側):
借方 | 貸方 | 摘要 |
|---|---|---|
旅費交通費 20,000 | 未払金 20,000 | 受託者が立替えた新幹線代(立替金精算書受領) |
この場合、費用そのものは旅費交通費として計上し、消費税の課税仕入も交通機関からの直接仕入と同様に扱えます。受託者から届く請求書は「立替経費」として区分し、報酬部分と分けて認識するのが実務の基本です。
外注費・旅費交通費として処理するケースと仕訳例
一方、受託者が自身の事業経費として交通費を支出し、それを含めた総額を報酬として請求する場合は、受託者側で仕入税額控除・経費計上が完結しており、発注者側は請求総額をそのまま 外注費 として計上します。
仕訳例(発注者側):
借方 | 貸方 | 摘要 |
|---|---|---|
外注費 220,000 | 未払金 220,000 | 業務委託報酬(交通費含む一括請求) |
この処理では、交通費部分を切り出して旅費交通費に振り替える必要はありません。受託者が発行する適格請求書に基づいて仕入税額控除を行います。
勘定科目を選び間違えた場合の税務リスク
書類の実態と勘定科目がずれると、消費税の課税区分や源泉徴収の判定にも影響します。例えば、実態は外注費(受託者の売上に組み込まれる)なのに立替金として処理すると、対応する仕入税額控除の証憑(受託者からの立替金精算書と原本の写し)が不足し、税務調査で仕入税額控除を否認されるリスクがあります。
判断の勘所は「その費用の最終的な負担者は誰か」「請求書上で費用が受託者の売上として計上されているか」の2点です。曖昧なときは、受託者に請求書の書式を確認するか、税理士に相談した上で処理方針を決定しましょう。
業務委託の経費立替とインボイス制度|立替金精算書と仕入税額控除

2023年10月から始まったインボイス制度(適格請求書等保存方式)は、外部エンジニアの経費立替の実務にも直結します。発注者側が仕入税額控除を受けるための書類要件を整理します。発注側で押さえるべきインボイス確認手順の全体像は業務委託のインボイス|発注側の確認ガイドにまとめています。
立替金精算書の役割と受託者に依頼する書類
インボイス制度下では、発注者が仕入税額控除を適用するために、原則として適格請求書発行事業者が発行する適格請求書(インボイス)の保存が必要です。ただし、受託者が発注者のために立て替えた経費については、原本のインボイスの宛名が受託者名義になっているため、そのままでは発注者が仕入税額控除を受けられません。
この場合、受託者が発行する 立替金精算書 と、原本のインボイスの写しをセットで受領することで、発注者は仕入税額控除の適用を受けられます。国税庁のインボイス制度に関するQ&Aでも、立替金精算書と原本の写しの組み合わせによる仕入税額控除の適用が示されています(国税庁「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」)。
受託者に依頼すべき書類は、次の3点セットです。
- 立替金精算書(受託者が発注者宛に発行)
- 原本のインボイス(適格請求書)の写し
- 立替内訳(日付・費目・金額・目的)
適格請求書発行事業者/免税事業者ごとの取り扱い差
受託者が適格請求書発行事業者として登録しているかどうかで、立替金精算書と併せて求める原本の種類が変わります。
- 受託者が適格請求書発行事業者: 立替金精算書+原本のインボイス写しで、発注者は仕入税額控除を100%適用可能
- 受託者が免税事業者: 原本のインボイスは存在しないため仕入税額控除は原則不可(経過措置期間中は一定割合の控除が可能)
- 原本の発行元が免税事業者: 立替金精算書があっても、原本発行元がインボイスを発行できないため、原則として仕入税額控除不可
外部エンジニアが免税事業者の場合、経費立替の会計処理は「原本発行元がインボイス発行事業者かどうか」で判断が分岐します。公共交通機関(JR等)は通常インボイス発行事業者なので、交通費の立替は仕入税額控除の対象になりやすい一方、個人商店での機材購入は原本発行元がインボイス未登録の可能性がある点に注意が必要です。
3万円未満の公共交通機関特例と少額特例
インボイス制度には、実務負担を軽減する特例がいくつか用意されています。特に業務委託の経費立替で活用しやすいのが、次の2つです。
- 3万円未満の公共交通機関特例: JR・地下鉄・バス等で1回の取引が3万円未満の場合、適格請求書の保存が不要で、帳簿の記載のみで仕入税額控除が可能
- 少額特例(税込1万円未満の課税仕入): 一定規模以下の事業者について、税込1万円未満の課税仕入は適格請求書の保存が不要(2029年9月30日まで)
これらの特例に該当する場合、立替金精算書の運用を簡素化できますが、帳簿への記載要件(取引年月日・内容・金額・取引先の名称等)は満たす必要があります。制度改正の可能性もあるため、最新の要件は国税庁の公式情報で確認しましょう。
業務委託の源泉徴収と交通費・立替金の扱い
外部エンジニアへの支払いに関連して、もう一つ実務で混乱しやすいのが源泉徴収です。「エンジニアなら源泉徴収は不要」という誤解が現場に残っていることがあるため、判断軸を整理します。
業務委託と源泉徴収の基本(給与か外注費かの判定)
まず、業務委託であっても実態が雇用に近い場合(時間管理・指揮命令が強い等)は、税務上「給与」と判定される可能性があります。この判定は、勤務時間の拘束・指揮命令の有無・報酬の計算基準(時間か成果か)・道具や材料の負担者等を総合的に見て行われます。
一方、独立した事業者としての外部エンジニアへの支払いは、原則として所得税法204条1項の源泉徴収対象には該当しません。同項が列挙する報酬・料金の類型(原稿料・デザイン料・弁護士報酬等)にプログラミング業務は含まれていないため、法人契約・個人事業主契約のいずれでも、通常のエンジニア報酬に源泉徴収は不要です。
ただし、「エンジニアの中でもデザインを含む業務」「システム設計に伴う原稿執筆」など、203条・204条の対象範囲に触れる業務が含まれる場合は源泉徴収が必要になるケースもあります。判断に迷う場合は、国税庁の 「No.2795 原稿料や講演料等」 や税理士への確認が確実です。
交通費・立替金を源泉徴収の対象額に含めるかどうか
源泉徴収の対象となる報酬に交通費・立替金が含まれるかどうかは、支払い方法によって扱いが分かれます。
- 報酬に含めて支払う場合: 交通費相当額も源泉徴収の対象額に含まれる
- 実費として区分して支払う場合(立替金精算書で明確に切り出し): 交通費相当額は源泉徴収の対象額から除外可能
このため、源泉徴収が必要な業務類型で経費立替を行う場合は、請求書上で報酬部分と立替経費部分を明確に分けることで、源泉徴収の対象額を圧縮できます。
免税事業者・法人格のケース分け
受託者が法人格(株式会社・合同会社等)の場合、原則として源泉徴収の対象外です(一部の報酬類型を除く)。個人事業主の場合は、業務類型に応じて源泉徴収の要否を判定します。
免税事業者かどうか(インボイスの論点)と、源泉徴収の要否は 別軸の話 です。混同されがちですが、源泉徴収は所得税法、インボイスは消費税法の話であり、それぞれ独立して判定する必要があります。
フリーランス新法と業務委託の経費精算・支払期日
2024年11月に施行された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(通称: フリーランス新法)は、業務委託の支払期日や取引条件の明示に関するルールを定めています。経費精算の実務にも影響するため、押さえておきましょう。制度全体の発注者側コンプライアンス視点はフリーランス新法・発注者側の遵守ポイントにまとめています。
フリーランス新法の対象取引と支払期日ルール
フリーランス新法は、発注事業者(従業員を雇用している法人・個人)が特定受託事業者(従業員を雇用していない個人・一人法人)に業務委託する取引を対象としています。対象取引では、次のような義務が発注者側に課されます。
- 取引条件の書面等による明示義務: 業務内容・報酬額・支払期日等を書面またはメール等で明示
- 支払期日の設定義務: 給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間で支払期日を設定する
- 禁止行為: 受領拒否・報酬減額・返品・買いたたき・購入強制等の禁止(継続的業務委託の場合)
契約解除や取引終了の場面で問題になりやすい「30日前予告」ルールについてはフリーランス新法の30日前予告ルール(発注者向け)で詳解しています。詳細は公正取引委員会・中小企業庁の 「フリーランス・事業者間取引適正化等法特設サイト」 も参照してください。
経費立替請求は本体報酬と同一サイクルで処理する原則
フリーランス新法の支払期日ルールは、業務委託の対価としての「報酬」に対する規制ですが、経費立替も業務遂行の一部として捉えると、本体報酬とは別サイクルで放置することは望ましくありません。同一取引内で発生した費用について、報酬本体は翌月末に支払う一方、経費立替は「精算処理に時間がかかるから翌々月末」といった扱いは、受託者側の資金繰りを圧迫し、法の趣旨にも反します。
原則として、報酬本体と経費立替は 同一サイクル・同一期日 で支払うことを社内ルール化しましょう。契約書または覚書に「立替経費は当該月分の報酬と併せて翌月末までに支払う」といった条項を明記しておくことで、経理側の運用も明確になります。
覚書・別紙で経費支払サイクルを変える場合の書き方
やむを得ない事情(月末締めの経費精算に対して受託者からの請求が翌月中旬になる等)で、報酬と経費立替の支払サイクルを分ける場合は、覚書または契約書の別紙で明示的にサイクルを定めます。この場合も、受領日から60日以内の枠を超えないことを最優先とし、受託者との合意プロセスを丁寧に踏むことが重要です。
「精算日は当月分の請求書受領日から起算して30日以内、支払は同月末日」のように具体化しておくと、経理・PM・受託者の三者間で認識のズレが起きにくくなります。
社内の経費精算フロー設計(PM × 経理の役割分担)

契約と会計処理を整えたら、最後は社内の運用フローです。同じような立替請求が繰り返し発生する見込みなら、事前承認から支払までの流れを標準化しておくことで、担当者の判断コストが大幅に下がります。
事前承認フェーズ(PM 主導)
経費立替の起点は、外部エンジニアが「この費用を発生させたい」と提示するタイミングです。ここでの承認は、業務内容と直接紐づく判断となるため、プロジェクトマネージャー(PM)が主導 するのが自然です。
事前承認フェーズで PM が確認すべきポイントは次の通りです。
- 業務目的との整合(何のための出張・機材購入か)
- 契約書の対象費目に含まれているか
- 事前承認が必要な金額閾値を超えているか
- 上限額の残余枠を消費しないか
承認結果は、メール・チャット・稟議システム等で記録し、後の会計計上時に経理担当者が確認できるように残します。社内稟議として上申する場合は外部エンジニア活用の稟議書テンプレートの項目構成を参考にすると、承認プロセスの記録フォーマットを整えやすくなります。
精算書類受領・検証フェーズ(経理主導)
受託者から精算請求書が届いた段階で、経理担当者が主体となって書類の完全性を検証します。ここでのチェックポイントは次の通りです。
- 立替金精算書の記載要件(受託者名・立替日・金額・目的・原本発行元)
- 原本のインボイスまたは領収書の写しの有無
- 事前承認の記録との突合(金額・目的・対象費目)
- 契約書または覚書で定めた書類要件との整合
検証で不足があれば、PM 経由または直接、受託者に追加書類を依頼します。この段階で不備を発見しておくことで、会計計上後の修正処理を避けられます。
会計計上・支払フェーズ(経理主導)と PM への通知
書類の検証が済んだら、経理担当者が勘定科目を確定して会計計上します。前述の勘定科目の使い分けに従い、立替金・外注費・旅費交通費のいずれで処理するかを決定し、消費税の課税区分と併せて仕訳を起票します。
支払の実行は、報酬本体と同一サイクル・同一期日で行い、支払完了後は PM に通知します。この通知が、PM から受託者への「支払完了」の連絡につながり、外部エンジニアとの信頼関係の維持に寄与します。
定期的な契約書レビューと運用改善サイクル
一度整えた契約書と社内フローも、実運用では想定外のケースが発生します。四半期または半期に1回、次の観点で振り返りを行い、契約書と社内フローを改善しましょう。
- 契約書の対象費目・上限額が実運用と合っているか
- 立替請求のリードタイム(発生から精算完了まで)に問題がないか
- PM の事前承認プロセスが形骸化していないか
- 受託者側からの改善提案がないか
このサイクルを回すことで、外部エンジニアの活用規模が拡大しても、経理・PM 双方の運用負荷を抑えたまま対応できる状態を維持できます。
まとめ — 既存契約への当面対処と今後の予防整備の両輪で組み立てる
業務委託の経費立替は、契約形態の原則負担者・勘定科目・インボイス制度・源泉徴収・フリーランス新法・社内フローという複数の論点が絡む実務課題です。今回の請求への即応と、今後の予防整備を両輪で進めることが、外部人材との信頼関係を守りつつ、税務・法務のリスクを避ける近道です。
既存契約下の当面対処としては、契約形態(請負/準委任)を確認して負担原則を押さえ、書類の実態から立替金・外注費・旅費交通費のいずれで処理するかを判定します。インボイス制度下では立替金精算書と原本の写しの受領を徹底し、源泉徴収の要否は業務類型と支払方法で切り分けます。
今後の予防整備としては、契約書または覚書に対象費目・事前承認フロー・上限額・支払期日・書類要件の5項目を明記し、フリーランス新法の支払期日ルールと整合させます。社内では PM 主導の事前承認と経理主導の書類検証・会計計上のフローを標準化し、四半期ごとに実運用と契約書のギャップをレビューする改善サイクルを回します。
この記事で提示した判断軸と契約書記載イメージを、明日からの実務判断と社内議論の共通言語として活用してください。
よくある質問
- 契約書に経費立替の記載がない状態でも、今回の請求はそのまま支払ってよいですか?
契約形態(請負か準委任か)を確認し、準委任であれば発注者負担が原則のため支払い自体は可能ですが、立替金精算書と原本インボイスの写しを受領したうえで処理する必要があります。並行して覚書で対象費目・上限額・支払期日を追記し、次回以降の請求に備えることが実務上のポイントです。
- 受託者が免税事業者の場合、交通費の立替は精算できませんか?
精算自体は可能ですが、原本の発行元が免税事業者だと仕入税額控除は原則できません(経過措置期間中は一定割合の控除が可能です)。公共交通機関の領収書は発行元がインボイス発行事業者であることが多く、控除対象になりやすい点も併せて確認しましょう。
- 経費立替の請求書では、源泉徴収の対象額をどう扱えばよいですか?
報酬と立替経費を合算せず、請求書上で区分して記載してもらうことで、立替経費相当額を源泉徴収の対象額から除外できます。区分がない請求書を受け取った場合は、受託者に立替金精算書付きでの再発行を依頼しましょう。
- 経費立替の社内フローは、PMと経理のどちらが主導すべきですか?
業務目的との整合を判断する事前承認はPM、精算書類の検証と会計計上は経理が主導する分担が実務的です。それぞれの役割と確認項目を契約書や社内規程に明記しておくことで、書類不備や支払い遅延を防ぎやすくなります。
- 経費立替の支払いを報酬より遅らせても、フリーランス新法上は問題ありませんか?
経費立替も業務遂行に伴う支払いのため、報酬本体と同一サイクル・同一期日で支払うのが原則です。やむを得ず支払サイクルを分ける場合も、受領日から起算して60日以内という支払期日ルールの枠を超えないよう管理してください。



