フリーランスエンジニアへの業務委託を検討する企業が増えています。しかし、「契約書はネットのテンプレートをそのまま使えばよい」と考えていると、後々のトラブルに巻き込まれる可能性があります。ネット上に流通する業務委託契約書(外注契約書、フリーランス契約書と呼ばれることもあります)のテンプレートの多くは受託者(フリーランス側)の立場で作られているものも多く、発注者として必要な保護条項が盛り込まれていないケースが少なくありません。
また、2024年11月には「フリーランス新法」(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が施行され、発注者側に新たな義務が課されました。取引条件の書面明示義務や報酬支払期限の規制といった新しいルールを契約書に正しく反映しなければ、法令違反リスクを抱えることになります。
ここで注意したいのは、「業務委託契約書さえカスタマイズすればフリーランス新法対応は完了する」というわけではない、という点です。契約書は取引全体の基本条件を定める書面であるのに対し、フリーランス新法が求める取引条件の明示(3条通知)は個別の発注案件ごとに行うことが原則であり、その役割を担うのが契約書とは別の「発注書」です。さらに準委任契約であれば、業務が実際に遂行されたことを示す「作業報告書」の運用も欠かせません。基本契約書だけを整えて安心してしまうと、個別発注や日々の業務運用の場面で対応漏れが生じるおそれがあります。
さらに、エンジニアへの発注には「知的財産権の帰属」「偽装請負」「瑕疵担保責任」など、汎用的なテンプレートだけではカバーできない特有のリスクが存在します。これらをどう契約書に落とし込めばよいか、判断に困る担当者は多いでしょう。
本記事では、業務委託契約書テンプレートを発注側として活用する際に知っておくべき必須13項目、フリーランス新法への対応方法、エンジニア特有のリスク条項の設計方法に加えて、契約書だけでは完結しない発注書・作業報告書の実務まで、発注者として整備すべき書面の全体像を解説します。
業務委託契約書を発注側が用意すべき理由
ネットのテンプレートは受託者側に有利なケースがある
インターネットで「業務委託契約書 テンプレート」と検索すると、多数の無料テンプレートが見つかります。しかし、それらのテンプレートがどの立場で作られたものかを確認することは重要です。
フリーランス向けのメディアや法律事務所が公開するテンプレートは、受託者(フリーランス側)の権利を守ることを重視して設計されているものが少なくありません。たとえば、知的財産権を受託者側に留保する条項や、損害賠償の上限を発注者に不利な形で設定している条項が含まれているケースがあります。
発注者として業務委託契約書を作成する場合は、そのテンプレートが「誰のために作られたものか」を確認し、必要に応じて発注者保護の観点からカスタマイズすることが必要です。
発注者が先に契約書を準備することで交渉主導権を持てる
業務委託契約書の交渉では、ひな型を提示した側が交渉の主導権を握りやすくなります。受託者から提示された契約書に対して「この条項は変えてほしい」と要求するよりも、発注者側が先にひな型を提示し、そこから協議を始める方がスムーズです。
発注者として事前に契約書の骨子を整備しておくことで、交渉の出発点を有利に設定できます。初めてフリーランスエンジニアに発注する場合でも、本記事で解説する必須項目をベースにすることで、標準的な発注者向け契約書の準備が可能です。
契約形態の選び方|請負か準委任か、発注者が判断する基準

業務委託契約には大きく「請負契約」と「準委任契約」の2種類があります。どちらを選ぶかによって、発注者と受託者双方の権利・義務が大きく変わります。
請負契約が向くケース(成果物が明確な開発)
請負契約とは、受託者が「仕事の完成」を約束し、発注者がその対価として報酬を支払う契約です。成果物の納品が明確に定義できるプロジェクトに適しています。
- 仕様が確定している機能開発やシステム構築
- 特定の画面や機能の開発(仕様書ベースで範囲が明確)
- 成果物の検収・納品が明確に定義できる作業
請負契約では、受託者は仕事を完成させる義務を負い、完成前に解除された場合などを除き、成果物が完成しなければ報酬請求ができません。また、瑕疵担保責任(成果物に欠陥があった場合の補修・損害賠償責任)が発生します。発注者にとって成果物の品質担保という観点では有利な側面があります。
準委任契約が向くケース(アジャイル・コンサルティング)
準委任契約とは、受託者が一定の「業務の遂行」を約束し、その業務に対して報酬が発生する契約です。成果物の完成を保証するのではなく、専門的なスキルを持って誠実に業務を遂行することが義務となります。
- アジャイル開発(スプリントごとに要件が変化する開発)
- 技術コンサルティングやアドバイザリー業務
- 仕様が変わりやすい保守・運用業務
- 月次稼働型の開発支援(稼働時間に対して報酬が発生)
準委任契約では瑕疵担保責任が発生しないため、バグや不具合への対応を別途定める必要があります。また、成果物の完成を保証しないため、発注者としては「作業はしたが期待した成果が出なかった」というリスクを負います。契約書上で業務の遂行基準や成果目標を明確にするとともに、業務が実際に遂行されたことを示す「作業報告書」の運用を整えることが重要です(書き方は後述の「発注書と作業報告書」で解説します)。
契約形態を誤った場合のリスク
アジャイル開発で請負契約を選んだ場合、要件が途中で変わるたびに「契約変更」が必要になり、追加費用の交渉が複雑になります。一方で、成果物が明確な開発を準委任契約にすると、納品物が不十分でも報酬支払い義務が生じるリスクがあります。
プロジェクトの性質を踏まえて契約形態を選び、選んだ契約形態に合わせた条項設計をすることが重要です。
業務委託契約書の必須記載事項13項目

発注者として業務委託契約書に盛り込むべき13の記載事項を解説します。各項目について、盛り込まなかった場合のリスクも合わせて確認してください。
1. 業務内容・成果物の定義
委託する業務の内容を具体的に定義します。「システム開発業務一切」のような曖昧な記載では、受託者が行うべき業務の範囲を巡ってトラブルになります。
盛り込むべき内容:
- 委託業務の具体的な内容(機能要件・技術要件)
- 成果物の形式(ソースコード、仕様書、テスト結果等)
- 業務範囲に含まれないもの(除外事項)
2. 契約期間・更新条件
契約期間と更新の取り扱いを明記します。自動更新条項が含まれる場合は、更新拒否の通知期限も合わせて定めます。
3. 報酬額・支払い時期・方法
報酬の金額、支払いのタイミング(月末締め翌月末払い等)、支払方法(振込・口座)を明確に定めます。フリーランス新法の要件(後述の60日以内ルール)を満たした支払期日を設定することが必要です。
4. 知的財産権の帰属(発注者帰属を明記する理由)
委託業務で創作した成果物の著作権や知的財産権の帰属先を明記します。これを定めない場合、成果物(ソースコード、デザイン等)の著作権は原則として創作者である受託者に帰属します(著作権法の原則)。
発注者として成果物を自由に利用・改変・再利用するためには、「本業務で作成した成果物に関する知的財産権(著作権法第27条・第28条の権利を含む)は、委託料の完済をもって委託者に移転する」といった条項を盛り込むことが必要です。詳しくはシステム開発の著作権は誰のもの?発注者が知っておきたい権利帰属と契約のポイントで解説しています。
5. 秘密保持義務
業務遂行中に受託者が知り得た機密情報(技術情報、顧客情報、事業計画等)の取り扱いを定めます。秘密情報の定義、保持義務の範囲、契約終了後の秘密保持期間を明記します。
6. 再委託の禁止または制限
受託者が業務の一部または全部を第三者に再委託することを禁止または制限します。特にセキュリティが重要な業務や機密情報を扱う業務では、無断再委託を禁止することが重要です。再委託を認める場合でも、「事前に発注者の書面による承認が必要」とすることで管理できます。
7. 損害賠償の上限設定
受託者が業務上の過失により発注者に損害を与えた場合の損害賠償の上限額を設定します。上限を設定しない場合、受託者側が過大な賠償リスクを懸念して契約を結びたがらないことや、逆に発注者が想定外の賠償を受けられないケースがあります。
一般的には「報酬の〇ヶ月分を上限とする」といった設定が用いられます。
8. 契約解除条件
契約を解除できる条件を定めます。一般的な解除事由(債務不履行、信頼関係の破壊等)に加えて、エンジニア案件では「技術品質の著しい低下」「納期の大幅な遅延」なども解除事由として検討します。
中途解除の場合の精算方法(既遂業務分の報酬の取り扱い)も合わせて定めることが重要です。
9. 瑕疵担保責任(請負の場合)
請負契約を選んだ場合、成果物に欠陥(バグ等)があった場合の対応を定めます。瑕疵の定義・発見した場合の通知期限・修補義務・損害賠償の可否を明記します。
準委任契約の場合は瑕疵担保責任は発生しませんが、バグ発見時の対応(修正対応の有無・費用負担)について別途条項を設けることを推奨します。
10. 偽装請負リスクに対応する指揮命令の明記
発注者が受託者に対して直接的な指揮命令を行うと「偽装請負」と判断されるリスクがあります。偽装請負は職業安定法・労働者派遣法違反となり、双方に罰則が科される可能性があります。
業務委託契約書には「業務の遂行方法は受託者の裁量とし、委託者は業務に関する具体的な指揮命令を行わない」といった条項を明記します。業務の進捗報告や成果物の確認は「指揮命令」ではなく「業務管理」の範囲と位置づけ、その旨を契約書に記載しておくことが有効です。
11. 反社会的勢力の排除
反社会的勢力への関与を表明・保証する条項(暴力団排除条項)を盛り込みます。現在は標準的な契約書への記載事項となっています。
12. 紛争解決・管轄裁判所
契約に関する紛争が生じた場合の解決方法(協議・調停・仲裁・訴訟)と管轄裁判所を定めます。一般的には発注者の所在地(本店所在地)の地方裁判所を専属的合意管轄とすることが発注者にとって有利です。
13. 印紙税・電子契約の取り扱い
請負契約の契約書には契約金額に応じた印紙税が課されます。一方、電子契約(電磁的方法による締結)の場合、印紙税の課税対象外となります(国税庁の見解)。クラウドサイン等の電子契約サービスを活用することで印紙税のコスト削減が可能です。
フリーランス新法(2024年11月施行)が発注者に課す義務

2024年11月1日に施行された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス新法)により、企業がフリーランスに業務委託する際の義務が強化されました。
3条通知(取引条件の書面明示義務)とは
フリーランス新法第3条では、発注者がフリーランスに業務を委託する際、取引条件を書面または電磁的方法(メール等)で明示することを義務付けています。これを「3条通知」と呼びます。
明示が必要な事項は以下のとおりです:
- 委託者・受託者の氏名または名称
- 業務委託の内容
- 報酬の額
- 支払期日
- 業務の実施場所・実施方法
実務上は、契約書に上記事項を盛り込んで締結することで3条通知の義務を同時に満たすことができます。「契約書を締結したから3条通知は不要」ではなく、「3条通知に必要な事項を契約書に含めた上で、契約書を交付する」という位置づけです。
なお、3条通知は「個別案件ごとに行う」ことが原則です。基本契約書に記載があっても、個別案件ごとの取引条件は「発注書」等で都度明示する必要があります。発注書に何を記載し、いつ交付すべきかは、後述の「発注書と作業報告書」で詳しく解説します。
報酬支払期限(60日以内ルール)を契約書に反映する方法
フリーランス新法第4条は、特定業務委託事業者が成果物を受け取ってから60日以内に報酬を支払うことを義務付けています(公正取引委員会 フリーランス法Q&A)。
契約書への反映方法: 報酬の支払い期日を「成果物(または業務)を受領した月の翌月末日」のように具体的に設定します。翌月末払いでは受領日から最大60日以内となり、原則に適合します。「月末締め翌々月末払い」のように60日を超える設定は法令違反となるため注意が必要です。
ハラスメント対策体制の整備義務と契約書への記載
フリーランス新法第14条は、発注者にハラスメント防止のための体制整備を義務付けています。具体的には、フリーランスが利用できる相談窓口の設置・周知と、相談後の不利益取扱いの禁止です。
契約書への記載例: 「委託者はフリーランス新法第14条に基づき、受託者がハラスメントに関する相談等を行える体制を整備し、相談窓口を設置します。受託者の相談を理由とした不利益取扱いは行いません」といった条項を盛り込むことが有効です。
対象となる「特定業務委託事業者」の確認
フリーランス新法の義務のうち一部は、「特定業務委託事業者」(従業員を使用している発注者)にのみ適用されます。一人社長(役員のみで従業員なし)の場合は一部の義務が免除されますが、多くの企業では適用対象となります。自社が「特定業務委託事業者」に該当するかを確認しておきましょう。
発注書と作業報告書|契約書だけでは完結しないフリーランス新法対応の実務
業務委託契約書(基本契約書)を整備しても、それだけでフリーランス新法対応が完了するわけではありません。契約書は取引全体に共通する基本条件(契約期間・報酬体系・知的財産権の帰属等)を定める書面であるのに対し、実際の発注は個別の案件ごとに発生します。前章で触れたとおり、3条通知は「個別案件ごと」の明示が原則であり、この役割を担うのが「発注書」です。また、準委任契約の場合は業務遂行の証跡として「作業報告書」の運用も必要になります。基本契約書・発注書・作業報告書の3点セットが揃って初めて、発注者としてのフリーランス新法対応が実務レベルで完成します。
発注書とは|業務委託契約書との違い
業務委託契約書(基本契約書)は、取引全体に共通する基本条件を定める書面です。一方、発注書(個別注文書)は、基本契約書に基づいて発生する個別の発注案件ごとに、その案件固有の業務内容・報酬額・納期を明示する書面です。
フリーランス新法の観点では、基本契約書に3条通知の必須事項を記載していても、それは「取引の枠組み」を示したに過ぎません。個別案件が発生するたびに、その案件固有の条件を発注書等で改めて明示する必要があります。「フリーランス新法 発注書 テンプレート」と検索する担当者の多くは、まさにこの「契約書とは別に、個別発注のたびに何を作成すべきか」という実務フローに悩んでいます。
発注書に記載すべき必須事項(3条通知の個別案件対応)
発注書には、以下の事項を明記します。
- 委託者・受託者の氏名または名称
- 発注日
- 業務委託の内容(成果物・作業内容の具体的な範囲)
- 納期(検収完了予定日)または実施期間
- 報酬の額
- 支払期日
- 業務の実施場所・実施方法
- 検査(検収)の有無とその内容・基準
実務上は、基本契約書と重複する事項(氏名・支払条件等)を含めつつ、個別案件固有の情報(発注日・成果物の内容・納期)を追記した簡易な様式で発行することが一般的です。メール本文への明記や、クラウドサインなどの電子契約サービス上でのやり取りでも、上記事項が書面または電磁的方法で残っていれば3条通知の要件を満たします。
発注書の発行タイミングにも注意が必要です。案件着手前(業務開始前)に交付することが原則であり、着手後に条件を明示すると、フリーランス新法が求める適時性の要件を欠くおそれがあります。
準委任契約における作業報告書の運用|書き方とテンプレート項目
準委任契約(前述の「契約形態の選び方」参照)は成果物の完成を約束する契約ではなく、「業務の遂行」自体に対して報酬が発生します。そのため請負契約のような検収書がなく、業務が実際に遂行されたことを証明する書面として「作業報告書」の運用が重要になります。
作業報告書がないと、フリーランス新法の60日以内支払いルールの起算点(業務を受領した日)が曖昧になったり、支払いを巡るトラブルが生じた際に業務遂行の実態を証明できなくなるリスクがあります。
作業報告書に記載すべき主な項目は以下のとおりです。
- 対象期間(月次が一般的)
- 実施した業務内容(タスク単位での記録が望ましい)
- 稼働時間または工数
- 成果・進捗状況
- 特記事項(課題・次月への申し送り等)
稼働時間ベースで報酬を精算する準委任契約(月次稼働型の開発支援等)では、作業報告書の稼働時間実績が請求金額の根拠にもなります。見積書の段階で「月間○時間を上限とする」といった前提を定めている場合、作業報告書の実績時間と見積書の想定時間との乖離を毎月確認する運用にしておくと、追加費用の交渉や契約更新時の見直しがスムーズになります。
作業報告書の提出頻度は、月次稼働型であれば月末締めで翌月初に提出してもらう形が一般的です。契約書上に「受託者は毎月末日までに、当月の業務内容を記載した作業報告書を委託者に提出する」といった条項を設けておくことで、提出の抜け漏れを防げます。
契約書・発注書・作業報告書の使い分け
書面 | 役割 | 作成タイミング | 主な記載事項 |
|---|---|---|---|
業務委託契約書(基本契約) | 取引全体の基本条件を定める | 契約締結時(初回のみ。更新時に見直し) | 契約期間・知的財産権・秘密保持・損害賠償上限等(必須13項目) |
発注書(個別注文書) | 個別案件ごとの取引条件を明示する(3条通知の実務対応) | 案件着手前(個別発注のたび) | 発注日・業務内容・納期・報酬額・支払期日 |
作業報告書 | 準委任契約における業務遂行の証跡を残す | 月次等の定期(業務期間終了後) | 対象期間・実施業務・稼働時間・進捗 |
エンジニア特有の4大リスク条項と発注者保護の設計

汎用的な業務委託契約書テンプレートには含まれていないことが多い、エンジニア案件特有のリスク条項について解説します。
1. 知的財産権帰属条項(成果物・ソースコードを発注者に帰属させる書き方)
著作権法の原則では、著作物の著作権は創作者(受託者)に帰属します。そのため、契約書で明示的に譲渡を定めない限り、発注者は成果物であるソースコードを自由に改変・再利用することができません。
推奨される条項の骨子:
- 「本業務で作成したプログラム、ソースコードを含む全ての成果物の著作権(著作権法第27条・第28条の権利を含む)は、委託料の完済をもって委託者に移転する」
- 汎用ライブラリ・既存モジュールについては「受託者が著作権を留保し、委託者に非独占的なライセンスを付与する」という整理も有効
受託者が使用した汎用ライブラリやオープンソースコンポーネントについては、著作権移転の対象外とした上でライセンス条件を確認・整理することも必要です。知財帰属と契約設計の詳細はシステム開発の著作権は誰のもの?発注者が知っておきたい権利帰属と契約のポイントも参考にしてください。
2. 瑕疵担保責任・バグ対応の取り決め(請負の場合)
請負契約の場合、納品物に「瑕疵」(欠陥・バグ等)があった場合の対応を具体的に定めます。民法上の規定(請負の瑕疵担保責任)に加えて、以下の点を契約書で明確にします。
- 瑕疵の定義: 仕様書との不一致を基準とするか、機能要件を満たさないことを基準とするか
- 通知期限: 瑕疵を発見してから何日以内に通知するか(一般的には30〜60日)
- 修補義務の範囲: 無償での修補対応は受領後何ヶ月以内か
3. 指揮命令の明確化(偽装請負防止)
発注者がフリーランスエンジニアに対して直接的な業務指示・進捗管理を行うと「偽装請負」と判断されるリスクがあります。業務委託と労働者派遣の区別が曖昧になると、職業安定法違反(無許可職業紹介等)の問題が生じます。
契約書で明記すべき内容:
- 「業務の遂行方法・手順・優先度の判断は受託者の裁量による」
- 「委託者は業務の進捗確認や成果物の確認は行うが、具体的な業務遂行上の指揮命令は行わない」
- 開発ツール・環境について「委託者の設備を使用する場合は、使用料として〇円/月を別途請求しない(または請求する)」旨を明記(設備の提供が労働者性の判断材料になるため)
4. 損害賠償上限の設定(発注者側リスクの上限を設ける)
損害賠償の上限を設定することは、受託者だけでなく発注者にとっても有益です。受託者側の過失により発注者が大きな損害を受けた場合、「報酬額の範囲内でしか賠償を受けられない」という状況になるリスクがあります。一方で、上限を高く設定しすぎると受託者が契約を敬遠します。
現実的な設定例:
- 「損害賠償の上限は、損害が発生した時点から直近3ヶ月以内に支払った報酬の総額を上限とする」
- 故意または重大な過失による損害については上限を適用しないとする条項も一般的
発注側がすぐ使える業務委託契約書テンプレートの活用手順
テンプレートを入手してから契約書を締結するまでの実務手順を整理します。
テンプレートのカスタマイズチェックリスト
以下の項目を確認し、テンプレートに不足があれば追記・修正します。
必須確認項目(発注者保護の観点):
- 知的財産権の帰属が「発注者帰属(著作権法第27条・第28条の権利を含む)」となっているか
- 報酬支払い期限が受領日から60日以内に設定されているか(フリーランス新法対応)
- 3条通知に必要な事項(業務内容・報酬額・支払期日・実施場所・方法)が含まれているか
- 偽装請負リスクへの対応(指揮命令の明示)が含まれているか
- 秘密保持義務・再委託制限が定められているか
- 個別発注のたびに発注書(3条通知の必須事項を反映したもの)を発行するフローが整備されているか
- 準委任契約の場合、作業報告書の提出義務(提出頻度・記載項目)が契約書に盛り込まれているか
電子契約活用のメリット(印紙税節約・フリーランス新法3条通知対応)
電子契約(クラウドサイン、DocuSign等)の活用には2つのメリットがあります。
一つ目は印紙税の節約です。請負契約書は契約金額に応じて収入印紙が必要ですが、電子締結による契約書は印紙税の課税対象外となります(国税庁の見解)。
二つ目はフリーランス新法の3条通知義務への対応が電子的に残ることです。電子契約サービスは締結日時・送付先・内容が記録されるため、「書面または電磁的方法による取引条件の明示」という法律上の要件を満たしつつ、証拠として保存できます。この仕組みは契約書だけでなく、個別案件ごとの発注書のやり取りにも活用できます。
受託者から不利な契約書を提示された場合の対処
受託者(フリーランス)から先に契約書ひな形を提示された場合、以下の観点で確認します。
- 知的財産権が受託者帰属となっていないか
- 損害賠償の上限が発注者にとって低すぎないか(または上限なしになっていないか)
- 中途解除時の精算が受託者に有利すぎないか
- 報酬支払い期限が60日以内に設定されているか
不利な条項が見つかった場合は、対案を提示して協議することが重要です。「弁護士に確認したところ修正が必要です」と伝えることで、過度な対立を避けながら交渉できます。
フリーランスエンジニアの採用にかかる費用やプロジェクト規模別の予算設計については、エンジニア費用の予算設計をプロジェクト規模別に解説|稟議に使える3ステップも参考にしてください。
まとめ|発注者として安心な契約書作成のポイント
本記事の要点をまとめます。
契約形態の選択:
- 成果物が明確な開発には請負契約
- アジャイル開発・コンサルティングには準委任契約
発注者として特に重要な条項:
- 知的財産権の帰属(著作権法第27条・第28条の権利を含む発注者帰属)
- フリーランス新法の3条通知事項の盛り込み
- 報酬支払期限の60日以内設定
- 偽装請負リスクへの対応(指揮命令の明示)
フリーランス新法対応の実務(3点セット):
- 基本契約書に発注者保護の必須13項目を盛り込む
- 個別発注のたびに発注書を発行し、3条通知の実務要件を満たす
- 準委任契約では作業報告書を運用し、業務遂行の証跡を残す
実務上の推奨:
- 発注者側がひな形を先に準備して交渉主導権を持つ
- 電子契約を活用して印紙税節約と3条通知義務の同時対応を図る
業務委託契約書は、フリーランスエンジニアとの良好な関係を維持しながら発注者の利益を守るための重要な文書です。契約書だけでなく、発注書・作業報告書を含めた3点セットでフリーランス新法に対応できているか、自社の法務担当や弁護士に確認しながら整備することをお勧めします。
外部人材の活用を検討している企業向けに、フリーランスエンジニアとの業務委託契約に関連するお役立ち資料も活用してください。
よくある質問
- 契約書はネットのテンプレートをそのまま使ってもよいですか?
そのまま使うのはリスクがあります。多くは受託者側視点で作られており、知的財産権を受託者側に留保する条項や、損害賠償の上限を発注者にとって著しく低い金額に設定する条項が含まれているケースがあります。必ず全条項を確認し、自社に不利な内容がないか修正してから使用してください。
- 契約書に3条通知の内容を盛り込めば、個別案件ごとの通知は不要になりますか?
不要にはなりません。3条通知は「個別案件ごとに行う」ことが原則のため、基本契約書に業務内容や報酬額を記載していても、案件が発生するたびに発注書やメール等で報酬額・支払期日・実施場所といった取引条件を都度明示する必要があります。
- 請負契約と準委任契約のどちらを選ぶべきか判断できない場合はどうすればよいですか?
成果物の完成を明確に定義できるかで判断してください。仕様が確定している機能開発や画面単位の開発は請負契約、要件が変化しやすいアジャイル開発や技術コンサルティング、月次稼働型の開発支援は準委任契約が適しています。
- 知的財産権の帰属条項を入れないまま契約してしまった場合、後から追加できますか?
覚書(変更契約)を締結すれば追加可能です。ただし受託者の同意が必要なため一方的に追加することはできず、既に納品済みの成果物にも遡って適用されない場合があります。気づいた時点で早めに交渉し、覚書を締結することをおすすめします。
- 自社がフリーランス新法の義務対象になるかはどう確認すればよいですか?
従業員を1人でも雇用していれば「特定業務委託事業者」として60日以内の支払いや3条通知などの義務対象になります。役員のみで従業員がいない一人社長の場合は一部義務が免除されるため、自社の雇用形態を確認してください。



