「今度こそ予算と納期を守りたい」——前回のシステム開発でコスト超過や納期遅延を経験した発注者にとって、次のプロジェクトの立ち上げは緊張の連続ではないでしょうか。経営層からは「同じ失敗は許されない」とプレッシャーを受け、しかし社内に PMO や専任のリスクマネージャーはいない。プロジェクト責任者を兼務するあなたが、自ら手を打つしかない状況が広がっています。
前回のプロジェクトを振り返ると、実はリスクの兆候はいたるところに現れていたはずです。要件が曖昧なまま設計に進んだ、テスト工程が短縮された、キーパーソンの離任があったなど、後から見れば「あそこで気付けば」と思える節が必ずあります。問題は、その兆候を継続的にウォッチし、意思決定に反映させる仕組みが発注者側になかったことです。
とはいえ、リスク管理表を作れば解決するわけではありません。多くの中小企業では、キックオフ時に立派なリスク一覧を作りながら、2〜3 週間で更新が止まり、フェーズが進むと誰も見なくなります。原因は「作ること」を目的化し、「回すこと」の設計を後回しにしてしまう構造にあります。
本記事では、システム開発のリスクマネジメントを「発注者が主導して回す実践プロセス」として体系的に解説します。PMBOK・ISO 31000 の理論を発注者視点に翻訳したうえで、5 ステップの実施プロセス、専任者がいない中小企業でも運用できる体制設計、システム開発の 7 フェーズ別リスクチェックリスト、そして形骸化しないリスク管理表の運用ルールまで踏み込みます。
読み終える頃には、「体制の合意形成 → リスク管理表テンプレートの準備 → 週次会議の枠取り」という次のプロジェクトで即着手できる 3 つのアクションが見えているはずです。前回の失敗を「経験値」に変え、今度こそリスクを制御できるプロジェクト運営を実現しましょう。
システム開発 完全チェックリスト――発注前・発注中・完了後の3フェーズで使えるチェック集

この資料でわかること
システム開発の外注・発注を初めて経験する担当者や、過去に失敗を経験した担当者が、発注プロセスの各フェーズで「何をチェックすべきか」を明確に把握できるようにする。
こんな方におすすめです
- 初めてシステム開発を外注する担当者
- 過去の発注で失敗を経験した方
- ベンダー選定の基準が分からない方
入力いただいたメールアドレスにPDFをお送りします。
システム開発のリスクマネジメントとは(発注者が担う理由)

システム開発におけるリスクマネジメントとは、プロジェクトの目的達成を脅かす不確実な事象を、事前に洗い出して備え、進行中も継続的に監視・対応するマネジメント活動を指します。ISO 31000 では、リスクを「目的に対する不確かさの影響」と定義しています(ISO31000-2018年版:リスクマネジメント-指針の経営への活用(JIPDEC))。
「事故が起きたら対処する」のではなく、「事故が起きる前に確率を下げ、起きても被害を最小化する」考え方です。発注者が主導すべき理由は、開発会社に任せきりでは業務起点のリスクや意思決定の遅れが可視化されないためです。以下では、リスクマネジメントの定義、混同されがちな「リスク管理」との違い、そして発注者が担うべき 3 つの理由を整理します。
リスクマネジメントの定義(識別・分析・対応・監視の継続的サイクル)
リスクマネジメントは、単発の作業ではなく、プロジェクトを通じて回し続ける継続的なサイクルです。プロジェクトマネジメントの世界標準である PMBOK(Project Management Body of Knowledge)では、リスクマネジメントは「識別 → 分析 → 対応計画 → 実行・監視 → 見直し」という一連のプロセスとして体系化されています。PMBOK 第 7 版では、脅威となるリスクだけでなく好機となるポジティブリスクも含めて扱う考え方が定着しています(PMBOK 第 7 版対応 プロジェクトリスク管理の実践的手法)。
ここで重要なのは「継続」です。キックオフ時に洗い出したリスクは、フェーズが進めば陳腐化します。要件定義で新たに発見された事項、外部環境の変化、キーパーソンの体制変更など、リスクは常に変動します。1 回作って終わりではなく、週次・月次で棚卸を続けるからこそ意味を持ちます。
「リスク管理」との違い(事前対処と事後対応、対語としての「問題管理」)
現場では「リスク管理」と「問題管理」が混同されがちですが、両者は対処するタイミングが決定的に異なります。
- リスク管理: 発生していない不確実な事象に対して、確率と影響度を評価し、事前に対策を講じる活動
- 問題管理(イシュー管理): すでに発生した事象に対して、原因分析と復旧・是正を行う活動
「リスク登録簿」に「本番で障害が発生した」と書かれていたら、それはもうリスクではなく問題(イシュー)です。発生済み事象は課題管理表に転記し、リスク管理表は「これから起こりうる不確実な事象」だけを扱う運用にしましょう。この線引きが甘いと、リスク管理表が発生済み障害の履歴で膨れ上がり、本来監視すべき兆候が埋もれます。
発注者が主導すべき3つの理由
「開発会社がプロジェクトマネージャーを立ててくれるから、発注者はリスク管理まで踏み込まなくてよいのでは」と考える方もいらっしゃいます。しかし、以下の 3 つの理由から、発注者側にもリスクマネジメントの主体が必要です。
理由 1: 業務起点のリスクは発注者にしか見えない
法改正への追随、繁忙期の業務停止許容度、他部門との調整、既存業務プロセスとの整合性——これらは発注者側の業務知識がなければリスクとして認識できません。開発会社は技術的リスクは特定できますが、業務起点のリスクは発注者側から情報提供しなければ見落とされます。
理由 2: 早期対処のトリガーは発注者側の意思決定が担う
リスクが顕在化しそうな兆候をつかんだとき、対応策(要件の絞り込み、リソース追加、リリース時期の見直しなど)を決めるのは発注者側です。開発会社に「どうしましょうか」と丸投げされたとき、判断が遅れれば遅れるほど手当のコストは指数関数的に膨らみます。
理由 3: 契約後の主導権を握るため
契約締結後、発注者が受け身になると、開発会社の提案通りに進むことになりがちです。これ自体は必ずしも悪ではありませんが、コスト・品質・スコープのトレードオフが発注者の意向に沿わない方向に流れるリスクがあります。リスク管理を通じて発注者が主導権を握ることは、プロジェクトの目的(業務価値の実現)を守るために不可欠です。
なお、リスクの種類そのもの(技術的リスク・金銭リスク・納期リスクなど)を体系的に理解したい場合は、別記事のプロジェクトリスク管理ガイドも併せてご覧ください。本記事ではプロセスと運用に集中して解説します。
システム開発リスクマネジメントの5ステッププロセス

ここからは、リスクマネジメントを実践するための 5 ステッププロセスを、発注者視点で解説します。PMBOK に準拠しつつ、中小企業の発注者が兼務前提でも回せる粒度に整理しました。各ステップで作成する成果物と、発注者が保有すべきか開発会社と共有すべきかの切り分けも明示します。
ステップ | 主な活動 | 主な成果物 | 発注者主管/共有 |
|---|---|---|---|
1. 識別 | リスクの洗い出し・登録 | リスク一覧(Risk Register) | 発注者主管・開発会社と共有 |
2. 分析 | 発生確率・影響度の評価 | 確率影響度マップ(P-I Matrix) | 発注者主管 |
3. 対応計画 | 回避・軽減・転嫁・受容の戦略選定 | 対応計画書(Response Plan) | 発注者主管・関係者と共有 |
4. 実行・監視 | 対応策の実施・状態のトラッキング | 週次レビュー議事録・状態更新 | 発注者主管 |
5. 見直し | フェーズゲートでの棚卸 | 見直し報告書・変更履歴 | 発注者主管 |
ステップ1 リスクの識別(RFP段階から洗い出す)
リスクの識別は、できるだけ早い段階、理想的には RFP(提案依頼書)作成時点で始めます。この時点で洗い出すべきリスクは以下の観点でチェックしていくと漏れにくくなります。
- 業務要件の観点: 現行業務のどこが未整理か、決裁者は誰か、複数部門の合意プロセスは
- 技術要件の観点: 新技術採用の有無、既存システム連携、性能要件、セキュリティ要件
- 体制の観点: 発注者側の稼働可能時間、キーパーソンの離任リスク、業務主管の関与度
- 金銭・契約の観点: 予算上限、追加予算の稟議期間、契約形態(請負/準委任)の適合性
- 納期の観点: 事業側の絶対期日(法改正・キャンペーン等)、逆算した中間マイルストーン
識別に用いる手法は、社内キーパーソンへのヒアリング、過去プロジェクトの振り返り、開発会社との合同ワークショップ(プレモータム分析)などがあります。「過去に失敗したこと」「今回不安なこと」を素直に書き出すことがスタートラインです。
ステップ2 リスクの分析(確率×影響度で優先順位付け)
洗い出したリスクをすべて同列に扱うと、対応の優先順位がつきません。「発生確率」と「影響度」の 2 軸で評価し、優先度を決めます。以下は中小企業でも使いやすいシンプルな 3 段階評価です。
発生確率 | 定義の例 |
|---|---|
高 | プロジェクト中に発生する可能性が 60% 以上 |
中 | 発生する可能性が 30〜60% |
低 | 発生する可能性が 30% 未満 |
影響度 | 定義の例 |
|---|---|
高 | 予算 10% 超過、納期 1 か月以上遅延、または業務停止 |
中 | 予算 5〜10% 超過、納期 2〜4 週遅延、または品質低下 |
低 | 予算 5% 未満、納期 2 週未満、または軽微な影響 |
「高×高」「高×中」「中×高」は最優先で対応計画を立て、「低×低」は監視のみとする、といった閾値ルールを社内で合意しておくと、後の意思決定がスムーズになります。数値化にこだわりすぎず、「経営に説明するときにどう伝えるか」の視点で 3 段階から始めれば十分です。
ステップ3 対応計画の策定(回避・軽減・転嫁・受容の4戦略)
リスクの優先度が決まったら、それぞれに対する対応戦略を選択します。脅威となるリスクに対する基本 4 戦略は以下のとおりです。
- 回避(Avoid): リスクの原因を取り除きます。例: 新技術の採用をやめ実績のある技術に変更
- 軽減(Mitigate): 発生確率または影響度を下げます。例: プロトタイプで技術検証、テスト工程を厚くする
- 転嫁(Transfer): 第三者に責任・被害を移します。例: 保険加入、契約で受託範囲を明示、SLA を締結
- 受容(Accept): 何も対策せず受け入れます。例: 影響が軽微なため発生時に対応、コンティンジェンシー予算を確保
さらに PMBOK 第 6 版以降では、プロジェクトの権限を越えたリスクを組織上位者に上げる「エスカレーション」も戦略の 1 つとして扱われています(PMBOK ガイド第 6 版の変更点:リスク・マネジメント知識エリア(トレノケート))。中小企業の場合、経営層への月次報告でエスカレーション対象を明示するルートを事前に設計しておきましょう。
対応計画書には「誰が」「いつまでに」「何を」実施するか、そして「実施後にどうなっていればクローズできるか(クローズ条件)」まで明記します。クローズ条件が曖昧なリスクは、いつまでも管理表に残り続け、後述の形骸化の原因になります。
ステップ4 実行と監視(週次レビュー会議の運用)
対応計画を立てたら、実施と監視のフェーズに入ります。ここで最も重要なのは「見る仕組みを固定する」ことです。個人の記憶や善意に頼ると必ず止まります。
推奨する運用の型は、週次リスクレビュー会議(30 分・固定曜日・固定メンバー)です。アジェンダは以下の 4 項目に絞ると 30 分で回せます。
- 前週のトップリスク(優先度上位 3〜5 件)の状態確認と担当者からの報告
- 新規発生リスクの登録
- クローズ候補のレビュー(クローズ条件が満たされているか)
- エスカレーション判断(月次経営報告に上げるべきものの選定)
会議は「意思決定の場」であり、「議論の場」ではないと合意することが継続のコツです。議論が必要な事項はサブミーティングに切り出し、レビュー会議は 30 分厳守にします。
ステップ5 見直し(フェーズゲート・振り返り)
システム開発は要件定義・設計・開発・テスト・運用と段階的に進むため、各フェーズの節目(フェーズゲート)でリスク一覧を大きく見直します。前フェーズで顕在化したリスクをクローズし、新フェーズで顕在化しうるリスクを追加する棚卸を行います。
フェーズゲートでは以下の 3 点をアウトプットします。
- 前フェーズの振り返り(発生したリスクと未然防止できたリスクの一覧)
- 次フェーズのリスク一覧(新規識別分を含む)
- プロジェクト全体の健全性判断(Go/No-Go/条件付き Go)
プロジェクト終了時には、リスク管理表そのものを組織の資産として保存し、次のプロジェクトの識別ステップで参照できるようにしておきます。この蓄積が、次回以降のリスクマネジメントの質を大きく高めます。
発注者側のリスク管理体制の作り方

「PMO を置く」「専任のリスクマネージャーを配置する」といった教科書的な体制論は、中小企業の実情に合いません。ここでは、専任者不在・兼務前提の中小企業でも実装可能な体制設計を提示します。ポイントは「役割の分担を明確化すること」と「会議体を固定化すること」の 2 点です。
役割分担マトリクス(責任者・業務主管・情シス・法務・経理)
まずは、プロジェクトに関与する主要ロールと責任範囲を明文化します。以下は中小企業でよく採用される 5 ロールの分担例です。
ロール | 主な責任範囲 | リスク管理での関与 |
|---|---|---|
プロジェクト責任者(発注者側 PM) | プロジェクト全体の意思決定 | リスク管理の主管・エスカレーション判断 |
業務主管(事業部門の代表) | 業務要件の確定・受入判断 | 業務起点リスクの識別・優先度判定 |
情シス担当 | 技術要件・既存システム連携・運用移行 | 技術リスクの識別・監視 |
法務担当 | 契約書レビュー・準拠法対応 | 契約リスク・法令遵守リスクの識別 |
経理担当 | 予算執行・支払・稟議手続 | 金銭リスクの監視・稟議期間の見積 |
すべての役割を専任で置ける企業は多くありません。1 人が 2〜3 ロールを兼務するのが現実的です。重要なのは「兼務であっても責任範囲を紙に書き、全員で合意する」ことです。RACI(Responsible/Accountable/Consulted/Informed)で明示するとさらに明確になりますが、中小企業では「主担当・副担当・確認者」の 3 区分で始めても十分機能します。
週次リスクレビュー会議の運用ルール
前節のステップ 4 で触れた週次リスクレビュー会議を、運用ルールとして明文化します。以下がおすすめのテンプレートです。
- 開催頻度: 週次(曜日・時刻固定)
- 所要時間: 30 分(延長不可)
- 参加者: プロジェクト責任者・業務主管・情シス担当(+ 該当リスクの担当者)
- アジェンダ: トップリスクレビュー / 新規リスク登録 / クローズ判定 / エスカレーション判断
- 議事録: リスク管理表の状態を最新化することが議事録の代替(別途議事録を作らない)
- 欠席時の運用: 代理出席 or 事前コメント提出を必須とし、会議自体は中止しません
会議のオーナーは必ずプロジェクト責任者(発注者側 PM)が担当します。開発会社のプロジェクトマネージャーは参加者としてオブザーブしてもらう位置づけです。オーナーが発注者側にあることで、業務起点リスクや意思決定が主軸になります。
月次経営報告会とエスカレーション基準
週次レビューで拾いきれない、経営層の判断が必要なリスクは月次経営報告会に上げます。ここでの要諦は「エスカレーション基準を事前に決めておく」ことです。基準が曖昧だと、担当者が忖度して報告を止めてしまい、経営層が知ったときには手遅れになります。
エスカレーション基準の例:
- 予算超過見込みが 5% を超えた
- 主要マイルストーンの遅延が 2 週間以上見込まれる
- 契約範囲外の追加要件が発生した
- キーパーソンの離任・体制変更が発生した
- 未解決の技術リスクが 2 週間以上残っている
月次経営報告会は 15 分程度で、「今月のトップリスク 3 件」「エスカレーション判断 1〜2 件」「今後 1 か月の重点監視事項」の 3 点に絞ると経営層にも共有しやすくなります。
PMOを置けない中小企業の代替体制
PMO を組織として設置できない場合、以下の 2 つの代替策で実質的な機能を担保できます。
代替策 1: 兼務 PMO ロール
情シス担当や DX 推進マネージャーが「兼務 PMO」として週 4〜6 時間程度の時間枠を確保し、リスク管理表の運用・週次会議のファシリテーション・議事録整理を担います。「兼務でも 1 人に集約する」ことが分散運用よりも大幅に効果的です。
代替策 2: 外部支援の限定活用
コンサルティング会社や開発会社のプロジェクトサポートサービスを限定的に活用し、リスク管理プロセスの立ち上げ支援を受ける方法です。プロセスと管理表テンプレートが定着した後は自社運用に切り替えることで、コストを抑えつつ品質を担保できます。この場合、開発会社に依頼するときは「実装する会社」と「リスク管理を支援する会社」を分けることで、開発会社の自己評価バイアスを避けられます。
フェーズ別リスク管理チェックリスト

システム開発は要件定義から運用開始まで複数のフェーズを経ます。各フェーズで顕在化しやすいリスクは異なるため、フェーズごとに「監視すべきリスク」「発注者側の実施内容」「意思決定タイミング」を対応表にしておくと、実務で漏れが減ります。
RFP・見積フェーズ(要件曖昧リスク・見積根拠不透明リスク)
RFP・見積フェーズで発注者が特に注意すべきリスクは、要件の曖昧さと見積根拠の不透明さです。
リスク | 発注者側の実施内容 | 意思決定タイミング |
|---|---|---|
要件が曖昧なまま見積が出る | RFP に「必須要件」「あればよい要件」を分けて明記 | RFP 提出前の社内レビュー |
見積根拠が不透明で比較不能 | 工数内訳(機能別・工程別)の提示を必須化 | 見積受領時 |
前提条件の齟齬 | 前提条件(想定利用者数・データ量・稼働時間等)を RFP に記載 | RFP 発行時 |
追加要件の受入基準が不明確 | 変更管理プロセス(追加要件の見積・承認フロー)を提案依頼に含める | 契約前 |
フェーズゲート判定基準: 見積の内訳が機能別に把握でき、複数社の比較が定量的にできる状態になっていること。
契約フェーズ(責任範囲不明確リスク・準委任/請負選定リスク)
契約フェーズは、後々のトラブルを未然に防ぐ最大の機会です。発注者・法務担当が中心となってチェックします。
リスク | 発注者側の実施内容 | 意思決定タイミング |
|---|---|---|
責任範囲・成果物定義の曖昧さ | 成果物一覧・受入条件を契約書別紙に明記 | 契約締結前 |
契約形態の不適合(請負/準委任) | 要件固定度合いで契約形態を選定 | 見積確定時 |
瑕疵担保期間・保守範囲の不合意 | 保守契約の範囲・費用・SLA を並行協議 | 契約締結前 |
変更管理プロセスの未定義 | 追加・変更発生時のフロー(見積 → 承認 → 実施)を契約書に規定 | 契約締結前 |
知的財産権の帰属 | 成果物の著作権・利用権・二次利用の可否を明示 | 契約締結前 |
フェーズゲート判定基準: 法務・経理・情シスの三者レビューを通過し、責任範囲と変更管理プロセスが契約書で明文化されていること。
要件定義フェーズ(スコープクリープ・優先順位不合意リスク)
要件定義フェーズでは、「必要な要件を漏らさず洗い出す」ことと「不要な要件を絞り込む」ことの両立が求められます。
リスク | 発注者側の実施内容 | 意思決定タイミング |
|---|---|---|
スコープクリープ(要件が肥大化) | MoSCoW(Must/Should/Could/Won't)で優先度合意 | 要件定義中間レビュー |
業務部門間の要件不合意 | 業務主管が代表として決裁権を持つ運用に | 要件確定前 |
現行業務の暗黙知が漏れる | 業務ヒアリング・現場観察を段階的に実施 | 要件定義初期 |
非機能要件(性能・可用性)の不足 | 想定ピーク時利用量・許容ダウンタイムを数値化 | 要件確定前 |
フェーズゲート判定基準: 業務主管が要件書に署名(合意)し、優先度が Must/Should/Could で仕分けられていること。
設計・開発フェーズ(技術選定リスク・進捗遅延の早期検知)
設計・開発フェーズでは、進捗の見える化と早期対処が鍵です。
リスク | 発注者側の実施内容 | 意思決定タイミング |
|---|---|---|
技術選定の妥当性が不透明 | 技術選定理由書(Trade-off Log)の作成を依頼 | 基本設計レビュー |
進捗遅延の発覚が遅い | バーンダウン/マイルストーン別進捗を週次確認 | 週次レビュー会議 |
キーパーソン離任 | 開発会社の人員配置・バックアップ体制を確認 | 契約時 + 都度確認 |
発注者側レビュー遅延 | レビュー期日の事前合意・レビューア確保 | フェーズ計画時 |
フェーズゲート判定基準: 主要機能のプロトタイプまたはデモが完了し、進捗が計画比 ±10% 以内に収まっていること。
テスト・受入フェーズ(品質基準未達リスク・受入条件不明確リスク)
テスト・受入フェーズは、「本番切替の前に問題を見つけきる」最後の機会です。
リスク | 発注者側の実施内容 | 意思決定タイミング |
|---|---|---|
テスト工程の短縮 | 単体・結合・総合・受入の期間を契約前に明示 | 契約時 |
品質基準の未合意 | バグ密度・重要度別残存許容数を事前合意 | テスト計画時 |
受入条件の曖昧さ | 受入基準書(機能・非機能・運用)を事前作成 | 受入テスト開始前 |
ユーザートレーニング不足 | 業務主管を中心に受入テストと兼ねて実施 | 受入テスト期間 |
フェーズゲート判定基準: 受入基準書の合意 100%、重要度「高」の未解決バグ 0 件を達成していること。
運用開始フェーズ(本番障害リスク・保守契約範囲リスク)
運用開始フェーズは、「本番稼働後 1 か月」に集中的にリソースを配置する運用が有効です。
リスク | 発注者側の実施内容 | 意思決定タイミング |
|---|---|---|
本番障害の発生 | ハイパーケア期間(切替後 2〜4 週間)の体制を事前確保 | 切替 1 か月前 |
切戻し判断の遅延 | 切戻し基準・判断責任者を事前合意 | 切替直前 |
保守契約範囲外の依頼発生 | 保守契約の範囲・追加費用ルールを社内周知 | 切替時 |
データ移行の不備 | 本番切替前に予行演習(ドライラン)を実施 | 切替 2 週間前 |
フェーズゲート判定基準: ハイパーケア期間終了時点で、業務主管が「安定稼働」を判定していること。
システム開発 完全チェックリスト――発注前・発注中・完了後の3フェーズで使えるチェック集

この資料でわかること
システム開発の外注・発注を初めて経験する担当者や、過去に失敗を経験した担当者が、発注プロセスの各フェーズで「何をチェックすべきか」を明確に把握できるようにする。
こんな方におすすめです
- 初めてシステム開発を外注する担当者
- 過去の発注で失敗を経験した方
- ベンダー選定の基準が分からない方
入力いただいたメールアドレスにPDFをお送りします。
形骸化しないリスク管理表の運用ルール

「リスク管理表を作ったが 2 週間で更新が止まった」というのは、中小企業のシステム開発で最頻出の失敗です。ここでは、続かない原因を構造化し、それを回避する 4 原則を提示します。
リスク管理表が形骸化する4つの原因
多くの現場で、リスク管理表の形骸化は以下の 4 パターンで進行します。
- 棚卸日が固定されていない: 「気付いたときに更新する」運用は必ず止まります。人は「気付かないから止まる」のではなく「優先順位を下げるから止まる」と考えてください
- 担当者がリスク単位で紐づいていない: 「みんなで管理する」は「誰も管理しない」と同義になります
- クローズ条件が明文化されていない: いつまで残すかが不明で、古いリスクが積み上がり、新規リスクが埋もれます
- ダッシュボード化されていない: 全リスクを羅列した表を毎週見るのは負担が大きく、優先度上位を可視化する仕組みが必要です
これら 4 つはどれか 1 つでも欠けると形骸化リスクが跳ね上がります。「作ってから運用を考える」のではなく「運用を先に設計してから作る」順序が大切です。
カラム設計例(10項目のミニマルテンプレート)
Excel または Google Sheets で運用可能なミニマルな 10 カラム設計です。多くのカラムを持たせるほど更新の負担が増えるため、この 10 項目を出発点にして必要に応じて追加してください。
カラム | 説明 | 記入例 |
|---|---|---|
リスク ID | 一意な識別子 | R-001 |
カテゴリ | 業務/技術/体制/契約/金銭/納期 | 技術 |
リスク概要 | 何が起きうるか | 新規採用フレームワークの学習コストで開発遅延 |
発生確率 | 高/中/低 | 中 |
影響度 | 高/中/低 | 高 |
優先度 | 確率×影響度で決定 | S(最優先) |
対応策 | 実施する具体的アクション | プロトタイプで技術検証(2 週間) |
担当 | 主担当者名 | 情シス 山田 |
期限 | 対応完了予定日 | 2026-09-30 |
状態 | Open/In Progress/Closed | In Progress |
これに加えて「クローズ条件」を別列で持つか、対応策の中に明記します。「プロトタイプで技術検証完了・性能要件を満たすことを確認」といった具体的なクローズ条件があると、Closed 判定が客観的に下せます。
継続運用の4原則(棚卸日固定・担当明確化・クローズ条件・ダッシュボード)
前述の 4 つの形骸化原因に対応する 4 原則を、実装可能な形で示します。
原則 1: 棚卸日を固定する
週次レビュー会議の日時を固定し、カレンダーに定期予定として入れます。会議自体は 30 分で済ませるため、参加者の負担も大きくありません。棚卸日が固定されると「その日までに状態を更新する」というリズムが生まれます。
原則 2: リスク単位で担当者を紐づける
新規リスクを登録するときは、必ず「主担当者」を 1 名決めます。「みんな」ではなく「山田さん」のような個人名です。担当者が退任・異動する場合は、レビュー会議で引き継ぎを明示的に行います。
原則 3: クローズ条件を明文化する
対応策の記入と同時に「何をもってクローズ判定するか」を書きます。「対応済み」「様子見」ではなく、「性能要件を満たすことを検証環境で確認」「業務部門の受入合意を取得」など、客観的に判定できる条件にします。
原則 4: ダッシュボードで優先度上位を可視化する
Google Sheets のフィルタや条件付き書式で、優先度「S」「A」のリスクだけを別シートに表示するダッシュボードを作ります。週次レビュー会議ではこのダッシュボードを見るだけで済むようにし、全リスクの詳細確認は必要時のみに限定します。
週次30分の棚卸ルーチン(アジェンダ例)
以下は 30 分で運用可能な週次棚卸ルーチンのアジェンダ例です。
時間 | 内容 |
|---|---|
0-5 分 | 前週トップリスクの状態確認(各担当者が 1 リスク 30 秒で報告) |
5-15 分 | 新規リスクの登録(登録シートに事前記入 → 会議で優先度合意) |
15-25 分 | クローズ判定・対応策の見直し |
25-30 分 | エスカレーション判断(月次経営報告に上げる候補の選定) |
このアジェンダを厳守し、議論が必要な事項は別途サブミーティングを設定します。会議のオーナーはプロジェクト責任者(発注者側 PM)が担当し、時間管理を徹底します。
よくある失敗パターンと発注者が取るべき打ち手
ここまで解説したプロセス・体制・運用を導入しても、実務では以下の 4 パターンの失敗が頻出します。自社の状況と照合し、該当があれば早めに手を打ちましょう。
失敗パターン1: リスク登録したが放置される(棚卸日未設定)
- なぜ起きるか: キックオフでリスク一覧は作ったものの、その後の更新タイミングを決めていないためです。「必要なときに見よう」で終わり、必要なときが来ません
- 発注者側の打ち手: 週次レビュー会議を「プロジェクトカレンダーの定期予定」として最初にブロックします。会議は 30 分厳守とし、参加者を絞り、迷ったら開催します
失敗パターン2: 開発会社任せで発注者が把握していない
- なぜ起きるか: 「プロジェクトマネージャーは開発会社のものだから」と発注者が距離を置いてしまうためです。結果、業務起点のリスクが誰にも認識されません
- 発注者側の打ち手: リスク管理表の「オーナー」を発注者側 PM に明示します。開発会社は情報提供者であり、意思決定者は発注者であるという役割分担を契約時から明文化します
失敗パターン3: エスカレーション遅延で顕在化してから発覚
- なぜ起きるか: 現場担当者が「まだ大丈夫」「なんとかなる」と自主判断してしまい、経営層に上がるのは手遅れになってからです
- 発注者側の打ち手: エスカレーション基準を数値で決めておきます(例: 予算超過見込み 5% で自動エスカレーション)。基準を満たしたら報告するかどうかは担当者判断ではなくルールで決まる状態にします
失敗パターン4: リスク管理と課題管理の混同
- なぜ起きるか: 「リスク管理表」に発生済みの障害・課題を書き込んでしまい、管理表が肥大化して本来のリスク(未発生事象)が埋もれるためです
- 発注者側の打ち手: リスク管理表と課題管理表を別に持ちます。発生した瞬間にリスクは「クローズ扱い」にし、課題管理表に「発生日」「対応状況」「復旧完了日」を記録する運用に切り分けます
発注者側の失敗パターンをより体系的に理解したい場合は、発注ミス 原因|発注側が陥る失敗パターンと対策 もご覧ください。前回のプロジェクトの振り返りに使えます。
まとめ|次のプロジェクトで発注者が今日始める3つのこと
ここまで、システム開発のリスクマネジメントを発注者視点で解説してきました。「識別 → 分析 → 対応計画 → 実行・監視 → 見直し」の 5 ステッププロセス、専任者不在でも回せる体制設計、7 フェーズ別のリスクチェックリスト、形骸化しないリスク管理表の 4 原則——これらを次のプロジェクトで実装するために、今日から始められる 3 つのアクションを提示します。
アクション 1: 体制の合意形成(1 週間以内)
役割分担マトリクス(プロジェクト責任者・業務主管・情シス・法務・経理)を紙に書き、関係者と 30 分の合意会議を開きます。兼務前提でも構いません。「誰が主担当か」「誰が確認者か」を全員が共通認識として持つことがスタートラインです。
アクション 2: リスク管理表テンプレートの準備(1 週間以内)
本記事で示した 10 カラムのミニマルテンプレートを Google Sheets で作成します。ダッシュボードシート(優先度 S・A のみ表示)も同時に用意します。過去プロジェクトのリスクを 3〜5 件だけ書き込み、運用シミュレーションを 1 回だけ行っておきます。
アクション 3: 週次レビュー会議の枠取り(今日)
週次リスクレビュー会議(30 分・固定曜日)をカレンダーの定期予定として今日中にブロックします。参加者を確定し、招待送付まで済ませます。会議アジェンダは本記事の 30 分ルーチン例をそのまま流用してください。
この 3 つを今週中に実行するだけで、次のプロジェクトのリスクマネジメントは前回とは全く違うレベルで運営できます。「作ることを目的化しない」「回すことを設計する」を合言葉に、今日から動き出しましょう。
次のアクション
発注者が押さえるべきチェック観点を、発注前・発注中・完了後の 3 フェーズで整理した実務資料をご用意しています。リスク管理表と併せて活用いただけます。詳しくは システム開発 完全チェックリスト(発注前・発注中・完了後) をご覧ください。
自社のリスク管理体制の設計や、次期プロジェクトの立ち上げ支援をご検討中の方は、お問い合わせフォーム からご相談ください。要件の整理段階からご相談いただけます。
参考情報
- ISO31000-2018年版:リスクマネジメント-指針の経営への活用(JIPDEC)
- PMBOK 第 7 版対応 プロジェクトリスク管理の実践的手法(ITPro ToolBox)
- PMBOK ガイド第 6 版の変更点:リスク・マネジメント知識エリア(トレノケート)
- ソフトウェア・メトリクス調査 2025 ガイドブック(JUAS)
システム開発 完全チェックリスト――発注前・発注中・完了後の3フェーズで使えるチェック集

この資料でわかること
システム開発の外注・発注を初めて経験する担当者や、過去に失敗を経験した担当者が、発注プロセスの各フェーズで「何をチェックすべきか」を明確に把握できるようにする。
こんな方におすすめです
- 初めてシステム開発を外注する担当者
- 過去の発注で失敗を経験した方
- ベンダー選定の基準が分からない方
入力いただいたメールアドレスにPDFをお送りします。
よくある質問
- リスク管理表と課題管理表は本当に別々に分ける必要がありますか?
別のシート・タブで管理することを推奨します。発生済みの障害を同じ表に書き込むと未発生の兆候であるリスクが埋もれてしまうため、Google Sheetsでタブを分ける程度の運用でも十分に区別して機能します。
- 兼務でリスク管理を担当する場合、どのくらいの工数を見込めばよいですか?
目安は週4〜6時間です。週次レビュー会議の準備・進行(約1時間)に加え、リスク管理表の更新やエスカレーション判断に充てる時間を含み、担当を1人に集約する方が分散運用より責任の所在が明確になり機能しやすくなります。
- 契約書には発注者側のリスク管理責任をどう明記すればよいですか?
「リスク管理表のオーナーは発注者、開発会社は情報提供者として協力する」旨を成果物・責任範囲の別紙に明記します。追加要件の見積・承認フローを定める変更管理プロセスと合わせて、契約締結前に合意しておくことが重要です。
- 3か月程度の小規模プロジェクトでも週次リスクレビュー会議は必要ですか?
必要です。期間が短いプロジェクトほどリスク顕在化から対応までの猶予が少なく、更新頻度を下げるとかえって対応が手遅れになりやすい一方、会議は30分厳守のまま参加者を最小限に絞ることで負担は十分に抑えられます。
- 月次経営報告でエスカレーション対象がない月はどう報告すればよいですか?
「エスカレーション対象なし」も報告事項として明記します。トップリスクの状況や対応状況と合わせて報告することで、経営層はリスクが継続的に監視されている状態を確認でき、月次報告そのものの形骸化も防げます。



