プロジェクトリスク管理とは?発注者が知るべき4つのリスクと対策

システム開発を外部に発注したとき、「予算内で完成するか」「納期に間に合うか」という不安を感じたことはないでしょうか。実際に予算オーバーや納期遅延を経験した方なら、なおさらその不安は大きいはずです。
しかし、こうした失敗は「運が悪かった」のではありません。多くの場合、事前に把握して対処できた「リスク」が放置されていたことが原因です。
発注者がプロジェクトリスクを正しく理解し、適切に管理できれば、失敗の可能性を大幅に下げることができます。大切なのは、リスク管理を「開発会社に任せる」のではなく、発注者自身も関与することです。
本記事では、システム開発プロジェクトで発生しやすい4つのリスクと、発注者として事前に取れる対策を解説します。また、実際のリスク管理に使えるチェックリストとリスク管理表の作り方・運用方法もご紹介します。次の発注で「同じ失敗を繰り返さない」ために、ぜひ最後までお読みください。

目次
システム開発 完全チェックリスト――発注前・発注中・完了後の3フェーズで使えるチェック集

この資料でわかること
こんな方におすすめです
プロジェクトリスクとは?発注者が知っておくべき基礎知識
リスクとは「発生する前に対処できる不確実な事象」
プロジェクト管理の世界標準ガイドラインであるPMBOKでは、リスクを「それが発生すればプロジェクトの目標にプラスやマイナスの影響を与える不確実な事象または状態」と定義しています。
要するに、リスクとは「まだ発生していないが、発生する可能性がある事象」です。この「まだ発生していない」という点が重要です。リスクは事前に特定し、対処することができます。
日常的に「リスクがある」という言葉はマイナスな意味で使われることが多いですが、PMBOKではプラスの影響をもたらすリスク(機会)も含みます。ただし、システム開発の実務では主にマイナス要因(脅威)としてのリスクを管理することがほとんどです。
リスクと「問題」の違い(事前対処 vs 事後対処)
リスク管理を理解する上で、「リスク」と「問題(Issue)」の違いを押さえておきましょう。
種別 |
定義 |
対処タイミング |
|---|---|---|
リスク |
将来発生する可能性がある事象 |
事前(予防・軽減) |
問題(Issue) |
既に発生している事象 |
事後(解決・対応) |
リスク管理の本質は「問題が発生してから慌てる」のではなく、「問題が発生する前に手を打つ」ことです。予算オーバーや納期遅延は、多くの場合に最初からリスクとして予見できていたにもかかわらず、対処が遅れた結果として発生します。
なぜ発注者がリスク管理を把握すべきか
「リスク管理は開発会社の仕事では?」と思う方もいるかもしれません。確かに開発側にもリスク管理の責任はありますが、発注者がリスクを把握せずに任せきりにすると、次のような問題が起きやすくなります。
- リスクの見落とし: 発注者側が把握している業務の複雑さや変更リスクが、開発会社に正確に伝わらない
- 早期対処の機会損失: 問題が大きくなってから初めて報告を受け、解決コストが膨らむ
- コントロールの喪失: 契約後にプロジェクトの主導権を失い、後手後手の対応になる
発注者がリスクを理解し積極的に管理に参加することで、開発会社との信頼関係が構築され、問題の早期発見・解決につながります。
システム開発プロジェクトの4つのリスク

システム開発プロジェクトで特に発注者が把握すべきリスクは、大きく4種類に分類できます。
金銭的リスク(予算オーバー・コスト増加)
金銭的リスクとは、当初の予算を超えてしまうリスクです。システム開発で最もよく発生するリスクの一つで、経験した方も多いはずです。
主な発生原因:
- 要件定義の不明確さによる仕様変更の頻発
- 開発中のスコープ拡大(スコープクリープ)
- 想定外の技術的問題による対応工数の増加
- ベンダーによる追加費用の発生
発注者への影響: 予算を超えた追加発注を迫られる、または機能を削減して品質を妥協せざるを得なくなる。
金銭的リスクを軽減するために最も効果的なのは、要件定義フェーズでの詳細な仕様の合意です。変更が発生した際のプロセス(変更管理)を事前に取り決めておくことも重要です。
納期リスク(スケジュール遅延・仕様変更)
納期リスクとは、予定していたリリース日・納品日に間に合わないリスクです。
主な発生原因:
- 仕様変更の頻発によるスケジュール圧迫
- 開発中に発覚する技術的な問題
- 担当エンジニアの離脱・変更
- テスト工程での不具合多発
発注者への影響: 業務システムのリリース遅延が業務全体に影響したり、ビジネス機会の損失につながる。
納期リスクに対して発注者がとれる対策は、プロジェクト開始前にマイルストーン(中間チェックポイント)を設定し、定期的に進捗を確認することです。「完成したときに初めて確認する」ではなく、フェーズごとの成果物確認を義務づけることで、遅延の早期発見が可能です。
技術リスク(技術選定の失敗・担当者離脱)
技術リスクとは、採用した技術や開発手法に起因するリスクです。発注者がコントロールしにくいリスクの一つですが、事前に確認できる部分もあります。
主な発生原因:
- 要件に合わない技術・フレームワークの選定
- キーとなるエンジニアの離脱・担当変更
- 外部サービス・APIの仕様変更・廃止
- セキュリティの脆弱性の発覚
発注者への影響: 完成したシステムが性能を発揮しなかったり、特定のエンジニアに依存した属人的な体制によりメンテナンスが困難になる。
技術リスクを軽減するために、発注者はベンダー選定時に「なぜこの技術を選ぶのか」を明示的に説明してもらうことをお勧めします。また、ドキュメントの整備義務を契約に盛り込むことで、担当者離脱後の属人化リスクを下げることができます。
品質リスク(テスト不足・要件定義の不備)
品質リスクとは、完成したシステムが期待した品質を満たさないリスクです。
主な発生原因:
- 要件定義の不備による「完成したが使えない」システム
- テスト計画の不十分さ・テスト工数の削減
- ユーザー受け入れテスト(UAT)の不足
- バグ修正の優先度判断の誤り
発注者への影響: リリース後に大量のバグが発見されたり、「こんなシステムを望んでいなかった」という大きな認識のズレが生じる。
品質リスクで特に注意すべきは「認識リスク」とも呼ばれるコミュニケーションの問題です。発注者の頭の中にある「こういうシステムが欲しい」というイメージと、開発会社が作るものが一致していないケースは非常に多く発生します。
要件定義書の確認は形式的に行うだけでなく、実際に業務をよく知る担当者が内容を精査することが重要です。
リスク管理のプロセス(特定→分析→対応策→コントロール)

リスクを把握したら、次は「どのように管理するか」を理解しましょう。PMBOKで定義されているリスク管理プロセスを、発注者向けに分かりやすく4つのステップで説明します。
Step1: リスクの特定(洗い出し)
リスク管理の第一歩は、プロジェクトに潜んでいるリスクを網羅的に洗い出すことです。
発注者ができること:
- プロジェクトキックオフ時に「リスクの洗い出し会議」を開催するよう依頼する
- 自社の業務に関するリスク(例: 繁忙期のリリースは避けたい、担当者が変わる予定がある)を積極的に共有する
- 過去のシステム開発での失敗経験を開発会社と共有する
一人で考えるより、関係者全員でブレインストーミングを行う方がリスクの見落としが少なくなります。
Step2: リスクの分析(発生確率×影響度)
特定したリスクに対して、「どれくらい発生しやすいか(発生確率)」と「発生したらどれくらい困るか(影響度)」を評価します。
この二つの軸でリスクを評価し、優先度をつけるのが一般的な手法です。
発生確率 |
影響度: 低 |
影響度: 中 |
影響度: 高 |
|---|---|---|---|
高 |
中優先度 |
高優先度 |
最高優先度 |
中 |
低優先度 |
中優先度 |
高優先度 |
低 |
低優先度 |
低優先度 |
中優先度 |
発注者は開発会社が作成したリスク分析の結果を確認し、自社の業務観点から「この影響度の評価は低すぎる」という指摘をすることが重要な役割の一つです。
Step3: リスク対応策の立案(回避・軽減・転嫁・受容)
リスクへの対応策には4種類のアプローチがあります。
対応策 |
内容 |
例 |
|---|---|---|
回避 |
リスクの原因を取り除く |
技術リスクが高い機能の開発をスコープから外す |
軽減 |
発生確率または影響度を下げる |
テスト工数を増やして品質リスクを下げる |
転嫁 |
リスクを第三者に移転する |
契約で瑕疵担保責任を明確にする |
受容 |
リスクを受け入れる |
発生確率・影響度が低いリスクはコンティンジェンシー予算を確保して対応 |
発注者として重要なのは「どのリスクにどのアプローチをとるか」を開発会社と合意しておくことです。
Step4: リスクのコントロール(監視・更新)
対応策を立案したら、プロジェクト期間中は定期的にリスクの状況を監視し、必要に応じて対応策を更新します。
発注者ができること:
- 月次または週次の進捗会議でリスク管理表のレビューを議題に含める
- 新たなリスクが発見された場合に速やかに共有するよう開発会社と合意する
- リスクが実際に発生した場合(「問題」に変わった場合)の対応プロセスを事前に取り決める
発注者が発注前に確認すべきリスク管理チェックリスト
次の発注に向けて、実際に使えるチェックリストを時点別にまとめました。
発注前・ベンダー選定時のチェックリスト
ベンダーを選定する段階で確認すべき項目です。複数社から見積もりを取る際に、提案書と合わせて確認してください。
プロジェクト管理体制の確認
- リスク管理表を作成・管理するプロセスがあるか
- プロジェクトマネージャー(PM)が明確に配置されているか
- 過去のプロジェクトでの失敗事例とその対処法を共有してもらえるか
コミュニケーション体制の確認
- 進捗報告のタイミング・形式が明確か(週次報告書・定例会議など)
- 問題が発生した際のエスカレーションルートが設定されているか
- 発注者担当者への連絡窓口(単一の担当者)が設けられているか
契約内容の確認
- 変更管理プロセス(仕様変更時の見積もり・合意方法)が契約に含まれているか
- 瑕疵担保責任(リリース後のバグ対応)の範囲と期間が明記されているか
- 知的財産権(ソースコードの所有権)が明確になっているか
要件定義・契約時のチェックリスト
プロジェクトが始まる前の重要な合意ポイントです。
要件定義の確認
- 機能要件だけでなく非機能要件(パフォーマンス・セキュリティ・拡張性)も定義されているか
- 業務担当者が要件定義書の内容を理解・承認しているか
- 優先度が不明な機能についてMust/Want/Niceの分類が行われているか
スケジュールの確認
- マイルストーン(フェーズごとの成果物と確認日)が設定されているか
- バッファ(余裕期間)がスケジュールに含まれているか
- テスト・ユーザー受け入れテストの日程が確保されているか
開発中の定期確認チェックリスト
プロジェクト進行中に定期的(月次または隔週)に確認すべき項目です。
進捗の確認
- マイルストーンに対する進捗率が共有されているか
- 遅延が発生している場合、その原因と対処策が明確になっているか
- 残タスクと残期間のバランスは問題ないか
リスクの確認
- 新たなリスクが発見されていないか
- 既存のリスクの状況に変化はあるか
- 発生したリスクへの対処は予定通りに進んでいるか
リスク管理表の作り方・運用方法

リスク管理表(リスクログとも呼ばれます)は、プロジェクトのリスクを可視化・管理するための基本ツールです。ExcelやGoogleスプレッドシートで作成でき、特別なツールは不要です。
リスク管理表に記載すべき7つの項目
項目 |
内容 |
例 |
|---|---|---|
リスクID |
管理番号 |
R-001 |
リスク内容 |
どのようなリスクか |
要件定義の不備により、開発後に大規模な仕様変更が発生する |
発生確率 |
発生の可能性(高/中/低) |
中 |
影響度 |
発生した場合の影響(高/中/低) |
高 |
優先度 |
発生確率×影響度 |
高優先度 |
対応策 |
具体的な対処方法 |
要件定義書を業務担当者が精査。変更管理プロセスを契約に明記 |
状況 |
現在の状況(未対処/対処中/解消/発生済み) |
対処中 |
担当者 |
対応の主担当 |
○○(発注側PM) |
期限 |
対応期限 |
2026-05-31 |
リスクの優先度の決め方(発生確率×影響度マトリクス)
リスクの優先度は「発生確率」と「影響度」を組み合わせて決定します。
一般的には以下のようなスコアリングを使います:
- 発生確率: 高=3点、中=2点、低=1点
- 影響度: 高=3点、中=2点、低=1点
- 優先度スコア: 発生確率×影響度(最大9点)
スコアが6以上のリスクは「最高優先度」として重点管理対象にするのが一般的です。
発注者として重要なのは「影響度」の評価です。開発会社は技術的な観点での影響を評価しますが、業務への影響(例: このシステムが遅れると繁忙期の業務が回らない)は発注者しか正確に評価できません。影響度の評価には必ず発注者も参加してください。
発注者として参加するリスクレビューの進め方
リスク管理表は作るだけでなく、定期的にレビューすることが重要です。
推奨する進め方(月次または隔週):
- 事前準備: 開発会社がリスク管理表を最新の状態に更新して共有する(会議の2日前まで)
- 新規リスクの確認: 前回のレビュー以降に追加されたリスクを確認・議論する
- 既存リスクの状況更新: 各リスクの状況(対処中/解消/発生済みへの変更)を確認する
- 優先度の見直し: プロジェクトの進行状況に合わせて優先度を再評価する
- アクション確認: 対応が必要なリスクの担当者・期限を明確にする
会議時間の目安は30〜60分です。リスク数が多い場合は優先度の高いものだけを議題にし、優先度が低いものはテキストで更新・共有する形でも構いません。
よくある失敗事例と発注者が取れる対策

実際のシステム開発でよく起きる失敗パターンを3つご紹介します。それぞれ「発注者として事前にできた対策」も合わせて解説します。
失敗事例1: 要件定義が曖昧で「こんなはずじゃなかった」
あるある事例: 「業務システムを作ってほしい」という大まかな要望でプロジェクトが始まった。開発が完成して納品されたシステムを使ってみたが、「現場の業務フローとまったく合わない」「この機能が必要なのに入っていない」と判明。大規模な修正が必要になり、追加費用が発生した。
なぜ発生したか: 発注者と開発会社の間で、「こういうシステムを作る」という認識が十分にすり合わせられていなかった。発注者側は「分かっているはずだ」と思い込み、開発会社側は「聞けなかった」というコミュニケーション上の問題が根本原因です。
発注者として事前にできた対策:
- 業務の現場担当者を要件定義に参加させる(経営者・管理者だけでは現場のリアルが見えない)
- 画面の完成イメージ(ワイヤーフレーム)を開発フェーズ前に確認する
- 「業務フローダイアグラム」を要件定義書に含めるよう依頼する
失敗事例2: 仕様変更が積み重なって予算が倍に
あるある事例: 開発が始まってから「やっぱりこの機能も追加したい」「この画面はこうしてほしい」という変更依頼を繰り返した。一つひとつは小さな変更だったが、積み重なって最終的な費用が当初見積もりの倍になった。
なぜ発生したか: スコープクリープ(スコープの段階的な拡大)が発生し、変更管理のプロセスが機能していなかった。変更の都度、コストへの影響が明示されなかったため、発注者が無自覚なまま変更を重ねてしまった。
発注者として事前にできた対策:
- 契約時に「変更管理プロセス」を取り決める(変更依頼→見積もり→承認→対応という流れ)
- 変更依頼は必ず書面(メール・チケット)で行い、口頭での依頼は正式な変更として扱わない
- コンティンジェンシー予算(予算全体の10〜20%)をあらかじめ確保しておく
失敗事例3: 進捗報告がなく気づいたら納期直前
あるある事例: 開発を任せたまま2ヶ月間、特に連絡もなく過ごした。納期の1ヶ月前になって初めて「現状でスケジュールが難しい」と報告があった。遅延を挽回するための追加対応が必要になり、コストと品質の両方に影響が出た。
なぜ発生したか: 発注者が進捗確認を開発会社任せにしていた。問題が発覚した時には既に遅れが深刻化しており、早期に手を打てなかった。
発注者として事前にできた対策:
- 週次または隔週の定例会議を契約に含める
- 進捗報告書のフォーマット(マイルストーン進捗・リスク状況・課題一覧)を取り決める
- 「問題はないか?」という質問だけでなく、「どんなリスクがあるか?」を定期的に確認する
まとめ(発注者がリスク管理で意識すべき3つのこと)
本記事では、システム開発プロジェクトにおけるプロジェクトリスク管理について、発注者の視点で解説しました。最後に、次の発注でぜひ意識していただきたい3つのポイントをまとめます。
1. リスク管理は発注者も主体的に関与する
リスク管理を開発会社任せにすると、業務視点でのリスク評価ができず、問題の早期発見が遅れます。発注者がリスクを把握し、影響度の評価に参加することで、プロジェクトのコントロールを維持できます。
2. 発注前の「確認」が後工程のリスクを大きく下げる
要件定義の精度、変更管理プロセスの取り決め、進捗報告のルールは、プロジェクト開始前に合意しておくことで、開発中のトラブルを大幅に減らせます。本記事のチェックリストを次の発注前にご活用ください。
3. リスク管理表を定期レビューの議題にする
リスク管理表は作るだけでなく、定期的に更新・レビューすることで効果を発揮します。月次または隔週の進捗会議にリスク管理表のレビューを組み込んでください。
システム開発の成功は、優れた開発会社を選ぶことだけで決まりません。発注者として適切にプロジェクトに関与し、リスクを継続的に管理することが、プロジェクトを成功に導く鍵です。
システム開発 完全チェックリスト――発注前・発注中・完了後の3フェーズで使えるチェック集










