システム開発の請負契約書を製本する直前になって、「収入印紙をいくら貼ればいいのか」で手が止まってしまうことがあります。検索すれば印紙税額の早見表はいくらでも見つかります。それでも決められないのは、表そのものが分からないからではなく、目の前の契約書がその表のどの行に当てはまるのかを確定できないからです。
実際、判断を迷わせる要素はいくつも重なっています。検索結果に出てくる早見表には建設工事向けの軽減税率が併記されていることが多く、自社のシステム開発契約に使ってよいのか分かりません。契約書が「基本契約書+個別契約書」の形式になっていて、金額が書かれているのは個別契約書のほうだけ、というケースもあります。さらに、契約金額の欄に「税込1,100万円」と書くか「1,100万円 うち消費税額等100万円」と書くかだけで、納める印紙税額が2倍変わります。
しかも、印紙を貼って納税義務を負うのは契約書の作成者、つまり自社です。貼り忘れれば、本来納めるべき印紙税額の3倍にあたる過怠税を負担することになります。社内に法務部門がなく、顧問税理士に確認するほどのことでもないと感じている状況では、この「間違えたら自社が背負う」という感覚が判断を余計に重くします。
この問題は、「課税文書か」「何号文書か」「記載金額はいくらか」という3つの判定に分解すれば、自力で答えを出せます。3つの問いに順番に答えていけば、早見表のどの行を見ればよいかが一意に決まります。判定の根拠はいずれも国税庁が公開している情報であり、参照先を押さえておけば社内や顧客への説明にもそのまま使えます。
本記事では、まず契約金額別の印紙税額の早見表を示したうえで、その表を自社の契約書に当てはめるための3つの判定、基本契約書と個別契約書がある場合の扱い、契約金額の書き方による税額の違い、貼り忘れ・貼りすぎたときの対処、そして電子契約で印紙税が不要になる根拠までを順に解説します。
システム開発における個別契約書の雛形

この資料でわかること
システム開発を依頼する際にシステム開発会社と締結する個別契約書の雛形をご紹介します。
こんな方におすすめです
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システム開発の請負契約書の印紙税はいくら?契約金額別の早見表

システム開発の請負契約書は、印紙税法上の第2号文書(請負に関する契約書)に該当するのが基本です。第2号文書の印紙税額は、契約書に記載された契約金額によって段階的に決まります。
契約金額別の印紙税額一覧(第2号文書・本則税率)
国税庁が公開している第2号文書の税率は次のとおりです(国税庁 No.7102 請負に関する契約書)。
記載された契約金額 | 印紙税額 |
|---|---|
1万円未満のもの | 非課税 |
1万円以上 100万円以下のもの | 200円 |
100万円を超え 200万円以下のもの | 400円 |
200万円を超え 300万円以下のもの | 1,000円 |
300万円を超え 500万円以下のもの | 2,000円 |
500万円を超え 1,000万円以下のもの | 1万円 |
1,000万円を超え 5,000万円以下のもの | 2万円 |
5,000万円を超え 1億円以下のもの | 6万円 |
1億円を超え 5億円以下のもの | 10万円 |
5億円を超え 10億円以下のもの | 20万円 |
10億円を超え 50億円以下のもの | 40万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 |
契約金額の記載のないもの | 200円 |
たとえば契約金額 800 万円のシステム開発請負契約書であれば、「500万円を超え1,000万円以下のもの」に当たるため、印紙税額は 1万円です。
ただし、この表をそのまま使ってよいのは、その契約書が第2号文書に該当し、かつ印紙税法上の「記載金額」が確定している場合に限られます。自社の契約書がその条件を満たしているかどうかは、このあと解説する3つの判定で確認してください。
システム開発の請負契約書に建設工事の印紙税軽減措置は使えない
印紙税の早見表を検索すると、上記より税額の低い「軽減後の税率」を併記した表が多く見つかります。これは建設工事の請負に関する契約書にのみ適用される軽減措置であり、システム開発の請負契約書には使えません。
国税庁の解説では、軽減措置の対象は「建設工事の請負に係る契約に基づき作成されるものに限られる」とされ、建物の設計や機械の製作などは建設工事に該当しないと明記されています(国税庁 No.7108 建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置)。ソフトウェアやシステムの開発も同様に建設工事ではありませんので、軽減後の税額を採用すると納付額が不足します。
なお、この軽減措置は記載金額100万円を超えるもので、平成26年4月1日から令和9年3月31日までに作成される契約書が対象とされています。建設業のお客様との契約が混在している場合は、契約ごとに対象かどうかを切り分けてください。本記事で扱うシステム開発の請負契約書については、上記の本則税率のみが適用されます。
契約金額の記載がない契約書は200円とは限らない
早見表の最終行にある「契約金額の記載のないもの 200円」も、そのまま当てはめると誤りやすいポイントです。
契約金額が記載されていない請負契約書であっても、それが継続的な取引の基本的な条件を定めるものであれば、第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)として4,000円になります。国税庁の解説でも「第1号文書又は第2号文書で契約金額の記載のないものと第7号文書とに該当する文書」は第7号文書に所属すると整理されています(国税庁 2以上の号に該当する文書の所属の決定)。
受託開発でよく使われる「業務委託基本契約書」は、まさにこのパターンに該当することが多い文書です。金額が書かれていないからといって反射的に200円と判断せず、第7号文書に当たらないかを必ず確認してください。詳しくは「基本契約書と個別契約書がある場合の印紙税」で解説します。
早見表を使う前に必要な3つの判定
早見表と自社の契約書を接続するために必要な判定は、次の3つです。上から順に答えていくと、貼るべき印紙の額面が一意に決まります。
判定1|その契約書は課税文書か(請負か準委任か)
最初の分岐は、その契約書がそもそも印紙税の課税対象かどうかです。仕事の完成を目的とする請負契約であれば課税文書になりますが、労務の提供そのものを目的とする準委任契約であれば課税文書に該当しません。
ここで重要なのは、契約書の題名ではなく記載内容で判定される点です。「業務委託契約書」という題名だけでは、請負なのか準委任なのかは決まりません。判定の根拠は「請負か準委任かで印紙税の要否が変わる」で詳しく扱います。
判定2|第2号文書か第7号文書か
課税文書だと分かったら、次は何号文書かを決めます。システム開発の請負契約書で問題になるのは、主に次の3パターンです。
- 第2号文書(請負に関する契約書): 契約金額の記載がある請負契約書。冒頭の早見表の税額が適用される
- 第7号文書(継続的取引の基本となる契約書): 契約金額の記載がなく、継続する複数取引の基本的な条件を定める契約書。1通につき4,000円
- 第1号文書(無体財産権の譲渡に関する契約書など): 著作権の譲渡を定める条項がある場合に検討が必要になる
複数の号に該当する場合は、どの号に所属させるかのルールが定められています。この点は「基本契約書と個別契約書がある場合の印紙税」で整理します。
判定3|印紙税の「記載金額」はいくらとみなされるか
第2号文書だと決まっても、まだ税額は確定しません。印紙税法上の「記載金額」は、契約書に書かれた数字とそのまま一致するとは限らないためです。
消費税額等が区分して記載されている場合は、その消費税額を記載金額に含めません。また、契約金額を変更する覚書では、増額分のみが記載金額になる場合と変更後の総額が記載金額になる場合があります。この判定は「契約金額の書き方で印紙税額は変わる(消費税額等の区分記載)」で扱います。
請負か準委任かで印紙税の要否が変わる

判定1の詳細です。システム開発の契約書が課税文書になるかどうかは、国税庁が公開している質疑応答事例で明確に整理されています。
プログラムの設計・開発契約書は第2号文書(国税庁の質疑応答事例)
国税庁は「プログラムの設計・開発契約書」について、次のように回答しています(国税庁 質疑応答事例 プログラムの設計・開発契約書)。
電子計算機のプログラムを作成するという仕事の完成に対して報酬が支払われますので、請負に該当することになります。したがって、ご質問の場合には第2号文書(請負に関する契約書)に該当します。なお、一般に支援業務等といわれるような契約の相手方の指揮監督下において、単に労務だけを供給するような契約については、委任契約に該当しますので、支援業務等のみについて定めている契約書は、課税文書に該当しません。
つまり、プログラムの作成という成果物の完成に対して報酬を支払う契約書であれば、第2号文書として課税されるというのが国税庁の見解です。ここに「ソフトウェア」や「システム」といった限定はなく、成果物の完成を目的とするかどうかが基準になっています。
なお、国税庁の解説では請負の対象について「建設工事のように有形的なもののほか、警備、機械保守、清掃などの役務の提供のように無形的な結果を目的とするものも含まれます」とも説明されています。システム開発のような無形の成果物であっても、請負であれば課税文書になる点は押さえておいてください。
準委任契約書が課税文書に該当しない理由と、開発工程ごとに契約類型が変わるケース
一方、上記の回答要旨の後半にあるとおり、相手方の指揮監督下で労務を提供するだけの契約は委任契約に当たり、それのみを定めた契約書は課税文書に該当しません。技術支援のみを内容とする契約書や、いわゆる SES 契約の契約書は、このパターンに整理されることが多くなります。
システム開発では、工程によって契約類型を使い分けるケースが少なくありません。要件定義や基本設計は成果物の範囲を事前に確定しづらいため準委任とし、詳細設計以降の製造・テストは成果物が確定するため請負とする、という形です。この場合、準委任部分のみを定めた契約書には印紙が不要でも、請負部分を定めた契約書には印紙が必要になります。契約書ごとに判定してください。
アジャイル型開発で、スプリント単位の作業を準委任として定めている場合も同様です。ただし、契約書の中に成果物の完成義務や検収条項が含まれていれば、実質的に請負と判断される余地があります。請負と準委任のどちらを選ぶかという契約設計そのものについては、請負契約と準委任契約の違いで整理していますので、あわせてご覧ください。
契約書の題名ではなく記載内容で判定される
ここまでの判定で最も誤解が起きやすいのが、題名の扱いです。「業務委託契約書」という題名がついていても、印紙税の判定には何の影響もありません。条項を読み、仕事の完成に対して報酬を支払う構造になっているかどうかで決まります。
逆に「請負契約書」という題名でも、中身が労務の提供のみを定めたものであれば課税文書に該当しない可能性があります。題名で機械的に判断せず、業務内容・成果物・検収・報酬の支払条件を定めた条項を確認してください。
誤って課税文書ではないと判断して印紙を貼らなかった場合、後述する過怠税の対象になります。判断に迷う条項がある場合は、所轄の税務署に事前に相談するのが確実です。
基本契約書と個別契約書がある場合の印紙税(第7号文書の4,000円)
判定2のうち、受託開発で最も事故が起きやすい論点です。「基本契約書+個別契約書」という契約構造を採っている場合、貼るべき印紙は1か所ではありません。
第7号文書に該当する基本契約書は一律4,000円
第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)の印紙税額は、契約金額の記載の有無にかかわらず1通につき4,000円です。該当するかどうかは、次の要件で判定します(国税庁 No.7104 継続的取引の基本となる契約書)。
- 営業者の間で、売買・売買の委託・運送・運送取扱い・請負のいずれかについて、2以上の取引を継続して行うために作成される契約書であること
- 「目的物の種類、取扱数量、単価、対価の支払方法、債務不履行の場合の損害賠償の方法または再販売価格」のうち、1つ以上の事項を定めるものであること
ここで見落とされやすいのが除外要件です。国税庁の解説では「ただし、その契約書に記載された契約期間が3か月以内であり、かつ、更新の定めのないものは除かれます」とされています。契約期間を3か月以内とし、自動更新条項を置かない基本契約書であれば、第7号文書には該当しません。
受託開発の業務委託基本契約書は、通常は営業者間で締結され、請負について複数の取引を継続的に行うことを予定し、対価の支払方法や損害賠償の方法を定めています。契約期間も1年間で自動更新とするのが一般的ですので、第7号文書に該当して4,000円となるケースが大半です。
なお、基本契約書に契約金額の記載がある場合は扱いが変わります。契約金額の記載がある請負契約書は第2号文書として金額に応じた税額になり、第7号文書になるのは「契約金額の記載のないもの」です(国税庁 2以上の号に該当する文書の所属の決定)。
基本契約書に貼れば個別契約書・注文請書は不要、ではない
「基本契約書に4,000円を貼ったから、個別契約書には印紙は要らない」という理解は誤りです。印紙税は課税文書1通ごとに課されます。
基本契約書と個別契約書はそれぞれ別の文書ですので、個別契約書に契約金額が記載され、その内容が請負に当たるのであれば、個別契約書は第2号文書として別途課税されます。契約金額800万円の個別契約書であれば1万円の印紙が必要です。基本契約書の4,000円とは別に貼らなければなりません。
同じことは、注文書に対して発行する注文請書にも当てはまります。注文請書は、申込みに対する承諾を証明する文書として請負契約の成立を証するため、第2号文書として課税対象になり得ます。「契約書」という題名でなくても課税文書になる点に注意してください。なお、注文請書という書類そのものの位置づけや発注書との関係、発注側が注文請書を受け取る際に確認する項目については、発注者視点から注文請書と発注書の違いで解説しています。本記事では、作成者として税額を確定させる側の論点に絞ります。
年間で複数の個別契約を締結する場合、この積み上げが印紙代として無視できない金額になります。年12本の個別契約書(各800万円)を紙で締結すると、個別契約書だけで12万円、基本契約書の4,000円を加えて年間12万4,000円という試算になります。
著作権の譲渡を定めた契約書は第1号文書の検討が必要になる
システム開発の契約書では、成果物の著作権を発注者へ譲渡する条項を置くことがよくあります。この場合、第1号文書の該当可能性を検討する必要があります。
第1号文書には「無体財産権の譲渡に関する契約書」が含まれ、国税庁はこの無体財産権について「特許権、実用新案権、商標権、意匠権、回路配置利用権、育成者権、商号および著作権をいいます」と定義しています(国税庁 No.7140 印紙税額の一覧表(第1号文書から第4号文書まで))。
第1号文書と第2号文書の両方に該当する場合の所属は、次のように決まります(国税庁 2以上の号に該当する文書の所属の決定)。
- 原則として第1号文書に所属する
- ただし、課税事項ごとの契約金額を区分でき、かつ第2号文書についての契約金額が第1号文書についての契約金額を超える場合は、第2号文書に所属する
第1号文書と第2号文書では税額の階段が異なり、たとえば記載金額10万円超50万円以下の場合、第2号文書は200円ですが第1号文書は400円になります。開発報酬とは別に著作権譲渡の対価を定めている契約書では、どちらの号に所属するかで税額が変わる可能性がありますので、条項の構成を確認してください。著作権の帰属条項をはじめ、システム開発の契約書で確認すべき論点はシステム開発の契約書で確認すべき条項にまとめています。
システム開発における個別契約書の雛形

この資料でわかること
システム開発を依頼する際にシステム開発会社と締結する個別契約書の雛形をご紹介します。
こんな方におすすめです
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- システム開発会社がきちんと契約の取り交わしをしてくれるのか不安
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契約金額の書き方で印紙税額は変わる(消費税額等の区分記載)

判定3の詳細です。印紙税法上の「記載金額」は、契約書の書き方によって変わります。同じ取引でも、書き方ひとつで税額が2倍になることがあります。
消費税額等を区分記載すると記載金額から除かれる
契約書に消費税額等が区分して記載されている場合、その消費税額等は記載金額に含めません。この取扱いが適用されるのは、第1号文書・第2号文書・第17号文書の3つに限られます(国税庁 No.7124 消費税額等が区分記載された契約書等の記載金額)。
システム開発の請負契約書は第2号文書ですので、この取扱いの対象になります。つまり、消費税額等を分けて書けば、税抜の本体価格だけで税額の判定ができます。
なお、免税事業者が作成する契約書については、消費税額等を区分記載していても記載金額に含めることとされています。自社が課税事業者かどうかもあわせて確認してください。
「税込1,100万円」と書くか「うち消費税額等100万円」と書くかで税額が2倍変わる
国税庁は具体例を挙げて説明しています。記載金額の判定と印紙税額を並べると次のとおりです。
契約書の記載例 | 記載金額 | 印紙税額 |
|---|---|---|
請負金額1,100万円 うち消費税額等100万円 | 1,000万円 | 1万円 |
請負金額1,100万円 税抜価格1,000万円 | 1,000万円 | 1万円 |
請負金額1,100万円 消費税額等10パーセントを含む。 | 1,100万円 | 2万円 |
請負金額1,100万円(税込) | 1,100万円 | 2万円 |
金額そのものは同じ1,100万円でも、消費税額が具体的な金額として書かれているかどうかで記載金額が変わります。「10パーセントを含む」や「(税込)」という書き方では消費税額等が区分記載されたことにならず、1,100万円が記載金額になるため、税額が1万円から2万円へ倍増します。
契約金額1,000万円前後の案件は、ちょうど「500万円を超え1,000万円以下(1万円)」と「1,000万円を超え5,000万円以下(2万円)」の境界にあたるため、この差が最も表面化しやすい価格帯です。契約書のひな形を見直し、報酬条項に税抜金額と消費税額を分けて記載する書式に統一しておくと、判定の手間も税額も抑えられます。
変更契約書・追加開発の覚書における記載金額の考え方
開発中に仕様追加が発生し、契約金額を変更する覚書を交わすことがあります。この場合の記載金額は、変更前の契約金額を記載した契約書が作成されていることが明らかかどうかで取扱いが分かれます(国税庁 No.7123 契約金額を変更する契約書の記載金額)。
変更前の契約書を特定できる事項(契約書の名称・文書番号・契約年月日など)が覚書に記載されている場合は、次のようになります。
- 変更金額が契約金額を増加させるものであるときは、その増加金額が記載金額になる
- 変更金額が契約金額を減少させるものであるときは、その変更契約書の記載金額はないものとなる
- 変更後の金額のみが記載され、変更金額が明らかでないときは、変更後の金額が記載金額となる
一方、変更前の契約書が作成されていることが明らかでない場合は、変更後の金額が記載されていれば変更後の金額が、変更金額のみが記載されていれば(増額・減額のいずれでも)その変更金額が記載金額になります。
実務上の意味は明快です。当初契約が800万円で、100万円の追加開発を覚書で定める場合、覚書に当初契約書の名称と契約年月日を明記して「100万円増額する」と書けば記載金額は100万円となり、印紙税額は200円です。一方、変更前の契約書を特定できる記載を欠いたまま「請負金額を900万円に変更する」とだけ書くと、記載金額は900万円となり1万円の印紙が必要になります。覚書には必ず変更前の契約書を特定できる事項を記載するようにしてください。
収入印紙を貼り忘れた場合の過怠税と、貼りすぎた場合の還付
判定を誤ったときに何が起きるか、そして誤った後にどう戻せるかを整理します。
収入印紙の貼り忘れは過怠税3倍、自主的な申し出で1.1倍に軽減される
印紙税を納付すべき課税文書について印紙を貼らなかった場合、「納付しなかった印紙税の額とその2倍に相当する金額との合計額」、すなわち当初に納付すべき印紙税額の3倍に相当する過怠税が徴収されます(国税庁 No.7131 印紙税を納めなかったとき)。1万円の印紙を貼り忘れれば、3万円の負担になる計算です。
ただし、調査による決定があることを予知せずに自主的に申し出た場合は軽減されます。所轄税務署長に印紙税不納付事実申出書を提出し、その申出が調査があったことにより決定を予知してされたものでないときは、過怠税は当初に納付すべき印紙税額の1.1倍に軽減されます。すでに製本・締結済みの契約書で貼り忘れに気づいた場合は、指摘を受ける前に自ら申し出るほうが負担は小さく済みます。
もう1点、経理処理上で重要なのは、過怠税は全額が法人税の損金・所得税の必要経費に算入されないという点です。印紙税そのものは租税公課として損金算入できますが、過怠税は損金不算入のため、実質的な負担はさらに重くなります。
なお、印紙を貼らなかったことによって契約自体が無効になるわけではありません。印紙税法は印紙の貼付を契約の有効要件としていないため、貼り忘れがあっても契約の効力には影響しないと一般に解されています。とはいえ税務上のペナルティは別ですので、発見した時点で対処してください。
消印の押し方と消印漏れのペナルティ
印紙は貼っただけでは納付したことになりません。消印が必要です。
国税庁は消印の方法について、「自己またはその代理人、使用人その他の従事者の印章または署名で、その課税文書と印紙の彩紋とにかけて、判明に印紙を消す必要があります」と説明しています(国税庁 No.7129 印紙税の納付方法)。ポイントは次の3点です。
- 契約書本体と印紙の模様(彩紋)の両方にかかるように押す。印紙の上だけに押すと消印として不十分です
- 契約印と同じ印章である必要はなく、担当者の認印や署名でも構いません
- 共同作成の契約書でも、作成者のうち1者が消せば足ります
「割印」と呼ばれることもありますが、印紙税法上の正しい用語は「消印」です。契約書の複数ページにまたがって押す契印・割印とは目的が異なります。
消印を忘れた場合にもペナルティがあります。国税庁の解説では、印紙を貼り付けたものの消印をしなかった場合は、消印されていない印紙の額面金額に相当する金額の過怠税が徴収されるとされています。印紙を貼っているのに、もう一度同額を負担することになりますので、製本時のチェック項目に必ず入れてください。
貼りすぎ・誤って貼った場合の還付手続きと印紙の交換
過大に貼ってしまった場合や、課税文書ではない文書に誤って貼ってしまった場合は、還付を受けられます。国税庁が還付の対象として挙げているのは次の3つです(国税庁 No.7130 誤って納付した印紙税の還付)。
- 必要がないのに課税文書に貼り付けた、または納付すべき金額を超える印紙を貼り付けたもの
- 課税文書に当たらない文書(準委任契約書など)に誤って印紙を貼り付けたもの
- 印紙を貼り付けた課税文書のうち、使用する見込みのなくなったもの
手続きは、印紙税過誤納確認申請(兼充当請求)書を納税地の所轄税務署長に提出して行います。申請にあたっては、印紙を貼り付けた文書の現物を提示する必要があります。また、還付請求権は請求することができる日から5年を経過すると消滅しますので、過去の契約書を点検して貼りすぎが見つかった場合は早めに確認してください。
なお、まだ契約書に貼っていない未使用の収入印紙で、汚れたり破れたりしていないものは、郵便局で他の額面の印紙に交換できます。交換手数料は1枚につき5円で、現金への交換はできません。額面を間違えて購入した場合は、この方法で調整できます。
電子契約なら印紙税は不要|印紙代の負担者と切り替えの判断

ここまでの判定を契約のたびに繰り返すのが負担であれば、電子契約への切り替えが構造的な解決策になります。受託側は契約書を作成して相手方に交付する立場、つまり印紙を貼り納税義務を負う側ですので、切り替えの効果を最も直接に受けるのは自社です。根拠と、切り替えにあたって自社で手を入れるべき箇所を整理します。
電子契約で印紙税が不要になる根拠
電子契約に印紙税がかからない理由は、印紙税が「課税文書を作成したこと」に対して課される税だからです。そして、ここでいう「作成」は、書面を用意する行為そのものを指しません。
国税庁の印紙税法基本通達第44条は、課税文書の「作成」を「単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使すること」と定義しています。そのうえで「作成の時」については、相手方に交付する目的で作成される課税文書は交付の時であると示されています(国税庁 印紙税法基本通達 第7節 作成者等)。
つまり、納税義務が成立するのは「紙の課税文書を相手方に交付したとき」です。契約の合意が成立した時点でも、契約書のデータを作った時点でもありません。電子データのまま締結して紙を交付しないのであれば、課税原因となる「作成」がそもそも起きないことになります。あわせて、電磁的記録は課税物件表に掲げられた「文書」に含まれないという整理も国税庁の質疑応答事例で示されています(国税庁 質疑応答事例 取引先にメール送信した電磁的記録に関する印紙税の取扱い)。
したがって、契約金額がいくらであっても、電子で締結して紙を交付しない限り印紙は不要です。この場合は冒頭の早見表を参照する必要すらなくなります。
この構造を押さえておくと、社内や顧客への説明も一段強くなります。「電子契約だから印紙が要らない」ではなく、「印紙税は紙の課税文書を交付した時点で納税義務が成立する税であり、交付しなければ課税原因が発生しない」と説明できるためです。次に述べる紙との二重運用の問題も、この一点から説明がつきます。
PDF送付・紙の原本を残す運用の注意点と、契約書ひな形の見直し
裏を返せば、紙の原本を作成して相手方に交付した時点で、電子で合意していたかどうかにかかわらず、その紙は課税文書として扱われます。電子契約を導入したのに印紙代が減らない、という状態はここで起きます。判断の分岐点は次の2点だけです。
- 社内保管用に紙へ出力するだけであれば、相手方への交付にあたらないため課税原因は発生しません
- 紙の契約書を作成して相手方と取り交わすのであれば、その紙は課税文書になります
この二重運用は、担当者の不注意よりも、契約書のひな形と社内規程が紙を前提にしたまま残っていることによって起きます。電子契約に切り替える際は、少なくとも次の3か所を見直してください。
- 末尾の締結文言: 「本契約の成立を証するため、本書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ各自1通を保有する」という文言が残っていると、条項上は紙2通の作成が前提になります。電磁的記録を作成し、双方が電子署名を付与のうえ各自が保管する旨の文言に差し替えます
- 印紙代の負担を定めた条項: 紙を前提に折半などを定めた条項は、電子契約では対象そのものがなくなります。残したままにすると、紙で取り交わす運用に戻す口実として機能してしまいます
- 保存方法を定めた社内規程: 電子契約で締結したデータは電子帳簿保存法上の電子取引に当たり、電子データのまま保存する必要があります。紙に出力したものを原本として綴じる運用は、印紙税の面で問題がなくても保存要件を満たしません(国税庁 電子帳簿等保存制度特設サイト)
なお、発注者側から「電子契約で構わないが、原本は紙で送ってほしい」と求められる場面もあります。この場合に発注側が何を基準に判断しているかは、注文請書と発注書の違いで発注者視点から整理していますので、相手方へ電子交付を提案する際の材料としてご覧ください。
印紙代はどちらが負担するのが原則か
自社が作成者として納税義務を負うことを前提としつつ、契約書を双方で取り交わす場合の扱いも押さえておきます。
1つの課税文書を2以上の者が共同して作成した場合、その2以上の者は連帯して印紙税を納める義務を負うとされています(印紙税法第3条第2項)。国税庁の基本通達第47条は、この納税義務が「当該文書の印紙税の全額について共同作成者全員に対してそれぞれ各別に成立する」ものであり、「そのうちの1人が納税義務を履行すれば当該2以上の者全員の納税義務が消滅する」と整理しています(国税庁 印紙税法基本通達 第7節 作成者等)。
実務上の意味は2つあります。1つは、相手方が貼っていないからといって自社が免れるわけではなく、税務上は自社にも全額の納税義務が成立しているということです。もう1つは、共同作成の文書についてはどちらか一方が正しく貼って消印していれば、その文書に関する義務は果たされているということです。
そのうえで、実際に誰が印紙代を経済的に負担するかは当事者間の合意で決めるものです。契約書を2通作成してそれぞれが1通ずつ保管する場合は各自が自分の保管分の印紙代を負担する、契約書を1通だけ作成する場合は折半する、といった取り決めが一般的です。契約書に印紙代の負担を定める条項を置いておくと、締結時のやり取りが簡潔になります。
電子契約に切り替えた場合の削減額は、契約本数と税額から試算できます。契約金額800万円の個別契約書(1通あたり1万円)を年12本、基本契約書1通(4,000円)を紙で締結している場合、年間の印紙代は12万4,000円です。これを電子契約に切り替えれば、印紙代はゼロになり、あわせて本記事で解説した判定作業そのものも不要になります。製本・郵送の手間や印刷コストも減りますので、契約本数が多い受託開発会社ほど効果は大きくなります。
まとめ|システム開発の請負契約書の印紙税を確定させる手順
システム開発の請負契約書に貼る収入印紙の額面は、次の手順で確定できます。製本前のチェックリストとしてご活用ください。
- 課税文書かどうかを判定する(判定1)。仕事の完成に対して報酬を支払う請負契約であれば課税文書です。相手方の指揮監督下で労務を提供するだけの準委任契約のみを定めた契約書は課税されません。題名ではなく条項の内容で判断します
- 何号文書かを判定する(判定2)。契約金額の記載がある請負契約書は第2号文書、契約金額の記載がなく継続的取引の基本条件を定めるものは第7号文書(4,000円)です。著作権の譲渡条項がある場合は第1号文書の検討も必要です
- 記載金額を確定する(判定3)。消費税額等が具体的な金額で区分記載されていれば、その消費税額は記載金額から除かれます。変更契約書では、変更前の契約書を特定できる記載があれば増加金額のみが記載金額になります
- 早見表から税額を読み取る。第2号文書であれば、本記事冒頭の本則税率表を使います。建設工事向けの軽減税率表は使いません
- 基本契約書と個別契約書の両方を確認する。基本契約書に4,000円を貼っても、金額の記載がある個別契約書・注文請書には別途印紙が必要です
- 印紙を貼ったら必ず消印する。契約書本体と印紙の彩紋にかけて、判明に消します
- 誤りに気づいたら早めに対処する。貼り忘れは印紙税不納付事実申出書の自主提出で1.1倍に軽減され、貼りすぎは印紙税過誤納確認申請(兼充当請求)書で還付を受けられます(請求権は5年で消滅)
次回以降この手順を繰り返さずに済ませたい場合は、紙の課税文書を交付しない運用、すなわち電子契約への切り替えが根本的な解決になります。切り替える際は、契約書ひな形の締結文言と保存方法の社内規程まで含めて見直してください。
印紙税の判定は、契約書の条項の書きぶりや取引の実態によって結論が変わります。本記事は国税庁が公開している情報をもとにした一般的な整理であり、個別の契約書についての最終的な判断を示すものではありません。国税庁の質疑応答事例自体も「照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答」である旨を注記しています。判断に迷う条項がある場合や、金額が大きく誤りの影響が大きい契約の場合は、所轄の税務署または顧問税理士へ事前に確認してください。
システム開発の発注・受注にともなう契約実務の全体像を整理したい場合は、お役立ち資料もあわせてご覧ください。契約形態の選び方や発注時の確認事項を、資料としてまとめています。
契約書そのものの作り方や契約形態の選び方については、以下の記事でも解説しています。
システム開発における個別契約書の雛形

この資料でわかること
システム開発を依頼する際にシステム開発会社と締結する個別契約書の雛形をご紹介します。
こんな方におすすめです
- システム開発を発注する際にどのような個別契約を結ぶのか興味がある
- システム開発会社がきちんと契約の取り交わしをしてくれるのか不安
- システム開発を発注する側にどのような義務が生ずるのか気になる
入力いただいたメールアドレスにPDFをお送りします。
よくある質問
- 基本契約書と個別契約書がある場合、印紙はどちらに貼ればいいですか?
基本契約書に契約金額の記載がなければ第7号文書として一律4,000円、契約金額が記載された個別契約書は金額に応じた第2号文書として別途課税されます。基本契約書に貼っただけでは個別契約書分の印紙は不足するため、両方にそれぞれ貼付・消印してください。
- 収入印紙の貼り忘れに気づいたときはどうすればいいですか?
印紙の貼り忘れに気づいた場合は、税務調査を予知される前に「印紙税不納付事実申出書」を所轄税務署へ自主的に提出してください。これにより過怠税は本来の3倍から1.1倍まで軽減され、負担を大きく抑えられます。
- 電子契約に切り替えれば、この判定作業自体をしなくて済みますか?
紙の契約書を相手方に交付しない限り、印紙税の課税原因である「文書の作成」自体が発生しません。電子契約のまま締結して紙を交付せずに運用すれば、本記事で解説した判定作業も印紙代の負担も一切不要になります。
- 著作権の譲渡条項があると印紙税額はどう変わりますか?
著作権の譲渡条項があると、第2号文書だけでなく第1号文書との比較判定が必要になります。両者は税率表が異なり、たとえば記載金額10万円超50万円以下では第2号文書200円に対し第1号文書は400円です。
- 自社の契約書が請負か準委任かを自分で判断できない場合はどうすればいいですか?
契約書の題名ではなく、仕事の完成に対して報酬を支払う条項か、指揮監督下での労務提供のみを定める条項かで判定されます。自社で判断がつかない条項がある場合は、金額が大きい契約ほど所轄の税務署へ事前に相談するのが確実です。



