発注書を開発会社に送ったところ、折り返し「注文請書をお返しします。印紙代のご負担はどちらになりますか」と聞かれ、その場で答えられなかった——システム開発を初めて外部に委託する場面で、非常によくある足止めのポイントです。
「注文請書とは何か」という語義そのものは、検索すれば数分で分かります。ところが、いざ手続きを進めようとすると「うちの案件では印紙が要るのか」「いくら貼るのか」「誰が負担するのが正しいのか」「PDF をメールで送るだけなら本当に不要なのか」といった、自社への当てはめの部分でつまずきます。社内に法務や専任の経理がいない場合、この判断が発注担当者ひとりに降りてきてしまうため、なおさら決めにくくなります。
さらに困るのは、検索して出てくる記事の多くが「注文請書を発行する受注者側」の目線で書かれていることです。書式の作り方や印紙の貼り方は詳しく解説されていても、「受け取る側として何を確認し、どう交渉し、社内にどう説明するか」まで踏み込んだ情報は多くありません。
結論から言えば、発注側が押さえるべき判断軸は 4 つだけです。(1) 契約類型は請負か準委任か、(2) 記載金額はいくらか、(3) 紙か電子か、(4) 継続取引の基本契約があるか。この 4 点を順に確認すれば、注文請書を求めるかどうかも、印紙をどう扱うかも、専門家に確認する前の一次判断は自分でできます。
本記事では、注文請書の役割と発注書との違いを整理したうえで、システム開発でとくに間違えやすい印紙税の判定(請負と準委任の切り分け、継続開発における基本契約書の扱い、建設工事の軽減措置との混同)と、印紙代の負担・過怠税のリスクまでを、発注側の実務に沿って解説します。最後に、発注パターン別の判断手順を表にまとめます。
なお、印紙税の最終的な判定は文書の記載内容ごとの個別判断になります。本記事は一般的な考え方の整理として活用いただき、金額が大きい案件や判断に迷う案件は、顧問税理士または所轄の税務署にご確認ください。
システム開発における基本契約書の雛形

この資料でわかること
システム開発を依頼する際にシステム開発会社と締結する基本契約書の雛形をご紹介します。
こんな方におすすめです
- システム開発を発注する際にどのような基本契約を結ぶのか興味がある
- システム開発会社がきちんと契約の取り交わしをしてくれるのか不安
- システム開発を発注する側にどのような義務が生ずるのか気になる
入力いただいたメールアドレスにPDFをお送りします。
注文請書とは?発注を承諾したことを示す書類
注文請書(ちゅうもんうけしょ)とは、発注者から受け取った注文の内容を、受注者が承諾したことを示す書類です。発注書(注文書)が「この内容でお願いします」という申込みであるのに対し、注文請書は「その内容でお受けします」という承諾を書面にしたものにあたります。
システム開発の実務では、案件ごとに詳細な契約書を締結せず、「発注書と注文請書の交換をもって契約とする」という運用がよく使われます。開発会社から「契約書は発注書と注文請書で代えさせてください」と言われた場合、この 2 通のセットが契約内容を証明する書類になる、という意味です。
注文請書の法的効力|契約が成立した証拠になる
民法上、契約は当事者の申込みと承諾の意思が合致すれば成立し、書面がなくても効力を持ちます。つまり、発注書を送って開発会社が口頭で「承知しました」と答えた時点でも、契約自体は成立し得ます。
では注文請書に意味がないのかというと、そうではありません。注文請書の役割は、契約が「どの内容で」「いつ」成立したのかを、後から証明できる形にしておくことにあります。開発案件では、着手日・納期・成果物の範囲・金額といった条件が、メールのやりとりの中で少しずつ変わっていくことが珍しくありません。トラブルが起きたときに「どこまでが合意済みだったか」を示す証拠が残っていないと、双方の記憶に頼った水掛け論になります。
発注側から見ると、注文請書は「相手が確かにこの条件を受けた」という一次証拠です。受注側から見れば「この範囲以上の作業は追加である」と主張する根拠にもなります。どちらか一方に有利な書類ではなく、双方の認識を固定する書類だと考えると位置づけを理解しやすくなります。
注文請書・発注請書・注文書・契約書の呼び分け
似た名前の書類が並ぶため、まず呼称を整理しておきます。
書類名 | 発行する側 | 位置づけ | 別称 |
|---|---|---|---|
発注書 | 発注者 | 契約の申込み | 注文書 |
注文請書 | 受注者 | 申込みへの承諾 | 発注請書、請書 |
契約書 | 双方が記名押印 | 合意内容そのものを一体の書面にしたもの | 業務委託契約書、個別契約書 |
「注文請書」と「発注請書」は同じものを指します。発注側が「発注書」という語を使う会社では「発注請書」、「注文書」という語を使う会社では「注文請書」と呼ばれる傾向がありますが、法的な違いはありません。受注者から届いた書類のタイトルが自社の呼び方と違っていても、内容が承諾を示すものであれば同じ扱いで問題ありません。
なお、後述するとおり印紙税の判定では書類のタイトルは決め手になりません。国税庁も、課税文書に当たるかどうかは名称ではなく記載された内容の実質によって判定するとしています(国税庁 No.7100 課税文書に該当するかどうかの判断)。「請書」という名前だから課税、「確認書」という名前だから非課税、という判断はできない点は先に押さえておいてください。
注文請書と発注書の違いを発注側の実務で整理する

注文請書と発注書は「対になる書類」ですが、発行主体もタイミングも目的も異なります。発注側として押さえるべき違いを、実務で使う 3 つの軸で整理します。
誰がいつ出すのか|発注書と注文請書の役割分担
比較軸 | 発注書(注文書) | 注文請書 |
|---|---|---|
発行する側 | 発注者(委託する側) | 受注者(受託する側) |
タイミング | 契約の申込み時。作業着手前 | 発注書を受領した後、着手前 |
目的 | 発注内容(業務範囲・金額・納期・支払条件)を確定して伝える | その内容を承諾したことを証明する |
記載金額の性質 | 発注者が提示する金額 | 受注者が受諾した金額 |
印紙税の扱い | 原則として不要(注文請書とセットで契約が成立する運用の場合) | 請負契約に該当すれば課税対象 |
実務上とくに誤解されやすいのが最下段です。同じ内容が書かれていても、印紙税がかかるのは原則として承諾側が作成する注文請書のほうで、発注者が出す発注書には通常かかりません。これは、契約の成立を証明する文書(契約書)に当たるのが注文請書の側だからです。片務的に送るだけの発注書は、それ単体では契約の成立を証明していないと整理されます。
ただし、発注書に「本注文書は貴社との事前の合意に基づき作成したものです」といった、すでに合意が成立していることを示す文言が入っていると、その発注書自体が契約書と判定される可能性があります。自社の発注書テンプレートにこの種の文言が入っていないかは、一度確認しておく価値があります。
発注書そのものの記載項目や書き方については、発注書・注文書とは?書き方・書式・注意点で詳しく整理しています。
注文請書がないまま開発を始めたときに起きること
「発注書だけ送って開発が始まった」という状態は、決して珍しくありません。急ぎの案件で、受注者の承諾はメールの返信だけ、というケースです。この状態自体がただちに違法になるわけではありませんが、発注側にとって次のようなリスクが残ります。
- 着手時期があいまいになる:いつから稼働が始まったのかを示す書面がないため、稼働開始日の認識がずれても是正できません
- 仕様範囲が争点になる:「この機能は当初の見積範囲に入っていたのか」という論点が発生したとき、双方が承諾した範囲を示す書類がありません
- 検収条件が定まらない:何をもって完成とするかの合意がないと、検収の可否をめぐって支払時期が遅延します
- 金額の変更が追跡できない:見積書の版が複数ある場合、どの版で合意したのかが特定できません
いずれも「揉めなければ表面化しない」種類のリスクですが、揉めたときには発注側が不利になりやすい構造です。発注書を送っても注文請書が返ってこない場合は、着手前に必ず承諾の書面(あるいは少なくとも、発注書の内容を引用した承諾メール)を求めることをおすすめします。
2026年の取適法改正で発注側に求められる明示義務との関係
2026年1月1日から、いわゆる下請法が「中小受託取引適正化法(取適法)」に改称・改正されて施行されています(公正取引委員会 中小受託取引適正化法(取適法)関係)。この改正をきっかけに「注文請書の発行も義務化されたのか」と受け取られることがありますが、これは誤解です。
取適法が強化したのは、委託事業者(=発注側)が発注内容を明示する義務です。旧下請法で「3条書面」と呼ばれていた発注書面は、取適法では条番号が変わり「4条書面」に相当する位置づけとなりました。あわせて、電磁的方法(メール・受発注システム等)による提供について、従来必要だった受託者の事前承諾が不要となり、代わりに受託者から書面交付の請求があった場合に応じる義務が新設されています。
つまり、法改正で重くなったのは発注側の書面明示義務であり、受注者に注文請書の発行が義務づけられたわけではありません。注文請書を求めるかどうかは、法令上の義務ではなく、自社が証拠として必要と判断するかどうかの問題です。
一方で、取適法の適用対象となる取引(委託事業者と中小受託事業者の資本金・従業員規模の要件を満たす取引)では、発注側が明示すべき事項が法定されています。発注書のテンプレートが旧下請法の記載事項のままになっている場合は、この機会に記載項目の見直しを行っておくと安全です。
注文請書の記載事項と、発注側が突き合わせるべき項目

注文請書は受注者が作成する書類ですが、受け取った発注側が内容を確認せずにファイルしてしまうと、書類を交わした意味が半減します。ここでは記載事項の一覧と、発注側がチェックすべきポイントを整理します。
注文請書に必要な記載事項の一覧
注文請書の様式に法定のフォーマットはありません。ただし、契約内容を証明する書類として機能させるには、次の項目が揃っている必要があります。
項目 | 記載内容 | 発注側の確認ポイント |
|---|---|---|
発注者名 | 自社の正式名称・住所 | 略称や旧社名になっていないか |
受注者名・押印 | 受注者の正式名称・住所・押印または署名 | 見積書の発行元と同一の法人か |
発行日 | 注文請書を作成した日 | 発注書の日付より後になっているか |
対応する発注書の番号 | 発注書番号・件名 | どの発注書に対する承諾かが特定できるか |
業務内容・成果物 | 委託する業務の範囲、納品物の定義 | 発注書の記載と文言レベルで一致しているか |
金額 | 請負金額または委託料。消費税額は区分記載が望ましい | 税抜・税込のどちらで書かれているか |
納期・作業期間 | 納品予定日、または稼働期間 | 発注書の希望納期と一致しているか |
検収条件 | 検収の方法・期間 | 検収期間が実態に合っているか |
支払条件 | 支払期日・支払方法 | 自社の支払サイトと矛盾しないか |
金額欄については、後述する印紙税の判定にも関わるため、消費税額が区分記載されているかどうかを確認してください。消費税額等が区分記載されている場合、または税込価格と税抜価格の両方が記載されていて消費税額が明らかな場合、その消費税額等は印紙税の記載金額に含めません(国税庁 No.7124 消費税額等が区分記載された契約書等の記載金額)。区分記載の有無だけで印紙税額の階段が 1 段変わることもあります。
発注書との不一致を確認する 4 つの項目
返ってきた注文請書を受け取ったら、発注書と並べて次の 4 項目を突き合わせてください。ここで差分が見つかった場合、その場で是正しておかないと、後から「どちらが優先されるのか」があいまいになります。
- 金額:見積書の最終版と一致しているか。値引きや追加分が反映されているか
- 納期・作業期間:発注書の納期が、受注者側の都合で数日後ろ倒しになっていないか
- 検収条件:検収期間や検収の基準(何をもって完成とするか)が、発注書より緩い記載になっていないか
- 再委託の可否:発注書で再委託に事前承諾を求めているのに、注文請書側で触れられていないか
とくに 3 と 4 は、受注者のテンプレートが自社標準の条件で作られているために、発注書と食い違ったまま届くことがあります。差分を見つけたら、注文請書の再発行を依頼するか、覚書やメールで「発注書の記載を優先する」旨を明示的に合意しておくのが確実です。
注文請書で代えず契約書を締結すべきケース
発注書と注文請書の交換は手続きが軽く、小規模・短期の発注には適した方法です。しかし、次のいずれかに当てはまる案件では、注文請書で代替せず、業務委託契約書(または個別契約書)を締結すべきです。
- 成果物の知的財産権の帰属を定める必要がある:ソースコードや設計書の著作権が自社に移転するのか、受注者に留保されるのかは、注文請書の定型項目には通常含まれません
- 契約不適合責任(旧・瑕疵担保責任)の範囲と期間を定めたい:納品後に不具合が見つかった場合の無償対応期間を明確にしたい場合
- 損害賠償の上限を定めたい:システム障害による損害の負担範囲は、上限額の定めがないと争いが大きくなります
- 再委託の可否・範囲を制限したい:オフショアや個人事業主への再委託を制限したい場合
- 秘密保持の対象と期間を定めたい:注文請書だけでは、秘密情報の定義や返還義務までは規定されません
実務では、これらを定めた基本契約書を 1 度締結しておき、案件ごとの発注は発注書と注文請書で回す、という二層構造が最も扱いやすい形です。発注から契約締結までの全体の流れは、業務委託でエンジニアに発注する際の契約フローで整理しています。
注文請書の印紙税は「請負か準委任か」で決まる

ここからが本題です。注文請書に収入印紙が必要かどうかは、書類のタイトルでも、金額の大小でもなく、その契約が請負契約なのか準委任契約なのかで決まります。システム開発は、同じ「開発を委託する」という行為でも契約類型が分かれるため、ここを取り違えると判断を誤ります。
請負契約の注文請書は第2号文書|収入印紙はいくら必要か
請負契約とは、一方(請負人)が仕事の完成を約束し、相手方(注文者)がその結果に対して報酬を支払う契約です。請負に関する契約書は印紙税法別表第一の第2号文書に該当し、収入印紙が必要になります。国税庁も、請負には建設工事のような有形的なものだけでなく、役務の提供のように無形的な結果を目的とするものが含まれると示しています(国税庁 No.7102 請負に関する契約書)。
システム開発でいえば、「要件定義書に基づき Web システムを構築し、検収後に一括で支払う」という一括請負型の発注は、典型的な請負契約です。この場合、受注者が作成する注文請書は第2号文書に該当し、記載金額に応じた印紙が必要になります。
記載金額ごとの印紙税額は次のとおりです(国税庁 No.7140 印紙税額の一覧表(その1))。
記載金額 | 印紙税額 |
|---|---|
1万円未満 | 非課税 |
1万円以上 100万円以下 | 200円 |
100万円超 200万円以下 | 400円 |
200万円超 300万円以下 | 1,000円 |
300万円超 500万円以下 | 2,000円 |
500万円超 1,000万円以下 | 1万円 |
1,000万円超 5,000万円以下 | 2万円 |
5,000万円超 1億円以下 | 6万円 |
1億円超 5億円以下 | 10万円 |
契約金額の記載のないもの | 200円 |
5億円を超える区分もありますが、システム開発の個別発注で該当することはまれです。実務で扱う金額帯では、数百万円規模で 1,000〜2,000 円、1,000 万円を超えると 2 万円という水準感を押さえておけば十分です。
準委任契約の注文請書に印紙が不要な理由
一方、準委任契約は、仕事の完成ではなく事務処理(役務の提供)そのものを委託する契約です。システム開発では、「エンジニア 2 名を月額 160 万円で 6 ヶ月間アサインし、稼働時間に応じて支払う」といったラボ型・SES 型の発注がこれに当たります。成果物の完成を約束しておらず、稼働の提供に対して対価を支払う構造です。
印紙税は、印紙税法別表第一(課税物件表)に掲げられた 20 種類の文書にのみ課税されます。この課税物件表に「委任に関する契約書」は掲げられていません。したがって、準委任契約に基づく注文請書は、原則として課税文書に当たらず、収入印紙は不要です。
ここで重要なのは、判定は契約書のタイトルではなく記載内容の実質で行われるという点です。「準委任契約」と題した注文請書であっても、記載内容が「〇〇システムを完成させ、検収完了をもって報酬を支払う」となっていれば、実質は請負と判定され、第2号文書として課税される可能性があります。国税庁も、請負と委任の区分は当事者の意思や契約の目的から実質的に判断するという考え方を示しています(国税庁 質疑応答事例 請負の意義)。
発注側としては、受注者から「準委任なので印紙は不要です」と説明された場合に、注文請書の記載が稼働ベースの内容になっているかを確認しておくと安心です。請負契約と準委任契約の切り分けと、印紙の要否の詳しい判定基準は、業務委託契約書の印紙税で掘り下げています。
継続的な開発委託で見落としやすい第7号文書(基本契約書)
継続的な開発委託では、基本契約書を 1 通交わし、案件ごとに発注書と注文請書を回す運用が一般的です。このとき見落とされやすいのが、基本契約書そのものが第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)に該当するケースです。
第7号文書に該当する契約書の印紙税額は、記載金額にかかわらず 1 通につき 4,000 円です(国税庁 No.7104 継続的取引の基本となる契約書)。該当するのは、営業者間で売買・運送・請負などの複数の取引を継続的に行うために、目的物の種類、取扱数量、単価、対価の支払方法、債務不履行の場合の損害賠償の方法、再販売価格のうち 1 つ以上を定める契約書です。ただし、契約期間が 3 ヶ月以内で更新の定めがないものは除かれます。
システム開発の基本契約書は、支払方法や損害賠償の定めを含み、契約期間が 1 年で自動更新条項が入っていることが多いため、この要件に当てはまりやすい書類です。「個別の注文請書には印紙を貼っていたが、基本契約書には貼っていなかった」という状態は起こりがちなので、既存の基本契約書があるなら一度確認しておくことをおすすめします。
なお、基本契約書に個別の請負金額が記載されている場合は、第2号文書として扱われる場合もあり、所属の決定にはルールがあります。金額の記載がある基本契約書については、税理士または所轄税務署に確認するのが確実です。
継続開発では、基本契約書(第7号文書・4,000円)と個別の注文請書(第2号文書・金額に応じた額)の二重構造になる、という点が押さえどころです。
建設工事の軽減措置はシステム開発の注文請書には適用されない
印紙税額を調べていると、「請負契約書には軽減措置があり、1,000万円超5,000万円以下なら 1 万円」といった早見表を目にすることがあります。ここで注意が必要です。
この軽減措置は、建設工事の請負に関する契約に基づいて作成される契約書に限って適用されるもので、令和9年3月31日までに作成されるものが対象です(国税庁 No.7108 建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置)。
システム開発の請負契約書・注文請書は建設工事の請負契約ではないため、この軽減措置の対象外です。次のとおり、本則と軽減後では税額が倍ほど違います。
記載金額 | 本則(システム開発はこちら) | 建設工事の軽減後 |
|---|---|---|
100万円超 200万円以下 | 400円 | 200円 |
1,000万円超 5,000万円以下 | 2万円 | 1万円 |
5,000万円超 1億円以下 | 6万円 | 3万円 |
一般向けの早見表は軽減後の税額を掲載していることがあり、そのままシステム開発の発注に当てはめると税額を誤ります。システム開発の注文請書は本則の税額で判断すると覚えておいてください。
システム開発における基本契約書の雛形

この資料でわかること
システム開発を依頼する際にシステム開発会社と締結する基本契約書の雛形をご紹介します。
こんな方におすすめです
- システム開発を発注する際にどのような基本契約を結ぶのか興味がある
- システム開発会社がきちんと契約の取り交わしをしてくれるのか不安
- システム開発を発注する側にどのような義務が生ずるのか気になる
入力いただいたメールアドレスにPDFをお送りします。
注文請書の収入印紙が不要になるケースと電子契約

ここまでの内容を、発注側が確認する順序に沿って整理します。
注文請書に収入印紙が不要になる 3 つのケース
注文請書に収入印紙が不要になるのは、主に次の 3 パターンです。
- 記載金額が 1 万円未満:第2号文書は記載金額 1 万円未満が非課税です。ただし、システム開発の発注で該当する場面はほとんどありません
- 契約類型が準委任:仕事の完成ではなく役務の提供を対価とする契約であれば、課税物件表に掲げられていないため課税されません。判定は記載内容の実質によります
- 電磁的記録として交付する:PDF をメール送信する、電子契約サービス上で締結するなど、紙の文書を作成・交付しない方法をとる場合です
このうち、金額の要件は動かせず、契約類型は案件の性質で決まります。発注側の意思で選択できるのは 3 つ目の「電子で交付する」だけです。だからこそ、印紙代の負担を交渉するより、交付方法を電子に切り替えるほうが話が早いケースが多くなります。
電子契約・PDF 送付で印紙が不要になる根拠
「PDF なら印紙が不要」というのは通説ではなく、公的な見解として示されているものです。根拠は 2 つあります。
1 つは国税庁の質疑応答事例です。注文請書を電磁的記録に変換して電子メールで送信した場合について、「印紙税の課税対象となるのは、課税物件表の物件名欄に掲げられている文書であり、電磁的記録は文書に含まれない。したがって、電磁的記録に印紙税は課税されない」という趣旨が示されています(国税庁 質疑応答事例 取引先にメール送信した電磁的記録に関する印紙税の取扱い)。福岡国税局の文書回答事例でも、注文請書を電磁的記録に変換して電子メールで送信した場合は、ファクシミリ送信と同様に課税文書を作成したことにはならないため、課税原因は発生しないと回答されています(福岡国税局 請負契約に係る注文請書を電磁的記録に変換して電子メールで送信した場合の印紙税の課税関係について)。
もう 1 つは政府答弁書です。2005年(平成17年)3月15日の答弁書において、電磁的記録により作成されたものについて印紙税が課税されないことが政府見解として確認されています(参議院 印紙税に関する質問に対する答弁書)。
「税務調査で否認されるのではないか」という不安を持たれる方は多いのですが、根拠は国税当局の公表見解と政府答弁書という明確なものです。上長への説明が必要な場合は、この 2 つを示せば十分な根拠になります。
電子で送った後に紙を渡すと課税される落とし穴
ここが最も注意すべきポイントです。前掲の福岡国税局の文書回答事例では、電子メールで送信した場合は課税原因が発生しないとしたうえで、「電子メールで送信した後に注文請書の現物を別途持参するなどの方法により相手方に交付した場合には、課税文書の作成に該当し、現物の注文請書に印紙税が課される」と明示されています。
実務では、次のような場面で意図せず紙が交付されてしまいます。
- 電子で締結した後、「原本を製本して郵送します」と受注者が紙を送ってきた
- 監査対応や社内規程のために、押印済みの紙を後から取り交わした
- 電子契約サービスで締結した後、控えとして紙に出力し、署名押印して相手方に渡した
自社で印刷して保管するだけであれば、相手方への交付にあたらないため課税原因は発生しません。問題になるのは「相手方に紙の現物を渡した」場合です。電子化によって印紙を不要にするなら、「紙の原本は一切取り交わさない」という運用まで含めて、受注者と事前に合意しておく必要があります。
注文請書の印紙代は誰が負担する?発注側の判断と社内説明
最後に、冒頭のペインポイントである「印紙代のご負担はどちらになりますか」への答えを整理します。
収入印紙は誰が貼り、誰が負担するのか
印紙税の納税義務者は、課税文書の作成者です。国税庁も、印紙税は課税文書を作成した時に納税義務が成立し、その作成者が納税義務を負うとしています(国税庁 質疑応答事例 課税文書の作成時期及び作成者)。
注文請書は受注者が単独で作成し、発注者に交付する書類です。したがって、注文請書の作成者は受注者であり、印紙を貼り、消印をする法律上の義務は受注者にあります。発注側に納税義務はありません。
これに対して、契約書を 2 通作成して双方が記名押印し、各 1 通ずつ保管する形式の場合は、2 者が共同して作成した課税文書となり、連帯納税義務を負います。この場合は「1 通ずつ自社保管分の印紙を負担する」「折半する」といった取り決めが必要になりますが、注文請書のように一方が単独で作成する書類では、この論点は発生しません。
見積に「印紙代」が計上されてきたときの考え方
法律上の納税義務が受注者にあることと、経済的な負担を誰がするかは、別の問題です。実務では、受注者が見積書の諸経費に「印紙代」を計上し、結果として発注側が実質的に負担する形になっている例があります。これ自体は違法でも不当でもなく、単なる価格交渉の一部です。
発注側としての整理は次のとおりです。
状況 | 発注側の対応 |
|---|---|
見積に印紙代が計上されている | 印紙税額表と照らして金額が妥当か確認する。契約金額 1,000 万円で 2 万円なら妥当、それ以上なら根拠を確認する |
負担を求められたが応じたくない | 「注文請書の作成者は御社であり納税義務も御社にある」と説明できる。ただし価格全体の交渉として扱われる点は理解しておく |
そもそも印紙代を発生させたくない | 電子交付(PDF・電子契約サービス)を提案するのが最も確実 |
多くのケースで最も合理的なのは 3 つ目です。数千円から数万円の負担を誰が持つかを交渉するより、交付方法を電子に変えれば論点そのものが消えます。受注者側にとってもコスト削減になるため、提案が通りやすい交渉でもあります。「印紙代を負担してほしい」と言われたときに、「電子でお送りいただく形にできますか」と返す——これが発注側として最も効率の良い一手です。
貼り忘れによる過怠税と、発注側への影響
印紙の貼り忘れには過怠税というペナルティがあります。課税文書の作成者が印紙税を納付しなかった場合、納付しなかった印紙税額とその 2 倍の金額の合計、すなわち本来納付すべき印紙税額の 3 倍の過怠税が徴収されます。ただし、税務調査による指摘を予知せずに自主的に「印紙税不納付事実申出書」を所轄税務署長に提出した場合は、1.1 倍に軽減されます(国税庁 No.7131 印紙税を納めなかったとき)。印紙を貼っていても消印をしなかった場合には、消印されていない印紙の額面金額に相当する過怠税が課されます。
注文請書についていえば、この過怠税を負担するのは作成者である受注者です。発注側が直接課税されることはありません。ただし、発注側にも次のような形で影響が及びます。
- 自社が作成者となる文書には自社の責任が及ぶ:基本契約書を双方記名押印で締結している場合、共同作成として連帯納税義務を負います。前述の第7号文書(4,000円)の貼り忘れは、発注側の問題にもなります
- 取引関係への影響:受注者側の税務調査で過怠税が発生した場合、その原因が「発注側が印紙代の負担を拒んだため」という構図になると、関係がぎくしゃくします
- 社内統制上の指摘:契約書類の管理体制として、印紙の要否を判断せずに書類を受領していた状態自体が、内部監査で指摘される可能性があります
なお、印紙が貼られていなくても契約自体は有効です。印紙税の未納は税務上の問題であり、契約の効力とは無関係です。「印紙が貼られていない注文請書を受け取ってしまった」場合も、契約が無効になるわけではないので、そこは切り分けて考えてください。
発注パターン別|注文請書と印紙税の判断手順

最後に、自社の案件を判定するための手順をまとめます。次の 4 ステップを順に確認してください。
- 契約類型は請負か準委任か:仕事の完成に対して支払うのか(請負)、稼働・役務の提供に対して支払うのか(準委任)。タイトルではなく注文請書の記載内容で判断します
- 記載金額はいくらか:請負であれば、記載金額に応じて印紙税額が決まります。消費税額が区分記載されていれば、その分は記載金額に含めません
- 紙か電子か:電磁的記録で交付するなら印紙は不要です。ただし、後から紙の現物を相手方に交付しないことが条件です
- 継続取引の基本契約はあるか:基本契約書を締結している場合、その基本契約書が第7号文書(4,000円)に該当していないかを確認します
この 4 ステップを、システム開発で典型的な 3 つの発注パターンに当てはめると次のようになります。
発注パターン | 契約類型 | 注文請書の印紙(紙で交付する場合) | 基本契約書の印紙 | 発注側の実務メモ |
|---|---|---|---|---|
一括請負(要件定義済みのシステムを完成・納品) | 請負 | 必要。記載金額に応じた第2号文書の税額 | 単発なら基本契約書なし | 金額が大きいほど印紙代も上がるため、電子交付の提案効果が最も大きいパターン |
月額準委任(エンジニアの稼働提供・ラボ型) | 準委任 | 原則不要 | 期間 3 ヶ月超・自動更新なら第7号文書(4,000円)に該当し得る | 注文請書の記載が「完成・検収」ベースになっていないか確認する |
継続開発(基本契約+案件ごとの個別発注) | 個別発注ごとに請負/準委任が分かれる | 請負の個別発注は必要、準委任の個別発注は原則不要 | 第7号文書(4,000円)に該当する可能性が高い | 個別の注文請書だけでなく、基本契約書側の印紙も確認する |
なお、電子交付に切り替えれば、上表の「注文請書の印紙」欄はいずれも不要になります。判断を簡潔にしたいのであれば、電子契約への統一が最もシンプルな解です。
ここまでの内容は、あくまで一般的な判断の枠組みです。契約書の文言によって判定が変わるケース、基本契約書に金額の記載がある場合の所属の決定など、個別の判断が必要な論点も残ります。金額が大きい案件や判断に迷う案件は、顧問税理士または所轄の税務署にご相談ください。
関連情報
業務委託でエンジニアに発注する際の法律・契約実務を体系的に確認したい方は、フリーランス新法対応 業務委託発注の法律・契約リスク点検ガイドをご用意しています。契約書・NDA の必須記載事項チェックリストや、偽装請負と適法な業務委託の区別など、発注側が押さえるべき論点を 1 冊にまとめています。
システム開発の発注形態や契約の組み立てからご相談されたい場合は、お問い合わせフォームよりご連絡ください。要件の整理段階からご相談いただけます。
システム開発における基本契約書の雛形

この資料でわかること
システム開発を依頼する際にシステム開発会社と締結する基本契約書の雛形をご紹介します。
こんな方におすすめです
- システム開発を発注する際にどのような基本契約を結ぶのか興味がある
- システム開発会社がきちんと契約の取り交わしをしてくれるのか不安
- システム開発を発注する側にどのような義務が生ずるのか気になる
入力いただいたメールアドレスにPDFをお送りします。
よくある質問
- 注文請書は必ず発行してもらう必要がありますか?
法律上の発行義務はなく、2026年の取適法改正でも受注者への発行義務は課されていません。ただし着手時期や仕様範囲をめぐる争いを防ぐ証拠になるため、契約書を別途締結しない案件では発行を求めるのが安全です。
- 準委任契約なら印紙は絶対に不要と考えていいですか?
判定は契約書のタイトルではなく記載内容の実質で行われます。「準委任」と題されていても、完成・検収を前提とした記載になっていれば請負とみなされ課税される可能性があるため、注文請書の文言が稼働ベースかを確認してください。
- PDFで注文請書を受け取れば印紙は本当に不要ですか?
国税庁の見解・政府答弁書により電磁的記録は課税対象外です。ただし後から紙の原本を別途交付すると課税文書扱いになるため、紙を一切取り交わさない運用まで受注者と事前に合意しておく必要があります。
- 印紙代は発注側と受注側のどちらが負担すべきですか?
注文請書を単独で作成するのは受注者のため、納税義務は受注者にあり発注側に法的な負担義務はありません。負担を求められた場合は、電子交付への切り替えを提案するのが最も合理的な対応です。
- 継続的な開発委託の基本契約書にも印紙は必要ですか?
支払方法や損害賠償の定めを含む契約書のうち、除外要件(契約期間が3ヶ月以内かつ更新の定めがない)に当てはまらないもの、つまり契約期間が3ヶ月を超える、または自動更新条項があるもののいずれかに該当するものは第7号文書に該当し、記載金額にかかわらず1通4,000円の印紙税がかかります。個別の注文請書とは別に確認が必要です。



