新しい業務システムを検討し始めたとき、「今回もまた SaaS で足りるのか、それとも独自開発が必要か」を判断する場面に直面する発注担当者の方は多いのではないでしょうか。すでに Salesforce や kintone、freee、Slack といった SaaS を業務で活用してきた企業ほど、「独自の業務フローに合わせたい」「他システムとの深い連携が必要」といった要件で SaaS の限界にぶつかりやすくなります。
こうした場面で開発会社に相談すると、「PaaS ベースで作ります」「IaaS 上に自前で構築します」といった説明を受けることがあります。しかし、SaaS・PaaS・IaaS の違いや、それぞれの費用感・向き不向きを即答できる発注者は多くありません。この状態のまま開発会社と会話を進めると、要件の擦り合わせに時間がかかり、見積り比較の軸もぶれてしまいます。
難しいのは、SaaS・PaaS・IaaS の解説記事の多くが「責任範囲の図解」や「概念の定義」に紙面を割いており、発注者が本当に知りたい「どの要件ならどのモデルを選ぶべきか」「開発会社に相談する前に何を整理しておくべきか」に踏み込んでいる記事が少ないことです。
そこで本記事では、SaaS・PaaS・IaaS の違いを発注者の思考順(SaaS ファースト)で整理したうえで、代表サービス例・費用と工数の比較・意思決定フローチャート・自社整理シートを一気通貫で解説します。読み終えたときには、「当社は要件 A・B・C の理由で PaaS を前提に検討し、SaaS 拡張と IaaS 上のフル開発は理由 D・E で除外した」と、社内資料や RFI に書ける状態を目指します。
システム開発 完全チェックリスト――発注前・発注中・完了後の3フェーズで使えるチェック集

この資料でわかること
システム開発の外注・発注を初めて経験する担当者や、過去に失敗を経験した担当者が、発注プロセスの各フェーズで「何をチェックすべきか」を明確に把握できるようにする。
こんな方におすすめです
- 初めてシステム開発を外注する担当者
- 過去の発注で失敗を経験した方
- ベンダー選定の基準が分からない方
入力いただいたメールアドレスにPDFをお送りします。
SaaS・PaaS・IaaSの違いを一枚絵で理解する

SaaS・PaaS・IaaS は、クラウド事業者が「どこまで用意してくれるか」の違いで捉えると、発注者にとって最も分かりやすくなります。まずは 3 モデルの位置づけを一枚絵で押さえ、以降のセクションで参照できる共通認識を作ります。
SaaS・PaaS・IaaS の関係を「どこまで用意されているか」で捉える
不動産にたとえると、SaaS・PaaS・IaaS の関係は次のように整理できます。
- SaaS(Software as a Service): 家具・家電まで揃った完成済みの部屋を借りるイメージ。契約すればすぐに使える
- PaaS(Platform as a Service): 電気・水道・キッチンなどの設備が整った建物を借り、内装や間取りだけ自分で仕上げるイメージ
- IaaS(Infrastructure as a Service): 土地だけ借りて、建物・設備・内装すべてを自分で設計・建築するイメージ
この比喩の要点は「事業者が用意する範囲が広いほど、利用者の自由度は下がるが、導入スピードと運用負荷が下がる」というトレードオフにあります。SaaS が最速・最短で使い始められる一方、独自の業務要件を全面反映することはできません。IaaS は自由度が最大ですが、その分だけ設計・構築・運用の工数がかかります。PaaS はその中間で、「アプリケーション開発だけに集中したいが、SaaS では要件を満たせない」場合の折衷案として位置づけられます。
責任範囲の比較表(アプリ・ミドルウェア・OS・仮想化・ハードウェアの5層)
同じ内容を「システムの構成レイヤ」で整理すると、事業者と利用者の責任範囲は次のように分かれます。
レイヤ | オンプレミス | IaaS | PaaS | SaaS |
|---|---|---|---|---|
アプリケーション | 利用者 | 利用者 | 利用者 | 事業者 |
データ | 利用者 | 利用者 | 利用者 | 利用者 |
ミドルウェア(DB・実行環境等) | 利用者 | 利用者 | 事業者 | 事業者 |
OS | 利用者 | 利用者 | 事業者 | 事業者 |
仮想化 | 利用者 | 事業者 | 事業者 | 事業者 |
サーバ・ストレージ・ネットワーク | 利用者 | 事業者 | 事業者 | 事業者 |
物理データセンター | 利用者 | 事業者 | 事業者 | 事業者 |
責任範囲の詳細な解説は関連記事のクラウドサービスの種類とオンプレミスとの違いでも紹介していますので、あわせてご参照ください。
なお、データそのものは SaaS でも利用者側の管理対象として残る点に注意が必要です。バックアップ・退避・第三者アクセス制御などのデータ主権は、モデルによらず発注者側の責任として残ります。
「◯◯aaS」という呼び方の意味(as a Service の考え方)
SaaS・PaaS・IaaS の末尾に付く「aaS(as a Service)」は、「サービスとして提供する」という意味です。かつては自社でハードウェアを購入し、ソフトウェアをインストールして運用する形が主流でしたが、クラウドの普及により「必要なレイヤだけを月額課金で借りる」形が一般化しました。SaaS・PaaS・IaaS は「借りる範囲の広さ」で名前が分かれているだけで、根本の思想は同じです。近年は CaaS(Container as a Service)や FaaS(Function as a Service)といった派生モデルも登場していますが、まずは基本 3 モデルの違いを押さえることが選定の出発点となります。
SaaS の代表例と「SaaS で足りるケース/足りないケース」
発注者が「新しいシステムを検討する」場面では、まず既製の SaaS で要件が満たせるかを確認するのが最短ルートです。ここでは代表的な SaaS を確認し、「SaaS で足りる」判断基準と「SaaS では頭打ちになる」典型パターンを整理します。
代表的な SaaS(業種横断型・業種特化型)
SaaS は業種横断型と業種特化型に大別できます。
- 業種横断型: Salesforce(CRM/SFA)、kintone(業務アプリ基盤)、freee・マネーフォワード クラウド(会計)、Slack・Microsoft Teams・Chatwork(コミュニケーション)、Zoom(Web 会議)、Google Workspace・Microsoft 365(オフィス生産性)
- 業種特化型: 医療(電子カルテ SaaS)、建設(施工管理 SaaS)、飲食(POS・予約 SaaS)、物流(配送管理 SaaS)など、特定業界の業務プロセスに合わせて設計されたサービス
多くの企業が最初に導入するのは、SFA・会計・グループウェアといった業種横断型 SaaS です。これらは業界共通の業務プロセスに最適化されており、導入直後から標準機能で運用を開始できる点が最大のメリットです。
SaaS で足りるケースの共通点
以下のいずれかに該当する場合、SaaS で要件を満たせる可能性が高いといえます。
- 業務プロセスが業界標準から大きく外れていない
- 求める機能が「SaaS の標準機能 + 設定でのカスタマイズ」の範囲に収まる
- 利用ユーザー数の増減が見通せる範囲にある
- 他システムとの連携が SaaS 側で提供される API・Webhook で対応できる
これらを満たせるなら、SaaS は初期費用が最小で導入スピードも最速です。逆に「独自要件を無理に SaaS の枠に押し込む」判断は、後々の運用工数を増やしがちで、SaaS のメリットを損ないます。
SaaS だけでは足りなくなる典型パターン
一方、次のような場面では SaaS だけで要件を満たすのが難しくなります。
- カスタマイズ限界: 業種特化型 SaaS でも、自社の独自ワークフローや帳票フォーマットに完全一致させられない
- データ主権・セキュリティ要件: データを国内特定リージョンに置く必要がある/独自の暗号化キー管理が必要
- 深い連携要件: 既存の基幹システムや業界固有システムと双方向でリアルタイム連携する必要があり、SaaS の API 制限(呼出回数・レイテンシ)で足りない
- 料金逓増の壁: ユーザー数課金の SaaS で、成長に伴う月額費用の伸びが事業計画上の許容範囲を超える
- 業務のコア差別化領域: 業務ロジック自体が競争優位の源泉であり、汎用 SaaS の共通機能では差別化できない
こうした場面で選択肢に上がるのが、次章で解説する PaaS、あるいはさらに自由度の高い IaaS です。
PaaS の代表例と使いどころ
PaaS は「SaaS では要件を満たせないが、サーバやミドルウェアの管理は事業者に任せたい」場面で有力な選択肢になります。SaaS と IaaS の中間に位置し、アプリケーション開発に集中できる点が特徴です。
代表的な PaaS
代表的な PaaS には、次のようなサービスがあります。
- アプリケーション実行基盤系: Heroku、Google App Engine、AWS Elastic Beanstalk、Azure App Service
- フロントエンド・エッジ系: Vercel、Netlify、Cloudflare Pages
- バックエンド BaaS 系(PaaS の一種として扱われることが多い): Firebase、Supabase、AWS Amplify
これらは共通して、「コードを push するとサーバの構築・OS の更新・ミドルウェアの管理を事業者側が担ってくれる」設計になっています。開発者はアプリケーションのコードとデータ構造の設計に集中できます。
PaaS が向く要件(開発スピード最優先・変動負荷・少人数運用体制)
PaaS が最も力を発揮するのは、次のような要件です。
- 開発スピード最優先: 新規事業や PoC で、MVP を数週間〜数ヶ月で立ち上げたい
- アクセスの変動が大きい: キャンペーンや季節性で負荷が急変し、事業者側のオートスケーリングに任せたい
- 少人数運用体制: 専任のインフラエンジニアを置けない/置きたくない
- 独自ロジックがコア差別化領域にある: SaaS では実現できない独自の業務ロジック・UX を、開発工数を抑えて実装したい
PaaS の使いどころは「独自要件はあるが、インフラ運用の負担は最小化したい」の一言に集約できます。
PaaS の制約(実行環境の縛り・費用が読みにくい・特定プラットフォーム依存)
反面、PaaS には以下の制約があります。
- 実行環境の縛り: 対応言語・ランタイムバージョン・ライブラリに制限があり、特殊なミドルウェアや OS レベルのカスタマイズが必要な場合は選択肢が狭まる
- 費用の予測しにくさ: 従量課金が多く、トラフィックの急増で月額費用が想定を超えることがある
- プラットフォーム依存(ベンダーロックイン): 特定 PaaS の独自機能に深く依存すると、将来的な他クラウドへの移行コストが上がる
- セキュリティ要件との適合: ネットワーク境界の細かい制御や、特定の準拠要件(業界規制等)を満たすには追加設定・機能が必要になる場合がある
これらを許容できるか、事前に確認しておくことが重要です。
IaaS の代表例と使いどころ
IaaS は「土地だけ借りて、その上のすべてを自社で設計する」モデルです。自由度は最大ですが、その分だけ設計・構築・運用に人的リソースがかかります。
代表的な IaaS
主要な IaaS には、次のようなサービスがあります。
- ハイパースケーラー系: AWS EC2、Google Compute Engine、Microsoft Azure Virtual Machines
- 国内クラウド系: さくらのクラウド、ニフクラ、IIJ GIO、IDCF クラウド
いずれも仮想サーバ・ストレージ・ネットワークを月額または従量課金で借りて、OS 以上のレイヤは利用者側で構築します。ハイパースケーラー系はグローバル拠点・多彩なマネージドサービス・従量課金の柔軟性が強みで、国内クラウド系は国内リージョン・国内サポート・日本円決済の分かりやすさが選ばれる理由になります。
IaaS が向く要件(既存資産の段階移行・特殊ミドルウェア・ハイブリッド構成)
IaaS が特に向くのは、次のような場面です。
- オンプレミスからの段階移行: 既存のオンプレシステムを、まず IaaS 上で同じ構成のまま動かし、その後に段階的にクラウド最適化する(リフト&シフト戦略)
- 特殊ミドルウェア・OS 要件: 特定バージョンの OS や、業界固有のミドルウェアを動かす必要があり、PaaS の実行環境には収まらない
- ハイブリッド構成: 一部を IaaS、一部を PaaS や SaaS、一部を自社データセンターに置き、専用線で接続する
- 規制対応で細かいネットワーク制御が必要: 官公庁・金融・医療など、通信経路や監査ログの管理要件が厳しい業界
クラウド移行そのものの進め方は、関連記事のクラウド移行の進め方もあわせて参考にしてください。
IaaS の制約(構築・運用の工数・専門人材の必要性)
IaaS の自由度と引き換えに、次の負担が発生します。
- 設計・構築の工数: サーバ台数・ネットワーク構成・冗長化・バックアップの設計を一から行う必要がある
- 運用の継続工数: OS のセキュリティパッチ適用、ミドルウェアのバージョン管理、監視・障害対応を自社(または委託先)で継続実施する
- 専門人材の確保: インフラエンジニア・SRE・セキュリティ担当が必要で、社内で確保できない場合は運用委託の費用が発生する
- 費用予測の難しさ: 仮想サーバ台数・データ転送量・ストレージ容量の見積り精度が求められる
「自由度を活かせる要件があるか」「運用体制を継続的に確保できるか」の 2 点を、発注前に確認しておくことが重要です。
システム開発 完全チェックリスト――発注前・発注中・完了後の3フェーズで使えるチェック集

この資料でわかること
システム開発の外注・発注を初めて経験する担当者や、過去に失敗を経験した担当者が、発注プロセスの各フェーズで「何をチェックすべきか」を明確に把握できるようにする。
こんな方におすすめです
- 初めてシステム開発を外注する担当者
- 過去の発注で失敗を経験した方
- ベンダー選定の基準が分からない方
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SaaS・PaaS・IaaS を比較する(費用・スピード・自由度・運用負荷)

責任範囲の比較に加え、発注者の実務判断で使いやすい 5 軸で 3 モデル + オンプレを並べます。稟議・RFI・見積り比較の共通言語として活用できます。
発注者視点の 5 軸比較表
観点 | オンプレミス | IaaS | PaaS | SaaS |
|---|---|---|---|---|
初期費用 | 大(機器購入・構築) | 中(構築のみ) | 小〜中(開発費が主) | 極小(契約のみ) |
月額費用の予測しやすさ | 高(減価償却が読める) | 中(従量部分に幅) | 中〜低(トラフィック依存) | 高(ユーザー数課金が主) |
導入スピード | 遅(数ヶ月〜) | 中(数週間〜数ヶ月) | 中(数週間〜数ヶ月) | 速(即日〜数週間) |
カスタマイズ自由度 | 最大 | 大 | 中 | 小(設定範囲内) |
運用負荷 | 最大 | 大 | 小〜中 | 極小 |
なお、初期費用の「大/中/小」は絶対額ではなく、同一システムを別モデルで実装した場合の相対比較として読んでください。
表の読み方(軸ごとのトレードオフ)
この表を読む上で押さえておきたいのは、5 軸すべてで有利なモデルは存在しないという点です。
- 導入スピードと自由度は逆相関: SaaS が最速だが自由度は最小、IaaS は自由度最大だが導入に時間がかかる
- 月額費用の予測しやすさは PaaS/IaaS で下がる: 従量課金の比率が上がるため、事業成長時の費用シミュレーションが重要
- 運用負荷は組織のリソースに直結: 少人数の情シス体制なら SaaS・PaaS 優先、専任チームを持てるなら IaaS も選択肢
- 初期費用の低さが運用費用の低さを意味しない: SaaS はユーザー数に比例、IaaS はサーバ台数に比例するため、規模拡大時の総所有コスト(TCO)を見通しておく
稟議で「安いから SaaS」「自由度が高いから IaaS」と単軸で決めると、後で他の軸のトレードオフが顕在化します。次章の『発注者向け・SaaS/PaaS/IaaS の選び方フローチャート』では、この 5 軸を発注者の意思決定フローに落とし込みます。
発注者向け・SaaS/PaaS/IaaS の選び方フローチャート

ここまでの整理を、発注者が実務で使える意思決定フローに変換します。開発会社に相談する前の自社整理として活用してください。
意思決定フローの前提(要件を業務・技術・運用の 3 軸で棚卸し)
フローに入る前に、要件を次の 3 軸で棚卸しします。
- 業務要件: どの業務プロセスをシステム化するか/既製 SaaS の想定業務範囲に収まるか
- 技術要件: 求める応答性能・可用性・データ主権・既存システムとの連携方式
- 運用要件: 運用担当者の体制(人数・スキル)/許容できる運用工数
この 3 軸で「SaaS で満たせない要件」を具体化しておくと、次の分岐ツリーで判断が明確になります。
分岐ツリー(Yes/No 質問形式)
意思決定を次の分岐で進めます。上から順に判定してください。
- 業務要件の 80% 以上を既製 SaaS で満たせるか?
- Yes → まず SaaS を第一候補として詳細評価する
- No → 次の質問へ
- 満たせない要件は、SaaS の設定・アドオン・API 連携で吸収できる範囲か?
- Yes → SaaS + アドオン/連携開発のハイブリッド構成を検討
- No → 次の質問へ
- 独自のロジックや業務フローが、自社の競争優位(コア差別化)に直結するか?
- No → 別の SaaS(業界特化型)を再探索するか、要件の見直しを検討
- Yes → 次の質問へ(独自開発が妥当)
- 運用専任者(インフラエンジニア・SRE)を継続的に確保できるか?
- No → PaaS を第一候補に検討
- Yes → 次の質問へ
- 特殊な OS/ミドルウェア/規制対応/ハイブリッド構成の要件があるか?
- No → PaaS でも要件を満たせる可能性が高い(PaaS を第一候補)
- Yes → IaaS を第一候補として検討
このフローは「SaaS で足りるか?→ 独自開発が必要か?→ 独自開発なら PaaS で十分か IaaS が必要か?」という段階判断です。SaaS を最初に確認するのは、最も導入コスト・運用負荷が低いためです。
さらに SaaS 拡張とスクラッチ開発の判断軸を深掘りしたい場合は、関連記事のSaaS と受託開発の比較もあわせてご参照ください。
RFI/RFP に書ける文言テンプレート
分岐ツリーの結論を、社内資料や RFI/RFP に落とし込むための文言テンプレートを 3 パターン紹介します。
PaaS 前提で検討する場合
当社は、既存 SaaS で満たせない業務要件が全体の約 40% を占め、特に独自ワークフローと他システム連携が競争優位に直結すると判断した。一方でインフラ運用の専任者を確保しない方針のため、PaaS を前提としたスクラッチ開発を検討する。SaaS 拡張案は要件充足率、IaaS 上のフル開発案は運用体制の観点からそれぞれ除外した。
IaaS 前提で検討する場合
当社は、業界固有のミドルウェア要件および既存オンプレシステムからの段階移行の必要性から、IaaS 上での構築を前提とする。PaaS 案は対応ミドルウェアの制約、SaaS 案は業務プロセスの独自性から除外した。運用は自社インフラチームでの継続対応とする。
SaaS + アドオン構成を検討する場合
当社は、業務要件の約 85% を既製 SaaS で充足可能と判断し、SaaS を主軸に据える。残る 15% の独自要件は、SaaS 提供の API を用いた連携開発、および必要に応じた業種特化 SaaS の併用で吸収する。PaaS/IaaS 上のフル開発は、初期投資と運用体制の観点から見送る。
これらは開発会社に相談する際の前提共有としてもそのまま活用できます。
発注前に整理しておきたい 5 つのチェック項目

意思決定フローと並行して、開発会社に相談する前に自社内で整理しておきたい項目を 5 つに絞って紹介します。ここが整理されていると、初回打ち合わせでの見積り精度が大きく上がります。
業務要件の棚卸し(機能要件・非機能要件)
はじめに、システム化したい業務を機能要件と非機能要件に分けて書き出します。
- 機能要件: どの業務プロセスをシステム化するか、必須機能/あると嬉しい機能/不要機能の 3 段階で仕分ける
- 非機能要件: 応答性能(何秒以内)、可用性(月間稼働率)、セキュリティ要件(データ保管場所・アクセス制御・監査ログ)、バックアップ・災害復旧の水準
このうち非機能要件が SaaS の標準仕様と乖離する場合、PaaS/IaaS 検討の直接的な理由になります。
想定利用規模と成長見込み
現時点の利用者数だけでなく、将来のピーク・成長見込みを整理します。
- 同時利用ユーザー数の現在値/半年後/2 年後の見込み
- 1 日あたりのトランザクション件数
- データ蓄積量の増加ペース(月あたり/年あたり)
SaaS のユーザー数課金モデルや、PaaS/IaaS の従量課金モデルはいずれも規模で費用が変わります。3 モデルの月額費用シミュレーションを規模別に持っておくと、選定判断がぶれません。
既存システムとの連携ポイント
既存の基幹システム・会計 SaaS・顧客管理 SaaS などとの連携要件を整理します。
- 連携先システム名と、連携方式(API/CSV/DB 直接/ファイル連携)
- 連携の頻度(リアルタイム/日次バッチ/月次)
- 双方向連携か片方向連携か
深い連携要件が多いほど、SaaS の API 制限に引っかかる可能性が高まり、PaaS/IaaS 上の独自開発が有利になります。
運用体制のリソース確認
システム稼働後の運用体制を、想定運用人数と役割で棚卸しします。
- 社内のインフラ・アプリ運用担当者の人数とスキルレベル
- 外部の運用委託先の有無
- 障害対応の許容時間(業務時間内のみ/24 時間 365 日)
SaaS/PaaS は運用負荷が低い代わりに事業者の障害対応に依存し、IaaS は自社で障害対応を回す前提になります。この差は「安心感」ではなく、体制と契約の話として整理してください。
予算とタイムラインの現実解
最後に、予算とタイムラインの現実解を確認します。
- 初期費用の予算枠(最大許容額)
- 月額運用費用の予算枠(最大許容額)
- 稼働希望時期と、遅延した場合の業務影響度
SaaS は即日〜数週間、PaaS/IaaS 上の開発は数週間〜数ヶ月かかることが一般的です。稼働希望時期が非常にタイトな場合、要件を絞って SaaS 中心で始め、後から PaaS/IaaS 上の独自開発に移行する段階戦略も選択肢になります。
まとめ
本記事のポイントを 3 点で振り返ります。
- SaaS・PaaS・IaaS は「事業者が用意する範囲」の違いであり、事業者の範囲が広いほど導入スピードと運用負荷が下がる一方、自由度は下がる
- 発注者の意思決定は SaaS ファースト(既製で足りるか)→ 独自開発が必要ならコア差別化かを判定(差別化に直結しないなら別 SaaS 再探索)→ PaaS で十分か IaaS が必要かを判定(運用体制・特殊要件の有無)という順で進める
- 開発会社に相談する前に、業務要件・利用規模・既存連携・運用体制・予算/タイムラインの 5 項目を自社整理しておくと、初回打ち合わせでの見積り精度と選定判断の質が大きく上がる
「SaaS で足りない要件が出た」その次の一歩は、いきなり開発会社にすべてを委ねるのではなく、自社の 5 項目を整理し、選定フローで PaaS/IaaS/別 SaaS の当たりをつけたうえで相談することです。この順序を踏むことで、RFI/RFP には「当社は要件 A・B・C の理由で PaaS を前提に検討し、SaaS 拡張と IaaS 上のフル開発は理由 D・E で除外した」と自信を持って書ける状態に到達できます。
発注者向けに、SaaS・PaaS・IaaS の選定判断や外部人材活用の考え方をさらに深く整理したい方は、お役立ち資料もあわせてご活用ください。社内稟議や RFI 作成の下地資料としてご参照いただけます。
PaaS/IaaS を含む独自開発をご検討中で、要件整理の段階から相談したい方は、お問い合わせフォーム からご連絡ください。SaaS で足りない要件の切り出しや、選定フローの適用支援もお手伝いいたします。
システム開発 完全チェックリスト――発注前・発注中・完了後の3フェーズで使えるチェック集

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システム開発の外注・発注を初めて経験する担当者や、過去に失敗を経験した担当者が、発注プロセスの各フェーズで「何をチェックすべきか」を明確に把握できるようにする。
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- 過去の発注で失敗を経験した方
- ベンダー選定の基準が分からない方
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よくある質問
- SaaSで一部要件が満たせない場合、真っ先にPaaSを検討すべきですか?
いいえ。まず「満たせない要件がSaaSのアドオンやAPI連携で吸収できないか」「その要件が自社の競争優位に直結するか」を確認し、直結しない場合は業種特化型など別のSaaSを再探索するのが先です。PaaSは独自開発が妥当と判断された後の選択肢です。
- PaaSとIaaSのどちらを選ぶか判断に迷う場合の決め手は何ですか?
決め手は「運用専任者(インフラエンジニア・SRE)を継続的に確保できるか」です。確保できなければ運用負荷の低いPaaSを優先し、確保できてかつ特殊なOS・ミドルウェア・規制対応の要件がある場合はIaaSを選びます。専任者を置けない体制でIaaSを選ぶと、パッチ適用や障害対応が滞りやすくなるため注意が必要です。
- 月額費用が安いという理由だけでSaaSやPaaSを選んでも問題ないですか?
単軸での判断は避けるべきです。初期費用の低さは運用費用の低さを意味せず、SaaSはユーザー数、IaaSはサーバ台数に比例して費用が変動するため、規模拡大時の総所有コスト(TCO)まで見越して比較する必要があります。
- 開発会社に相談する前に、自社だけで最低限整理しておくべきことは何ですか?
業務要件の棚卸し、想定利用規模と成長見込み、既存システムとの連携ポイント、運用体制のリソース、予算とタイムラインの5項目です。これらは非機能要件やSaaSのAPI制限との適合を左右するため、整理不足のまま相談すると要件の擦り合わせに時間がかかり、見積り比較の軸もぶれやすくなります。
- CaaSやFaaSといった新しいモデルも検討すべきですか?
まずはSaaS・PaaS・IaaSの基本3モデルで自社要件を整理することが先決です。CaaS・FaaSはPaaSの発展形にあたる派生モデルのため、基本3モデルの選定軸を固めたうえで開発会社との相談時に検討すれば十分です。



