システム刷新の提案書を開くと、アーキテクチャ図の中央に「Event Broker」と書かれた四角が置かれ、そこから既存の基幹システム・会計 SaaS・EC サイトへ矢印が伸びている。これまで夜間バッチと手作業の CSV で回してきた連携が、まとめて置き換え対象として線を引かれている。会議の場では「イベント駆動アーキテクチャで疎結合にしましょう」と説明されたものの、「これは全部やる必要があるのですか」とは聞けないまま資料を持ち帰った——このような状況で情報を探している方は少なくありません。
困るのは、調べても判断材料がそろわないことです。検索して出てくるのは、イベント駆動アーキテクチャの利点を説明する技術記事か、あるいはシステム連携の方式を比較していてもイベント駆動が選択肢に入っていない記事のどちらかに偏っています。前者は「採用する前提」で書かれているため「使わない判断」の材料が得られず、後者はそもそも提案された方式を扱っていません。結果として、提案された 1 つの方式について「良さそうか、そうでもないか」を単独で判断させられる状態に置かれてしまいます。
本記事では、この状況を「連携方式を横並びで比較する物差しがない状態」と捉えて構成しました。まずイベント駆動アーキテクチャの仕組みを業務の言葉に翻訳したうえで、API 同期連携・バッチ連携・iPaaS と同じ表に並べて比較します。そのうえで、即時性・連携先数・整合性・運用体制という 4 つの判断軸で、業務単位に連携方式を割り当てる考え方を示します。
読み終えたときに目指す状態は、「受注から在庫引当まではイベント連携が効きそうだが、日次の売上仕訳は今のバッチのままでよい」というように、提案された構成を業務ごとに切り分けて開発会社と議論できることです。あわせて、採用すると決めた場合に発注側が握っておくべき 5 つの設計論点と、全面刷新を避けて段階的に導入する進め方も整理します。
システム開発 完全チェックリスト――発注前・発注中・完了後の3フェーズで使えるチェック集

この資料でわかること
システム開発の外注・発注を初めて経験する担当者や、過去に失敗を経験した担当者が、発注プロセスの各フェーズで「何をチェックすべきか」を明確に把握できるようにする。
こんな方におすすめです
- 初めてシステム開発を外注する担当者
- 過去の発注で失敗を経験した方
- ベンダー選定の基準が分からない方
入力いただいたメールアドレスにPDFをお送りします。
イベント駆動アーキテクチャとは?「起きたこと」を起点に処理を進める設計

イベント駆動アーキテクチャ(EDA:Event-Driven Architecture)とは、システムの中で「何かが起きた」という事実を起点に、後続の処理が動き出す設計方式です。処理を呼び出す側が相手を名指しして結果を待つのではなく、起きた事実だけを発信し、それに関心のあるシステムが各自で反応します。
イメージしやすいのは、受注業務です。従来型の作り方では、受注システムが「在庫システムに引当を依頼し、応答を待ち、次に会計システムへ売上計上を依頼し、応答を待ち、最後にメール配信を呼ぶ」という順番で処理を積み上げます。イベント駆動の作り方では、受注システムは「注文が確定した」という事実を 1 回発信するだけです。在庫引当・売上計上・注文確認メールは、それぞれがその事実を受け取って独立に動きます。
この違いは、システム構成図の見た目以上に業務への影響があります。前者では連携先が 1 つ増えるたびに受注システムの改修が必要ですが、後者では受け取る側を追加するだけで済みます。一方で、後者は「注文確定の直後に会計側の数字が必ず更新されている」とは限らない構造になります。この 2 つはイベント駆動アーキテクチャの表と裏の関係にあり、本記事で繰り返し立ち返る論点になります。
発注側としてまず押さえるべきは、これが「新しい技術製品」ではなく「処理のつなぎ方の設計方針」だという点です。つなぎ方の方針である以上、システム全体に一律で適用するものではなく、業務ごとに適用可否を判断できます。
イベントとは「◯◯が起きた」という事実の通知
イベントとは、システムの状態が変化したことを表す通知です。「注文が確定した」「在庫が 10 個減った」「請求書が発行された」「センサーが閾値を超えた」のように、すでに起きた事実を過去形で表現するのが特徴です。
ここは「依頼」との違いを押さえると理解が進みます。従来の API 呼び出しは「在庫を 10 個引き当ててください」という依頼(コマンド)にあたり、送り手は誰に頼むかを知っていて、結果の返答を期待します。対してイベントは「注文 #1234 が確定しました」という報告にあたり、送り手は誰がそれを使うかを知らず、返答も期待しません。
この「誰が使うかを知らない」という性質が、後述する疎結合や運用の難しさの出発点になります。イベントには、何が起きたのか(イベント種別)、いつ起きたのか(発生時刻)、どのデータに関する話か(注文 ID など)といった情報が含まれます。IBM の解説でも、イベントは状態変化そのものではなく、状態変化を伝える通知として整理されています(イベント駆動型アーキテクチャー|IBM)。
プロデューサー・イベントブローカー・コンシューマーの3要素
イベント駆動アーキテクチャの構成要素は、大きく 3 つに分けられます。提案書のアーキテクチャ図に登場する箱は、たいていこの 3 つのいずれかです。
構成要素 | 役割 | 受注業務での例 |
|---|---|---|
プロデューサー(発生元) | 事実が起きたことをイベントとして発信する | 受注システム(「注文が確定した」を発信) |
イベントブローカー(中継役) | イベントを受け取り、必要な受け手に届ける。届くまで保持する | メッセージング基盤・イベントバス |
コンシューマー(受け手) | イベントを受け取り、自分の担当処理を実行する | 在庫システム・会計システム・メール配信 |
見積で費用が計上されるのは、多くの場合この真ん中のイベントブローカーです。クラウド事業者はこの役割をマネージドサービスとして提供しており、AWS では EventBridge や SNS/SQS といったサービスがこれに当たります(イベント駆動アーキテクチャ|AWS)。自前で構築する場合とマネージドサービスを使う場合では、初期費用も運用負荷も大きく変わります。提案書に連携基盤の構築費が計上されている場合は、「この部分はマネージドサービスで代替できないか」を確認する価値があります。
発注側の判断としては、ブローカーが「新しく運用対象が 1 つ増える」ことを意味する点を押さえてください。連携先を疎結合にする代わりに、中継役の監視・障害対応という仕事が発生します。
Pub/Sub 型とメッセージキュー型の違い
イベントの届け方には、大きく 2 つの型があります。この違いは、開発会社との会話で頻繁に登場します。
Pub/Sub(パブリッシュ/サブスクライブ)型は、1 つのイベントを複数の受け手に同時に配る方式です。「注文が確定した」というイベントを、在庫・会計・メール配信の 3 つが同時に受け取ります。受け手を増やしたいときは、購読者として追加するだけで済みます。AWS の規範ガイダンスでも、Pub/Sub パターンはサービス間の非同期通信を実現する構成として整理されています(Pub/sub パターン|AWS 規範ガイダンス)。
メッセージキュー型は、送られたメッセージを 1 つの受け手だけが取り出して処理する方式です。「請求書 PDF を生成する」といった処理を、順番に一件ずつ確実にさばきたい場合に使われます。処理の取りこぼしを避けたい業務や、処理能力に上限がある業務に向きます。
実務上は、この 2 つを組み合わせて構成することが一般的です。「注文確定イベントを Pub/Sub で配り、受け取った各システムは自分のキューで順にさばく」という形です。発注側としては、提案されている構成が 1 対多(機能追加のしやすさを狙う)なのか、1 対 1(確実な処理を狙う)なのかを確認しておくと、後で「なぜこの構成なのか」を説明できるようになります。
システム連携方式は4種類|イベント駆動連携の位置づけ

ここからが本記事の中心です。イベント駆動連携は、システム連携の唯一の正解ではなく、いくつかある選択肢の 1 つです。まずは選択肢の全体像を押さえます。
業務システム同士をつなぐ方式は、実務上おおむね次の 4 つに整理できます。
- API 同期連携:呼び出した側が結果を待つ。リアルタイム性が高い
- バッチ・ファイル連携:決められた時刻にまとめて処理する。大量データに強い
- イベント駆動連携:状態変化を発信し、受け手が非同期に処理する
- iPaaS(連携基盤サービス):SaaS 間の連携をノーコード/ローコードで設定する
提案書に出てくる「イベント駆動での連携」は、この 3 番目にあたります。重要なのは、4 つは排他的な選択ではなく、業務ごとに使い分けられるという点です。
API 同期連携とバッチ連携の違い
まず、多くの企業が現在使っている 2 方式を整理します。
API 同期連携は、システム A がシステム B の API を呼び出し、応答を待って次に進む方式です。「会員登録の画面で入力された住所を、その場で郵便番号 API に問い合わせる」といった処理が典型例です。結果がすぐ返るため、画面上の操作や即時判断が必要な業務に向きます。反面、システム B が停止しているとシステム A の処理も止まります。応答を待つ構造上、相手の障害がそのまま自分の障害になります。
バッチ・ファイル連携は、1 日 1 回など決まったタイミングで、まとまったデータを一括で受け渡す方式です。「日次の売上データを夜間に会計システムへ取り込む」といった処理が該当します。大量データを効率よく処理でき、実装も枯れているため運用が読みやすい方式です。反面、次のバッチが動くまでデータは反映されません。
この 2 つは「即時性」と「一括処理の効率」のトレードオフの両端にあります。そして多くの企業では、即時性が必要な箇所だけ API にして、それ以外はバッチで回す形に落ち着いています。この使い分けができている時点で、連携方式を業務ごとに選ぶという考え方はすでに社内に存在しているといえます。
なお、イベント通知型の連携の中でもっとも身近な実装が Webhook です。SaaS 側で決済完了などのイベントが起きたときに、あらかじめ登録しておいた URL へ通知が送られる仕組みで、多くの SaaS が標準機能として備えています。仕組みの詳細はWebhook の仕組みで解説しています。
イベント駆動連携が他方式と決定的に違う点
イベント駆動連携が他の 3 方式と決定的に違うのは、送り手が受け手を知らないという点です。
API 同期連携では、送り手は「どのシステムのどの API を呼ぶか」を実装に持っています。バッチ連携では、送り手は「どのサーバーのどのフォルダにファイルを置くか」を知っています。iPaaS では、連携の設定として送り手と受け手のペアが定義されます。いずれも、つなぎ先が実装や設定に埋め込まれています。
イベント駆動連携では、送り手はブローカーに事実を投げるだけで、それを誰が受け取るかを一切知りません。この構造がもたらす効果は、次の 2 つです。
- 受け手の追加が送り手の改修を伴わない:新しい SaaS を導入して注文情報を渡したくなっても、受け手として購読を追加するだけで済み、受注システム側は触らない
- 受け手の障害が送り手に波及しない:会計システムが停止していても、受注システムは通常どおりイベントを発信し続けられる
その代わり、「今このイベントを誰が受け取っているのか」がシステムの実装を見ただけでは分からなくなります。つなぎ先の情報が実装から消える、というのが疎結合の正体です。この性質は、変更容易性という利点と、追跡の難しさという欠点の両方を同時に生みます。
4方式比較表
4 つの方式を、発注側が気にする観点で横並びに整理します。
観点 | API 同期連携 | バッチ・ファイル連携 | イベント駆動連携 | iPaaS |
|---|---|---|---|---|
データ反映の即時性 | 即時(秒未満) | 次回実行時(数時間〜1日) | ほぼ即時(秒〜分。ただし保証はしにくい) | 設定次第(数分〜1時間間隔が多い) |
実装難度 | 低〜中 | 低 | 高(設計論点が多い) | 低(設定中心) |
障害時の切り分け | 容易(呼び出し元でエラーが分かる) | 容易(実行ログが1本) | 難しい(どこで止まったか追跡が必要) | 中(サービス側の管理画面に依存) |
運用負荷 | 中(相手の稼働に依存) | 低(枯れた運用) | 高(ブローカー監視・滞留対応が増える) | 低〜中(利用料が継続発生) |
連携先の追加コスト | 高(都度改修) | 中(ジョブ追加) | 低(購読追加のみ) | 低(設定追加) |
向く用途 | 画面操作に連動する参照・登録 | 大量データの日次処理、締め処理 | 1つの出来事から複数処理を並行させる連携 | SaaS 同士の定型的なデータ同期 |
苦手な用途 | 大量データ、相手が不安定な連携 | 即時性が要る業務 | 単純な1対1連携、即時整合が要る業務 | 複雑な業務ロジックを伴う連携 |
この表からいえることは、イベント駆動連携が優位に立つのは「連携先の追加コスト」と「1 つの出来事から複数処理を並行させる」という限られた列だという点です。逆に、実装難度・障害切り分け・運用負荷では他の 3 方式に劣ります。
発注側の判断としては、提案されている連携のうち「連携先が今後増える見込みがあるか」「1 つの出来事から複数の処理が派生するか」に該当しない箇所は、イベント駆動にする必然性が薄いと考えてよいでしょう。
イベント駆動アーキテクチャのメリット
提案書に並ぶ「疎結合」「スケーラビリティ」「耐障害性」といった語は、そのままでは自社のどの課題に効くのかが見えません。ここでは 4 つの利点を、発注側にとっての業務メリットに翻訳して整理します。
連携先を増やしても既存システムを改修しなくて済む(疎結合)
もっとも実利のある利点がこれです。イベントの受け手を追加しても、発信元のシステムは変更不要です。
たとえば、受注情報を新しく導入した MA ツールにも渡したくなったとします。API 同期連携で組まれている場合、受注システムに「MA ツールを呼ぶ」処理を追加する改修が必要になり、受注システムの回帰テストまで含めた見積が発生します。イベント駆動連携であれば、MA ツール側を購読者として登録するだけで済みます。
これは「将来の改修見積が下がる」という形で効いてきます。SaaS の入れ替えや追加が頻繁に発生する領域ほど効果が大きく、逆に今後 5 年間つなぎ先が変わらない領域ではほとんど効きません。自社で連携先の増減がどの程度見込まれるかが、この利点を評価する物差しになります。
繁忙期の処理集中に耐えやすい(スケーラビリティ)
イベントはブローカーにいったん溜まり、受け手が処理できるペースで取り出されます。この構造が、処理の集中に対する緩衝材として働きます。
セール開始直後に注文が集中する EC を例に取ると、API 同期連携では在庫システムが処理しきれずタイムアウトし、受注そのものが失敗するという事態が起こり得ます。イベント駆動連携では、注文確定イベントはブローカーに保持され、在庫システムは自分のペースで処理を進めます。ピーク時に処理が数分遅れることはあっても、注文を取りこぼす事態は避けやすくなります。
ここで発注側が確認すべきは、「自社にピーク集中があるか」です。月末・期末に処理が集中する、キャンペーン時に負荷が跳ねる、といった実態があれば効果が見込めます。負荷が平準化している業務では、この利点は投資判断の理由になりません。
1つの連携先の障害が全体を止めない(耐障害性)
受け手が停止していても、イベントはブローカーに保持され、復旧後に処理を再開できます。会計システムのメンテナンス中でも受注を止めずに済む、という形で効きます。
ただし、これは「ブローカー自体が止まらないこと」が前提です。連携の中心にブローカーを置く以上、そこが単一障害点になり得ます。マネージドサービスを使う場合は事業者側の可用性に依存し、自前構築の場合は冗長化の設計と運用が自社側の責任になります。提案書に自前構築のブローカーが含まれている場合は、冗長化の方針と復旧手順を確認してください。
マイクロサービスとの相性がよい理由
イベント駆動アーキテクチャは、マイクロサービス構成と組み合わせて語られることが多い方式です。理由は単純で、サービスを小さく分割すると、分割したサービス同士をつなぐ手段が必要になるためです。
マイクロサービスの狙いは「サービスごとに独立して開発・デプロイできること」にあります。ここで同期 API 連携を多用すると、あるサービスの変更が呼び出し元に波及し、独立性という狙いが崩れます。イベントを介した非同期連携なら、送り手と受け手が互いを知らないため、独立性を保ちやすくなります。
もっとも、これは裏返すと「マイクロサービス構成を採らない限り、イベント駆動の利点の一部は享受しにくい」ということでもあります。単一の基幹システムと数個の SaaS をつなぐだけの構成であれば、分割による恩恵は限定的です。システム分割そのものの判断についてはマイクロサービスとモノリスの違いで整理していますので、あわせて検討材料にしてください。
イベント駆動アーキテクチャのデメリットと向かないケース
利点だけを見て採用を決めると、運用フェーズで想定外の負担が発生します。ここでは、発注側が事前に把握しておくべき 3 つの制約を扱います。Microsoft の公式ガイドでも、イベント駆動型アーキテクチャには「使用する場合」と「使用しない場合」の判断基準が明示されています(イベント駆動型アーキテクチャスタイル|Microsoft Learn)。
結果整合性で困る業務・困らない業務
もっとも業務影響が大きいのが結果整合性です。結果整合性とは、「最終的にはデータが一致するが、その途中には一致していない瞬間がある」状態を指します。
イベント駆動連携では、注文が確定した瞬間に会計側の数字が更新されているとは限りません。イベントが届き、受け手が処理を終えるまでのわずかな時間、受注システムと会計システムの数字は食い違います。通常は秒単位ですが、受け手に障害があれば数分〜数時間に伸びることもあります。
この「途中の不一致」が業務にどう響くかは、業務によってまったく異なります。
業務 | 結果整合性の影響 | 判断 |
|---|---|---|
月次の締め処理 | 締め時点で未反映のイベントがあると、締めた数字が後から動く | 影響大。締め前の未処理イベント確認手順が必須 |
在庫引当(残りわずかな商品) | 引当が反映される前に別の注文が入り、在庫がマイナスになり得る | 影響大。同期的な在庫確認の併用を検討 |
請求書発行 | 発行時点で未反映の金額があると、請求金額が誤る | 影響大。発行前の整合性確認が必要 |
顧客への注文確認メール | 数秒〜数十秒の遅延は業務上問題にならない | 影響小。イベント駆動が適する |
分析用データの蓄積 | 数分の遅延は集計結果に影響しない | 影響小。イベント駆動が適する |
社内向けの通知・アラート | 遅延しても業務が回る | 影響小。イベント駆動が適する |
発注側の判断は明快です。金額・在庫・締めが絡む業務は、結果整合性で困る側に入ります。これらの業務でイベント駆動連携を採用する場合は、「未反映のイベントがないことをどう確認するか」を設計として開発会社に求めてください。逆に、通知や分析のように多少の遅延が業務に響かない業務は、イベント駆動連携の効果が素直に出ます。
非同期処理そのものの考え方や、同期処理との使い分けの基礎については非同期処理の基本で整理していますので、社内説明の前に押さえておくと議論がしやすくなります。
処理の流れが追いにくくなる(監視設計が前提になる)
「どこで止まったか分からない」という不安は、イベント駆動連携において正当な懸念です。
API 同期連携であれば、呼び出し元にエラーが返るため、どこで失敗したかがすぐ分かります。バッチ連携であれば、実行ログが 1 本にまとまっており、そこを見れば済みます。イベント駆動連携では、1 つのイベントから複数の処理が並行して走るため、失敗したかどうかを発信元は知りません。「注文は受け付けられたのに会計に計上されていない」という状態が、誰も気づかないまま続く可能性があります。
これを避けるには、イベントが発生してから各受け手の処理が完了するまでを追跡できる仕組み(分散トレーシング)と、処理に失敗したイベントを検知するアラートが必要になります。つまり、イベント駆動連携は監視設計とセットでなければ成立しません。
発注側として確認すべきは、提案の見積に監視・可観測性の実装が含まれているかです。含まれていない場合、稼働後に「止まっていることに気づけない」状態が生まれ、結果として追加費用が発生します。監視まで含めた総額で比較しないと、方式間のコスト比較が成り立たない点に注意してください。
単純な照会・登録業務には過剰になる
イベント駆動アーキテクチャは、単純な要求応答型の処理には向きません。
「マスタから取引先情報を 1 件取得する」「画面から入力された内容を登録して結果を返す」といった処理は、呼び出して結果を受け取るだけの単純な構造です。ここにブローカーを挟むと、実装が複雑になり、応答を返せなくなり、監視対象が増えるという三重の負担が生じます。得られるものは何もありません。
同様に、連携先が今後も 1 対 1 のまま変わらない業務も、イベント駆動にする理由が薄い領域です。疎結合の利点は「受け手が増える」ことを前提にしており、増えないなら利点が発生しません。
提案書に列挙された連携の一覧を見て、「これは 1 対 1 で、今後も増えないのでは」と思う箇所があれば、そこは既存方式のまま残す提案を返してよい部分です。
システム開発 完全チェックリスト――発注前・発注中・完了後の3フェーズで使えるチェック集

この資料でわかること
システム開発の外注・発注を初めて経験する担当者や、過去に失敗を経験した担当者が、発注プロセスの各フェーズで「何をチェックすべきか」を明確に把握できるようにする。
こんな方におすすめです
- 初めてシステム開発を外注する担当者
- 過去の発注で失敗を経験した方
- ベンダー選定の基準が分からない方
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どの連携方式を選ぶか|業務単位で割り当てる4つの判断軸

ここまでの内容を、実際の判断に使える形に落とし込みます。連携方式は「システム全体でどれを採るか」ではなく「業務ごとにどれを割り当てるか」で考えます。
判断軸は「即時性・連携先数・整合性・運用体制」の4つ
業務ごとに、次の 4 つを確認します。
判断軸1:即時性の要求はどの程度か
その業務は、データが反映されるまでどれくらい待てるでしょうか。「秒単位で反映が必要」「数分なら許容できる」「翌朝までに反映されていればよい」の 3 段階で切り分けます。翌朝でよい業務は、バッチ連携から動かす理由がありません。ここで「念のため即時にしておく」と考えると、必要のない投資に直結します。実際の業務が何分の遅延まで許容できるかを、現場に確認してください。
判断軸2:連携先はいくつあり、今後増えるか
現在の連携先が 1 つで、今後 3 年間増える見込みがないなら、イベント駆動の主要な利点は発生しません。逆に、すでに 3 つ以上へ配っている、あるいは SaaS の追加導入が続いている業務は、疎結合の効果が出やすい領域です。
判断軸3:整合性の厳密さはどの程度か
金額・在庫・締めが絡むかどうかで判断します。絡む場合は、途中の不一致が業務トラブルに直結するため、非同期化には慎重な設計が必要です。絡まない業務(通知・ログ蓄積・分析)は、非同期化のリスクが小さい領域です。
判断軸4:運用できる体制があるか
イベント駆動連携は、稼働後にブローカーの監視・滞留イベントの対応・失敗イベントの再処理という運用業務を生みます。社内に担当者を置けない場合、運用まで含めた保守契約が必要になります。この人件費・保守費を含めずに方式を比較すると、判断を誤ります。
4 軸のうち、判断軸 1 と 2 は「イベント駆動を採る理由」を、判断軸 3 と 4 は「採らない理由」を測る軸です。両方を並べたときに、採る理由が採らない理由を上回る業務だけを対象にするのが基本方針になります。
業務別の推奨方式マッピング表
4 軸をあてはめた結果の例を、よくある業務パターンで示します。自社の業務を当てはめる際のたたき台としてお使いください。
業務 | 即時性 | 連携先数 | 整合性 | 推奨方式 | 理由 |
|---|---|---|---|---|---|
受注 → 在庫引当 | 高(秒〜分) | 1〜2 | 厳密 | API 同期連携(または同期確認+イベント併用) | 在庫の即時性と整合性が最優先。引当だけ同期にし、後続処理をイベント化する構成も可 |
受注 → 通知・分析・MA連携 | 中(分) | 3以上・増える | 緩い | イベント駆動連携 | 1つの出来事から複数処理が派生し、受け手が増える典型パターン |
日次売上 → 会計仕訳 | 低(翌朝) | 1 | 厳密 | バッチ連携(現状維持) | 即時性が不要で連携先も増えない。置き換える理由がない |
顧客マスタ → 各SaaS同期 | 中(分〜時間) | 3以上 | 中 | iPaaS またはイベント駆動連携 | 定型的な同期なら iPaaS が低コスト。業務ロジックが絡むならイベント駆動 |
問い合わせ受付 → 担当者通知 | 中(分) | 1〜2 | 緩い | イベント駆動連携(Webhook 含む) | 遅延が業務に響かず、通知先の追加も起きやすい |
勤怠 → 給与計算 | 低(月次) | 1 | 厳密 | バッチ連携(現状維持) | 月次処理で即時性が不要。整合性要求が高い |
設備センサー → 監視・アラート | 高(秒) | 2以上 | 緩い | イベント駆動連携 | 発生を起点に複数処理を並行させる用途に最適 |
この表で注目していただきたいのは、イベント駆動連携が推奨になるのは 7 業務中 3〜4 業務にとどまるという点です。残りはバッチ連携の現状維持や API 同期連携、iPaaS が適します。提案書に「全連携をイベント駆動へ」と書かれている場合、この比率と照らして議論する余地があります。
「全部イベント駆動」にしない役割分担の考え方
連携方式は混在させて構いません。むしろ、業務特性が異なる以上、混在するのが自然な姿です。
現実的な役割分担の形は次のようになります。
- 即時性と整合性の両方が必要な中核業務:API 同期連携で確実に処理する
- 1 つの出来事から派生する周辺処理:イベント駆動連携で並行させる
- 日次・月次で締める業務:バッチ連携を維持する
- SaaS 間の定型同期:iPaaS で設定ベースに寄せる
この分担を採ると、イベントブローカーの適用範囲が絞られ、構築費と運用負荷が抑えられます。「受注確定は同期で在庫を押さえ、その後の通知・分析・MA 連携だけイベント化する」といった構成は、整合性を守りつつ疎結合の利点を取り込む折衷案として現実的です。
発注側から開発会社に返す言葉としては、「連携をすべてイベント駆動にする前提を外して、業務ごとに方式を割り当てた案を出してほしい」という依頼が有効です。この依頼が成立すること自体が、方式を横並びで比較する物差しを持てた証拠になります。
イベント駆動アーキテクチャの活用例
判断軸を具体例で裏づけます。ここでは活用例を並べるのではなく、それぞれについて「他の方式では何が困るのか」をセットで示します。
EC・受注業務(1つのイベントから複数処理を並行させる)
EC の注文確定は、イベント駆動アーキテクチャがもっとも力を発揮する場面です。1 件の注文から、在庫引当・決済処理・注文確認メール・ポイント付与・分析基盤への記録・配送手配と、多数の処理が派生します。
他方式では何が困るか:API 同期連携で順番に処理すると、注文確定の応答時間が処理数に比例して長くなります。6 つの処理をそれぞれ 0.5 秒で回しても 3 秒かかり、1 つでも遅い相手がいれば画面が固まります。さらに、ポイント付与サービスが停止しているだけで注文自体が失敗するという事態も起こります。バッチ連携では、注文確認メールが翌朝になってしまい、顧客体験として成立しません。
イベント駆動でどうなるか:注文確定イベントを 1 回発信して即座に顧客へ応答を返し、6 つの処理は裏側で並行して進みます。ポイント付与が失敗しても注文は成立します。ただし、在庫引当だけは結果整合性の影響を受けるため、在庫が逼迫する商品では同期的な在庫確認を併用する設計が一般的です。
SaaS 間のデータ同期(連携先の追加に強い)
会計・CRM・MA・カスタマーサポートなど、複数の SaaS に同じ顧客情報や取引情報を反映させたい場合も、イベント駆動連携が適します。
他方式では何が困るか:API 同期連携では、SaaS を 1 つ追加するたびに送信元システムの改修が発生します。SaaS の入れ替えが数年に一度起きる企業では、そのたびに改修費が計上されることになります。バッチ連携では、CSV の生成と取り込みのジョブを SaaS ごとに作る必要があり、ジョブの本数が増え続けます。
イベント駆動でどうなるか:「顧客情報が更新された」というイベントを 1 本流し、各 SaaS 側のコネクタが購読します。SaaS を追加するときは購読者を増やすだけで、送信元は無変更です。なお、SaaS 同士の定型的な同期であれば iPaaS のほうが低コストで済む場合も多く、業務ロジックの複雑さで使い分けます。
IoT・設備監視、社内通知・アラート
センサーからのデータ受信や、社内向けの通知・アラートも、イベント駆動連携の代表的な適用領域です。
他方式では何が困るか:設備監視では、閾値超過を検知した瞬間に複数の宛先(保守担当への通知・管理画面への表示・記録の保存・自動停止指示)へ同時に伝える必要があります。API 同期連携で 1 つずつ呼び出すと、最初の呼び出しが詰まった時点で以降が遅れます。バッチ連携は、そもそも異常検知という用途に成立しません。
イベント駆動でどうなるか:検知イベントを 1 回発信し、各処理が同時に反応します。通知先の追加(たとえば Slack チャンネルの追加)も購読の追加で済みます。整合性要求が緩く、即時性が高く、受け手が増えるという 3 条件がそろっており、判断軸に照らしてもっとも採用しやすいパターンです。
発注前に開発会社へ確認したい5つの設計論点
イベント駆動連携を採用すると決めた業務については、発注側として次の 5 点を確認してください。いずれも、稼働後にトラブルとして表面化しやすく、かつ設計段階なら安価に手当てできる論点です。
冪等性と重複対策
確認する質問:「同じイベントが 2 回届いた場合、二重に処理されない仕組みはどうなっていますか」
イベントを扱う基盤の多くは、確実に届けることを優先する設計になっており、その結果として同じイベントが 2 回届く可能性があります。対策がなければ、注文が 2 件計上される、ポイントが二重付与される、といった事故につながります。同じ処理を何回実行しても結果が変わらない性質を冪等性と呼び、イベント ID の重複チェックなどで実現します。
回答が曖昧な場合のリスク:金額・在庫が絡む業務で二重処理が起きると、原因の特定と手作業でのデータ修正が必要になります。件数が多いほど復旧コストが跳ね上がります。
順序保証とデッドレターキュー
確認する質問1:「イベントの順序が入れ替わった場合の扱いはどう設計していますか」
「注文が確定した」より先に「注文がキャンセルされた」が届く、といった順序の逆転が起こり得ます。順序が業務上重要な処理では、順序を保証する構成にするか、順序が入れ替わっても正しく処理できるロジックにするかの、いずれかの手当てが必要です。
確認する質問2:「処理に失敗したイベントはどこに退避され、誰がどう再処理しますか」
処理できなかったメッセージを退避させる専用の置き場をデッドレターキュー(DLQ)と呼びます。AWS のドキュメントでも、問題のあるメッセージを分離して扱う仕組みとして整理されています(Amazon SQS のエラー処理および問題ありのメッセージ|AWS)。DLQ を用意しただけでは不十分で、「溜まったことを誰が検知し、誰が再処理するか」という運用手順まで決まっている必要があります。
回答が曖昧な場合のリスク:失敗したイベントが誰にも気づかれないまま蓄積し、月次の締めで初めて数字の不一致が発覚するという事態が起こります。
イベントのスキーマ管理と監視体制
確認する質問1:「イベントに含める項目を追加・変更するとき、受け手側への影響はどう管理しますか」
イベントの構造(スキーマ)を変更すると、それを受け取っている全システムに影響します。送り手が受け手を知らないという疎結合の性質は、ここでは「誰に影響するか把握しづらい」という形で裏目に出ます。スキーマのバージョン管理と、変更時の互換性維持の方針が必要です。
確認する質問2:「イベントが正しく処理されたことを、誰が何の画面で確認しますか」
監視の主語を確認する質問です。「ダッシュボードを用意します」だけでは不十分で、「誰が」「どの頻度で」「何を見て」「異常時に誰へ連絡するか」まで決まっていることが望まれます。社内に監視担当を置けない場合は、保守契約に含める必要があります。
回答が曖昧な場合のリスク:稼働後に運用が属人化し、担当者の異動で誰も状況を把握できない状態になります。この状態は、次の改修時に調査費として跳ね返ります。
これら 5 点は、要件定義や提案依頼の段階で文書に落としておくと、後の認識齟齬を減らせます。
イベント駆動連携を段階的に導入する進め方

最後に、全面刷新を避けて導入する現実的な進め方を示します。イベント駆動連携は、既存のバッチ連携や API 連携と共存できるため、一度にすべてを置き換える必要はありません。
まず現在の連携を棚卸しする
最初にやるべきは、新しい方式の検討ではなく、現状の把握です。次の項目を表にまとめてください。
棚卸し項目 | 確認内容 |
|---|---|
連携している業務 | どのシステムからどのシステムへ、何のデータが流れているか |
現在の方式 | API 同期 / バッチ / ファイル / 手作業 CSV のどれか |
実行タイミング | 都度 / 日次 / 週次 / 手作業 |
遅延の業務影響 | 反映が遅れて業務に支障が出た経験があるか、その頻度 |
連携先の増減見込み | 今後 3 年で受け手が増える予定があるか |
障害・エラーの頻度 | 直近 1 年で連携が止まった回数と、そのときの対応 |
この表があると、開発会社との議論の質が変わります。特に「遅延の業務影響」と「連携先の増減見込み」の 2 列は、前述の判断軸 1・2 に直結します。支障が出ていない連携を刷新対象から外すだけでも、投資範囲は大きく絞れます。
国内企業のシステム刷新においては、レガシーシステムの刷新状況とデータ利活用がともに課題として挙げられており(DX動向2025|IPA)、現状把握のないまま方式だけを議論しても投資判断は定まりません。
効果が出やすい業務から1つ切り出す
棚卸し結果から、次の条件に合う業務を 1 つ選びます。
- 遅延が業務影響を出している(判断軸1:即時性が必要)
- 連携先が複数ある、または増える見込みがある(判断軸2:疎結合が効く)
- 金額・在庫・締めに直結しない(判断軸3:整合性リスクが低い)
この 3 条件を満たす業務は、効果が出やすく失敗コストも低い領域です。典型的には、通知系の連携、分析基盤へのデータ連携、SaaS への情報配信などが該当します。ここで小さく構築して運用を回し、監視の勘所やイベントの設計方針を自社に蓄積してから、より業務影響の大きい領域へ広げます。
逆に、最初の対象として避けたいのは、在庫引当や請求のような整合性要求が高い業務です。技術的な難度に加えて、業務影響が出たときの説明責任が重く、社内での評価が「イベント駆動は使えない」に振れてしまいかねません。
既存バッチ連携との共存を前提にする
段階導入では、イベント駆動連携と既存のバッチ連携が同時に動く期間が発生します。これは移行期の一時的な状態ではなく、恒久的な構成として設計して構いません。
前述の業務別マッピング表のとおり、日次売上の会計連携や月次の給与計算のように、バッチのままが最適な業務は存在し続けます。「いずれ全部イベント駆動に統一する」という前提を置かないほうが、投資判断も運用体制の設計もすっきりします。
共存を前提にする場合の注意点は、同じデータが 2 つの経路で流れる状態を作らないことです。「イベント駆動でも流れているが、念のためバッチでも流している」という構成は、二重計上や不整合の温床になります。業務単位で経路を 1 本に決める、という原則を守ってください。
まとめ|イベント駆動アーキテクチャは「業務ごとに選ぶ」もの
本記事の要点を整理します。
- イベント駆動アーキテクチャとは、状態変化(イベント)を起点に処理を進める設計方式です。送り手が受け手を知らない構造が、疎結合という利点と追跡の難しさという欠点を同時に生みます
- システム連携方式は API 同期連携・バッチ連携・イベント駆動連携・iPaaS の 4 種類があり、それぞれ向く業務が異なります。イベント駆動が優位に立つのは「連携先の追加コスト」と「1 つの出来事から複数処理を派生させる」場面に限られます
- 判断軸は即時性・連携先数・整合性・運用体制の 4 つです。前の 2 つが採用理由を、後ろの 2 つが不採用理由を測ります
- 全面採用ではなく、業務ごとの役割分担と段階導入が現実解です。金額・在庫・締めが絡む業務は既存方式を維持し、通知・分析・SaaS 配信などから小さく始める形が失敗しにくい進め方です
提案書を前にした次の一歩としておすすめしたいのは、記事内で示した棚卸し表の作成です。現在どの業務がどの方式でつながっていて、遅延が業務影響を出しているのはどれか、連携先が今後増えるのはどれか。この 3 点を埋めるだけで、「この業務はイベント連携に価値がある」「この業務は今のバッチのままでよい」という切り分けが自分の言葉で説明できるようになります。
連携方式の選定は、技術の優劣ではなく業務要件の整理から始まります。棚卸し表を持って開発会社と向き合えば、提案された構成を鵜呑みにすることも、逆に必要な投資を削ってしまうことも避けられるはずです。
関連情報
連携方式の要件を開発会社へ正式に依頼する段階に進む場合は、システム開発 提案依頼書(RFP)のサンプルをご用意しています。連携要件や非機能要件の記載項目を整理する際のたたき台としてご活用いただけます。
提案された連携構成が自社の要件に見合っているか整理したい場合は、お問い合わせフォームからご相談ください。要件が固まる前の棚卸し段階からご相談いただけます。
システム開発 完全チェックリスト――発注前・発注中・完了後の3フェーズで使えるチェック集

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よくある質問
- 「イベント駆動アーキテクチャ」と「非同期処理」は同じものですか?
非同期処理は「呼び出し元が応答を待たない処理全般」を指す広い概念で、イベント駆動アーキテクチャはそのうち送り手が受け手を意識せず「起きた事実」だけを発信する方式に限定されます。たとえばポーリングや非同期ジョブキューも非同期処理に含まれますが、送り手が宛先を把握している点でイベント駆動とは性質が異なります。この違いを混同すると、比較検討すべき論点がずれてしまいます。
- 連携方式を業務ごとに混在させると、かえって運用が複雑になりませんか?
混在自体は問題ではなく、危険なのは受注確定のような1件の事実が別々の仕組みで二重に処理される状態です。たとえばイベント経由の在庫引当と日次バッチの棚卸反映が両方動くと、どちらの数字が最新か判断できず在庫がずれます。防ぐには、業務ごとに「正とする1つの仕組み」をあらかじめ一覧表で決めて担当者間で共有しておくことが実務上のポイントです。
- 連携先が今1つしかない業務でも、将来を見越して先にイベント駆動にしておくべきですか?
具体的に増える見込みがない限り、先行投資する理由は薄いです。イベント駆動の主な利点は受け手を追加するだけで済む点にありますが、連携先が増えない業務ではブローカーの監視・冪等性対応といった運用負荷だけが先に発生し、投資に見合う効果が得られません。実際に連携先が増える段階で移行を検討すれば十分間に合います。
- 見積書にイベントブローカーの構築費が計上されている場合、最初に何を確認すればよいですか?
自前構築かマネージドサービス利用かをまず確認してください。自前構築の場合は冗長化の設計・監視体制の構築・障害対応の運用まで自社側または保守契約側の責任範囲に含まれ、初期費用に加えて継続的な保守コストが発生します。一方マネージドサービスは可用性を事業者側に委ねられる分、利用料が継続発生します。この費用構造の違いを見積内訳で切り分けて確認することが重要です。
- SaaSのWebhookを既に使っています。これはイベント駆動アーキテクチャを導入済みということですか?
Webhookはイベント駆動連携の代表的な実装の一つですが、それだけで冪等性・順序保証・監視体制まで整っているとは限りません。導入済みと判断する前に、発注前に確認すべき5つの設計論点で不足がないか照らし合わせてください。



