マイクロサービスとモノリスの違いとは?発注者が知るべき選び方の判断基準

開発会社から「マイクロサービスで設計することをおすすめします」と言われた経験はありませんか?その場では「なるほど」と思っても、後から「本当にそれで良かったのだろうか」と不安になることがあるかもしれません。
マイクロサービスとモノリス(モノリシック)は、どちらも実績のあるシステム設計の考え方です。しかし、どちらが「優れている」かという問題ではなく、プロジェクトの規模・目的・チーム体制に合っているかどうかが重要です。
技術者向けの解説記事は多くありますが、実際に発注する立場の方に向けた「費用・期間・保守コストの違い」を中心とした解説はほとんどありません。この記事では、エンジニアでない方でも理解できる言葉で2つのアーキテクチャを比較し、自分のプロジェクトに合った選択ができるようになるための判断基準をお伝えします。
また、記事の最後では「開発会社に必ず確認すべき5つの質問」もご紹介します。これを使えば、技術の詳細がわからなくても、適切なアーキテクチャが提案されているかどうかを確認できるようになります。

目次
失敗しないためのシステム開発の考え方と開発パートナー選定チェックリスト

この資料でわかること
こんな方におすすめです
まず知っておきたい「建物の構造」で理解するアーキテクチャ

「アーキテクチャ」は建築用語を転用した言葉で、システムの「設計思想・骨格となる構造」を指します。建物で例えると、小さな平屋を建てるか、それとも複数の棟に分けて建てるか、という選択に近いイメージです。
なぜアーキテクチャ選択が重要かというと、後から変更すると多大な費用と時間がかかるからです。建物の基礎工事を途中で変えるのが難しいように、システムの基本構造を後から大きく変えることは、事実上ゼロから作り直しに近いコストがかかります。だからこそ、発注前の段階でこの判断を適切に行うことが、プロジェクト全体の成否を左右します。
モノリスとは? 「1棟の大きなビル」型のシステム
モノリス(Monolith)とは、「一枚岩」という意味の言葉で、システムの全機能を1つのアプリケーションにまとめた設計方式です。
建物でたとえると、「複合ビル」のようなイメージです。1棟の建物の中に、商業フロア・オフィスフロア・住居フロアが入っており、一体として管理されています。あるフロアを改装するには、他のフロアへの影響を考慮しながら工事する必要があります。
モノリスの主な特徴:
- すべての機能が1つのコードベースに集約されている
- 小規模なら開発・テスト・デプロイがシンプルで速い
- 機能が増えるにつれて、一部の修正が全体に影響するリスクが高まる
- スケールアップが必要な場合、システム全体を拡張する必要がある
マイクロサービスとは? 「独立した小さなテナントビル群」型のシステム
マイクロサービス(Microservices)とは、システムを「機能ごとに独立した小さなサービス群」に分割し、それらが連携して動作する設計方式です。
建物でたとえると、「テナントビル群」のイメージです。商業棟・オフィス棟・住居棟がそれぞれ独立した建物として存在しており、個別に改装・建て替えができます。各棟はAPI(接続口)で繋がっており、必要なサービス同士がやり取りしながら一体のシステムとして機能します。
マイクロサービスの主な特徴:
- 機能ごとに独立したシステムに分割されている
- 一部のサービスだけを更新・スケールアップできる柔軟性がある
- 独立性が高い分、サービス間の連携設計や管理が複雑になる
- 適切に設計されれば、大規模なシステムでも保守しやすい
モノリスとマイクロサービス、発注者が知るべき4つの比較軸
技術的な優劣よりも、費用・期間・保守性・拡張性という4つのビジネス観点で比較することが、発注者にとって重要です。それぞれの軸で何が変わるのかを見ていきましょう。
開発費用・初期コスト
モノリスの場合: 設計がシンプルなため、初期の設計・開発費用は抑えやすい傾向があります。インフラ構成もシンプルで、導入コストが低くなりやすいです。
マイクロサービスの場合: 各サービスを独立させるための設計・API設計・インフラ整備に、モノリスより多くのコストがかかります。一般的に、マイクロサービスを採用すると初期コストがモノリスより高くなる傾向があり、小規模プロジェクトではその差が顕著です。
発注者チェックポイント: 「マイクロサービスを採用する場合、モノリスと比較して初期費用はどのくらい増加しますか?その差額の根拠を教えてください」と開発会社に確認しましょう。
開発期間・スピード
モノリスの場合: 最初のリリース(MVP)までが速いのが特徴です。分割設計が不要なため、小規模なチームで素早く動くものを作ることができます。
マイクロサービスの場合: 初期のサービス分割設計・インフラセットアップに時間がかかります。一方、システムが大きくなった後は、チームごとに独立して開発できるため、機能追加のスピードが上がる可能性があります。
発注者チェックポイント: 「最初のリリースまでの期間は、モノリスと比べてどう変わりますか?」と確認しましょう。スピードを重視するフェーズでは、この差が重要です。
保守性・長期運用コスト
モノリスの場合: 小規模なうちは保守が楽です。ただし、機能追加が増えてシステムが大きくなると、「修正の影響範囲が読めない」というリスクが高まります。小さな変更を加えるだけで、意図しない箇所に影響が出ることがあります。
マイクロサービスの場合: 適切な規模であれば、各サービスが独立しているため保守しやすくなります。一方、サービス間の連携管理・監視・障害対応には専門的な知識とインフラが必要です。運用チームのスキルが求められます。
発注者チェックポイント: 「3〜5年後の保守体制と、年間の運用コストの見積もりを教えてください。マイクロサービスの場合、運用に必要な専門知識はどの程度ですか?」と確認しましょう。
スケーラビリティ(システムの拡張性)
モノリスの場合: ユーザー数が増えてシステムへの負荷が高まった場合、システム全体を拡張する必要があります。特定の機能だけに負荷が集中していても、全体を増強しなければならないため、サーバーコストが高くなりやすいです。
マイクロサービスの場合: 負荷が高まっている特定のサービスだけを効率よく拡張できます。たとえば、決済機能に負荷が集中している場合は、決済サービスだけをスケールアップすることが可能です。
発注者チェックポイント: 「3〜5年でのユーザー数・データ量の成長予測を共有した上で、どちらのアーキテクチャが長期的にコスト効率が良いか、試算してもらえますか?」と確認しましょう。
どちらを選ぶべき? プロジェクト規模別の判断基準

アーキテクチャの選択は「どちらが技術的に優れているか」ではなく、「今のプロジェクトの状況に何が合っているか」で判断します。以下に、プロジェクト規模別の目安をご紹介します。
小規模MVP・スタートアップ → まずはモノリス
このフェーズの特徴:
- 開発メンバーが少ない(1〜5人程度)
- 最初のリリースをできるだけ早くしたい
- 仕様が頻繁に変わる可能性がある
- ユーザーの反応を見ながら機能を追加・削除したい
なぜモノリスが適しているか: 少人数でスピード感を持って開発するには、シンプルな構成のほうが有利です。最初から複雑なサービス分割設計をすると、仕様変更のたびに大きなコストがかかります。まず「動くものを早く届ける」ことを優先し、ユーザーの反応を見てから次のステップを考えましょう。
具体的な事例のイメージ: 新しいSaaSのMVP開発(目標:2〜3ヶ月でリリース)。モノリスで開発を開始し、ユーザー獲得後に需要の高い機能を優先的に強化。システムが拡大した段階で、負荷の高い部分だけをマイクロサービス化する判断をする。
推奨: モノリスでスタートする。規模が大きくなった段階で分割を検討。
中規模の業務システム → 段階的なアプローチ
このフェーズの特徴:
- 特定の機能が急激に成長する可能性がある
- 複数の部署や担当者が使うシステム
- 将来的に機能が増える計画がある
- 開発チームが徐々に大きくなる予定
なぜ段階的なアプローチが適しているか: すべてをマイクロサービスにする必要はありませんが、将来の拡張性を意識した設計は重要です。「モジュラーモノリス」(内部の設計だけ分割しやすくしておく構造)から始め、実際に分割が必要になった機能から順次独立させるアプローチが現実的です。
具体的な事例のイメージ: 受注・在庫・会計を管理する社内業務システム。コア機能はモノリスで開発するが、後から追加した外部連携機能や通知機能は独立したサービスとして分割。システム全体の大改修なしに機能を追加できる設計にしておく。
推奨: 「最初はモノリスで、段階的に分割」または「モジュラーモノリス設計」で検討する。
大規模プラットフォーム → マイクロサービスが有力候補
このフェーズの特徴:
- 複数の開発チームが並行して開発する体制
- ユーザー数が数万〜数十万規模を想定
- 機能が多岐にわたる(決済・通知・ユーザー管理・コンテンツ管理など)
- 機能ごとに独立したリリースが必要
なぜマイクロサービスが適しているか: 大規模なシステムでは、モノリスの「修正範囲が広がりやすい」デメリットが顕著になります。複数チームが同じコードベースで作業すると衝突が起きやすく、リリースサイクルが遅くなります。各チームが独立して開発・デプロイできるマイクロサービス設計が、組織規模に合っています。
具体的な事例のイメージ: ECプラットフォームや大規模SaaS(商品管理・決済・通知・ユーザー管理を別々のチームが担当)。各サービスが独立して動作するため、決済機能の改善中でも他の機能には影響しない。
推奨: マイクロサービスが合理的。ただし、インフラエンジニアや運用チームの体制が前提条件となる。
「とりあえずモノリスから始める」は正しい選択か?
「まずはモノリスで始めて、後から必要な部分だけマイクロサービスに分割する」というアプローチは、システム設計の世界では「MonolithFirst(モノリスファースト)」と呼ばれ、多くの実績がある考え方です。
このアプローチの合理性は次の通りです:
- 最初は要件が曖昧なことが多い: 開発初期はユーザーの反応を見ながら仕様が変わることが多く、複雑なサービス分割設計を最初から行うと、変更のたびに大きなコストがかかります
- 分割が必要になるタイミングは使ってみてわかる: どの機能にどれだけ負荷がかかるかは、実際にシステムを運用してみるまでわかりません
- 過剰な設計はコストの無駄になる: 小規模なシステムにマイクロサービスを採用すると、管理コストが見合わないケースがあります
秋霜堂株式会社では、少人数チームでのシステム開発において、「モノリスで素早くリリース、ユーザー獲得後に段階的に分割」というアプローチを実践してきました。プロジェクトの初期段階で過剰なアーキテクチャを提案するのではなく、実際の規模感と成長計画に合った設計を誠実に提案することが、長期的な信頼につながると考えています。
開発会社から「最初からマイクロサービスで」と提案を受けた場合は、「なぜ今の規模でそれが必要か」を確認することが大切です。
発注者が開発会社に確認すべき5つの質問

アーキテクチャの技術的な詳細を理解していなくても、以下の5つの質問をすることで、提案の妥当性を確認できます。
質問1: なぜマイクロサービスを提案するのですか? 「マイクロサービスが主流だから」「将来的に便利だから」ではなく、今のプロジェクト規模・チーム体制・成長計画のどの要素が、マイクロサービスを採用する理由になるかを具体的に説明してもらいましょう。
質問2: モノリスと比較して初期費用はどのくらい変わりますか? マイクロサービスを採用する場合の費用増加の根拠(追加の設計工数・インフラコストなど)を明確にしてもらいましょう。根拠が曖昧な場合は注意が必要です。
質問3: 最初のリリースまでの期間はどう変わりますか? マイクロサービスの初期セットアップにかかる追加期間を確認します。スピードを重視する場合は、この点が重要な判断基準になります。
質問4: 3〜5年後の保守体制と年間運用コストは? マイクロサービスは初期コストだけでなく、長期的な運用コストも変わります。運用に必要な専門知識や体制の準備も含めて確認しましょう。
質問5: モノリスから始めて後からマイクロサービスに移行する選択肢は? 最初からマイクロサービスに固執せず、段階的なアプローチの可能性を聞いてみましょう。良い開発会社であれば、この選択肢をフラットに議論してくれるはずです。
まとめ
マイクロサービスとモノリスのどちらが「優れている」かという問いに、一般的な正解はありません。重要なのは、プロジェクトの規模・目的・チーム体制に合ったアーキテクチャを選ぶことです。
- 小規模MVP・スタートアップ: まずはモノリスでスピードを重視
- 中規模の業務システム: 段階的なアプローチ(モノリスファースト)
- 大規模プラットフォーム: マイクロサービスが有力候補(ただし運用体制が前提)
迷ったときは、「なぜその提案なのか」を開発会社に確認する習慣を持つことが大切です。この記事でご紹介した5つの質問を活用して、技術の詳細を知らなくても適切な発注判断ができるようになってください。
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