システム開発の打ち合わせで、こんな経験はないでしょうか。「この部分は非同期で実装します」「非同期APIを使って処理します」——エンジニアがさらっと口にするこの言葉、うなずいたものの実は何を言っているのかよく分からなかった、という方は少なくありません。
「非同期処理」は現代のシステム開発において欠かせない技術概念です。しかし、プログラミングを学んでいない発注者・管理者の立場では、その必要性や使いどころをつかみにくいのが実態です。
本記事では、非エンジニアの発注者・管理者の方に向けて、非同期処理の概念を日常例でわかりやすく解説します。さらに、「なぜ非同期が必要なのか」「自社のシステムに関係するのか」「要件定義でどう確認すればよいか」という実践的な視点まで踏み込んでご説明します。
この記事を読み終えるころには、エンジニアとの打ち合わせで「なぜ非同期で実装するのか」を自分なりに問い直せるようになります。
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非同期処理とは?同期処理との違いをわかりやすく解説

非同期処理の本質を理解するには、まず対になる概念「同期処理」と比較するのが近道です。
同期処理とは——処理が終わるまで次に進めない仕組み
同期処理とは、1つの処理が完全に終わってから次の処理を始める実行方式です。
わかりやすく言うと、「Aが終わったらB、Bが終わったらC」という順番待ちの仕組みです。コンピュータが複数の仕事を抱えていても、1つずつしか手をつけられません。
メリットは処理の流れが単純でわかりやすいこと。デメリットは、時間のかかる処理が発生すると、それが終わるまで他のすべての処理が止まってしまうことです。
非同期処理とは——処理の完了を待たずに次の処理を進める仕組み
非同期処理とは、ある処理の完了を待たずに、次の処理を始める実行方式です。
「Aの処理を開始したら、完了を待たずにBを始める。Aが完了したら結果を受け取る」という並行作業の仕組みです。
「でも、Aが終わっていないのにBを始めて大丈夫なのか?」と不思議に思うかもしれません。ポイントは、AとBが互いに依存していない場合に有効だということです。Aの結果を使わなければBを進められるような処理は、並行して動かせます。
日常生活で例えると——コンビニのセルフレジとカウンター注文の違い
もっとイメージしやすくするために、日常生活の例で考えてみましょう。
同期処理のイメージ: 定食屋のカウンター席
定食屋のカウンター席に座ると、店員さんが注文を取り、料理が完成するまで次の客の注文を受け付けません。あなたが席についてから料理を受け取るまで、他の処理はすべて止まっています。
非同期処理のイメージ: 番号札システムのある飲食店
一方、番号札システムを使っている店では、注文を受けたら番号札を渡してその場は離れます。厨房で料理を作っている間も、次の客の注文を受け続けられます。完成したら番号で呼び出す——これが非同期の仕組みです。
システムで言えば、「番号を渡して待機している間」が「他の処理を並行して実行している時間」に当たります。
なぜ非同期処理が必要なのか——ユーザー体験とシステム性能への影響

概念が理解できたところで、「なぜエンジニアがわざわざ非同期で実装するのか」という疑問に答えます。
同期処理だけでは困る場面——画面フリーズとユーザー離脱
現代のWebアプリケーションやシステムは、さまざまな「待ち時間」が発生する処理を日常的に行っています。代表的なものが以下です。
- データベースへのアクセス(検索・保存)
- 外部APIとの通信(天気情報・決済サービス・地図など)
- ファイルのアップロード・ダウンロード
- メール・通知の送信
これらは、ネットワーク経由で行われるため、処理完了まで0.1秒〜数秒かかります。
もしすべて同期処理で実装した場合、ユーザーがボタンを押してから処理が完了するまで、画面全体が操作できない状態になります。ECサイトで「購入する」ボタンを押したら画面が固まって3秒間何もできない——そんな状態です。
ユーザーからすると「システムが壊れた」「操作が効かない」と感じ、離脱につながります。Googleが定義するCore Web Vitalsでも「INP(Interaction to Next Paint)」という応答性の指標が重要視されており、ページやシステムの操作応答がユーザー体験に直結することが示されています。
非同期処理でユーザー体験はどう変わるか
非同期処理を使うと、ユーザーがボタンを押した瞬間に「処理中…」というフィードバックを返しつつ、バックグラウンドで処理を進めます。処理が完了したら結果を画面に反映する、という流れになります。
ユーザーは「処理が始まった」と分かり、その間も他の操作を続けられます。体感的な速さが大幅に改善します。
処理速度・スケーラビリティへの影響
非同期処理はユーザー体験だけでなく、システム全体の効率にも影響します。
同期処理の場合、1件のリクエストを処理している間は他のリクエストを受け付けられません。同時に100人のユーザーがアクセスしたら、99人が待ち行列に並ぶことになります。
非同期処理を使えば、1つの処理が完了するのを待たずに次のリクエストを受け付けられるため、同時に多くのユーザーのリクエストをこなせるようになります。これがスケーラビリティの向上です。
非同期処理が使われる代表的な場面

「ではどんなシステムで非同期処理が使われているのか」——自社の開発依頼に関係するかどうかを判断するために、代表的なユースケースを整理します。
Webフォーム送信・ファイルアップロード
お問い合わせフォームや申込フォームの送信は、典型的な非同期処理の活用場面です。
送信ボタンを押したとき、「送信しています…」という表示が出て、完了後に「送信が完了しました」というメッセージが表示される——このUXは非同期処理によって実現されています。
ファイルアップロード(PDF・画像・動画など)は特に時間がかかるため、非同期処理は必須です。同期で実装すると、アップロード完了まで画面が固まり、ユーザーが離脱するリスクが高まります。
自社システムとの関係: 社内システムや顧客向けポータルでファイルの添付・アップロード機能がある場合は、非同期処理が使われている(あるいは使うべき)可能性が高いです。
外部APIとのデータ連携
多くのシステムは、外部のサービスとAPIを通じてデータをやり取りしています。
- 住所入力の自動補完(郵便番号→住所変換API)
- 決済処理(クレジットカード決済サービスとの通信)
- 在庫確認(倉庫管理システムとのリアルタイム連携)
- 地図・位置情報の表示(地図APIとの通信)
これらは外部サービスとのネットワーク通信を伴うため、応答が返ってくるまで時間がかかります。非同期処理で実装することで、外部APIの応答を待っている間も画面を操作可能な状態に保てます。
自社システムとの関係: 外部サービス(決済・物流・会計ソフト・SFAなど)と連携する機能がある場合、ほぼ確実に非同期処理が関係します。
メール・通知・バッチ処理
ユーザーが操作をしたときに裏側で動く処理も、非同期処理の典型例です。
- 申込完了後の確認メール送信
- 在庫が補充されたときのプッシュ通知
- 深夜の定期データ集計・レポート生成
メール送信を同期処理にすると、メールサーバーとの通信完了まで次の画面に進めません。非同期にすることで、「メール送信を予約」して即座に次の画面を表示し、バックグラウンドでメールを送るという実装が可能になります。
バッチ処理(大量データの一括処理)は非同期が前提です。数千件・数万件のデータを処理する間、システム全体を止めるわけにはいかないからです。
非同期処理のメリットとデメリット——発注前に知っておくこと
非同期処理を理解したうえで、メリットとデメリットの両面を把握しておくと、発注・要件定義での判断精度が上がります。
メリット——ユーザーを待たせない・同時に多くの処理をこなす
メリット | 内容 |
|---|---|
UX(ユーザー体験)の向上 | 処理中も画面が操作可能。ローディング表示でユーザーに状況を伝えられる |
スループットの向上 | 複数のリクエストを並行処理できるため、同時アクセス数が増えてもシステムが詰まりにくい |
スケーラビリティ | 利用者数・データ量が増えても性能を維持しやすい |
外部依存のリスク低減 | 外部APIが遅くてもシステム全体が止まらない |
デメリット——実装が複雑になる・エラーが起きたときの追跡が難しい
デメリット | 内容 |
|---|---|
実装コストの増加 | 同期処理より設計・実装が複雑になり、開発工数が増える場合がある |
エラー処理の難しさ | バックグラウンドで起きたエラーを適切にユーザーに伝えるための設計が必要 |
テスト・デバッグの複雑化 | 処理の順序が保証されないため、テストケースが増える |
一貫性の担保 | 複数の処理が並行して動くと、データの整合性を保つ設計が必要になる |
同期処理で十分なケースもある——使い分けの判断基準
「非同期=常に良い」というわけではありません。以下のようなケースでは同期処理で十分です。
- 処理時間が極めて短い(0.1秒以内)場合
- 処理AとBが必ず順番に依存している場合(Aの結果がないとBを始められない)
- ユーザーが少なく同時アクセスがほぼない社内専用ツール
コストと効果を天秤にかけて、適切に選択することが重要です。
発注・要件定義で役立つ非同期処理の確認ポイント

ここからは実践的な活用を考えます。非エンジニアの発注者・管理者として、ベンダーやエンジニアと要件定義を進める際に使えるポイントをまとめました。
非同期処理が必要かどうかを見分けるサイン
以下のいずれかに当てはまる機能・要件がある場合、非同期処理が関わっている可能性が高いです。
- 外部との通信を伴う処理: 決済、地図、配送追跡、天気など外部APIを使う機能
- ファイルの入出力: アップロード、ダウンロード、PDF生成、画像変換
- 通知・メール送信: ユーザーの操作後に送信される自動メール、プッシュ通知
- 時間のかかるデータ処理: 大量データの集計、レポート生成、データ変換
- リアルタイム更新: チャット、在庫状況のリアルタイム表示
これらの機能をシステムに含む場合は、要件定義の段階で非同期処理の設計について確認しておく価値があります。
ベンダー・エンジニアへの確認質問リスト
ベンダーやエンジニアに「この処理は非同期で実装しますか」と聞いても、答えが分からなければ次につながりません。以下の質問を使うと、設計の妥当性を確認しやすくなります。
処理の設計について
- 「このボタンを押したとき、画面が操作できなくなる時間はありますか?」
- 「ファイルのアップロード中も他の操作を続けられますか?」
- 「外部APIが遅くなった場合、画面はどう見えますか?」
エラー発生時の動作について
- 「バックグラウンドで処理が失敗したとき、ユーザーにどう通知されますか?」
- 「メール送信が失敗した場合、再送の仕組みはありますか?」
- 「非同期処理でエラーが起きたとき、ログはどのように残りますか?」
コストへの影響について
- 「非同期処理の実装で、開発工数はどの程度変わりますか?」
- 「非同期処理を使わなかった場合と比べて、UXにどんな違いが生まれますか?」
要件定義書に記載すべき非同期処理の要件
要件定義書に記載する際、「非同期処理を使う」という技術的な指定よりも、以下のようなユーザー体験の観点からの要件として書くことをお勧めします。エンジニアが最適な実装を選択できます。
- 「ファイルアップロード中も、他のフォーム入力を続けられること」
- 「送信ボタンを押した後、画面を操作できなくなる時間が1秒以内であること」
- 「外部APIの応答が3秒以上かかった場合でも、画面がフリーズしないこと」
- 「バックグラウンドの処理が失敗した場合、ユーザーにエラーメッセージが表示されること」
このように「ユーザーから見た動作・制約」として要件を記述すると、エンジニアとのコミュニケーションが明確になります。
まとめ——非同期処理を理解して開発依頼の質を上げる
本記事の要点をまとめます。
- 同期処理: 処理が完全に終わるまで次に進めない。順番待ちのシンプルな仕組み
- 非同期処理: ある処理の完了を待たずに次の処理を始める。並行作業で応答性とスループットを高める
- 必要な場面: ファイルアップロード・外部API連携・メール送信・バッチ処理など、時間がかかる処理すべてが候補
- 発注者に重要な理由: 非同期処理の設計がユーザー体験とシステム性能を大きく左右するため、要件定義段階での確認が品質に直結する
「非同期処理」という言葉を聞いたとき、「なぜ非同期で実装するのか」「ユーザーにはどう見えるのか」「エラー時はどう動くのか」を問いかけられるようになると、ベンダーとのコミュニケーションの質が変わります。
システム開発を外部に依頼する際は、機能要件だけでなく「ユーザーが操作したとき、画面がどう動くか」という体験レベルの要件を丁寧に定義することが、開発後の品質トラブルを防ぐカギになります。
システム開発に関して、他にも不明点がある場合はWeb開発とは?一般的な流れやシステム開発会社の選び方を解説もあわせてご覧ください。
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