「医療費控除は10万円を超えないと使えない」と思って、毎年スキップしていませんか。腰痛治療の整体代、家族の通院費、ドラッグストアで買った処方薬に近いOTC医薬品。デスクの引き出しに眠っている領収書を集計しないまま確定申告を終えているフリーランスエンジニアは少なくありません。
会社員時代は年末調整で税務が完結していたため、医療費控除は「自分には縁遠い制度」というイメージが残りやすいものです。しかし独立後は自分で申告しない限り1円も還付されず、しかも所得や家族構成によっては10万円未満でも使えるケースがあります。さらに、エンジニアに多い腰痛・眼精疲労・メンタル通院といった医療費の一部は、条件を満たせば控除対象になります。
とはいえ、判断基準と実務手順が曖昧なまま「なんとなくスキップ」してしまうのは、忙しいエンジニアにとって合理的な選択でもあります。集計に何時間もかけた結果、還付額が数千円だったのでは割に合いません。だからこそ、事前に「自分のケースで還付額はいくらか」「エンジニア特有の医療費はどこまで対象か」を見極めることが重要です。
本記事では、フリーランスエンジニアが医療費控除を活用する際の判断基準・対象範囲・単価別の還付額シミュレーション・クラウド会計ソフトでの実務手順を整理します。単発の医療費控除だけでなく、社会保険料控除・iDeCo・小規模企業共済といった他の所得控除と組み合わせた節税ポートフォリオの考え方まで踏み込みます。読み終える頃には、領収書の山を見て「これは集計する価値があるか」を秒で判断できるようになるはずです。
フリーランスエンジニアが医療費控除を活用すべき理由
医療費控除とは、1月1日から12月31日までに支払った医療費のうち一定額を超えた部分を、その年の所得から差し引ける所得控除の制度です。所得が下がる分、所得税と住民税が減り、確定申告後に還付金として戻ってきます。
会社員は年末調整では医療費控除を処理できないため、還付を受けるには自分で確定申告する必要があります。フリーランスの場合はもともと確定申告を毎年行っているため、明細書を1枚追加するだけで完結します。「1枚のためにわざわざ確定申告する会社員」よりも、フリーランスエンジニアはむしろハードルが低い立場にいます。確定申告そのものに慣れていない方は、フリーランス初めての確定申告ガイドで全体の流れを掴んでから本記事に戻ると理解が早くなります。
一方で、多くのフリーランスエンジニアが医療費控除を諦める理由が「年間の医療費が10万円を超えないから」というものです。しかしこの認識は正確ではありません。総所得金額等が200万円未満の場合は「所得の5%」が控除の下限になりますし、生計を一にする家族の医療費は合算できるため、単身で10万円未満でも家族全員の合計では余裕で超えているケースが多くあります(国税庁: No.1120 医療費を支払ったとき)。
本記事のゴールは、あなた自身の所得と医療費に照らして「還付額はいくらになりそうか」「集計する価値があるか」を判断できる状態になることです。加えて、確定申告の実務手順まで見通せるように、freeeとマネーフォワード クラウドでの入力ポイントも整理します。
医療費控除の基本ルール(対象・非対象・計算式)
まずは制度の骨格を押さえます。医療費控除の計算式は以下のとおりです。
医療費控除額 =(実際に支払った医療費 − 保険金等で補填される金額)−(10万円 または 総所得金額等の5%のいずれか少ない方)
控除の上限は200万円です。集計期間は「その年の1月1日から12月31日までに実際に支払ったもの」で、年をまたぐ未払い分は支払った年の控除対象になります(例: 2025年12月受診・2026年1月支払いは2026年分)。
還付されるのは「控除額 × 所得税率」に相当する金額です。所得税率が20%であれば、控除額15万円に対して3万円が還付されます。加えて住民税(一律10%)も翌年減額されるため、合計の節税インパクトは所得税率+10%と考えるとおおまかな目安になります。
対象になる医療費
医療費控除の対象は「治療目的」の支出が基本です。代表的なものは以下のとおりです。
- 病院・診療所での診察費、治療費、入院費
- 医師が処方した薬代
- 治療のためのマッサージ・鍼灸・柔道整復(国家資格保有者による施術)
- 通院のための公共交通機関の交通費(電車・バス)
- 治療のために購入した医療器具(松葉杖・義手義足・治療用コルセットなど)
- 出産費用(妊婦健診・分娩費・入院費)
- 歯科治療(保険適用外の材料費も条件次第で対象)
- OTC医薬品(風邪薬・胃腸薬など「治療目的」のもの)
対象にならない医療費
一方で、以下は医療費控除の対象外です。判断に迷いやすいポイントを中心に列挙します。
- 美容目的の医療(美容整形・ホワイトニング・美容目的の脱毛など)
- 健康増進のサプリメント・ビタミン剤(治療目的でない場合)
- 予防接種(インフルエンザワクチンなど、治療でなく予防目的)
- 健康診断・人間ドック(結果として重大疾病が見つからなかった場合)
- 通院に自家用車を使った場合のガソリン代・駐車場代
- リフレッシュ目的のマッサージ・整体
- 眼鏡・コンタクトレンズの一般的な購入費用
「治療目的か、そうでないか」が判定軸です。同じマッサージでも、医師の指示に基づく治療目的なら対象、リラクゼーション目的なら対象外という違いが生まれます。
エンジニア特有の医療費は医療費控除の対象になるか

ここが本記事の核心です。長時間のPC作業に伴う職業病は、判定がグレーになりやすい領域が多くあります。一つずつ整理していきます。
腰痛・肩こりに対するマッサージ・鍼灸・整体
PC作業の姿勢による腰痛・肩こりでマッサージや整体に通うエンジニアは多いはずです。この費用は、国家資格を持つ施術者(あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師・柔道整復師)による治療目的の施術であれば対象になります。
一方で、リラクゼーションサロン・整体院(無資格施術者)でのマッサージや、疲労回復目的のマッサージは対象外です。判定のポイントは以下の2点です。
- 施術者が国家資格を持っているか(サロンの説明ページや領収書に記載があるか)
- 施術の目的が「治療」か「リラクゼーション」か
医師の同意書があると判定が明確になるため、慢性的な症状で通う場合は整形外科で診断書や同意書をもらっておくと安心です。
眼精疲労のためのメガネ・コンタクトレンズ
「PC作業で目が疲れるからブルーライトカットのメガネを購入した」というケースは、原則として医療費控除の対象外です。眼鏡・コンタクトレンズは一般的な視力補正であり、治療用ではないためです。
例外的に対象になるのは、白内障手術後の眼鏡、弱視治療用の眼鏡、斜視矯正用の眼鏡など「医師が治療の一環として処方したもの」に限られます。眼科医の処方箋があり、治療用と明記されている場合のみと考えておくのが安全です。
健康診断・人間ドック
フリーランスは会社員のように定期健康診断が用意されていないため、自費で受診する方が多いはずです。健康診断・人間ドックの費用は原則対象外ですが、重大な疾病が発見され、そのまま治療に移行した場合は、健診費用も治療の一環として控除対象になります(国税庁: No.1122 医療費控除の対象となる医療費)。
つまり、健診で異常が見つからなかった年は対象外、異常が見つかって治療につながった年は対象、というやや複雑な扱いです。健診結果の書類は捨てずに保管しておきましょう。
歯科矯正・インプラント
歯列矯正・インプラント治療は「咀嚼機能の回復・維持」を目的とする場合は対象、審美目的の場合は対象外です。子どもの歯列矯正は成長過程に必要な治療とみなされるため、多くの場合対象になります。成人の矯正は「噛み合わせの改善」など機能回復目的であれば対象、見た目の改善だけが目的なら対象外です。
歯科医院で領収書を受け取る際、治療目的か審美目的かを確認しておくと後の判定が楽になります。
メンタルクリニック(心療内科)・コロナ後遺症の通院
長時間労働・納期プレッシャーで心療内科に通うエンジニアも増えています。心療内科・精神科での診療・処方薬は治療目的であれば控除対象です。カウンセリング料も、医師の指示に基づくものであれば対象に含めることができます。
コロナ後遺症(Long COVID)で医療機関を受診した場合の費用も、通常の治療と同様に対象です。オンライン診療の費用も対象になります。
家族の医療費も合算できる範囲
「自分1人の医療費では10万円に届かない」場合でも、家族の医療費を合算することで多くのケースが控除対象になります。ここが医療費控除活用の最大のポイントです。
医療費控除の対象になるのは「生計を一にする配偶者や親族」の医療費です。「生計を一にする」の判定は同居か別居かではなく、生活費を共有しているかどうかで決まります。
- 対象になる例: 同居の配偶者・子・親、単身赴任中の配偶者、仕送り中の一人暮らしの学生の子、仕送りをしている遠方の親
- 対象にならない例: 内縁関係のパートナー(法的な婚姻関係がない)、生計別の親族
家族の中で最も所得税率の高い人が医療費をまとめて申告すると、還付額が最大化します。例えば、夫がフリーランスエンジニア(所得税率20%)、妻がパート勤務(所得税率5%)の場合、家族全員の医療費を夫が申告した方が還付額は大きくなります。
家族4人で年間の医療費を集計すると、単身では届かなかった10万円を超えるケースは珍しくありません。歯科通院・小児科通院・眼科通院・薬局での処方薬など、家族全員分を1年分足し合わせてみると意外な金額になっているはずです。
単価別・所得別の還付額シミュレーション

「集計する手間に見合う還付額か」を判断するために、フリーランスエンジニアの単価帯別に還付額を試算します。以下は簡易的なモデルケースで、実際の税額は他の控除や経費の状況によって変動する点に注意してください。
所得税率と還付額の関係
所得税は超過累進課税で、課税所得に応じて税率が上がります(国税庁: No.2260 所得税の税率)。
課税所得金額 | 所得税率 | 住民税率 | 合計節税率(目安) |
|---|---|---|---|
195万円以下 | 5% | 10% | 15% |
195万円超〜330万円以下 | 10% | 10% | 20% |
330万円超〜695万円以下 | 20% | 10% | 30% |
695万円超〜900万円以下 | 23% | 10% | 33% |
900万円超〜1,800万円以下 | 33% | 10% | 43% |
医療費控除で得られる還付額の目安は「控除額 × 合計節税率」です。同じ医療費でも所得税率が高い人ほど1円あたりの節税効果が大きくなる仕組みです。
単価×医療費のクロス集計表
以下は、フリーランスエンジニアの年収レンジ別に、医療費控除で得られる還付額の目安を試算した表です。表の透明性を担保するため、各行の課税所得は以下のモデルで算出しています。
- 課税所得 = 年間売上 − 想定必要経費 − 青色申告特別控除65万円 − 基礎控除48万円 − 想定社会保険料控除
- 想定必要経費: 自宅兼オフィス按分家賃・通信費・PC/機材費・書籍・打合せ交通費などフリーランスエンジニアの平均的な経費像を各単価帯で仮定
- 想定社会保険料控除: 国民健康保険料・国民年金保険料の実額目安(自治体・扶養状況により変動)
想定経費・想定社保控除は下表の値を用いました。iDeCoや小規模企業共済等の掛金拠出、扶養控除、生命保険料控除などは含めていないため、実際にこれらを利用すれば還付額はさらに上振れます。
月単価 | 年間売上 | 想定必要経費(売上比) | 想定社保控除 | 課税所得(目安) | 所得税率 | 医療費15万円 | 医療費25万円 | 医療費40万円 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
40万円 | 480万円 | 約95万円(約20%) | 約72万円 | 約200万円 | 10% | 約1万円 | 約3万円 | 約6万円 |
60万円 | 720万円 | 約127万円(約18%) | 約100万円 | 約380万円 | 20% | 約1.5万円 | 約4.5万円 | 約9万円 |
80万円 | 960万円 | 約147万円(約15%) | 約100万円 | 約600万円 | 20% | 約1.5万円 | 約4.5万円 | 約9万円 |
100万円 | 1,200万円 | 約157万円(約13%) | 約100万円 | 約830万円 | 23% | 約1.65万円 | 約4.95万円 | 約9.9万円 |
※ 想定必要経費・社会保険料控除は平均的なフリーランスエンジニア像に基づく仮定値です。ご自身のケースで正確な還付額を試算する場合は、freee やマネーフォワード クラウド確定申告の申告書作成画面で自身の数値を入力して確認してください。
例えば月単価60万円のフリーランスエンジニアが年間25万円の医療費を支払った場合、控除額は25万円 − 10万円 = 15万円、還付額は15万円 × 30%(所得税20%+住民税10%)= 4.5万円が目安です。
「1時間の集計作業で4万〜9万円の節税」であれば、多くの場合十分に手間に見合う投資と言えます。逆に医療費が10万円をわずかに超える程度で家族合算もできない場合は、後述するセルフメディケーション税制の方が有利になる可能性があります。
セルフメディケーション税制との使い分け
医療費控除が使えないケースでも、代わりに使える節税制度としてセルフメディケーション税制があります。これは特定成分を含むOTC医薬品(スイッチOTC・対象成分は厚生労働省が指定)の年間購入額のうち、1万2,000円を超える部分を最大8万8,000円まで所得から控除できる制度です(厚生労働省: セルフメディケーション税制について)。
適用条件
セルフメディケーション税制を使うには以下の条件を満たす必要があります。
- 対象OTC医薬品を年間1万2,000円超購入していること
- その年に「一定の健康の保持増進および疾病の予防への取組」を行っていること(会社の健診・特定健診・予防接種・がん検診など)
「健康増進の取組」は領収書か結果通知書があれば証明できます。フリーランスであれば自費健診の領収書、市区町村の特定健診受診票、インフルエンザ予防接種の領収書などが該当します。
医療費控除との使い分けフロー
医療費控除とセルフメディケーション税制はどちらか一方しか使えません。以下の順序で判断すると迷いません。
- 家族合算の医療費が10万円(または所得5%)を超えるか → 超えるなら医療費控除
- 超えない場合、対象OTC医薬品の購入額が1万2,000円を超えるか → 超えるならセルフメディケーション税制
- どちらも該当しない場合 → その年は諦めて翌年に向けた記録の徹底へ
医療費が8万〜10万円の中間ゾーンで、OTC医薬品の購入比率が高い人は、セルフメディケーション税制の方が有利になる可能性があります。両方の控除額を試算して、大きい方を選ぶのが最適解です。
確定申告での実務手順(クラウド会計ソフトの活用)

「対象と還付額の目安は分かったが、実際に申告するのが面倒」というのがフリーランスエンジニアの本音です。クラウド会計ソフトを使えば、実務は思っているより簡単です。
集めるべき資料と集計方法
まず、以下の資料を年内から準備しておきます。
- 医療費のお知らせ: 協会けんぽ・健康保険組合・国民健康保険から翌年1〜2月頃に届く1年分の医療費集計通知。保険適用分は自動集計されているため、これを転記するだけでほぼ完結します
- 保険適用外の領収書: 自費診療・OTC医薬品・治療用の医療器具などは「医療費のお知らせ」に載らないため、領収書を別途保管
- 交通費のメモ: 通院に使った公共交通機関の交通費(電車・バスの区間と金額)をメモ帳やスプレッドシートで記録
- 保険金・給付金の受取記録: 医療保険・入院給付金などを受け取った場合、その金額を医療費から差し引く必要があるため記録
領収書自体は提出不要ですが、確定申告後5年間の自己保管が義務です(国税庁: 医療費控除を受ける方へ)。税務署から後日提示を求められることがあります。
freeeでの入力手順
freee 会計で確定申告する場合、以下の流れで医療費控除を入力します。
- 確定申告書類の作成画面で「所得から差し引かれる金額」セクションを開く
- 「医療費控除」の項目で入力方法を選択(「医療費のお知らせを利用」「医療費集計フォームを利用」「明細を1件ずつ入力」)
- 医療費のお知らせを利用する場合、記載の合計額を入力し、不足分の領収書(自費診療・OTC医薬品など)を追加入力
- 保険金等で補填された金額を入力
- 自動計算された控除額を確認
freee は医療費集計フォームのテンプレート(Excel/CSV)を提供しており、家族の分をまとめて集計してからインポートすることもできます。
マネーフォワード クラウド確定申告での入力手順
マネーフォワード クラウド確定申告の場合も基本的な流れは同じです。
- 「確定申告」→「所得控除の入力」から医療費控除を選択
- 医療費のお知らせを利用するか、明細を個別入力するかを選択
- 医療機関ごとに支払先・支払額・保険金補填額を入力
- 交通費など通知に載らない項目は「その他の医療費」として追加
- 控除額の自動計算結果を確認
家族分をまとめて申告する場合は、支払者が申告者本人であることを前提に、家族全員分の医療費を1つの申告書にまとめて入力します。
e-Tax送信と還付金入金までのタイムライン
freee・マネーフォワード クラウド確定申告のいずれも、そのまま e-Tax で送信できます。
- 送信後、通常3〜4週間で還付金が指定口座に入金されます(電子申告の場合。書面提出は6〜8週間程度)
- 申告書控えは PDF で保存し、領収書と一緒にファイリング
- 還付金の入金確認は、通帳または銀行アプリで「国税還付金」の入金があるかチェック
確定申告期間(2月16日〜3月15日)の混雑時期を避けて、2月上旬に申告すれば還付も早く受けられます。
他の所得控除と組み合わせた節税ポートフォリオ

医療費控除だけで数万円の節税は魅力的ですが、フリーランスエンジニアの節税は複数の所得控除を組み合わせる「節税ポートフォリオ」として捉えると効果が最大化します。
主要な所得控除の一覧
医療費控除以外に、フリーランスエンジニアが活用できる主要な所得控除は以下のとおりです。
控除の種類 | 上限額の目安 | 特徴 |
|---|---|---|
社会保険料控除 | 全額(上限なし) | 国民健康保険料・国民年金保険料が全額控除 |
小規模企業共済等掛金控除 | iDeCoは職業により月6.8万まで、小規模企業共済は月7万まで | 掛金が全額控除、退職金代わりの積立 |
生命保険料控除 | 最大12万円(新契約) | 生命保険・介護医療保険・個人年金の3枠それぞれで上限あり |
地震保険料控除 | 最大5万円 | 地震保険料が控除対象 |
医療費控除 | 最大200万円 | 治療目的の医療費(本記事のテーマ) |
寄附金控除 | 総所得の40%まで | ふるさと納税・認定NPOへの寄付など |
これらを組み合わせることで、年間の課税所得を大きく圧縮できます。国民健康保険料は「社会保険料控除」として全額控除される一方、そもそもの保険料負担自体が大きい方は、フリーランスの健康保険選択比較で任意継続・国保組合・文芸美術国民健康保険組合などの選択肢を比較すると、保険料負担そのものを圧縮できる可能性があります。生命保険料控除の枠を活用したい場合の商品選びはフリーランスエンジニアの生命保険選び方を参考にしてください。
節税インパクトの優先順位
上記の控除の中で「節税インパクトが大きい順」に取り組むと、限られた時間で最大の節税効果が得られます。目安は以下のとおりです。
- 社会保険料控除(自動的に全額控除、追加の手間なし)
- iDeCo・小規模企業共済(掛金全額控除で節税効果が大きい。iDeCoは月6.8万円・小規模企業共済は月7万円が上限)
- 医療費控除(年間医療費と家族構成による)
- 生命保険料控除(既加入者は忘れずに)
- ふるさと納税(実質2,000円で返礼品)
iDeCoと小規模企業共済は「掛金全額 × 節税率」で節税効果を計算できるため、年間で数十万円規模の控除枠を作れます。月単価60万円のフリーランスエンジニアが両方を上限まで拠出すれば、年間約165万円の所得控除となり、節税額は約50万円(節税率30%の場合)にもなります。iDeCoと小規模企業共済の使い分け・掛金設定の考え方はフリーランスエンジニアのiDeCo・企業型DC節税術で詳しく解説しているので、拠出設計に迷う方はあわせてご覧ください。
所得区分の切り替えを意識する
所得税は超過累進課税のため、課税所得が税率の境界を超えるか超えないかで節税インパクトが大きく変わります。例えば課税所得が330万円をわずかに超えている場合、所得控除を追加して330万円以下に抑えられれば、その部分は税率20%→10%に下がります。
医療費控除・iDeCo・小規模企業共済などを積み上げて「税率区分を1段下げる」ことを狙うと、単純な控除額以上の節税効果が得られます。年末に課税所得の目安を試算しておき、税率境界の近くにいるか確認する習慣をつけると、フリーランスエンジニアとしての税務戦略が一段上のレベルになります。
医療費控除のよくある落とし穴と注意点
最後に、実務で見落としやすいポイントを整理します。
領収書は5年間の自己保管
前述のとおり、領収書は確定申告後5年間の自己保管が義務です(国税庁: 医療費控除を受ける方へ)。税務調査で提示を求められた場合、保管がないと控除が否認される可能性があります。年ごとに封筒やファイルボックスにまとめて、書類保管の運用ルールを決めておきましょう。
保険金・入院給付金の差し引き漏れ
医療保険や入院給付金を受け取った場合、その金額は医療費から差し引く必要があります。ただし、差し引くのは対応する医療費のみで、他の医療費まで差し引く必要はありません。例えば入院で50万円かかり、給付金40万円を受け取った場合、その入院関連の医療費は10万円で計算しますが、別件の通院費用まで差し引く必要はありません。
「未払い」の医療費は支払った年に控除
12月に受診して1月に支払った医療費は、支払った年(1月の年)の控除対象です。年末のクレジットカード払いは決済日ではなく「実際に支払った日」(口座引き落とし日ではなく決済日)で判定します。
過去5年分は遡って申告可能
「去年は集計しなかったが、実は10万円を超えていた」というケースは、更正の請求により過去5年分まで遡って還付を受けられます。すでに確定申告を提出済みでも、期限内に更正の請求を行えば追加還付を受けられるため、諦める前に過去の領収書を集計してみる価値があります。
期限後申告(本来の申告期限を過ぎてから初めて申告する場合)でも、医療費控除は認められます。過去に確定申告自体をしていない年があれば、その年分もまとめて申告可能です。
医療費のお知らせに載っていない項目に注意
「医療費のお知らせ」は保険適用分のみが記載されます。自費診療・OTC医薬品・通院交通費・治療用のマッサージ費用などは載らないため、別途集計が必要です。「お知らせに載っている金額 = その年の医療費総額」ではない点に注意してください。
まとめ
フリーランスエンジニアの医療費控除は、「10万円ルール」で毎年スキップするにはもったいない節税制度です。所得200万円未満なら5%基準、家族合算で境界を押し上げられるため、「うちは関係ない」と決めつける前に一度年間集計してみる価値があります。
エンジニア特有の医療費(治療目的の整体・鍼灸、心療内科通院、コロナ後遺症の受診など)も条件を満たせば対象になります。単価60万円のフリーランスエンジニアが年間25万円の医療費を集計すれば、還付額は4〜5万円が目安です。1〜2時間の集計作業でこのリターンが得られるなら、やらない理由はありません。
さらに、医療費控除は単独の節税策ではなく、社会保険料控除・iDeCo・小規模企業共済といった他の所得控除と組み合わせた「節税ポートフォリオ」の一部として捉えるのが正解です。特にiDeCoと小規模企業共済は掛金全額控除で節税インパクトが大きく、フリーランスエンジニアの税務戦略の中核になります。医療費控除以外にも今年やっておくべき節税アクションが漏れていないか一覧で確認したい方は、フリーランスエンジニア税務チェックリスト2026で網羅的にチェックしてください。
次のアクションとして、以下を今すぐ実施できます。
- デスクの引き出しの領収書を今年分だけでも1つのボックスにまとめる
- freeeまたはマネーフォワード クラウド確定申告で「医療費控除」の入力画面を開いてみる
- 過去5年分の確定申告書控えを確認し、集計漏れがなかったか振り返る
- iDeCo・小規模企業共済の加入状況を確認し、掛金の見直しを検討する
「医療費控除は自分に関係ない」と思っていた時間を、今日から「節税ポートフォリオを組む時間」に切り替えてみてください。フリーランスエンジニアの手取りは、稼ぐ力だけでなく残す力で決まります。
よくある質問
- フリーランスエンジニアで年間の医療費が8万円くらいでも医療費控除は使えますか?
総所得金額等が200万円未満の場合は、10万円ではなく「所得の5%」が控除の基準になります。所得次第では8万円の医療費でも十分に対象となるため、まず自分の総所得金額等がいくらかを確認してから判定してください。
- 整体の領収書に施術者の資格が書かれていない場合はどうすればいいですか?
施術院に国家資格(あん摩マッサージ指圧師・はり師など)の保有と、施術が治療目的であることを領収書または別紙で証明してもらってください。証明が得られない場合は、医療費控除の対象と認められないリスクが高くなるため注意が必要です。
- 会社員から独立したばかりですが、独立前に支払った医療費も合算できますか?
医療費控除は暦年(1月1日〜12月31日)単位で判定するため、就業形態が会社員からフリーランスに変わっても、その年に自分や家族が支払った医療費はすべて合算できます。独立前後で分けて考える必要はありません。
- 医療費控除とiDeCo・小規模企業共済、どちらの手続きを先にやるべきですか?
節税インパクトが大きいiDeCo・小規模企業共済の掛金設定を先に済ませておくのが得策です。医療費控除は年末までの実績をもとに明細書を作るだけなので、確定申告の直前にまとめて対応しても十分に間に合います。
- 過去に医療費控除を使わず提出してしまった確定申告は、今からでも見直せますか?
更正の請求書に加えて医療費控除の明細書と当時の領収書または医療費のお知らせを添付し、住所地を管轄する税務署に提出します。請求期限は法定申告期限から5年以内で、例えば2021年分なら2026年3月15日が期限です。e-Taxでも提出できます。



