「会計ソフトで申告書はもう作り終えた。あとは e-Tax の送信ボタンを押すだけ」——そこまで来ると、不思議とかえって手が止まりませんか。やり方を解説した記事は何度も読んだので手順はわかっている。それでも「経費を1つ入れ忘れていないか」「控除証明書の添付を忘れていないか」「記入ミスがないか」という小さな不安が、提出ボタンの前で残り続けるものです。
フリーランスエンジニアの確定申告で損をするのは、制度を理解していないからではありません。多くの場合、SaaS の利用料を経費に入れ忘れた、iDeCo の控除証明書を添付し忘れた、といった「最後の取りこぼし」が原因です。手順を知っていることと、提出物に漏れがないことは別の話なのです。
さらに2025年分(令和7年分)の申告では、基礎控除が大きく見直されました。会計ソフトがアップデートで自動対応しているはずですが、「本当に自分の所得帯に正しい控除額が当たっているのか」と確証を持てない方も多いはずです。
そこで本記事は、申告書を作り終えた人が提出ボタンを押す前に上から順に潰していける「確認リスト」として設計しました。読み物ではなく、印刷・保存して手元で1項目ずつチェックを入れていくための記事です。確認項目は「2025年分の変更点」「経費の計上漏れ」「控除と添付書類」「記入と提出」の4カテゴリに分けています。上から順に潰していけば、漏れのない状態で提出ボタンを押せます。
フリーランスエンジニアの確定申告は「提出前チェックリスト」で取りこぼしを防ぐ
確定申告のやり方や青色申告の要件を解説する記事は世の中にあふれています。けれど「提出する直前に、何を最終確認すればいいか」を一覧でまとめた記事は意外と少ないものです。本記事はその空白を埋めるために、提出前の最終確認に特化しています。
「やり方は知っている」人ほど取りこぼしで損をする
確定申告で多くのフリーランスが損をするのは、知識が足りないからではなく「確認しきれていない」からです。具体的には、次のような取りこぼしが毎年発生します。
- クラウドサービスやドメイン代など、毎月少額で引き落とされる経費を計上し忘れる
- iDeCo や小規模企業共済の掛金控除を入れ忘れる
- 控除証明書の添付(または e-Tax での入力)を忘れる
- 還付金の振込口座やマイナンバーの記入を漏らす
どれも「知らなかった」わけではなく、「作業の途中で抜け落ちた」ものばかりです。経費の入れ忘れ1つで数千円から数万円の納税額が変わることもあり、控除の取りこぼしはそのまま手取りの損失になります。だからこそ、提出前に一度立ち止まって一覧で潰し込む価値があります。
このチェックリストの使い方
本記事のチェック項目は、次の4カテゴリで構成されています。上から順に確認していけば、提出までに必要な観点をひととおりカバーできます。
- 2025年分の変更点: 今年だけ特に注意すべき制度改正(基礎控除など)が、自分の申告に反映されているか
- 経費の計上漏れ: エンジニアが取りこぼしやすい経費を入れ忘れていないか
- 控除と添付書類: 所得控除の取りこぼしと、添付・保管すべき書類の不足がないか
- 記入と提出: 申告書の記入ミスと、提出期限・納税スケジュールの最終確認
各項目は「自分に当てはまるか」がすぐ判断できる粒度にしています。当てはまらない項目(たとえば会社員兼業ではない方の給与所得控除など)は読み飛ばして構いません。記事末尾には全項目を一覧化したチェックリストを再掲しています。この記事をブラウザの印刷機能で PDF 保存しておけば、手元で1項目ずつチェックを入れながら潰し込めます。
なお、本記事は「提出前の最終確認」に絞っているため、制度や記入方法そのものを一から確認したい場合は、各項目の中で関連する詳しい記事へ案内します。
【2025年分の変更点】今年だけ必ず確認するチェック項目

2025年分(令和7年分・2026年提出)の申告では、所得税の基礎控除をはじめとする大きな改正が適用されます。会計ソフトはアップデートで対応していますが、「自分の申告に正しく反映されているか」は最後に自分の目で確認しておきたいポイントです。このカテゴリは、ペルソナである独立数年目のエンジニアが最も不安を感じやすい部分なので、丁寧に確認していきましょう。
基礎控除の段階制への変更——自分の所得帯の控除額を確認する
令和7年度税制改正により、所得税の基礎控除が見直され、令和7年分以後の所得税に適用されます。従来は合計所得金額2,400万円以下で一律48万円でしたが、改正後は合計所得金額に応じた段階制になりました。国税庁の資料によると、主な区分は次のとおりです(国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」)。
合計所得金額 | 基礎控除額 |
|---|---|
132万円以下 | 95万円 |
132万円超 ~ 336万円以下 | 88万円 |
336万円超 ~ 489万円以下 | 68万円 |
489万円超 ~ 655万円以下 | 63万円 |
655万円超 ~ 2,350万円以下 | 58万円 |
合計所得金額132万円以下の95万円は恒久措置ですが、132万円超489万円以下の上乗せ部分は令和7年分・令和8年分の2年間限定の特例です(令和9年分以後は58万円に戻ります)。つまり今年と来年だけ控除額が大きくなっている所得帯があるため、過去の申告と同じ感覚で控除額を見ると違和感があるかもしれません。
提出前に確認したいのは、次の2点です。
- 自分の合計所得金額がどの区分に当たるかを把握している
- 申告書に表示されている基礎控除額が、上記の自分の区分の金額と一致している
会計ソフトで作成していれば自動計算されますが、「表示されている基礎控除額が自分の所得帯の金額と一致しているか」を一度照合しておくと安心です。
会計ソフトが2025年分(令和7年分)に対応しているか確認する
基礎控除の段階制は、会計ソフトが令和7年分対応のバージョンになっていて初めて正しく反映されます。クラウド型の会計ソフトであれば自動でアップデートされているのが通常ですが、提出前に次の点を確認しておきましょう。
- 使っている会計ソフトが令和7年分(2025年分)の申告に対応した状態になっている
- 申告書の基礎控除欄が、改正前の48万円のままになっていない
もし基礎控除欄が48万円のまま表示されている場合、ソフトが旧年分の様式で作成されている可能性があります。新年分の申告として作り直すか、ソフトのバージョン・年分の設定を確認してください。会計ソフト選びそのものを見直したい場合は、フリーランスエンジニア向けの会計ソフトを比較した記事もあわせて参考にしてください。
会社員と兼業の人が確認する給与所得控除・特定親族特別控除
会社員をしながら副業でエンジニアの仕事をしている方や、家族構成によっては、次の改正も自分に関係する場合があります。
ひとつは給与所得控除の最低保障額の引き上げです。最低保障額が55万円から65万円に引き上げられ、給与収入190万円以下の場合は給与所得控除が一律65万円となりました(国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等と確定申告」)。給与をもらいながらフリーランスの仕事をしている方は、給与分の所得計算が改正後の金額になっているか確認しておきましょう。
- (給与収入がある場合)給与所得控除が改正後の最低保障額65万円で計算されている
もうひとつは令和7年に新設された特定親族特別控除です。生計を一にする19歳以上23歳未満の親族で、合計所得金額が123万円以下(給与収入のみなら188万円以下)の人がいる場合に、一定の所得控除が受けられます(国税庁「No.1177 特定親族特別控除」)。大学生年代の子どもがアルバイトで収入が増え、これまでの扶養控除から外れてしまった、というケースを救済する制度です。
- (対象となる親族がいる場合)特定親族特別控除の適用を申告書で確認している
これらに当てはまらない場合は、読み飛ばして次のカテゴリに進んでください。
経費の計上漏れを防ぐチェック項目(エンジニア固有)

ここからは、フリーランスエンジニアが毎年取りこぼしやすい経費を「入れ忘れていないか」という観点で確認します。汎用的な経費解説ではなく、エンジニアならではの費目に絞っているのが本記事の特徴です。心当たりの項目にチェックを入れていきましょう。
入れ忘れやすいエンジニアの経費チェック
開発の仕事で発生する経費は、毎月少額で引き落とされるサブスクリプションが多く、年末にまとめて見返すと漏れが見つかりやすいものです。次の費目を計上できているか確認してください。
- クラウド・SaaS の利用料: AWS・GCP・Azure などのクラウド利用料、GitHub・Vercel・Netlify などの開発ツール利用料
- 生成AI・LLM API の利用料: ChatGPT・Claude などの月額プランや API 従量課金
- ドメイン・サーバー代: 独自ドメインの更新料、レンタルサーバーやVPSの利用料
- ソフトウェア・ツールのサブスク: エディタ・デザインツール・パスワード管理ツールなどの月額/年額費用
- 技術書・学習費用: 技術書籍、オンライン学習サービス、勉強会・カンファレンスの参加費
- 資格・受験費用: 業務に関連する資格試験の受験料
- 通信費: 業務で使うインターネット回線・モバイル通信の料金(按分は後述)
- 外注費: 一部の作業を他のフリーランスに依頼した場合の報酬
特にクレジットカードや海外ドル建てで自動引き落としされる SaaS・API 利用料は、明細を見ないと記憶から抜け落ちがちです。カードの利用明細を1月から12月まで通して見返し、事業に使ったサービスを拾い切れているか確認しましょう。どこまでが経費になるかの線引きが不安な場合は、フリーランスエンジニアの経費一覧もあわせて確認してください。
家事按分は計上できているか
自宅を仕事場にしている場合、家賃や通信費・光熱費のうち事業で使っている割合を「家事按分」として経費に計上できます。プライベートと共用している費用は、全額ではなく事業使用分だけが対象です。
- 家賃の按分: 仕事に使っている部屋の面積割合などで按分して計上している
- 通信費の按分: インターネット回線・スマホ料金を事業使用割合で按分している
- 水道光熱費の按分: 在宅作業で使う電気代などを合理的な割合で按分している
按分割合は「面積」「使用時間」など合理的な基準で決め、その根拠を説明できるようにしておくことが大切です。割合の根拠を記録しておけば、後から見直すときにも迷いません。
10万円以上の機材は少額減価償却の特例を使えているか
新しいPCやモニター、開発用機材などで取得価額が10万円以上のものは、原則として購入年に全額を経費にできず、減価償却で複数年に分けて計上します。ただし青色申告をしている中小企業者等(個人事業主を含む)には、取得価額30万円未満の資産を取得した年に一括で経費にできる「少額減価償却資産の特例」があります。この特例は令和8年(2026年)3月31日までに取得して事業に使ったものが対象です(国税庁「No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」)。
- 10万円以上30万円未満で購入した機材を、特例で一括計上できていないか確認した
- 特例を使った資産について、決算書の摘要欄に「措法28の2」などの記載と明細を残している
- その年に特例で一括計上した資産の合計額が300万円を超えていない(300万円が上限)
なお、取得価額10万円以上20万円未満の資産は、特例を使わず「一括償却資産」として3年で均等に償却する選択肢もあります。どちらが有利かは、その年の所得状況によって変わります。高額な機材を購入した年は、特例と通常の減価償却のどちらを選んだか、提出前に一度確認しておきましょう。
控除と添付書類の漏れを防ぐチェック項目
経費の次は、所得控除の取りこぼしと、添付・保管すべき書類の不足を確認します。控除はそのまま納税額に直結するため、1つの入れ忘れが手取りの損失につながります。
所得控除の取りこぼしチェック
フリーランスは会社員と違って年末調整がないため、控除はすべて自分で申告する必要があります。次の控除を入れ忘れていないか確認してください。
- 社会保険料控除: 国民年金・国民健康保険・国民年金基金などの支払額を全額計上している
- 小規模企業共済等掛金控除: 小規模企業共済や iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金を計上している
- 生命保険料控除・地震保険料控除: 加入している保険の控除を計上している
- 医療費控除: 年間の医療費が一定額を超える場合に申告している(家族分も合算可)
- 寄附金控除(ふるさと納税): ふるさと納税の寄附金控除を申告している
- 配偶者控除・扶養控除: 該当する家族の控除を申告している
iDeCo や小規模企業共済は、フリーランスの節税策として有効でありながら申告時に入れ忘れやすい代表例です。掛金の払込証明書が手元に届いているか確認しましょう。なお、ふるさと納税はワンストップ特例を使っていても、確定申告をする場合は特例が無効になるため、寄附金控除として改めて申告に含める必要があります。
添付・保管書類のチェック
控除や所得の証拠となる書類は、申告書への添付(または e-Tax での入力)が必要なものと、手元での保管が必要なものに分かれます。
- 各種控除証明書: 社会保険料・生命保険料・小規模企業共済等掛金などの控除証明書を準備した
- e-Tax での添付省略の確認: e-Tax で提出する場合、証明書の記載内容を入力すれば書面の添付を省略できるものがある(ただし証明書は手元で一定期間保管が必要)
- 源泉徴収された報酬の源泉徴収税額: クライアントから報酬を源泉徴収されている場合、その源泉徴収税額を申告書に記入している
- 支払調書の保管: クライアントから受け取った支払調書を手元に保管している(添付義務はないが金額照合に使う)
特に源泉徴収については、報酬から差し引かれた税額を申告に反映しないと、本来戻ってくるはずの還付を受け取れません。報酬の源泉徴収の扱いに不安がある場合は、フリーランスエンジニアの源泉徴収もあわせて確認してください。なお、e-Tax での添付省略が認められる書類でも、原本は法定の期間保管しておく必要がある点に注意しましょう。
記入ミスと提出前の最終チェック項目

最後のカテゴリは、申告書そのものの記入ミスと、提出直前・提出後のスケジュール確認です。ここまで潰せば、安心して送信ボタンを押せます。
申告書の記入ミスチェック
数字の転記ミスや基本情報の記入漏れは、せっかく正しく集計しても台無しにしてしまいます。次の項目を確認してください。
- マイナンバーの記入: 申告書にマイナンバーを正しく記入している
- 還付金の振込口座: 還付がある場合、受け取り用の口座を正しく記入している
- 所得・控除の転記: 決算書から申告書への金額の転記にズレがない
- 青色申告決算書(または収支内訳書)の添付: 青色申告なら青色申告決算書、白色申告なら収支内訳書を添付している
- 氏名・住所・屋号などの基本情報: 前年から変更があった場合に更新している
会計ソフトを使っていれば転記は自動ですが、還付口座やマイナンバーなど手入力する項目はミスが起きやすいので、最後に目視で確認しましょう。
65万円控除の要件を満たしているか
青色申告特別控除の最大65万円を受けるには、複式簿記での記帳に加えて、e-Tax での電子申告または優良な電子帳簿の保存(事前の届出が必要)のいずれかを満たす必要があります。この要件を満たさない場合、控除額は55万円にとどまります。
- e-Tax で電子申告する予定になっている(または優良な電子帳簿の届出を済ませている)
- 申告書の青色申告特別控除額が、想定どおり65万円になっている
「複式簿記で記帳しているのに控除額が55万円になっている」場合は、提出方法が書面提出になっていないか確認しましょう。青色申告特別控除の要件を詳しく確認したい場合は、青色申告65万円控除の要件もあわせて参考にしてください。
提出期限・納税スケジュールの最終確認
2025年分(令和7年分)の確定申告期間は、2026年2月16日(月)から3月16日(月)までです。所得税の納付期限も同じく3月16日です(国税庁「令和7年分 確定申告特集」)。
- 提出期限(2026年3月16日)までに余裕をもって送信する予定になっている
- 納税方法を決めている(振替納税・口座振替・クレジットカード納付・電子納税など)
納税方法として振替納税を選んでいる場合、口座引き落とし日は提出期限より後ろ倒しになり、2026年は4月23日(木)が振替日となる見込みです。期日までに口座へ残高を用意しておきましょう。
万一、期限を過ぎて申告すると、無申告加算税や延滞税が課される場合があります。また、申告期限を過ぎてからの提出は、青色申告特別控除が最大65万円・55万円から10万円に減額されてしまう点にも注意が必要です。期限内提出は控除を守るうえでも重要です。
まとめ——確定申告チェックリスト2026年版(提出前に確認する全項目)
最後に、本記事で確認してきた項目を一覧にまとめます。この記事をブラウザの印刷機能で PDF として保存しておけば、手元で1項目ずつチェックを入れながら潰し込めます。提出ボタンを押す前の最終確認にお使いください。
1. 2025年分の変更点
- 自分の合計所得金額の区分に応じた基礎控除額が正しく適用されている
- 会計ソフトが令和7年分(2025年分)に対応した状態になっている
- (給与収入がある場合)給与所得控除が改正後の最低保障額65万円で計算されている
- (対象親族がいる場合)特定親族特別控除の適用を確認している
2. 経費の計上漏れ(エンジニア固有)
- クラウド・SaaS・LLM API の利用料を計上している
- ドメイン・サーバー代、ソフトウェアのサブスクを計上している
- 技術書・勉強会・資格費用を計上している
- 家賃・通信費・光熱費を家事按分して計上している
- 10万円以上30万円未満の機材を少額減価償却の特例で一括計上できないか確認した
3. 控除と添付書類
- 社会保険料控除・小規模企業共済等掛金控除(iDeCo含む)を計上している
- 生命保険料控除・医療費控除・ふるさと納税を計上している
- 各種控除証明書を準備し、e-Tax での添付省略可否を確認した
- 源泉徴収された報酬の源泉徴収税額を記入し、支払調書を保管している
4. 記入と提出
- マイナンバー・還付口座・所得/控除の転記にミスがない
- 青色申告決算書(または収支内訳書)を添付している
- 65万円控除の要件(e-Tax電子申告または優良な電子帳簿)を満たしている
- 提出期限(2026年3月16日)と納税方法・振替日を確認している
ここまですべてにチェックが入れば、控除も経費も書類も記入も漏れのない状態です。2025年分の改正点も反映済みだと確認できたはずなので、安心して提出ボタンを押してください。
なお、本記事は「提出前の最終確認」に絞っています。制度や記入方法を一から網羅的に確認したい場合は、フリーランスエンジニアの確定申告ガイドもあわせて参考にしてください。



