申告書を作り終えたら、提出ボタンを押す前にもう一度だけ確認しておきましょう。このチェックリストは、申告書を作り終えた人が上から順に潰していける「確認リスト」です。
確認する項目は次の4カテゴリに分けています。
- 2025年分の変更点
- 経費の計上漏れ
- 控除と添付書類(電子帳簿保存法で保存方法が変わった書類を含む)
- 記入と提出
フリーランスエンジニアの確定申告は「提出前チェックリスト」で取りこぼしを防ぐ
「やり方は知っている」人ほど取りこぼしで損をする
毎年申告している人ほど、前年の手順をなぞって済ませがちです。しかし、税制は毎年少しずつ変わります。さらに、請求書や領収書をメールやWebで受け取る働き方が当たり前になったことで、書類の「保存の仕方」にも守るべきルールが生まれています。
申告書の数字が合っていても、変更点の反映漏れ、経費の入れ忘れ、保存方法の不備があれば、控除額や青色申告の特典に影響することがあります。提出前の数分の確認が、数万円の差や後日の指摘を防ぎます。
このチェックリストの使い方
各セクションの項目を上から順に確認し、自分に当てはまるものだけチェックしてください。当てはまらない項目は読み飛ばして構いません。最後の「まとめ」に全項目を再掲しているので、印刷・保存して手元で使えます。
【2025年分の変更点】今年だけ必ず確認するチェック項目
基礎控除の段階制への変更——自分の所得帯の控除額を確認する
2025年分(令和7年分)の申告から、基礎控除は合計所得金額に応じた段階制になりました。自分の所得帯に合った控除額が入っているかを確認しましょう。
合計所得金額 | 基礎控除額 |
|---|---|
132万円以下 | 95万円 |
132万円超336万円以下 | 88万円 |
336万円超489万円以下 | 68万円 |
489万円超655万円以下 | 63万円 |
655万円超2,350万円以下 | 58万円 |
詳細は国税庁の案内(基礎控除の見直し)で確認できます。
- 自分の合計所得金額に対応する基礎控除額が申告書に入っている
会計ソフトが2025年分(令和7年分)に対応しているか確認する
会計ソフトのバージョンや設定が古いと、新しい控除額が反映されないことがあります。ソフトを最新版に更新し、基礎控除の欄が正しい金額になっているかを目で見て確認してください。
- 会計ソフトが2025年分に対応した最新の状態になっている
- 基礎控除の金額を自動計算任せにせず、実際の表示を確認した
会社員と兼業の人が確認する給与所得控除・特定親族特別控除
会社員とフリーランスを兼業している人は、給与所得控除の扱いと、扶養する親族に関わる特定親族特別控除の対象かどうかも確認しましょう。給与と事業の所得が混在すると、控除の入力位置を間違えやすくなります。
- 給与所得の源泉徴収票の内容を申告書に正しく転記した
- 扶養親族がいる場合、特定親族特別控除などの対象かを確認した
経費の計上漏れを防ぐチェック項目(エンジニア固有)
入れ忘れやすいエンジニアの経費チェック
エンジニアの経費は、少額で継続的に発生するものほど入れ忘れやすい傾向があります。次の項目を、クレジットカード明細やサブスクリプション一覧と照らして確認してください。
- 通信費(インターネット回線、携帯電話)
- クラウド・サーバー・ドメイン・SaaS の利用料
- 開発ツール・IDE・AI支援ツールのサブスクリプション
- 技術書・オンライン学習・カンファレンス参加費
- 作業用の PC・周辺機器・モニター・椅子
- コワーキングスペース利用料、打ち合わせの交通費
経費の全体像は「フリーランスエンジニアの経費まとめ」で詳しく解説しています。
家事按分は計上できているか
自宅で仕事をしている場合、家賃・光熱費・通信費は事業で使った割合だけを経費にできます。按分割合は、作業時間や使用面積など説明できる根拠で決めておきましょう。
- 家賃・光熱費・通信費に按分割合を設定している
- 按分割合の根拠をメモとして残している
10万円以上の機材は少額減価償却の特例を使えているか
取得価額が10万円以上30万円未満の機材は、一定の要件を満たす青色申告者であれば、少額減価償却資産の特例により取得した年に全額を経費にできます。この特例は令和8年(2026年)3月31日までに取得して事業に使い始めた分が対象です(国税庁 No.5408)。
- 10万円以上の機材を一覧にし、償却方法を確認した
- 特例の適用期限と要件(青色申告者であること等)を確認した
控除と添付書類の漏れを防ぐチェック項目
所得控除の取りこぼしチェック
控除は自分で申告しないと適用されません。次の控除に該当するものがないか確認しましょう。
- 社会保険料控除(国民年金・国民健康保険)
- 小規模企業共済等掛金控除(iDeCo・小規模企業共済)
- 生命保険料控除・地震保険料控除
- 医療費控除
- 寄附金控除(ふるさと納税など)
添付・保管書類のチェック
申告書に添付・提示する書類と、手元で保管しておく書類を整理します。
- 源泉徴収票・支払調書(業務委託先から受け取ったもの)
- 各種控除の証明書(国民年金・小規模企業共済・保険料など)
- 経費の領収書・請求書の保管場所が決まっている
- マイナンバーカード等の本人確認書類
源泉徴収の考え方は「フリーランスエンジニアの源泉徴収」を参照してください。
電子帳簿保存法で保存方法が変わった書類を確認する
ここは、チェックリストで見落とされやすい項目です。紙の領収書は保管していても、メールやWebで受け取った請求書・領収書の保存方法が電子帳簿保存法(以下、電帳法)の要件を満たしていない人は少なくありません。2024年1月から、電子データで受け取った取引書類は、データのまま保存することが義務になっています。
なお、本節の内容は2026年10月時点の情報で、国税庁「電子帳簿保存法一問一答(電子取引関係)」「電子取引データの保存方法をご確認ください」および国税庁タックスアンサー No.2080「帳簿書類等の保存期間」をもとにしています。猶予措置や免除要件は改正で変わる可能性があるため、最終的には国税庁の電子帳簿保存法関係ページ・Q&Aで確認してください。
自分の書類は対象か——電子取引データの見分け方
電帳法の保存義務の対象は、請求書や領収書などの取引情報を「電子データでやり取りしたもの」です。個人事業主であれば、所得税の申告方法(青色・白色)を問わず対象になります。
次の書類を電子データで受け取っていれば、対象です。
受け取り方 | 具体例 |
|---|---|
メールの添付ファイル | 取引先から届いた請求書PDF、発注書PDF、見積書PDF |
Webサービスからのダウンロード | クラウドサービス・SaaS・サーバー・ドメインの領収書、請求書 |
ECサイト・アプリ上の表示 | 機材や書籍をネット通販で購入した際の注文確認画面・購入履歴 |
クラウド会計ソフトとの連携 | 銀行・クレジットカードの連携で取り込んだ明細(書類としての領収書・請求書は別途保存が必要な場合がある) |
自分から送る書類 | 取引先に PDF で送付した請求書の控え |
ポイントは、「受け取った形式」で判断することです。紙でもらった領収書は、これまで通り紙で保管できます。一方、PDF やWeb画面で受け取ったものを印刷して紙だけ残す方法は認められません。
クラウド会計ソフトに連携された明細は、会計処理の根拠にはなりますが、請求書や領収書そのものの保存を代替するとは限りません。ソフトが電子取引データの保存機能を提供しているか、自分の運用が要件を満たしているかを確認しましょう。
保存要件のチェック項目
電子取引データを保存するときは、主に次の要件があります。
- データのまま保存する: 受け取った PDF やダウンロードしたファイルを、削除せずに保存する
- 検索できる状態にする: 「取引年月日」「取引金額」「取引先」で検索できるようにする。ファイル名に
20260110_株式会社A_330000.pdfのように入れる方法が手軽です - 真実性を確保する: タイムスタンプの付与、訂正削除の事務処理規程の作成など、改ざん防止の措置をとる。規程を備え付ける方法なら、特別なシステムがなくても対応できます
- 保存期間を守る: 電子取引データも、紙の書類と同じ保存期間に従います。帳簿・決算関係書類は7年、領収書などの現金預金取引等関係書類は7年(前々年の所得が300万円以下の場合は5年)、請求書・見積書・契約書などは5年です。書類の種類ごとに期間が異なるため、迷ったら一律7年残しておくと安心です
売上規模が小さい事業者には負担軽減の例外があります。判定の基準期間(2年前)の売上高が5,000万円以下であれば、検索機能の確保は不要です。ただし、税務職員から求められたときにダウンロードに応じられるよう、データを整理しておく必要があります。
- メール添付やダウンロードで受け取った請求書・領収書を、データのまま保存している
- 紙に印刷しただけで電子データを削除していない
- 取引年月日・金額・取引先がファイル名やフォルダ、会計ソフトで検索できる
- 訂正削除の事務処理規程を作成する、または対応した保存ソフトを使っている
- 保存場所をバックアップし、書類の種類ごとの保存期間(迷えば7年)残せる運用になっている
未対応のままだとどうなるか——ペナルティと是正方法
電子取引データの保存要件を満たしていない場合、税務調査で次のような影響が出る可能性があります。
- 青色申告の承認取消し: 保存義務違反が重大な場合は、青色申告の承認が取り消されることがあります。65万円控除などの特典を失うリスクにつながります
- 重加算税の加重: 電子取引データを隠蔽・仮装して申告漏れがあった場合は、重加算税が10%加重される規定があります
- 経費として認められない可能性: 書類で取引を裏づけられない経費は、否認されるリスクが高まります
実際に承認取消しまで至るかは個別の状況によりますが、「知らなかった」では避けにくい項目です。
未対応に気づいたときは、次の順番で是正しましょう。
- 今ある電子データを集める: メールの受信箱、各サービスのマイページ、ECの購入履歴から、まだ取得できる請求書・領収書をダウンロードする
- 保存ルールを決める: 保存先フォルダ、ファイル名の付け方(日付_取引先_金額)を決め、今年分から運用を始める
- 過去分を整える: 取得できる過去分は同じルールで整理する。取得できないものは、取引内容を説明できる資料(契約書、入出金記録など)を残す
- 会計ソフトの機能を使う: 電子取引データの保存に対応した機能があれば、有効にする
- 不安が残るときは専門家に相談する: 過年分の扱いや猶予措置の適用可否は、税理士や税務署の相談窓口に確認する
なお、2023年12月までの猶予措置は終了しましたが、システム対応が間に合わないなど相当の理由がある場合には、税務調査時にデータのダウンロードの求めに応じられることを条件に、書面出力での保存が認められる措置が設けられています。自分が対象になるかは国税庁の案内で確認してください。
記入ミスと提出前の最終チェック項目
申告書の記入ミスチェック
最後に、申告書そのものの記入ミスを確認します。
- 氏名・住所・マイナンバーに誤りがない
- 収入金額と、支払調書・源泉徴収票の金額が一致している
- 源泉徴収税額を申告書の該当欄に反映した
- 青色申告決算書と申告書の数字が一致している
- 還付される場合の振込先口座が正しい
65万円控除の要件を満たしているか
青色申告特別控除の65万円を受けるには、複式簿記による記帳に加えて、e-Taxによる電子申告、または優良な電子帳簿の保存が必要です。ここでも電帳法が関わります。
- 複式簿記で記帳し、貸借対照表と損益計算書を作成した
- e-Taxで電子申告する、または優良な電子帳簿の要件を満たしている
詳しくは「副業エンジニアの青色申告65万円控除」で解説しています。
提出期限・納税スケジュールの最終確認
2025年分の申告期間は、2026年2月16日から3月16日までです。振替納税の場合の引き落とし日は4月23日です。
- 提出期限までに申告できるスケジュールになっている
- 納税方法(振替納税・口座・クレジットカード等)を決め、手続きを済ませた
- 振替納税なら、口座の残高を確認した
まとめ——確定申告チェックリスト2026年版(提出前に確認する全項目)
最後に、全項目を再掲します。印刷・保存して、提出前に上から順に確認してください。
【2025年分の変更点】
- 所得帯に対応した基礎控除額が入っている
- 会計ソフトが2025年分に対応している
- 兼業の場合、給与所得控除・特定親族特別控除を確認した
【経費の計上漏れ】
- エンジニア固有の経費(通信費・クラウド・ツール・学習費・機材)を入れた
- 家事按分の割合と根拠を設定した
- 10万円以上の機材に少額減価償却の特例を使えている
【控除と添付書類】
- 所得控除(社会保険料・小規模企業共済・保険・医療費・寄附金)を取りこぼしていない
- 源泉徴収票・支払調書・控除証明書をそろえた
- 電子で受け取った請求書・領収書を、データのまま保存している
- 取引年月日・金額・取引先で検索できる、または要件の例外に該当する
- 訂正削除の事務処理規程を備えるなど、真実性の確保をしている
【記入と提出】
- 申告書の記入内容と各書類の金額が一致している
- 65万円控除の要件(複式簿記と、e-Taxまたは優良な電子帳簿)を満たしている
- 提出期限と納税方法を確認した
申告の全体像を確認したい方は「フリーランスエンジニアの確定申告ガイド2026」もあわせてご覧ください。
よくある質問
- 会計ソフトを使っていれば、基礎控除の変更は自動で反映されるのでは?
クラウド型の会計ソフトは自動アップデートで対応していますが、表示されている基礎控除額が自分の合計所得金額の区分と一致しているかを目視で照合する必要があります。所得帯によって控除額が異なる段階制になったため、ソフト任せにせず提出前に一度数字を確認してください。
- ふるさと納税でワンストップ特例を申請済みでも、確定申告をするなら改めて寄附金控除を申告する必要がありますか?
はい、確定申告を行うとワンストップ特例は自動的に無効になります。確定申告書に寄附金控除として改めて記入し直さないと、ふるさと納税の控除が反映されないため、手元の寄附金受領証を用意して申告に必ず含めてください。
- クライアントに源泉徴収された報酬を申告書に反映しないとどうなりますか?
源泉徴収税額を申告書に記入しないと、すでに差し引かれた税額が計算に反映されず、本来戻るはずの還付を受け取れません。クライアントから受け取った支払調書の源泉徴収税額欄を確認し、必ず申告書の該当欄に転記してください。
- 10万円以上の機材は少額減価償却の特例と一括償却資産のどちらを選ぶべきですか?
取得価額30万円未満であれば、その年の所得が多い(納税額が大きい)ほど少額減価償却の特例(一括計上)が節税効果として有利になります。所得が少なく翌年以降も安定的に利益が見込める場合は、3年均等の一括償却資産も選択肢です。
- 青色申告65万円控除を受けるには複式簿記で記帳すれば十分ですか?
複式簿記での記帳に加えて、e-Tax での電子申告または優良な電子帳簿の保存(事前届出が必要)のどちらかを満たす必要があります。書面で提出した場合は控除額が55万円になるため、提出方法が電子申告になっているか提出前に確認してください。
- 家事按分の割合はどのように決めればよいですか?税務調査で否認されませんか?
家賃は専用作業スペースの床面積比、通信費は業務利用時間の比率など、合理的な根拠を一つ決めてその計算式を記録しておけば十分です。根拠を説明できる状態であれば過大でない限り否認されにくく、毎年同じ基準で継続することが大切です。



