フリーランスエンジニアとして働いていると、確定申告の季節が来るたびに「今年こそ青色申告に切り替えたい」「インボイス制度に対応できているか確認したい」と感じる方も多いのではないでしょうか。
特に2025年分(2026年2〜3月申告)は、基礎控除額の大幅な引き上げや、インボイス制度の経過措置変更など、押さえておくべき変更点が複数あります。「去年と同じようにやれば大丈夫」とは言えない年です。
しかし、税法の変更点を調べ始めると、専門用語が多くて何から手をつければ良いか分からなくなってしまいます。「自分に関係ある変更点はどれか」「青色申告の要件は満たせているのか」「インボイス登録はどう影響するのか」——これらの疑問が次々と浮かびます。
本記事では、フリーランスエンジニアに絞って、2026年版の確定申告で押さえるべきポイントを網羅的にまとめます。申告前に確認すべきチェックリストも提供しますので、最後まで読んでいただければ「今年の申告で何をすべきか」が明確になるはずです。
フリーランスエンジニアの確定申告が必要な条件と2026年の変更点

確定申告が必要なエンジニア・不要なエンジニア(副業・専業別)
フリーランスエンジニアが確定申告をする必要があるかどうかは、収入形態によって異なります。
専業フリーランスエンジニアの場合、原則として所得が48万円(基礎控除額)を超えた場合に確定申告が必要です。ただし、2025年分から基礎控除額が変わるため注意が必要です(詳細は後述)。
副業エンジニアの場合(会社員として本業があるケース)、副業による年間所得が20万円を超えると確定申告が必要になります。ここでいう「所得」とは売上(報酬総額)から経費を差し引いた金額です。
状況 | 確定申告の要否 |
|---|---|
専業フリーランス(所得が基礎控除額以下) | 不要 |
専業フリーランス(所得が基礎控除額超) | 必要 |
副業エンジニア(副業所得が20万円以下) | 不要(※住民税申告は必要な場合あり) |
副業エンジニア(副業所得が20万円超) | 必要 |
2026年確定申告で変わる4つのポイント
2025年分(2026年2〜3月申告)では、以下の4点が特に重要です。
① 基礎控除額が最大95万円に引き上げ
2025年分から、基礎控除額が所得金額に応じた段階制になりました(マネーフォワード)。合計所得金額が132万円以下の個人事業主は、基礎控除額が48万円→95万円に増加します。年収600万円程度のフリーランスエンジニアでも、所得(事業所得 = 売上 - 経費 - 各種控除前)が132万円以下の場合に最大適用されます。
合計所得金額 | 2024年分まで | 2025年分(2026年申告)から |
|---|---|---|
132万円以下 | 48万円 | 95万円 |
145万円以下 | 48万円 | 88万円 |
155万円以下 | 48万円 | 68万円 |
155万円超 | 48万円 | 48万円(変更なし) |
② インボイス制度の経過措置が延長・変更
インボイス制度(適格請求書等保存方式)の経過措置が、2026年10月以降に変更されます。免税事業者からの仕入れに対する仕入税額控除の割合が、2026年9月末まで80%だったものが、2026年10月から70%控除に引き下げられます(清澄会計事務所)。
また、2026年9月末で2割特例が終了します。2割特例とはインボイス登録初年度などに消費税を「売上税額の2割のみ納税すれば良い」という特例でした。詳細はH2-4で解説します。
③ e-Taxの利用でID・パスワード方式が廃止
2025年10月からID・パスワード方式による新規発行が停止されています。今後e-Taxを利用する場合は、マイナンバーカードが必要です。まだカードを取得していない方は早急に準備しましょう。
④ スマートフォンでの確定申告が一層便利に
iPhoneでもマイナンバーカードを使ったe-Tax申告が可能になりました。マイナポータルとの連携対象も拡大し、生命保険・損害保険の給付金等も自動取り込みできるようになっています。
青色申告65万円控除を確実に取る3つの要件

白色申告と比べて青色申告がどのくらい有利かを把握した上で、要件を確認しましょう。
年収別・青色vs白色の節税シミュレーション
青色申告(65万円控除)と白色申告(10万円控除)の差額は55万円です。税率20%のケースでは年間約11万円の節税効果になります。
年収(報酬総額) | 経費(概算) | 青色申告(65万円控除時) | 白色申告(10万円控除時) | 節税差額 |
|---|---|---|---|---|
500万円 | 80万円 | 所得税 約20万円 | 所得税 約31万円 | 約11万円 |
700万円 | 100万円 | 所得税 約54万円 | 所得税 約65万円 | 約11万円 |
1,000万円 | 150万円 | 所得税 約124万円 | 所得税 約138万円 | 約14万円 |
※所得控除(社会保険料・基礎控除等)は概算。実際は個人の状況により異なります。
青色申告65万円控除を受けるためには、以下の3つの要件を全て満たす必要があります。
要件①:開業届と青色申告承認申請書の提出
フリーランスとして事業を開始した際に、税務署へ以下の2つを提出する必要があります。
- 個人事業の開業・廃業等届出書(開業日から1ヶ月以内)
- 所得税の青色申告承認申請書(その年の3月15日まで、または開業日から2ヶ月以内)
「今年から青色申告にしたい」と思っている方は、3月15日までに青色申告承認申請書を提出する必要があります。提出が間に合わなかった場合は、翌年分からの適用となります。
両書類は国税庁のWebサイトからダウンロードできるほか、e-Taxで電子提出も可能です。
要件②:複式簿記で帳簿をつける
青色申告65万円控除を受けるには、収入・支出を単に記録するだけでなく、複式簿記(借方・貸方を対応させて記帳する形式)での記帳が必要です。
複式簿記と聞くと難しそうに感じますが、会計ソフト(freee・マネーフォワード クラウド確定申告・弥生会計等)を使えば、取引を入力するだけで自動的に複式簿記の形式で記録されます。プログラマーであれば、CSVやAPIを使って銀行口座・クレジットカードの明細を自動取り込みできる機能も活用できます。
要件③:e-Taxで電子申告または優良な電子帳簿保存
2020年分以降の確定申告では、青色申告65万円控除を受けるためには以下のいずれかが必要です。
- e-Taxで電子申告する(マイナンバーカードが必要)
- 優良な電子帳簿を保存する(帳簿に改ざん防止措置・訂正削除履歴・検索機能を設ける)
実務上は、e-Taxで申告する方法が最も簡単です。マイナンバーカードさえあれば、会計ソフトとe-Taxを連携させて自宅から申告できます。
なお、「優良な電子帳簿+e-Tax」を満たすと、令和9年分(2027年申告)以降は75万円控除に拡大される予定です(令和8年度税制改正大綱)。2025年分申告(2026年申告)はまだ65万円が上限です。
フリーランスエンジニアが申告できる経費20選

フリーランスエンジニアの業務に関連する支出は、確定申告で経費として計上できます。適切に計上することで課税所得を減らし、納税額を抑えることができます。
全額経費にできる項目
項目 | 具体例 |
|---|---|
PC・周辺機器 | ノートPC・デスクトップPC・キーボード・マウス(30万円未満なら全額経費、30万円以上は減価償却) |
開発ツール・サブスク | GitHub Copilot・JetBrains IDE・Adobe CC(業務用途のみ) |
クラウドサービス | AWS・GCP・Azure の利用料金(開発・テスト用途) |
技術書・学習コンテンツ | 技術書・Udemy・Coursera等のオンライン学習費用 |
ドメイン・サーバー費 | 業務用Webサイトのドメイン代・レンタルサーバー費 |
名刺・文具 | 名刺印刷費・業務用文具 |
交通費 | クライアント訪問・打ち合わせのための電車・タクシー代 |
資格取得費 | 業務に直接関連する資格(AWS認定・情報処理技術者等)の受験料・教材費 |
コワーキングスペース | 業務で利用したコワーキングスペースの利用料 |
打ち合わせ・交際費 | クライアントとの打ち合わせ飲食費(業務関連に限る) |
AIツール利用料 | ChatGPT Plus・Claude等のAIツール(業務で使用している場合) |
VPN・セキュリティ | VPNサービス・ウイルス対策ソフト(業務用途) |
家事按分が必要な項目
自宅で作業している場合、自宅の家賃・光熱費・通信費は業務使用割合に応じて按分して経費にできます。
項目 | 按分の目安 |
|---|---|
家賃 | 業務スペースの面積比 × 業務に使用する時間比 |
光熱費(電気代等) | 使用時間比が一般的(例:1日10時間業務使用なら約42%) |
スマートフォン・固定電話 | 業務使用頻度比(50〜80%が一般的) |
インターネット回線 | 業務使用頻度比(50〜100%) |
例として、月家賃10万円・業務スペースが部屋全体の1/3・1日のうち10/24時間を業務に使用する場合の計算式は次のとおりです。
10万円 × (1/3) × (10/24) ≈ 13,888円(月)
注意が必要・申告できない項目
- プライベートと区別できない支出:「どこまでが業務か」が不明確な支出は按分または否認されることがあります
- スーツ・私服:業務で着用する場合でも、日常生活でも使用できる衣類は原則として経費不可
- 国民年金保険料・健康保険料:経費ではなく「社会保険料控除」として別途控除されます(経費に含めない)
- プライベートの飲食費:仕事と関係のない食事代は不可
インボイス制度への対応判断——登録すべき?しなくていい?
インボイス登録の有無で確定申告の手順はどう変わるか
インボイス制度(適格請求書等保存方式)は、消費税に関する制度です。インボイス登録の有無によって、確定申告の手順が次のように変わります。
インボイスに登録していない場合(免税事業者のまま)
- 消費税の確定申告は不要
- 所得税の確定申告のみ行う
- ただし、クライアントは支払った消費税のうち一定割合しか控除できないため、取引価格の交渉が不利になる可能性があります
インボイスに登録した場合(課税事業者)
- 所得税の確定申告に加え、消費税の確定申告も必要
- 売上に含まれる消費税から仕入税額を差し引いた金額を納税
- 申告期限は所得税と同様、翌年3月31日(延長で6月30日)
2026年10月の経過措置変更と免税事業者の選択肢
免税事業者のままでいる場合、クライアント側が仕入税額控除できる割合の経過措置スケジュールが以下のとおりです(令和8年度税制改正による延長後)。
期間 | 免税事業者への発注分の控除割合 |
|---|---|
2023年10月〜2026年9月 | 80%控除 |
2026年10月〜2028年9月 | 70%控除(変更) |
2028年10月〜2030年9月 | 50%控除 |
2030年10月〜2031年9月 | 30%控除 |
2031年10月以降 | 控除なし |
また、インボイス登録者向けの2割特例(消費税の納税額を売上税額の2割にできる特例)は2026年9月30日で終了します。2割特例を適用していた方は、2026年10月以降の対応を事前に確認しておきましょう。
インボイス登録をするかどうかの判断は、取引先の状況(法人か個人か、クライアントが課税事業者かどうか)によって異なります。不明な場合は税理士に相談することをおすすめします。
電子帳簿保存法——フリーランスが今すぐやるべき対応
電子取引データ保存の具体的な要件
2024年1月から、電子取引データの電子保存が義務化されています。PDFメールで受け取った請求書・領収書は、印刷して紙で保管するのではなく、電子データのまま保存しなければなりません。
電子保存の主な要件は以下のとおりです(電子帳簿保存法)。
要件 | 具体的な対応 |
|---|---|
改ざん防止措置 | タイムスタンプ付与 or 変更履歴が残るシステムで保存 |
検索機能の確保 | 「取引年月日」「取引先」「金額」で検索できること |
保存期間 | 確定申告期限から7年間 |
ファイル名規則 | 「日付_取引先名_金額」形式が推奨(例:20250401_○○株式会社_110000) |
フリーランスが注意すべきは、クライアントからのPDF請求書や、Amazonの購入履歴、AWSの請求書など、メールやWebサービスで電子的に受け取った取引データはすべて対象になることです。
会計ソフトを使えば自動対応できる
freee・マネーフォワード クラウド確定申告・弥生などの会計ソフトは、電子帳簿保存法に対応した機能を備えています。領収書の写真撮影→自動認識登録・スキャン保存・タイムスタンプ付与が自動化されるため、法的要件を満たしながら業務効率を上げることができます。
電子帳簿保存法への対応は「いつかやる」では間に合わない段階に来ています。まだ対応できていない方は、会計ソフトへの移行を優先的に検討してください。
確定申告の手順と提出スケジュール(2026年版)

申告に必要な書類チェックリスト
確定申告に向けて用意する書類を確認しましょう。
収入関係
- 支払調書(クライアントから送付される場合)※源泉徴収がある場合は必須
- 請求書の控え・入金記録(支払調書が発行されない場合も含む)
経費関係
- 領収書・レシート(電子取引データを含む)
- クレジットカード明細(業務用分)
控除証明書関係
- 国民年金保険料の控除証明書(日本年金機構から郵送)
- 国民健康保険料の納付記録(市区町村より)
- 生命保険・地震保険の控除証明書(各保険会社から郵送 or マイナポータル連携)
- 医療費の明細(医療費控除を申告する場合)
申告書関係(青色申告の場合)
- 青色申告決算書(会計ソフトから自動作成可能)
- 確定申告書 第一表・第二表
e-Taxで申告する手順(マイナンバーカード方式)
e-Taxを使ったオンライン申告の流れは以下のとおりです。
- マイナンバーカードを準備する(カード + 利用者証明用電子証明書の暗証番号)
- 国税庁「確定申告書等作成コーナー」にアクセス(または会計ソフトの確定申告機能を使用)
- 青色申告決算書を作成する(会計ソフトを使用している場合はそこから書き出し)
- 確定申告書を作成する(各種控除情報を入力)
- e-Taxで送信する(マイナンバーカードで電子署名)
- 受信通知を保存する(送信完了の証拠として7年間保存推奨)
なお、2025年10月からID・パスワード方式の新規発行が停止されています。マイナンバーカードをまだ持っていない方は、事前に取得しておく必要があります(取得から申告まで2〜3週間かかることがあります)。
申告期限と延滞税・加算税のリスク
申告種別 | 2025年分の期限 |
|---|---|
所得税の確定申告 | 2026年3月16日(月) |
消費税の確定申告 | 2026年3月31日(火) |
振替納税(口座引き落とし) | 所得税:2026年4月23日(木) |
期限を過ぎると、無申告加算税(原則15〜20%)や延滞税(最大年14.6%)が発生する可能性があります。特に「今年こそ青色申告に切り替えようとしていたが間に合わなかった」という場合も、白色申告として期限内に申告することが重要です。
源泉徴収されたエンジニアの確定申告——二重払いを防ぐ確認ポイント
フリーランスエンジニアに源泉徴収が発生するケース
フリーランスエンジニアへの報酬は、基本的には源泉徴収の対象外です。ただし、業務内容によっては源泉徴収が発生することがあります。
- 源泉徴収される可能性が高い業務:デザイン制作・原稿・翻訳・講師料等
- 源泉徴収されない業務:純粋なプログラミング・システム開発・保守運用
会社員時代とは異なり、フリーランスエンジニアが「プログラミングのみ」の業務で源泉徴収されている場合は、クライアントが誤って徴収している可能性があります。
源泉徴収の対象判定・確定申告での処理方法・還付申告の手順については、「フリーランスエンジニアの源泉徴収完全ガイド」で詳しく解説しています。
確定申告での源泉徴収税額の記入箇所
確定申告書に源泉徴収税額を記入することで、すでに納めた税金が確定税額から差し引かれます。記入箇所は「確定申告書 第一表」の「源泉徴収税額」欄です。クライアントから送付される支払調書に記載された金額をそのまま記入します。
複数のクライアントから源泉徴収されている場合は、全ての支払調書の源泉徴収税額を合算して記入します。
2026年版・確定申告チェックリスト(申告前に確認する10項目)
申告前に以下の10項目を確認してください。
- 1. 確定申告の要否を確認した(副業の場合は所得20万円超かチェック)
- 2. 2026年の主要変更点を把握した(基礎控除引き上げ・インボイス経過措置変更・e-Tax必須化)
- 3. 青色申告を選ぶ場合、承認申請書を提出済み(3月15日締切)
- 4. 複式簿記での記帳を完了した(会計ソフトを使用)
- 5. 電子取引データを適切に保存した(PDF請求書等の電子保存)
- 6. 経費を適切に計上した(家事按分の比率を決定済み)
- 7. 各種控除証明書を取得した(国民年金・生命保険等)
- 8. 源泉徴収の処理を確認した(支払調書を取得・申告書に記入)
- 9. インボイス登録有無に応じた消費税申告を確認した
- 10. e-Taxの準備を完了した(マイナンバーカードと暗証番号を確認)
確定申告はやること・確認事項が多く、慣れていないと不安になりますが、一つひとつ確認すれば確実に進められます。
特に今年は基礎控除の大幅引き上げにより、同じ条件でも昨年より有利な申告ができる可能性があります。ぜひ最新の制度変更を活用して、適正な申告を行いましょう。
フリーランスとして継続的に活動していくためには、税務管理を適切に行いながら、安定した案件獲得の基盤を作ることも大切です。Workeeでは、フリーランスエンジニアが複業や独立後の案件を探せる環境を提供しています。



