自治体・行政のAI活用事例と導入の進め方|ベンダー選定のポイントまで解説

自治体・行政のAI活用は急速に進んでいます。生成AIの導入については、都道府県の87%、指定都市の90%が「導入済み」と回答するなど(総務省・自治体における生成AI導入状況 令和7年6月30日版)、大規模な自治体を中心に活用が定着しつつあります。
一方で、「AI活用の事例は知っているが、自分たちの自治体でどう進めればいいのか分からない」という担当者の声も多く聞かれます。事例記事を読んでも、「次に何をすればいいか」「どこの会社に頼めばいいか」という問いに答えてくれるものがなかなかないのが実情です。
また、初めてのAI調達で「失敗したら責任を問われるかもしれない」という不安を抱えている担当者の方も少なくないでしょう。公共調達には特有のルールがあり、民間企業とは異なる制約もあります。
本記事では、自治体のAI活用の現状と具体的な事例を紹介しながら、実際に導入を進めるためのステップとベンダー選定のポイントまでを解説します。担当者として上司に説明できる「具体的な進め方の指針」を持てることを目指しています。

目次
失敗しないためのシステム開発の考え方と開発パートナー選定チェックリスト

この資料でわかること
こんな方におすすめです
自治体・行政のAI活用の現状
都道府県・指定都市では約9割が導入済み
総務省が2025年6月に実施した調査によると、生成AIの「導入済み」と回答した自治体の割合は以下のとおりです。
- 都道府県:87.2%(47団体中41団体)
- 指定都市:90.0%(20団体中18団体)
- 市区町村:29.9%
都道府県・指定都市レベルでは既にAI活用が「当たり前」の状況となっています。特に生成AIに限定しても9割近くが導入しており、活用が急速に進んでいることが分かります。
一方で、市区町村レベルでは導入済みが約30%にとどまっています。ただし、「導入を検討中」「実証実験中」を含めると約半数に達するため、今後2〜3年で急速に広がる可能性があります。
市区町村の導入率はまだ約30%――なぜ差がついているのか
都道府県・指定都市と市区町村の間に大きな差がついている主な理由は以下のとおりです。
予算・人材の規模の差 都道府県・指定都市には専任のIT担当部署と予算があるのに対し、小規模な市区町村ではICT担当が少数で兼任している場合がほとんどです。
調達・導入のノウハウ AI調達の経験がなく、どのような仕様書を書けばいいか分からない担当者も多くいます。先行自治体の事例を参考にできる情報も、都道府県レベルには豊富ですが、小規模自治体向けの情報は限られています。
セキュリティへの懸念 住民の個人情報を扱う自治体では、情報漏洩リスクへの慎重な対応が求められます。外部のAIサービスにデータを渡すことへの不安から、導入をためらっているケースもあります。
自治体でAIが活用されている主な領域

自治体でのAI活用は、特定の業務から始まることが多く、実績のある領域と難易度が異なります。セキュリティリスクと期待される効果を比較しながら、自組織に適した領域を選ぶことが成功の近道です。
議事録・文書作成の自動化(最も多い活用)
総務省の調査では、自治体で最も多く活用されているAI活用シーンが「文書作成系」です。議事録の自動要約・生成、あいさつ文案の作成、企画書や想定問答の下書きなどが中心です。
この領域は、個人情報を含まない内部文書から始められるため、セキュリティリスクが低く、最初の取り組みとして最も適しています。また、特別なシステム開発が不要な場合も多く、既存の生成AIサービス(Microsoft 365 Copilotなど)を導入するだけで対応できるケースもあります。
住民対応チャットボット(24時間対応)
住民からの問い合わせ対応に生成AIを活用するケースも増えています。特に手続き案内・窓口業務の案内など、定型的な質問への対応には高い効果が出ています。
LINEや自治体のWebサイトに組み込まれたAIチャットボットにより、夜間・休日でも住民が情報を取得できるようになります。窓口に来た際の待機時間の削減や、問い合わせ件数の軽減にも効果があります。
業務分析・データ集計支援
農業データや統計データの分析、各種申請データの集計処理なども活用が進んでいます。膨大なデータを人手で集計していた業務を、AIを使って自動化・効率化するものです。
担当者1人で2か月かかっていた分析作業が、約3日間に短縮された事例(デジタル庁と農水省の連携)も報告されています。
申請処理・給付金手続きの自動化
OCR(文字認識)とAIを組み合わせた申請書類の自動処理も始まっています。紙の申請書をスキャンしてデータ化し、入力チェックまで自動で行うことで、入力作業の大幅削減が実現します。
自治体AI活用の具体的な事例
議事録作成時間を1/4に削減(北海道当別町の事例)
北海道当別町では、会議の議事録作成にAIを活用し、作成時間を従来の4分の1に削減することに成功しています(出典: 総務省・自治体DX推進参考事例集 第3.0版)。
AIによる音声文字起こしと生成AIによる要約を組み合わせることで、従来は数時間かかっていた議事録作成作業が大幅に短縮されました。職員の残業削減に直結するため、少ない人員で多くの業務をこなさなければならない小規模自治体にとって、特に導入効果が大きい領域です。
24時間対応のAI住民相談サービス(山形市の事例)
山形市では、LINEチャットと生成AIを組み合わせた「つながりよりそいチャット」を運用しています(2024年7月サービス開始)。社会福祉士や精神保健福祉士などの専門スタッフとAIのハイブリッド体制により、24時間365日の住民相談に対応しています。
従来は相談員の勤務時間内しか対応できなかった福祉相談が、深夜・休日でも受け付けられるようになりました。AIが一次対応を担うことで、専門スタッフはより複雑なケースに集中できる体制が整っています(出典: 山形市公式ホームページ)。
AI活用で年間858時間削減(愛知県日進市の事例)
愛知県日進市では、文章作成(企画書・あいさつ文・メール)だけでなく、ExcelマクロのコードをAIに生成させる活用も展開しています。プログラミングの知識がない職員でも、自然言語で指示するだけで業務自動化ツールを作成できるようになりました。
2024年度実績では、AI活用全体で約858時間の業務削減効果を達成しています(出典: 総務省・自治体DX推進参考事例集 第3.0版)。
自治体のAI導入で押さえるべき課題と対策
自治体がAIを導入する際には、民間企業とは異なる固有の課題があります。これらを事前に把握し、対策を準備しておくことが、スムーズな導入と失敗リスクの低減につながります。
セキュリティ・個人情報保護の対策
自治体は住民の個人情報・機密情報を大量に扱うため、外部のAIサービスを使う際のデータ管理が重要な課題となります。
対策のポイント:
- 入力禁止ルールの設定: 外部の生成AIサービス(ChatGPTなど)には個人情報・機密情報を入力しないルールを徹底する
- ISMAPクラウドの優先利用: 政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)に登録されたクラウドサービスを優先的に採用する
- 庁内専用環境の構築: 個人情報を含む業務では、外部に情報が流出しない庁内専用のAI環境を構築する
- ガイドラインの策定: 職員がAIを使う際の利用ルール(何は使っていいか、何はダメか)を明文化する
デジタル庁は2025年5月に「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」を公表しており、自治体向けの参考資料として活用できます(デジタル庁ガイドライン)。
予算確保の方法(補助金・国の支援制度)
自治体のAI導入における費用としては、生成AIモデルのライセンス料、システム開発費、インフラ整備費、運用段階のモデル更新・保守費用、職員研修費などが挙げられます。
予算確保の選択肢として以下があります。
国・都道府県の補助金・交付金
- デジタル田園都市国家構想推進交付金(デジタル庁)
- 地方創生推進交付金(内閣府)
- 各都道府県が独自に設けているDX支援補助金
共同調達・共同利用 複数の自治体が連携して共同でAIシステムを調達・運用することで、1自治体あたりの費用を大幅に削減できます。同じ都道府県内の自治体連合や、同規模の自治体間での連携が有効です。
職員のリテラシー不足への対処
総務省の調査では、AI導入の課題として「職員のスキル不足・研修不足」が73%の自治体において最大の課題として挙げられています。セキュリティへの懸念や正確性の問題よりも高い割合です。
対策のポイント:
- 段階的な研修: まずAIを「使ってみる」体験から始め、徐々に活用スキルを高める
- 活用事例集の共有: 各部署での活用事例を庁内で共有し、横展開を促す
- AI活用推進の旗振り役を設ける: 情報政策課だけでなく、各部署にAI活用の推進担当者(DX推進員)を配置する
ベンダーロックインを防ぐ方法
特定のベンダーやプラットフォームに依存しすぎると、価格交渉力の低下やシステム移行の難しさという問題が生じます。
対策のポイント:
- オープン標準・オープンAPI: 特定ベンダー固有の技術に依存しない設計を求める
- ソースコード・データの帰属を明確化: 開発したシステムのソースコードや学習データの所有権を自治体側に帰属させる条件を契約に盛り込む
- 保守・運用の引き継ぎ条件: 契約終了時のシステム引き継ぎ手順をあらかじめ定める
自治体がAI導入を成功させるための進め方

「何から始めればいいか分からない」という担当者のために、実践的な進め方を4つのステップで解説します。
ステップ1——「困りごと」の棚卸しから始める
AI導入の第一歩は、「どの業務が最も非効率か」「どこに職員の負担が集中しているか」を把握することです。
実践方法:
- 各部署にアンケートを実施し、「時間がかかっている業務」「繰り返し作業が多い業務」をリストアップする
- リストアップした業務をAI活用の可能性と効果の大きさで評価する
- 最初に取り組む業務(PoCテーマ)を1〜2件に絞り込む
デジタル庁が2025年11月に開催した「共創PFキャンプ」でも、AI活用策を検討する際には「まずは困りごとを掴むこと」の重要性が強調されています(デジタル庁ニュース)。
ステップ2——スモールスタート(PoC)で低リスクに試す
「本番導入」から始めるのではなく、まずはPoC(概念実証)で小規模に試すことが重要です。PoCで効果を確認してから本番導入を検討することで、予算・リスクの両面で安全に進められます。
PoCの目安:
- 対象業務:1つの業務・部署に限定
- 期間:1〜3か月
- 費用:数十万〜数百万円(業務の複雑さによる)
- 評価指標:作業時間の削減率、職員の満足度など
PoCの目的は「このAIが使えるか確認すること」だけでなく、「職員がAIと一緒に仕事できるか確認すること」でもあります。技術的な検証と組織的な受容性の検証を同時に行うことが大切です。
ステップ3——外部ベンダーへの発注準備(RFP作成)
PoCで方向性が見えたら、本番システムの開発・導入に向けてベンダーへの発注準備を進めます。
RFP(提案依頼書)に盛り込む主な内容:
- 現状の業務フローと課題
- 求める機能・性能要件
- セキュリティ要件(個人情報の取り扱い方針など)
- 予算規模・スケジュール
- 評価基準
公共調達の手続き(入札・プロポーザル)は、民間企業への発注とは異なるルールがあります。調達担当部署と早期に連携し、必要な手続きを確認しておきましょう。
ステップ4——本番導入と運用・改善サイクル
本番導入後は、定期的な効果測定と継続的な改善が必要です。AIシステムは一度作れば終わりではなく、データの蓄積とモデルの更新により精度が向上していくものです。
運用フェーズで確認すること:
- 想定した効果が出ているか(定量的な評価)
- 職員が実際に使っているか(利用率の把握)
- 問題が発生していないか(ハルシネーション・誤作動の有無)
- 次の改善点は何か(職員からのフィードバック収集)
自治体AI開発のベンダー選定ポイント

自治体のAI開発を外部ベンダーに依頼する際、民間企業とは異なる要件が求められます。以下のチェックリストを参考に、ベンダーを評価してください。
自治体案件の実績と信頼性を確認する
チェックポイント:
- 公共機関・自治体向けシステム開発の実績があるか
- 個人情報保護法・行政情報システム関連の法規制に精通しているか
- 情報セキュリティマネジメント(ISMSなど)の資格・認証を持っているか
民間企業向けの開発実績は豊富でも、公共調達・公共系システムの特性を理解していないベンダーは、後々問題が生じやすいです。
セキュリティ・個人情報保護への対応を確認する
チェックポイント:
- データの分離・隔離設計が可能か(住民データが外部に漏洩しない設計)
- セキュリティインシデント発生時の対応フローを持っているか
- ISMAPクラウドに対応しているか(または対応可能か)
- NDA(秘密保持契約)の締結経験があるか
「AI活用」を売りにしていても、セキュリティへの対応が不十分なベンダーは公共案件には適しません。必ず具体的な対応方法を聞いてから判断しましょう。
スモールスタート(PoC)対応力を確認する
チェックポイント:
- 小規模なPoCから段階的に始める提案ができるか
- 固定の大きな契約でなく、スコープを調整しながら進める柔軟性があるか
- 数十万〜数百万円規模の小さな案件でも真摯に対応してくれるか
大手SIerは実績がある反面、小規模な案件には対応しないケースも多いです。最初のPoCは、中小規模でも自治体案件の経験があるベンダーに依頼することも選択肢のひとつです。
運用保守の継続体制を確認する
チェックポイント:
- 開発後の保守・運用サポートを継続的に提供できるか
- システムの引き継ぎ(ドキュメント整備・ソースコード納品)を行う意思があるか
- 担当エンジニアが入れ替わっても継続対応できる体制か
AI開発はシステムリリース後も、モデルの更新・チューニング・機能追加が継続して必要です。開発だけして終わりのベンダーではなく、長期的なパートナーとして伴走できる会社を選ぶことが重要です。
費用感の目安(PoC〜本番開発)
自治体のAI開発費用の目安を示します。業務の複雑さや規模によって大きく異なりますが、参考にしてください。
フェーズ |
費用の目安 |
内容 |
|---|---|---|
小規模PoC |
数十万〜100万円 |
既存ツールの活用・設定変更で対応できる場合 |
中規模PoC |
100万〜300万円 |
簡単なカスタマイズ・API連携を含む場合 |
本番システム開発 |
500万〜3,000万円 |
本格的なシステム開発・既存システム連携を含む場合 |
保守・運用(年間) |
開発費の10〜20%程度 |
モデル更新・保守・ヘルプデスク対応 |
※上記はあくまで目安であり、実際の費用は要件によって異なります。複数社に見積もりを依頼し、費用の妥当性を比較することをお勧めします。
まとめ——自治体のAI活用を成功させるために
自治体のAI活用は、「事例を知っている状態」から「実際に動き始める」ための壁を越えることが最初のステップです。
本記事で解説した内容を整理します。
- 現状: 都道府県・指定都市ではAI導入が9割近くに達し、市区町村でも約3割が導入済み
- 活用領域: 議事録作成・チャットボット・データ分析など、業務の負担が大きい領域から始めると効果が出やすい
- 進め方: まず「困りごとの棚卸し」→「スモールスタート(PoC)」→「本番導入」の流れで進める
- ベンダー選定: 公共案件の実績・セキュリティ対応・スモールスタート対応力・保守継続性を確認する
- 費用: PoCは数十万〜数百万円、本番開発は500万〜3,000万円程度が目安
最も大切なことは、「完璧な計画を立ててから始める」のではなく、「小さく始めて学びながら進む」姿勢です。失敗を恐れてスタートが遅れるよりも、スモールスタートで早く経験を積む自治体が、最終的には大きな成果を出しています。
医療分野でもAI活用が急速に進んでいます。自治体と同様に専門的な要件が求められる医療業界でのAI活用については、医療業界でのAI活用事例と導入の進め方で詳しく解説しています。業界別のAI導入の勘所として参考にしてください。
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