業務フロー可視化の進め方:BPRで改善すべき業務を見つける方法

業務フロー図を作成したのに、気づけば誰も見なくなっている——そんな経験はないでしょうか。多くのDX推進担当者が「可視化はできたが、どこを直すべきかが分からない」という壁にぶつかります。
業務フロー可視化の本来の目的は、「業務の現状を記録すること」ではなく、「改善すべき業務を発見すること」です。本記事では、業務フロー図を作った後に何をすべきかに焦点を当て、BPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)で改善すべき業務を見つける実践的な手順を解説します。
本記事を読むと、以下の3点が分かります。
- 業務フロー図から改善ポイントを発見する5つの具体的な視点
- BPRを推進するための4ステップと優先順位付けの方法
- システム化・AI化に向く業務の判断基準

目次
失敗しないためのシステム開発の考え方と開発パートナー選定チェックリスト

この資料でわかること
こんな方におすすめです
なぜ業務フロー可視化は「作って終わり」になるのか
多くの企業で起こる「可視化あるある」
業務フロー可視化に取り組んだ企業がよく経験するパターンがあります。
「作って満足」パターンは、フロー図を完成させることが目的化してしまうケースです。プロジェクトとして立ち上げ、数週間かけてフロー図を作成したものの、完成した時点でエネルギーが尽きてしまいます。
「誰も見なくなる」パターンは、可視化した業務フロー図がファイルサーバーの奥底に保存され、数ヶ月後には陳腐化してしまうケースです。「どう使えばいいのか分からない」という状態では、自然と誰も参照しなくなります。
「何を直せばいいか分からない」パターンは、フロー図を見ても「これで何が問題なのか」が見えないケースです。現状を記録しただけでは、改善ポイントは浮かび上がってきません。
可視化と改善の間にある「分析の欠落」
業務フロー図は、あくまでも「現状の業務プロセスを記録したもの」に過ぎません。そこから改善ポイントを見つけるには、「分析の視点」が必要です。
多くの可視化プロジェクトが中途半端に終わる理由は、フロー図を「作ること」をゴールにしてしまい、「分析すること」「改善につなげること」をゴールにしていないからです。
BPRを成功させるには、可視化(As-Is分析)→問題発見→あるべき姿設計(To-Be設計)という流れが不可欠です。本記事では、この「問題発見」のフェーズを具体的な視点として解説します。
業務フロー図の作り方(基礎から実践まで)

業務フロー図の基本要素と記法
業務フロー図を作成する前に、基本的な記法を押さえておきましょう。
スイムレーン形式は、横または縦の「レーン」に部門・担当者を割り当て、業務の流れを視覚的に表す形式です。部門をまたぐ連携や承認フローが分かりやすく、BPRの分析に最も適した形式です。
主な記号の使い方は以下のとおりです。
記号 |
意味 |
|---|---|
長方形 |
処理・作業 |
ひし形 |
判断・条件分岐 |
矢印 |
処理の流れ・データの流れ |
楕円 |
開始・終了 |
よく使われるツールとしては、Miro・Lucidchart・draw.io(無料)・Microsoft Visioなどがあります。Excel やスプレッドシートでも作成できますが、複雑なフローには向きません。
現場ヒアリングで業務フローを正確に書く手順
業務フロー図でよくある失敗は、「あるべき姿」を現状フローとして書いてしまうことです。ヒアリングでは「実際にどうやっているか」を聞くことが重要です。
ヒアリングの基本手順は以下のとおりです。
- 担当者(実務者)からヒアリングする: 管理者は「あるべき姿」を話しがちです。実際の作業をしている担当者から聞くことで、現実のフローが見えてきます
- 「例外処理」を必ず確認する: 通常の流れだけでなく、「エラーが起きたとき」「締め日のとき」「担当者が不在のとき」など、例外処理を含めることが重要です
- 完成度80%で反復する: 最初から完璧を目指さず、大まかに作成してから担当者に確認してもらい、徐々に精度を上げていきます
よくある業務フロー図の落とし穴
粒度が統一されていない問題は、あるステップは詳細に書かれているのに、別のステップは「〇〇処理」と一言で書かれているような状態です。分析に使うには粒度を揃えることが重要です。
部門間の連携が抜け落ちる問題は、単一部門の業務を詳細に書く一方で、他部門への引き渡し部分が「連絡する」「依頼する」と省略されてしまうケースです。部門間のやりとりこそが改善ポイントを含んでいることが多いため、注意が必要です。
可視化した業務フローから問題を発見する5つの視点

業務フロー図を作成したら、次は「問題を発見する視点」を持って分析します。以下の5つの視点を使うことで、改善すべきポイントが明確になります。
視点1 - ボトルネック(待ち時間・滞留)を見つける
ボトルネックとは、処理が詰まって業務全体の流れを遅くしているポイントです。
見つけ方:
- 承認待ち・確認待ちが頻繁に発生しているステップはどこか
- 特定の担当者に業務が集中していないか
- 処理待ちによって後工程が止まってしまう箇所はどこか
分析方法: 主要な業務ステップの処理時間を記録し、リードタイム全体に占める割合を計算します。待ち時間が全体の30%以上を占めるステップは、最優先の改善対象です。
視点2 - 重複作業・二重入力を見つける
同じデータを複数のシステムや帳票に入力する「二重入力」は、時間の無駄だけでなくミスの温床にもなります。
見つけ方:
- 受注データを基幹システムとExcelの両方に入力していないか
- 同じ情報を複数の書類やシートに転記していないか
- 前工程で作成したデータをそのまま使えず、再入力しているステップはないか
チェックポイント: フロー図の中で「入力」「転記」「コピー」などの作業が繰り返し登場する箇所を探します。同じデータを扱っている場合は、統合・自動連携の余地があります。
視点3 - 属人化業務を見つける
「〇〇さんしか分からない業務」は、担当者が不在のときに業務が止まるリスクを常に抱えています。
見つけ方:
- 「この業務は〇〇さんに聞いて」と言われるステップはどこか
- ドキュメントがなく、経験と勘で判断している業務はないか
- 引き継ぎが困難で、担当者が休暇を取りにくいと言っている業務はないか
対策の方向性: 属人化業務は、まずドキュメント化(標準化)してから、自動化・システム化を検討します。ドキュメントが存在しない業務をいきなりシステム化しようとすると、要件定義が難しくなります。
視点4 - 判断基準が曖昧な条件分岐を見つける
業務フロー図にひし形の「条件分岐」が多く登場する場合、その判断基準が明文化されているかどうかを確認します。
見つけ方:
- 「場合による」「その都度確認」という判断が多いステップはどこか
- 誰が判断しても同じ結果になるか(属人化していないか)
- 承認者によって判断結果が異なるケースはないか
重要性: 判断基準が明確になると、ルール化が可能になります。ルール化できれば、自動化やシステムによる判断支援が実現できます。
視点5 - 価値を生まない業務(ムダ)を見つける
QCD(品質・コスト・納期)の観点から、「この業務は本当に必要か」を問いかけます。
見つけ方:
- 誰も読まない報告書・会議資料を作成するステップはないか
- 承認フローが多段化しており、実質的な確認が行われていないステップはないか
- かつては必要だったが、現在はほぼ形骸化している手続きはないか
「3ムダ」で整理する: トヨタ生産方式の「ムダ・ムラ・ムリ」のうち、まずムダ(価値を生まない作業)を特定します。廃止・簡略化できる業務を見つけることで、大きな工数削減につながります。
BPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)の進め方

BPRと業務改善の違いを明確にする
BPRと業務改善(カイゼン)は、よく混同されますが本質的に異なります。
業務改善(カイゼン) |
BPR |
|
|---|---|---|
アプローチ |
現状プロセスを前提にした部分最適 |
プロセスをゼロベースで再設計 |
変化の幅 |
小さな改善の積み重ね |
抜本的な変革 |
リスク |
低い |
高い(失敗リスクも伴う) |
適した状況 |
現状が70〜80点で改善余地が少ない場合 |
現状プロセスに構造的な問題がある場合 |
DX推進の文脈では、デジタル化・自動化を前提とした業務プロセスの再設計が必要なため、BPRのアプローチが不可欠です。一方、すべての業務にBPRを適用しようとすると、コストと工数が膨大になります。まず業務改善で対応できるものはカイゼンし、構造的な問題を抱えている業務にBPRを適用するという使い分けが重要です。
BPRの4ステップ
ステップ1: 現状プロセスの可視化(As-Is分析)
前述の業務フロー図の作成と5つの視点による問題発見が、このステップに当たります。現状の業務プロセスを「見える化」し、課題の全体像を把握します。
ステップ2: 課題の特定と優先順位付け
As-Is分析で発見した課題を整理し、取り組む順番を決めます。優先順位付けの方法は次のH3で詳しく解説します。
ステップ3: あるべき姿の設計(To-Be設計)
課題を解決した後の「あるべき業務プロセス」を設計します。現状のプロセスを改善するだけでなく、「そのステップ自体が本当に必要か」をゼロベースで問い直すことがBPRの本質です。
ステップ4: 移行計画の策定と実行
To-Be設計を実現するための移行計画を策定し、段階的に実行します。一度に全てを変えようとするとリスクが高まるため、スモールスタートで効果を確認しながら拡大することを推奨します。
改善すべき業務の優先順位付け方法
優先順位付けには、「インパクト × 実現可能性」のスコアリングが有効です。
スコアリングの方法:
以下の3項目を各5点満点で評価し、合計点で優先順位を決めます。
評価項目 |
評価基準 |
|---|---|
頻度・規模 |
毎日発生・多人数が関わる業務ほど高スコア |
改善効果 |
工数削減・ミス防止の効果が大きいほど高スコア |
実現可能性 |
技術的・組織的な難易度が低いほど高スコア |
クイックウィンとストラテジックの分類:
- クイックウィン(短期3ヶ月以内): 実現可能性が高く、即効性がある改善。まずここから着手して成功体験を積みます
- ストラテジック(中長期6ヶ月〜): インパクトは大きいが、システム導入や組織変更が必要な改善。クイックウィンの成果を活かして推進します
業務DXの優先順位付けフレームワークについては、「業務DXの優先順位はどう決める?中小企業向け意思決定フレームワークと実践ロードマップ」でより詳しく解説しています。
システム化・AI化すべき業務の判断基準

BPRで業務プロセスを再設計した後、「どの業務をシステム化・AI化するか」の判断が必要になります。
システム化に向く業務の3条件
以下の3つの条件を全て満たす業務は、システム化の効果が高い優先候補です。
条件1: ルール化できる(判断基準が明確)
判断基準が明文化でき、「if〜then〜」の形式で表現できる業務です。条件分岐の分岐先が誰が判断しても同じになる業務がこれに当たります。
条件2: 繰り返し発生する(頻度が高い)
毎日・毎週繰り返し発生する業務ほど、システム化のROI(投資対効果)が高くなります。月に1回しか発生しない業務のシステム化は、費用対効果が低くなりがちです。
条件3: データが存在する(デジタル化済み)
既にデジタルデータとして存在する入力情報を扱う業務です。紙やFAXが起点になっている業務は、まず「デジタル化」が先行します。
AI化・自動化に向く業務の特徴
AIは「パターンを学習して判断する」ことが得意です。以下のような業務はAI化の効果が期待できます。
- 大量の非構造化データを扱う業務: 手書き書類のOCR読み取り・問い合わせメールの分類・議事録の要約など
- パターン認識が必要な判定業務: 与信審査・不良品検査・異常検知など、大量のデータからパターンを学習して判定する業務
- 推薦・予測が価値を生む業務: 需要予測・顧客向けレコメンデーション・メンテナンス時期の予測など
システム化・AI化を焦るべきでない業務
一方、以下のような業務を急いでシステム化・AI化しようとすると、失敗リスクが高まります。
- 業務プロセス自体を変える必要がある業務: 現状の非効率なプロセスをそのままシステム化しても、非効率なシステムができるだけです。BPRでプロセスを整理してからシステム化を検討します
- 判断基準が確立されていない業務: ルールが曖昧なままシステム化しようとすると、要件定義が難しくなります。まずプロセスを標準化・文書化することが先決です
- 頻度が低く工数も小さい業務: コストをかけてシステム化しても、削減効果が小さい業務です。優先度を下げてリソースを高インパクトな業務に集中させましょう
まとめ:業務フロー可視化からBPRへのロードマップ
業務フロー可視化からBPRで改善につなげるための流れを3ステップで整理します。
ステップ1: 正確に可視化する
スイムレーン形式で業務フロー図を作成し、現場担当者へのヒアリングで実態を正確に記録します。完成度80%で始め、繰り返し精度を上げる反復アプローチが有効です。
ステップ2: 5つの視点で問題を発見する
ボトルネック・重複作業・属人化・曖昧な条件分岐・価値を生まないムダ——この5つの視点で業務フロー図を分析し、改善ポイントを洗い出します。
ステップ3: 優先順位を付けてBPRを実行する
スコアリングでクイックウィンとストラテジックに分類し、まず短期で成果が出せる改善から着手します。BPRで再設計したプロセスをベースに、システム化・AI化の候補を判断します。
まずは自社の主要業務を1つ選んで業務フロー図を作成し、5つの視点で見てみることから始めてみましょう。「可視化して満足」で終わらず、「分析して改善につなげる」姿勢が、DX推進を成功させるカギです。
中小企業のDX全体の進め方については「中小企業のDX進め方完全ガイド|失敗しない4ステップと自社診断の方法」もあわせてご覧ください。
失敗しないためのシステム開発の考え方と開発パートナー選定チェックリスト

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こんな方におすすめです
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システム化を通して時間を生み出し、ビジネスの加速をサポートします。
システム開発が可能に







