デジタルマーケティングを強化しようと考えたとき、「MAツールを入れよう」「CRMを整備しよう」という議論はすぐに始まります。しかし多くの企業が、ツールを導入した後に「データがうまくつながらない」「既存システムと連携できない」という壁にぶつかります。
なぜこうした問題が起きるのでしょうか。MAやCRMはあくまでも「ソフトウェアのひとつ」であり、自社の既存システムや業務プロセスとは独立して動いています。ツールを選定する前に「どのシステムとどのデータをどう連携させるか」を設計しなければ、どれだけ優れたSaaSを選んでも期待通りには機能しません。
本記事では、デジタルマーケティングとシステム開発の関係を整理し、MA・CRM・EC連携において「SaaSで完結できる部分」と「システム開発が必要な部分」の判断軸を解説します。システム開発会社への相談を検討している方、または「まず何を整理すればよいか分からない」という方に向けて、実務的な考え方をお伝えします。
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デジタルマーケティングとシステム開発はなぜ切り離せないのか

デジタルマーケティングとシステム開発は、一見すると別々の領域に見えます。しかし実際のマーケティング施策を動かそうとすると、両者は密接に絡み合います。
よくある失敗パターン「ツールを入れたがデータがつながらない」
「MAツールを導入したが、ECサイトの購買データが連携できていないのでシナリオメールが送れない」「CRMを入れたが、受注管理システムと顧客番号の形式が異なるので名寄せができない」——こうした声はシステム開発の現場でよく耳にします。
失敗の根本的な原因は、「ツール選定」と「システム設計」を分離して考えてしまうことです。MAやCRMを選ぶ段階で、自社の既存システムが持つデータ構造を確認しておかないと、「このMAツールは自社のECカートと標準連携できない」という事実が導入後に判明します。
特に日本企業では、自社固有の業務フローに合わせてCRMや基幹システムをカスタマイズしているケースが多く、標準的なAPI連携では対応できない場面が少なくありません(参考: MAとCRMをつなげられない理由)。
MA・CRM・ECが扱うデータの違いと、なぜ連携が必要か
MA・CRM・ECはそれぞれ異なるデータを扱います。これらのシステムが「同じ顧客」の異なる側面を別々のデータとして持っているため、連携しなければ全体像が見えません。
システム | 主に扱うデータ |
|---|---|
MA | 見込み客の行動履歴(メール開封・サイト訪問・フォーム入力)、リードスコア |
CRM | 顧客の基本情報・商談履歴・サポート対応記録、契約状況 |
EC | 購買履歴・カート放棄・商品閲覧履歴、決済データ |
たとえばECサイトで「カートに入れたが購入しなかった顧客」に対して翌日フォローアップメールを送ろうとする場合、ECシステムのカートデータをMAが参照できなければ自動化できません。これはMA側の問題ではなく、ECシステムとMAのデータ連携が設計されていないことが原因です。
MA・CRM・ECそれぞれの役割と担うデータ
連携設計を考える前提として、3つのシステムが何のために存在し、何のデータを持つのかを整理しておきます。
MA(マーケティングオートメーション)が持つデータと役割
MAの役割は、まだ購入や契約に至っていない「見込み客」を育成することです。Webサイトへの訪問、資料ダウンロード、メール開封といった行動をトラッキングし、見込み度合いに応じたコミュニケーションを自動化します。
MAが管理するデータの中心は「行動ログ」です。「どのページを何回見たか」「どのメールを開いたか」「いつフォームを送信したか」といったデジタル上の行動が記録されます。
CRM(顧客関係管理)が持つデータと役割
CRMの役割は、既存顧客・商談中の顧客との関係を管理することです。営業の商談記録、契約内容、サポート対応履歴など、顧客との全接点を一元管理します。
CRMのデータの中心は「顧客の属性と履歴」です。「誰と・いつ・何を話したか」「どの製品を契約しているか」「クレームはあったか」といった情報が蓄積されます。
ECシステムが持つデータと役割
ECシステムの役割は、商品の販売・在庫管理・決済処理です。オンラインショップの場合、顧客の購買行動がすべてここに記録されます。
ECのデータの中心は「取引履歴」です。「いつ・何を・いくらで購入したか」「どの商品を複数回購入しているか」「何ヶ月間購入がないか」といった購買データが管理されます。
3つのシステムが連携することで初めて実現できること
3つのシステムを連携すると、「同一の顧客」を多面的に把握できます。たとえば以下のような施策が可能になります。
- ECで商品を購入した顧客に対して、MAが「購入後フォロー」のシナリオメールを自動送信する
- 同一顧客の購買履歴(EC)と商談内容(CRM)を営業担当者が一画面で確認できる
- CRMで「契約更新時期が近い顧客」をMAに連携し、更新促進のコミュニケーションを自動化する
こうした施策を実現するには、3つのシステムが「同じ顧客ID」を共有している必要があります。この「顧客IDの統一」が連携設計における最初の課題です。
SaaSで完結できるケースと、システム開発が必要なケース

ここが本記事の核心です。「MA・CRM・ECをどう連携させるか」を考えるとき、SaaSの標準機能で対応できる場合と、カスタム開発が必要になる場合があります。
SaaSのみで対応できる典型パターン(中小EC×MAのシナリオ例)
以下のような条件がそろっている場合、SaaSの標準連携のみで対応できるケースが多いです。
- ECカートとMAが同一ベンダーのツール(または公式コネクタが提供されている)
- 既存の基幹システムや受注管理システムがなく、今から構築する場合
- 顧客データの構造が比較的シンプルで、カスタム項目が少ない
- 自動化したいシナリオが標準テンプレートの範囲内(例: カート放棄後のリマインドメール)
たとえば、Shopifyで構築したECサイトにKlaviyoというMAツールを連携する場合、公式のアプリ連携によって購買データが自動的にMAへ同期されます。この場合、追加の開発は不要です。
システム開発が必要になる4つのケース
一方、以下のようなケースではシステム開発が必要になります。
1. 既存の基幹システムや社内データベースとの連携が必要な場合 受注管理・在庫管理・会員管理などの基幹システムが自社開発または独自パッケージの場合、標準APIが提供されていないことがあります。この場合、連携のためのカスタムAPI開発が必要です。
2. 顧客IDの名寄せ・統合が必要な場合 オフライン購買データとオンラインの行動データを同一顧客として結びつけるには、独自の名寄せロジックが必要になります。例えば、「店舗の会員番号」「ECサイトのユーザーID」「メールアドレス」を一致させて統合するには、データ変換処理の開発が必要です。
3. 自社固有のスコアリングや判定ロジックが必要な場合 「このカテゴリの商品を2回以上購入した顧客を優良顧客と定義する」など、自社の業務定義に基づくセグメント判定は、SaaSの標準スコアリング機能では表現できない場合があります。この場合、バックエンドでの独自ロジック実装が必要です。
4. リアルタイム連携が必要な場合 SaaSの標準連携の多くはバッチ処理(数時間おきのデータ同期)です。「購入直後の数分以内にメールを送信したい」など、リアルタイム性が求められる場合は、Webhookやイベント駆動のシステム設計が必要になります。
よくある「失敗する判断」——SaaSに全部乗せようとするパターン
よくある失敗として「SaaS一本で全部解決しようとする」ケースがあります。高機能なSaaSを選定すれば連携問題が解決すると考えて、必要以上に高価なプランを契約してしまうパターンです。
しかし実際には、「SaaSの機能が高度かどうか」よりも「自社システムとのデータ互換性があるか」の方が連携成否に大きく影響します。機能が豊富なツールでも、既存システムとのデータ構造の乖離が大きければ、カスタム開発は避けられません。
MA・CRM・EC連携の代表的な構成パターン

実際の現場では、企業の業態・規模・目的によって連携構成が異なります。代表的な3パターンを紹介します。
BtoBリードナーチャリング型(MA + CRM連携中心)
BtoB企業で「見込み客の育成〜受注管理」を自動化したい場合の典型構成です。
- SaaS担当: MAによるWebサイト行動トラッキング、スコアリング、ステップメール配信。CRMによる商談管理・受注後フォロー
- 開発が必要な範囲: MAとCRMのスコアデータ連携、既存の基幹システムへの受注データ連携、自社定義の「ホットリード判定ロジック」の実装
このパターンで重要なのは「MAのどのデータをCRMに渡すか」の設計です。全データを連携しようとするとCRMが情報過多になるため、営業担当者が必要とするデータのみに絞る設計が求められます。
BtoC・ECリピート促進型(EC + MA + CRM連携)
BtoC・EC事業で「新規購入→リピーター育成」を実現したい場合の構成です。
- SaaS担当: ECプラットフォームによる購買データ管理、MAによるメールシナリオ自動化
- 開発が必要な範囲: EC購買データ→MAへのリアルタイム連携、顧客の購買頻度・金額に基づく独自セグメント分類(LTV分析)、オフライン購買データとの名寄せ
このパターンでは「購買データの粒度」が重要です。「どの商品カテゴリを購入したか」「購入頻度はどれくらいか」といった詳細なセグメント分類をしたい場合、ECシステム側でのデータ加工が必要になります。
オムニチャネル統合型(CDP + MA + CRM + ECの複合構成)
実店舗とECを持ち、すべての顧客接点を統合したい場合の構成です。
- SaaS担当: CDP(カスタマーデータプラットフォーム)による顧客データ統合、MAによるチャネル横断のコミュニケーション自動化
- 開発が必要な範囲: 店舗POSシステム、ECシステム、アプリのデータをCDPに統合するためのETL処理開発、顧客IDの統合ロジック、独自ダッシュボード構築
このパターンは最も複雑で、設計・開発コストが高くなります。まずはBtoC・ECリピート促進型から始め、段階的に統合を進めるアプローチが現実的です。
システム開発会社に相談する前に整理すべきこと
MA・CRM・EC連携のシステム開発を発注する前に、以下の情報を整理しておくと、ベンダーとのコミュニケーションがスムーズになります。
連携要件整理の3ステップ
ステップ1: 現状の「システムマップ」を書き出す 現在稼働しているシステムをすべてリストアップします。「ECカート」「基幹システム」「顧客管理Excelファイル」「メール配信ツール」など、規模を問わず書き出すことが大切です。それぞれのシステムが「どのデータを持っているか」も合わせて確認します。
ステップ2: 実現したいマーケティング施策を具体的に書く 「購入後3日以内にフォローメールを自動送信したい」「休眠顧客にクーポンを送りたい」など、施策ベースで整理します。ツール名ではなく「何をしたいか」で書くことが重要です。施策が具体的なほど、必要なシステム連携の要件が明確になります。
ステップ3: 優先順位をつける すべての施策を一度に実現しようとすると開発コストが膨らみます。「3ヶ月以内に実現したい施策」と「半年〜1年後に実現したい施策」を分けて整理します。段階的な開発計画を立てることで、投資対効果を高められます。
開発会社に伝えるべき情報のチェックリスト
以下の情報を開発会社への初回相談時に用意しておくと、より具体的な見積もりと提案を受けられます。
- 現在稼働しているシステムの名称・バージョン(もしくは自社開発かパッケージかの区別)
- 各システムがAPIを提供しているか(ドキュメントがあれば持参)
- 1日あたりのデータ件数の概算(注文件数・会員数・見込み客数)
- 実現したい施策の優先順位と期待する完成時期
- システム開発に充てられる予算感(概算でも可)
「APIドキュメントが手元にない」「現行システムがブラックボックス化している」という場合でも、現状を正直に伝えることが大切です。優良なシステム開発会社であれば、現状調査の支援から提案してくれます。
まとめ
デジタルマーケティングの強化において、MA・CRM・ECの連携は避けて通れない課題です。しかしその本質は「どのツールを選ぶか」ではなく、「自社のシステム全体の中でどう設計するか」にあります。
本記事でお伝えしたポイントを改めて整理します。
- MA・CRM・ECはそれぞれ異なるデータを持ち、連携することで初めてマーケティング施策が機能する
- SaaSの標準機能で対応できる範囲と、カスタム開発が必要な範囲は、既存システムの構造によって変わる
- 「開発が必要か」の判断は、「ツールの機能の高さ」ではなく「自社システムとのデータ互換性」で決まる
- 連携設計の前に「現状システムのマップ」と「実現したい施策の優先順位」を整理することが第一歩
SaaSか開発かの二択で考えるのではなく、「SaaSが得意な部分」と「開発で補うべき部分」を組み合わせる考え方が、デジタルマーケティング基盤の構築を成功に近づけます。
「自社の場合どう設計すべきか」「どこまでSaaSで対応できるか」を判断するには、現状のシステム構成を把握した上でのアドバイスが必要です。システム開発の視点からデジタルマーケティング基盤の設計を支援する会社への相談を検討してみてください。
システム開発 完全チェックリスト――発注前・発注中・完了後の3フェーズで使えるチェック集

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