「フリーランスは遺族年金も障害年金も少ないので、民間の就業不能保険や収入保障保険で補うべきです」— 保険営業からこう提案されて、モヤモヤしたまま検討を始めたフリーランスエンジニアの方は少なくないはずです。会社員時代は厚生年金と健康保険組合で自動的に守られていた「万一の備え」を、独立後は自分で設計し直さなければなりません。
しかし多くの解説記事は、障害年金だけ・遺族年金だけを個別に説明するにとどまり、「自分の家族構成でいくら足りないのか」「その不足を何で埋めればいいのか」までは踏み込んでくれません。結果として、営業トークに流されるまま高額な民間保険に加入したり、逆に「なんとかなるだろう」と無防備なまま放置してしまうケースが目立ちます。
とくにフリーランスエンジニアは、単価 60〜100 万円/月と収入水準が高い一方で、稼働が止まればその翌月から売上がゼロになるという構造を抱えています。腱鞘炎やメンタル不調で数か月稼働できなくなった同業者の話を聞いて、初めて「自分にも起こりうる」と気づく方も多いのではないでしょうか。
本記事では、フリーランスエンジニアが受け取れる遺族年金・障害年金の仕組みと金額を、会社員との差額として具体数値で提示します。数字は令和 8 年度(2026 年度)の改定額に基づいて算出します。そのうえで、不足額を埋める「民間保険・私的年金・貯蓄」の 3 つの選択肢をどう組み合わせるか、判断軸を整理していきます。
読み終えたときには、営業から提案された民間保険が自分の状況に対して過剰なのか過小なのかを、自分の頭で判断できる状態になっているはずです。
フリーランスエンジニアの公的保障は「基礎年金だけ」— 会社員との構造的な差

「フリーランス 遺族年金 障害年金」と検索した方がまず押さえておきたいのは、日本の公的年金が「2 階建て」構造になっており、フリーランス(個人事業主)はそのうち 1 階部分しか持っていないという事実です。
2 階建て年金の仕組みと 3 つの給付場面
日本の公的年金は、全国民が加入する 1 階部分の「国民年金(基礎年金)」と、会社員・公務員が上乗せで加入する 2 階部分の「厚生年金」で構成されています(日本年金機構「公的年金制度の種類と加入する制度」)。
そして年金制度には、老後にもらう「老齢年金」だけでなく、以下の 3 つの給付場面があります。
- 老齢年金: 原則 65 歳から生涯受け取れる年金
- 障害年金: 病気やケガで働けなくなったときに受け取れる年金
- 遺族年金: 加入者本人が亡くなったときに遺族が受け取れる年金
いずれの場面でも、会社員なら「基礎(1 階)+ 厚生(2 階)」の両方から給付が出るのに対し、フリーランスは基礎部分のみ、という構造がそのまま反映されます。
フリーランスは第 1 号被保険者 — 基礎年金のみで厚生年金部分がない
国民年金の加入者は、その働き方によって以下の 3 つに区分されます。
区分 | 対象 | 加入する年金 |
|---|---|---|
第 1 号被保険者 | 自営業者・フリーランス・学生・無職など | 国民年金のみ |
第 2 号被保険者 | 会社員・公務員 | 国民年金 + 厚生年金 |
第 3 号被保険者 | 第 2 号被保険者に扶養される配偶者 | 国民年金のみ(保険料は配偶者の厚生年金で負担) |
フリーランスエンジニアは第 1 号被保険者に該当し、加入するのは国民年金のみです。会社員時代に自動的に加入していた厚生年金からは、独立と同時に脱退することになります。
このことは、老齢年金の受給額が減るというだけの話ではありません。障害年金・遺族年金においても、厚生年金部分(障害厚生年金・遺族厚生年金)が丸ごと存在しないという意味を持ちます。
なぜ「万一の備え」が会社員より切実になるのか
フリーランスにおける公的保障の薄さは、年金だけの話ではありません。会社員なら健康保険組合から支給される傷病手当金(病気やケガで働けないときに最長 1 年 6 か月間、標準報酬日額の 2/3 が支給される制度)も、国民健康保険には原則存在しません(全国健康保険協会「傷病手当金」)。
さらに、業務上のケガ・病気で給付される労災保険も、フリーランスは原則対象外です(一部業種の特別加入制度はあります)。
つまりフリーランスエンジニアは、「働けなくなった直後の生活費」を補う短期保障(傷病手当金・労災)も、「長期的に働けなくなったときの生活費」を補う中長期保障(障害厚生年金)も、両方失った状態からスタートしていることになります。
会社員時代の「なんとなく守られている感覚」の正体は、この重層的な公的保障だったのだと、まず認識しておく必要があります。
障害年金|フリーランスは「等級 3 級では 0 円」という落とし穴
ここからは、フリーランスが受け取れる障害年金の具体的な金額と、会社員との差を見ていきます。以下で示す数値は令和 8 年度(2026 年度)の改定額に基づいています。
障害基礎年金の受給額(1 級・2 級 + 子の加算)
障害基礎年金の年額は、令和 8 年度(2026 年度)の 67 歳以下の新規裁定者の場合、以下のとおりです(日本年金機構「障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額」、日本年金機構「令和 8 年 4 月分からの年金額等について」)。
等級 | 年額 | 月額換算 |
|---|---|---|
1 級 | 1,059,125 円 | 約 88,260 円 |
2 級 | 847,300 円 | 約 70,608 円 |
これに加えて、受給権者に生計を維持されている 18 歳到達年度末までの子(障害等級 1・2 級に該当する場合は 20 歳未満)がいる場合、以下の子の加算が付きます。
- 第 1 子・第 2 子: 各 243,800 円/年
- 第 3 子以降: 各 81,300 円/年
たとえば 2 級の認定を受けたフリーランスに未就学の子が 2 人いる場合、年額は「847,300 + 243,800 × 2 = 1,334,900 円」、月額換算で約 111,000 円となります。
障害等級 3 級はフリーランス対象外 — 会社員との決定的な差
障害年金の最大の落とし穴が、この「等級 3 級」の扱いです。
障害等級には 1 級・2 級・3 級(さらに厚生年金の場合は障害手当金)がありますが、障害基礎年金は 1 級・2 級のみが対象です。3 級は障害厚生年金の対象であり、フリーランス(第 1 号被保険者)には支給されません。
会社員なら、たとえば「片手の機能に相当程度の障害が残り、以前と同じ仕事は難しいが軽作業は可能」といった 3 級相当の状態でも、障害厚生年金 3 級として年額 635,500 円(令和 8 年度、最低保障額)を受け取れる可能性があります(日本年金機構「障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額」)。しかしフリーランスは同じ状態でも障害年金はゼロです。
エンジニアは「PC 作業が中心だから重い障害は関係ない」と考えがちですが、腱鞘炎・頸椎症・視覚障害・うつ病など、キーボード入力や画面注視が困難になる障害は決して他人事ではありません。「働けるレベルは残っているが以前ほどは稼げない」という状態が、フリーランスにとって最も経済的インパクトが大きく、かつ公的保障が薄いゾーンだという構造は押さえておく必要があります。
受給要件(初診日・保険料納付要件)と申請の実務ハードル
障害基礎年金を受け取るには、受給要件を満たす必要があります。主な要件は以下の 2 つです(日本年金機構「障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額」)。
- 初診日要件: 障害の原因となった病気やケガについて、初めて医師の診療を受けた日(初診日)に国民年金に加入していること
- 保険料納付要件: 初診日の前々月までの公的年金加入期間のうち、保険料納付済期間と免除期間を合算して 2/3 以上あること(または、初診日の前々月までの直近 1 年間に未納がないこと)
フリーランスは国民年金保険料を自分で納付する必要があるため、未納期間がある方は特に注意が必要です。「1 か月くらい払い忘れても大丈夫だろう」と放置していた期間が、いざというときの受給資格に影響する可能性があります。
また、障害年金の申請は診断書・病歴就労状況等申立書など提出書類が多く、申請から支給決定まで数か月かかるのが一般的です。この間の生活費は自己資金でつなぐ必要があるため、当座の生活防衛資金を確保しておくことが実務的にも重要です。
ケーススタディ: 単価 80 万円のエンジニアが 2 級認定を受けた場合
月額単価 80 万円(年商 960 万円)で稼働しているフリーランスエンジニアが、うつ病により障害等級 2 級の認定を受けたケースを考えてみましょう。配偶者と 8 歳・5 歳の子ども 2 人がいる想定です。
- 稼働停止前の月次売上: 80 万円
- 障害基礎年金 2 級 + 子の加算 2 人分の月額: 約 111,000 円
つまり、月次売上の約 14% しか公的保障ではカバーできないという計算になります。可処分所得ベースで見ても、生活費・家賃・教育費を賄うには到底足りない水準です。この差額を、貯蓄や配偶者の収入、民間保険で埋める必要があります。
遺族年金|「子のいない配偶者」は原則 0 円という盲点
続いて、フリーランスに万一のことがあった場合に遺族が受け取れる遺族年金について整理します。ここにも、多くの解説記事が触れていない盲点があります。
遺族基礎年金の受給対象と受給額(子の人数別)
遺族基礎年金の受給対象は、亡くなった人に生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」に限定されます(日本年金機構「遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)」)。
ここでいう「子」とは、18 歳到達年度末までの子(障害等級 1・2 級に該当する場合は 20 歳未満)を指します。
令和 8 年度の受給額は以下のとおりです。
家族構成 | 年額 | 月額換算 |
|---|---|---|
配偶者 + 子 1 人 | 1,091,100 円 | 約 91,000 円 |
配偶者 + 子 2 人 | 1,334,900 円 | 約 111,000 円 |
配偶者 + 子 3 人 | 1,416,200 円 | 約 118,000 円 |
基本額は 847,300 円で、そこに子の加算(第 1・2 子は各 243,800 円、第 3 子以降は各 81,300 円)が加算される構造です。
子の年齢制限で打ち切られるタイミング — 教育費・住宅ローンとの逆行
ここで重要なのが、子の年齢制限です。遺族基礎年金は、末子が 18 歳到達年度末を迎えると打ち切られます。
たとえば亡くなったときに 5 歳と 8 歳の子どもがいた場合、上の子が 18 歳になった時点で加算が減り、下の子が 18 歳到達年度末を迎えると遺族基礎年金そのものが受給できなくなります。
一方、教育費のピークは大学在学中(18〜22 歳)に訪れます。私立大学理系・自宅外通学の場合、年間 200 万円以上の負担が発生することも珍しくありません(参考: 日本政策金融公庫「教育費に関する調査結果」)。遺族基礎年金は、教育費が最も重くのしかかる時期に打ち切られるという制度上のミスマッチがあることは、しっかり認識しておく必要があります。
住宅ローンについても、団体信用生命保険(団信)で本人死亡時にはローン残債が完済されるのが一般的ですが、それでも維持費(固定資産税・修繕費・光熱費)は残ります。
子がいない場合の代替制度(寡婦年金・死亡一時金)とその限界
遺族基礎年金は「子のある配偶者」または「子」しか受給できないため、子どものいない夫婦のうち一方が亡くなった場合、原則として遺族基礎年金は支給されません。独身のフリーランスの親も同様です。
代替として、以下の制度が用意されています。
- 寡婦年金: 第 1 号被保険者として 10 年以上保険料を納付した夫が老齢基礎年金を受給せずに亡くなった場合、婚姻期間 10 年以上の妻に 60〜65 歳の間支給される(老齢基礎年金の 3/4 相当額)
- 死亡一時金: 第 1 号被保険者として 36 か月以上保険料を納付した人が老齢・障害基礎年金を受給せずに亡くなった場合、生計同一の遺族に一度だけ支給される(12〜32 万円)
ただし、寡婦年金は「夫が亡くなった場合の妻」のみが対象で、逆パターン(妻死亡・夫遺族)には適用されません。死亡一時金も金額としては家族の生活費数か月分にしかならず、遺族年金の代替とは呼べません。
「子どもがいないフリーランス家庭は、公的な遺族保障がほぼゼロに近い」という現実は、民間の死亡保障を検討するうえでの前提として押さえておく必要があります。
会社員との受給額差はいくらか|家族構成別シミュレーション

制度の仕組みを押さえたところで、フリーランスと会社員で受給額がどれだけ違うのかを、家族構成別に対照表で見ていきます。
シミュレーションの前提
以下の前提で、フリーランス(基礎年金のみ)と会社員(基礎 + 厚生)の受給額を比較します。
- 年齢・加入期間: 40 歳、これまで会社員 15 年 + フリーランス 5 年(会社員時代の平均標準報酬月額 45 万円で計算)
- 障害等級: 障害年金は 2 級認定を想定
- 家族構成: 独身/既婚・子なし/既婚・子 1 人(8 歳)/既婚・子 2 人(8 歳・5 歳)の 4 パターン
- 金額: 令和 8 年度(2026 年度)の改定額をベースに概算
なお、会社員側の障害厚生年金・遺族厚生年金は「これまでの厚生年金加入期間の平均標準報酬額」に基づいて計算されます。ここでは平均標準報酬月額 45 万円 × 20 年(240 か月)加入相当を仮定した概算値を使用します。実際の受給額は個々の履歴により変動します。
障害年金の受給額比較表
障害等級 2 級で認定された場合の年額目安です。
家族構成 | フリーランス(基礎のみ) | 会社員(基礎 + 厚生) | 差額(年額) |
|---|---|---|---|
独身 | 847,300 円 | 約 1,596,000 円 | 約 -749,000 円 |
既婚・子なし | 847,300 円 | 約 1,836,000 円※ | 約 -989,000 円 |
既婚・子 1 人 | 1,091,100 円 | 約 2,079,800 円 | 約 -989,000 円 |
既婚・子 2 人 | 1,334,900 円 | 約 2,323,600 円 | 約 -989,000 円 |
※会社員は障害厚生年金 2 級に配偶者加給年金(令和 8 年度 約 240,000 円)が加算されます。障害基礎年金には配偶者加算がない点も、フリーランスの盲点の一つです。
障害 2 級の場合、家族構成にかかわらずフリーランスは会社員より年 75〜100 万円ほど受給額が少ないという結果になります。10 年間受給し続ければ、累計で 750〜1,000 万円の差です。
さらに前述のとおり、障害等級 3 級ではフリーランスの受給額はゼロ、会社員は年 63〜100 万円受給できる(最低保障 635,500 円、実額は加入履歴により変動)ため、差はさらに広がります。
遺族年金の受給額比較表
本人死亡時に遺族が受け取れる年額目安です。
家族構成 | フリーランス(基礎のみ) | 会社員(基礎 + 厚生) | 差額(年額) |
|---|---|---|---|
独身(親が受給者) | 0 円(死亡一時金のみ) | 約 604,000 円※ | 約 -604,000 円 |
既婚・子なし(配偶者) | 0 円(寡婦年金の条件を満たせば妻に一部) | 約 604,000 円※ | 約 -604,000 円 |
既婚・子 1 人 | 1,091,100 円 | 約 1,695,100 円 | 約 -604,000 円 |
既婚・子 2 人 | 1,334,900 円 | 約 1,938,900 円 | 約 -604,000 円 |
※会社員の場合、遺族厚生年金は「亡くなった人の厚生年金加入期間に応じた老齢厚生年金の 3/4」が受給できます。子のいない配偶者や親でも受給対象となる点が、遺族基礎年金と大きく異なります。
遺族年金でも、フリーランスは会社員より年 60 万円前後の差額が発生します。とくに「既婚・子なし」の家庭は、フリーランスの場合ほぼゼロという状態からのスタートです。
家族構成別「フリーランスの不足額」まとめ
上記シミュレーションから、家族構成ごとの重点的な備えを整理すると以下のようになります。
家族構成 | 障害時の不足感 | 死亡時の不足感 | 優先的に備えるべきリスク |
|---|---|---|---|
独身 | 稼働停止で即生活困窮 | 遺族保障はほぼ不要 | 障害・就業不能への備え |
既婚・子なし | 世帯収入の激減 | 配偶者への遺族保障ほぼゼロ | 障害・就業不能 + 配偶者への死亡保障 |
既婚・子あり | 子の加算はあるが会社員より薄い | 子が 18 歳到達年度末で打ち切り | 障害 + 死亡(教育費・住居費の長期資金) |
このように、家族構成によって「何が最も足りないか」は大きく変わります。営業から提案された保険が自分のフェーズに合っているかを、この整理と照合して判断することが重要です。
不足額を埋める 3 つの選択肢|民間保険・私的年金・貯蓄の使い分け

数字で不足額が見えたところで、それをどう埋めるかを考えていきます。手段は大きく分けて「民間保険」「私的年金」「貯蓄」の 3 つです。
民間保険(就業不能保険・収入保障保険・定期保険)の守備範囲と選び方
民間保険は、確率は低いが起きたときの経済的インパクトが大きい事象(障害・死亡)を、少ない保険料で大きな保障に「変換」する仕組みです。フリーランスにとって特に検討すべきは以下の 3 種類です。
- 就業不能保険: 病気やケガで長期間働けなくなったときに、月額給付が受け取れる保険。障害年金の受給要件に満たない状態(軽度〜中等度)もカバーする商品が増えている
- 収入保障保険: 死亡・高度障害時に、契約時に設定した期間の残存年数分、月額給付が受け取れる保険。定期保険の一種だが、年齢経過とともに保障総額が減る分、保険料が抑えられる
- 定期保険(掛捨て型): 死亡・高度障害時に一時金でまとまった保障が受け取れる保険。教育費・住宅ローン残債など、特定時点でまとめて必要になる資金の準備に向く
守備範囲の使い分けとしては、「障害・就業不能 → 就業不能保険」「死亡(月次生活費補填)→ 収入保障保険」「死亡(一時金ニーズ)→ 定期保険」というのが基本形になります。就業不能保険については別記事のフリーランスエンジニアの就業不能保険・所得補償保険ガイドで詳しく解説しています。
私的年金(iDeCo・小規模企業共済・国民年金基金)と老齢年金の底上げ
私的年金は、老齢年金の 2 階部分をフリーランス自身が積み立てて用意する手段です。障害・死亡には直接効かないものの、以下の 3 つは老齢だけでなく「万一の際の遺族一時金」的な役割も持ちます。
- iDeCo(個人型確定拠出年金): 掛金全額所得控除。運用商品を自分で選ぶ。加入者死亡時は「死亡一時金」として遺族が受け取れる
- 小規模企業共済: 掛金全額所得控除。廃業・退職時に共済金として受け取れる。加入者死亡時も遺族が共済金を受け取れる
- 国民年金基金: 掛金全額所得控除。終身年金として受け取れる(付加年金と選択制)。加入者死亡時は遺族に一時金が支給されるタイプもある
いずれも所得控除による節税効果が大きいため、単価が高いフリーランスエンジニアほど積立の効率が上がる仕組みです。老齢年金の底上げについてはフリーランスエンジニアの老齢年金と老後資金対策で詳しく解説しています。
貯蓄(生活防衛資金)と急場をしのぐ役割
貯蓄は、保険や年金では対応しきれない「短期の急場をしのぐ」役割を担います。具体的には以下のような場面です。
- 障害年金の申請から支給決定までの数か月間の生活費
- 就業不能保険の免責期間(多くの商品で 60〜180 日)中の生活費
- 想定より早期に稼働不能になった場合の税金・国民健康保険料の支払い
目安としては、月次固定費の 6〜12 か月分を生活防衛資金として現金・普通預金で確保しておくことが推奨されます。単価 80 万円のフリーランスエンジニアで固定費が月 40 万円なら、240〜480 万円を目安に手元流動性を確保しておくイメージです。
3 つの手段の優先順位 —「障害・死亡は保険、老齢は私的年金、直近リスクは貯蓄」
3 つの手段は、それぞれ守備範囲が異なるため「どれか 1 つ」ではなく組み合わせて設計するのが基本です。優先順位の考え方は以下のとおりです。
- 貯蓄(生活防衛資金)を先に固める: 保険料や積立を始めても、直近 6 か月分の現金がなければ、何かあった瞬間に支払いが滞る
- 障害・死亡は保険で「起きたら大打撃」の部分だけカバーする: 全部を保険で埋めようとしない。公的保障(障害基礎年金・遺族基礎年金)と貯蓄を差し引いた「不足額」だけを保険で補う
- 老齢の底上げは私的年金で節税しながら積む: 所得控除を活かせるフリーランスは、単価が高い時期にこそ iDeCo・小規模企業共済への拠出を優先する
「保険営業に言われるがまま」ではなく、この 3 段階を意識するだけで、過剰加入・過小加入のリスクは大きく減らせます。
フリーランスエンジニアならではの判断軸|単価変動・稼働リスク・スキル陳腐化

一般的な自営業者向けの保障設計論だけでは、エンジニア特有のリスクをカバーしきれない部分があります。ここでは 3 つの判断軸を追加で整理します。
収入変動を前提とした保険料設計(月額固定 vs 収入連動)
フリーランスエンジニアの収入は、案件切り替えのタイミングやスキルのマッチ状況によって月ごとに変動します。年収 800 万〜1,200 万円のレンジで動くことも珍しくありません。
保険料は多くの場合「月額固定」で発生するため、収入が下振れした月でも支払い続ける必要があります。無理な保険料設定をすると、単価が下がった時期に解約せざるを得なくなり、その時点で健康状態が悪化していれば再加入できない、というリスクがあります。
そのため保険料は、年間の下振れ想定額をベースにして設計するのが安全です。「単価 80 万円の月は保険料を払えて当然」ではなく、「単価 50 万円に落ちた月でも払い続けられる保険料か」を基準にしましょう。
フルリモート稼働の身体リスク(腱鞘炎・メンタル不調)と障害年金の関係
エンジニアの働き方に固有のリスクとして、以下が挙げられます。
- 腱鞘炎・頸椎症・眼精疲労: 長時間のキーボード・マウス操作、モニタ注視による職業病
- メンタル不調: 一人稼働・締切プレッシャー・オンライン会議疲労などによる抑うつ・不安障害
- 睡眠障害: 夜間の作業・時差のあるチームとの協業などによる不規則な生活
これらは障害基礎年金の 2 級認定基準(「日常生活が著しい制限を受ける」レベル)に到達するのは容易ではなく、認定されても月額約 7.1 万円+子の加算にとどまります。「働けなくはないが、稼働時間・単価が大幅に落ちる」という中間的な状態が最も起こりやすく、かつ公的保障の穴になっているのがエンジニアの実態です。
就業不能保険を選ぶ際は、精神疾患を給付対象に含む商品か、免責期間が短めの商品かを確認しておくと、この中間状態でも給付を受けられる可能性が高まります。
単価ピーク期に備えを厚くする — キャッシュフローの余裕がある時こそ加入判断のタイミング
フリーランスエンジニアの単価は、市場のトレンド技術(一時期の React、次にクラウド、直近では生成 AI など)に左右されやすく、スキルのミスマッチが起きると単価がガクンと下がることがあります。
保険は健康状態が悪化すれば新規加入が難しくなり、また私的年金の積立効果も加入期間が長いほど大きくなります。「単価が高い今のうちに備えを厚くしておく」という判断は、キャッシュフローに余裕がある時期にしかできません。
「単価が高いから贅沢しよう」ではなく、「単価が高いから将来の下振れに備えよう」という発想の切り替えが、フリーランスエンジニアとして長く続けていくための鍵になります。
今日から始める「万一の備え」チェックリスト

制度の理解と方針が固まったら、あとは実際に動くだけです。以下の 4 ステップを順に進めていきましょう。
ステップ 1 — ねんきんネットで自分の受給額を試算する
まずはねんきんネットにログインし、自分の年金加入履歴と将来の受給額目安を確認します。
- 過去の会社員時代の厚生年金加入期間
- フリーランス独立後の国民年金納付状況(未納期間の有無)
- 障害年金・遺族年金の試算画面
とくに未納期間がある方は、追納・後払いの制度が使えるか(納付期限は原則 2 年)を早めに確認してください。
ステップ 2 — 家族の必要生活費を洗い出す(月額 × 期間)
次に、自分に万一のことが起きたときに家族が必要とする生活費を洗い出します。
- 月額の固定費(家賃・住宅ローン・光熱費・通信費・保険料)
- 月額の変動費(食費・日用品・被服費)
- 特別費(教育費・車の維持費・帰省費)
- 何歳まで必要か(子の独立まで、配偶者の年金受給開始まで、など)
「月額 30 万円 × 15 年」のように、月次金額と期間の掛け算で総額を把握しておきます。
ステップ 3 — 不足額を計算する(月次不足 × 期間)
ステップ 1 とステップ 2 の情報を組み合わせて、以下を計算します。
- 月次不足 = 家族の必要月額 − 遺族基礎年金月額 − 配偶者の収入見込み
- 総不足額 = 月次不足 × 期間 + 一時的な支出(教育費のピーク、住宅の維持費など)
このとき、貯蓄の残高や退職金相当(小規模企業共済の解約金など)も差し引いて計算します。ここで出た「本当に足りない金額」が、民間保険で補うべき保障額の目安になります。
ステップ 4 — 手段を選ぶ(保険・私的年金・貯蓄の配分)
最後に、不足額をどう埋めるかを決めます。
目的 | 手段 | 目安 |
|---|---|---|
短期の生活費 | 貯蓄 | 月次固定費の 6〜12 か月分 |
障害・就業不能 | 就業不能保険 | 月次不足額の 5〜10 年分 |
死亡(月次補填) | 収入保障保険 | 子の独立まで/配偶者の年金開始まで |
死亡(一時金) | 定期保険 | 教育費ピーク・住宅ローン残債 |
老齢の底上げ | iDeCo・小規模企業共済・国民年金基金 | 月 3〜7 万円を目安に節税と両立 |
営業から提案された民間保険と、この表で自分が計算した必要額を突き合わせれば、過剰か過小かを判断できます。数字で語れる状態になれば、営業トークに流されることはなくなります。
「万一」は起こる確率こそ低いですが、起きたときの家族への影響は取り返しがつきません。単価が高く時間の余裕がある今のうちに、公的保障の理解と足りない部分の設計を、静かに進めておきましょう。
よくある質問
- 障害等級3級だと公的保障が0円になるなら、フリーランスは何で備えればいいですか?
障害等級3級はフリーランスに障害基礎年金が支給されないため、公的保障はゼロです。この「働けるが以前ほど稼げない」中間状態は民間の就業不能保険でカバーするのが基本で、精神疾患を給付対象に含む商品かを確認してから加入しましょう。
- 子どものいない夫婦の場合、遺族保障はどう設計すればいいですか?
子のない配偶者は遺族基礎年金の対象外で、寡婦年金も夫死亡時の妻限定と適用範囲が狭いため、公的保障はほぼ期待できません。収入保障保険や定期保険で、配偶者の生活再建に必要な期間・金額を民間保険側で明確に設計する必要があります。
- 保険料は収入が高い月と低い月、どちらに合わせて設定すべきですか?
収入が下振れした月の水準を基準に設計してください。単価が高い月に合わせた保険料設定は、案件切り替えなどで収入が落ちた月に支払えなくなり、解約後に健康状態が悪化していると再加入できなくなるリスクがあるためです。
- 国民年金の未納期間があると、障害年金の受給に影響しますか?
はい、影響します。障害基礎年金は初診日前々月までの保険料納付済期間が2/3未満だと受給要件を満たせないため、未納期間に心当たりがある場合は納付期限(原則2年)内に追納できるかをねんきんネットで早めに確認してください。
- 民間保険とiDeCoなどの私的年金は、どちらから優先して加入すべきですか?
まず生活防衛資金(月次固定費の6〜12か月分)を貯蓄で確保し、次に障害・死亡で起きる不足額を保険で埋め、老齢年金の底上げはiDeCoや小規模企業共済など私的年金で節税しながら積み立てる、という優先順位が基本です。



