「クライアントから直接契約の話をもらったものの、契約書はどれをベースに用意すればよいのか分からない」。フリーランスエンジニアとして独立して1〜3年ほど経つと、多くの方がこの壁にぶつかります。エージェント経由の案件では契約書はエージェントが用意してくれますが、直接契約が増えてくると、契約書の準備・提示・確認まで自分でやらなければなりません。
しかも契約書には「準委任契約書」「請負契約書」「NDA(秘密保持契約書)」といった複数の種類があり、案件形態によって使い分けが必要です。テンプレートは検索すればいくつも出てくる一方で、「今回のケースではどれを選べばいいのか」「クライアントから渡された契約書のどこを疑うべきか」まで踏み込んで教えてくれる情報は多くありません。
さらに2024年11月には「フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)」が施行され、取引条件の書面明示や60日以内の支払期日設定といった新しいルールが加わりました。手元のテンプレートが古いままでは、新法要件を満たせない可能性もあります。
本記事では、フリーランスエンジニアが実務で使う4種類の契約書テンプレートを「準委任・請負・NDA・秘密保持」の切り口で整理し、それぞれの無料ダウンロード先と選び方をまとめました。加えて、クライアントから提示された契約書を鵜呑みにしないためのチェック観点、自分から契約書を提示する際の3ステップ、そしてフリーランス新法対応のポイントまで一気通貫で解説します。
この記事を読み終える頃には、「今日から使える契約書テンプレートが手元に揃い、案件シーンに応じて選び分けられる」「クライアント提示版の危険サインを見抜き、交渉できる」状態を目指せます。
フリーランスエンジニアに必要な契約書テンプレートは4種類

フリーランスエンジニアが実務で使う契約書は、大きく分けて次の4種類です。案件シーンに応じてどれを使うかを判断できるようになると、契約準備の迷いが一気に減ります。
- 準委任契約書(月額稼働・SES類似の常駐案件など)
- 請負契約書(Web制作・システム受託・単発機能開発など)
- NDA・秘密保持契約書(案件の話が始まる前の情報開示段階)
- 業務委託契約書内の秘密保持条項(本契約書の一部として含める)
「業務委託契約」は総称であり、その中身は準委任契約か請負契約のいずれかに分類されます。多くのテンプレートで「業務委託契約書」というタイトルが使われていますが、条項の作りを見れば準委任型か請負型かを判別できます。
準委任契約書(常駐・月額稼働型の案件で使用)
準委任契約は「業務遂行そのもの」を目的とする契約で、成果物の完成義務は負いません。エンジニアの案件では、SES類似の常駐案件・月額の稼働時間ベース案件・技術コンサル業務などが該当します。委任される事務が法律行為ではないため「準」委任と呼ばれ、受託者は善管注意義務(善良な管理者の注意義務)を負って業務にあたります。
準委任契約の特徴は次の通りです。
- 成果物の完成義務がない(=完成しなくても稼働分の報酬は請求できる)
- 契約不適合責任を負わない(民法上)
- 印紙税の対象外(原則)
- 稼働時間の管理・報告が求められることが多い
請負契約書(成果物納品・一括受注型の案件で使用)
請負契約は「成果物の完成・納品」を目的とする契約で、成果物が完成しないと報酬を請求できないのが原則です。Webサイト制作の一括受注、システムの受託開発、単発の機能追加案件などが典型例です。
準委任と比べたときの主な違いは次の3点です。
- 契約不適合責任を負う(納品物に不具合があれば無償で修補する義務など)
- 印紙税の課税対象文書に該当する(金額に応じた収入印紙が必要。電子契約なら不要)
- 検収基準・検収期間の設定が実務上不可欠
「同じ業務委託契約書」というタイトルでも、請負型を選んだ瞬間に契約不適合責任と印紙税が発生する点は、フリーランス側にとって重要な判断ポイントです。
NDA・秘密保持契約書(業務委託契約前・並行締結)
NDA(Non-Disclosure Agreement、秘密保持契約書)は、業務委託契約に先立って「情報を開示するために」締結するケースが多い契約です。案件の相談段階でクライアントの仕様書やソースコードを見る必要がある場合、まずNDAだけを締結してから本契約の交渉に入る、という流れが一般的です。
業務委託契約書の中にも「秘密保持条項」は含まれますが、単体のNDAは以下の点で異なります。
- 業務委託契約が成立する前の情報開示段階から効力を持つ
- 秘密情報の範囲・保持期間・目的外使用禁止を詳細に規定できる
- 一方向型(クライアント→フリーランス)と双務型(双方向)を選べる
エンジニアの案件では、ソースコードやアルゴリズム、顧客の個人情報など、情報漏洩リスクの高いデータを扱う場面が多いため、NDAの重要性は高くなります。
4類型の使い分けマトリクス(案件形態 × 契約類型)
案件シーンごとに、どの契約書テンプレートを使うべきかを整理すると次のようになります。
案件シーン | 主契約 | 併用推奨 |
|---|---|---|
週◯日常駐・月額稼働型 | 準委任契約書 | 業務委託契約書内の秘密保持条項 or 別途NDA |
SES類似の技術支援 | 準委任契約書 | 別途NDA |
Webサイト・システム受託開発(一括) | 請負契約書 | 業務委託契約書内の秘密保持条項 |
単発機能開発・改修 | 請負契約書(または準委任) | 業務委託契約書内の秘密保持条項 |
案件相談前の情報開示 | NDA(単体) | 本契約は後日別途 |
PoC・技術検証フェーズ | NDA + 準委任契約書 | 双方向NDA推奨 |
まずはこの4類型を頭に入れて、目の前の案件がどのパターンに当てはまるかを判断できる状態を目指しましょう。
準委任契約書テンプレートの入手先と選び方
準委任契約書を使うべき案件シーン
準委任契約書は「稼働時間や業務遂行そのもの」に対して報酬が発生するケースで使います。代表的なシーンは次の通りです。
- 週2〜5日常駐して開発に参加する案件(SES類似)
- 月額固定でチームに参加し、稼働時間を報告するリモート案件
- 技術コンサル・アドバイザリー業務
- 特定の成果物を約束せず、業務全般を継続的に支援するケース
「◯月末までにこの機能を完成させて納品」というスコープが明確でない場合、準委任のほうが実態に合うことが多いといえます。
無料DL可能な準委任契約書テンプレート一覧
準委任契約書として使いやすい無料テンプレートは、以下のサイトから入手できます。いずれもフリーランス側が自分から提示する用途にも耐えられる内容です。
- Workship MAGAZINEの業務委託契約書テンプレート(弁護士監修): フリーランス側の視点で監修されており、会員登録なしでWord・PDF両形式をダウンロード可能
- ITプロマガジンの業務委託契約書テンプレート: 準委任・請負の両方に対応する記載項目解説付き。Word/PDFで配布
- mysignの業務委託契約書テンプレート(フリーランス新法対応版): 2024年11月施行の新法要件を織り込み済み。電子契約にそのまま利用可能
- クラウドサインの業務委託契約書テンプレート: 電子契約サービス提供元による監修版。書き方の解説記事付き
複数のテンプレートを並べて比較し、自分の案件形態に近い記載例を採用するのが実務的です。
準委任契約書の必須記載項目チェックリスト
準委任契約書に最低限入れておくべき項目は次の通りです。手元のテンプレートを選ぶ際、これらが揃っているかを確認しましょう。
- 業務範囲(何をどこまで担当するか、範囲外業務の扱い)
- 稼働時間・稼働報告の方法(月○時間、日報・週報の提出有無)
- 報酬額・支払条件(月額または時間単価、支払期日)
- 支払遅延時の遅延損害金
- 善管注意義務の内容
- 再委託の可否
- 秘密保持条項(NDA別途締結の場合はその参照)
- 知的財産権の帰属
- 中途解約条件(予告期間・違約金)
- 契約期間・自動更新の条件
- 損害賠償の上限(重要)
特に「損害賠償の上限」は、テンプレートに明示されていないケースがあります。上限がない契約書は、万が一のトラブル時に賠償額が青天井になるリスクを抱えることになります。
請負契約書テンプレートの入手先と選び方
請負契約書を使うべき案件シーン
請負契約書は「成果物の完成・納品」を約束する案件で使います。代表的なシーンは次の通りです。
- Webサイト制作の一括受注
- 業務システム・スマートフォンアプリの受託開発
- 単発の機能追加・機能改修案件
- 保守契約と分離した「新規開発フェーズのみ」の案件
準委任と請負の見分け方は、「◯月◯日までに◯◯を完成・納品する」という完成義務が契約に含まれているかどうかがポイントです。
無料DL可能な請負契約書テンプレート一覧
請負契約書のテンプレートは、以下のサイトから入手できます。
- マネーフォワード クラウド契約の請負契約書解説とテンプレート: 記載項目・注意点の解説とあわせてダウンロード可能
- テンプレートBANKの請負契約書テンプレート集: Word形式で編集可能。複数のバリエーションから選べる
- 契約大臣の請負契約書テンプレート: 書き方解説付きの無料雛形
請負契約書は準委任と比べて条項が複雑になるため、弁護士監修や解説記事とセットで配布されているテンプレートを選ぶと安心です。
請負契約書の必須記載項目チェックリスト(契約不適合責任・印紙税・検収基準)
請負契約書に最低限入れておくべき項目は次の通りです。準委任にはない請負固有の項目に注意してください。
- 成果物の仕様(できるだけ具体的に。仕様書を別紙添付する形式でも可)
- 納品期日と納品方法
- 検収基準・検収期間(何をもって検収完了とするか、期間経過時のみなし検収規定)
- 契約不適合責任の内容と期間(民法改正後は「引渡し後1年」が原則、実務上は6ヶ月〜1年で合意することが多い)
- 契約不適合時の対応範囲(無償修補・代金減額・損害賠償の上限)
- 報酬額・支払条件・支払期日
- 追加開発・仕様変更時の取扱い(別途見積・追加契約)
- 知的財産権の帰属(納品後の権利移転範囲)
- 印紙税の負担者(紙の契約書の場合。電子契約なら不要)
- 中途解約時の精算方法(着手済み工数の請求可否)
- 損害賠償の上限
請負契約書は課税文書に該当するため、紙で締結する場合は契約金額に応じた収入印紙の貼付が必要です。契約金額が100万円を超える場合、印紙税は数千円から数万円になります(マネーフォワード クラウド契約: 請負契約書に印紙は必要か)。電子契約であれば印紙税は不要なため、コスト面でも電子契約サービスの活用が推奨されます。
NDA・秘密保持契約書テンプレートの入手先と選び方
NDAを単体締結するケースと業務委託契約書内の秘密保持条項の違い
NDAを単体で締結するケースは、主に次のような場面です。
- 案件相談段階で仕様書・ソースコードなど機密情報を見る必要がある
- PoC・技術検証フェーズで、本契約の前に相互に情報を開示し合う
- クライアントの社内資料・顧客リストを前提とした提案書を作成する
一方、業務委託契約書内の秘密保持条項は「業務委託契約が成立してから」効力を持ちます。案件相談中の情報開示までカバーしたい場合は、単体NDAを先行締結する必要があります。
なお、業務委託契約書内の秘密保持条項があるからといって、単体NDAを別途締結しても問題はありません(両者は共存可能)。むしろ「相談段階のNDA→本契約成立→本契約内の秘密保持条項に統合」という流れが一般的です。
無料DL可能なNDA・秘密保持契約書テンプレート一覧
エンジニア案件で使いやすいNDAテンプレートは、以下のサイトから入手できます。
- クラウドサインのNDA(秘密保持契約書)経済産業省公式ひな形: 経済産業省が公開している標準ひな形をWordファイルで配布。監修解説付き
- bizoceanの秘密保持契約書テンプレート集: 用途別に複数バリエーションを無料配布
- mysignの双務型NDAテンプレート: PoC・共同開発・要件定義フェーズ向け。フリーランス側にも配慮した記載
経済産業省が公開している標準ひな形をベースにすると、極端に不利な条項が入っていないため安心して使えます。
エンジニア案件で押さえるべきNDAの必須記載項目
エンジニア案件のNDAでは、次の項目を確認しましょう。
- 秘密情報の定義(口頭で伝えられた情報を含めるか、書面明示分のみか)
- 秘密情報の例外(既に公知の情報・独自開発の情報など)
- 秘密保持期間(契約終了後何年間か。3〜5年が一般的)
- 目的外使用の禁止範囲
- 第三者開示の可否と条件(再委託先・弁護士・税理士など専門家への開示例外)
- 秘密情報の返還・廃棄義務
- 違反時の損害賠償・差止請求
- 一方向型か双務型か(フリーランス側の情報も守るなら双務型を選択)
- ソースコード・アルゴリズム・技術的ノウハウの取扱い(エンジニア案件特有の追加条項)
特に「ソースコード・アルゴリズム」については、業務中に得た技術的知見をフリーランス側の一般的スキルとして今後の案件に転用してよいのか、あいまいなまま契約するとトラブルの火種になります。可能な限り、「本件で得た一般的な技術知識・スキルは秘密情報に含めない」旨を明記できると安心です。
クライアント提示の契約書をチェックする5つの落とし穴

クライアントから提示された契約書は、そのままサインする前に必ずチェックしましょう。ここでは、フリーランスエンジニアが特に注意すべき5つの落とし穴を、「危険サイン→交渉ポイント→修正例」の3ステップで解説します。契約書全般の受注側チェック観点は業務委託契約書の確認ポイント7項目もあわせて参照すると、本記事の5観点と組み合わせて抜け漏れを減らせます。
契約類型が実態と合っているか(準委任なのに請負と表記されていないか)
- 危険サイン: 実際の業務は「稼働時間ベースの支援」なのに、契約書のタイトルが「業務委託(請負)契約書」となっており、成果物完成義務・契約不適合責任・検収条項が入っている
- なぜ危険か: 請負契約と誤認されると、成果物が完成しない限り報酬を請求できず、納品後の不具合対応も無償で背負うリスクがある
- 交渉ポイント: 実態に応じて「準委任契約書」に変更するか、請負のままでも「業務範囲を業務遂行として明示」「契約不適合責任の期間・範囲を限定」する
- 修正例: 「本契約は民法第656条に定める準委任契約とする」の一文を追加、または請負部分を成果物ごとに切り分けて別契約化
報酬額と支払期日の明確化(フリーランス新法の60日以内支払い)
- 危険サイン: 支払期日が「翌々月末日払い」「検収完了後60営業日以内」など、給付日から60日を超える設定になっている
- なぜ危険か: フリーランス新法(2024年11月施行)で、従業員を使用する発注者は給付を受領した日から60日以内のできる限り早い日に報酬を支払う義務があります(鮎澤パートナーズ: フリーランス新法の概要と企業の対応)
- 交渉ポイント: 支払期日を「給付日から60日以内」に修正するよう依頼。可能なら「月末締め翌月末払い」など短縮を交渉
- 修正例: 「乙が甲に対して給付を行った日から起算して60日以内に支払うものとする」を明記
検収基準と契約不適合責任の範囲
- 危険サイン: 「甲が満足するまで」「発注者の合理的な判断により」といった主観的な検収基準になっている。契約不適合責任の期間が「無期限」または「引渡し後3年以上」と長く設定されている
- なぜ危険か: 主観的な検収基準は、いつまで経っても検収完了とならず報酬が入らないリスクがある。契約不適合責任期間が長すぎると、納品後も長期にわたって無償対応のリスクを抱える
- 交渉ポイント: 検収基準を「事前合意した仕様書・受入テスト項目に基づく」と客観化し、検収期間を明示(例: 納品後14日以内、期間経過で自動的に検収完了)。契約不適合責任期間は6ヶ月〜1年に限定
- 修正例: 「甲は納品物受領後14営業日以内に検収を完了するものとし、当該期間内に書面による通知がない場合は検収完了とみなす」「契約不適合責任の期間は引渡し後6ヶ月とする」
条文サンプルや検収期間の合意方法を条項レベルで詰めたい場合は、フリーランスエンジニアの検収基準の書き方が3要素と条文例をまとめており実務で使いやすいです。
知的財産権の帰属(ソースコード・成果物の権利)
- 危険サイン: 「本業務で乙が作成した一切の著作物・発明・ノウハウは、対価の支払いの有無にかかわらず甲に帰属する」といった包括的な権利移転条項がある
- なぜ危険か: 未払い時にも権利だけが移転してしまう、汎用ライブラリや一般的な技術ノウハウまで発注者の権利になってしまうといった不利益が生じる
- 交渉ポイント: 権利移転を「対価の完済を条件とする」ことにする。汎用的な技術ノウハウ・自作ライブラリは除外を明記
- 修正例: 「本件成果物に関する著作権(著作権法第27条・第28条の権利を含む)は、報酬全額の支払完了時に甲に移転するものとする。ただし、乙が本契約前から保有していた著作物・汎用的な技術ノウハウは移転対象外とする」
著作権譲渡条項の読み方・第27条第28条の実務上の意味はフリーランスエンジニアの著作権譲渡条項の読み方で条文単位に解説していますので、包括譲渡型の条項が提示されたときの反論根拠として活用できます。
中途解約条件と違約金・損害賠償の上限
- 危険サイン: クライアント側からはいつでも無償で解約できる一方、フリーランス側からの解約には「3ヶ月前予告+違約金」といった非対称な条件がある。損害賠償の上限が設定されていない、または「一切の損害」を賠償する条項がある
- なぜ危険か: 一方的に不利な解約条件は、案件開始後に交渉力を失う原因になる。損害賠償の上限がない契約は、万一のトラブル時に賠償額が青天井になる
- 交渉ポイント: 解約条件を対称にする(双方から◯日前予告で解約可能など)。損害賠償の上限を「本契約の直近◯ヶ月分の報酬額を上限とする」で設定
- 修正例: 「本契約は、甲乙いずれからでも30日前の書面通知により解約できるものとする」「甲乙間の損害賠償の総額は、当該損害発生時の直近3ヶ月分の報酬額を上限とする(故意または重過失の場合を除く)」
損害賠償・瑕疵担保責任の相場感(月額◯ヶ月分・除外事由・準委任 vs 請負の違い)を条文レベルで比較したい場合は、フリーランスエンジニアの損害賠償・瑕疵担保責任で交渉時に持ち出せる具体数値を確認できます。
自分から契約書を提示するときの3ステップ

直接契約でクライアントに契約書を用意する立場になったとき、次の3ステップで進めるとスムーズです。
案件形態に応じたテンプレ選定(判定フロー)
自分から契約書を提示する場合、まずは案件形態に合う契約書テンプレートを選びます。判定フローは次の通りです。
- 案件相談段階で機密情報を受け取る必要があるか → Yesなら先にNDA単体を締結
- 業務は「稼働時間ベース」か「成果物納品ベース」か → 稼働時間ベースなら準委任、成果物ベースなら請負
- 稼働時間と成果物の両方があるか → 別契約に分離するか、主要な業務形態でどちらかを選択
- 選んだ主契約テンプレートに、業務範囲・報酬・秘密保持・知財権・解約条件が揃っているかを確認
判定に迷ったら、まずは準委任型テンプレートをベースにするのが安全策です。準委任は契約不適合責任・印紙税が発生せず、フリーランス側の負担が軽くなります。
テンプレを自案件用にカスタマイズする際の必修編集項目
テンプレートをそのまま送付するのではなく、次の項目は案件ごとに必ずカスタマイズしましょう。
- 業務範囲(具体的な作業内容・スコープ・範囲外項目)
- 報酬額と支払条件(月額・時間単価・支払期日)
- 契約期間と更新条件
- 稼働時間の目安(準委任の場合)または納品期日と仕様(請負の場合)
- 中途解約条件(予告期間・違約金の有無)
- 秘密保持の範囲と期間
- 知的財産権の帰属
- 損害賠償の上限
テンプレートの空欄・「◯◯」箇所を全て埋めきることが必須です。カスタマイズが甘いまま送付すると、クライアント側で有利に書き換えられたバージョンが返ってくることがあります。
電子契約サービスを使った署名フローと保管
契約締結には、電子契約サービスの活用が推奨されます。主要な電子契約サービスとして、クラウドサイン、freeeサイン、GMOサインなどがあります。
電子契約サービスを使うメリットは次の通りです。
- 印紙税が不要(紙の契約書と異なり、電子契約は課税文書に該当しない)
- 郵送・押印の手間がなく、締結完了までのリードタイムが数分〜数時間に短縮
- 契約書の一元管理・検索性の向上
- 改ざん検知・タイムスタンプによる証拠力の確保
無料プランで月数件までの締結ができるサービスもあるため、案件数が少ないうちは無料枠から始めて、締結頻度が増えたら有料プランに移行するのが現実的です。契約書の保管は、電子契約サービス内での保管に加えて、自分のクラウドストレージ(Google Drive・Dropboxなど)にもコピーを保管する二重管理をおすすめします。
フリーランス新法(2024年11月施行)に対応した契約書のポイント

2024年11月1日、フリーランス新法(正式名称「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)が施行されました。フリーランス側にとっては保護が強化された一方、契約書テンプレートが新法に対応していないと発注者側が違反状態になるため、契約書レビュー時に確認したいポイントを整理します。新法全体の権利・実務チェックリストはフリーランス新法2026年最新版の5つの権利と実務チェックリストにまとめているので、本節と併読すると自分の契約書が新法水準を満たしているか一気に点検できます。
フリーランス新法で契約書に明示が必要になった項目
フリーランス新法では、業務委託の際に発注者から特定受託事業者へ、直ちに書面または電磁的方法(メール・チャット・クラウド契約システム)で取引条件を明示する義務が課されました(ベンチャースタートアップ弁護士の部屋: フリーランス新法企業が知っておくべき規制対応と契約実務のポイント)。
明示が必要な項目は次の通りです。
- 業務の内容
- 報酬の額
- 支払期日
- 発注者・受託者双方の名称
- 業務委託をした日
- 給付を受領する日または役務の提供を受ける期日
- 給付を受領する場所または役務の提供を受ける場所
- 検査完了日(検査を行う場合)
- 現金以外で報酬を支払う場合はその方法
これらは書面(契約書)で網羅されていれば別途明示書は不要ですが、逆にいえば、契約書に上記項目が抜けているとフリーランス新法の書面明示義務を満たしていないことになります。
60日以内支払いのルールと契約書への反映例
フリーランス新法により、特定業務委託事業者(従業員を使用する発注者)は、給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り早い日に報酬の支払期日を設定し、その期日内に報酬を支払う義務があります(鮎澤パートナーズ: フリーランス新法の概要と企業の対応)。
契約書への反映例としては、支払条件の条項を以下のように書きます。
- 「甲は、乙による給付の受領日(役務の場合は役務提供完了日)から起算して60日以内のできる限り早い日を支払期日とし、当該期日までに報酬を支払うものとする」
- 「甲乙間で支払期日を別途書面で合意した場合であっても、当該期日は給付受領日から60日を超えないものとする」
「月末締め翌々月末払い(=最大約60日)」といった従来慣行のままでは、給付日から60日をオーバーするケースが出るため、契約書と実運用の両面で確認が必要です。
新法対応版テンプレートを選ぶ際の見分け方
新法対応版のテンプレートを選ぶ際は、次のポイントを確認しましょう。
- 明示的に「フリーランス新法対応」と記載されている(更新日が2024年11月以降)
- 支払期日の条項が「給付受領日から60日以内」となっている
- 取引条件明示に必要な9項目が契約書内で網羅されている
- 買いたたき禁止・報酬減額禁止・受領拒否禁止といった発注者側の禁止行為に反する条項が含まれていない
古いテンプレートを使い続けると、発注者側が意図せず違反状態になるリスクがあります。前述のmysignのフリーランス新法対応版テンプレートのように、新法対応が明示されているものを選ぶのが安全です。
よくあるトラブル事例と契約書での予防策
契約書は「トラブルが起きたときにこそ効力を発揮する」ものです。実際にフリーランスエンジニアが遭遇しやすいトラブル事例と、契約書のどの条項があれば予防できたかを整理します。他のフリーランスがどのようなトラブルに巻き込まれ、どう回避しているかの事例集はフリーランスエンジニアの契約トラブル事例5選にまとめており、本節の予防策と組み合わせるとリスクの全体像がつかめます。
報酬未払い・支払遅延トラブル
- 事例: 納品後にクライアントから「予算が確保できなかった」「上長承認が下りない」などの理由で支払いが遅延、または一部しか支払われない
- 予防できた条項:
- 支払期日の明記(給付日から60日以内)
- 支払遅延時の遅延損害金(年14.6%が一般的)
- 支払遅延時の中途解約権と着手済み工数の請求権
- 前金・分割払いの設定(着手金+中間金+納品時支払)
- 実務Tips: 高額案件・長期案件では、前金・分割払いを契約書に組み込むと未払いリスクを大幅に軽減できます
仕様追加・スコープクリープの無償対応要求
- 事例: 「ちょっとした修正だから」「元々含まれているはず」といった理由で、契約書に記載のない追加開発を無償で要求される
- 予防できた条項:
- 業務範囲・成果物仕様の具体化(別紙で仕様書を添付)
- 範囲外業務の取扱い(別途見積・追加契約が必要である旨)
- 追加開発時の単価設定(時間単価または機能単位の追加料金表)
- 仕様変更時の承認プロセス(書面またはメールでの合意)
- 実務Tips: 「範囲外業務は別途見積」の一文があるだけで、追加要求時の交渉がしやすくなります
ソースコード・成果物の権利トラブル
- 事例: 納品後にクライアントが「このコードを自社の別プロダクトでも使いたい」「他のフリーランスに引き継がせるので提供して」と要求。あるいは、フリーランス側が汎用ライブラリを別案件でも使いたいのに拒まれる
- 予防できた条項:
- 知的財産権の帰属範囲(対価完済を条件とする移転)
- 汎用ライブラリ・技術ノウハウの除外条項
- 二次利用・第三者提供の可否
- 納品成果物の範囲(バイナリのみか、ソースコード込みか)
- 実務Tips: 「本契約前から乙が保有していた著作物・汎用的な技術ノウハウは移転対象外」の一文が、後の案件での再利用を守ります
秘密保持義務違反を疑われるケース
- 事例: 別案件で似た技術を使ったら「前案件の秘密情報を流用した」と指摘される。あるいは、案件終了後にSNSやポートフォリオで実績公開したら「秘密情報の漏洩だ」と主張される
- 予防できた条項:
- 秘密情報の定義の明確化(書面明示分のみか、口頭情報を含むか)
- 秘密情報の例外(既に公知・独自開発など)
- 実績公開・ポートフォリオ利用の可否(事前に許諾を得るなど)
- 秘密保持期間の限定(契約終了後◯年など)
- 一般的な技術知識・スキルは秘密情報に含めない旨の明記
- 実務Tips: 実績公開を将来したい場合は、契約締結時に「クライアント名・案件概要の公表可否」を書面で確認しておくと、後で揉めずに済みます
まとめ|契約書テンプレートは「使い分け」と「チェック」で価値が決まる
フリーランスエンジニアが実務で使う契約書は、準委任・請負・NDA・秘密保持の4類型に整理できます。テンプレートを単に集めるだけでは不十分で、次の3点を実践してこそ契約書は本来の価値を発揮します。
- 自分の案件形態に合わせて4類型を使い分ける(本記事「フリーランスエンジニアに必要な契約書テンプレートは4種類」の使い分けマトリクスを判断軸に)
- クライアント提示版を鵜呑みにせず、5つの落とし穴を必ずチェックする
- フリーランス新法(2024年11月施行)の要件を満たしたテンプレートを使う
今日から取れる具体的なアクションとして、次の2つをおすすめします。
- 4類型のテンプレートを今日中にダウンロードし、自分のクラウドストレージに「契約書テンプレート」フォルダを作って保管する(前述の各テンプレート紹介からダウンロード可能)
- 次回、クライアントから契約書を提示されたときに、本記事の「クライアント提示の契約書をチェックする5つの落とし穴」をチェックリストとして使う
契約書は「守り」のツールですが、テンプレートと判断基準が手元にあれば「攻め」の交渉にも使えます。契約トラブル・報酬未払い・知財トラブルを未然に防ぎ、安心して次の案件に集中できる環境を整えていきましょう。
なお、本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の契約書レビュー・法律相談に代わるものではありません。高額案件・重要案件では、弁護士による個別レビューを併用することを推奨します。
よくある質問
- 準委任と請負、どちらのテンプレートを使うか迷ったときはどうすればいいですか?
判断に迷う場合は準委任型テンプレートを選ぶのが安全策です。準委任は成果物の完成義務を負わず、契約不適合責任や印紙税も発生しないため、フリーランス側の負担が軽くなります。
- クライアント提示の契約書に損害賠償の上限が書かれていない場合、どう対応すればいいですか?
損害賠償の上限がない契約書は、トラブル発生時に賠償額が青天井になるリスクがあります。「直近◯ヶ月分の報酬額を上限とする」といった具体的な条項を追記するよう交渉し、書面で合意してから契約を締結してください。
- NDAと業務委託契約書内の秘密保持条項を両方締結しても問題ありませんか?
問題ありません。NDAは契約成立前の情報開示を保護し、契約内の秘密保持条項は契約成立後の義務を規定するもので、対象期間が異なるため役割が重複せず併存できます。
- フリーランス新法の60日以内支払いルールは、個人発注のクライアントにも適用されますか?
60日以内支払いの義務は、従業員を使用する「特定業務委託事業者」が対象です。従業員を雇っていない個人事業主の発注者は対象外となるため、契約書に支払期日を明記したうえで個別に交渉する必要があります。
- 契約書テンプレートをカスタマイズする際、特に見落としやすい項目は何ですか?
「知的財産権の帰属」と「損害賠償の上限」は見落とされがちです。特に汎用ライブラリや技術ノウハウの扱いを明記しないと、後の案件での再利用が制限されるリスクがあるため、必ず自案件用に編集しましょう。



