「来期は採用コストを20%削減してほしい」。経営会議でそう告げられたものの、いざ手を動かそうとすると壁にぶつかります。ネットを検索すれば「採用コスト削減の方法◯選」という記事はいくらでも見つかります。求人媒体の見直し、選考フローの短縮、リファラル採用の強化——施策の名前は知っています。それでも資料を作ろうとすると手が止まる。なぜなら「その施策で、うちの会社は結局いくら浮くのか」を金額で示せないからです。
多くの採用担当者が把握できているのは、エージェントに払う手数料や求人広告費といった「請求書として届く外部コスト」だけです。一方で、面接官が選考に費やす時間、入社後のオンボーディングにかかる工数、せっかく採った人が早期に辞めてしまったときの再採用コストといった「請求書として届かない内部コスト・隠れコスト」は、金額にした経験がほとんどありません。だから削減効果の全体像が描けず、施策の優先順位もつけられず、稟議の根拠も作れない——ここが本当のペインポイントです。
この問題の解き方は、施策をもう1つ増やすことではありません。「自社の採用コストを試算する」ことから始めることです。現状のコストを棚卸しして金額にし、削減施策ごとに「効果額の計算式」を当てはめれば、「現状◯◯万円 → 削減後◯◯万円(削減率◯%)」という形で、経営層にそのまま提出できる数字が出てきます。
本記事では、採用コスト削減の試算方法を「削減効果を金額で出す4ステップ」として解説します。現状コストの棚卸しの手順、施策別の効果額を金額化する計算式テンプレート、削減前後を比較するシナリオの作り方、そして試算結果を稟議に落とし込むフォーマットまで、自社の数字を当てはめれば試算が完成するように整理しました。読み終えたとき、あなたは「施策リスト」ではなく「削減効果額の試算表」を手にしているはずです。
なぜ「採用コスト削減の試算方法」が必要なのか|施策リストだけでは削減できない
採用コスト削減のための施策は、もはや情報として不足していません。検索すればいくらでも出てきます。それなのに削減が進まないのは、施策の知識が足りないからではなく、「自社で何円削減できるか」を試算する手順が抜け落ちているからです。
削減施策を集めても削減できない3つの壁
削減施策のリストをいくら集めても、次の3つの壁を越えられなければ実際の削減には結びつきません。
壁1: 効果額が不明 「リファラル採用を強化すればコストが下がる」と言われても、自社で年間いくら下がるのかが分かりません。効果額が金額で見えないため、複数の施策を比べて「どれから手をつけるべきか」を決められません。
壁2: 隠れコストが未把握 採用コストとしてカウントしているのが外部コスト(エージェント手数料・求人広告費)だけだと、削減のインパクトを過小評価してしまいます。実際には、面接官の工数や早期離職の再採用コストといった隠れコストが採用コスト全体の大きな割合を占めることが珍しくありません。隠れコストを試算に入れていないと、本当に効く施策を見逃します。
壁3: 稟議の根拠不足 「この施策で年間◯◯万円削減できる見込みです」という金額の裏付けがないと、予算稟議は通りません。経営層が見たいのは施策の名前ではなく、投資額と回収額(削減額)の関係です。根拠となる試算がなければ、施策そのものが承認されないのです。
この3つの壁は、いずれも「試算ができていない」ことが原因です。逆に言えば、試算さえできれば3つの壁は同時に越えられます。
「試算」から始めると意思決定が動く理由
施策ではなく試算から始めると、意思決定の順序が逆転します。先に「自社の採用コストはいくらで、どこに無駄が集中しているか」を金額で把握すれば、削減余地の大きい領域がひと目で分かります。すると「削減余地が大きい順に施策を当てはめる」という自然な優先順位が生まれます。
さらに、各施策の効果額を金額で出しておけば、「施策A=年間120万円削減、施策B=年間40万円削減」という比較ができ、限られた工数をどこに投じるべきかが定量的に判断できます。そして最後に、その試算をそのまま稟議資料に転記すれば、根拠のある予算申請が完成します。
つまり試算は、施策選定・優先順位づけ・稟議通過という3つの工程をまとめて前進させる起点になります。本記事はこの「試算の手順書」です。次章以降で、試算の入力となる現状コストの棚卸しから順に進めていきます。
採用コストの全体像|試算の前に棚卸しすべき3区分

削減効果を試算するには、まず「削減前の現状コスト」という基準値が必要です。基準値が曖昧なままでは、削減後の数字と比べても意味のある差が出せません。ここでは、試算の入力となる現状コストを集めるために、採用コストを3つの区分に分けて棚卸しします。
なお、採用コストの相場や内訳そのものを詳しく知りたい場合は、エンジニア採用コストの内訳と相場で体系的に解説しています。本記事では相場の解説は最小限にとどめ、「試算に使う数字をどう集めるか」に焦点を当てます。
外部コスト|エージェント手数料・求人広告費・媒体費の集計
外部コストは最も把握しやすい区分です。社外への支払いとして請求書や契約書に金額が残っているためです。集計対象は主に次の項目です。
- 人材紹介(エージェント)手数料: 採用が決まると発生する成功報酬。相場は採用者の理論年収の30〜35%とされ、年収600万円の人材なら180万〜210万円程度になります(doda 採用単価ガイド)
- 求人広告・媒体費: 求人サイトへの掲載料、ダイレクトリクルーティングの利用料、スカウト送信費用など
- その他外注費: 採用代行(RPO)、適性検査ツール、面接調整ツールなどの利用料
これらを「直近1年間の実績」または「直近の採用1件あたり」で集計します。試算の単位は後のステップで揃えるので、まずは漏れなく拾い出すことが優先です。
内部コスト|関与者の時給×作業時間で見積もる
内部コストは、採用活動に社員が費やした時間を金額に換算したものです。請求書が届かないため見落とされがちですが、面接・書類選考・候補者対応・オンボーディングなどに多くの工数がかかっており、金額にすると無視できない規模になります。
内部コストの基本的な計算式は次の通りです。
内部コスト = 関与者の時給 × 作業時間
時給は「年収 ÷ 年間総労働時間(おおむね2,000時間)」で概算できます。たとえば年収720万円の社員なら時給は約3,600円です。この時給に、その人が採用活動に使った時間を掛けます。
具体的には、次のような工程ごとに「誰が・何時間関わったか」を洗い出します。
- 求人票の作成・媒体運用
- 書類選考・スクリーニング
- 一次面接・二次面接・最終面接(面接官それぞれの時間)
- 候補者との日程調整・連絡対応
- 内定者フォロー・入社手続き
- 入社後のオンボーディング(受け入れ部署の指導工数を含む)
特に見落としやすいのが、複数の面接官が関わる面接工程と、現場のマネージャーが担うオンボーディング工数です。エンジニア採用では、現場のシニアエンジニアが面接官を兼ねるケースが多く、その時給は高めです。高単価の社員の時間ほど内部コストへのインパクトが大きいため、丁寧に拾います。
隠れコスト|採用までの空白期間の機会損失・早期離職の再採用コスト
3つ目の区分が、最も金額化の経験が少ない隠れコストです。これは「採用がうまくいかなかったことで発生する損失」であり、試算に含めるかどうかで削減効果の見え方が大きく変わります。代表的なものは2つです。
1. 採用までの空白期間の機会損失 ポジションが埋まらない期間、その役割が生み出すはずだった価値が失われています。エンジニアの欠員であれば、開発が遅延した分の売上機会やプロジェクト遅延コストが該当します。完全な金額化は難しいものの、「埋まらなかった月数 × 1人あたりの想定貢献額(または外注した場合の代替費用)」で概算できます。
2. 早期離職の再採用コスト 採用した人が早期に離職すると、それまでにかけた採用コスト・オンボーディングコストが回収できないまま、もう一度同じコストをかけて採用し直すことになります。実質的に採用コストが二重に発生する形です。
早期離職の影響額 = (1人あたり採用コスト + オンボーディングコスト) × 早期離職人数
隠れコストは推計を含むため、後述する稟議化のステップでは「前提条件」を明記して扱います。ただし、隠れコストを試算に入れるか入れないかで「削減のインパクトが大きい施策」の順位が変わるため、概算でも入れておく価値があります。
ここまでの3区分を棚卸しすれば、試算の入力データが揃います。次章では、これらを使って実際に削減効果額を計算する4ステップに進みます。
採用コスト削減の試算方法|効果額を金額で出す4ステップ

ここが本記事の中核です。採用コスト削減の試算方法を、4つのステップで進めます。ステップ1で現状を棚卸しして採用単価を出し、ステップ2で削減余地の大きい施策を選び、ステップ3で施策ごとの効果額を計算し、ステップ4で削減前後のシナリオ表にまとめます。各ステップに数値例を添えるので、自社の数字に置き換えて進めてください。
ステップ1|現状の採用コストを棚卸しして採用単価を出す
まず、先ほどの3区分(外部・内部・隠れ)を合算し、現状の総採用コストと採用単価を算出します。
総採用コスト = 外部コスト + 内部コスト + 隠れコスト
採用単価 = 総採用コスト ÷ 採用人数
数値例として、年間にエンジニアを5名採用している企業を考えます。
区分 | 年間金額 | 内訳の例 |
|---|---|---|
外部コスト | 700万円 | エージェント手数料・媒体費(5名分) |
内部コスト | 250万円 | 面接・選考・オンボーディング工数 |
隠れコスト | 150万円 | 空白期間の機会損失・早期離職の再採用 |
合計 | 1,100万円 | — |
この場合、採用単価は 1,100万円 ÷ 5名 = 220万円/人 となります。外部コストだけを見ていた時点では採用単価を140万円(700万円÷5名)と認識していたかもしれませんが、内部・隠れコストを含めると実態は220万円です。この「実態の採用単価」が削減効果を測る基準値になります。
ステップ2|削減余地の大きい施策を選ぶ
次に、棚卸しの結果から「どこに無駄が集中しているか」を読み取り、削減余地の大きい施策を選びます。判断の手がかりは、3区分の構成比です。
- 外部コスト比率が高い(上の例では64%)→ 採用チャネルの見直し・エージェント依存度の低下が効きやすい
- 内部工数比率が高い→ 選考フローの短縮・採用管理ツールによる工数削減が効きやすい
- 隠れコスト比率が高い→ 選考歩留まりの改善・ミスマッチ防止(早期離職対策)が効きやすい
闇雲に全施策を並べるのではなく、構成比の大きい区分に対応する施策から優先的に試算します。上の例では外部コストが最大なので、まず採用チャネルの見直しを試算対象にする、という判断になります。
ステップ3|施策ごとの削減効果額を計算する
選んだ施策ごとに、削減効果額を計算式で算出します。施策別の具体的な計算式は次章のテンプレートで詳しく示しますが、共通の考え方は「削減できる対象量 × 単価」です。
たとえば「エージェント経由の採用比率を下げ、ダイレクトリクルーティングに一部置き換える」施策なら、次のように計算します。
削減効果額 = (エージェント採用人数の削減分) × (エージェント単価 − ダイレクト単価)
仮にエージェント単価180万円・ダイレクト単価60万円で、5名のうち2名をダイレクト採用に置き換えると、削減効果額は 2名 × (180万円 − 60万円) = 240万円 となります。このように、施策ごとに金額を1つずつ積み上げていきます。
ステップ4|削減前後のシナリオ表を作る
最後に、選んだ施策の効果額を合算し、削減前後を比較するシナリオ表にまとめます。これが稟議に載せる試算の完成形です。
項目 | 現状 | 削減後 | 削減額 |
|---|---|---|---|
外部コスト | 700万円 | 460万円 | △240万円 |
内部コスト | 250万円 | 200万円 | △50万円 |
隠れコスト | 150万円 | 120万円 | △30万円 |
総採用コスト | 1,100万円 | 780万円 | △320万円 |
採用単価 | 220万円 | 156万円 | △64万円 |
この例では、現状1,100万円 → 削減後780万円(削減率約29%)という試算になりました。経営層が見たいのはまさにこの「現状→削減後(削減率)」の1行です。次章では、ステップ3で使う施策別の効果額計算式を、施策ごとに詳しく展開します。
施策別「削減効果額」の計算式テンプレート

ここでは、代表的な削減施策ごとに「効果額を金額化する計算式」を用意しました。先ほどのステップ3で、自社が選んだ施策に対応する式を当てはめて効果額を積み上げてください。各式に簡単な数値例を添えます。
採用チャネル見直しの効果額
エージェント依存を下げ、ダイレクトリクルーティングやリファラル採用など単価の低いチャネルに置き換える施策です。チャネルごとの単価差に、置き換える人数を掛けて算出します。
削減効果額 = 置き換え人数 × (現行チャネル単価 − 新チャネル単価)
数値例: エージェント単価180万円の採用を3名分、リファラル採用(単価30万円)に置き換える場合 → 3名 × (180万円 − 30万円) = 450万円の削減
ただし、新チャネルの立ち上げには初期工数(リファラル制度の設計・社内告知など)がかかるため、初年度はその工数コストを差し引いた純額で見るのが保守的です。
内部工数削減の効果額
選考フローの短縮や採用管理ツール(ATS)の導入により、採用活動の作業時間そのものを減らす施策です。削減できる工数に、その作業を担う社員の時給を掛けて算出します。
削減効果額 = 削減工数(時間) × 関与者の時給
数値例: 採用管理ツールの導入で、候補者対応・日程調整の工数を年間400時間削減。担当者の時給が3,000円の場合 → 400時間 × 3,000円 = 120万円の削減(ツール利用料を差し引いた純額で評価)
面接回数を減らす場合は、削減される面接1回あたりに「面接官全員の時間」が含まれる点に注意します。高単価のシニアエンジニアが複数人で面接していると、面接1回の削減インパクトは想像以上に大きくなります。
選考歩留まり改善の効果額
応募から採用までの歩留まり(通過率)を改善すると、同じ採用人数を達成するために必要な母集団が小さくて済みます。これにより、不要な応募対応の工数と、追加の母集団形成費(広告の追い出稿など)が減ります。
削減効果額 = 削減できる応募対応工数 × 時給 + 削減できる追加母集団形成費
数値例: スクリーニング精度の向上で、書類選考にかける応募対応工数を年間200時間削減(時給3,000円)し、追加の広告出稿50万円を回避できた場合 → 200時間 × 3,000円 + 50万円 = 110万円の削減
歩留まり改善はミスマッチの低減を通じて早期離職の抑制にもつながりますが、その効果は次の隠れコストの式と二重に計上しないよう注意します(詳しくは次章で扱います)。
フリーランス・業務委託活用の効果額
一部のポジションを正社員採用ではなくフリーランス・業務委託で充当すると、その分の採用費・社会保険料の事業主負担・採用までの空白期間コストを回避できます。回避できる費用の合計が効果額になります。
削減効果額 = 回避できる採用費 + 回避できる社保等の事業主負担 + 回避できる空白期間の機会損失
数値例: 本来エージェント経由で採用予定だった1名分(採用費180万円)をフリーランス活用に切り替え、社保等の事業主負担相当(年間で概算100万円規模)と、採用までの空白期間3か月分の機会損失を回避できた場合、合計で数百万円規模の回避額になります。
フリーランス・業務委託の活用は、採用工程そのものを発生させない(=採用コストをゼロにする)という意味で、削減効果が大きい選択肢です。ただし、業務委託費という別のランニングコストが発生するため、正社員採用との総コスト比較で判断する必要があります。
- 採用工程の工数を具体的に削減する手順はフリーランス活用で採用工数を削減する手順で解説しています
- 社会保険料を含む総コストの試算は社会保険料の総コスト試算が参考になります
- 委託と正社員を累積コストで比較したい場合は外部委託と正社員のコスト比較シミュレーションを、雇用形態間の損益分岐点を整理したい場合は正社員と業務委託のコストをご覧ください
採用コスト削減の試算でつまずきやすいポイント
試算表が完成しても、数字の作り方が甘いと稟議の場で「その前提は本当か」と突っ込まれて崩れてしまいます。ここでは、試算の精度を下げる代表的な落とし穴と、その回避策を整理します。
内部コストを過小評価しない(兼任工数の見落とし)
最も多いのが、内部コストの過小評価です。採用担当者の工数だけを数え、面接に参加する現場社員や、オンボーディングを担う受け入れ部署の工数を入れ忘れるケースが典型です。
採用は専任者だけで完結しません。エンジニア採用なら、複数のエンジニアが面接官として時間を割き、入社後は現場のマネージャーが立ち上げを支援します。これら兼任者の工数を含めないと、内部コストが実態の半分以下になり、内部工数削減施策の効果額も小さく見積もられてしまいます。回避策は、棚卸しの段階で「採用に1時間でも関わる全員」をリストアップし、それぞれの時給×時間を積み上げることです。
削減効果の二重計上を避ける
複数の施策を同時に試算すると、同じ削減効果を2つの施策で重複して数えてしまうことがあります。たとえば「選考歩留まりの改善」と「ミスマッチによる早期離職の抑制」は、効果の一部が重なります。歩留まり改善で母集団を絞る効果と、早期離職を減らす効果を別々に満額計上すると、合計の削減額が水増しされます。
回避策は、施策間で効果が重なる部分を特定し、どちらか一方にのみ計上するルールを決めておくことです。シナリオ表を作る際に「この削減額は施策Aと施策Bのどちらに紐づくか」を1つに決めておくと、二重計上を防げます。
効果が出るまでのタイムラグを試算に織り込む
施策の多くは、導入してすぐに満額の効果が出るわけではありません。採用管理ツールは習熟期間が要りますし、リファラル制度は社内に浸透するまで時間がかかります。初年度から満額の削減効果を見込んで稟議を出すと、実績が追いつかず「試算が甘かった」と評価されかねません。
回避策は、初年度は効果を割り引いて(たとえば満額の50〜70%で)見積もり、2年目以降に満額へ近づくという段階的なシナリオにすることです。タイムラグを織り込んだ保守的な試算のほうが、結果的に経営層からの信頼を得やすくなります。
試算結果を経営層への稟議・予算申請に落とす

最後の工程は、完成した試算を「意思決定が下せる資料」に仕上げることです。どれだけ精緻に計算しても、伝わる形になっていなければ稟議は通りません。経営層が判断に必要とする要素を押さえます。
稟議で通る試算の提示フォーマット
経営層が最初に見たいのは、削減のインパクトを示す1行です。それを最上部に置き、その下に根拠を配置する構成にします。
- 結論(最上部): 「採用コストを現状1,100万円 → 削減後780万円(削減率約29%、年間320万円削減)」という1行
- 削減前後シナリオ表: ステップ4で作った区分別の現状・削減後・削減額の表
- 施策別の効果額内訳: どの施策で何円削減するかの積み上げ
- 必要投資額と回収見込み: 施策の導入にかかる費用と、それを何か月で回収できるか
特に4つ目の「投資額と回収」は重要です。経営層は削減額だけでなく「そのために何にいくら投じるのか」を必ず確認します。たとえば採用管理ツールに年間60万円を投じて120万円削減できるなら、投資回収は半年——この関係を明示すると、判断が一気に速くなります。
前提条件と保守的試算で信頼性を担保する
試算には必ず推計が含まれます。特に隠れコスト(機会損失・早期離職)は仮定の置き方で金額が変わるため、前提条件を明記することが信頼性の鍵になります。
- 前提条件の明記: 「時給は年収÷2,000時間で算出」「早期離職率は過去2年の実績10%を使用」など、計算の根拠となった数字とその出所を併記する
- 保守的なシナリオの提示: 効果を最大に見積もった数字ではなく、タイムラグや不確実性を織り込んだ控えめな数字を「基本シナリオ」として提示する。楽観・悲観の2シナリオを添えると、さらに議論が深まります
前提条件が明示され、保守的に作られた試算は、たとえ削減額が控えめでも「信頼できる」と評価されます。逆に、根拠の見えない大きな数字は警戒され、却下されやすくなります。試算の目的は数字を大きく見せることではなく、意思決定を前に進めることだと心得てください。
なお、ROI・コスト試算の考え方と稟議書のテンプレートを体系的にまとめた資料もあります。自社の数字を当てはめてそのまま申請書に展開したい場合の土台として活用できます。
まとめ|試算から始める採用コスト削減
採用コスト削減が進まないのは、施策の知識が足りないからではなく、「自社で何円削減できるか」を試算する手順が抜けているからです。本記事では、その試算方法を次の4ステップとして整理しました。
- ステップ1: 外部・内部・隠れコストの3区分を棚卸しし、実態の総採用コストと採用単価を出す
- ステップ2: 3区分の構成比から、削減余地の大きい施策を選ぶ
- ステップ3: 施策ごとの削減効果額を計算式で算出する
- ステップ4: 削減前後のシナリオ表(現状→削減後・削減率)にまとめる
このとき、施策別の効果額計算式テンプレート(チャネル見直し・内部工数削減・歩留まり改善・フリーランス活用)を使えば、効果額を1つずつ積み上げられます。二重計上やタイムラグといった落とし穴を避け、前提条件を明記した保守的な試算に仕上げれば、そのまま稟議に載せられる資料になります。
まず着手すべきは、ステップ1の現状棚卸しです。エージェント手数料や広告費といった外部コストだけでなく、面接官の工数や早期離職の再採用コストまで含めて金額にすることから始めてください。それができれば、削減効果額の試算は半分終わったようなものです。
より深く掘り下げたいテーマは、関連記事も参考にしてください。採用コストの相場や内訳はエンジニア採用コストの内訳と相場、フリーランス活用による工数削減の具体手順はフリーランス活用で採用工数を削減する手順、委託と正社員の累積コスト比較は外部委託と正社員のコスト比較シミュレーションで解説しています。



