外部エンジニアとの業務委託契約を終了させたいけれど、どう進めればよいか分からない——そのような悩みを抱える発注企業の担当者は少なくありません。
「一方的に終了したら訴えられる?」「フリーランス新法への対応が必要?」「何の書類を準備すればいい?」といった疑問が頭をよぎり、終了の決断ができないまま時間が過ぎていく——これが発注者にとっての典型的なペインポイントです。
2024年11月には「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(いわゆるフリーランス新法)が施行され、一定条件の業務委託契約の解除には30日前の事前予告が義務づけられました。この法律を知らずに従来通りの対応をしていると、法的リスクが生じる可能性があります。
この記事では、発注者が業務委託契約を終了させる際に知っておくべきことを「不更新(満了終了)」と「途中解除(中途解除)」の2パターンに分けて整理します。書類の作成方法・フリーランス新法への対応・終了後のチェックリストまで、一気通貫で解説します。
この記事で分かること:
- 「不更新」と「途中解除」の違いと選び方
- フリーランス新法の発注者義務(30日前通知)の適用条件
- 解除通知書・合意書の記載項目
業務委託契約を終了させるパターンは2種類ある

業務委託契約の終了方法は、大きく2つのパターンに分かれます。
1. 不更新(満了終了)
契約期間の満了時に更新を行わないパターンです。「次回の契約更新をしない」というシンプルな選択であり、契約上のトラブルが発生しにくい点が特徴です。フリーランスとの関係を円満に終わらせたい場合や、プロジェクトが一区切りついた場合は、このパターンを選ぶことを推奨します。
2. 途中解除(中途解除)
契約期間の途中に終了させるパターンです。成果物の品質問題、コミュニケーションの深刻な齟齬、経営環境の変化などが理由として挙げられます。不更新と比べて手続きが複雑で、法的リスクも高くなります。
どちらを選ぶかの判断軸は、トラブルリスクの低い順に以下のように考えるとよいでしょう。
不更新(最もリスクが低い)
↓
合意解除(双方合意の途中解除)
↓
一方的な解除(最もリスクが高い)
なお、「解除」と「解約」は日常的に混用されることがありますが、法律上は異なる概念です。「解除」は契約締結時に遡って効力が消滅する(原状回復義務が生じる)行為であり、「解約」は将来に向かってのみ効力が消滅します。業務委託契約書に「解約」と記載されている場合は、将来の義務を解消する意味合いで使われることが多いです。
契約を終了させる前に確認すること
実際に終了手続きを進める前に、以下の4点を必ず確認してください。
1. 契約書の確認
業務委託契約書の「解除条項」「中途解約条項」「事前通知期間」を確認してください。多くの契約書には「〇日前に書面で通知すること」という規定が設けられています。この記載がある場合は、その内容が優先されます。
2. フリーランス新法の適用確認
「継続的業務委託」(業務委託期間が6ヶ月以上)に該当するかどうかを確認してください。単一の契約が6ヶ月未満であっても、更新を経て累積で6ヶ月以上になった場合は適用対象となります。
適用対象の場合、後述するフリーランス新法の30日前通知義務が発生します。
3. 成果物・知的財産権の所在確認
契約終了時点で未納品の成果物や、作成中のコードの帰属(著作権)を確認してください。「成果物の完成をもって代金を支払う」という請負契約の場合、未完成の成果物の費用精算をどうするかが問題になることがあります。
4. 進行中タスクの整理
終了までに完了させるべきタスクと、次の担当者に引き継ぐべきタスクを整理してください。引き継ぎが必要な業務の洗い出しを、できる限り早い段階で行うことを推奨します。
「不更新(満了終了)」の進め方
フリーランス新法の通知義務(6ヶ月以上の契約)
フリーランス新法(2024年11月施行)により、継続的業務委託(6ヶ月以上)を更新しない場合、契約終了の30日前までに予告することが義務づけられました。
この「30日前」は、予告日(当日)から終了日の前日までの期間が30日間以上確保されている必要があります。たとえば8月31日で契約を終了させる場合、8月1日(または7月31日以前)に予告を行う必要があります。
予告後にフリーランスから終了理由の開示を求められた場合、発注者は速やかに理由を開示する義務もあります。
法の適用外となる例外ケース:
- 契約期間が30日以下の短期契約
- 不可抗力(災害等)で事業継続が不可能になった場合
- フリーランスの重大な過失・契約違反がある場合
- 上位契約(元受け)の終了により業務が不要になった場合
フリーランス新法に違反した場合、公正取引委員会による指導・勧告が行われます(施行1年以内の時点で445件の指導実績があります)。法的義務として適切に対応してください。
(出典: 植野法律事務所 フリーランス法 即時解除できる5つのケースとは?2024年新法完全ガイド)
不更新通知の具体的な手順
不更新を決めたら、以下の手順で進めてください。
ステップ1: 通知タイミングの決定
フリーランス新法の30日前義務と、契約書記載の通知期間のうち、より長い期間を選択してください。たとえば、契約書に「60日前」の通知規定がある場合は60日前を基準にします。
ステップ2: 書面での通知
口頭ではなく、必ず書面(またはメール)で通知してください。後日の証拠として記録が残ることが重要です。メールで通知する場合は、受信確認を求めてください。
ステップ3: 通知書に記載すべき内容
不更新通知書には以下を記載してください。
- 通知日
- 宛先(フリーランスの氏名・住所)
- 差出人情報(会社名・担当者名・住所・連絡先)
- 対象の業務委託契約(契約名・締結日)
- 更新しない旨の意思表示
- 契約終了日
ステップ4: 受領確認の取得
メールでの通知の場合は返信を求め、受領済みであることを記録してください。書面の場合は、内容証明郵便を利用すると送達の証明になります。
終了後の引き継ぎ準備
契約終了日が決まったら、すみやかに引き継ぎの準備を開始してください。
最終月は業務密度を下げてもらい、引き継ぎ作業に集中できる環境を整えることを推奨します。エンジニアに作成してもらうべき引き継ぎドキュメントの内容については、「外部エンジニア引き継ぎドキュメントの作り方|契約終了で知識を失わない5要素とテンプレート」を参考にしてください。
また、システムアクセス権限の移管スケジュールを早めに決定してください。契約終了日に慌てて対応すると、次の担当者がシステムにアクセスできないという事態が発生します。
「途中解除(中途解除)」の進め方
途中解除が認められるケースと慎重に進めるべきケース
途中解除を進めやすいケース:
- 契約書に明記された解除事由(債務不履行・重大な過失等)に該当する場合
- フリーランス新法の即時解除例外事由(不可抗力・重大な契約違反・上位契約の終了等)に該当する場合
合意解除を優先すべきケース(一方的解除は慎重に):
- 「能力が期待を下回る」「コミュニケーションが合わない」等の主観的な不満
- 経営方針の変更や予算削減など、フリーランス側に問題がない理由
フリーランス新法施行後、発注者の「能力不足」や「期待のミスマッチ」は即時解除の根拠とはなりません。客観的な証拠による重大違反の立証ができない場合は、合意解除(双方の同意による終了)を目指してください。
途中解除の手順(5ステップ)
ステップ1: 契約形態と契約書の確認
業務委託契約には「請負契約」と「委任・準委任契約」があり、解除要件が異なります。
- 請負契約: 成果物の完成が目的。民法641条により、発注者は完成前であればいつでも解除できますが、損害賠償義務が生じます
- 委任・準委任契約: 業務遂行の継続が目的。双方からいつでも解除できますが、相手方に不利な時期の解除は損害賠償リスクがあります
(出典: ITプロマガジン 業務委託契約を解除する手順は?フリーランス側・企業側の注意点)
ステップ2: 契約違反がある場合は「催告」
契約違反(成果物の遅延・品質不良・連絡不通等)を理由に解除する場合は、まず書面で「〇日以内に是正してください。是正されない場合は契約を解除します」という催告を行ってください。催告なしの解除は法的に問題になる場合があります。
ステップ3: 協議・合意解除の試み
合意解除を目指す場合、以下を協議してください。
- 契約終了日
- 完了済み作業の精算(費用の按分方法)
- 進行中の成果物の扱い
- 引き継ぎ作業の範囲と報酬
合意が得られた場合は、合意書(解約合意書)を双方署名のもとで締結してください。
ステップ4: 合意が得られない場合は解除通知書の送付
協議が不成立の場合、契約解除通知書を内容証明郵便で送付してください。内容証明郵便は「いつ・どのような内容の書類を送ったか」を郵便局が証明してくれるため、後日の証拠として有効です。
ステップ5: 精算の確認
解除に伴って発生する費用を整理してください。
- 既発注・完了済みの作業: 原則として報酬を支払う
- 未完成の成果物: 民法641条(請負)の場合、完成していない部分については減額できる場合がありますが、フリーランスが行った業務の費用は補償が必要
- 損害賠償: 一方的な解除でフリーランスに損害を与えた場合、損害賠償が発生する可能性があります
精算の詳細が複雑な場合や、法的なトラブルが懸念される場合は、弁護士に相談することを推奨します。
書類作成ガイド

解除通知書の記載項目
契約解除通知書(不更新通知書も含む)には、以下の7項目を必ず記載してください。
- 通知日: 書類の作成日・送付日
- 受信者情報: フリーランスの氏名・住所
- 発注者情報: 会社名・代表者名(または担当者名)・住所・連絡先
- 対象の業務委託契約: 契約書の名称・締結日
- 解除または不更新の意思表示: 「本契約を〇年〇月〇日をもって解除します」または「本契約を更新しない旨をお知らせします」
- 効力発生日(または契約終了日): 具体的な日付を明記
- 解除理由(任意ですが記載を推奨): 理由を明記することで誠意が伝わり、円満終了につながります
合意書(解約合意書)の記載項目
双方の合意による解除(合意解除)の場合は、合意書を締結します。
必須記載事項:
- 合意締結日
- 当事者双方の氏名・住所
- 対象の業務委託契約(契約名・締結日)
- 解約日(または解除の効力発生日)
- 精算条件: 未払い代金の有無・額・支払期限、違約金・損害賠償の有無
- 引き継ぎ義務: 期間・範囲・成果物の引き渡し方法
- 秘密保持: 契約終了後も守秘義務が継続するかの確認
- 著作権・知的財産権: 成果物の帰属の確認
合意書は2通作成し、双方が1通ずつ保管してください。
業務委託契約書の必須項目や解除条項の書き方については、「業務委託契約書テンプレート(発注側)|必須13項目とフリーランス新法対応を解説」も参考にしてください。
終了後の対応チェックリスト
契約終了後に実施すべき対応を、チェックリスト形式でまとめます。
精算・支払い:
- 未払いの請求書をすべて処理したか
- 最終月の費用精算を完了したか
- 損害賠償・違約金の有無を確認したか
システム・セキュリティ:
- システムへのアクセス権限(管理者権限・一般ユーザー権限)を削除したか
- APIキー・トークンを無効化したか
- 開発環境(クラウドアカウント・GitHubリポジトリのメンバー削除等)を整理したか
- VPN接続情報・SSHキーを失効させたか
成果物・ドキュメント:
- 成果物(コード・ドキュメント・設計書)の最終版を受け取ったか
- 引き継ぎドキュメントの内容を確認したか(詳細は「外部エンジニア引き継ぎドキュメントの作り方」参照)
- 機密情報・顧客データを含むファイルをフリーランスが保持していないかを確認したか
次のエンジニア確保:
- 後任エンジニアの採用・手配を開始したか
- 業務の空白期間(現エンジニア退場〜新エンジニア参画)を最小化する計画を立てたか
まとめ
業務委託契約の終了は、「不更新(満了終了)」と「途中解除(中途解除)」の2つのパターンに分けて考えることが重要です。
- 不更新を選べる場合: できる限りこちらを選んでください。トラブルが最も少なく、フリーランスとの関係も円満に維持しやすい方法です
- 途中解除が必要な場合: 合意解除を目指し、一方的な解除はできる限り避けてください。フリーランス新法施行後は、主観的な理由による即時解除はリスクが高まっています
また、フリーランス新法(2024年11月施行)の30日前通知義務は、継続的業務委託(6ヶ月以上)の解除・不更新に適用されます。法令に違反すると公正取引委員会の指導対象となるため、適用対象かどうかを必ず確認してください。
業務委託契約に関する法的リスクをより体系的に点検したい発注企業担当者には、法律・契約実務のチェックリストとして「フリーランス新法対応 業務委託発注の法律・契約リスク点検ガイド」もご活用ください。



