「MR に頼らない新規接点をつくってほしい」。経営からそう指示を受けて他業界の営業手法を調べていくと、かなり早い段階でフォーム営業という手法に行き当たります。企業の Web サイトにある問い合わせフォームから、自社の提案を届けるアプローチです。手法としてはシンプルで、リストと文面さえあれば始められるように見えます。
ところが製薬会社の場合、ここで一度立ち止まることになります。自社は医薬品医療機器等法(薬機法)と「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」の適用を受ける事業者です。営業活動の記録保存や資材の事前審査が社内規程として運用されている環境で、前例のないデジタル施策を持ち込めば、真っ先に「それは販売情報提供活動に当たらないのか」「薬機法の広告規制に触れないのか」と問われます。そして多くの場合、この問いに自分で答えられないまま企画が止まります。
止まる原因は、手法そのものが見つからないことではありません。手法は見つかったのに、自社が規制主体であるという前提での可否判断を、自分で引けないことにあります。一般的なフォーム営業の解説記事は業種を問わない手順とコツを扱っており、法的な射程は特定電子メール法とサイトポリシーの確認で止まります。一方、製薬業界向けの規制解説は制度の説明で完結し、新規開拓の実行手段には接続しません。両者のあいだが空白になっているのです。
この空白を埋めるには、順番を変える必要があります。「どのツールを使うか」から入るのではなく、「送ってよいか」→「誰に送るか」→「誰に送らないか」→「何を書くか」→「どのツールか」という順で設計していく方法です。この順番であれば、最初に決まるのが規制上の線引きになり、その後の実務設計はすべて線引きの内側で組み立てられます。薬事・コンプライアンス部門に説明する材料も、この順番で自然に揃います。
本記事では、製薬会社がフォーム営業を検討する際の判断軸を、この順番に沿って整理します。販売情報提供活動ガイドラインと薬機法から見た送信可否の線引き、卸・受託製造パートナー・研究機関といった医療機関以外の送信先セグメント、送信除外の設計、文面の3原則、ツールの比較軸、そして KPI と社内運用までを扱います。あわせて、製薬会社を送信先とするフォーム営業を検討している側に向けた注意点にも触れます。なお、本文で引用する統計・制度の内容は執筆時点(2026年9月)の公開情報にもとづくものです。
製薬会社の新規開拓でフォーム営業が検討される背景

まず、なぜ今この検討が発生しているのかを言語化しておきます。ここが曖昧なままだと、社内で「なぜ従来どおりではいけないのか」を説明できません。
MR 数は11年連続で減少し、訪問前提の接点設計が成り立たなくなっている
MR(医薬情報担当者)の数は減り続けています。MR 認定センターの「2025年版 MR 白書」によれば、2024年度(2025年3月31日時点)の MR 数は43,646人で、前年度比3,073人の減少となりました。これは11年連続の減少であり、減少率6.6%は調査開始以来もっとも大きい数字です(MR認定センター 2025年版MR白書)。
減少は一部の企業に偏った現象ではありません。MR 数1,000人以上を擁する企業は11社から6社へ減り、新卒採用を行わなかった企業は130社にのぼると報じられています(AnswersNews / 薬事日報)。人員構成の一時的な調整ではなく、訪問を前提とした接点設計そのものが縮小方向に向かっていると読むのが自然です。
受け手である医療機関の側も変化しています。面会場所・時間・曜日を指定する運用や完全アポイント制の導入が広がり、MR の訪問は事前アポイントが前提になりました。オンライン面談やオンライン専任 MR の活用も並行して進んでいます(メンバーズメディカルマーケティング / Medinew)。送り手の人数が減り、受け手の窓口も絞られているため、「人が会う」チャネルの総量は構造的に減っています。
ここで重要なのは、この変化が示しているのは「MR の代わりにデジタルで医療機関に接触しよう」という話ではない、という点です。医療機関に対する情報提供は規制と役割分担の対象であり、チャネルを差し替えれば済む領域ではありません。むしろ注目すべきなのは、MR チャネルが最初から存在しない相手が製薬会社にはいる、という事実のほうです。
製薬会社の新規開拓は医療機関だけではない(卸・受託製造・研究機関・販路・法人)
製薬会社の事業は医療用医薬品の販売だけで構成されているわけではありません。新規開拓の対象を洗い出すと、以下のような相手が並びます。
- 医薬品卸・二次卸の本部機能: 取扱品目の追加、流通条件の相談、物流・受発注業務の連携
- CDMO・CRO・原薬メーカー: 受託製造・受託開発の引き合い、原薬や中間体の供給・調達
- 大学・研究機関・バイオベンチャー: 共同研究の打診、導入・導出(ライセンス)の入口となる接点
- ドラッグストア本部・調剤チェーン本部・EC 事業者: OTC 医薬品やヘルスケア製品の販路開拓
- 一般法人・健保組合: 企業向けの健康支援サービス、ヘルスケア領域の協業
これらの相手には、そもそも MR という職種が対応していません。MR は医療関係者に対する医薬情報の提供を担う職種であり、卸の本部との条件交渉や CDMO への受託引き合いは別の部門の仕事です。つまり MR 数の減少とは無関係に、もともと接点をつくる担い手が薄い領域が広く残っているということになります。
受託製造の領域については、市場構造の変化も追い風になっています。製薬企業が製造設備を自前で抱えずに外部の製造能力を確保する水平分業が進み、原薬・低分子・中分子・バイオまで受託の対象領域が広がっています(経済産業省 METI Journal / 富士経済)。受託側に立つ企業から見れば、開拓すべき相手は製薬企業やバイオベンチャーへと広がっていることになります。
こうした相手は、いずれも法人としての問い合わせ窓口を Web サイトに持っています。ここがフォーム営業という手法と接続する点です。
製薬会社がフォーム営業を検討するとき社内で必ず問われる3つの論点
とはいえ、企画書を書き始める前に、社内で問われる論点を先に押さえておく必要があります。製薬会社でこの種の施策を通す際には、次の3つが必ず出てきます。
- 規制上やってよいのか: フォーム送信の内容が販売情報提供活動に該当しないか、薬機法の広告規制に触れないか
- MR・MSL の活動と衝突しないか: 既存の接点と重複したり、役割の線引きが崩れたりしないか
- 会社の名前で送ることのリスクをどう説明するか: 送信先の選定基準・除外の仕組み・事故時の説明責任が定義されているか
このうち最初の関門は間違いなく1番です。ここが曖昧なままでは2番以降を検討しても稟議には上がりません。逆に言えば、1番の線引きを自分の言葉で説明できるようになれば、残りは実務設計の問題に落ちます。次章から、この線引きを引くところに入ります。
販売情報提供活動ガイドラインと薬機法で引く、フォーム営業の線引き
本記事の中核となる章です。ここで扱うのは業種を問わない一般法(特定電子メール法・個人情報保護法・サイトポリシー等)ではなく、製薬会社に固有の業法です。一般法の観点についてはフォーム営業の法的リスクを扱った記事で整理していますので、あわせてご確認ください。本章は業法に絞って進めます。
製薬会社は販売情報提供活動ガイドラインの一次適用対象である
まず前提の確認からです。「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」は、2018年9月25日に厚生労働省医薬・生活衛生局長通知(薬生発0925第1号)として公表され、2019年4月1日から適用されました(厚生労働省 通知本文)。経営陣の責務・社内体制の整備・モニタリング等の組織体制に関する事項は、2019年10月1日から完全に適用されています(EY Japan)。
そして重要なのが適用対象です。ガイドラインは、医薬品製造販売業者、その販売情報提供活動の委託先・提携先企業(いわゆるコ・プロモーションの相手先企業を含む)、および医薬品卸売販売業者が医療用医薬品について行う販売情報提供活動を対象としています(日本ジェネリック製薬協会)。
つまり製薬会社は、適用対象に「含まれるかどうか」を検討する立場ではなく、一次適用対象そのものです。卸売販売業者が自社の立場を確認するのとは前提が異なります。加えてガイドラインは、経営陣の責務、社内体制の整備、資材等の適切性の確保、評価・教育、モニタリング等の監督指導、手順書・業務記録の作成と管理、不適切な活動への対応、苦情処理までを求めています。新しい接点手段を持ち込む場合、これらの枠組みのどこに位置づけるのかを説明できなければ、審査を通ることはありません。
ここまでを踏まえると、判断すべき問いは明確になります。「フォーム営業をやってよいか」ではなく、「そのフォーム送信は販売情報提供活動に該当するのか」です。
「販売情報提供活動に該当する送信」と「該当しない送信」を分ける観点
ガイドラインにおける販売情報提供活動とは、能動的・受動的を問わず、医薬品製造販売業者等が特定の医療用医薬品の名称または有効性・安全性に関する情報を提供することにより、その医療用医薬品の適正な使用に資する情報提供を行い、販売の促進を図ることを指します(日本ジェネリック製薬協会)。
この定義を分解すると、判定の軸は「特定の医療用医薬品」「名称または有効性・安全性」「販売促進の意図」の3点に整理できます。この3点が揃うほど該当性は高まり、いずれかが外れていくほど遠ざかります。以下に、フォーム送信の内容を当てはめた例を挙げます。
送信内容の例 | 特定の医療用医薬品への言及 | 有効性・安全性への言及 | 該当性の評価 |
|---|---|---|---|
自社製品Aの適応・効果を紹介し取扱いを打診する | あり | あり | 該当する可能性が高い |
製品ラインナップの一覧と価格条件を提示する | あり | 限定的 | 該当しうるため個別判断が必要 |
受託製造・原薬供給の引き合いを打診する | なし | なし | 該当しにくい |
物流・受発注業務の連携やシステム対応を案内する | なし | なし | 該当しにくい |
共同研究・技術連携の打診を行う | なし(開発段階の記述には別途注意) | なし | 該当しにくい |
OTC・ヘルスケア製品の販路提案を行う | なし(医療用医薬品ではない) | なし | 該当しにくい |
表からわかるとおり、医療機関以外を相手にした事業提携・供給・受託・物流の打診は、医療用医薬品の販売促進とは目的が異なるため、該当しにくい領域に位置します。逆に、特定の医療用医薬品の取扱いを促す内容は、相手が誰であっても該当性の検討が必要になります。
ここで注意したいのは、該当しにくいことと「何を書いてもよい」ことはまったく別だという点です。該当しにくい領域であっても、文面の中に個別の医療用医薬品の効果を書き込めば、その一文によって性質が変わります。設計の要点は、送信先の選定と文面の設計をセットで管理し、該当性が生じないように文面側で制御することにあります。
薬機法の広告規制(66条・67条・68条)とフォーム営業の文面で避けるべき表現
ガイドラインと並んで押さえるべきなのが薬機法の広告規制です。関係するのは主に次の3条です(東京都保健医療局 医薬品医療機器等法(抜粋) / 国民生活センター 誌上法学講座)。
- 第66条(虚偽・誇大広告等の禁止): 医薬品等の名称・製造方法・効能・効果・性能に関して、虚偽または誇大な記事を広告することを禁じています。医師その他の者が保証したと誤解されるおそれのある記事も対象です。この条文は「何人も」を対象とするため、製薬会社に限らず適用されます
- 第67条(特定疾病用医薬品の広告制限): がん・肉腫・白血病に使用される医薬品等について、医薬関係者以外の一般人を対象とする広告が制限されています
- 第68条(承認前の医薬品等の広告禁止): 承認を受けていない医薬品・医療機器等について、名称・製造方法・効能・効果・性能に関する広告を禁じています
さらに前提として、医療用医薬品はそもそも医薬関係者以外への広告が想定されていない構造にあります。つまり、送信先に医療関係者以外が含まれる可能性のあるフォーム送信で医療用医薬品の効能効果に触れることは、規制の観点からきわめて分の悪い設計になります。
文面レベルで避けるべき表現を整理すると、次のようになります。
避けるべき記述 | 根拠となる考え方 |
|---|---|
開発中パイプラインの効能・効果に言及する | 未承認医薬品等の広告禁止(68条)に触れる |
他社製品と比較して自社製品が優れていると示す | 誇大広告の禁止(66条)に触れるおそれがある |
承認された適応の範囲を超えた用途を示唆する | 未承認の効能効果に関する広告に当たりうる |
医師・医療機関が推奨していると読める記述を置く | 保証誤認を招く記事の広告として66条に触れる |
特定疾病領域の製品を一般向けの文脈で紹介する | 特定疾病用医薬品の広告制限(67条)に関わる |
なお、同じ薬機法の下にありながら、医療機器では適用される条項や商流(メーカー/ディーラー/販売業)の構造が異なります。医療機器を扱う立場での検討は医療機器業界のフォーム営業を扱った記事で整理していますので、そちらをご覧ください。
該当する場合に発生する社内手続(審査・モニタリング・業務記録の作成と保存)
仮に送信内容が販売情報提供活動に該当する場合、そこから先はガイドラインの枠組みに乗せる必要があります。具体的には、資材としての適切性の確保(事前審査)、活動に対するモニタリングと監督指導、手順書と業務記録の作成・管理といった対応です(EY Japan)。
ここから導かれる選択肢は、実質的に次の二択です。
- 該当させない設計にする: 送信先を医療機関以外に限定し、文面から特定の医療用医薬品の名称・有効性・安全性を外す。運用負荷は軽くなるが、訴求できる内容は「会社としての供給能力・受託能力・連携目的」に限られる
- 該当する前提で手続に乗せる: 資材審査・モニタリング・記録保存の対象として運用する。訴求の幅は広がるが、文面の改版ごとに審査が必要になり、運用の重さは大きく増す
新規に立ち上げる施策としては、1を選ぶ判断が現実的な出発点になります。効果が確認できてから2の領域へ広げるかを検討する、という段階設計であれば、稟議上の説明も組み立てやすくなります。
薬事・コンプライアンス部門に説明するための線引き整理シート
ここまでの内容を、社内で共有できる形に圧縮しておきます。以下の6項目に答えられれば、薬事・コンプライアンス部門との会話の出発点は成立します。
確認項目 | 記入する内容 |
|---|---|
送信先の範囲 | 医療機関・薬局・医師個人を含むか(含まない場合はその除外方法) |
訴求する対象 | 特定の医療用医薬品か、会社としての機能・能力か |
文面の内容 | 医薬品の名称・有効性・安全性への言及の有無 |
該当性の判断 | 販売情報提供活動に該当するか/しないか、およびその根拠 |
該当する場合の手続 | 資材審査・モニタリング・業務記録の作成保存をどう運用するか |
逸脱時の対応 | 誤送信・苦情が発生した場合の検知方法と対応フロー |
この表を埋める過程そのものが、裏を返せば「自分で線引きを引く」作業になります。埋められない欄が残った場合、その欄がそのまま薬事部門への相談事項になります。
医療機関以外に接点をつくる送信先セグメントの設計

線引きが引けたら、次は「誰に送るのか」です。ここでは製薬会社の新規開拓対象を5つのセグメントに分け、それぞれの規制上の扱いとフォーム営業との相性を整理します。
セグメント1 医薬品卸・二次卸の本部機能
医薬品卸の本部は、取扱品目の追加、流通条件、物流・受発注業務の連携といったテーマで接点を持ちうる相手です。窓口は法人向けの問い合わせフォームであることが多く、フォーム送信の対象としては成立します。
ただし注意点があります。特定の医療用医薬品の取扱いを促す内容は、相手が卸であっても販売情報提供活動の該当性が問題になります。卸売販売業者自身もガイドラインの適用対象に含まれているため、受け手側も規制の枠内で対応する立場です。したがってフォーム送信で扱うべきは、製品個別の訴求ではなく、供給体制・物流連携・業務効率化といった会社対会社のテーマに寄せるのが妥当です。
なお、卸の立場から調剤薬局・診療所などを開拓する場合は、規制上の立場も送信先も本記事とは逆になります。その視点は医薬品卸のフォーム営業を扱った記事で流通・帳合の文脈から整理しています。
セグメント2 CDMO・CRO・原薬メーカーなど受託製造/開発のパートナー候補
受託製造・受託開発の引き合い、原薬や中間体の供給・調達に関する打診は、医療用医薬品の販売促進とは目的が異なるため、販売情報提供活動には該当しにくい領域です。フォーム営業との相性はもっともよいセグメントと言えます。
前述のとおり、製薬企業が製造設備を自前で持たずに外部の製造能力を確保する水平分業が進み、受託の対象領域は原薬から低分子・中分子・バイオまで広がっています(経済産業省 METI Journal)。自社が受託する側であれば製薬企業・バイオベンチャーが、委託する側であれば CDMO・原薬メーカーが送信先候補になります。
文面で扱う内容も明快です。許可区分、製造設備、対応可能な剤形やスケール、品質管理体制といった、検証可能な事実で構成できます。
セグメント3 大学・研究機関・バイオベンチャー(共同研究・導入導出の入口)
共同研究の打診や、導入・導出(ライセンス)の入口となる接点づくりも、医療用医薬品の販売促進とは性質が異なります。大学の産学連携窓口や技術移転機関、バイオベンチャーの法人窓口は、公開されている問い合わせ先であることが多く、接触の入口としては機能します。
一方で、このセグメントには固有の注意が必要です。開発中の化合物やパイプラインの効能・効果に踏み込んだ記述は、薬機法68条(承認前の医薬品等の広告禁止)の観点から避けるべき領域に入ります。連携の目的・対象領域・自社の技術基盤といった枠組みの提示にとどめ、個別の開発品の有効性には触れない設計が必要です。
セグメント4 ドラッグストア・調剤チェーン本部・EC 事業者(OTC・ヘルスケアの販路)
OTC 医薬品やヘルスケア製品の販路開拓は、医療用医薬品とは規制の枠組みが異なるため、扱いが変わります。医療用医薬品の販売情報提供活動ガイドラインは医療用医薬品を対象としており、OTC・ヘルスケア領域はその射程外です。
ただし薬機法66条(虚偽・誇大広告の禁止)は「何人も」を対象とするため、OTC 製品であっても効能効果の表現には制約がかかります。また、調剤チェーンの本部に送信する場合、店舗(薬局)宛の窓口と本部の法人窓口が分かれているかを確認する必要があります。店舗側の窓口は医療関係者・患者対応の性格を帯びるため、送信先からは外すのが安全です。
セグメント5 法人・健保組合(企業向けヘルスケア・健康支援領域)
企業向けの健康支援サービスやヘルスケア領域での協業を検討する場合、送信先は一般法人・健保組合になります。医療用医薬品とは切り離された文脈であるため、規制上の扱いはもっとも軽くなります。
このセグメントは一般的な BtoB のフォーム営業に近い設計が可能ですが、送信元が製薬会社であることによる期待値(信頼性・専門性)が高いぶん、内容が薄い送信は逆にブランドを損ないます。訴求できる具体的なサービスや協業テーマが固まっているかを、送信前に確認しておくべきセグメントです。
送信リストの絞り込み軸と、営業リストの作り方
セグメントを決めたら、次は具体的な送信リストの作成です。営業リストの作り方には大きく2つの方法があります。外部の営業リスト・企業データベースサービスから購入・利用する方法と、自社で保有する取引先マスタや業界団体の会員名簿などをもとに作る方法です。
製薬会社の場合、業種コードだけでは絞り込みが効きません。「化学工業」「医薬品製造業」といった分類の中に、CDMO も原薬メーカーも試薬メーカーも混在するためです。したがって、以下のような複数の軸を組み合わせて精度を上げていく必要があります。
絞り込み軸 | 具体例 |
|---|---|
業種・事業領域 | 受託製造/原薬/試薬/包装資材/物流 など |
保有設備・許可区分 | 製造業許可の区分、対応可能な剤形、GMP 適合状況 |
企業規模 | 従業員数・売上規模(対応可能なロットの目安になる) |
所在地 | 物流条件・工場所在地との距離 |
公開されている調達方針 | 調達ポリシー・パートナー募集ページの有無 |
新規事業・設備投資の発表 | プレスリリースからの投資動向・領域拡大の兆候 |
外部リストを購入する場合は、上記のうちどの軸で絞り込めるかを事前に確認してください。業種コードと所在地だけしか指定できないリストでは、製薬会社の用途では精度が足りず、除外作業に多大な工数がかかります。自社で作る場合は、業界団体の会員名簿や展示会の出展企業一覧が起点として使いやすい情報源になります。
セグメント別「フォーム営業が向く/既存チャネルに委ねる」判定サマリ
5つのセグメントを、規制上の扱いとチャネル適性の観点で整理します。
セグメント | 販売情報提供活動の該当性 | フォーム営業の適性 | 補足 |
|---|---|---|---|
医薬品卸・二次卸の本部 | 内容次第で該当しうる | 条件付きで向く | 製品個別の訴求は避け、供給体制・物流連携に寄せる |
CDMO・CRO・原薬メーカー | 該当しにくい | 向く | 許可区分・設備・品質管理体制で構成できる |
大学・研究機関・バイオベンチャー | 該当しにくい | 向く | 開発品の効能効果に触れない設計が前提 |
ドラッグストア・調剤チェーン本部・EC | 対象外(医療用医薬品ではない) | 向く | 店舗宛窓口と本部窓口の分離を確認する |
一般法人・健保組合 | 対象外 | 向く | 訴求内容が固まっていることが前提 |
医療機関・薬局・医師個人 | 該当する | 送信対象としない | 次章で理由を整理する |
最後の行が、製薬会社のフォーム営業設計における最大の特徴です。一般的なフォーム営業では「見込み顧客に広く送る」ことが前提ですが、製薬会社の場合は主要顧客であるはずの医療機関を、最初にリストから外すところから設計が始まります。
送ってはいけない相手を先に決める(送信除外の設計)
送信先を決める作業と同じ重みで、「送らない相手」を定義します。社内審査でもっとも突かれるのはこの部分であり、逆に言えばここが定義できていれば説明の骨格は固まります。除外は次の4分類で考えます。
患者・生活者向けの問い合わせフォームには送らない
製薬会社をはじめ、医療・ヘルスケア領域の企業は、患者・生活者向けの相談窓口を設けていることが少なくありません。製薬会社であれば「くすり相談窓口」がこれに当たります(日本製薬工業協会)。
こうした窓口は、医薬品の使用方法や副作用に関する相談を受け付ける専門の窓口です。営業目的の問い合わせフォーム営業がここに入ることは、窓口の機能を妨げる行為になります。相手が製薬会社に限らず、医療・介護・ヘルスケア領域の企業へ送信する際は、窓口の用途を必ず確認し、患者・生活者向けの窓口は送信対象から除外してください。
窓口が用途別に分かれている場合、フォームの周辺にある説明文(「本フォームは医療関係者の方専用です」「お薬に関するご相談はこちら」等)が判別の手がかりになります。判別できない場合は送らない側に倒す、という運用が安全です。
医療機関・薬局・医師個人をリストから外す理由(MR・MSL の領域と規制の重なり)
医療機関・薬局・医師個人を送信対象から外す理由は2つあります。
1つは規制です。医療用医薬品に関する情報を医療関係者に提供する行為は、販売情報提供活動そのものです。フォーム送信という形式であっても、内容が該当すれば資材審査・モニタリング・業務記録の対象になります。フォーム営業のメリットである運用の軽さは、この時点で失われます。
もう1つは役割分担です。医療機関への情報提供は MR および MSL(メディカルサイエンスリエゾン)が担う領域であり、それぞれ活動範囲と社内ルールが定められています。別の部門が別のチャネルで並行して接触すれば、社内の役割分担が崩れるだけでなく、受け手側から見ても窓口が不明瞭になります。
社内で除外を説明する際は、この2点をセットで示してください。「規制上の負荷が増すこと」と「社内の役割分担が崩れること」の両方を挙げると、医療機関の除外が消極的な回避ではなく設計上の選択であることが伝わります。
サイトポリシー・営業お断り表記の確認手順
業種を問わない基本的な確認事項として、送信先の Web サイトに営業目的の送信を断る記載がないかを確認します。一般的なフォーム営業の解説でも、「営業お断り」表記の確認、顧客専用フォームの回避、複数窓口がある場合の適切な窓口選択が注意点として挙げられています(LISKUL / 起業ログ)。
確認の順序は次のとおりです。
- フォームページ内および直上の説明文に、営業目的の送信を断る記載がないかを見る
- サイトポリシー・利用規約・プライバシーポリシーに同様の記載がないかを見る
- 窓口が複数ある場合、法人向け・取引に関する窓口が別に用意されていないかを見る
- いずれも確認できない場合、または判断が分かれる場合は送信対象から外す
製薬会社が送信元になる場合、この確認の重みは他業界より大きくなります。会社の名前で送る行為であり、業界団体のコードや自社の社内規程が別途適用される立場だからです。
MR・MSL・アライアンス担当との二重接触を避ける社内合意の取り方
送信先が医療機関以外であっても、社内の別部門がすでに接触している可能性はあります。CDMO や原薬メーカーは購買部門の取引先である場合がありますし、バイオベンチャーは事業開発部門が交渉中かもしれません。同じ会社から別々の部門が別々の文面で接触すれば、相手にとっては不信の材料になります。
社内合意の取り方としては、以下の手順が現実的です。
- 送信リストの案を、関係部門(購買・事業開発・受託営業・MR 部門)に事前共有する
- 各部門から「接触中・接触予定」の企業を回収し、除外リストに登録する
- 送信後は、反応があった企業を関係部門に通知するルートを定める
- リスト共有と除外の更新を定例化する(月次など)
この手順を運用ルールとして文書化しておけば、社内審査での「他部門と衝突しないのか」という問いに対して、仕組みで答えられるようになります。
送信除外リストの運用(接触済み企業の自動除外・fail-closed・CAPTCHA を突破しない設計)
除外の分類が定義できたら、それを人手のチェックではなく仕組みで担保する段階に進みます。手作業のチェックは、リストが数百件を超えた時点で抜けが生じやすくなるためです。
仕組み化のポイントは3つあります。
- 接触済み企業の自動除外: 他社(取引先・別チャネル)がすでに接触済みの企業ドメイン一覧を外部リストとして取得し、送信リストと突合して自動的に除外する仕組みです。人の記憶や表計算ソフトでの管理から切り離すことで、担当者が交代しても除外が維持されます
- 判断できない場合は送らない側に倒す(fail-closed): 送信可否の判定が確定しない場合に、送信を実行するのではなく保留する設計を基本とします。製薬会社のように送信元の名前が重い業界では、送信漏れよりも誤送信のほうがコストが高いため、この方向に倒す判断が妥当です
- CAPTCHA を突破しない: CAPTCHA は受信側が「機械的な送信を受けたくない」と示している意思表示です。これを技術的に迂回する行為は、送信元である自社の名前で行われることになります。CAPTCHA が設置されているフォームでは、入力までを自動化し送信は人が行う、あるいは送信対象から外すという設計が適切です
この3点は、いずれも社内審査で「事故が起きたときにどう防ぐのか」と問われた際の回答になります。人の注意深さではなく仕組みで説明できる状態にしておくことが、審査を通すうえでの要点です。
製薬会社の文面設計 3原則(規制に触れずに会社の価値を伝える)

送信先が決まったら、次は文面です。ここで扱うのは「反応率を上げる書き方」ではなく、「規制の線引きの内側で会社の価値を伝える書き方」です。原則は3つに整理できます。
原則1 個別医薬品ではなく「会社としての供給・受託・連携」を主語にする
販売情報提供活動の定義が「特定の医療用医薬品の名称または有効性・安全性に関する情報の提供」である以上、文面の主語を特定の医薬品に置いた瞬間に該当性の検討が始まります。したがって主語を会社側に移します。
主語の置き方 | 文面のイメージ |
|---|---|
個別医薬品を主語にする(避ける) | 「当社の○○錠は△△の適応で高い評価をいただいております」 |
会社の機能を主語にする(推奨) | 「当社は○○剤形の製造を年間△△規模で受託しており、GMP 適合施設を□拠点で運用しています」 |
会社の機能を主語にすると、書ける内容は供給能力・受託能力・品質管理体制・連携の目的といった領域に収束します。これは制約であると同時に、受託や協業を検討している相手にとってはむしろ必要な情報でもあります。
原則2 許可区分・設備・品質管理体制など検証可能な事実で書く
医薬品の効能効果に触れられないぶん、文面の説得力は「検証可能な事実」で担保します。具体的には次のような要素です。
- 製造業許可の区分、対応可能な剤形・製造工程
- 設備のスケール(製造ロット・年間製造能力)と拠点数
- 品質管理体制(GMP 適合、査察の受入実績)
- 供給の継続性(安定供給の体制、複数拠点でのバックアップ)
- 対応可能な範囲(開発段階からの受託可否、分析・試験の対応範囲)
これらはいずれも第三者が確認可能な事実であり、誇大表現の余地が小さい情報です。薬事部門の審査を通す観点でも、事実で構成された文面は指摘が入りにくくなります。
原則3 未承認・適応外・他社製品との優越比較に踏み込まない
薬機法68条は、承認を受けていない医薬品等について名称・製造方法・効能・効果・性能に関する広告を禁じています。開発中パイプラインの効能を文面に書けないのは、この条文が理由です。共同研究や導入導出の打診において、開発品の期待される効果を語りたくなる場面はありますが、ここは制度上踏み込めない領域です。
同様に、承認された適応の範囲を超えた用途の示唆(適応外への言及)、他社製品と比較して自社が優れているとする記述(66条の誇大広告に触れうる)も避けます。書けない領域を制度から理解しておくと、逆に書ける領域が明確になり、文面作成の迷いが減ります。
セグメント別の件名と一次関心事
送信先セグメントごとに、相手が最初に知りたいことは異なります。件名と冒頭の一文は、その一次関心事に直接答える形にします。
セグメント | 相手の一次関心事 | 件名の方向性 |
|---|---|---|
医薬品卸の本部 | 供給の安定性・流通条件・業務効率 | 供給体制や物流連携に関する相談である旨を示す |
CDMO・原薬メーカー | 対応可能な剤形・スケール・品質体制 | 受託/委託の引き合いであることと対象領域を示す |
大学・研究機関 | 連携のテーマと自社の技術基盤 | 共同研究・技術連携の打診であることを示す |
ドラッグストア・EC | 商材カテゴリ・供給条件・販売支援 | 取扱商材のカテゴリと提案の趣旨を示す |
一般法人・健保組合 | 従業員の健康課題にどう効くか | 健康支援・協業のテーマを具体的に示す |
いずれの場合も、件名に医薬品の名称や効能を入れないことが共通の制約になります。
他業界のフォーム営業テンプレートを流用したときに起きる NG パターン
一般的なフォーム営業のテンプレートをそのまま使うと、製薬会社の文脈では次のような問題が生じます。
よくあるテンプレートの要素 | 製薬会社で問題になる理由 |
|---|---|
「導入実績○○社」「効果○%改善」といった数値訴求 | 出典が示せない数値は誇大表現と受け取られる余地があり、薬事審査で指摘されやすい |
「業界No.1」「最先端」といった優越表現 | 66条の誇大広告の観点から避けるべき表現に該当しうる |
主力製品のラインナップを列挙する構成 | 医療用医薬品が含まれる場合、販売情報提供活動の該当性が生じる |
「まずは資料をお送りします」で終わる導線 | 送付する資料が資材に当たる場合、資材としての審査対象になる |
相手企業の課題を断定する書き出し | 事実に基づかない断定は、相手企業からの信頼を損ねる |
テンプレートを流用するのではなく、原則1〜3に沿ってゼロから組み立てるほうが、結果的に審査を通す時間は短くなります。
フォーム営業ツールの比較軸(製薬会社の要件で見る)

線引きと文面が固まったら、ようやくツールの検討に入ります。製薬会社の要件で見た場合、一般的な比較軸に加えて重みが変わる項目があります。
フォーム営業ツール・代行サービスの5カテゴリと製薬会社との相性
フォーム営業に関連するサービスは、大きく5つのカテゴリに分けられます。
カテゴリ | 概要 | 製薬会社との相性 |
|---|---|---|
フォーム営業代行(人手/半自動) | 営業リスト作成から送信・レポーティングまでを外部に委託する | 送信先の選定基準や文面が発注側から見えにくい場合、社内審査の説明材料をつくりにくい |
フォーム営業ツール(自動送信型 SaaS) | フォームへの自動入力・自動送信を SaaS として提供する | 送信履歴が残り運用を内製できる。CAPTCHA の扱いと除外運用の設計に差が大きい |
フォーム DM ツール(一括配信型) | フォームを一斉配信チャネルとして扱う | コスト訴求が中心で、除外・接触履歴のガバナンス機能は限定的なことが多い |
アウトバウンド営業支援ツール | リスト作成からチャネル選定・SFA 連携までを統合的に扱う | 営業活動全体を統合したい場合に適するが、導入範囲が大きくなる |
営業リスト・企業データベース | 企業情報から条件で絞り込んだリストを作成する | 送信基盤を持たないため、別途送信手段を組み合わせる前提になる |
製薬会社が最初に検討するのであれば、送信の実務と履歴を自社側で把握できるカテゴリが出発点になります。外部委託は選択肢として成立しますが、その場合は「送信先の選定基準・文面・送信結果の内訳を発注側が確認できるか」を契約段階で確認しておく必要があります。委託先の活動も自社の名前で行われる以上、説明責任は発注側に残るためです。
比較軸8項目(送信方式・CAPTCHA・除外運用・リスト作成・透明性・フォローアップ・データ分離・料金)
カテゴリを絞ったら、次は個別の比較です。以下の8軸で並べると、製品ごとの設計思想の差が見えてきます。
比較軸 | 確認するポイント |
|---|---|
送信の実行方式 | 完全自動送信/セミオート(入力自動化・送信は人)/手作業補助/人手代行のいずれか |
CAPTCHA の扱い | 突破するのか、突破せず別の方法をとるのか |
送信先の除外運用 | 接触済み企業の自動除外があるか、除外リストの取得元はどこか、判断できない場合の挙動はどうか |
リスト作成 | 内蔵の企業マスタから絞り込めるか、外部リストの取り込みが前提か |
プロセスの透明性 | 送信履歴・失敗診断・開封/クリック計測が確認できるか |
フォローアップ設計 | 反応に応じた分岐シナリオを組めるか、返信の検知ができるか |
組織単位のデータ分離 | 部門・事業ごとにリストや履歴を分離できるか |
料金体系 | 従量制/月額固定/買い切りのいずれか |
なお、ツールの機能・料金は変化が早いため、比較にあたっては各社の公開情報を確認してください。本記事の記述は執筆時点のものです。
製薬会社で重みが増す3つの軸(記録の検証可能性・除外の仕組み化・自動化範囲の説明可能性)
上の8軸のうち、製薬会社では次の3つの重みが他業界より明確に増します。
1. 記録の検証可能性
「誰に・何を・いつ送ったか」が後から確認できることは、一般的な業界では運用の利便性です。しかし製薬会社では、業務記録の作成と保存が制度上の枠組みとして求められる環境にあるため、記録が残ることは便利機能ではなく前提要件になります。送信履歴が画面上で確認でき、送信した文面のバージョンと送信先が紐づいて残る仕組みかどうかを確認してください。
2. 除外の仕組み化
送信除外が人手のチェックリストではなく、システムとして担保されているかどうかです。前述の4分類(患者向け窓口・医療関係者・営業お断り表記・接触済み企業)のうち、少なくとも接触済み企業の除外は仕組みで自動化できます。判断できない場合に送信を保留する設計(fail-closed)を基本としているかも、あわせて確認する観点になります。
3. 自動化範囲の説明可能性
どこまでを自動化し、どこから人が判断するのかを、社内に対して説明できる形で切り分けられているかどうかです。「すべて自動で送信します」というツールは、社内審査の場では逆に説明が難しくなります。フォームの発見と入力までは自動化し、送信の実行判断は人が行う、といった線引きが明示されているほうが、稟議上は通しやすくなります。
フォーム営業の自動化はどこまで任せ、どこから人が判断するか
自動化の範囲を具体的に整理すると、次のように分けられます。
工程 | 自動化の適性 | 判断の所在 |
|---|---|---|
企業リストの絞り込み | 自動化しやすい | 条件設定は人が行う |
問い合わせフォームの発見 | 自動化しやすい | — |
フォーム構造の解析・入力項目のマッピング | 自動化しやすい | — |
送信可否の判定(営業お断り表記・窓口の用途) | 部分的に自動化可能 | 判断が分かれる場合は人が確認する |
除外リストとの突合 | 自動化すべき | ルール設定は人が行う |
文面の作成・改版 | 自動化しない | 人が作成し、必要に応じて薬事審査を経る |
CAPTCHA のあるフォームへの送信 | 自動化しない | 入力までを自動化し、送信は人が行う |
反応があった先への対応 | 自動化しない | 担当部門が判断する |
この表は、そのまま社内説明の材料になります。「何を機械に任せ、何を人が担保するのか」が明示されていれば、審査の場で問われる論点の多くは事前に潰せます。
KPI と社内運用(薬事審査を織り込んだ運用設計)
最後に、送信を始めたあとの運用設計です。稟議では必ず「効果をどう測るのか」が問われます。
製薬会社の KPI ファネル設計(取引開始までのリードタイムをどう扱うか)
フォーム営業の成果は、次のようなファネルで捉えます。
段階 | 指標 | 補足 |
|---|---|---|
1. 送信可能件数 | リスト総数から除外を差し引いた件数 | 除外率そのものが運用品質の指標になる |
2. 到達 | 送信成功件数/送信失敗件数 | 失敗理由の内訳がリスト品質の改善材料になる |
3. 認知 | 開封・クリック | 短縮 URL 等での計測が前提 |
4. 返信 | 返信件数と内容の分類 | 前向き/情報要求/断りに分類する |
5. 打ち合わせ | 打ち合わせ実施件数 | 実質的な中間ゴール |
6. 秘密保持契約・取引開始 | 契約締結件数 | 最終指標 |
製薬会社の場合、5から6までのリードタイムが他業界より長くなる傾向があります。受託製造の引き合いであれば技術評価や施設監査が挟まりますし、共同研究であれば社内の研究部門との調整が必要です。四半期単位で最終指標だけを見ていると、施策の評価がまったくできない期間が生じます。
したがって、初年度は4(返信)と5(打ち合わせ)を主要 KPI に置き、6は追跡はするが評価には使わないという設計が現実的です。この整理を稟議書に明記しておくと、「半年経っても契約が出ていない」という指摘に対して事前に答えられます。
フォーム営業の反応率の読み方(分母の定義と返信の分類)
反応率という指標は、分母の定義次第で数字が大きく変わります。次の3つを混同しないでください。
- リスト総数を分母にした反応率: 除外前のリスト全体に対する比率。除外を厳しくするほど下がるが、運用品質は上がっている
- 送信可能件数を分母にした反応率: 除外後の送信対象に対する比率。施策の設計品質を見るならこちらが適切
- 送信成功件数を分母にした反応率: 到達した送信に対する比率。文面の評価に使う
社内で数字を共有する際は、どの分母を使っているかを必ず併記してください。除外を厳格にした結果として分子・分母がともに減った状況を「効果が落ちた」と誤読されると、除外設計を緩める方向に議論が動いてしまいます。
返信の分類も重要です。返信を「あり/なし」の2値で数えると、断りの返信と前向きな返信が同じ扱いになります。少なくとも「前向き(詳細を聞きたい)」「情報要求(資料がほしい)」「保留(時期を改めて)」「断り」の4分類で記録し、前向きと情報要求の合計を有効反応として扱う設計にしてください。
反応した先を誰に引き継ぐか(事業開発・受託営業と MR・MSL の役割分担)
反応があってから引き継ぎ先を考えると、対応が遅れます。セグメントごとに引き継ぎ先を事前に決めておきます。
セグメント | 一次対応 | 引き継ぎ先 |
|---|---|---|
医薬品卸の本部 | 営業企画 | 卸担当部門・流通部門 |
CDMO・原薬メーカー | 事業開発 | 受託営業・購買(委託側の場合) |
大学・研究機関 | 事業開発 | 研究部門・ライセンス担当 |
ドラッグストア・EC | 営業企画 | OTC・ヘルスケア事業部 |
一般法人・健保組合 | 営業企画 | ヘルスケア事業部 |
MR・MSL はこの表に登場しません。送信先に医療機関を含めていない以上、反応の引き継ぎ先にも医療機関向けの部門は入らない、という整理です。この一貫性が保たれていることが、社内説明での説得力につながります。
薬事審査を織り込んだ改善サイクルと、動かす変数の優先順位
一般的なフォーム営業では、文面を短いサイクルで書き換えて反応を比較する改善が定石です。しかし製薬会社では、文面の改版が資材審査を伴う可能性があるため、同じ速度では回せません。
そこで、動かす変数に優先順位をつけます。
- セグメント: 送信先セグメントの入れ替えは、文面を変えずに実行できるため審査の負荷が最小です。最初に動かすべき変数です
- リストの絞り込み条件: 同一セグメント内での条件変更も、文面に影響しません
- 送信のタイミング: 曜日・時間帯の変更も文面に影響しません
- 件名: 文面本体より影響範囲が小さいものの、審査の要否は社内規程に従って確認が必要です
- 本文: もっとも審査の負荷が大きいため、変更の頻度は抑え、変更する場合はまとめて行います
つまり、文面を固定したまま「誰に・いつ送るか」で改善を回すのが、製薬会社における現実的なサイクルです。文面の改版を計画する場合は、審査に要する期間をあらかじめスケジュールに織り込んでおいてください。
製薬会社を送信先とするフォーム営業を検討している場合
ここまでは製薬会社が送信する側に立つ前提で整理してきました。一方で、製薬会社に対して自社のサービスやシステムを提案したい側の検討も、同じキーワードで行われています。この章では送信先としての製薬会社について、簡潔に整理します。
製薬会社の問い合わせフォームは用途別に分かれている
製薬会社の Web サイトは、問い合わせ窓口が用途別に分かれている構成が一般的です。
窓口の種類 | 対象 | 扱う内容 |
|---|---|---|
くすり相談窓口 | 患者・一般生活者 | 自社医薬品の使用方法・副作用等に関する相談 |
医療関係者向け窓口(医薬情報等) | 医師・薬剤師等の医療関係者 | 医薬品の有効性・安全性・用法用量に関する照会 |
取引・購買に関する窓口 | 取引先企業 | 調達・取引に関する問い合わせ |
採用に関する窓口 | 求職者 | 採用関連 |
広報・IR の窓口 | 報道機関・投資家 | 取材・IR 関連 |
患者・一般向けの窓口と医療関係者向けの窓口を分けて設置している企業が多く、いずれも自社医薬品の安全性・有効性・用法用量・副作用に関する情報を扱う専門窓口です(日本製薬工業協会 / PMDA)。
送ってよい窓口と、送ってはいけない窓口
上記の分類にもとづくと、判断は明確になります。
- 送ってはいけない窓口: くすり相談窓口、医療関係者向けの医薬情報窓口。これらは医薬品の安全性に関わる相談を受け付ける窓口であり、営業目的の送信は窓口の機能を妨げます
- 慎重に判断すべき窓口: 広報・IR、採用。用途が明確に定められており、営業目的の送信は想定されていません
- 送信を検討しうる窓口: 取引・購買に関する窓口、および用途が限定されていない総合窓口。ただしサイトポリシーで営業目的の送信を断っていないかの確認は必要です
窓口が1つしかなく、その窓口がくすり相談を兼ねている場合は、送信対象から外す判断が妥当です。判別できないときに送らない側へ倒す、という基本はここでも同じです。
製薬会社に届く文面の観点(相手の規制対応の制約を前提に書く)
製薬会社に提案を届けたい場合、相手が置かれている制約を理解した文面かどうかで反応は変わります。ここまで整理してきたとおり、製薬会社は販売情報提供活動ガイドラインの適用対象であり、資材の審査・活動の記録保存・モニタリングという運用の中で仕事をしています。
したがって、以下のような観点が文面に含まれていると、相手にとって検討しやすい提案になります。
- 提案するサービスが、記録の保存や監査への対応にどう関わるか
- 導入にあたって社内の審査・承認をどう通す想定か(説明可能性)
- 品質管理・バリデーションの要求にどう対応できるか
- 既存の業務フローや社内規程との整合をどう取るか
汎用の営業テンプレートを流用した提案は、この観点が抜け落ちるため検討の俎上に載りにくくなります。相手の業種固有の制約に触れているかどうかが、開封後の反応を分ける分岐点です。
製薬会社のフォーム営業を始める前に決めておくこと
最後に、記事全体を「着手前に社内で決めておく項目」として整理します。この6項目が埋まっていれば、上長・薬事部門との相談を始められる状態になります。
1. 販売情報提供活動への該当性の整理
送信内容が特定の医療用医薬品の名称・有効性・安全性に触れるかを確認し、「該当させない設計にする」か「該当する前提で資材審査・モニタリング・記録保存の手続に乗せる」かを決めます。新規施策としては前者から始める判断が現実的です。
2. 送信先セグメントの絞り込み
医薬品卸の本部、CDMO・原薬メーカー、大学・研究機関、ドラッグストア・EC、一般法人・健保組合の5つから、自社の事業構成に合うセグメントを選びます。どのセグメントも MR チャネルが対応していない領域です。
3. 送信除外の4分類の定義
患者・生活者向け窓口、医療機関・薬局・医師個人、営業目的の送信を断っている先、他部門や他社が接触済みの先。この4分類を定義し、それぞれの判別方法と運用を文書化します。
4. 文面3原則に沿った文面の作成と社内確認
会社としての供給・受託・連携を主語にし、検証可能な事実で書き、未承認・適応外・優越比較には踏み込まない。この3原則で文面を作成し、社内規程に従って必要な確認を通します。
5. ツール比較軸のうち製薬会社で重みが増す3軸の確認
記録の検証可能性、除外の仕組み化、自動化範囲の説明可能性。この3つを満たすかどうかを、送信方式・料金といった一般的な比較軸より優先して確認します。
6. KPI と引き継ぎ・改善サイクルの運用合意
初年度の主要 KPI を返信と打ち合わせに置き、反応があった先の引き継ぎ先をセグメントごとに事前に決めます。改善は文面ではなくセグメント・条件・タイミングから動かす設計にします。
この6項目は、順番に意味があります。1が決まらないと2以降が決められず、逆に1が決まれば残りは実務設計の問題に落ちます。企画が止まっているとすれば、詰まっているのはおそらく1です。まずは本記事の線引き整理シートの6行を埋めるところから始めてみてください。
関連情報
送信除外の自動化、CAPTCHA を突破しない設計、送信履歴と失敗診断の可視化といった要件を仕組みとして満たすツールをお探しの場合は、Form Pilot のサービスページで設計思想と機能をご確認いただけます。
送信先セグメントの設計や送信除外の運用について個別にご相談されたい場合は、お問い合わせフォーム からご連絡ください。要件の整理段階からご相談いただけます。
関連する記事として、医薬品卸のフォーム営業、医療機器業界のフォーム営業、フォーム営業の法的リスクもあわせてご覧いただけます。
よくある質問
- 医療機関以外に送るフォーム営業でも薬機法の広告規制は関係ありますか?
はい。薬機法66条の誇大広告規制は「何人も」を対象とするため、送信先が卸・受託製造パートナー・研究機関であっても、優越表現や効能を誇張する記述、他社製品との優劣を示す表現は避ける必要があります。件名や冒頭文にも同じ注意が必要です。
- フォーム営業を外部の代行サービスに委託すれば、自社での薬事審査は不要になりますか?
いいえ。委託先の活動も自社の名前で行われるため、説明責任は発注側に残ります。委託前に送信先の選定基準・文面・送信結果の内訳を発注側が確認できる契約になっているかを、契約段階で必ず確かめておいてください。
- 送信先が医療関係者向け窓口かどうか判断がつかない場合はどうすればよいですか?
判別できない場合は送信対象から外す「fail-closed」の運用を基本にしてください。窓口の用途が不明なまま送信するより、保留して個別に確認するほうが誤送信のリスクを抑えられ、社内審査でも説明しやすくなります。
- OTC医薬品やヘルスケア製品の販路開拓なら販売情報提供活動ガイドラインは無関係と考えてよいですか?
ガイドライン自体は医療用医薬品が対象のため直接は及びませんが、誇大広告を禁じる薬機法66条は医療用・OTCを問わず適用されるため、効能効果や優越性に関する表現の扱いは引き続き慎重に検討する必要があります。
- フォーム営業ツールを比較する際、料金や機能の多さより先に確認すべき点は何ですか?
製薬会社では、送信履歴の検証可能性・送信除外の仕組み化・自動化範囲の説明可能性という3つの軸の重みが他業界より明確に増すため、料金や機能数の比較よりもこの3軸を先に優先して確認することをおすすめします。
- 稟議で「なぜ医療機関を送信対象から外すのか」と問われたら、どう説明すればよいですか?
医療機関への情報提供は販売情報提供活動に該当し資材審査等の運用負荷が生じる点と、MR・MSLの役割分担と重複してしまう点の2つをセットで示すと、除外が消極的な回避ではなく設計上の選択であることが伝わります。



