見積書やRFP、上司からの指示で「アクセシビリティ対応」という言葉を初めて目にし、意味も費用の根拠も分からないまま判断が止まっている——そんなWeb担当者の方は、ここ数年で急増しています。「義務化された」「対応しないと訴えられる」という情報も飛び交い、何が本当で何から手をつければいいのか迷いやすい状況です。
特に困るのは、経営層や上司、制作会社から「うちのサイト大丈夫?」「どこまでやる?」と聞かれたとき。「なんとなく対応が必要そう」という感覚はあっても、「どこまでやれば十分か」「見積や契約に何を書けばよいか」を具体的に説明できないまま、検討が止まってしまうケースが多いようです。
この記事では、Webアクセシビリティ対応を検討している企業のWeb担当者・情報システム担当者の方に向けて、まず「アクセシビリティ」という言葉の意味を押さえ、続けて発注(見積・契約・保守)の判断にどうつながるかを整理します。そのうえで、法的背景、対応規格の選び方、実践的な手順、費用相場、外注時の発注ポイントまでを一冊の手引きとしてまとめました。
用語を理解するだけで終わらず、自社に必要な対応レベルを自分で判断し、見積・契約・納品後の運用まで見通せる状態になることを目的としています。それではまず、言葉の意味から確認していきましょう。
失敗しないためのWeb開発の考え方と開発パートナー選定チェックリスト

この資料でわかること
Web開発で失敗しないための考え方と、開発パートナーを選定する際のチェックリストをご紹介します。
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- Web開発を検討しているが、失敗したくない
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「アクセシビリティ」「Webアクセシビリティ対応」とは?意味と発注判断への影響
アクセシビリティとは:一言での定義
アクセシビリティ(accessibility)とは、直訳すると「近づきやすさ・利用しやすさ」のことです。年齢や障害の有無、利用環境にかかわらず、誰もが製品・サービス・情報を支障なく利用できる状態を指します。建物のスロープや点字ブロックもアクセシビリティの一例です。
Webの分野で使う場合は「Webアクセシビリティ」と呼び、Webサイトの情報や機能をすべての人が利用できる状態のことを意味します。そして、その状態を実現するために、サイトの設計・制作・運用を見直す取り組みが「Webアクセシビリティ対応」です。
用語 | 意味 | 見積書・契約書での位置づけ |
|---|---|---|
アクセシビリティ | 誰もが利用できる状態(広い概念) | これだけでは範囲が定まらない |
Webアクセシビリティ | Webサイトの情報・機能を誰もが利用できる状態 | 目指す状態。達成度は規格とレベルで測る |
Webアクセシビリティ対応 | 上記を実現するための診断・改修・試験・運用の作業 | 見積項目になる作業そのもの。範囲とレベルの明記が必要 |
なぜ発注判断に関わるのか:「対応します」だけでは見積が決まらない
「アクセシビリティ対応」という言葉は、ツールで簡易チェックするだけの作業から、規格に基づく試験・改修・報告書の納品までを含む作業まで、幅広い意味で使われます。そのため、依頼の書き方によって、見積の金額も成果物も大きく変わります。
発注側として、言葉の意味を理解した直後に押さえておきたい判断ポイントは次の3つです。
- 見積:対応範囲と準拠レベルで金額が変わる: どのページ・どの機能を対象にするか、どのレベル(A/AA)を目標にするかで、診断・改修・試験の工数が変わります(詳細は「対応にかかる費用の目安」で解説)
- 契約:準拠レベルと成果物を明記する: 「WCAG 2.2 レベルAA準拠」のように規格とレベルを書き、試験レポートなどの成果物を定義しておくことで、「配慮しました」程度の対応で終わるのを防げます(詳細は「外注する場合のポイント」で解説)
- 保守:納品後も作業と費用が発生する: コンテンツの追加やデザイン変更のたびに品質が劣化しうるため、納品後の確認作業や運用ルールを誰が担うのかを事前に決めておく必要があります(詳細は「対応後の継続運用」で解説)
この記事の以降の章は、この3つの判断に必要な材料を順に提供する構成になっています。まず、定義の補足から見ていきましょう。
Webアクセシビリティとは?なぜ今対応が求められるのか
具体例とWAICの定義
視覚障害者がスクリーンリーダーでWebサイトを読み上げる場面を想像してみてください。画像に説明文(alt属性)がなければ、その画像が何を伝えているのか分かりません。フォームのラベルが適切に設定されていなければ、入力項目が何を求めているのか理解できません。こうした「アクセスのしやすさ」を設計段階から考慮することが、Webアクセシビリティ対応です。
ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)では、Webアクセシビリティを「ウェブコンテンツ、より具体的にはウェブページにある情報や機能の利用しやすさ」と定義しています。
対応が必要な「利用者」とは誰か
アクセシビリティ対応の対象となる利用者は、視覚障害者だけではありません。主に以下のような方々が想定されます。
- 視覚障害: 全盲・弱視・色覚特性のある方。スクリーンリーダーや拡大表示を使用
- 聴覚障害: 動画コンテンツの音声情報が届かない方。字幕が必要
- 運動機能障害: マウス操作が難しく、キーボードのみで操作する方
- 認知・学習障害: 複雑なナビゲーションや長文が理解しにくい方
- 高齢者: 視力低下・細かな操作が難しい方
- 一時的な障害: 利き手を骨折している、明るい屋外でスマートフォンを使うなど
日本の高齢化が進む中、高齢者人口は全体の約30%に達しており(内閣府「高齢社会白書」)、Webアクセシビリティは将来の利用者層に対応するビジネス上の合理的な投資でもあります。
なぜ今、企業が対応を求められているのか
アクセシビリティ対応が企業で議論されるようになった背景には、主に3つの要因があります。
- 2024年の法改正: 2024年4月1日施行の改正障害者差別解消法により、民間企業への義務範囲が拡大(詳細は次のセクションで説明)
- デジタル庁のガイドライン整備: 政府調達要件への組み込みが進み、公共サービスとの連携でBtoG向けサービスには実質的な要件になっています
- グローバルな訴訟リスクの意識: アメリカではアクセシビリティ未対応を理由とした訴訟が急増しており(2023年に4,605件:出典 Web担当者Forum「米国で急増するウェブアクセシビリティ訴訟」)、日本でも注目が高まっています
障害者差別解消法との関係:「義務化」の実態を正確に理解する
「Webアクセシビリティが義務化された」という表現がメディアで多く使われていますが、これは正確ではありません。正確に理解することで、自社のリスク判断ができます。
「合理的配慮の義務化」と「環境整備の努力義務」の違い
2024年4月施行の改正障害者差別解消法で変わったのは以下の点です。
区分 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
合理的配慮の提供(民間事業者) | 努力義務 | 義務 |
環境整備 | 努力義務 | 努力義務(変化なし) |
合理的配慮とは、障害のある人から「このWebサイトが使えない」と申し出があった場合に、その個別の状況に応じた対応をすることです。たとえば「スクリーンリーダーで読めないので別の方法で情報を提供してほしい」という申し出に対して、代替手段を検討・提供することが義務化されました。
一方、Webアクセシビリティ対応(アクセシブルなサイトを事前に整備すること)は「環境整備」に位置づけられており、これは努力義務のままです。
Webアクセシビリティは義務か努力義務か
結論として、Webアクセシビリティ対応(サイトの事前整備)は努力義務です。法律上の強制義務ではありません。
ただし、「努力義務だから対応しなくていい」という判断は危険です。以下の観点からリスクを整理してください。
- 行政指導リスク: 対応の努力が見られず障害者からの申し出を放置した場合、行政から指導・勧告を受ける可能性があります
- 民事訴訟リスク: 合理的配慮義務違反として損害賠償請求の対象になりえます(義務化された「合理的配慮」を果たしていない場合)
- ブランドリスク: SNS時代において、アクセシビリティ未対応が批判を受けると炎上・不買運動に発展する可能性があります
- 機会損失: アクセシブルでないサイトは、障害者・高齢者という潜在的な顧客層へのアクセスを自ら閉じていることになります
対応しなかった場合のリスク(法的リスク・ブランドリスク)
現時点で日本国内にはWebアクセシビリティ未対応に対する直接的な罰則規定はありません。しかし以下を念頭に置いておく必要があります。
- 行政の勧告・公表: 改正障害者差別解消法には、指導に従わない事業者に対して勧告・公表ができる規定があります
- 企業評価への影響: 金融機関や大企業との取引・調達要件にアクセシビリティ対応が含まれるケースが増えています
- 将来の法整備: 諸外国では義務化・罰則化が進んでおり、日本でも法整備が強化される可能性があります
経営層への説明ポイント: 「今すぐ罰則はないが、合理的配慮義務(これは民間も義務)を果たすためにもサイトの整備は有効であり、ブランドリスク・将来の法整備リスクを考えると計画的な対応が合理的な投資である」
準拠すべき規格:WCAG 2.1/2.2 と JIS X 8341-3 の違い
Webアクセシビリティには2種類の規格があります。どちらに対応すればいいのか、混乱している方が多いため整理します。見積や契約で「何を基準に対応するか」を決める際の土台になる部分です。
WCAGとは(国際規格・W3C制定)
WCAG(Web Content Accessibility Guidelines)は、W3C(World Wide Web Consortium)が制定した国際的なWebアクセシビリティのガイドラインです。現在の最新バージョンはWCAG 2.2(2023年10月5日正式勧告)です。
WCAGは「知覚可能・操作可能・理解可能・堅牢性」という4つの原則のもとに達成基準が整理されており、各基準はレベルA(最低)・AA・AAA(最高)の3段階に分けられています。
JIS X 8341-3とは(日本語版・国内規格)
JIS X 8341-3は、WCAGを元に日本産業規格(JIS)として制定された国内規格です。現行のJIS X 8341-3:2016はWCAG 2.0(2008年制定)をベースにしています。
国や地方公共団体のWebサイト、そして政府調達要件ではJIS X 8341-3への対応が求められることが多く、「JIS準拠」という表現は日本でよく使われます。
WCAG 2.2での主な変更点
2023年10月に勧告されたWCAG 2.2では、WCAG 2.1と比較して9つの新しい達成基準が追加されました。そのうちAAレベルに追加されたのは以下の4基準です(W3C WCAG 2.2)。
達成基準 | レベル | 内容 |
|---|---|---|
2.4.11 隠されないフォーカス(最低限) | AA | キーボードフォーカスが他のコンテンツに完全に隠れないこと |
2.5.7 ドラッグ動作 | AA | ドラッグが必要な操作はドラッグなしでも実行できること |
2.5.8 ターゲットサイズ(最低限) | AA | クリック・タップ対象は最低24×24 CSSピクセル以上 |
3.3.8 アクセシブルな認証(最低限) | AA | 認知テスト(謎解き・記憶・計算)を認証に使わないこと |
また、WCAG 2.1で存在した4.1.1「構文解析」(A)はWCAG 2.2で削除されています。
2026年のJIS改正に向けた準備
JIS X 8341-3は2026年度内に改正される見通しで、WCAG 2.2ベースの内容に更新される方針です(JIS X 8341-3改正原案作成委員会は2024年10月に発足)。
今からWCAG 2.2 AAを基準に対応を進めることが、JIS改正後の対応コストを最小化する最善手です。 JIS改正を待ってから動き始めると、将来的に追加の改修コストが発生します。
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対応レベル(A/AA/AAA)の選び方:企業サイトの現実的な目標設定
適合レベルA・AA・AAAの違い
WCAGの達成基準は3段階のレベルで分類されています。このレベルは、見積と契約書に明記すべき「準拠レベル」そのものです。
レベル | 特徴 | 例 |
|---|---|---|
A(最低限) | 基本的なアクセシビリティ。これが達成されないと特定のユーザーはサイトを使えない | 画像にalt属性を設定する、キーボードのみで操作できる |
AA(推奨) | 広範なアクセシビリティ。ほとんどのユーザーが利用できる水準 | テキストのコントラスト比が4.5:1以上、エラー時にユーザーへの説明がある |
AAA(最高水準) | 高度なアクセシビリティ。全ての基準を満たすことは一部のコンテンツでは現実的でない | 手話通訳の提供、中学校低学年程度の読解力で理解できること |
企業サイトが目指すべきレベルは「AA」
企業のWebサイトが目指すべき現実的な目標は、WCAG 2.2(またはJIS X 8341-3)のレベルAA準拠です。その理由を説明します。
- Aのみでは不十分: レベルAは「使えなくはない」という最低水準。コントラスト比が低くても達成でき、多くのユーザーが不便を感じます
- AAAは現実的でない: AAAには、すべての音声コンテンツに手話通訳を提供するといった項目が含まれており、一般的な企業サイトでは対応が困難なものも多くあります
- 公的調達の基準: 国や地方公共団体のWebサイトはAA準拠が求められており、実質的なスタンダードになっています
「準拠」「一部準拠」「配慮」という対応度の表明方法
WAICのガイドラインに基づき、自社サイトのアクセシビリティ対応状況を以下の3段階で公表することができます。
表明区分 | 基準 | 適するケース |
|---|---|---|
準拠 | 対象範囲の達成基準を全て満たしている(試験で確認済み) | AA準拠の試験が完了している |
一部準拠 | 達成できていない基準があり、内容を明示している | 大部分は対応しているが例外がある |
配慮 | 特定の規格への準拠は表明しないが、配慮している | 試験未実施だが基本的な対応をしている |
多くの企業では最初「配慮」または「一部準拠」として方針を公表し、段階的に「準拠」へ移行するアプローチが現実的です。なお、この表明区分は発注時にも役立ちます。「どの区分を納品時のゴールにするか」を決めておくと、必要な試験の範囲が定まり、見積の比較もしやすくなります。
実践的な対応手順:何から始めるか(チェックリスト付き)
ステップ1:現状診断(無料ツールでできる初期チェック)
まずは現状把握から始めます。専門業者への依頼前に、無料ツールを使って基本的な問題を洗い出せます。
主要な無料チェックツール:
- axe DevTools(ブラウザ拡張): Chrome/Firefoxに追加するだけで、ページの問題点を一覧で確認できます。開発者向けですが、非エンジニアでも基本操作は可能です
- WAVE(ブラウザ拡張): 視覚的なレポートで問題箇所を表示します。色コントラストの確認も可能です
- Lighthouse(Chrome DevTools内蔵): Chrome DevToolsから「Accessibility」スコアを確認できます
ただし、自動チェックツールだけでは全問題の20〜30%程度しか検出できません(出典: WebA11y.jp「チェックツールを使えば、自動的にチェックできるよね?」)。キーボード操作の確認・スクリーンリーダーでの動作確認には人手による試験が必要です。この点は、見積で「自動ツールのみ」か「人手の試験を含む」かを確認すべき理由でもあります。
ステップ2:アクセシビリティ方針の策定と公開
対応を進める前に、会社としての方針を文書化して公開することが重要です。WAICのガイドラインでは「アクセシビリティ方針」の公開が推奨されており、外部への姿勢表明になります。
方針書に含めるべき内容:
- 準拠する規格・レベル(例: WCAG 2.2 AA)
- 対応状況の区分(準拠/一部準拠/配慮)
- 達成できていない基準とその理由
- 対応に向けた計画
- 問い合わせ先
ステップ3:対応範囲と優先度の決定
全ページを一度に対応することは現実的でないケースが多いです。以下の観点で優先度を決めます。
- トップページ・主要サービスページ: 最も多くのユーザーが訪れるページです
- お問い合わせフォーム・申し込みフォーム: フォームのアクセシビリティ問題は障害者の機会均等に直接影響します
- 採用ページ: 合理的配慮義務の観点で特に重要です
- 高齢者・障害者が多く利用するサービスのページ
ここで決めた対応範囲は、そのまま見積依頼の「対象ページ・対象機能」になります。範囲を先に決めておくと、複数社の見積を同じ条件で比較できます。
ステップ4:改修と試験の実施
改修は開発会社と連携して進めます。改修後は自動ツール+人手による試験を実施し、達成基準を満たしているか確認します。JIS準拠を表明する場合は、外部機関による第三者試験の実施が推奨されます。
まずチェックすべき10項目(チェックリスト)
以下の項目は対応コストが比較的低く、効果が高い基本的な確認ポイントです。
# | チェック項目 | 関連するWCAG達成基準 |
|---|---|---|
1 | 画像に意味のあるalt属性が設定されているか | 1.1.1 テキスト以外のコンテンツ(A) |
2 | 装飾目的の画像はalt=""になっているか | 1.1.1(A) |
3 | テキストと背景のコントラスト比が4.5:1以上か | 1.4.3 コントラスト(最低限)(AA) |
4 | キーボードのみですべての機能が操作できるか | 2.1.1 キーボード(A) |
5 | キーボードフォーカスが視覚的に分かるか | 2.4.7 フォーカスの可視化(AA) |
6 | ページにわかりやすいtitleが設定されているか | 2.4.2 ページタイトル(A) |
7 | フォームのラベルが適切に設定されているか | 1.3.1 情報と関係性(A), 3.3.2 ラベルまたは説明(A) |
8 | エラーが発生したとき、説明が提供されているか | 3.3.1 エラーの特定(A) |
9 | 動画コンテンツに字幕があるか | 1.2.2 キャプション(収録済み)(A) |
10 | 見出し(h1〜h6)が論理的な階層で使われているか | 1.3.1(A), 2.4.6 見出し及びラベル(AA) |
対応にかかる費用の目安:改修規模別の相場
ここでは、診断・改修それぞれの費用相場と、見積の金額を左右する要因を整理します。相場はあくまで目安で、サイトの規模や問題の深刻さによって変動します。
アクセシビリティ診断の費用相場
外部の専門機関にアクセシビリティ診断を依頼する場合の費用目安です。
診断の種類 | 費用目安 | 特徴 |
|---|---|---|
自動ツールによる簡易診断 | 数万円〜20万円程度 | 問題の概要把握。人手による確認は含まない |
専門家による詳細診断(10ページ程度) | 27万円〜50万円程度 | WCAG/JIS準拠の達成基準ごとに確認 |
大規模診断(100ページ程度) | 50万円〜100万円以上 | 外部機関への試験委託。1ヶ月弱かかることも |
参考として、BIPROGYチャレンジド株式会社の公開料金では、ページ数・達成基準レベルによって料金が設定されています。
改修費用の目安と変動要因
診断後の改修費用は、問題の量・種類によって大きく変動します。
費用が低くなるケース:
- 問題がalt属性の追加・色のコントラスト修正など、HTMLやCSSの修正で対応できる場合
- 問題が少なく、重要ページ数ページのみを対象とする場合
費用が高くなるケース:
- デザイン全体の見直しが必要(コントラスト比がデザインに組み込まれている等)
- JavaScriptで構築された複雑なインタラクションの改修
- 動画コンテンツへの字幕追加
- フォーム設計の根本的な見直し
一般的には、既存サイトの部分的な改修で50万〜200万円程度が中央的な目安ですが、サイトの規模・問題の深刻さによって幅があります。
見積の金額を左右する4つの条件
制作会社から届いた見積の金額差は、多くの場合「何を前提にしているか」の違いから生まれます。見積を比較する前に、次の4つの条件がそろっているかを確認してください。
条件 | 金額への影響 | 確認のしかた |
|---|---|---|
対応範囲 | 対象ページ・機能が増えるほど診断・改修・試験の工数が増える | 対象ページ数や対象機能(フォーム・動画など)が明記されているか |
準拠レベル | Aより AA のほうが確認・改修する達成基準が多い | 「WCAG 2.2 AA」など規格とレベルが書かれているか |
試験方法 | 人手の試験(キーボード・スクリーンリーダー)を含めると工数が増える | 自動ツールのみか、人手の試験を含むか |
成果物 | 試験レポートや方針文書を作成するかで工数が変わる | 納品物の一覧に試験レポートが含まれているか |
極端に安い見積は、「自動ツールの結果をまとめただけ」「対象ページが限定されている」といった前提の違いによる場合があります。金額だけで判断せず、上記の条件を横並びにして比較することをおすすめします。
コストを抑えるタイミング:リニューアル時の同時対応
アクセシビリティ対応コストを最小化するには、サイトリニューアルのタイミングでの同時対応が最も効率的です。
リニューアル後に改修する場合と比べると、リニューアル時に要件として含める場合の追加コストは最小限に抑えられます。逆に、リニューアル後に気づいてから対応しようとすると、デザイン変更・コード改修に追加のコストが発生します。
Webリニューアルを検討している場合は、提案要件に「WCAG 2.2 AA準拠」を含めることを強く推奨します。
段階的対応のロードマップ例
一度に全対応することが難しい場合、以下のような段階的アプローチが現実的です。
フェーズ | 期間目安 | 内容 |
|---|---|---|
フェーズ1(短期) | 1〜3ヶ月 | 現状診断・アクセシビリティ方針の公開・最重要ページの基本対応(alt属性・コントラスト・フォームラベル) |
フェーズ2(中期) | 3〜12ヶ月 | 主要ページへの対応拡大・動画コンテンツの字幕追加・キーボード操作の確認 |
フェーズ3(長期) | 1年以上 | 全ページへの展開・第三者試験の実施・準拠表明の公開・継続的な品質維持体制の構築 |
外注する場合のポイント:開発会社・制作会社への発注時の確認事項
多くの企業では、Webアクセシビリティ対応を開発会社・制作会社に外注することになります。発注者として押さえておくべきポイントを、見積・契約・検収・保守の順に解説します。なお、Web開発の基本的な流れや開発会社の選び方については別記事で詳しく解説しています。
要件定義に「WCAG 2.2 AA準拠」を明記する
最も重要なのは、見積もり段階・要件定義書に「WCAG 2.2 レベルAA準拠」を明記することです。
アクセシビリティ対応をあいまいな形で依頼すると、「配慮しました」という程度の対応で終わるケースがあります。「WCAG 2.2 AA準拠を達成基準とし、試験結果のレポートを成果物として提出すること」と明記しておくことで、受注側も対応コストを見積もりやすくなり、結果的に手戻りが少なくなります。
契約書や発注書に盛り込む文言の例は次のとおりです(自社の状況に合わせて法務・制作会社と調整してください)。
- 目標: 対象ページは「WCAG 2.2 レベルAA」の達成基準を満たすこと
- 対象範囲: 対象ページ・機能を一覧で別紙に記載すること
- 検証方法: 自動ツールに加え、キーボード操作とスクリーンリーダーによる人手の試験を実施すること
- 成果物: 達成基準ごとの適合状況を記載した試験レポートを納品すること
- 未達成時の扱い: 未達成の基準がある場合は、理由と対応方針(修正の時期・代替手段)を記載すること
見積もり時に確認すべき5項目
開発・制作会社に見積もりを依頼する際は、以下を確認してください。
- 対応範囲: どのページ・どの機能を対象とするか(全ページか主要ページか)
- 準拠レベルと規格: WCAG 2.2 AA準拠か、JIS X 8341-3準拠か
- 試験の実施方法: 自動ツールのみか、人手による試験(キーボード操作・スクリーンリーダー)も含むか
- 成果物の定義: 試験レポート・アクセシビリティ方針文書の作成は含まれるか
- 改修後のサポート: 定期的な確認・コンテンツ追加時のアドバイスなど継続サポートの有無
開発完了後の検収チェックポイント
成果物を受け取る際の確認点を準備しておきます。
- 試験レポートの確認: 達成基準ごとに「適合/不適合/該当なし」が記載されているか
- 未達成基準の明示: 対応できなかった基準がある場合、理由と代替手段が記載されているか
- 自分でもチェック: axeなどの無料ツールを使って、重大な問題が残っていないか自分でも確認します
- キーボード操作の確認: マウスを使わず、タブキーだけで主要機能にアクセスできるか実際に試します
継続的な品質維持の仕組みを確認する
アクセシビリティ対応は一度やれば完了ではありません。コンテンツが追加されるたびに品質が劣化するリスクがあります。
外注時には「コンテンツ追加・更新時のアクセシビリティ確認」についても仕組みを確認しておきましょう。たとえば「画像追加時にalt属性のルールを共有する」「CMS のコンテンツ入力時のガイドラインを作成する」といった対策が有効です。
納品後の保守・運用で何を誰が担うかを決めておく
見積の段階で見落とされやすいのが、納品後に発生する作業の担当と費用です。保守契約を結ぶ場合も、一般的な「障害対応・更新作業」にアクセシビリティの確認が含まれているとは限りません。契約前に、次の作業を誰が担うのか、保守費用に含まれるのかを確認してください。
納品後に発生する作業 | 決めておくこと |
|---|---|
コンテンツ追加時の確認(alt属性・見出し・字幕など) | 自社の担当者が行うか、制作会社に依頼するか。入力ルールの提供有無 |
デザイン変更・機能追加時の再確認 | 変更のたびにAA準拠を維持する前提か、追加費用の扱い |
定期診断(四半期・半期など) | 実施頻度、範囲、保守費用に含まれるか別料金か |
CMSやプラグインの更新後の動作確認 | 更新時にアクセシビリティの再確認が含まれるか |
規格改正への追従(JIS X 8341-3の改正など) | 対応の要否判断と費用負担をどう扱うか |
これらを契約書や保守仕様に書き込んでおくと、納品後に「それは対象外です」と言われて想定外の費用が発生する事態を避けやすくなります。
対応後の継続運用:どうやって品質を維持するか
アクセシビリティは「一度対応したら終わり」ではない理由
初回対応が完了した後も、以下の理由でアクセシビリティ品質は劣化していきます。
- コンテンツの追加: 新しいページ・画像・動画が追加されるたびにalt属性・字幕の確認が必要です
- デザイン変更: キャンペーンバナーや季節に合わせた配色変更でコントラスト比が悪化するケースがあります
- 機能追加: 新しいフォーム・モーダル・インタラクションはキーボード対応の確認が必要です
- CMSの更新: WordPressなどのCMS更新でテーマやプラグインの動作が変わるケースがあります
継続運用のための社内フロー構築
アクセシビリティ品質を維持するためには、社内の制作フローに組み込むことが重要です。
具体的な取り組み例:
- コンテンツ追加時のチェックリスト: 新しい画像を追加する際はalt属性を確認する手順書を整備します
- 定期診断: 四半期または半期ごとに自動ツールでのスキャンを実施します
- 担当者の教育: Web担当者・コンテンツ担当者向けのアクセシビリティ基礎研修を実施します
- 発注仕様への組み込み: 今後の外注案件にすべてアクセシビリティ要件を含めます
2026年JIS改正に備えた準備
JIS X 8341-3の改正内容は「2026年のJIS改正に向けた準備」で触れたとおりです。保守契約では、改正への追従を誰が判断し、費用をどう扱うかを決めておきましょう。特にターゲットサイズ・アクセシブルな認証・ドラッグ動作の代替は、WCAG 2.2で追加された基準のため、改修時に優先して確認すると効果的です。
まとめ:最低限やるべきことのアクションリスト
「アクセシビリティ」とは、誰もがWebサイトの情報や機能を利用できる状態のことであり、「Webアクセシビリティ対応」はその状態を実現するための診断・改修・試験・運用の作業です。発注判断では、見積では対応範囲・準拠レベル・試験方法・成果物、契約では規格とレベルの明記、保守では納品後の作業と担当の3点を押さえることが重要です。
Webアクセシビリティ対応は、大規模な投資なしに段階的に進められます。以下のアクションリストを参考に、自社の状況に合わせて着手してください。
今すぐできること(費用ゼロ〜低コスト)
- axe、WAVE などの無料ツールでトップページの現状診断を実施する
- 対応状況の概要を確認し、問題の多さ・種類を把握する
- アクセシビリティ方針(「配慮」レベルでOK)を策定し、サイトのフッターまたは会社情報ページに公開する
- 次回のサイト更新・リニューアル要件に「WCAG 2.2 AA準拠」を含めることを決定する
3ヶ月以内に着手すること
- 重要ページ(トップ・お問い合わせ・採用)のalt属性・コントラスト比・フォームラベルを確認・修正する
- キーボードのみでの主要機能の操作確認を実施する
- 社内コンテンツ担当者向けの基本チェック手順書を作成する
- Webサイトのリニューアル・大規模改修の場合は、アクセシビリティ対応コストを見積もりに含める
- 見積依頼書に対応範囲・準拠レベル・試験方法・成果物・納品後の保守範囲を明記する
中長期的な取り組み
- 外部の専門機関による詳細診断を実施し、改修計画を立案する
- WCAG 2.2 AA準拠を目指した系統的な改修を実施する
- 定期的な診断と継続運用フローを構築する
- 2026年JIS X 8341-3改正への対応を見据えた計画を立案する
経営層・上司への報告の際は、「義務化された部分(合理的配慮)と努力義務の部分(環境整備)を区別した上で、将来のリスクを考慮した計画的な投資として対応を進める」という方針を提示することで、現実的な議論ができます。
Webアクセシビリティ対応は、誰もが使いやすいWebを作るという価値と、ビジネスリスクを低減するという実用面の両方から意味のある取り組みです。まずは言葉の意味を押さえ、現状把握から始めてみてください。
失敗しないためのWeb開発の考え方と開発パートナー選定チェックリスト

この資料でわかること
Web開発で失敗しないための考え方と、開発パートナーを選定する際のチェックリストをご紹介します。
こんな方におすすめです
- Web開発を検討しているが、失敗したくない
- 開発パートナーを選定しているが、選び方がわからない
- Web開発の失敗パターンを知っておきたい
入力いただいたメールアドレスにPDFをお送りします。
よくある質問
- Webアクセシビリティに対応しないと罰金や訴訟のリスクはありますか?
現時点で日本国内に直接的な罰則規定はありません。ただし障害者からの申し出を放置すると合理的配慮義務違反として民事訴訟・行政指導の対象になりえます。罰金より、ブランドリスクと将来の法整備リスクを見据えた計画的対応が現実的です。
- 中小企業でも全ページをAA準拠にする必要がありますか?
一度に全ページを準拠させる必要はありません。トップページ・お問い合わせフォーム・採用ページなど影響の大きい主要ページから着手し、「配慮」レベルで方針を公表して段階的に「準拠」へ移行するのが現実的です。全ページのAA準拠は中長期目標として設定すれば十分です。
- 経営層に「対応は必要か」と聞かれたら、どう説明すればよいですか?
「サイト整備自体は努力義務だが、申し出への合理的配慮は民間も義務化された」点を区別して伝えるのが有効です。罰則は現状ないものの、合理的配慮を果たす土台として、またブランド・将来の法整備リスクを抑える計画的投資として位置づけると議論が進みます。
- 今からJIS準拠を待つべきですか、それともWCAG 2.2で進めるべきですか?
WCAG 2.2 AAを基準に今から進めるのが最善です。JIS X 8341-3は2026年度内にWCAG 2.2ベースへ改正される見通しのため、改正を待つとかえって追加の改修コストが発生します。先にWCAG 2.2 AAへ対応しておけば改正後の対応コストを最小化できます。
- 外注時に「ちゃんと対応した」と言わせないためのコツはありますか?
要件定義書に「WCAG 2.2 レベルAA準拠」と達成基準を明記し、試験レポートの提出を成果物条件にすることです。「配慮しました」程度で終わらせないため、自動ツールだけでなくキーボード操作・スクリーンリーダーによる人手試験を含めるよう指定してください。
- 対応にかかる費用はどのくらい見積もればよいですか?
既存サイトの部分改修なら50万〜200万円程度が中央的な目安で、専門家による詳細診断(10ページ程度)は27万〜50万円ほどです。費用はサイト規模と問題の深刻さで大きく変動するため、サイトリニューアル時に要件として同時対応すると追加コストを最小限に抑えられます。



