「自宅で複業をしているなら、家賃や電気代、ネット代も経費にできますよ」——確定申告の準備を進めるなかで、こうした話を耳にした複業エンジニアの方は多いはずです。会計ソフトの経費入力画面を開き、いざ家賃を打ち込もうとしたところで、「按分割合(%)」の入力欄の前で手が止まってしまった。そんな経験はないでしょうか。
家賃も電気代もネット代も、本業(会社員)として生活するための支出でもあります。そのうち「複業に使った分」だけを切り出すのが家事按分ですが、いざ自分のケースに当てはめようとすると「では、何%が複業の分なのか」という肝心の判断軸が見当たりません。とくに本業もフルリモートやハイブリッドの在宅勤務で、同じ部屋・同じ机・同じネット回線を本業でも複業でも使っている場合、「本業の在宅勤務分」「私生活分」「複業分」の三つどもえをどう切り分ければいいのか、調べても明確な答えが出てこず、入力欄の前で固まってしまいます。
しかもこの割合は、低く見積もりすぎれば払わなくてよい税金まで払うことになり、高く盛りすぎれば税務調査で否認され追徴課税のリスクを背負います。「ちょうどいい割合」を、自分の住まいと働き方に合わせて、しかも後から説明できる形で決めたい——これがこの記事を読んでいるあなたの本音ではないかと思います。
本記事では、複業エンジニアが自宅の家賃・水道光熱費・通信費を家事按分で経費にする方法を、費目別に整理して解説します。面積按分・時間按分の使い分け、本業も在宅勤務の場合の「二重利用」の切り分け方、そして税務調査が来ても説明できる按分根拠の残し方まで、会社員として複業をしている方の実情に沿って具体的に手順化します。PC・周辺機器といった機器の按分や、確定申告の全体的な手続きについては別記事に譲り、本記事は「自宅の固定費の按分」に絞って深掘りします。
読み終えるころには、自分の間取りと複業の稼働時間に当てはめて按分割合を自分で算定でき、その根拠を残したうえで迷わず申告できる状態を目指します。
複業エンジニアは自宅の家賃・光熱費・通信費を経費にできる?家事按分の基本

結論からお伝えすると、自宅で複業をしているなら、家賃・水道光熱費・通信費といった固定費のうち「複業に使った分」は経費にできます。その仕組みが「家事按分」です。まずは、按分の入口でつまずかないよう、大原則を押さえておきましょう。
家事按分とは|兼用支出を合理的な割合で分けること
家事按分とは、プライベートと事業(複業)の両方に使っている支出を、合理的な割合で「事業に使った分」と「私生活で使った分」に分けることをいいます。自宅の家賃のように、生活の拠点であると同時に複業の作業場所でもある支出は、その全額を経費にはできませんが、「複業に使った割合」の分だけは経費として計上できます。
ここで多くの人が不安に感じるのが「正解の割合はいくつなのか」という点です。しかし、家賃なら何%、電気代なら何%という法律で定められた正解値は存在しません。按分で求められるのは、業務に必要な部分を合理的な基準で区分し、税務署に求められたときにその根拠を説明できることです。国税庁も、家事上の経費と業務上の経費が混在する「家事関連費」について、業務の遂行上必要な部分を明らかに区分できる場合に必要経費へ算入できるとしています(国税庁 No.2210 必要経費の知識)。
つまり按分のゴールは「正解の数字を当てること」ではなく、「自分の使い方を反映した、説明できる割合を自分で組み立てること」です。この前提を持っておくと、入力欄の前で固まる時間がぐっと減ります。
複業で按分対象になる固定費3費目と、会社員ならではの注意点
複業エンジニアが家事按分の対象にできる主な固定費は、次の3つです。
- 家賃(地代家賃): 自宅の一室やリビングの一角を複業の作業場所にしている場合、その分を按分
- 水道光熱費: 主に電気代。複業作業中に使うPC・照明・エアコンなどの電力
- 通信費: 自宅のインターネット回線・スマートフォンの通信のうち複業に使った分
一方で、会社員が複業をしている場合には、フリーランス(専業の個人事業主)とは異なる注意点があります。それは、本業の会社が負担している費用や、本業のために使っている分は、複業の経費にはできないという線引きです。たとえば、本業の在宅勤務手当として会社からネット代や光熱費の補助を受けているなら、その対象部分を複業の経費に重ねて計上することはできません。あくまで「複業に紐づく分だけ」が按分の対象になります。
この線引きは、本業も在宅勤務をしているエンジニアにとって特に重要です。同じ自宅を本業でも複業でも使っているからこそ、「複業分」を切り出す作業がいっそう繊細になります。この点は本記事の核心として、後ほど詳しく扱います。
なお、確定申告の要否や所得区分(事業所得か雑所得か)、申告手順といった全体的な手続きについては、複業エンジニアの確定申告で解説しています。本記事は、その中の「家事按分(固定費)」を深掘りする位置づけです。
按分割合の決め方|面積按分と時間按分の使い分け

按分割合を算定する方法は、大きく分けて2つあります。「面積按分」と「時間按分」です。どちらを使うかは費目と自分の働き方によって変わるので、まずはそれぞれの考え方と、使い分けの判断軸を押さえましょう。
面積按分の考え方と計算例(専用の作業スペースがある場合)
面積按分は、自宅の総床面積のうち、複業の作業に使っている面積の割合で按分する方法です。計算式はシンプルです。
按分割合 = 複業に使う部屋の面積 ÷ 自宅全体の面積
たとえば、50平方メートルの賃貸住宅のうち、複業専用の書斎として12.5平方メートルの一室を使っているなら、按分割合は「12.5 ÷ 50 = 25%」となります。月10万円の家賃なら、その25%にあたる25,000円が複業の経費の候補になります。
面積按分は、複業のために使う部屋やスペースが明確に分かれている場合に向いています。間取り図で「この部屋は複業用」と示せるため、根拠が客観的で説明しやすいのが利点です。固定費のなかでも家賃は、この面積按分を基本にするのが一般的です。
時間按分の考え方と計算例(兼用スペース・断続的な複業の場合)
時間按分は、全体の利用時間のうち、複業に使った時間の割合で按分する方法です。
按分割合 = 複業の稼働時間 ÷ 全体の利用時間
複業専用の部屋がなく、リビングの一角やダイニングテーブルで作業している場合、面積で切り分けるのは無理があります。こうした兼用スペースでは、時間按分のほうが実態に合います。
複業エンジニアの稼働は、平日の夜や土日に限られる断続的なものが多いはずです。たとえば「平日は夜2時間×5日=週10時間、土日は1日4時間×2日=週8時間、合計で週18時間を複業に充てている」というケースを考えます。1週間(168時間)のうち、睡眠などを除いた起床・在宅時間を仮に週84時間とすると、複業稼働18時間の割合は「18 ÷ 84 ≒ 21%」です。電気代のように「使っている時間」と消費が比例しやすい費目は、この時間按分が現実的です。
ここで分母をどう取るか(1日24時間か、起床している在宅時間か)に絶対の決まりはありませんが、実態に近く、後から説明できる取り方を選ぶことが大切です。エンジニアの複業は時間がはっきり区切られているぶん、稼働ログをそのまま根拠にできる強みがあります。
高すぎ・低すぎを避ける|実態と合致した割合にする
按分割合を決めるとき、2つの方向に偏らないよう注意が必要です。
ひとつは高く盛りすぎるリスクです。週末しか複業をしていないのに家賃の50%を経費にする、といった按分率と実態が大きく乖離したケースは、税務調査で指摘されやすい代表例です。否認されれば、経費として認められないだけでなく、追徴課税や延滞税の対象になることもあります。
もうひとつは低く見積もりすぎる損失です。「指摘されるのが怖いから」と実態よりかなり低い割合にしてしまうと、本来は正当に経費にできた分まで申告せず、払わなくてよい税金を払うことになります。
家事按分の目的は、節税の最大化でも、安全のための過小申告でもなく、自分の実際の使い方を素直に反映した割合にすることです。「この割合は、自分の働き方からこう計算しました」と説明できれば、高すぎでも低すぎでもない、合理的な按分になります。
本業も在宅勤務の複業エンジニアが「二重利用」をどう切り分けるか

ここからが、本記事の核心です。多くの解説記事は「副業=本業で日中は会社に出ている前提」で按分を語ります。しかし、本業がフルリモートやハイブリッドの在宅勤務だと、同じ自宅・同じ机・同じネット回線を、本業の在宅勤務でも複業でも使うことになります。この「二重利用」をどう切り分けるかは、調べても明確な答えが見つかりにくい論点です。順を追って整理します。
在宅時間を「本業在宅勤務/複業/私生活」に三分割する考え方
本業も在宅で働いているエンジニアの自宅利用は、ざっくり次の3つの用途が混在しています。
- 本業の在宅勤務(会社の業務として自宅で働いている時間)
- 複業(自分の複業として稼働している時間)
- 私生活(食事・睡眠・くつろぎなど)
家事按分で経費にできるのは、このうち 2の複業分だけ です。ポイントは、本業で外出しているケースのように「在宅=複業」と単純化できないことです。在宅時間をまず「本業の在宅勤務」「複業」「私生活」の3つに分け、そのなかの複業分だけを取り出す——この三分割の発想が、二重利用を整理する出発点になります。
逆に言えば、ここで本業の在宅勤務分まで複業の経費に含めてしまうと、後述する二重計上の問題が生じます。三分割を意識するだけで、按分の精度と説明力が大きく変わります。
複業稼働時間ベースで按分割合を算定する具体例
三分割の考え方を、具体的なタイムテーブルに落とし込んでみます。本業がフルリモートのエンジニアの平日を例にします。
時間帯 | 用途 | 区分 |
|---|---|---|
9:00〜18:00(9時間) | 本業の在宅勤務 | 本業(経費対象外) |
18:00〜21:00(3時間) | 夕食・入浴・休憩 | 私生活 |
21:00〜23:00(2時間) | 複業の開発作業 | 複業(経費対象) |
23:00〜翌7:00(8時間) | 睡眠 | 私生活 |
この平日が週5日、加えて土日に1日4時間ずつ複業をするとします。すると、
- 複業の週間稼働: 平日2時間×5日+土日4時間×2日 = 週18時間
- 本業の在宅勤務: 9時間×5日 = 週45時間
- 起床している在宅時間の合計(睡眠を除く): 仮に週90時間
このとき、起床在宅時間に占める複業の割合は「18 ÷ 90 = 20%」です。電気代や自宅回線の通信費のように、稼働時間と利用が比例しやすい費目は、この20%を按分割合の根拠にできます。
重要なのは、本業の在宅勤務45時間は分子に入れないという点です。同じ机・同じ回線を使っていても、その時間は会社の業務であって、自分の複業ではありません。複業の稼働時間だけを分子に取ることで、二重利用のなかから複業分を正しく切り出せます。
本業の在宅勤務分は複業の経費にできない(二重計上の回避と線引き)
二重利用で最も注意すべきなのが、本業の在宅勤務に係る費用を複業の経費に含めないことです。
本業の在宅勤務でかかる電気代や通信費は、本来は会社の在宅勤務手当などで扱われるべきもので、複業の経費にはあたりません。同じネット回線・同じ電気を使っているからといって、本業で使った分まで複業の経費に計上すると、実態より過大な按分になり、税務調査で否認されるリスクが高まります。
たとえば、自宅回線の月額が6,000円で、本業の在宅勤務でも複業でも使っているとします。このとき、
- 本業在宅勤務分: 会社側の扱い(複業の経費にはしない)
- 複業分: 上記の例なら通信費全体の約20%にあたる1,200円程度が経費の候補
- 私生活分: 経費対象外
というように、回線・電気代を一本の支出として捉え、そのなかの複業分だけを取り出すのが正しい処理です。「本業の在宅勤務分」と「複業分」を別々にフルで経費化しようとすると二重計上になります。三分割の考え方は、まさにこの二重計上を防ぐための線引きでもあります。
費目別の按分実務|家賃・水道光熱費・通信費

ここまでの考え方を、3つの費目それぞれに当てはめていきます。費目ごとに「面積按分か時間按分か」「相場の目安」「勘定科目」を整理するので、自分のケースに当てはめてみてください。なお、ここで挙げる相場の数字はあくまで一般的な目安であり、最終的には自分の実態に合わせて算定するものです。
家賃(地代家賃)の按分|面積按分を基本にする
家賃は 面積按分を基本 にします。複業に使う部屋・スペースの面積が、自宅全体に占める割合で按分するのが、最も客観的で説明しやすい方法です。
- 専用の書斎がある場合: 「書斎の面積 ÷ 自宅全体の面積」で算定。例: 50平方メートルのうち書斎10平方メートルなら20%
- リビングの一角を使う場合: 厳密な面積で切り出しにくいので、作業スペースの面積に加えて時間按分を併用する考え方もある(面積比に「その場所を複業に使っている時間割合」を掛ける)
- 勘定科目: 地代家賃
実務上、複業(とくに会社員の副業)の家賃按分は、住まい全体に占める作業スペースの比率に応じて数%〜十数%程度に落ち着くケースが多く見られます。専用部屋がなくリビングの一角だけなら、家賃全体の数%程度が無理のない水準になることも珍しくありません。重要なのは数字そのものより、「なぜその割合になるのか」を間取りで説明できることです。
なお、持ち家の場合は家賃そのものがないため、按分の対象は減価償却費・住宅ローンの利息・固定資産税などに変わり、考え方がより複雑になります。持ち家のケースは個別性が高いため、判断に迷う場合は税理士への相談をおすすめします。
水道光熱費の按分|電気代は時間按分・ガス/水道は事業関連性で判断
水道光熱費は費目によって扱いが分かれます。
- 電気代: PC・照明・エアコンなど、複業作業に直接使うため按分対象。時間按分(複業稼働時間の割合)が現実的。面積按分を使うケースもある
- ガス代・水道代: 開発作業との関連性が薄いため、原則として按分対象になりにくい。来客対応で給湯を使うなど明確な事業利用がなければ、計上を見送るのが無難
- 勘定科目: 水道光熱費
電気代の按分割合は、先ほど三分割で算出した複業稼働時間の割合をそのまま使うのが合理的です。実務では、電気代全体の数%〜1割弱程度に収まることが多く、これも自分の稼働実態から計算した数字であれば説明力があります。在宅勤務の本業分を分子に入れない点は、ここでも同じです。
通信費の按分|自宅回線・スマホの複業利用割合
通信費は、複業エンジニアにとって按分の比重が比較的大きくなりやすい費目です。
- 自宅のインターネット回線: 複業の開発・調査・デプロイなどで日常的に使うため按分対象。時間按分(複業稼働時間の割合)が基本。本業の在宅勤務分は除く
- スマートフォン: 複業の連絡・テザリング・調査に使う分を按分。プライベート利用が大半なら割合は控えめに
- モバイル回線・複業専用契約: 複業のためだけに契約した回線やSIMがあれば、その分は全額経費にできる場合がある
- 勘定科目: 通信費
自宅回線も電気代と同様、本業の在宅勤務・複業・私生活の三分割のなかから複業分だけを取り出します。先ほどの例では約20%でした。なお、複業のためだけに新たに契約した回線やクラウドサービスの通信は、私用と混ざらないため按分不要で全額経費にできる可能性があります。混在を避けたいなら、複業専用の手段を分けてしまうのもひとつの方法です。
PC・周辺機器・SaaS といった機器・ツール類の按分や減価償却については、副業エンジニアのPC経費と按分で詳しく扱っています。固定費以外の経費品目を網羅的に確認したい場合は、フリーランスエンジニアの経費一覧もあわせてご覧ください。
税務調査で否認されない按分根拠の残し方

按分割合をいくら丁寧に計算しても、その根拠を残していなければ、税務調査の際に「なぜその割合なのか」を説明できません。家事按分で本当に大切なのは、計算そのものよりも 「説明できる記録を残しておくこと」 です。ここでは、再現できる形で証拠の残し方を整理します。
按分根拠は「説明できる記録」を残すことが全て
家事按分は、税務署に対して「業務に必要な部分を、こういう基準で区分しました」と示せて初めて認められます。逆に言えば、割合の数字がいくら控えめでも、根拠の記録がなければ「なぜその割合か」に答えられず、否認の余地を残してしまいます。
ポイントは、申告のタイミングでまとめて作ろうとしないことです。間取りや稼働時間は、後から思い出して再現するのが難しい情報です。複業を続けるなら、根拠の記録を 毎月の習慣 にしてしまうのが、結果的にいちばん負担が軽くなります。
面積・時間・計算根拠の残し方(間取り図・稼働ログ・計算メモ)
具体的に残しておきたい根拠は、按分方法に応じて次の3種類です。
- 面積按分の根拠(家賃向け): 賃貸契約書や間取り図に、複業に使うスペースを書き込んだもの。総床面積と作業スペースの面積、その比率をメモしておく
- 時間按分の根拠(電気代・通信費向け): 複業の稼働時間の記録。エンジニアならカレンダー・Googleカレンダー・タイムトラッキングツール(Toggl など)・Git のコミット履歴などが、稼働実態を裏付ける材料になります。本業の在宅勤務時間・私生活時間との三分割が分かる形にしておくと説明力が増す
- 按分計算の根拠メモ: 「家賃10万円 × 面積比20% = 2万円」「自宅回線6,000円 × 複業稼働割合20% = 1,200円」のように、割合をどう算出したかの計算式と前提を1枚にまとめたメモ
これらは特別な書式である必要はありません。表計算ソフト1枚に「費目・全体額・按分方法・割合・根拠・経費計上額」を並べておくだけでも、調査の際に大きな助けになります。
領収書・検針票の保管と調査で問われやすいポイント
按分計算のもとになる原資料も保管が必要です。
- 保管すべきもの: 家賃の振込記録・賃貸契約書、電気代の検針票や明細、通信費の請求書・明細
- 電子データの扱い: 電子で受け取った請求書や明細(PDF・Web 明細)は、電子帳簿保存法のルールに沿って電子のまま保存する必要があります。会計ソフトの証憑保存機能を使うと、要件を満たした保存がしやすくなります。最新の保存要件は国税庁の電子帳簿保存法のページで確認できます
税務調査で按分が問われやすいのは、主に次の2点です。
- 按分率と実態の乖離: 稼働実態に対して割合が高すぎる場合。稼働ログとの整合性を説明できるようにしておく
- 私生活分の混入: 明らかに私的な利用分まで経費に含めていないか
逆に言えば、稼働ログと計算メモがそろっていて、「この割合は自分の働き方からこう計算した」と一貫して説明できれば、調査が来ても落ち着いて対応できます。証拠を残すこと自体が、最大の安心材料になります。
青色申告・白色申告で家事按分の扱いはどう変わるか
按分の根拠を残せたら、最後に「自分の申告区分でこの按分がどう扱われるか」を確認しておきましょう。青色申告か白色申告かによって、按分のハードルが変わります。
白色は厳密な証明・青色は合理的割合で認められやすい
家事按分の根拠となる考え方は、国税庁の所得税基本通達45-2に示されています。これによると、業務に必要な部分が支出の50%を超える場合に経費にできるのが原則ですが、50%以下であっても、業務に必要な部分を明らかに区分できれば経費に算入してよいとされています。この「明らかに区分できる」かどうかが、白色と青色で実務上の差として現れます。
- 白色申告: 上記の原則どおり、業務に必要な部分が「明らかに区分できる」ことを比較的厳密に求められます。記帳が簡易なぶん、客観的な証明が難しくなり、結果的に按分が認められにくくなる場合があります
- 青色申告: 帳簿付けがしっかりしている前提のもとで、取引の状況からみて業務に必要な部分を合理的な割合で区分できれば認められやすくなります
ただし、白色でも青色でも「根拠を示せること」が必要な点は共通です。青色だから根拠なしで通る、というわけではありません。違いはあくまで、証明のしやすさと運用の柔軟さにあります(参考: 弥生 家事按分の割合の決め方、freee 家事按分とは)。
雑所得でも家事按分はできる(特典の有無は所得区分次第)
ここで一点、会社員の複業で多くの人が引っかかるのが「自分の複業収入は雑所得かもしれない」という点です。青色申告特別控除などの特典は、原則として事業所得(または不動産所得)に適用されるもので、雑所得には使えません。
ただし、家事按分そのものは雑所得でも可能です。複業に使った固定費を合理的な割合で経費にできる点は、所得区分にかかわらず変わりません。違ってくるのは、青色申告特別控除のような「特典が使えるかどうか」です。
自分の複業収入が事業所得になるのか雑所得になるのか、青色申告ができるのかといった所得区分・申告区分の判断については、複業エンジニアの確定申告で詳しく解説しています。本記事の家事按分とあわせて確認すると、自分の申告全体の見通しが立てやすくなります。
まとめ|自分の住まいと働き方に当てはめて按分割合を確定する
複業エンジニアの家事按分は、次の手順で進めると迷いません。
- 按分対象の費目を洗い出す: 家賃・電気代・通信費。ガス/水道は事業関連性が薄ければ見送る
- 費目ごとに按分方法を選ぶ: 家賃は面積按分が基本、電気代・通信費は時間按分が現実的。兼用スペースは併用も検討
- 本業の在宅勤務との二重利用を切り分ける: 在宅時間を「本業の在宅勤務/複業/私生活」に三分割し、複業分だけを取り出す。本業在宅勤務分は分子に入れない
- 割合を算定する: 面積比・稼働時間割合から計算。高すぎず低すぎず、実態に合わせる
- 根拠を残す: 間取り図・稼働ログ・計算メモ・原資料(検針票・明細)を保管し、電子データは電子帳簿保存法に沿って保存する
特に、本業も在宅勤務をしているエンジニアにとっては、「複業の稼働時間だけを分子に取る」という三分割の発想が、二重利用を整理する鍵になります。自分の間取り(賃貸/持ち家・専用部屋の有無)と働き方(本業の在宅頻度・複業の稼働時間)に当てはめれば、家賃・光熱費・通信費それぞれの按分割合を、自分で根拠を持って決められます。
固定費を正しく按分することは、払いすぎている税金を取り戻し、手取りを残すことにつながります。そしてその記録を毎月の習慣にしておけば、複業の規模が大きくなって事業所得へと育っていったときにも、按分の根拠がそのまま資産になります。複業を一過性の小遣い稼ぎで終わらせず、安定した収入の柱として継続・拡大していくなら、こうした足元の経理の積み重ねが、自分に合う案件を選び続けるための土台になります。今年の確定申告を、その第一歩にしてみてください。
なお、本記事は一般的な考え方を整理したものです。持ち家のケースや所得区分の判断など、個別性の高い論点については、最終的に税務署や税理士に確認することをおすすめします。
よくある質問
- 専用の作業部屋がない場合、家賃の按分割合はどう計算すればよいですか?
リビングの一角を使う場合は、面積按分と時間按分の組み合わせが現実的です。「作業スペースの面積÷自宅全体の面積」で場所の比率を出し、さらに「その場所を複業に使っている時間÷在宅時間全体」を掛け合わせることで、より実態に即した割合を算出できます。
- 会社から在宅勤務手当や通信費補助を受けている場合、複業の按分はどう計算しますか?
会社が補助している分は複業の経費に含められないため、自己負担額のみを按分の対象として稼働時間の割合を掛けて算出してください。補助対象の範囲を事前に確認することが重要です。
- 複業の稼働時間が月によって変わる場合、按分割合は毎月変えてよいですか?
毎月変えることは可能ですが、年間を通じた平均稼働時間から算出した一定の割合を用いる方が、計算の手間が少なく説明もしやすいです。変動する場合は月次の稼働ログを記録し、実態と乖離しない割合になっているかを年末に確認する運用が無難です。
- 按分の計算書や根拠資料は確定申告書と一緒に提出する必要がありますか?
確定申告書への添付は原則不要ですが、税務調査の際に按分の根拠を説明できるよう、間取り図・稼働ログ・計算メモは7年間自己保管してください。
- 複業収入が雑所得の場合でも、家賃や電気代の家事按分はできますか?
雑所得でも家事按分は可能で、複業に使った割合の家賃・電気代・通信費を経費として差し引けます。青色申告特別控除は使えませんが、按分のルール自体は事業所得と同じなので、実態に合った割合と根拠記録を残すことが重要です。



