業務委託の外部エンジニアに「今日はAのタスクを優先してください」とSlackで送った瞬間、それが偽装請負リスクの引き金になる可能性があります。多くの企業担当者が「契約書に業務委託と書いてあるから大丈夫」と思いながら、実態は労働者派遣と同等の管理をしているケースが少なくありません。
2024年11月にフリーランス保護法が施行され、外部人材活用のコンプライアンスへの注目はさらに高まっています。しかし法律条文を読んでも、「自分が毎日やっている指示・管理のどこがNGなのか」を判断するのは容易ではありません。
本記事では、IT・システム開発の現場担当者向けに、偽装請負にならないための実践的なチェックリストを提供します。Slack指示・勤怠管理・進捗確認MTG・コードレビューなど、日常的なコミュニケーションシーン別にOK/NGを整理し、NG表現のOK言い換え対応表もお伝えします。
業務委託での偽装請負リスク――指示の一言が違法になる
よくある場面:普段の管理がリスクになる
外部エンジニアとの日常的なやりとりで、こんな指示を出していませんか?
- Slackで「今日はA機能の実装を優先してください」と直接メッセージを送る
- 毎朝の進捗確認MTGで「昨日の作業は何時間かかりましたか?」と稼働時間を確認する
- 勤怠管理ツールへのログインをお願いし、出退勤を記録させている
- コードレビューで「このメソッドはこの書き方に変えてください」と具体的な実装方法を指示する
これらの行為は、業務委託契約の形式を取りながら、実態として「指揮命令」を行っているとみなされる可能性があります。発注者が受託者の労働者に直接指揮命令を行っている場合、それは「偽装請負」として労働者派遣法や職業安定法の違反になるリスクがあります。
偽装請負と判断された場合のリスク
偽装請負が発覚した場合のリスクは想像以上に深刻です。
法的ペナルティ: 職業安定法・労働者派遣法違反として、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。企業だけでなく、担当者個人が処罰対象になる場合もあります(厚生労働省 労働者派遣制度の概要)。
みなし雇用申し込み制度の適用: 偽装請負の状態にあることを知りながら(または知り得た状況で)受け入れを続けていた場合、「外部エンジニアが雇用申し込みをしてきたときに、発注者がその申し込みを承諾したとみなされる」制度(労働者派遣法第40条の6)が適用される可能性があります。善意かつ過失のない場合は除外されますが、日常的な指揮命令の実態がある場合、善意無過失の立証は困難です。
企業名の公表: 行政指導・勧告を受けた場合、企業名が公表されることがあります。採用や取引先への信頼性に影響します。
偽装請負とは何か――なぜ契約書通りに運用しても違法になるのか

偽装請負の定義
偽装請負とは、契約形式上は「業務委託」「請負」「準委任」などであるにもかかわらず、実態として労働者派遣・労働者供給・雇用と変わらない状態のことです。法律では「契約の名称・形式ではなく、実態に即して判断する」という原則が適用されます。
業務委託と労働者派遣の最大の違いは指揮命令権の所在です。
契約形態 | 指揮命令権 | 具体的な意味 |
|---|---|---|
業務委託(請負・準委任) | 受託者(外部会社・個人) | 発注者は成果物・業務目標を依頼するが、作業方法・進め方は受託者が自律的に決める |
労働者派遣 | 派遣先(発注者) | 発注者が派遣労働者に直接、業務指示・管理を行う |
業務委託では、発注者は「何を作るか(成果物・仕様)」は指定できますが、「どのように作るか(作業手順・方法・優先順位)」は受託者の裁量に委ねなければなりません。
偽装請負が発生しやすい4つのパターン
代表型: 発注者が受託者の労働者に直接指示を出している。最も典型的なケース。
形式責任者型: 受託者側に「現場責任者」の名前はあるものの、その人物が単に発注者の指示を伝言するだけの役割になっている。実質的な指揮命令は発注者側が行っている。
使用者不明型: 多重下請け構造の中で、どこの会社が実際に労働者を管理しているか不明確になっている状態。
一人請負型: 個人事業主・フリーランスとの契約で、実質的には雇用に近い管理を行っているケース。
37号告示が定める判断基準
厚生労働省が定めた「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示)」では、以下の場合に適法な請負(業務委託)と認められます(厚生労働省 37号告示関係疑義応答集)。
- 業務遂行方法の管理: 受託者が業務の進め方・方法・順序を自ら管理している
- 勤怠・配置の管理: 受託者が労働者の勤怠・配置を管理している
- 機械・設備の調達: 受託者が業務に必要な機械・設備・材料を自前で調達している(ただし発注者施設への常駐は即違法ではない)
- 資金調達の独立性: 受託者が業務資金を独立して調達・支払いできる
- 専門性・技術力: 受託者が単なる労働力提供ではなく、専門的な技術・知識・企画を持って業務を行っている
これらの要素を「総合的に判断」することが原則であり、一項目でもNGなら即違法という性質のものではありません。ただし、発注者が指揮命令を行っている実態がある場合、他の要素を満たしていても違法と判断されるリスクが高まります。
現場チェックリスト――あなたの管理は適法か?

日常のコミュニケーションシーン別に、発注者として「やっていること」を確認してください。
日常の指示・コミュニケーション(Slack・チャット・口頭)
行動 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
「今日はAのタスクを優先してください」とSlackで直接送る | NG | 作業の優先順位・順序を発注者が指示している |
「Bの機能はこのロジックで実装してください」と実装方法を指定 | NG | 作業方法・技術的判断を発注者が指示している |
「今週金曜日までにC機能の実装をお願いします」と依頼 | OK | 成果物と期限の指定は適法。作業方法は受託者の裁量 |
仕様書・要件定義書を渡して実装を依頼 | OK | 成果物の仕様提示は適法な指示の範囲内 |
セキュリティ要件として「このAPIキーの取り扱い方法に従ってください」と指示 | OK | 法令遵守・セキュリティに関する安全管理上の指示は例外的に許容される場合がある |
バグが発生し「今すぐ対応してください」と緊急連絡 | 要注意 | 緊急対応の依頼自体はNGではないが、「どのように対応するか」は受託者が判断する必要がある |
勤怠・稼働時間の管理
行動 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
外部エンジニアを自社の勤怠管理システムに登録し、出退勤を記録させる | NG | 発注者が労働者の勤怠を直接管理している |
外部エンジニアの残業・休暇を発注者が承認・却下する | NG | 労務管理権限の行使であり、雇用関係と同等の管理 |
「毎日9〜18時で作業してください」と勤務時間を固定する | NG | 労働時間を発注者が指定している |
月次の稼働時間報告書の提出を受ける | OK | 報酬計算のための稼働確認は適法。管理ではなく確認の範囲 |
「今月は稼働時間が少ないですが、翌月に繰り越せますか」と受託会社に確認 | OK | 受託会社(担当者ではなく会社)への業務量の確認は適法 |
進捗確認MTG・定例会議
行動 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
週次MTGで「今週は何の作業をしてください」と作業指示を出す | NG | 週次の作業内容・指示を発注者が行っている |
MTGで「進捗はどうですか?何か問題はありますか?」と確認する | OK | 完成状況・問題点の確認は適法 |
「先週納品した機能にこの点が気になります、改善の余地があります」とフィードバック | OK | 成果物への品質フィードバックは適法。どう修正するかは受託者の判断 |
MTGに外部エンジニアが参加し、社内の作業分担会議で業務を割り振る | NG | 社内会議での直接的な業務割り当ては指揮命令に該当 |
勤務場所・環境の管理
行動 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
毎日オフィスへの常駐を強制し、自社のルールで管理する | NG | 発注者施設での常駐 + 自社ルール適用は偽装請負のリスクが高い |
顧客施設での常駐作業を依頼する(受託者の判断で常駐) | OK | 業務の性質上必要な場合の常駐依頼自体は違法ではない。管理をしないことが条件 |
打ち合わせのために発注者オフィスへの来訪を依頼 | OK | 業務遂行上必要な打ち合わせへの参加依頼は適法 |
人選・評価
行動 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
「Aさんに担当してほしい」と特定の個人を指名する | NG | 発注者が人選権限を行使している(受託者の固有権限への介入) |
「面接して採用可否を判断する」と面談選考を行う | NG | 採用選考は受託会社の権限。発注者が行うのは雇用関係と同等の管理 |
スキル要件(「JavaとAWS経験3年以上の方」)を受託会社に伝える | OK | 業務遂行に必要なスキル要件の提示は適法 |
外部エンジニアの業績を発注者が直接評価し、単価交渉に反映させる | NG | 人事評価権限の行使に該当する可能性がある |
NG言動→OK言い換え対応表

同じ意図を伝えながら、指揮命令にならない表現に変えることが重要です。
NG表現 | OK言い換え | ポイント |
|---|---|---|
「今日はAタスクを優先してください」 | 「今週金曜日までにAタスクの完成をお願いします」 | 優先順位ではなく期限で依頼する |
「このコードはこう書き直してください」 | 「このコードにXという問題があります。改善をお願いします」 | 方法の指示ではなく課題の提示に留める |
「毎日朝会に参加してください」 | 「週次の進捗確認として[日時]にMTGを設定したいです」 | 任意参加・目的を明示した依頼にする |
「残業してでも今日中に仕上げてください」 | 「今日中に完成いただけると大変助かります」 | 強制ではなく依頼・要望として伝える |
「勤怠管理ツールに入力してください」 | 「月次の稼働実績を報告してください(フォーマット自由)」 | 勤怠管理ではなく稼働報告に変える |
「このバグはすぐに直してください」 | 「このバグが本番に影響しています。至急対応をお願いします(方法はお任せします)」 | 緊急性を伝えつつ、対応方法は委ねる |
「Aさんに担当してもらいたい」 | 「Java・AWS経験者に担当いただきたいです」 | 個人指名ではなくスキル要件として伝える |
「この仕様で実装してください」(詳細な手順書付き) | 「この要件・仕様を満たす実装をお願いします(実装方法はお任せします)」 | 要件・仕様は提示できるが、実装方法は受託者の判断に任せる |
グレーゾーンQ&A――実務でよく迷うシーン
Q1. 毎朝のスタンドアップミーティングへの参加を求めるのは偽装請負になりますか?
A: 参加のさせ方によります。
「毎日9時に参加することを義務化し、作業の報告・指示を行う」場合は、発注者による勤怠管理・作業指示と判断されるリスクがあります。
一方、「進捗の共有・問題の確認を目的として、受託者が任意に参加する」形にとどめ、MTG中に作業手順や優先順位を指示しない場合は、コミュニケーション上の目的確認として許容される場合があります(ただし、参加が事実上義務化されている実態があれば問題になる可能性があります)。
実務的な対応としては、毎朝の参加を強制せず「週1回のオンライン進捗確認」に変えるか、MTGでは「成果物・問題点の確認のみ」に限定することをお勧めします。
Q2. コードレビューで「このロジックはこう変えてほしい」と伝えるのはNGですか?
A: 「ロジックの変更を要求する」という表現は慎重に使うべきですが、本質的にはフィードバックの目的・内容によります。
「この実装には○○という問題があります」「この部分が要件を満たしていない可能性があります」というように、課題・問題点を指摘する形のコードレビューは、成果物の品質確認として適法な範囲です。
一方、「この変数名をXXXに変えてください」「このメソッドの処理を分割してください」という具体的な実装方法への指示は、技術的裁量への介入として問題になる可能性があります。
コードレビューの際は「問題の指摘」に留め、「解決方法の決定」は受託者の技術判断に委ねることが原則です。
Q3. 「緊急のバグが発生したのですぐに対応してください」は偽装請負になりますか?
A: 緊急対応の依頼自体は問題ありません。「本番環境で重大なバグが発生しているため、至急対応をお願いします」という緊急性の通知・対応依頼は、業務上の連絡として適法です。
問題になるのは、緊急対応中に発注者担当者が「次はこれをやってください」「そのコードをこう変えてください」と直接指揮する場合です。緊急対応であっても、実際の対応方法・手順は受託者が判断することが原則です。
Q4. フリーランス保護法(2024年11月施行)で何が変わりましたか?
A: フリーランス保護法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)の施行により、特定受託事業者(従業員を使用しない個人事業主・フリーランス)への業務委託において、以下が義務化・明確化されました。
発注時の書面等による取引条件明示の義務化: 業務内容・報酬額・支払期日・その他の事項を書面またはメールで明示する必要があります。
支払期限の規制: 受け取った日から60日以内に報酬を支払う必要があります。
禁止行為の明確化: 報酬の不当減額、受領拒否、買いたたき、役務の強制購入などが明示的に禁止されました。
偽装請負への直接的な規制は、従前の労働者派遣法・職業安定法のままですが、フリーランス保護法の施行により「フリーランスとの取引の透明性・適正性」への注目が高まっており、労働当局による指導強化の背景にもなっています(公正取引委員会 フリーランス法特設サイト)。
Q5. 偽装請負の疑いがあると気づいた場合、何をすべきですか?
A: 早期発見・早期是正が重要です。
まず、現在の管理方法のどこが問題であるかを具体的に特定してください(本記事のチェックリストが活用できます)。次に、受託会社と話し合い、指揮命令に当たる管理を見直します。
是正の方向性としては、「適法な業務委託への移行(指揮命令を廃止し、成果物・期限ベースの管理に切り替える)」または「正式な労働者派遣契約への切り替え(派遣許可を得た派遣元から適法に派遣を受ける)」のいずれかが考えられます。
発覚前に自主的に是正した場合と、調査・行政指導を受けてから是正した場合では、処分の重さが変わることがあります。疑いがある場合は弁護士や社会保険労務士への相談をお勧めします。
フリーランス保護法(2024年施行)との関係
フリーランス保護法の概要
2024年11月1日に施行されたフリーランス保護法は、フリーランス(従業員を使用しない個人事業主)との取引に関するルールを定めた法律です。
主な義務・規定:
- 取引条件の書面等による明示(業務内容・報酬額・支払期日)
- 報酬の60日以内支払い
- 禁止行為の明確化(減額・返品・買いたたき等)
- ハラスメント防止措置の義務(特定業務委託事業者に限定)
偽装請負との重なりと注意点
フリーランス保護法は主に「取引の適正性・透明性」を規制するものですが、偽装請負問題とも関連する部分があります。
フリーランス(個人事業主)に対して「発注者の事業場内で、発注者の社員と同様の時間管理・業務管理が行われている」場合、それは「偽装フリーランス」として問題になります。フリーランス保護法は「フリーランスが自律的に働ける環境」を保護することを目的としており、実質的な指揮命令関係は偽装フリーランスとして問題視されます。
2026年以降の注意点: フリーランス保護法の施行に伴い、労働当局によるフリーランス取引への関心・調査が強化されています。業務委託先のフリーランスエンジニアへの管理方法は、偽装請負に加えてフリーランス保護法の観点からも見直しをお勧めします。
まとめと次のステップ
業務委託での偽装請負リスクを回避するために、まず現状の管理方法を本記事のチェックリストで点検することをお勧めします。
今日からできる3つの変化:
- 指示の言い方を変える: 「〇〇してください(方法の指示)」から「〇〇という成果物を〇〇日までにお願いします(成果物・期限の依頼)」に変える
- 勤怠管理を見直す: 発注者側での出退勤管理・残業承認をやめ、稼働時間の「報告を受ける」形に変える
- 人選権限を受託会社に委ねる: 個人指名ではなく、スキル要件を受託会社に伝える形にする
これらの変化だけでも、偽装請負リスクを大きく下げることができます。ただし、現場の実態・契約内容の全体的な見直しが必要な場合は、専門家への相談をご検討ください。
より詳しい契約内容の点検や、フリーランス保護法への対応方法については、お役立ち資料「フリーランス新法対応 業務委託発注の法律・契約リスク点検ガイド」をご活用ください。外部人材活用に関する法律・契約のリスクを体系的に確認できます。
なお、SES・派遣・業務委託の違いや調達方法の選び方については、SES・派遣・業務委託の違いとは?発注者が知るべき調達方法の選び方も合わせてご参照ください。



