「副業解禁を進める」という方針は経営層から下りてきた。けれど、いざ制度を作ろうとすると、手が止まってしまう——そんな状態ではないでしょうか。
ネットを探せば、就業規則の副業条項の例も、許可申請書の雛形も、誓約書のサンプルもすぐに見つかります。住民税の解説記事もたくさんあります。それなのに、いざ自社の叩き台に落とそうとすると「この条文は自社にも要るのか」「労働時間の通算って、実際どう運用するのか」「副業する社員が出たとき、経理は何をすればいいのか」と、判断軸がないまま雛形を眺めて止まってしまう。これは、解禁を決めた多くの企業の人事・労務担当者がぶつかる壁です。
難しさの正体は、副業制度に必要な要素が「規程の話」「労務管理の話」「税務の話」と、まったく別の分野にまたがっていることにあります。それぞれの情報は単体で解説されていても、「自社の制度として一気通貫でどう組み立てるか」を示してくれる情報が少ないのです。
本記事は、解禁の意思決定が済んだ前提に立った「実装編」です。制度設計で整えるべき領域を「規程文書」「業務管理の運用」「会社側の税務処理」の3つに分解し、それぞれで何を書き・どう回し・誰が何を処理するのかを、担当者が自分で叩き台を作れるレベルまで具体化して解説します。
なお、「そもそもなぜ副業を解禁すべきか」「解禁のメリットとリスク」「禁止・制限できる正当な事由は何か」といった意思決定そのものについては、別記事の副業解禁・社内副業制度の整備ガイドで全体像を解説しています。本記事はその続編として、決めた後に手を動かす実務に絞ります。
副業解禁の社内制度設計とは|整える3領域の全体マップ
副業解禁の社内制度設計と聞くと、就業規則の改定だけを思い浮かべがちです。しかし実際には、規程を整えただけでは制度は回りません。制度設計の実務は、性質の異なる3つの領域を組み立てる作業だと捉えると、何から手をつければよいかが見えてきます。
制度設計で整える3領域
副業制度を機能させるために整えるべき領域は、次の3つです。
- 規程文書の整備: 就業規則の副業条項、副業の許可・届出申請書、誓約書という「会社と社員の約束ごとを定めた文書」を作る領域です。制度の土台であり、ここがないと運用そのものが始まりません。
- 業務管理の運用: 文書を作った後、日々どう回すかという「運用フロー」の領域です。労働時間の通算、健康管理、申請から承認・更新までのサイクルが含まれます。文書を作って終わりにせず、実際に管理が回る仕組みを設計します。
- 会社側の税務処理: 副業する社員が出たときに、会社の経理・人事が何を判断し処理するかという領域です。年末調整の範囲、源泉徴収、住民税の徴収区分などが関わります。社員本人の確定申告とは別に、会社側にも対応すべきことがあります。
この3領域は独立しているわけではなく、相互につながっています。たとえば、申請書で「副業先が雇用か業務委託か」を申告させるのは、その区分によって業務管理(労働時間通算が必要か)も税務処理(住民税の扱い)も変わるからです。1つの文書項目が、運用と税務に波及します。だからこそ、3領域をバラバラに考えるのではなく、1本のフローとして接続して設計することが重要です。
本記事の対象読者と、全体像が知りたい場合の参照先
本記事は、副業解禁の方針が固まり「次は制度を作る」フェーズに入った人事・労務担当者を想定しています。社労士に丸投げするのではなく、まず自分で叩き台を作り、社内合意や専門家チェックにかける——そんな進め方を支援する内容です。
一方で、「そもそも解禁すべきか迷っている」「メリットとリスクを整理したい」「どこまで禁止・制限できるのかを知りたい」という段階の方は、先に副業解禁・社内副業制度の整備ガイドで意思決定の材料を固めることをおすすめします。本記事は、その意思決定が済んでいることを前提に進めます。
次の章からは、3領域を順番に掘り下げていきます。まずは制度の土台となる規程文書から見ていきましょう。
規程文書の整備|就業規則・申請書・誓約書に書くべき項目

制度設計の出発点は、文書を整えることです。ここで作る文書は主に3つ——就業規則の副業条項、副業の許可・届出申請書、誓約書です。それぞれに「何を盛り込むか」を箇条書きで把握できれば、雛形を自社向けに調整する作業がぐっと進みます。
就業規則の副業条項|許可制と届出制の選択と記載項目
まず決めるべきは、副業を「許可制」にするか「届出制」にするかです。この選択が、以降の運用の重さを左右します。
- 許可制: 社員が副業を始める前に会社の許可を得る方式です。会社が事前にチェックできるため、競業や情報漏えいのリスクを抑えやすい一方、申請から承認までの手間が発生します。
- 届出制: 社員が副業を始める前に会社へ届け出る方式で、会社が個別に許可する形は取りません。手続きが軽く社員の自律性を尊重できますが、会社による事前のチェック機能は弱まります。
どちらを選ぶかの判断軸は、自社が「事前にどこまで把握・コントロールしたいか」です。機密情報や顧客情報を扱う部門が多い、競合との関係が懸念されるといった場合は許可制が無難です。一方、副業を積極的に後押ししたい文化があるなら届出制も選択肢になります。実務では、原則届出制としつつ一定の場合(競業の恐れがある等)は事前許可を要する、というハイブリッドの設計も見られます。
就業規則の副業条項に盛り込む記載項目は、おおむね次のとおりです(副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説、就業規則と副業に関する解説(社労士法人とうかい)を参照)。
- 副業を認める旨と、その方式(許可制/届出制/併用)
- 申請・届出の対象範囲(雇用契約による副業、業務委託、自営業など、どこまでを対象とするか)
- 申請・届出の手続き(提出先・提出時期・必要書類)
- 不許可・制限できる事由(労務提供に支障がある場合、企業秘密が漏えいする場合、競業により会社の利益を害する場合、会社の名誉・信用を損なう場合など)
- 許可の取消事由(申告内容と実態が異なる場合、健康に支障が生じた場合など)
- 労働時間や健康状態の申告義務、変更時の再申告義務
「不許可・制限できる事由」の書き方は法的な妥当性が問われる部分なので、自社で叩き台を作った後に社労士のチェックを受けることをおすすめします。条文の根拠や限界については、先に挙げた副業解禁・社内副業制度の整備ガイドでも触れています。
副業許可・届出申請書に設ける申告項目
申請書(届出書)は、会社が社員の副業状況を把握するための入口です。ここで集める情報が不足していると、後段の労働時間通算や健康管理が回りません。盛り込むべき申告項目は次のとおりです(副業許可申請書テンプレート(bizocean)を参照)。
- 副業先の名称・所在地・事業内容
- 従事する業務の内容
- 契約形態(雇用契約か、業務委託・請負か、自営か)
- 想定する勤務日・勤務時間・1週間あたりの想定労働時間
- 副業の期間(開始予定日・終了予定日または無期)
- 副業先との関係(自社の競合先・取引先に該当しないか)
- 健康面への影響に関する自己申告
特に重要なのが「契約形態」と「想定労働時間」です。後ほど解説するとおり、副業先が雇用契約か業務委託かによって労働時間の通算が必要かどうかが変わり、税務上の扱いも変わります。申請書の段階でこの2項目を確実に集める設計にしておくと、運用と税務の判断がスムーズになります。
誓約書に盛り込む条項
申請書とあわせて、社員から誓約書を取り付けておくと、トラブルの予防になります。誓約書に盛り込む代表的な条項は次のとおりです(副業における誓約書と法的規制(日本の人事部)を参照)。
- 秘密保持: 自社の業務で知り得た技術・ノウハウ・顧客情報などの機密情報を、副業先で漏えい・使用しないこと
- 競業避止: 自社と競合する事業者への就労や競合事業の自営を行わないこと、自社の顧客を副業先に誘導しないこと
- 労働時間の自己申告義務: 副業先での労働時間を正確に申告し、変更があった場合は速やかに再申告すること
- 健康配慮への同意: 副業を含めた総労働時間が過大にならないよう自己管理し、会社の健康管理措置(面談など)に協力すること
- 本業への支障防止: 副業によって本業の遂行に支障を生じさせないこと
これらの条項は申請書の申告項目と表裏一体です。申請書で集めた情報を「正確に申告する」「変更時は再申告する」という義務として誓約書で裏付ける、という関係になっています。
3つの文書が揃えば、制度の土台は完成です。ただし、文書を作っただけでは制度は動きません。次は、これらを日々の運用にどう落とすかを見ていきます。
業務管理の整備|労働時間の通算と健康管理を運用に落とす

文書を整えた後に多くの担当者がつまずくのが、「で、毎日これをどう管理するのか」という運用の部分です。特に労働時間の通算は、雇用か業務委託かで扱いが分かれ、計算も複雑になりがちです。ここでは運用フローとして整理します。
労働時間通算の運用|雇用と業務委託の区別と自己申告フロー
労働時間の通算が必要かどうかは、副業先が雇用契約か業務委託かで決まります。
- 副業先が雇用契約の場合: 自社の労働時間と、社員からの申告で把握した副業先の労働時間を通算して管理します。通算した結果、法定労働時間(1日8時間・1週40時間)を超える部分が時間外労働となり、原則として割増賃金の支払い義務が生じます(副業・兼業の促進に関するガイドライン)。
- 副業先が業務委託・請負・自営の場合: 雇用契約ではないため労働基準法上の労働時間の通算は不要です。割増賃金の問題も生じません。ただし、後述する健康管理の観点では、業務委託であっても拘束時間を把握しておく意味があります。
雇用型の副業を許可する場合、運用としては社員の自己申告をベースに労働時間を把握します。具体的には、申請書で想定労働時間を申告させたうえで、定期的(たとえば月次)に実績を申告してもらう仕組みを設けます。割増賃金の計算は、原則として「労働契約を後から締結した会社」が、通算により法定時間を超えた部分について支払うという考え方が基本になります。計算が複雑になるケースもあるため、雇用型副業を多く認める方針なら、計算ルールを社労士に確認しておくと安心です。
なお、この労働時間通算ルールについては、健康確保のための通算は維持しつつ、割増賃金の支払いに関する通算を不要とする方向で法改正の検討が進んでいます(副業の割増賃金、労働時間通算ルール見直し 厚労省検討(日本経済新聞))。施行は今後の動向次第のため、制度を作る際は現行ルールを前提にしつつ、改正情報を継続的に確認しておくとよいでしょう。
健康管理・安全配慮義務を運用トリガーに落とす
労働時間の通算と並んで重要なのが、健康管理です。会社には社員に対する安全配慮義務があり、副業によって総労働時間が過大になった結果として健康を損なうことは避けなければなりません。
これを運用に落とすコツは、「申告された総労働時間」をトリガーとして、具体的な対応を紐づけておくことです。たとえば次のような設計が考えられます。
- 申告された本業+副業の総労働時間が一定水準(たとえば月の時間外・休日労働が一定時間)を超えた場合に、人事から本人へヒアリングを行う
- さらに高い水準に達した場合は、産業医面談や副業の一時的な制限を検討する
- 健康診断やストレスチェックの結果とあわせて、副業状況を確認する
ポイントは、「総労働時間が◯◯を超えたら△△する」という形で、トリガーと対応を事前に決めておくことです。基準が曖昧だと、現場の担当者は毎回判断に迷い、結局何も動かないまま放置されがちです。トリガーを数値で決めておけば、運用は機械的に回せます。業務委託型の副業であっても、健康確保の観点からは拘束時間を把握し、同様のトリガーで見ておくと安全側に倒せます。
申請から承認・更新までの年次運用サイクルと責任分担
文書と日々の管理を、年間の運用サイクルとしてまとめておくと、誰がいつ何をするかが明確になります。一般的なサイクルは次のようになります。
- 申請・届出: 社員が副業を始める前に申請書(届出書)と誓約書を提出する
- 審査・承認: 人事が申請内容(競業の有無、想定労働時間、健康への影響)を確認し、許可制なら許可可否を判断する
- 記録・管理開始: 承認した副業を台帳に記録し、雇用型なら労働時間の通算管理を開始する
- 定期申告: 社員が月次などで副業先の実績労働時間を申告する
- モニタリング: 人事が総労働時間と健康状態をモニタリングし、トリガーに応じて対応する
- 更新・終了: 年次などで副業の継続可否を確認し、内容に変更があれば再申請を求める。副業を終了した場合は記録を更新する
責任分担は、申請の受付・審査・台帳管理を人事が、健康面のトリガー対応を人事と産業医が、労働時間の実績把握を本人の自己申告と現場の上長が担う、といった形が一般的です。誰が何を担当するかを表にして社内で共有しておくと、運用の抜け漏れを防げます。
ここまでで文書と運用が整いました。残るは、副業する社員が実際に現れたときに会社の経理・人事が何をするか——税務処理の領域です。
税務処理の整備|副業社員に対し会社が行う処理

副業制度の設計で、最も情報が整理されていないのが税務領域です。世の中の解説の多くは「副業が会社にバレないための社員側の対策」という視点で書かれており、「会社の経理・人事が何を処理すべきか」という雇用者側の視点で整理されたものは多くありません。ここでは、会社が「やること」と「やらないこと」を切り分けて整理します。
年末調整・源泉徴収で会社が担う範囲と社員の確定申告との線引き
まず押さえるべき大原則は、年末調整ができるのは原則1か所の勤務先だけということです。
社員が自社を主たる勤務先(扶養控除等申告書を提出している先)としている場合、自社が支払う給与については従来どおり源泉徴収と年末調整を行います。これは副業の有無にかかわらず変わりません。
一方で、副業先で得た所得は、社員本人が確定申告で精算するのが原則です。会社が副業先の所得まで面倒を見ることはありません。具体的には次のように線引きされます(副業をしたら年末調整はどうなるか(freee)を参照)。
- 自社(主たる給与): 源泉徴収・年末調整を実施する(会社の担当範囲)
- 副業先の所得: 社員本人が確定申告する(会社の担当範囲外)
つまり会社の経理・人事がやるべきことは、自社分の処理を通常どおり行うこと、そして「副業分は本人が確定申告する必要がある」という案内を社員に行うことが基本です。会社が副業先の収入を年末調整に取り込む必要はありません。この線引きを社員にも周知しておくと、申告漏れによるトラブルを防げます。
住民税の特別徴収・普通徴収の仕組みと会社の処理
副業の税務でつまずきやすいのが住民税です。仕組みを整理すると次のようになります。
- 特別徴収: 会社が社員の住民税を給与から天引きして自治体に納める方式。給与所得者は原則これに該当します。
- 普通徴収: 社員が自治体から届く納付書で自分で納める方式。
社員が副業の所得を確定申告する際、申告書には住民税の徴収方法を選ぶ欄があり、給与以外の所得分について普通徴収を選べる場合があります(副業は住民税でばれる仕組みと対応(マネーフォワード)を参照)。副業分を普通徴収にすれば、その住民税は社員本人が納め、自社の給与から天引きされる住民税には影響しません。
会社側の処理として知っておきたいのは、自治体から届く住民税の特別徴収税額決定通知書に、社員の所得や税額が記載されるという点です。副業分が特別徴収に含まれる場合、通知書の金額が給与額から想定される水準より高くなることがあります。世の中ではこれが「副業がバレる」文脈で語られますが、副業を解禁している会社にとっては「バレる/バレない」の話ではなく、通知書どおりに正しく特別徴収額を給与天引きする、という通常の事務処理として扱えば足ります(住民税の決定通知書で確認すべきポイント(ソリマチ)を参照)。解禁している以上、副業の存在を前提に淡々と処理すればよく、特別な対応は不要です。
副業先が給与か業務委託かで変わる税務上の取り扱い
ここでも、申請書で集めた「契約形態」の情報が効いてきます。副業先からの収入が「給与」か「業務委託(事業所得・雑所得)」かによって、社員の申告と会社の関与が変わります。
- 副業先が給与(雇用契約)の場合: 副業先も社員に給与を支払い、源泉徴収を行います。社員は2か所以上から給与を受けることになり、原則として確定申告で精算します。住民税は給与所得分が合算されるため、徴収方法の調整が必要になることがあります。
- 副業先が業務委託(事業所得・雑所得)の場合: 副業先は給与ではなく報酬を支払います。社員は事業所得または雑所得として確定申告し、副業分の住民税は普通徴収を選びやすくなります。
会社の経理・人事が関与するのは、あくまで自社が支払う給与に関する部分だけです。副業先がどちらの形態であっても、会社がやることの中心は「自社分の源泉・年末調整・特別徴収を正しく行う」ことに変わりはありません。ただし、社員から「副業分の確定申告や住民税の扱いがわからない」と相談を受ける場面は出てくるため、契約形態ごとの違いを担当者が理解しておくと、適切に案内できます。
税務まで整理できれば、3領域はひととおり揃いました。最後に、これらを統合して叩き台を完成させるためのチェックリストにまとめます。
副業解禁の制度設計を進めるための実務チェックリスト

ここまで解説した3領域を、作業のチェックリストとして統合します。「眺めるだけで止まっている」状態から「今日着手して叩き台を完成させる」状態に進むための手順です。
3領域の完了条件チェックリスト
それぞれの領域について、叩き台が「8割完成」と言える完了条件を整理します。
規程文書
- 許可制か届出制か(または併用か)を決めた
- 就業規則の副業条項に、方式・対象範囲・不許可事由・申告義務を盛り込んだ
- 申請書に、副業先情報・業務内容・契約形態・想定労働時間・期間・健康影響の申告欄を設けた
- 誓約書に、秘密保持・競業避止・労働時間自己申告・健康配慮・本業支障防止の条項を盛り込んだ
業務管理の運用
- 雇用型副業の労働時間通算と割増賃金の取り扱いを整理した
- 健康管理のトリガー(総労働時間◯◯時間で△△する)を数値で決めた
- 申請→審査→記録→定期申告→モニタリング→更新の年次サイクルと責任分担を表にした
税務処理
- 自社分(源泉・年末調整・特別徴収)の処理は従来どおりと確認した
- 副業分は社員本人が確定申告する旨を社員に案内する仕組みを用意した
- 住民税の特別徴収税額決定通知書への対応方針を整理した
- 副業先が給与か業務委託かによる違いを担当者が把握した
これらにチェックが入れば、社労士・税理士に確認をかける前の叩き台はおおむね完成です。
社労士・税理士に確認すべき論点の線引き
すべてを自社だけで完結させる必要はありません。むしろ、自社で判断しきれない論点を切り分けて専門家に投げるほうが、コストも時間も抑えられます。専門家に確認すべき代表的な論点は次のとおりです。
- 社労士に確認: 就業規則の不許可・制限事由の法的妥当性、許可制/届出制の設計、労働時間通算による割増賃金の具体的な計算ルール、安全配慮義務の運用基準
- 税理士に確認: 副業社員が増えた場合の年末調整・源泉徴収事務への影響、住民税の特別徴収事務における留意点、自社が副業先として他社の社員を受け入れる場合の処理
ポイントは、叩き台を作ったうえで「ここは判断に自信がない」という論点を明確にして相談することです。白紙の状態で相談するより、叩き台を持って論点を絞って相談したほうが、専門家のアドバイスも具体的になり、費用対効果が高まります。
試行運用から本格運用への進め方
制度をいきなり全社一斉に始める必要はありません。リスクを抑えながら制度を定着させるには、段階的な進め方が有効です。
- 試行(パイロット)運用: 特定の部署や一定の条件(雇用型を除く、競業の恐れがない副業に限るなど)から小さく始め、申請・審査・管理のフローが実際に回るかを確かめます。
- 運用の見直し: 試行で出た課題(申告フォームの不備、トリガー基準の妥当性など)を反映して、文書と運用を改善します。
- 本格運用への拡大: フローが安定したら、対象範囲を全社に広げます。
試行運用の段階では、想定していなかった申請パターンや判断に迷うケースが必ず出てきます。それを小さく経験してから本格運用に移ることで、全社展開時の混乱を防げます。
なお、自社社員の副業解禁とあわせて、外部の複業人材を業務委託で受け入れることを検討している場合は、受け入れる側の規程整備が別途必要になります。その観点については複業エンジニア受け入れの社内規程整備ガイドで解説しています。
まとめ|制度設計は「文書・運用・税務」を分けて叩き台から始める
副業解禁の社内制度設計でつまずく原因は、規程・労務管理・税務という性質の異なる要素を、ひとまとめに考えてしまうことにあります。本記事では、これを「規程文書の整備」「業務管理の運用」「会社側の税務処理」の3領域に分解しました。
- 規程文書: 就業規則の副業条項(許可制/届出制)、申請書の申告項目、誓約書の条項を、記載項目チェックリストに沿って整える
- 業務管理: 雇用か業務委託かで分かれる労働時間通算、数値トリガーに落とした健康管理、年次の運用サイクルを設計する
- 税務処理: 自社分は従来どおり処理し、副業分は本人の確定申告、住民税は通知書どおりに淡々と処理する——という「会社がやること/やらないこと」を切り分ける
3領域に分けてしまえば、それぞれの完了条件は明確で、自社で叩き台の8割は作れます。判断に迷う論点だけを社労士・税理士に切り分けて相談し、試行運用から段階的に広げていけば、制度は無理なく定着します。
まずは、就業規則の副業条項の素案づくりから始めてみてください。3つの領域を1つずつ埋めていけば、「眺めるだけで止まっていた」状態から、社内合意にかけられる叩き台が手元にできあがります。
よくある質問
- 副業を許可制と届出制のどちらにすべきか、判断基準はありますか?
機密情報・顧客情報を扱う部門が多い、または競合との関係が懸念される場合は許可制が無難です。副業を積極的に推進したい場合は届出制も選択肢ですが、実務では「原則届出制・競業が疑われる場合のみ事前許可」というハイブリッド設計が多く採用されています。
- 副業先が業務委託の社員も、労働時間を毎月報告させる必要がありますか?
労働基準法上の時間通算義務は雇用契約の副業にのみ適用されるため、業務委託の副業には課されません。ただし安全配慮義務の観点から、拘束時間を把握して健康管理のトリガー(総労働時間◯時間超で面談実施)に組み込むことを推奨します。
- 自治体から住民税の特別徴収税額決定通知書が届いたとき、会社は何をすればよいですか?
副業を解禁している会社は「バレる/バレない」の問題ではないため、通知書に記載された金額をそのまま給与天引きして納付するだけで完結します。副業分が特別徴収に含まれて金額が高くなっても、特別な調整や社員への確認は不要です。
- 就業規則の副業条項は自社で作成してよいですか?それとも社労士に依頼すべきですか?
申請・届出の対象範囲や年次サイクルといった運用項目は自社で叩き台を作れます。一方、「不許可・制限できる事由」の条文は法的妥当性が問われるため、叩き台を作ったうえで社労士に確認するのが費用対効果の高い進め方です。
- 副業解禁の制度はいきなり全社に展開する必要がありますか?
段階的な展開が推奨されます。まず特定部署や条件(業務委託のみ、競業の恐れがない副業に限るなど)で試行運用し、申請・審査・管理フローの動作を確認してから全社に広げると、全社展開時の混乱を最小化できます。
- 副業社員が出た場合、年末調整は会社がまとめて行う必要がありますか?
年末調整は主たる勤務先(自社)分のみが会社の担当範囲です。副業先での所得は社員本人が確定申告で精算するため、会社は自社分の源泉徴収・年末調整を通常どおり行い、「副業分は本人が確定申告する」旨を社員に案内するだけで足ります。



