フリーランスエンジニアを1名採用する場合の費用感はなんとなくつかめても、「複数名のチームとして起用したら、月額でいくらになるのか」を正確に試算できている担当者はそれほど多くないのが実情です。個別の月単価を足し合わせれば良いと思われがちですが、実際には見落とされがちなコストが複数存在し、試算の精度が低いまま稟議書を提出してしまうケースも少なくありません。
上司や経営層から「フリーランスエンジニアを3〜5名チームで採用する場合の費用概算を出してほしい」と言われた場合、何から手をつけるべきか迷う方も多いでしょう。ロール別の相場は調べられても、チームトータルの費用試算方法が一つにまとまった情報は少ないのが現状です。
本記事では、フリーランスエンジニアを複数名チームで起用する際の費用試算に必要な3つの要素から始まり、ロール別の月単価相場、チーム規模別のシミュレーション例、そして見落とされがちな隠れコストまでを体系的に解説します。稟議書に使える根拠ある数字を手にしていただくための実務ガイドとしてご活用ください。
フリーランスエンジニアチームの費用試算に必要な3つの要素
費用試算の精度を左右するのは、試算を始める前に「何を決めるか」です。以下の3要素を事前に整理しておくことで、試算のブレを大幅に減らせます。
ロール構成(誰が必要か)
チームの費用試算で最初に決めるべきは「どのロールが何名必要か」です。プロジェクトによって必要なロール構成は大きく異なります。
代表的なロールの例:
- PM(プロジェクトマネージャー): 要件定義・スケジュール管理・ステークホルダー調整
- テックリード / アーキテクト: 技術設計・コードレビュー・エンジニアの技術的な意思決定
- バックエンドエンジニア: API開発・データベース設計・サーバーサイドの実装
- フロントエンドエンジニア: UI実装・ユーザー体験の構築
- フルスタックエンジニア: フロント〜バックエンドを一気通貫で担当
小規模プロジェクトでは「PM兼テックリード」「フルスタックエンジニア」など兼任が可能なケースもありますが、フェーズが進むにつれて専任の役割が必要になることも多いため、最初から余裕のある人員計画を立てることが重要です。
稼働期間(いつからいつまで)
稼働期間が費用総額を左右します。フリーランスエンジニアとの契約は月単位が一般的ですが、プロジェクトの各フェーズで必要な人員数が変わる場合、フェーズ別に試算することが重要です。
たとえば、要件定義フェーズはPMのみ、開発フェーズはPM+エンジニア複数名、テストフェーズは縮小して一部のエンジニアのみという形で、フェーズ別に人員と費用を試算するとより現実的な数字が出ます。
稼働比率(フルタイム or 週何日か)
フリーランスエンジニアの月額単価は「週5日・月160時間のフルタイム稼働」が基準です。週3日稼働であれば月額単価の60%程度が目安になります。
特にPMや技術顧問的な役割のエンジニアは週2〜3日の稼働で起用するケースも多く、この場合は月額単価をそのまま適用せず、稼働比率を掛け合わせた計算が必要です。
ロール別の月単価相場と選定基準
2026年のフリーランスエンジニア市場の平均月額単価は約80万円です(フリーランススタート 2026年2月度定点調査)。ただし、ロールによって単価幅は大きく異なります。
ロール別月単価相場テーブル(2026年版)
ロール | 月額単価の目安 | 特記事項 |
|---|---|---|
PM(プロジェクトマネージャー) | 90〜130万円 | 上流工程経験・ステークホルダー調整力が単価を左右 |
テックリード / アーキテクト | 90〜130万円 | 設計力・マネジメント経験が高単価の要因 |
バックエンドエンジニア | 65〜90万円 | 使用言語・経験年数により変動大。Go/Python高め |
フロントエンドエンジニア | 60〜85万円 | React/TypeScript経験で上振れ傾向 |
フルスタックエンジニア | 70〜100万円 | 両領域をカバーできる分、需要が高く単価も高め |
AIエンジニア | 85〜130万円 | 2026年で最も需要が高い領域 |
インフラ / クラウドエンジニア | 70〜95万円 | AWS・GCP経験者で上振れ |
参考: バックエンドフリーランスエンジニア単価相場(bizdev-tech.jp)
ロール選定の基本的な考え方
ロールの選定で迷いやすいのが「PMとテックリードをどちらも雇うべきか」という点です。プロジェクトの規模と複雑性によって判断が変わります。
- 3名以下の小規模チーム: テックリード1名がPMを兼任するケースが多い
- 4〜6名の中規模チーム: PM専任 + テックリード専任が望ましい
- 7名以上の大規模チーム: PM・テックリード・アーキテクト等の役割分担が重要になる
スキルレベル・経験年数と単価の関係
同じロールでも、経験年数とスキルレベルによって単価は大きく異なります。
- 実務経験3年未満: 45〜65万円(単独作業には確認・サポートが必要)
- 実務経験3〜7年: 65〜85万円(独力でプロジェクト推進が可能)
- 実務経験7年以上: 85万円〜(上流設計・メンタリングが可能)
小規模チームではコスト面で経験の浅いエンジニアを多く採用したくなりますが、チームのマネジメントや技術的な判断をリードできるシニアエンジニアを最低1名確保することが、プロジェクトのリスク管理上重要です。
チーム規模別の費用試算シミュレーション
費用試算の基本計算式
チームの月額費用試算の基本式は以下のとおりです。
月額費用合計 = Σ(各メンバーの月額単価 × 稼働比率)
総費用 = 月額費用合計 × 稼働期間(ヶ月)
たとえばフルタイム(稼働比率100%)のメンバー3名でのチームの場合:
- PM: 月額100万円 × 100% = 100万円
- バックエンドエンジニア: 月額75万円 × 100% = 75万円
- フロントエンドエンジニア: 月額65万円 × 100% = 65万円
- 月額合計: 240万円
この基本計算式に、次章の「隠れコスト」を加えたものが、より現実に近い試算値です。
小規模チームの試算例(2〜3名・3ヶ月)
フロントエンドとバックエンドを実装する小規模なシステム開発を想定します。
ロール | 人数 | 月額単価 | 稼働期間 | 費用 |
|---|---|---|---|---|
PM兼テックリード | 1名 | 100万円 | 3ヶ月 | 300万円 |
バックエンドエンジニア | 1名 | 75万円 | 3ヶ月 | 225万円 |
フロントエンドエンジニア | 1名 | 65万円 | 3ヶ月 | 195万円 |
合計(月額単価ベース) | 3名 | 240万円/月 | — | 720万円 |
月額単価ベースでの合計は720万円ですが、後述の隠れコスト(エージェント手数料等)を加えると実質的な総コストは810〜900万円程度になることが多いです。
中規模チームの試算例(4〜6名・6ヶ月)
機能追加を含む中規模なWebシステム開発を想定します。
ロール | 人数 | 月額単価 | 稼働期間 | 費用 |
|---|---|---|---|---|
PM | 1名 | 110万円 | 6ヶ月 | 660万円 |
テックリード | 1名 | 110万円 | 6ヶ月 | 660万円 |
バックエンドエンジニア | 2名 | 75万円 × 2 | 6ヶ月 | 900万円 |
フロントエンドエンジニア | 1名 | 65万円 | 6ヶ月 | 390万円 |
合計(月額単価ベース) | 5名 | 435万円/月 | — | 2,610万円 |
月額単価ベースでの合計は2,610万円。隠れコストを加えると実質的な総コストは2,900〜3,300万円程度になります。
大規模チームの試算例(6〜8名・12ヶ月)
新規プロダクト開発を複数フェーズに分けて進める大規模プロジェクトを想定します。
ロール | 人数 | 月額単価 | 稼働期間 | 費用 |
|---|---|---|---|---|
PM | 1名 | 120万円 | 12ヶ月 | 1,440万円 |
テックリード / アーキテクト | 1名 | 120万円 | 12ヶ月 | 1,440万円 |
バックエンドエンジニア | 3名 | 80万円 × 3 | 12ヶ月 | 2,880万円 |
フロントエンドエンジニア | 2名 | 70万円 × 2 | 12ヶ月 | 1,680万円 |
インフラ / クラウドエンジニア | 1名 | 85万円 | 6ヶ月 ※ | 510万円 |
合計(月額単価ベース) | 8名 | 約770万円/月 | — | 約7,950万円 |
※インフラ/クラウドエンジニアは初期6ヶ月のみ参加を想定
月額単価ベースでの合計は約7,950万円。隠れコストを含めると実質的な総コストは8,900〜1億円程度になる見込みです。
見落とされがちな隠れコストと試算への組み込み方
月額単価だけを足し合わせた試算は、必ずと言っていいほど「想定よりコストがかかった」という結果になります。以下の4種の隠れコストを必ず試算に加えてください。
エージェント手数料(単価の10〜25%)
フリーランスエンジニアをエージェント経由で採用する場合、エージェント手数料が発生します。一般的な相場は**月額単価の10〜25%**です。
たとえば月額単価80万円のエンジニアをエージェント経由で採用する場合:
- 手数料10%の場合: 80万円 + 8万円 = 88万円/月
- 手数料20%の場合: 80万円 + 16万円 = 96万円/月
チームトータルで計算すると、エージェント手数料だけで月額単価の合計額に対して10〜25%のコストが上乗せされます。直接採用(ダイレクトリクルーティング)の場合は手数料が発生しない分、採用担当者の工数コストと、採用に要する時間のコストが発生します。
採用・オンボーディングコスト
複数名のフリーランスを採用する際は、面談や審査にかかる工数も見落とせないコストです。1名採用するのに平均3〜5名の候補者と面談する場合、5名採用なら15〜25回の面談工数が発生します。
また、チームにジョインしたフリーランスエンジニアのオンボーディング(プロジェクトへの習熟期間)も費用として意識する必要があります。一般的に最初の1〜2週間は本来の稼働力の50〜70%程度にとどまるため、このギャップを試算に組み込む必要があります。
コミュニケーション・管理コスト
チーム規模が大きくなるほど、コミュニケーションコスト(週次MTGの工数・非同期コミュニケーションの対応時間)が増大します。経験則として、チームが4〜5名を超えると管理コストが非線形に増加します。
特にフリーランスは複数社の案件を掛け持ちするケースもあるため、社内正社員のチームに比べてコミュニケーション設計に手間がかかることも費用試算の前提として意識しておきましょう。
隠れコストを含めたトータル費用試算の例
中規模チーム(5名・6ヶ月)を例に、隠れコストを加えた現実的な試算を示します。
項目 | 金額 |
|---|---|
月額単価合計(5名)× 6ヶ月 | 2,610万円 |
エージェント手数料(単価合計の15%想定) | 約390万円 |
採用・面談コスト(工数換算) | 約50〜80万円 |
オンボーディング期間の稼働ロス(初月50%想定) | 約220万円 |
現実的なトータル費用(目安) | 約3,270〜3,300万円 |
月額単価だけで計算した2,610万円に対して、約25%増の試算になります。稟議書を作成する際はこの「隠れコスト25%増」を前提に余裕のある予算設計をすることをおすすめします。
フリーランスチーム vs 開発会社への一括発注の費用比較
フリーランスエンジニアを複数名採用してチームを組む方法と、開発会社へプロジェクトをまるごと依頼する方法は、費用面だけでなく、コントロールのしやすさやリスクの観点でも大きく異なります。
費用比較テーブル(中規模プロジェクト・5名相当・6ヶ月)
項目 | フリーランスチーム | 開発会社への一括発注 |
|---|---|---|
月額費用の目安 | 435万円/月(5名分の単価合計) | 500〜700万円/月(開発会社マージン込み) |
総費用目安(隠れコスト含む) | 3,300万円程度 | 3,000〜4,200万円程度 |
費用の透明性 | 高い(個別単価が明確) | 低め(見積書の内訳が見えにくい) |
要件変更時の対応 | 都度調整が必要 | 追加発注の交渉が必要 |
マネジメント負荷 | 発注企業側が負担 | 開発会社が負担 |
採用・解雇の柔軟性 | 高い(月単位の契約調整が可能) | 低い(プロジェクト単位の契約が多い) |
フリーランスチームが向いているケース
- プロジェクトの内製化や自社エンジニアとの協業を想定している
- 要件が段階的に固まっていくアジャイル型の開発を進めたい
- 費用を抑えながらも、スキルセットを自由に選定したい
- 長期的に同じメンバーを継続して起用したい
開発会社への一括発注が向いているケース
- 自社にプロジェクトマネジメントのリソースがない
- 短期間でプロダクトをリリースする必要がある
- 要件が固まっており、仕様変更の可能性が低い
- 開発全体のリスクを外部に移転したい
詳細な予算設計プロセスや稟議書の作成方法については、エンジニア費用の予算設計をプロジェクト規模別に解説|稟議に使える3ステップもあわせてご参照ください。
費用試算を失敗しないための発注前チェックリスト
フリーランスエンジニア複数名の費用試算を行う前に、以下の項目を確認しておきましょう。
チェックリスト
ロール・人員計画
- 各フェーズで必要なロール(PM/テックリード/BE/FE 等)が整理されている
- フェーズ別の必要人数が確定している
- 各ロールに求めるスキルレベル・経験年数の基準が明確になっている
稼働設計
- 稼働期間(開始〜終了月)が決まっている
- 各メンバーのフルタイム or 一部稼働(週N日)が決まっている
- フェーズ別の人員変動計画がある
コスト設計
- エージェント手数料を試算に含めている
- オンボーディング期間(初月の稼働ロス)を試算に含めている
- 予期せぬ要件変更のためのバッファ(10〜20%)を設定している
リスク管理
- フリーランスエンジニアが突然稼働できなくなった場合の代替策を検討している
- 契約形態(準委任契約)とその法的リスクを把握している
- フリーランス保護新法への対応(契約書の整備・支払い条件の明示)を確認している
次のステップ
費用試算が完了したら、稟議書への落とし込みに進みます。規模別の予算設計プロセスの詳細な手順については、エンジニア費用の予算設計をプロジェクト規模別に解説|稟議に使える3ステップを参考にしてください。
フリーランスエンジニアの複数名採用にあたっては、費用試算の精度を高めることが稟議承認率の向上に直結します。本記事の試算方法とチェックリストを活用して、根拠ある数字で上司・経営層への説明資料を作成してください。



