デザイナーへの業務委託を検討するとき、多くの担当者が最初につまずくのは費用感の把握です。調べ始めると「月額30万円〜100万円」という幅の広い情報ばかり出てきて、自社の予算にあてはめて考えるのが難しい状況になりがちです。
さらに、費用相場を把握した後も「この費用を払って業務委託にするのが自社にとって本当に正解なのか」という判断に迷う方は少なくありません。正社員を採用した方が長期的には安いのではないか、フリーランス特有のリスクはどう管理するのか——そういった疑問が残ったままでは、なかなか発注の決断ができません。
本記事では、デザイナーの業務委託費用を職種別に整理するだけでなく、正社員採用との実質コスト比較や「業務委託が向く・向かない状況」まで踏み込んで解説します。最後には発注判断に使えるチェックリストも掲載しますので、迷っている方はぜひ参考にしてください。
デザイナーの業務委託費用相場(職種・契約形態別)

デザイナーの業務委託費用は、職種・スキルレベル・稼働日数によって大きく異なります。まずは職種別の月額相場を把握しておきましょう。
UI/UXデザイナーの費用相場
UI/UXデザイナーは、アプリやWebサービスのユーザー体験設計を担います。ユーザーリサーチ・情報設計・プロトタイピングまで対応できる人材は希少で、月額単価は高めです。
- 新人〜中堅(経験3年未満): 月額40〜60万円
- 中堅〜シニア(経験3〜7年): 月額60〜80万円
- シニア・スペシャリスト(経験7年以上): 月額80〜100万円以上
週3日稼働など部分的な契約の場合は、上記の60〜70%程度が目安になります。
Webデザイナーの費用相場
Webデザイナーは、コーポレートサイト・LP・ECサイト等のビジュアルデザインを担当します。コーディングも対応できる人材(デザインエンジニア)は単価が上がります。
- 新人〜中堅: 月額30〜50万円
- 中堅〜シニア: 月額50〜70万円
- フルスタック対応(デザイン+コーディング): 月額60〜90万円
グラフィックデザイナーの費用相場
バナー・チラシ・資料等の印刷物・デジタル素材を担当します。制作物単位での発注も多いジャンルです。
- 月額契約: 月額30〜60万円
- 制作物単位(バナー): 1点あたり5,000〜3万円
- 制作物単位(LP): 1ページあたり10〜30万円
- 制作物単位(ロゴ): 3〜20万円(シンプル〜本格的なブランディング設計)
契約形態による費用の違い
業務委託には大きく「請負契約」と「準委任契約」の2種類があります。
契約形態 | 報酬の決め方 | 向く案件 |
|---|---|---|
請負契約 | 成果物単位(1LP◯万円等) | 単発・明確な成果物がある場合 |
準委任契約 | 時間・日数単位(月◯日稼働×単価) | 継続的・作業範囲が変動する場合 |
継続的にデザイン業務を委託する場合は準委任契約(稼働日数×月額単価)が一般的です。
費用に影響する5つの要因
同じ「Webデザイナー」でも費用に大きな差が生じます。主な要因は以下の5つです。
1. スキルレベルと専門性
経験年数・ポートフォリオ品質・対応ツール(Figma/XD/Photoshop等)によって単価が変わります。UI/UXリサーチや競合分析まで対応できる人材は特に高単価になりやすいです。
2. 稼働日数・時間
週1〜2日のスポット稼働か、フルタイム相当かによって単価と交渉余地が変わります。稼働日数が多いほど時間単価は下がる傾向があります。
3. 業務範囲
制作のみか、ディレクション・要件定義まで含むかで費用が変わります。ディレクション込みの場合は1.3〜1.5倍程度が目安です。
4. 修正対応の方針
修正回数が無制限か回数上限ありかによって費用構造が変わります。請負契約では特に修正回数・範囲を契約書に明記することが重要です。
5. 契約形態と継続期間
長期継続契約(3〜6カ月以上)では月額単価が下がるケースがあります。試用期間として短期から始め、信頼関係が構築されてから長期契約に移行するパターンが一般的です。
正社員採用と業務委託のコスト実質比較

「フリーランスに月60万円払うなら、正社員を雇った方が安いのでは?」と感じる担当者は多いです。実質コストで比較すると、実態が見えてきます。
正社員デザイナーの実質コスト(年間)
Webデザイナーの東京都での平均年収は約460万円です(求人ボックス「Webデザイナーの年収・給料」参照)。ただし、企業が負担するコストには年収以外に以下が含まれます。
費用項目 | 年間目安 |
|---|---|
給与(年収) | 460万円 |
社会保険料(企業負担・約15%) | 69万円 |
採用コスト(エージェント手数料等) | 50〜100万円(初年度) |
入社後研修・ツール・設備 | 10〜30万円(初年度) |
合計(初年度) | 約589〜659万円 |
初年度は採用コストが加わるため、実質負担は年収の1.3〜1.4倍以上になります。
業務委託デザイナーの実質コスト
週3日稼働・月60万円のフリーランスデザイナーに年間12カ月依頼した場合:
費用項目 | 年間目安 |
|---|---|
業務委託費 | 720万円 |
社会保険料 | なし |
採用コスト | 0〜20万円(マッチングサービス利用料等) |
合計 | 720〜740万円 |
一見コストが高く見えますが、必要な時期だけ依頼できることを考えると、年間6カ月の依頼なら360万円で済みます。常時フルタイムのデザイン需要がない場合、業務委託の方が大幅に安くなる可能性があります。
コスト比較のポイント
- 常時フルタイムのデザイン業務がある → 正社員採用の方がトータルコストが安くなるケースが多い
- 繁閑の差がある・特定時期のみ必要 → 業務委託の方が総コストを抑えられる
- 特定スキル(UI/UX設計等)が短期間だけ必要 → 業務委託が合理的
なお、エンジニアの業務委託費用の予算設計についてはエンジニア費用の予算設計方法でも詳しく解説しています。職種は異なりますが、稼働日数と総コスト試算の考え方は共通して参考になります。
業務委託デザイナーを使うべき状況・向かない状況

費用の次に重要なのが「本当に業務委託が自社に合っているか」という判断です。以下を参考に自社の状況と照らし合わせてみてください。
業務委託が向く状況
- デザイン需要が単発・スポット的: 新規LP立ち上げ・キャンペーン用バナー制作等、一定期間だけ集中的に必要な場合
- 社内にいない特定スキルが必要: UI/UXリサーチや特定ツールの専門スキルを短期間だけ調達したい
- フルタイムの雇用が過剰: 月に数本のバナーや定期的な資料更新程度であれば、正社員採用は過剰になりやすい
- 試用から始めて継続判断したい: 最初は小さなプロジェクトから開始し、品質を確認してから継続依頼を検討したい
業務委託が向かない状況
- 長期フルタイムかつ社内情報が多い: 機密情報へのアクセスが多い業務や、チームとの密接な連携が必要な場合は、正社員の方が適している場合があります
- 指揮命令を細かく出したい: 業務委託では発注者から受託者への指揮命令が法的に制限されます。細かく業務を管理したい場合は派遣や正社員雇用の方が適切です(偽装請負のリスクについては後の「隠れコスト」で解説します)
- コミュニケーションが密に必要な業務: 毎日のブレスト・頻繁なフィードバックが必要な業務は、フリーランスとの契約では効率が下がることがあります
デザイナー業務委託の発注・選定時に注意すべき隠れコスト

費用相場だけを見て発注すると、想定外のコストが積み上がることがあります。事前に把握しておきたい隠れコストを整理します。
修正費用の積み上がり
請負契約で修正回数を定めていない場合、修正のたびに追加費用が発生することがあります。特にデザイン制作では「イメージと違った」「方向性が変わった」という修正依頼が発生しやすいため、契約書に修正回数・追加費用の計算方法を明記することが重要です。
コミュニケーションコスト(ディレクション工数)
フリーランスデザイナーに指示を出す担当者の工数が発生します。ブリーフィング・フィードバック・納品確認など、発注側にも一定の時間投資が必要です。社内に「デザインの指示が出せる人」がいない場合は、ディレクション込みの契約にするか、デザイン会社への外注を検討した方がよいケースもあります。
偽装請負リスク
業務委託契約にもかかわらず、実態として正社員と同様に「毎日出社・上長からの業務指示・出退勤管理」等を行っている場合、「偽装請負」と判断されるリスクがあります。
偽装請負と認定されると、労働者派遣法・職業安定法・労働基準法違反として罰金(最大100万円)や行政指導・企業名公表のリスクが発生する可能性があります(クロスデザイナー「偽装請負とは」参照)。
対策として、業務委託契約では「業務の成果・完成に対して対価を支払う」関係を維持し、日々の業務指示は行わないことが基本です。
インボイス・税務処理コスト
2023年10月から導入されたインボイス制度により、フリーランスが適格請求書発行事業者でない場合、発注者側が仕入税額控除を受けられない可能性があります。契約前にフリーランスの登録番号を確認しましょう。
デザイナー選定と費用交渉のポイント
ポートフォリオで確認すべきこと
- 自社が依頼したい制作物(LP・バナー・アプリUIなど)の実績があるか
- デザインのスタイルが自社ブランドイメージと合致するか
- 直近の制作実績がある(スキルが更新されているか)
発注後のデザイン品質確認については、デザインレビューの基準も参考にしてください。UI/UX発注者がモックアップで見るべき観点をまとめています。
試用案件から始める
初めての業務委託では、小さなプロジェクト(バナー数点・1枚LPなど)を試用案件として依頼し、納品物の品質・コミュニケーション・スピードを確認してから継続依頼を検討するのが安全です。
契約書に明記すべき事項
項目 | 記載内容の例 |
|---|---|
業務範囲 | 具体的な制作物・対応ツール・ディレクション有無 |
修正回数 | 初稿提出後◯回まで無償修正、以降は1回◯円 |
納品形式 | AI・PNG・Figmaファイル等の形式と解像度 |
単価変更条件 | 稼働日数変更・業務範囲変更時の単価見直しタイミング |
秘密保持 | 業務情報・社内データの取り扱いルール |
マッチングサービスの活用
フリーランスデザイナーを個人で探す場合はクラウドソーシング、ある程度のスキル保証が欲しい場合はエージェントサービスの活用が効率的です。マッチングプラットフォームでは、スキルセット・稼働可能日数・単価感を事前に確認した上でマッチングできるため、ミスマッチを減らすことができます。
まとめ|デザイナー業務委託発注判断チェックリスト
ここまでの内容をもとに、自社の状況を確認できるチェックリストです。
発注前に確認すること
- 月に必要なデザイン業務量は週何日分か把握している
- 必要なデザイン期間(単発か継続か)が明確になっている
- 正社員採用と業務委託のコスト比較を初年度・3年・5年で試算した
- 社内でデザインの指示・フィードバックができる担当者がいる(またはディレクション込み契約にする)
- 偽装請負にならない契約・業務管理の方法を把握している
発注先選定で確認すること
- 自社依頼の制作物に類似したポートフォリオがある
- 試用案件で品質・コミュニケーション・納期を確認済み
- インボイス登録番号を確認済み
- 修正回数・追加費用・秘密保持を契約書に明記した
デザイナーへの業務委託は、適切に活用すれば正社員採用と比べて柔軟かつコスト効率の高い選択肢になります。本記事が発注判断の参考になれば幸いです。



