Web3 領域の新規事業が経営会議を通過したのに、肝心のブロックチェーンエンジニアが集まらない。Wantedly やビズリーチで求人を出しても応募数は Web 系ポジションの 10 分の 1 以下、エージェントに依頼しても紹介数が伸びない。この状態で役員から「予算を増やして良いから採用ペースを上げてくれ」と言われても、いくら払えば動くのか、どこを叩けば人材に届くのかの手掛かりがなく、稟議書の予算欄と採用計画の欄で手が止まってしまう。
問題は 3 つの不確実性が同時に降りかかることです。第一に「チャネルの選び方」——Web2 の採用ノウハウがそのまま通用しない実感はあるが、代わりに何を叩けばよいかの見取り図がない。第二に「単価の妥当性」——月額 100 万円と提示されても、それが高いのか安いのか判断根拠がない。第三に「技術の見極め」——「Solidity 実務経験あり」と履歴書に書かれても、その解像度を判断できない。この 3 つが同時に不透明だと、稟議書は一文字も書けません。
本記事では、ブロックチェーンエンジニアの探し方と単価相場を、正社員・業務委託・副業・海外リモートのレイヤー別に整理した上で、チャネル別の母集団と単価帯を対応させたマップを提示します。加えて、応募数を変える求人票・スカウト文の書き方、非専門家でも使える技術スキル見極めチェックリスト、業務委託・副業ハイブリッドで確保する契約設計、そして先人が踏んだ 5 つの失敗パターンと回避策までを、稟議書と採用計画に落とせる粒度で解説します。
読み終わったとき、「どのチャネルに、いくら払って、何を評価すればよいか」を根拠付きで社内資料に書き込める状態を目指します。
ブロックチェーンエンジニアの探し方が難しい構造的な理由
Web3 の採用がうまくいかないのは、担当者の努力不足ではなく、市場の構造そのものが Web2 の常識と噛み合っていないことに起因します。打ち手を変える前に、まず「なぜ通常の採用が効かないのか」を言語化しておきましょう。以降の章で提示するチャネル選定・単価判断・見極め手法は、すべてこの構造理解を前提にしています。
母集団の希少性(Web2 系エンジニアとの人数比)
日本国内でスマートコントラクトを業務として書けるエンジニアは、Web 系エンジニアの人数と比べて桁違いに少ないというのが実務の肌感覚です。Indeed や求人ボックスの Solidity 求人検索でも掲載件数は Web 系の 100 分の 1 以下にとどまり、応募母集団もそれに近い比率で薄くなります。同じチャネルに同じ予算を投じても、母集団自体が薄いため成果が上がらないのが第一の要因です。
実務経験の解像度(メインネット・監査・ガス最適化)
「Solidity 経験あり」と書かれた履歴書のなかで、実際にメインネットに本番デプロイした経験を持つ人、監査法人からの指摘に対応した経験を持つ人、ガス代最適化を仕様レベルで設計した経験を持つ人はさらに絞られます。学習目的で書いたコントラクトと、実際にユーザー資産を扱ったコントラクトでは経験値がまったく違うのですが、この解像度は履歴書の文字面からは判別できません。採用側がこの目盛りを持たないまま面談を進めると、書類が通っても本当に必要な人材にたどり着けないという事態になります。
報酬設計の競合(海外リモート・トークン報酬・DAO)
ブロックチェーンエンジニアの一部は、海外の Web3 プロジェクトから USD 建てでリモート案件を受けたり、DAO のガバナンストークンを報酬の一部として受け取ったりしています。ドル円が円安に振れた局面では、国内企業の月額単価が海外案件の 6 割程度の水準に見えることも珍しくありません。「日本円で正社員」というオファーが、市場全体で見ると必ずしも競争力を持たない可能性があるという点が第三の構造要因です。
通常の採用チャネルではリーチしない構造
Web 系エンジニアであれば、Wantedly・ビズリーチ・Green・LinkedIn を横断すればおおむね市場をカバーできます。しかしブロックチェーン領域では、実務経験を持つエンジニアの多くが Twitter/X の技術コミュニティ、Ethereum・NEAR・Solana などプロトコル別の Discord、DevRel 主催のカンファレンスに集まっており、通常の転職媒体には情報を出していないケースが多く見られます。「探し方が難しい」のではなく「探す場所が違う」のが実態です。
ブロックチェーンエンジニアの単価相場|正社員・業務委託・副業・海外レイヤー別

稟議書の予算欄に金額を書くために、まず全体の相場観を押さえます。ここでは相場の数字を並べるだけでなく、「なぜこの水準か」と「上下にブレる条件」を必ずセットで示します。単価表を単独で提示すると、予算交渉で「もっと安くできるはず」という反論に対処できないためです。
正社員年収レンジと市場水準の背景
Solidity や Rust の実務経験を持つブロックチェーンエンジニアの正社員年収について、FLEXY「ブロックチェーンエンジニアの年収・単価相場」(2026年)では、正社員平均は 600〜700 万円程度、案件によっては 1,200 万円程度まで達すると報告されています。
これを踏まえて求人設計の目安として整理すると、実務ではジュニア層で年収 400〜600 万円、DeFi や NFT の設計・実装経験がある中堅層で 600〜1,000 万円、テックリードやアーキテクトクラスで 1,000〜1,500 万円、CTO 級では 1,500 万円を超える提示例も見られます(本記事による整理)。上記 FLEXY のレンジは中堅層のオファー水準に相当し、そこから上下にジュニア層・シニア/経営層の帯が広がるイメージで捉えると、社内での予算説明がしやすくなります。
Web 系エンジニアの中央値と比較すると各レンジで概ね 100〜300 万円上振れしており、これは「言語が難しいから」ではなく、実務経験を持つ母集団が薄いことによる需給ギャップの反映と理解するのが実務的です。予算欄には「Web 系の中央値 + プレミアム 100〜300 万円」と根拠を書くと社内説明がしやすくなります。
業務委託月額の分布(60〜200 万円・全職種平均 77〜78 万円台)
業務委託の月額単価は 60〜200 万円のレンジで分布しています。全職種平均のフリーランスエンジニア月額単価は、エン株式会社の定点調査(2026年3月度)で 78.0 万円、2026年4月度で 77.2 万円と報告されています。ブロックチェーン領域はこの中央値付近から始まり、スマートコントラクトの実装リードや監査対応まで担う層で 150〜200 万円に達します。
下限側の 60〜80 万円レンジは、フロントエンド寄り(dApp UI・Web3.js/Ethers.js の実装)で、Solidity のコントラクトは既存のものを流用または補助的な変更にとどまる案件が中心です。上限側の 150 万円超レンジは、新規プロトコルの設計、監査法人とのやり取り、ガス代最適化を仕様から詰められる領域で、月額単価の 40〜50% 程度がリスクプレミアム(本番脆弱性に対する責任範囲の広さ)と考えると内訳を説明しやすくなります。
副業・スポット参画の時給レンジ
副業・スポット参画では時給 5,000〜15,000 円のレンジが目安です。週 10〜20 時間の稼働で入る形が多く、月換算では 20〜80 万円程度になります。特にシニア層は正社員採用の応募には反応しなくても、副業のスポット参画には応じるケースがあり、初期の設計レビューやコード監査に限って参画してもらう活用が実務的です。「まず副業で入ってもらい、事業性を見極めた上で業務委託または正社員に切り替える」という段階的な確保が現実解になりやすい理由もここにあります。
海外リモート雇用の相場と実務論点(USD 建て・タイムゾーン)
海外リモートで雇用する場合、時給は 50〜150 USD の幅が一般的です。USD 建ての単価は円安局面で急激に円換算コストが膨らむため、稟議書には「為替変動 ±10% を許容範囲として設定」と明記しておくと予算管理の手戻りを減らせます。加えて、タイムゾーン差(東欧・南米は日中と夜間で反転)、契約主体(現地法人経由か EOR サービス経由か)、報酬の送金経路(USDC 経由を許容するか)、税務・源泉徴収の扱いといった論点がついて回り、これらが解決しないと採用しても稼働開始まで 2〜3 ヶ月かかることがあります。
単価が上下する 5 要因(言語・監査・領域・稼働率・稼働形態)
同じ「ブロックチェーンエンジニア」でも、以下の 5 要因で単価が大きく上下します。稟議書には各要因を明示した上で「今回のポジションはこの要因でここに位置する」と根拠を残すのが望ましい書き方です。
- 対象言語: Solidity(EVM 系)が最もマーケットが厚く、Rust(Solana / NEAR / Substrate)、Move(Aptos / Sui)と続きます。案件数が少ない言語ほど単価は高いものの、母集団も薄くなります。
- 監査対応経験: Certik、OpenZeppelin、Trail of Bits などの監査法人とのやり取り経験は、単価を 1 段引き上げる要素です。
- 担当領域: dApp フロントエンド < バックエンド連携 < スマートコントラクト実装 < プロトコル設計・監査対応、の順で単価が上がります。
- 稼働率: 週 5 常駐か週 3 リモートかで、月額換算の単価は 20〜30% 変動します。
- 稼働形態: 業務委託 < 準委任 < 請負(成果物ベース)の順で、責任範囲に応じて単価が上がります。
探し方チャネル別マップ|どこに誰がいて、いくらで動くか

単価が分かっても、そもそも母集団にリーチできなければ意味がありません。ここではチャネル別に「どの層がどの単価帯で動くか」を整理します。各チャネルの母集団の性質・接触難易度・所要時間を対応させることで、稟議書の「採用予算配分」を根拠付きで書けるようにします。
エージェント(正社員・フリーランス)で拾える層と単価帯
正社員採用のエージェント(レバテックキャリア、Geekly、doda X 等)は、まず選択肢に入ります。ただしブロックチェーン特化の紹介数はエージェントによって差が大きく、事前に「Solidity・Rust の実務経験者を過去 3 ヶ月で何人紹介したか」を具体的に聞いておくと期待値のズレを防げます。単価帯は年収 500〜1,000 万円のミドル層が中心で、シニア層は正社員転職市場にほとんど出てきません。
フリーランスエージェント(レバテックフリーランス、PE-BANK、当社の Workee 等)では、業務委託月額 70〜150 万円のレンジで実務経験者にアクセスできる可能性があります。ただし常時稼働可能な人材の数は限られるため、複数エージェントに同時に依頼するのが実務的です。エージェント経由の紹介手数料は年収の 30〜35%(正社員)、月額単価に含まれるマージン 20〜30%(フリーランス)が一般的で、この費用も予算に組み込む必要があります。
ダイレクトスカウトで応募数を変える設計
ビズリーチ・Wantedly・Green・LinkedIn などのダイレクトスカウトは、母集団に対する打率を上げるレバーとして機能します。ただし「Solidity 経験あり」でキーワード検索するだけでは有効な候補者が数十人しか出てこないため、単純に人数勝負のスカウトは成立しません。代わりに、次の章で示す「求人票・スカウト文の設計」の観点を組み合わせ、候補者の GitHub・登壇歴・OSS コントリビュートに具体言及したスカウトを送るのが打率を上げる打ち手です。
開発会社・準委任契約経由での確保
「1 人を採る」のではなく「開発体制ごと確保する」選択肢として、Web3 特化の開発会社と準委任契約を結ぶチャネルがあります。単価はエンジニア 1 名あたり月額 100〜180 万円程度で、フリーランス直契約より 10〜20% 割高になる代わりに、体制のバックアップ・監査対応・法務サポートまで込みで受けられるメリットがあります。PoC・MVP フェーズで先に開発体制を確保し、本番運用フェーズで社員採用に切り替えるという段階戦略が実務でよく取られます。
コミュニティ・カンファレンスでのソーシング
Ethereum Japan、Japan Blockchain Association、NEAR Japan、Astar Network Japan など、プロトコル別のコミュニティイベントには、通常の転職媒体には登録していないシニア層が集まっています。イベントスポンサーとして参加する、DevRel 施策として自社エンジニアが登壇する、Discord チャンネルで技術情報を発信するといった中期的な取り組みが、6〜12 ヶ月スパンで採用パイプラインに効いてきます。即効性はありませんが、単価交渉力・定着率ともに他チャネルより高い傾向があります。
海外リモートプラットフォームの活用と論点
Toptal、Upwork、CryptoJobsList、Web3.career などの海外プラットフォームでは、実務経験を持つエンジニアが USD 建てで登録しています。時給レンジは 50〜150 USD、コミュニケーションは英語必須、契約は現地法人または EOR サービス経由となります。為替変動・タイムゾーン・法務・送金経路(USDC 送金を許容するか)の 4 論点が事前に整理できていれば、正社員採用よりリードタイムを大幅に短縮できます。
事業フェーズ別のチャネル配分例(PoC / MVP / 本番)
以下は稟議書に添付できるレベルのチャネル配分のたたき台です。事業フェーズごとに「主軸」「補助」「予備」の 3 層で組むと予算配分の根拠が説明しやすくなります。
- PoC フェーズ(0〜3 ヶ月): 主軸=フリーランスエージェント + 副業スカウト、補助=開発会社の準委任、予備=コミュニティ経由の紹介。総予算目安 月額 150〜300 万円。
- MVP フェーズ(4〜9 ヶ月): 主軸=業務委託中心の混成チーム + 正社員 1 名採用開始、補助=ダイレクトスカウト、予備=海外リモート。総予算目安 月額 300〜600 万円。
- 本番運用フェーズ(10 ヶ月以降): 主軸=正社員(テックリード + シニア 1〜2 名)、補助=副業スポットでの監査・レビュー、予備=開発会社の緊急対応枠。総予算目安 月額 400〜800 万円。
なお、外注か内製かの意思決定フレームや、そもそも自社で持つべき機能の範囲については、Web3・ブロックチェーン開発の外注判断基準で整理しています。あわせて確認しておくと、本章のチャネル配分がどの前提の上に成り立っているかを社内説明しやすくなります。
求人票・スカウト文の設計|応募数を変える具体例

「応募が来ない」状態から抜け出す最初のレバーは、予算を増やすことではなく求人票とスカウト文の書き直しです。ここでは、明日から手を打てるレベルで書き換えるべき要素を挙げます。
技術スタックの具体的記載(対象チェーン・監査ツール)
まず、対象チェーンと使用ツールを具体的に書きます。「ブロックチェーンエンジニア募集」ではなく、「Ethereum メインネット向けの ERC-721/1155 コントラクト実装(Solidity 0.8.x、Hardhat、Foundry)、Slither による静的解析、OpenZeppelin ライブラリの応用経験」といった粒度まで落とし込むのが第一歩です。候補者は求人票を見て「これは自分の経験と噛み合う」と判断してから応募するため、抽象度の高い表現は応募数を減らします。
NG ワードとその理由
以下の表現は、経験豊富な候補者ほど応募を躊躇させる傾向があります。書き直しの候補として第一に見直しましょう。
- 「Web3 に興味ある方歓迎」: 実務経験のない層を呼び込み、面談工数を圧迫します。
- 「未経験可(Solidity 未経験でも)」: 実務経験者にとっては「経験を評価されない現場」というシグナルになります。
- 「アットホームな職場」: 技術志向の候補者にとっては裏目に出ることがあります。
- 「新技術に挑戦できる」: 具体性がなく、他社との差別化にならないため素通りされます。
応募条件と歓迎条件の書き分け
応募条件を厳しく書きすぎると応募数が 0 になり、緩く書きすぎると質が下がります。実務的には「応募条件=スクリーニングに使う最小要件(Solidity または Rust の実務経験 1 年以上、GitHub または成果物のリンク提出必須)」と「歓迎条件=評価加点(メインネットデプロイ経験、監査対応経験、DeFi/NFT の設計経験、英語での技術ディスカッション経験)」を明確に分離するのが基本形です。
スカウト文のパーソナライズ 3 要素
スカウト文は候補者の GitHub リポジトリ・登壇歴・OSS コントリビュートの 3 要素のうち最低 1 つに具体言及するのが最低ラインです。「あなたの ○○(プロジェクト名)を拝見し、△△の実装アプローチに関心を持ちました」といった具体性が、スカウトの返信率を大きく変えます。テンプレート的なスカウト文はブロックチェーン領域では特に嫌われます。
Before/After 例(実在の求人票例を抽象化)
以下は求人票の書き換え前後の比較例です。抽象度を落として、対象領域と評価対象を具体化しています。
- Before: 「Web3 の新規事業でブロックチェーンエンジニアを募集します。新技術に興味がある方歓迎。年収 600〜1,000 万円。」
- After: 「Ethereum メインネット向けの NFT ロイヤリティプログラム開発(Solidity 0.8.x、Hardhat、OpenZeppelin ライブラリ活用)を主導いただくエンジニアを募集します。ERC-721/1155 コントラクトの本番稼働経験、Slither または Mythril による静的解析経験を必須要件とします。年収 700〜1,200 万円(監査対応経験・DeFi 実装経験は加点)。」
技術スキルの見極め|面談質問・コーディングテスト・GitHub 確認

Solidity や Rust の実務経験を持たない採用担当が候補者を評価するには、非専門家でも使える判断材料を事前に用意しておく必要があります。ここでは面談質問リスト、コーディングテストの設計指針、GitHub 確認ポイントを提示します。
面談質問リスト(実務経験の解像度を測る 10 問)
以下の質問は、いずれも「はい / いいえ」ではなく「経験のディテール」を語ってもらう形式で設計しています。回答の具体性がそのまま実務解像度の判定材料になります。
- これまでにメインネットへ本番デプロイしたコントラクトのうち、最も TVL(Total Value Locked)が大きかったものと、その運用期間を教えてください。
- 上記コントラクトについて、監査法人からの指摘で最も対応が難しかったものは何ですか。どう解決しましたか。
- ガス代最適化のために、直近 1 年で採用した設計上の工夫を 2 つ挙げてください。
- 秘密鍵管理(デプロイキー・アップグレードキー)の設計で、これまで採用した構成を教えてください。
- コントラクトのアップグレード方針(Proxy パターン・移行戦略)について、選択の判断基準を教えてください。
- リエントランシー攻撃・整数オーバーフロー・オラクル操作など、直近 1 年で対策した脆弱性事例を教えてください。
- フロントエンド(Web3.js / Ethers.js / Wagmi)との連携で、ウォレット接続以外に難しかった論点を教えてください。
- Layer2(Optimism・Arbitrum・zkSync 等)の本番運用経験と、Layer1 との実装差分で意識した点を教えてください。
- これまでに関わった案件で、リリース後に発生した最大の障害と、恒久対策の内容を教えてください。
- 直近 3 ヶ月で読んだ Web3 領域の技術記事・論文・監査レポートのうち、実装判断に影響したものを 1 つ挙げてください。
コーディングテストの設計指針
コーディングテストは、実務課題を模した中規模タスク(ERC-20 トークンにベスティング機能とホルダー配当機能を追加するなど)を、時間制限 4〜6 時間、オープンソースツール使用可、GitHub にプルリクエスト形式で提出、という条件で設計するのが実務的です。単発の関数を書かせるだけの短時間テストでは、設計判断・テスト設計・監査対応意識が測れず、意味のある判定材料になりません。
GitHub / エクスプローラーで確認する具体項目
候補者の GitHub リポジトリと、履歴書に書かれたコントラクトアドレスを Etherscan(または各チェーンのエクスプローラー)で逆引きすることで、非専門家でも一定の情報が取れます。確認すべきは、コミット履歴の質(一括コミットではなく段階的な開発の跡が残っているか)、テストコードの網羅性(ハッピーパスだけでなく攻撃ケースが書かれているか)、監査レポートへのリンク(README や docs に監査結果が添付されているか)、コントラクトの実運用状況(Etherscan 上のトランザクション数・TVL の推移)の 4 点です。
外部専門家を面談に組み込む選択肢
一次面談を採用担当で通過させた候補者について、二次面談に社外のブロックチェーン専門家(コンサルタント、監査法人、他社の CTO 等)をスポット参加させる運用は、非専門家組織の採用でよく取られる手法です。スポット参加費用は 1 回 3〜10 万円程度で、面談 1 回で「採用の是非」を判断する材料が揃うため、費用対効果は良好です。
見極めミスの実例と学び
実務でよくある見極めミスは、「学習目的のコントラクトをたくさん書いている」候補者を「実務経験豊富」と誤認するパターンです。GitHub のスター数やリポジトリ数ではなく、メインネットで稼働中のコントラクトアドレスを提示できるかを一次スクリーニングの基準に据えることで、この誤認は大幅に減らせます。
契約設計と定着施策|業務委託・副業ハイブリッドで確保する現実解
正社員 1 人だけで確保するのが難しい前提で、業務委託・副業をハイブリッドに組み合わせる契約設計と、確保した人材を長期定着させる施策を整理します。
業務委託・副業ハイブリッドの設計例
現実的な体制設計として、「正社員テックリード 1 名 + 業務委託シニア 1 名(週 3 稼働)+ 副業シニア 1 名(週 10 時間の設計レビュー担当)」といった 3 層構造がよく機能します。正社員は事業側の意思決定と技術判断の内製化を担い、業務委託シニアは実装を主導、副業シニアは監査観点でのレビューを担当する分担です。総人件費は月額 350〜550 万円程度に収まり、正社員 2 名で確保するより採用リードタイムを短縮できます。
請負 vs 準委任の使い分け(偽装請負リスクとの兼ね合い)
契約形態は請負契約と準委任契約のいずれかが基本です。成果物ベース(例: ERC-721 コントラクトの実装・監査対応まで一式)で切り出せる場合は請負、継続的な実装・レビュー・仕様策定を含む場合は準委任が適しています。
準委任で常駐に近い形態を取る場合、指揮命令関係の設計を誤ると偽装請負に該当するリスクがあります。指示系統は自社側ではなく相手側の PM または本人が実装判断を行う体制にし、成果報告と工数管理は月次または週次のミーティング形式で行うのが基本です。この論点は Web3 特化ではなく業務委託全般に共通するもので、契約書テンプレートを法務と共有した上で個別案件の指揮命令設計を確認する運用が望まれます。
NDA・秘密鍵・IP 帰属で押さえる条項
契約書には以下の Web3 特有条項を追加しておくと、後日のトラブル防止につながります。
- 秘密鍵・シークレットの取り扱い: 開発中に扱うデプロイキー・オーナーキー・API キーの管理責任範囲と、契約終了時の削除義務を明記する。
- IP 帰属: OSS ライセンスとの整合性を含めて、成果物のライセンス条項と派生物の権利帰属を明記する。特にコントラクトが GPL 互換ライブラリを継承する場合の扱いを整理する。
- トークン報酬の扱い: 報酬の一部をトークンで支払う設計を採る場合、価格変動リスクの負担・課税タイミング・送金経路を契約書に明記する。
- 中途解約の条件: フリーランスとの契約解除の予告期間や解除事由については、フリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス法)の運用を踏まえて設定します(参考: 厚生労働省「フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ」(フリーランス法特設ページ))。加えて、Web3 特有の中途解約リスク(トークン価格連動報酬の途中撤回、監査未完了段階での引き継ぎ等)を想定して、引き継ぎ義務と報酬の精算方法を具体的に定めておきます。
オンボーディング・技術移管の設計
業務委託・副業を組み込んだ体制では、技術判断の内製化を段階的に進める設計が定着の鍵になります。具体的には、月次で「実装判断のうち何 % を正社員側で行えるようになったか」を KPI として追跡し、6〜12 ヶ月で 50% 超、18〜24 ヶ月で 80% 超を目標にします。内製化が進まないまま業務委託に依存し続けると、契約解除時に技術負債だけが残るリスクがあります。
定着施策(金銭・非金銭インセンティブ)
金銭インセンティブ(成果連動賞与、監査完了ボーナス、長期継続時のレート引き上げ)に加えて、非金銭インセンティブが Web3 領域では特に効きます。海外カンファレンスへの参加費補助、監査レポートを実名で公表できる契約設計、OSS 活動時間の一部を業務時間として認める運用など、キャリア形成に資する施策の有無が継続意向を大きく左右します。
失敗パターンと回避策|先人の失敗を採用計画に織り込む
Web3 人材確保でよく起こる失敗を 5 つ挙げ、それぞれに回避策を対応させます。稟議書のリスク章に「以下の失敗パターンを事前に想定し、回避策を組み込んでいる」と書けるよう、具体的な事例で示します。
求人票の曖昧さで応募質が落ちる
「Web3 に興味ある方歓迎」「新技術に挑戦したい方」といった抽象度の高い求人票は、実務経験のない候補者を大量に呼び込み、面談工数を圧迫します。回避策は、応募条件を対象チェーン・使用ツール・成果物提出必須という具体レベルまで落とすことです。応募数は 3〜5 割減りますが、面談通過率が上がるため採用リードタイム全体は短縮されます。
単価想定を Web 系基準で決めて逃げられる
「Web 系エンジニアの平均月額が 78 万円だから、ブロックチェーンも同じくらいでいけるはず」という単価設定は、実務経験者の面談段階でほぼ確実に他社案件に逃げられます。回避策は、稟議書の段階で「業務委託月額 100〜150 万円」の予算幅を確保し、上振れの根拠として「言語・監査経験・領域」の 3 要因を明示することです。相場を下回る想定で採用活動を始めると、3 ヶ月後に予算増額の稟議を出し直す手戻りが発生します。
監査経験なしの採用で本番脆弱性が出る
コントラクト実装は書けても監査対応経験がないエンジニアだけで本番リリースまで進めると、リリース後に脆弱性が発覚して数千万円規模の損失が出るケースが実例として起きています。回避策は、監査経験を評価軸に組み込むこと、または副業スポットで監査経験者にレビューだけ依頼する体制を組むことです。監査法人への外注(Certik、OpenZeppelin、Hacken 等で数百万円〜数千万円)は、コントラクトの複雑度と扱う金額の規模で判断します。
副業依存で技術判断が内製化できない
副業エンジニアだけで開発を進め、正社員側の技術判断が育たないまま契約が終了すると、コード資産だけが残り運用・改修ができなくなる状態に陥ります。回避策は、月次で技術判断の内製化率を KPI として追跡し、6〜12 ヶ月で 50% 超に到達させる設計をあらかじめ体制設計に組み込むことです。副業契約の目的を「実装」ではなく「実装 + 技術移管」と明記するのが最初の一歩です。
海外リモート雇用の実務破綻(法務・送金・タイムゾーン)
海外リモート採用は魅力的な選択肢ですが、契約主体(現地法人または EOR サービス)、報酬送金経路、税務・源泉徴収、タイムゾーン、労働法制の差異といった論点を事前に整理していないと、採用後 2〜3 ヶ月稼働開始が遅延したり、契約解除時に法務トラブルに発展したりします。回避策は、稟議書提出前に法務・経理・情シスを巻き込んで論点整理を済ませておくこと、または最初は EOR サービス(Deel、Remote.com 等)経由で運用することです。
探し方・単価判断チェックリスト|稟議書と採用計画に落とす

本記事の内容をチェックリスト形式に落とし込みます。読み終わった時点で、社内資料をそのままアップデートできる状態を目指します。
稟議書に書く 7 つの意思決定項目
以下の 7 項目を稟議書に盛り込むと、経営層への説明とレビューが通りやすくなります。
- 事業フェーズと必要人材像: PoC / MVP / 本番のどのフェーズで、何名 × どの役割のエンジニアが必要か。
- チャネル配分の根拠: 主軸 / 補助 / 予備の 3 層で、どのチャネルにどの予算を配分するか。
- 単価水準の妥当性: 正社員・業務委託・副業・海外リモートのレイヤー別に、単価上下 5 要因を明記した根拠。
- 求人票・スカウト文のセルフチェック: 対象チェーン・監査ツール・応募条件・歓迎条件が具体化されているか。
- 面談質問リストと見極め手法: 10 問の質問リストとコーディングテスト設計指針、外部専門家のスポット参加費用を含む。
- 契約書テンプレートの Web3 追記: 秘密鍵管理・IP 帰属・トークン報酬・中途解約条件の 4 条項が追加されているか。
- 3 ヶ月後の見直しゲート: 3 ヶ月時点で「予算配分の見直し」「チャネルの入れ替え」を判断する KPI と閾値を事前設定する。
チャネル別予算配分テンプレート
PoC / MVP / 本番フェーズごとの予算配分の目安は以下の通りです(先述の「事業フェーズ別のチャネル配分例」を表形式で整理し直しています)。
フェーズ | 主軸 | 補助 | 予備 | 総予算目安(月額) |
|---|---|---|---|---|
PoC | フリーランスエージェント + 副業スカウト | 開発会社の準委任 | コミュニティ経由 | 150〜300 万円 |
MVP | 業務委託中心の混成チーム + 正社員 1 名採用開始 | ダイレクトスカウト | 海外リモート | 300〜600 万円 |
本番運用 | 正社員(テックリード + シニア 1〜2 名) | 副業スポットでの監査・レビュー | 開発会社の緊急対応枠 | 400〜800 万円 |
最初の 3 ヶ月で何をするかのアクションプラン
稟議承認後の 3 ヶ月間で、以下のアクションを順に実行します。1 ヶ月目は求人票と契約書の準備、2 ヶ月目はチャネル別のリーチ開始、3 ヶ月目は面談・オファーの検証、というリズムです。
- 1 ヶ月目: 求人票の書き直し(対象チェーン・監査ツールの具体化)、契約書テンプレートの Web3 追記、面談質問リストの整備、外部専門家のスポット参加契約の準備。
- 2 ヶ月目: フリーランスエージェント 3 社への同時依頼、ダイレクトスカウト(週 20 通、GitHub 起点のパーソナライズ)、開発会社 2 社への PoC 相談、コミュニティイベント 1 件への参加または協賛検討。
- 3 ヶ月目: 面談 10〜15 件の実施、コーディングテスト提出候補 3〜5 名、外部専門家による二次面談 2〜3 名、オファー 1〜3 名。目標未達の場合は主軸チャネルを入れ替える判断ゲートを実行。
なお、フリーランスとして活躍するブロックチェーンエンジニアの視点や、案件を選ぶ側の判断軸については、ブロックチェーンエンジニアのフリーランス単価相場【2026年】|Web3案件の実態と現実的な稼働開始経路で解説しています。発注者側と応募者側の両視点を並べて読むことで、提示条件が候補者にどう映るかの目線合わせがしやすくなります。
ブロックチェーンエンジニアの探し方は、Web2 の採用ノウハウの延長では成立しません。母集団の希少性・実務経験の解像度・報酬設計の競合・チャネルの違いの 4 つを構造的に理解した上で、単価・チャネル・見極めを組み合わせて設計することで、初めて「予算を書ける」「採用計画を書ける」状態に到達します。本記事のチェックリストを稟議書のドラフトに転記し、3 ヶ月後の見直しゲートに向けて動き始めるのが最短経路です。
よくある質問
- 求人票を書き直しても応募が来ない場合、どのくらいの期間で見切りをつければよいですか?
目安は3ヶ月です。本記事のアクションプランでは、1ヶ月目に求人票の書き直し、2ヶ月目にチャネル別のリーチ開始、3ヶ月目に面談・オファーの検証を行うリズムを想定しており、3ヶ月後の見直しゲートで目標未達の場合に主軸チャネルの入れ替えを判断します。求人票を書き直した直後の1〜2ヶ月で反応が薄くても即座に見切るのではなく、このリズムを経た3ヶ月時点で判断するのが本記事の設計です。
- 技術顧問を雇う予算がない場合、何を最優先で確認すべきですか?
メインネットにデプロイしたコントラクトアドレスの提示です。Etherscan等のエクスプローラーで実物を確認でき、非専門家でも実務経験の有無を客観的に判別できる、費用をかけずに解像度を最も上げられるチェック項目です。
- 正社員採用が難しい場合、業務委託・副業だけで組んでも問題ないですか?
技術判断を理解・承認できる人材が社内に一人もいない状態は避けるべきです。業務委託・副業中心で組む場合も、契約時点で技術移管プロセスを明記し、社内側への判断の内製化を段階的に進めることが前提になります。
- 海外リモート採用は、日本語でのやり取りが必須の体制でも検討すべきですか?
英語対応と非同期コミュニケーションが前提になるため、日本語必須の体制では選択肢から外すのが現実的です。国内のWeb3特化エージェントやコミュニティ経由のソーシングに予算を寄せる方が、確実性の高い代替策になります。
- PoCフェーズでいきなり正社員を採用するのはリスクが高いですか?
はい。事業判断が変わった場合に人件費が固定化するリスクがあるため、PoC段階は業務委託・副業中心で組み、本番運用フェーズへの移行が固まった段階で初めて正社員化を検討する、という順序で進めるのが現実的です。



