制作実績も技術力もあるのに、新規開拓だけが何年も後回しになっている。Web 制作会社ではよく起きる状況です。既存クライアントのリピートと紹介、そして代理店や元請け制作会社からの下請け案件で日々の稼働は埋まり、営業に割ける時間は残りません。ところが主要クライアントの発注が細ったり、下請け単価が頭打ちになったりした瞬間に、「開拓チャネルを持っていない」という事実が一気に重くのしかかります。
打ち手を探すと、たいてい同じところで詰まります。テレアポは受付で止まり、クラウドソーシングは価格競争に巻き込まれ、リスティング広告は CPA が合わない。残る選択肢としてフォーム営業に目が向くのですが、ここで制作会社特有のためらいが出てきます。ひとつは「相手のサイトを見て改善点を書く」という自分たちの強みが、粗探しや失礼と受け取られないかという不安。もうひとつは、取引中の元請けや既存クライアントの競合に誤って送ってしまい、狭い業界の中で信用を落とすリスクです。
さらに厄介なのは、Web 制作会社が「フォームを作っている側」でもあることです。reCAPTCHA を設置したのも、営業お断りの文言を入れたのも自分たちです。受信側がどんな気持ちでフォームを守っているかを誰よりも知っているからこそ、送る側に回ることに抵抗を感じます。この感覚は弱点ではなく、むしろ設計の軸にできる資産です。
必要なのは「フォーム営業とは何か」という一般論ではありません。相手サイトのどこを見てリストを絞るのか、観察した内容をどう文面に落とすと指摘ではなく提案になるのか、どの相手を確実に除外するのか。この三つを自社の言葉で書き出せれば、翌週から少量の試験送信を始められます。
本記事では、Web 制作会社がフォーム営業を新規開拓チャネルとして立ち上げるための設計手順を、送信リストの絞り込み・文面の型・送信除外の運用・反応後の KPI・体制の選び方という順で解説します。単発の受注を増やす話にとどまらず、下請け脱却と直取引の拡大という経営課題に接続する形で整理します。
Web制作会社の新規開拓でフォーム営業が選ばれる理由|他の営業方法との違い

フォーム営業を検討する前に、そもそも自社で新規開拓が止まっている原因を言語化しておくと、後の設計がぶれません。原因が「時間がない」なのか「コストが合わない」なのか「やり方が分からない」なのかで、選ぶべきチャネルが変わるからです。
営業専任がいない制作会社で新規開拓が止まる構造
従業員 3〜30 名規模の Web 制作会社では、営業専任者がいないか、いても 1 名という体制が一般的です。この規模では、代表または制作ディレクターが営業を兼務します。すると次のような構造が生まれます。
制作案件が入っている期間は、進行管理・デザインレビュー・実装確認・クライアント対応で稼働が埋まります。営業活動は「案件が切れそうになったら始めるもの」として後ろに回されます。ところが新規開拓は、初回接触から受注までに数か月かかることも珍しくありません。案件が切れてから動き始めると、資金繰りが厳しくなる時期と受注の空白が重なります。
つまり、制作会社の新規開拓が止まる本質的な理由は「営業をやる気がない」ことではなく、稼働が埋まっている時期にも並行して回せる、時間当たりの負荷が低い開拓手段を持っていないことにあります。この視点で見ると、評価すべきは「反応率が高いか」よりも「忙しい月でも止まらずに回せるか」という運用継続性です。
もうひとつの構造的な問題が、下請け依存です。代理店や元請け制作会社から安定的に案件が流れてくる状態は、営業コストがかからないという意味では合理的ですが、単価は元請けの取り分を差し引いた水準に固定されます。直取引の比率を上げないと、稼働を増やす以外に利益を伸ばす方法がなくなります。新規開拓は「案件を増やす活動」であると同時に「商流を組み替える活動」でもある、という認識が出発点になります。
テレアポ・紹介・クラウドソーシングと比べたフォーム営業の位置づけ
Web制作会社の営業方法として一般的に挙がる手段を、制作会社の実情に照らして並べると、それぞれの得意領域と限界が見えてきます。
手法 | 初期コスト | 立ち上げ速度 | 忙しい月の継続性 | 単価への影響 |
|---|---|---|---|---|
既存クライアントからの紹介 | ほぼゼロ | 相手次第で不定 | 自社側の制御が効かない | 高い(信頼が前提のため) |
テレアポ | 低〜中(人件費) | 速い | 低い(担当者の稼働に直結) | 中 |
クラウドソーシング | 低 | 速い | 中 | 低い(価格比較が前提) |
リスティング広告 | 中〜高 | 速い | 高い(出稿を止めなければ) | 中〜高(CPA 次第) |
SEO・オウンドメディア | 中(時間コスト) | 遅い(数か月〜) | 低い(記事制作が止まる) | 高い |
フォーム営業 | 低〜中 | 速い | 中〜高(仕組み化すれば) | 中〜高(設計次第) |
この表で注目したいのは「単価への影響」の列です。紹介と SEO は単価が高くなりやすい一方、自社の意思だけでは量をコントロールできません。クラウドソーシングは量を確保できますが、複数社の相見積もりが前提となるため単価が下がります。
フォーム営業は、送信先を自社で選べるという点で、この両者の中間に位置します。送る相手を自分で決められるということは、単価が合う相手だけに送るという設計が可能だということです。逆に言えば、リスト設計を雑にすると「安い案件の問い合わせだけが増える」という結果になります。フォーム営業の成否は送信数ではなくリスト設計で決まる、という原則は制作会社にとって特に重要です。
なお、テレアポとの比較でよく語られる「受付で止まらない」という利点も、制作会社の場合は少し意味合いが違います。制作案件の意思決定者は、経営者・広報担当・マーケティング担当・情報システム担当など企業によって異なります。電話では誰に取り次いでもらうべきかを最初に説明する必要がありますが、フォーム送信であれば、担当者が社内で転送しやすい形(読める文章として残る形)で届けられます。この「社内で回覧される前提の文章を送れる」点は、意思決定者が読みにくい業種ほど効きます。
制作会社ならではの前提「相手のサイトが最初から見える」
ここが本記事の出発点です。ほとんどの業種のフォーム営業は、相手企業の課題を推測して書きます。業種・従業員規模・所在地といった外形情報から仮説を立て、「御社のような◯◯業では〜」という一般論から入ることになります。
Web 制作会社は違います。営業対象の課題の一部が、送信前から公開情報として手元にあるからです。相手企業の Web サイトは誰でも閲覧でき、表示速度も、スマートフォン対応の状態も、SSL の有無も、最終更新の時期も、使われている CMS も、外から観察できます。営業のための特別な調査ではなく、日常業務で使っている観察スキルがそのまま使えます。
この前提が効くのは、二つの場面です。
ひとつはリスト設計です。「業種・地域・規模」という外形条件だけでリストを作ると、サイトを作り直したばかりの企業も、そもそも Web に投資しない方針の企業も、同じリストに混ざります。サイトの状態を見れば、その企業が今どのフェーズにいるかをある程度推定できます。詳しくは次の章で扱います。
もうひとつは文面です。一般論ではなく、相手のサイトを見た上で書いた文章は、読んだ瞬間に「これは自社宛に書かれたものだ」と分かります。ただし、ここに最大の落とし穴があります。相手のサイトを見て書けるということは、相手の弱点を書けてしまうということでもあります。この線引きを誤ると、提案のつもりが「勝手に採点された」という不快感に転化します。この境界線については本記事の中盤で詳しく扱います。
送信リストの作り方|ホームページ制作の営業で見るべきサイト状態のシグナル

ホームページ制作の営業でリストを作るとき、多くの場合は企業データベースから「業種 × 地域 × 従業員規模」で抽出します。この方法は手早い反面、制作会社にとっては情報量が足りません。同じ「東京都・従業員 50 名・製造業」でも、3 か月前にサイトをリニューアルした企業と、10 年更新が止まっている企業では、提案の余地がまったく違います。
制作会社が持つべき視点は、外形条件でリストを作った後にサイトの状態でスコアリングし直すという二段構えです。
サイト状態のシグナルでフォーム営業のリスト作成の優先度を付ける
フォーム営業のリスト作成において、制作会社が観察すべきシグナルは大きく六つあります。いずれも公開されているサイトを見るだけで確認でき、多くは無料のツールで判定できます。
1. スマートフォン表示の状態
スマートフォンで開いたときに横スクロールが発生する、文字が極端に小さい、タップ領域が近接しているといった状態は、モバイル対応が未実施か不十分であることを示します。総務省の令和7年通信利用動向調査では、スマートフォンの世帯保有割合は 91.8% に達しています。モバイル対応の不備は、閲覧体験の問題にとどまらず、検索流入の機会損失に直結します。Google もページエクスペリエンスに関する公式ドキュメントの中で、モバイルフレンドリーであることを評価対象のひとつとして挙げています。
2. HTTPS(SSL)対応の有無
常時 SSL 化されていない、あるいは一部ページのみ HTTP のまま残っているケースです。フォームを含むページが HTTP のままであれば、ブラウザ側で警告が表示され、問い合わせの離脱要因になります。前掲の Google のドキュメントでも、HTTPS で配信されているかどうかがページエクスペリエンスの構成要素に含まれています。
3. 表示速度と Core Web Vitals
PageSpeed Insights で計測できる LCP・INP・CLS の値です。特にモバイルのスコアが著しく低いサイトは、画像の未最適化、レンダリングを妨げるスクリプト、過剰なプラグインといった具体的な原因を抱えていることが多く、改善提案の切り口が立てやすい対象です。ただし、スコアの数値をそのまま文面に書くのは避けるべきです(理由は文面設計の章で説明します)。
4. 最終更新の停止
お知らせ・ニュース・ブログの最終更新日が数年前で止まっている状態です。これは技術的な問題ではなく、運用体制の問題を示すシグナルです。「更新できる人が社内にいない」「CMS の使い方が分からない」「更新を依頼していた制作会社との関係が切れている」といった背景が推定できます。保守運用契約や CMS 移行の提案につながりやすい対象です。
5. CMS のバージョンとサポート状況
サポートが終了した CMS やバージョン、あるいは長期間更新されていないプラグイン構成は、セキュリティ上のリスクと保守コストの両面で課題になります。ただし、この観点は文面での扱いが最も難しい領域です。セキュリティを引き合いに出すと不安喚起になりやすく、送信元が誰であっても「脅されている」印象を与えかねません。リストの優先度判定には使い、文面では慎重に扱う、という切り分けが現実的です。
6. アクセシビリティ
コントラスト比、代替テキストの欠落、キーボード操作への対応といった観点です。行政・教育・医療・金融など、アクセシビリティ配慮が求められる領域の企業では、提案の妥当性が高くなります。
これらのシグナルは、単独で見るよりも組み合わせで判断すると精度が上がります。たとえば「モバイル未対応 × 最終更新が 3 年以上前」であれば、サイト全体が長期間放置されている可能性が高く、リニューアル提案の対象になります。一方「モバイル対応済み × 表示速度のみ低い」であれば、比較的最近作られたサイトの部分改修案件として位置づけられます。
優先度の付け方としては、次のような三層構造が扱いやすい形です。
優先度 | 条件の例 | 想定する提案 |
|---|---|---|
高 | 複数のシグナルが重複(モバイル未対応かつ更新停止など) | フルリニューアル・CMS 移行 |
中 | 単一のシグナルが明確(表示速度のみ課題など) | 部分改修・パフォーマンス改善 |
低 | シグナルが弱い、または直近でリニューアル済み | 送信を見送る、または時期を置く |
「低」に分類された企業を無理にリストへ残さないことが重要です。直近でリニューアルしたばかりの企業に制作提案を送っても、相手にとっては意味のない情報になります。
受注単価とのミスマッチを防ぐ絞り込み条件
サイトの状態が悪いことと、制作予算があることは別の話です。ここを分けて考えないと、「課題は山ほどあるが予算はゼロ」という相手にばかり届くことになります。
単価のミスマッチを防ぐために、サイト状態のシグナルとは別に、次の三つの条件を掛け合わせます。
事業上のサイトの役割
そのサイトが売上に直結しているかどうかです。BtoB の問い合わせ獲得、EC の販売、採用の応募獲得といった明確な役割を持つサイトは、投資対効果を説明しやすく、予算が確保されやすい対象です。逆に「会社案内をとりあえず置いているだけ」のサイトは、改善の必要性を感じてもらいにくい傾向があります。
組織の規模と体制
従業員規模だけでなく、広報・マーケティング・情報システムの担当者が置かれているかも判断材料になります。専任担当がいる企業は、社内で予算を通すプロセスを持っています。一方、専任がいない企業では、経営者が直接判断するため意思決定は速いものの、予算規模は小さくなりがちです。どちらを狙うかは自社の受注単価帯によります。
予算が動くタイミング
決算期・期初の予算執行時期、事業年度の切り替え、新サービスや新店舗の立ち上げ、採用計画の発表といったイベントは、Web への投資判断が発生しやすいタイミングです。上場企業であれば決算発表資料から、中小企業であればプレスリリースや採用サイトの動きから、ある程度の推測ができます。
なお、中小企業のデジタル化については2025年版中小企業白書(中小企業庁)でも、多くの企業が何らかのデジタル技術を導入している一方、より高度な段階への移行が課題として整理されています。「そもそも Web に投資する意思があるか」という前提を疑うより、「どの段階にいる企業に、どの提案を当てるか」を設計するほうが、リストの精度は上がります。
案件タイプ別にリストを分ける
ひとつのリストで全部を狙おうとすると、文面が一般化して刺さらなくなります。案件タイプごとにリストを分け、それぞれに合った文面を用意するほうが結果的に効率的です。
案件タイプ | 主なシグナル | 文面の切り口 |
|---|---|---|
フルリニューアル | 複数シグナルの重複、デザインの古さ、更新停止 | 事業の現状とサイトの役割のずれ |
部分改修 | 表示速度、フォーム周りの導線、特定ページのみ課題 | 限定された範囲の改善 |
保守運用・CMS 移行 | 更新停止、CMS のサポート状況 | 運用体制の継続性 |
EC サイト | カート導線、商品ページの構成、モバイル決済 | 購入完了までの体験 |
採用サイト | 採用ページの有無、募集情報の更新状況 | 応募獲得の導線 |
案件タイプを分けることには、単価管理の効果もあります。フルリニューアルと部分改修では受注単価が一桁違うこともあります。どのリストにどれだけ送ったかを記録しておけば、「送信数は増えたが単価の低い案件ばかり」という状態を早期に検知できます。
直取引を狙うリストと、下請け・協力会社としての取引を狙うリスト
制作会社のフォーム営業には、事業会社に直接送る「直取引狙い」と、代理店・元請け制作会社・システム開発会社に送る「協力会社狙い」の二種類があります。この二つは、リストも文面もまったく別物として設計する必要があります。
直取引狙いの場合、送信先は事業会社です。相手は Web 制作の専門知識を持たない前提で、専門用語を避け、事業上の効果に翻訳して伝える必要があります。単価は高くなりやすい一方、意思決定に時間がかかり、要件定義から関わる工数も発生します。
協力会社狙いの場合、送信先は同業または近接業種です。相手は専門知識を持っているため、事業上の効果を説明する必要はありません。むしろ「どの技術スタックで」「どの規模の案件を」「どのくらいの期間で」対応できるかという稼働情報のほうが重要です。相手サイトの改善提案は的外れになるため、この章で扱ったサイト状態のシグナルは使いません。単価は下がりますが、案件の立ち上がりは速く、継続的な発注につながる可能性があります。
重要なのは、この二つを同じリストに混ぜないことです。混ぜたまま送ると、事業会社には専門的すぎ、制作会社には初歩的すぎる、どちらにも届かない文面になります。また、協力会社狙いのリストには、後述する商流上の除外判断が特に強く関わってきます。
Web制作会社のフォーム営業文面設計|サイト診断を「粗探し」にしない書き方

ここが Web 制作会社のフォーム営業で最も難しく、同時に最も差がつく部分です。相手のサイトを見て書けるという強みは、扱いを誤ると「頼んでもいないのに勝手に採点された」という不快感に直結します。
なお、業種別の汎用テンプレートについてはフォーム営業の文面テンプレートで扱っています。本記事では、制作会社が相手サイトへの言及を含めて書く場合の設計に絞ります。
文面の3ブロック構成
フォームの入力欄は文字数制限があることが多く、長文は最後まで読まれません。次の三つのブロックで組み立てると、必要な情報を過不足なく収められます。
ブロック1: 相手サイトへの言及(2〜3 文)
冒頭で「一般論ではなく、あなたの会社を見て書いている」ことを示します。ただし、指摘ではなく観点の提示にとどめます。書き方の詳細は次項で扱います。
ブロック2: 提供できる支援(3〜4 文)
自社が何をできるかを、相手の状況に接続した形で書きます。ここで自社の沿革や理念を書き始めると、読み飛ばされます。「同じような状況の企業で、こういう形の対応をしている」という具体性が求められます。
ブロック3: 負担の軽い次アクション(1〜2 文)
いきなり「打ち合わせをさせてください」と求めると、相手の負担が大きくなります。「資料をお送りする」「簡単な確認結果をまとめてお送りする」「ご不要であれば返信不要」といった、相手が断りやすく、かつ次に進みやすい選択肢を提示します。
全体で 400〜600 字程度が目安です。それ以上長くなる場合は、ブロック2 で自社の話をしすぎている可能性があります。
冒頭2文の書き方|「指摘」と「観点の提示」の境界線
冒頭の 2 文で反応が決まります。ここで境界線を越えると、以降を読んでもらえません。境界線は次の三点で引けます。
1. 断定を避け、観察の範囲を明示する
「御社のサイトはスマートフォンに対応していません」は断定であり、指摘です。相手が「対応していない」ことを既に把握して優先度を落としているだけかもしれませんし、リニューアルが進行中かもしれません。外から一度見ただけで断定すると、事情を知らないまま採点した印象になります。
「拝見した限りでは、スマートフォンでの表示に調整の余地があるように見受けられました」であれば、観察の範囲(拝見した限り)と、判断の留保(見受けられました)が入っています。同じ内容でも受け取り方が変わります。
2. 「改善余地」ではなく「目的との接続」で語る
「表示速度に改善余地があります」は、相手にとっては欠点の指摘です。「◯◯(採用/問い合わせ/販売)を主目的とされているように見受けられ、その観点では表示速度が影響する可能性があります」であれば、相手の目的を起点にした情報提供になります。
この違いは小さいようで大きく、前者は「あなたのサイトは劣っている」、後者は「あなたの目的にとって、この要素が関係するかもしれない」というメッセージになります。制作会社が提供すべきなのは後者です。
3. 数値は測定条件とセットで書く
PageSpeed Insights のスコアや Core Web Vitals の値を文面に書く場合、測定条件を必ず添えます。「表示速度スコアが 30 点でした」だけでは、いつ・どの端末で・どのページを測ったのか分かりません。相手が自分で測って違う数値が出れば、信頼を損ないます。
そもそも、初回の文面に数値を書く必要があるかは検討の余地があります。数値は具体的である反面、点数を付けられたという印象を強く与えます。初回は定性的な観点提示にとどめ、返信をもらってから詳細な計測結果を共有する、という段階設計のほうが摩擦は少なくなります。
冒頭 2 文の例を、比較の形で示します。
避けたい書き方 | 推奨する書き方 |
|---|---|
御社のサイトはスマホ対応ができておらず、機会損失が発生しています。 | 御社サイトを拝見し、スマートフォンでの表示に調整の余地があるように見受けられました。採用情報を掲載されている点から、応募者の多くがスマートフォンから閲覧される可能性を考え、ご連絡いたしました。 |
表示速度スコアが 32 点と非常に低く、SEO 上不利な状態です。 | 商品ページを中心に拝見しました。画像点数が多く読み込みに時間がかかる構成のため、購入前の離脱に影響していないかという観点でご連絡しました。 |
CMS のバージョンが古く、セキュリティリスクがあります。 | お知らせの更新が 2023 年で止まっているようにお見受けしました。更新体制の面で何かご事情があれば、運用面のご相談も承っております。 |
右列に共通しているのは、相手の事業上の意図を先に読み取り、その意図と観察内容を接続している点です。これは相手サイトを丁寧に見ていないと書けません。逆に言えば、この一文が書ける相手だけをリストに残す、という判断基準にもなります。
実績・ポートフォリオの見せ方
制作会社のフォーム営業では、実績の提示が信頼形成の中核になります。ただし、見せ方には制約があります。
業種を近づける
実績は「規模が大きいもの」より「相手と業種・課題が近いもの」を選びます。相手が地域の製造業であれば、大手 EC の実績よりも、同規模の製造業サイトの実績のほうが想像しやすくなります。案件タイプ別にリストを分けておけば、実績の選択も自動的に決まります。
リンクは 1 本に絞る
複数の URL を並べると、フォームによっては迷惑メール判定の対象になったり、単純に読み飛ばされたりします。ポートフォリオページか、最も近い実績ページのどちらか 1 本に絞ります。
数値は出せる範囲を明確にする
「問い合わせが 3 倍になりました」といった数値は説得力がある一方、クライアントの許諾なく公開できない場合があります。守秘義務の範囲を確認せずに書くと、既存クライアントとの関係を損ないます。公開許諾が取れている実績のみを使い、取れていない場合は「同業種での制作経験があります」という定性的な表現にとどめます。
社名を出せない場合の書き方
「◯◯業界の企業様のコーポレートサイト制作」のように、業種と案件種別だけを示す形は許容されやすい表現です。ただし、業種と規模を細かく特定すると実質的に社名が推測できてしまうことがあるため、粒度には注意が必要です。
送ってはいけない文面の型
最後に、避けるべき文面のパターンを整理します。いずれも「反応が悪い」だけでなく、送信元企業の評判を損なうリスクを伴います。
粗探し型
相手サイトの問題点を箇条書きで列挙する形式です。情報量は多いのですが、読み手には「無断で採点表を送りつけられた」という体験になります。特に、そのサイトを社内で作った担当者や、制作を依頼した担当者が読んだ場合、個人の仕事を否定された形になります。
不安喚起型
「このままでは検索順位が下がります」「セキュリティ事故が起きる可能性があります」といった、リスクを強調して行動を促す型です。制作会社が書くと専門性ゆえに説得力が出てしまうぶん、悪質な印象も強くなります。セキュリティや法令対応の話題は、事実として伝える必要がある場合でも、断定と煽りを避けた表現に置き換えます。
テンプレート丸出し型
社名だけを差し替えた文面は、複数の指標から見分けられます。冒頭に相手サイトへの言及がない、業種と無関係な実績が並んでいる、文中で自社の話が先に来る、といった特徴です。制作会社が一般論のテンプレートを送ると、「自社のサイトすら見ずに送ってきた制作会社」という評価になり、専門性の主張と矛盾します。
自社紹介先行型
設立年・所在地・従業員数・理念から書き始める形です。相手にとって最初に知りたいのは「なぜ自分に送られてきたのか」であり、送信元の属性はその後です。会社情報は署名部分にまとめ、本文はブロック1 から始めます。
送ってよい相手・送ってはいけない相手|制作会社が注意すべき送信除外の設計

文面ができても、送信先の除外設計が甘いと事故が起きます。制作会社の場合、事故のコストが他業種より高くなりやすいという事情があります。制作業界は横のつながりが濃く、代理店・元請け・協力会社の関係が重なり合っているためです。「誰に送ったか」は思っている以上に伝わります。
送信除外の一般的な設計手順はフォーム営業の送信除外リストで扱っています。ここでは制作会社固有の論点に絞ります。
営業お断り・利用規約の確認手順と、記載がある場合の扱い
まず前提として、多くの企業サイトには送信可否に関する意思表示が置かれています。確認すべき箇所は次の三つです。
- 問い合わせフォームの入力画面およびその周辺(「営業目的でのご連絡はお断りしております」等の記載)
- サイトの利用規約(営業・勧誘目的での利用を禁止する条項)
- プライバシーポリシー(送信された情報の利用目的の記載)
これらに営業目的での利用を禁じる記載がある場合、送信を見送るのが妥当な判断です。記載を認識した上で送信すると、単に反応が得られないだけでなく、規約違反として指摘される余地を残します。
法的な位置づけについても整理しておきます。営業目的のメール送信を規制する特定電子メール法(消費者庁)は、「電子メール」の範囲を総務省令で定めており、総務省・消費者庁のガイドラインでは SMTP を用いる通信方式と、携帯端末の電話番号を用いる通信方式が挙げられています。Web フォームからの送信はこの定義に直接該当しないと整理されることが一般的ですが、だからといって何を送ってもよいということにはなりません。サイト利用規約への違反、送信内容によっては不法行為の問題、フォームに入力された個人情報の取り扱いなど、別の観点からの検討が必要です。法的リスクの全体像についてはフォーム営業の法的リスクで整理しています。
制作会社にとって現実的な基準は、法的な可否よりも一段厳しく設定することです。理由は次項で述べる商流の問題があるためです。
商流を壊さないための除外(取引中の元請け・代理店・協力会社とそのエンドクライアント)
これが制作会社で最も見落とされやすく、最もダメージが大きい論点です。
下請け比率の高い制作会社は、広告代理店や元請け制作会社から案件を受けています。その先には、代理店が抱えるエンドクライアントがいます。もし自社のフォーム営業が、取引中の代理店のエンドクライアントに直接届いてしまったらどうなるでしょうか。エンドクライアントから代理店に「御社の協力会社から直接営業が来たのですが」という連絡が入れば、代理店との信頼関係は損なわれます。多くの取引基本契約には、紹介先への直接営業を禁じる条項が含まれています。
したがって、除外すべき対象は次の三層になります。
層 | 対象 | 把握の難易度 |
|---|---|---|
第1層 | 取引中・過去に取引のあった代理店・元請け制作会社・システム開発会社 | 容易(自社の取引先台帳から抽出可能) |
第2層 | 上記の取引先を通じて関わったエンドクライアント | 中(案件記録から抽出可能) |
第3層 | 取引先が公開している制作実績に掲載されている企業 | 難(取引先サイトの実績ページから推定) |
第1層と第2層は、案件管理の記録があれば機械的に抽出できます。問題は第3層です。取引先の実績ページに掲載されている企業は、その取引先が現在も関係を持っている可能性が高い相手です。ここへの直接送信は、契約上の禁止条項に触れなくても、関係悪化の引き金になり得ます。
第3層まで完全に潰すのは現実的ではありません。ただし、主要な取引先 2〜3 社については、実績ページ掲載企業を除外リストに取り込むという運用は十分可能です。取引額が大きい相手ほど、失うコストも大きくなります。
また、協力会社狙いのリスト(同業他社へ送るリスト)を作る場合は、逆方向の配慮も必要です。相手の制作会社にとって、自社は競合でもあります。「協力会社として稼働を提供できます」という提案が「クライアントを取りに来た」と受け取られないよう、文面で立ち位置を明確にする必要があります。
既存クライアントとその競合企業の扱い
既存クライアント本体を除外することは当然として、見落としやすいのが競合企業です。
たとえば地域の歯科医院サイトを手がけている場合、同じ商圏の別の歯科医院に営業をかけると、既存クライアントの利益と衝突します。守秘義務違反ではなくても、「うちのサイトを作った会社が、隣の医院のサイトも作っている」という状況は、クライアントにとって歓迎できるものではありません。
判断基準としては、次の二つで切り分けられます。
商圏の重複: 地域密着型のビジネス(医療・飲食・美容・不動産・教育など)では、同一商圏内の同業を除外対象とします。全国展開の BtoB 企業であれば、商圏という概念が薄いため、除外の必要性は下がります。
契約上の取り決め: 制作契約や保守契約に競合避止の条項が含まれている場合は、その範囲に従います。条項がない場合でも、主要クライアントについては事前に確認を取っておくと、後の判断が楽になります。
実務としては、既存クライアントごとに「除外すべき競合の範囲」を定義しておき、リスト作成時に照合する形が扱いやすくなります。
除外リストの管理単位と更新運用
除外リストは「企業名」で管理すると必ず漏れます。表記揺れ(株式会社の前後、旧社名、屋号)に対応できないためです。
管理単位としては、次の三つを併用します。
1. 企業ドメイン
最も確実な識別子です。フォーム送信の対象はサイトである以上、ドメイン単位で管理すれば表記揺れの問題を回避できます。サブドメインを含めるか、メインドメインのみとするかは事前に決めておきます。
2. グループ会社の単位
親会社と子会社が別ドメインを持っている場合、片方だけ除外しても意味がないことがあります。特に、グループ内で Web 制作を内製している持株会社構成では、グループ全体を除外対象とする判断が必要になります。
3. 過去送信履歴
同じ企業に短期間で複数回送ることは避けます。前回送信からの経過期間、前回の反応(返信あり・なし・拒否)を記録し、再送の可否を判定します。特に「配信不要」の意思表示を受けた相手は、期間を問わず恒久的な除外対象とします。
更新運用については、次の三つのタイミングを決めておくと形骸化を防げます。
タイミング | 更新内容 |
|---|---|
新規受注時 | クライアント本体と、定義した競合範囲を除外リストへ追加 |
新規取引先(代理店・元請け)との取引開始時 | 取引先本体とエンドクライアントを追加 |
月次 | 送信結果の反映(拒否・返信あり)、取引終了先の扱いの見直し |
取引が終了した相手をいつ除外リストから外すかは、判断が分かれる点です。契約終了後も一定期間は営業を控える、という運用にしておくと、後から関係が再開したときに問題になりません。
フォームを作る側としての受信側配慮と、フォーム営業の断り方
Web 制作会社は、問い合わせフォームを設計・実装する側でもあります。この立場は、フォーム営業を設計するうえで実は有利に働きます。受信側が何を嫌がるかを、実装レベルで理解しているからです。
CAPTCHA が置かれている意味
reCAPTCHA などの認証を設置するとき、その目的は明確です。機械的な送信を受け取りたくない、という意思表示です。設置した側であれば、この意図を疑う余地はありません。したがって、CAPTCHA を技術的に迂回して送信することは、受信側の明示的な意思表示を無視する行為になります。フォーム営業ツールを選定する際、CAPTCHA の扱いを確認すべき理由はここにあります。
窓口の選び方
企業サイトには複数の問い合わせ窓口が存在します。法人向けの問い合わせ窓口、採用に関する窓口、個人ユーザー向けのサポート窓口、報道関係者向けの窓口などです。営業目的の連絡は、法人向けの問い合わせ窓口か、それに準ずる汎用窓口に限定します。カスタマーサポート窓口に営業を送ると、対応工数を無駄に発生させることになり、相手の業務を直接妨害します。
送信頻度と再送の考え方
同一企業への再送は、一定期間を空けたうえで、内容を変える場合に限定します。同じ文面を繰り返し送ることは、意図の伝達ではなく圧力になります。反応がないことを「気づかれていない」と解釈するか「関心がない」と解釈するかで、再送の判断は変わります。制作会社の場合、業界内の評判というコストを考えると、後者に寄せた判断が安全です。
自社がフォーム営業を受け取る側になったとき
制作会社にも営業のフォーム送信は届きます。フォーム営業の断り方として現実的なのは、次の三段階です。
- サイト側で意思表示する: 問い合わせフォームの説明文、利用規約に営業目的の利用に関する方針を明記します。これは自社の意思表示であると同時に、送信側にとっての判断材料にもなります
- 個別に返信する場合は簡潔に: 「営業のご連絡はお受けしておりません」の一文で足ります。理由の説明は不要です
- 繰り返される場合は記録する: 同一の送信元から反復して届く場合は、日時と内容を記録しておきます
自社がどう断るかを決めておくことは、自社がどう送るかを決めることと表裏一体です。「自分たちが受け取っても不快に感じない送り方」という基準は、制作会社が持てる最も実践的なガイドラインになります。迷惑行為と受け取られない運用設計についてはフォーム営業と迷惑行為の境界でも扱っています。
反応後のフォロー設計とKPI|下請け脱却・直取引獲得につなげる運用
送信して返信が来た後の設計を決めていないと、せっかくの反応を取りこぼします。また、KPI の置き方を誤ると「送信数は増えたが経営は改善していない」という状態に陥ります。
制作会社向けKPI設計
フォーム営業の KPI として一般的なのは、送信数と返信率です。しかし、制作会社がこの二つだけを見ていると、単価の低い案件が増えても「成果が出ている」と判定してしまいます。
制作会社が置くべき KPI は、次の六段階です。
段階 | 指標 | 見るべき観点 |
|---|---|---|
1 | 送信数 | 忙しい月でも一定量を維持できているか |
2 | 返信率 | リストと文面の適合度 |
3 | 打合せ数 | 返信の質(前向きな返信か、断りか) |
4 | 見積提出数 | 商談として成立しているか |
5 | 受注単価帯 | 想定した単価レンジの案件が取れているか |
6 | 直取引比率 | 商流の組み替えが進んでいるか |
段階 1〜4 は多くの営業活動で共通する指標ですが、段階 5 と 6 が制作会社固有の視点です。
受注単価帯を見る理由は、フォーム営業が「量を出せる手法」であるがゆえに、単価の低い案件を大量に呼び込む方向へ流れやすいためです。月次で「受注案件の単価分布」を確認し、想定より低い帯に集中しているようであれば、リストの絞り込み条件を見直します。
直取引比率は、下請け脱却の進捗を示す指標です。フォーム営業を始めた目的が「稼働を埋めること」ではなく「商流を変えること」であれば、この指標を追わないと目的から外れていきます。四半期単位で、売上に占める直取引の割合を確認します。
なお、段階 1 の送信数については、絶対値の目標を置くよりも「稼働が埋まっている月でも前月比で大きく落ちていないか」という継続性の観点で見るほうが実態に合います。制作会社の場合、営業が止まる原因のほとんどは意欲ではなく稼働です。
返信への初動(簡易診断レポートの粒度と、無償で出す範囲の線引き)
返信が来たときの初動で、その後の商談の質が決まります。制作会社の場合、ここで「簡易的な診断結果」を出すかどうかが分かれ目になります。
診断結果を出すメリットは明確です。具体性が一気に上がり、相手の社内で共有されやすくなります。一方でリスクもあります。無償で詳細な分析を提供すると、その情報だけを持って他社に発注される可能性がありますし、そもそも分析工数が積み上がって営業活動が続かなくなります。
線引きの考え方としては、次の三層で整理できます。
層 | 内容 | 提供方針 |
|---|---|---|
第1層 | 公開情報から誰でも確認できる観察結果(表示速度の計測値、モバイル表示の状態など) | 無償で提供して問題ない |
第2層 | 観察結果を踏まえた課題の構造化(何が原因で何に影響しているかの整理) | 打合せの場で口頭提示、または簡易な資料 |
第3層 | 具体的な改善設計・実装方針・工数見積 | 有償、または受注確度が高い段階で提供 |
第1層は、ツールを使えば相手も取得できる情報です。ここを出し惜しみしても信頼を得られません。第3層は、それ自体が制作会社の商品価値そのものです。第2層をどこまで無償で出すかが判断の分かれ目になりますが、初回打合せの材料として使うと決めておくと運用が安定します。
初回のヒアリングで確認しておきたい項目も決めておきます。サイトの目的(何を達成したいか)、現在の運用体制(誰が更新しているか)、過去の制作経緯(前回いつ、どこに依頼したか)、予算と時期の見込み、社内の意思決定プロセスの五点が押さえられれば、提案の方向性は定まります。特に「前回どこに依頼したか」は重要で、現在も関係が続いている制作会社がある場合、提案の立ち位置を変える必要があります。
単発制作で終わらせない設計
制作案件の課題は、納品したら関係が終わることです。フォーム営業で獲得した新規クライアントも、単発のリニューアル案件で終われば、また次の新規開拓が必要になります。
継続的な関係につなげるには、初回提案の時点で運用の話を含めておく必要があります。
保守運用契約への接続: 制作提案の中に、公開後の更新・セキュリティ対応・障害対応をセットで含めます。制作費だけの提案と比べて総額は上がりますが、公開後に別途提案するより、はるかに合意を得やすくなります。
改善提案のサイクル: 公開後 3 か月・6 か月といったタイミングで、アクセス解析に基づく改善提案を行う枠組みを最初から契約に含めます。これは制作会社にとって継続収益になると同時に、クライアントにとってもサイトを放置しない仕組みになります。
年間契約への移行: 保守と改善をまとめて年間契約とすることで、収益の予測可能性が上がります。フォーム営業で獲得した新規案件が年間契約に移行すれば、翌年の新規開拓のプレッシャーが下がります。
ここで、フォーム営業のリスト設計に立ち返ると、興味深い循環が見えてきます。「最終更新が停止している」というシグナルでリストを絞ったということは、そのクライアントは前任の制作会社との運用関係が切れているということです。同じことを繰り返さない提案をすることが、そのまま自社の継続収益につながります。
月次で文面とリストを見直すPDCAの回し方
フォーム営業は、送りながら精度を上げていく手法です。最初から完璧なリストと文面を用意することはできません。
月次で確認する項目を固定しておくと、見直しが習慣化します。
リストの見直し
- どのシグナル条件のリストから返信が来たか(条件ごとの返信率)
- 案件タイプ別の反応差(リニューアル狙い・保守狙い・部分改修狙い)
- 除外漏れが発生していないか(送信後に「既存取引先だった」と判明したケース)
文面の見直し
- 冒頭 2 文のパターン別の反応差
- 実績の提示方法(業種近似のものと、規模の大きいもの)
- 次アクションの提示方法(資料送付・簡易確認・打合せ提案)
比較する際は、一度に複数の要素を変えないことが重要です。冒頭の書き方と実績の選び方を同時に変えると、どちらが効いたか分かりません。月ごとに変更点を一つに絞ると、少ない送信数でも学習が進みます。
送信数が少ない段階では、返信率のような比率よりも、返信された内容そのものを読むほうが情報量があります。「予算が合わない」という返信が多いのか、「今は時期ではない」なのか、「既に別の会社に依頼している」なのかで、修正すべき箇所は変わります。前者ならリストの単価条件、中者ならタイミング条件、後者なら除外条件の問題です。
自社運用・ツール・代行の使い分け|web制作 案件獲得の体制別判断軸
web制作の案件獲得にフォーム営業を組み込むとき、体制の選択肢は大きく三つです。少人数の制作会社にとっては、どれを選ぶかで運用の持続性が変わります。
選択肢1 自社運用+フォーム営業ツール
リスト作成・文面作成・送信・フォローアップまでを自社で行い、送信作業の効率化にツールを使う形です。
制作会社にとって最も相性が良いのは、この形です。理由は明確で、リスト設計と文面設計が制作会社の専門性そのものだからです。相手サイトを観察して優先度を付ける作業も、観察内容を文面に落とす作業も、外部に委託すると精度が落ちます。外注先は Web 制作の専門家ではないため、シグナルの読み取りができません。
一方で、ツールの選定と初期設定、送信リストの整備、送信後の記録管理といった運用工数は自社で負担します。担当者を決めずに始めると、繁忙期に止まります。
ツールを選ぶ際の観点についてはフォーム営業ツールの比較で整理しています。制作会社の視点では、送信除外の管理機能と送信結果の記録機能を特に確認すべきです。前述のとおり、除外設計の失敗コストが高いためです。
選択肢2 フォーム営業代行への委託
リスト作成から送信、場合によっては初期対応までを外部の代行会社に委託する形です。
最大のメリットは、社内の稼働をほぼ使わずに始められる点です。営業専任がいない制作会社にとって、この点は大きな魅力になります。
一方で、制作会社が代行を使う場合には固有の難しさがあります。まず、サイト状態のシグナルに基づくリスト設計を代行会社に依頼するのは、実務上ハードルが高くなります。代行会社の標準的なリスト作成は業種・地域・規模による絞り込みが中心であり、Web サイトの技術的な状態を評価する体制を持っているとは限りません。結果として、制作会社の強みを活かさない汎用的なアプローチになりがちです。
もうひとつは、除外設計の伝達です。取引中の代理店とそのエンドクライアント、既存クライアントの競合といった除外条件は、自社の事情を知らない外部に正確に伝えるのが難しい情報です。除外リストを渡す運用にする場合、リストの更新をどう反映するかまで含めて取り決めが必要になります。
代行を利用する場合は、送信先の選定基準・送信先企業の一覧・送信文面・送信結果の内訳が、発注側から確認できる契約になっているかを事前に確認します。これらが見えない状態では、除外の徹底も、文面の改善も、自社側で判断できません。
選択肢3 リスト作成のみ外注し送信は自社で行うハイブリッド
企業データベースからの一次リスト抽出を外部に任せ、サイト状態による絞り込み・文面作成・送信・除外判定を自社で行う形です。
この形の利点は、最も工数がかかる部分(一次リストの収集)を外に出しつつ、制作会社の専門性が効く部分(サイト診断と文面)と、事故リスクが高い部分(除外判定)を自社に残せることです。
注意点は、一次リストの品質が下流の工数を左右することです。抽出条件が曖昧だと、サイト状態のチェック対象が膨れ上がり、結局工数がかかります。業種・地域・規模の条件を自社で明確に定義したうえで委託する必要があります。
なお、企業データベースからのリスト抽出機能を内蔵しているツールを使えば、この選択肢は選択肢1 に統合できます。リスト作成を外部サービスとして切り出すか、ツールの機能として内包するかは、月間の送信規模と予算によって判断が変わります。
5観点の比較
三つの体制を、制作会社の視点で比較すると次のようになります。
観点 | 自社運用+ツール | 代行に委託 | ハイブリッド |
|---|---|---|---|
初期コスト | 中(ツール費用と設定工数) | 中〜高(委託費) | 中 |
運用工数 | 高(リスト・文面・送信すべて自社) | 低 | 中 |
立ち上げ期間 | 中(設定と初期リスト整備) | 短 | 中 |
プロセスの可視性 | 高(すべて自社で把握) | 契約内容に依存 | 中〜高 |
社内へのノウハウ蓄積 | 高 | 低 | 中 |
制作会社にとって特に重みが大きいのは、プロセスの可視性とノウハウ蓄積の二つです。
可視性が重要なのは、除外設計の失敗が業界内の信用に直結するためです。誰に送ったかを自社で把握できない状態は、リスクを外部に預けたまま結果だけを受け取る構造になります。
ノウハウ蓄積が重要なのは、フォーム営業の精度がリスト設計と文面設計の学習によって上がるためです。この学習は、送信結果と返信内容を見ながら少しずつ積み上がるものです。外部に委託し続けると、数年経っても自社に開拓能力が残りません。
一方で、「まず始めてみないと何も学べない」という現実もあります。稼働がまったく確保できない状況であれば、代行で立ち上げつつ、送信先と文面の情報を自社に蓄積していく形を取り、段階的に内製へ移行する設計も選択肢になります。判断の軸は、「今すぐ案件がほしい」のか「開拓能力を社内に作りたい」のか、どちらを優先するかです。
Form Pilot が制作会社のフォーム営業運用に向く理由
本記事で一貫して扱ってきたのは、「送信数をどう増やすか」ではなく「送ってよい相手をどう選ぶか」という設計でした。制作会社にとって、この順序は理屈ではなく実務上の必然です。取引中の代理店のエンドクライアントに一通送ってしまうリスクは、送信数を倍にする効果を簡単に打ち消します。
秋霜堂株式会社が提供する Form Pilot は、この「送信先を選ぶ」という部分を設計の中心に置いた BtoB フォーム営業自動化 SaaS です。制作会社の文脈で関係が深い点を三つ挙げます。
接触済み企業の自動除外
他社(取引先や別チャネル)がすでに接触済みの企業ドメイン一覧を外部 API から取得し、送信リストと突合して、該当する企業への送信を自動で回避します。「判断できないなら送らない」を基本とする、安全側に倒す設計(fail-closed)を採用しています。企業ドメイン単位で除外を扱う設計は、本記事で述べた「企業名ではなくドメインで管理する」という考え方と同じ方向を向いています。
CAPTCHA を突破しない設計
CAPTCHA の突破は行いません。CAPTCHA 等で完全な自動送信ができないフォームでは、Chrome 拡張機能が入力までを自動化し、送信ボタンは人が押す形になります。この設計の前提にあるのは、CAPTCHA が受信側による「機械的な送信を受けたくない」という意思表示であり、それを不正な手段で迂回することは送信元である利用企業の名前で行われる行為になる、という判断です。フォームを実装する側でもある制作会社にとって、この線引きは説明を要しないほど自然なものかもしれません。
送信履歴と失敗診断の可視化
送信履歴・失敗診断・開封/クリック計測を画面上で確認できます。誰に送ったか、なぜ届かなかったかを自社で把握できる状態は、除外運用の検証にも、文面の改善にも必要な前提です。前章で述べた「プロセスの可視性」を、外部委託ではなく自社の管理下で確保する形になります。
このほか、企業マスタを業種・所在地で絞り込んで送信リストを作成する機能、反応に応じたフォローアップを分岐シナリオとして設計する機能、組織単位でデータを分離するマルチテナント設計などを備えています。組織単位のデータ分離は、複数のクライアントを抱える制作会社が自社営業とクライアント支援を分けて運用する場合にも関係します。
Form Pilot は先行導入フェーズにあり、伴走サポート付きで提供しています。料金は送信数に応じた従量制を予定していますが、詳細は未確定です。
次のアクション
Web 制作会社のフォーム営業は、送信数を追う手法ではなく、相手サイトの観察を起点にした設計の手法です。まずは 20〜30 社という小さな単位で、サイト状態のシグナルによるリスト絞り込みと、冒頭 2 文の書き方を試し、返信内容を読んでから条件を調整していく進め方が現実的です。除外リストだけは、試験送信の前に必ず整備しておいてください。
送信先の除外運用や送信履歴の可視化を仕組みとして持ちたい場合は、Form Pilot のサービスページで設計思想と機能をご確認いただけます。接触済み企業の自動除外や CAPTCHA を突破しない方針についても記載しています。
本記事に関連する内容は、以下の記事でも扱っています。
- フォーム営業の送信除外リスト — 除外リストのカテゴリ分類と更新運用
- フォーム営業の文面テンプレート — 業種別の文面構成と使い分け
- フォーム営業と迷惑行為の境界 — 受信側配慮を前提にした運用設計
よくある質問
- Web制作会社がフォーム営業を始めるなら自社運用と代行どちらがいいですか?
サイト診断と文面設計こそが制作会社の専門性が最も効く部分のため、基本は自社運用+ツールが適しています。稼働が確保できない場合のみ代行で立ち上げつつ、送信先と文面のノウハウを自社に蓄積して段階的に内製へ移行するのが現実的です。
- 取引先の実績ページに載っている企業まで除外リストに含める必要がありますか?
取引先の実績ページに掲載された全企業を除外するのは現実的ではありません。取引額が大きい主要な取引先2〜3社に絞り込み、その実績ページ掲載企業を除外リストに取り込む運用にすると、関係悪化のリスクを抑えつつ運用負荷とのバランスを取りやすくなります。
- 初回の営業文面にPageSpeedのスコアなど具体的な数値を書いてもいいですか?
初回から具体的な数値を出すと点数を付けられた印象を与えやすく、書く場合も測定条件を添えないと相手が自分で測った際に数値が食い違い信頼を損ないます。初回は定性的な観点提示にとどめ、返信を得てから詳細な計測結果を共有する段階設計にすると摩擦が少なくなります。
- 直取引狙いと協力会社狙いの送信リストは一つにまとめてもいいですか?
まとめるべきではありません。直取引狙いの事業会社には専門用語を避け事業効果に翻訳した文面が必要な一方、協力会社狙いの同業には稼働情報中心の文面が求められるため、一つのリストに混ぜると事業会社には専門的すぎ、同業には初歩的すぎる中途半端な文面になります。
- 返信率は悪くないのに受注単価が低い案件ばかり集まる場合、何を見直せばいいですか?
文面ではなく送信リストの絞り込み条件を疑うべきです。サイト状態のシグナルだけでなく、事業上のサイトの役割・組織の規模や体制・予算が動くタイミングといった条件を掛け合わせ、単価が合う相手だけに送る設計へ見直すことで、受注単価帯の改善につながります。



