紹介で顧問先が増えていた時期が終わり、次の一手を探している会計事務所は少なくありません。金融機関からの紹介は既存の大手事務所に流れ、税理士紹介サイトは手数料と報酬水準の低下がついて回り、自社サイトの記事は成果が出るまで時間がかかります。能動的に接触できる手段として、企業の問い合わせフォームから提案を届けるフォーム営業が候補に上がってきます。
ところが、いざ調べ始めると情報が二つに割れています。フォーム営業の解説記事は送信件数や返信率の話が中心で、業種を問わない一般論にとどまります。一方、税理士の広告規制を扱う記事は禁止類型を列挙するところで終わり、「ではフォーム営業の文面に何を書けるのか」までは接続していません。結果として、最も自然に思いつく「今の顧問税理士より低い報酬でお受けできます」という一文が使えるのかどうかすら判断できないまま、着手が止まってしまいます。
この行き詰まりは、順番を変えると解けます。文面を先に書いてから規制で削るのではなく、税理士法と所属税理士会の会則から「書けないこと」を先に確定させ、その枠の内側で送信先・送信時期・文面・フォローアップを設計する順序に組み替えます。禁止類型は制約であると同時に、自事務所の文面チェックリストとしてそのまま使える判断基準でもあります。
もう一つ、会計事務所にはほかの業種にない前提があります。反応が返ってきたときに面談できるかどうかが、自事務所の申告繁忙期に左右される点です。年末調整から確定申告、3 月決算法人の 5 月申告までの期間に反応が集中すれば、せっかくの機会を取りこぼします。送信の設計は、送る側のカレンダーを含めて初めて完成します。
本記事では、会計事務所がフォーム営業を検討する背景の整理から始め、税理士法・日税連の広告細則を文面の可否判断に落とし込む方法、送信先を 2 つのセグメントに分ける設計、二重の繁忙期を重ねた送信時期の決め方、税務判断に踏み込まずに専門性を伝える文面の 4 要素、反応後の導線設計、自事務所運用と代行・ツールの選択軸までを順に解説します。最後に、着手前に確認すべき項目をチェックリストの形でまとめます。
会計事務所が新規顧問先の獲得でフォーム営業を検討する背景

フォーム営業の是非を論じる前に、会計事務所の新規顧客獲得がどのような構造の上に成り立っているのかを確認しておきます。この構造を押さえておくと、フォーム営業が既存の獲得経路を置き換えるものではなく、どこを補うものなのかがはっきりします。
新規顧問先の獲得が紹介に偏る構造
会計事務所の新規顧問先獲得は、紹介への依存度が際立って高い市場です。全国の会計事務所 150 件(うち税理士 133 名)を対象とした 2022 年の実態調査では、新規顧問先の獲得において紹介を「かなり重要」と答えた事務所が 48.7%、「重要」が 31.3% で、8 割以上が紹介を重視していました。さらに、新規顧問契約のうち紹介経由が「75% 以上」を占めると回答した事務所が 56.0% と最多になっています(freee 株式会社 プレスリリース(調査機関: Mikatus 株式会社、2022 年))。
この構造には合理性があります。顧問契約は金銭情報という機微な領域を長期にわたって預ける取引であり、依頼側は品質を事前に検証できません。そのため、既存の取引関係や信頼できる第三者の推薦が判断材料として重く働きます。紹介が強いのは営業努力の結果というより、商材の性質から導かれる必然に近いといえます。
一方で、紹介中心の構造には二つの弱点があります。第一に、流入量を自分でコントロールできません。既存顧問先の事業が安定期に入り、経営者の交友範囲に新規事業者が減れば、紹介は自然に細ります。第二に、獲得のペースが自事務所の成長計画と噛み合いません。職員を採用した直後に紹介が止まれば、稼働の空きがそのまま収支を圧迫します。
競争環境も緩やかではありません。税理士名簿の登録者数は令和 6 年度末時点で 8 万 1,696 人となっており、増加ペースは鈍化しているものの母数としては年々積み上がっています(出典: 日税ジャーナルオンライン、2025 年)。紹介という受動的な経路だけで自事務所の順番が回ってくるのを待つ設計は、事業計画としては心もとない状態です。
既存の集客手法を時間軸・費用・報酬水準への影響で並べる
税理士の集客手法は複数ありますが、比較する際は「成果が出るまでの時間軸」「費用の性質」「報酬水準への影響」の 3 軸で並べると、自事務所に足りないものが見えてきます。
手法 | 成果までの時間軸 | 費用の性質 | 報酬水準への影響 |
|---|---|---|---|
既存顧問先・提携先からの紹介 | 短い(案件化まで数週間) | ほぼ無償だが関係維持の工数が継続的に必要 | 高め。信頼が前提のため価格交渉になりにくい |
税理士紹介サイト・マッチングサービス | 短い(登録後すぐ案件が届く) | 成約課金・手数料型。売上に連動して発生 | 下がりやすい。相見積もり前提の比較が起きやすい |
自社サイト・記事コンテンツ(SEO) | 長い(半年〜1 年以上) | 初期投資型。成果が出た後の追加費用は小さい | 高め。指名検索に近づくほど価格競争から離れる |
セミナー・勉強会・士業間の交流 | 中程度(数か月) | 時間コストが主。所長の稼働を直接消費 | 高め。人柄と専門性が先に伝わる |
フォーム営業などのアウトバウンド接触 | 中程度(数週間〜数か月) | 送信の仕組みと運用工数。件数に比例しにくい | 中程度。文面と送信先の設計次第で変動 |
この表を眺めると、紹介と SEO は報酬水準を守れる一方で流入量を自分で決められず、紹介サイトは量を確保できる代わりに報酬水準が下がりやすい、という交換関係が見えてきます。つまり多くの事務所に欠けているのは「報酬水準を大きく崩さずに、接触する量を自分で決められる経路」です。フォーム営業が検討対象に入ってくるのは、この空白を埋める候補だからです。
なお、フォーム営業を追加したからといって紹介の重要性が下がるわけではありません。むしろ紹介が主軸である前提を崩さないことが、後述する送信先の除外設計に直結します。
アウトバウンドの選択肢としてのフォーム営業の位置づけ
能動的に接触する手段としては、テレアポ、ダイレクトメール、フォーム営業が代表的です。それぞれ性質が異なります。
- テレアポ: 相手の時間を直接奪う形になるため、経営者に対しては警戒されやすく、士業としての印象管理が難しい手段です。架電の人的コストも件数に比例します。
- ダイレクトメール(郵送): 印刷・郵送費が件数に比例し、開封の可否も追えません。反面、封書の体裁を整えれば重厚感は出せます。
- フォーム営業: 企業が公開している問い合わせフォームから文章を届ける手段です。到達自体は確認しやすく、費用は件数に強くは比例しません。一方で、フォームは本来「問い合わせを受け付ける窓口」であり、営業目的の送信を歓迎しない企業が一定数存在します。
会計事務所がこの手段を検討するときには、もう一つ意識しておきたい前提があります。会計事務所自身も、日々多くの営業メールやフォーム送信を受け取る側だという点です。自分が受け取って不快に感じた文面の型を、自事務所の名前で送ることになれば、士業としての信用に跳ね返ります。送信量の最大化ではなく「送ってよい相手に、受け取っても不快にならない文面を送る」という発想が、この業種では特に重要になります。
本記事はこの前提に立ち、フォーム営業を推奨する立場ではなく、規制と信用を守りながら成立させるための設計条件を示す立場で解説を進めます。
会計事務所のフォーム営業は税理士法と会則から設計する
ここが本記事の中心です。税理士の広告規制は、フォーム営業の文面設計に対して他業種にはない制約をかけます。逆にいえば、この制約を先に確定させれば、以降の設計は迷いなく進みます。
なお本記事は税理士・会計事務所に絞って解説します。社会保険労務士・行政書士など他の士業でフォーム営業を検討している場合は、それぞれの会の広告規程を軸に整理した士業のフォーム営業を参照してください。
業務広告は原則自由、ただし会則で制限される
税理士の業務広告は、かつて事務所名や所在地といった基本情報しか掲載できない厳しい制限下にありました。この制限は平成 13 年の税理士法改正で見直され、業務広告は原則自由となっています。ただし、法律による規制がほぼなくなった代わりに、税理士会による自主規制が導入されました(freee 士業「税理士の広告規制とは?」)。
この自主規制の中身が、日本税理士会連合会の「税理士会会員の業務の広告に関する細則」および「税理士会会員の業務の広告に関する運用指針」です。そして税理士法第 39 条は「税理士は、所属税理士会及び日本税理士会連合会の会則を守らなければならない」と定めています(国税庁「税理士制度の Q&A」)。
つまり構造は次のようになっています。
- 法律上、業務広告そのものは原則自由
- ただし日税連および所属税理士会の会則・細則が禁止類型を定めている
- 税理士法 39 条により、会則を守ることは税理士の義務である
したがって「法律で禁止されていないから大丈夫」という判断は成り立ちません。フォーム営業で送る文章は、宛先が 1 社であっても不特定多数への広告と同様に、細則の禁止類型に照らして点検する必要があります。実務上は、所属税理士会が公表している会則・細則・運用指針の原文を一度通読し、自事務所の文面テンプレートを作る前段に置いておくことをおすすめします。
フォーム営業の文面で踏みやすい禁止類型
日税連の運用指針が定める禁止類型は、大きく次の 6 つに整理されています(freee 士業「税理士の広告規制とは?」、MS-Japan「税理士の広告規制とは?」)。
- 事実に合致していない広告
- 誘導または誤認のおそれのある広告
- 誇大または過度な期待を抱かせる広告
- 特定の税理士(事務所)と比較した広告
- 法令または日本税理士会連合会の会則等に違反する広告
- 税理士の品位または信用を損なうおそれのある広告
このほか、税務行政庁在職時の具体的な役職名の表示、同意のない関与先の名称・事案内容の表示なども制限されています。
6 類型のうち、フォーム営業の文面で実際に踏みやすいのは 2・3・4・6 です。それぞれ、フォーム営業の文脈でどう現れるかを整理します。
禁止類型 | フォーム営業の文面で現れる典型 | 判断のポイント |
|---|---|---|
誘導または誤認のおそれ | 「無料相談」と書きながら実質的に有償サービスの入口になっている、実績のように読める曖昧な表現を使う | 読んだ相手が事実と異なる期待を持たないか。誤読の余地がある表現を残さない |
誇大または過度な期待 | 「必ず税負担を圧縮できます」「税務調査に強い」などの断定 | 結果を保証する語尾になっていないか。個別事情に依存する結論を一般化していないか |
特定の税理士との比較 | 「現在の顧問税理士より低い報酬で」「レスポンスの遅い事務所からの乗り換えに」 | 他の税理士・事務所を引き合いに出して優劣を示唆していないか |
品位または信用を損なうおそれ | 過度に煽る件名、大量の同一文面、受信側の業務を妨げる送り方 | 受け取った企業が「税理士がこれを送るのか」と感じないか |
4 番目の比較広告の禁止は、フォーム営業にとって最も影響が大きい制約です。乗り換えを促す文面は、性質上どうしても現在の顧問税理士との対比を含みたくなります。ここを迂回する書き方を確立できるかどうかが、会計事務所のフォーム営業が成立するかどうかの分かれ目になります。
「今の税理士より安く」が使えない理由と、その代わりに何を書くか
「現在の顧問報酬より低く抑えられます」「今の税理士より対応が早いです」という訴求は、フォーム営業で最も反応が取れそうに思える一文です。しかしこれは特定の税理士との比較にあたり、細則が禁止する類型に該当しうる表現です。相手事務所を名指ししていなくても、「現在の顧問税理士」という比較対象を立てている以上、優劣の示唆として読まれる余地があります。
では何を書けばよいのか。原則は「比較の訴求」を「自事務所が提供する内容の記述」に置き換えることです。相手の現状を評価するのではなく、自事務所が何をどのように提供するかだけを書きます。
使いにくい表現(比較訴求) | 置き換えの方向(自事務所の提供内容の記述) |
|---|---|
今の税理士より低い報酬でお受けできます | 記帳代行と月次試算表の作成を含む顧問契約について、料金体系を事前に提示しています |
対応が遅い事務所からの乗り換えに最適です | 月次のご質問には原則 2 営業日以内に回答する運用としています |
節税に強い事務所です | 設備投資や賃上げに関する税制上の措置について、適用可否のご相談を承っています |
前任者が説明してくれない方へ | 月次の面談で試算表の内容と数値の背景をご説明しています |
置き換えのコツは、主語を「相手の現在の状況」から「自事務所の運用」に移すことです。「レスポンスが遅い事務所より早い」ではなく「自事務所の回答目安は何営業日か」を書きます。前者は比較ですが、後者は自事務所の提供内容の説明です。
この置き換えには副次的な効果もあります。比較訴求は読み手に「乗り換えを迫られている」という圧力を感じさせますが、提供内容の記述は判断材料の提示になるため、受け取った側が自分のペースで検討できます。士業に対して依頼側が求めるのは押しの強さではなく安心感であることを踏まえると、規制に従った書き方のほうが結果的に相性がよいといえます。
なお、報酬額そのものを記載すること自体は禁止されていません。ただし、他事務所の相場と比べる形で提示したり、条件を伏せて安い金額だけを強調したりすると、比較広告や誤認のおそれに近づきます。金額を書く場合は、含まれる業務範囲と前提条件をセットで示してください。
非税理士による税理士業務の制限と、営業代行に任せてよい範囲
もう一つ、会計事務所がフォーム営業を検討するときに押さえておきたい条文が税理士法第 52 条です。「税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行ってはならない」と定められています。ここでいう税理士業務とは、税務代理・税務書類の作成・税務相談の 3 つを指します(国税庁「税理士法違反行為」)。
この条文が関係してくるのは、フォーム営業を営業代行会社に委託する場合です。代行会社の担当者は税理士ではありません。その担当者が作成した文面や、反応があった企業への一次対応の中で、個別の税務判断に踏み込んだ回答をしてしまえば、税務相談に近い領域に入る可能性があります。たとえば「御社の規模なら〇〇の特例が使えるので税負担が下がります」といった記述は、個別事情に対する税務上の判断を示したものと読まれかねません。
したがって、代行に委託する場合は次の線引きを契約段階で合意しておくことが重要です。
- 委託してよい範囲: 送信先リストの作成、フォームの探索と送信作業、送信結果の集計、反応の一次受付(日程調整など事務連絡に限定)
- 委託してはいけない範囲: 個別企業の税務上の取り扱いに関する回答、適用可否の判断、税額に関する具体的な見通しの提示
文面についても、代行会社に丸投げせず、税理士自身が内容を確認して確定させる運用にします。文面は自事務所の名前で送られる以上、責任は税理士側に残ります。
なお、税理士業務の無資格実施には罰則が定められています。刑法改正により令和 7 年 6 月 1 日から懲役・禁錮が拘禁刑に一本化されているため、罰則の表記は現行条文で確認してください(参議院法制局「懲役・禁錮の拘禁刑への一本化」)。
一般法令の観点(個人情報保護法・受信企業の利用規約・特定電子メール法)
ここまでは税理士に固有の規制を扱いました。これに加えて、フォーム営業には業種を問わない一般法令の論点があります。送信先リストに含まれる個人情報の取得・利用に関する個人情報保護法の観点、受信企業がサイト上で定めている利用規約(問い合わせフォームの利用目的の限定など)の観点、そして特定電子メール法との関係の 3 つです。
これらは会計事務所に限らずフォーム営業全般に共通する論点であり、単純な違法・合法の二分ではなくグラデーションで捉える必要があります。稟議や顧問弁護士への相談に使えるチェックリストの形で整理したものとして、フォーム営業の法的リスクを参照してください。本記事では税理士固有の制約に集中し、一般法令の詳細はそちらに委ねます。
送信先設計|会計事務所が狙う 2 つのセグメントと送ってはいけない相手

規制の枠が定まったら、次は誰に送るかです。会計事務所の場合、顧問契約の市場は「まだ顧問税理士がいない層」と「すでに顧問税理士がいる層」に分かれ、この 2 つでは必要な文面も接触の難易度もまったく異なります。単一のリストで一律に送る設計は、この業種では成立しません。
セグメントA — 新設法人・創業期(顧問税理士が未契約の層)
創業直後の法人は、顧問税理士を決めていないか、決めかけている段階にあります。比較広告の制約を受けにくく、自事務所の提供内容だけで判断してもらえるため、会計事務所のフォーム営業にとって最も設計しやすいセグメントです。
母数も安定しています。2025 年の全国の新設法人は 15 万 7,011 社(前年比 1.9% 増)で、統計開始以降の最多を更新しました。ただし増加分の 57.5% は東京都に集中しており、47 都道府県のうち増加は 21 都府県にとどまっています(東京商工リサーチ「2025 年の新設法人」)。地方の事務所が地域内だけでリストを組むと母数が想定より小さくなる可能性があるため、対応可能な範囲を先に決めたうえで件数を見積もってください。
リスト作成の軸は次のとおりです。
軸 | 設計の考え方 |
|---|---|
設立時期 | 設立から 3〜12 か月程度を目安にする。設立直後は事務所選定前、1 年を超えると初回申告を経て決定済みの可能性が高まる |
所在地 | 訪問可能圏か、オンライン対応で完結できる範囲かを先に決める。移動時間は所長の稼働を直接消費する |
業種 | 自事務所が実務を蓄積している業種に寄せる。専門性を具体的に書けるかどうかが文面の説得力を左右する |
資本金・従業員数 | 記帳量と給与計算の負荷を推定する材料になる。対応可能な規模の上限・下限を決めておく |
決算月 | 初回決算のタイミングから逆算して接触時期を決める材料になる |
新設法人向けの文面では、「税務顧問を探しているか」を尋ねるより、創業期に必ず発生する実務(記帳の体制づくり、給与計算と社会保険、消費税の課税事業者判定、初回決算の準備)のうち、まだ着手していない可能性が高い項目に触れるほうが自然に読まれます。
セグメントB — 乗り換え検討層(既存の顧問税理士がいる層)
すでに顧問税理士がいる企業に対しても接触は可能ですが、設計の難易度は一段上がります。比較広告の禁止があるため、「現在の事務所より優れている」という切り口をそのまま使えないからです。
このセグメントでは、乗り換えのきっかけになりやすい事象を起点にリストを組みます。
起点 | リスト化の考え方 |
|---|---|
事業フェーズの変化 | 増資、資金調達の公表、支店開設、従業員数の急増など。会計・税務の要求水準が上がるタイミング |
決算月・期首 | 顧問契約は期の切り替わりで見直されやすい。決算月の 3〜4 か月前を接触時期の候補にする |
制度対応の負荷 | インボイス制度・電子帳簿保存法への対応で体制の見直しが発生している企業 |
経理担当者の交代・採用 | 経理体制が変わると、外部委託の範囲も再検討されやすい |
事業承継・世代交代 | 経営者の交代は、顧問先の見直しが起きやすい局面のひとつ |
文面では現在の顧問税理士に一切言及せず、上記の事象に対して自事務所が提供できる業務内容だけを書きます。「事業承継の局面で必要になる株価算定や資産承継のご相談を承っています」というように、状況と提供内容を結ぶ書き方であれば、比較の要素は入りません。
反応の総量はセグメントA より小さくなる想定で設計してください。乗り換えは検討期間が長く、送信から契約までのリードタイムも伸びます。
会計事務所が送ってはいけない相手
会計事務所には、他業種のフォーム営業にはない「送ると営業資産そのものを毀損する相手」が存在します。誤送信は単なるマナー違反では済みません。
- 提携している金融機関・信用金庫: 紹介元に営業をかける形になり、紹介ルートの信頼を損ないます
- 紹介元となっている既存顧問先・その関連会社: 紹介してくれた相手に営業文面が届くのは、関係を冷やす最も確実な方法です
- 他士業事務所(社労士・司法書士・行政書士・弁護士など): 相互紹介の関係を築いている、または今後築きうる相手です
- 同業の税理士事務所・税理士法人: 品位の観点でも、実利の観点でも送る意味がありません
- すでに面談・提案を行った企業: 過去の接触履歴を持たないまま送ると、記憶に残っている担当者に不信感を与えます
- 顧問先の主要取引先: 顧問先の商圏に営業をかける形になり、顧問先との関係に影響しうる領域です
このリストは事務所ごとに固有です。所長の頭の中にしかない関係性を、送信前に必ず書き出して共有可能な形にしてください。職員が送信作業を担当する場合、この暗黙知が共有されていないことが最大の事故要因になります。
送信除外リストの作り方と更新運用
除外対象を洗い出したら、次はそれを一度きりのメモではなく、更新され続ける仕組みに変える必要があります。提携先は増えますし、紹介元も入れ替わります。除外リストが古いまま運用されると、時間の経過とともに事故の確率が上がっていきます。
会計事務所の場合、最低限次の粒度で管理しておくと運用しやすくなります。
- ドメイン単位の除外: 企業のコーポレートサイトのドメインで管理する。グループ会社が別ドメインの場合は個別に追加する
- カテゴリの明示: 「紹介元」「提携金融機関」「他士業」「顧問先関連」など、除外理由をラベルで残す。理由が残っていないと、後任者が判断できず削除してしまいます
- 更新のトリガーを決める: 新規顧問契約の締結時、提携先の追加時、面談実施時に除外リストへ追記する運用を業務フローに組み込む
除外リストのカテゴリ分類や、担当者・チーム・組織の三層で更新をかける運用の考え方は、フォーム営業の送信除外リストで体系的に整理しています。本記事では会計事務所固有の除外対象の洗い出しまでを扱い、リストの構造設計と更新運用の一般解はそちらを参照してください。
送信タイミング設計|自事務所と相手企業、二重の繁忙期を重ねて考える

フォーム営業の解説記事の多くは、送信タイミングを「相手が読みやすい曜日・時間帯」という観点で扱います。会計事務所の場合、これに加えてもう一つのカレンダーを重ねる必要があります。自事務所の申告繁忙期です。
自事務所側のカレンダー(繁忙期に反応対応枠を確保できるか)
フォーム営業の目的は送信することではなく、反応した企業と面談し、顧問契約に至ることです。したがって送信時期は「反応が返ってきたときに面談枠を確保できるか」から逆算して決めます。
一般的な会計事務所の年間負荷は、おおむね次のように推移します。
時期 | 主な業務 | 反応対応の余力 |
|---|---|---|
11〜12 月 | 年末調整の準備・実施、法定調書の準備 | 低い |
1 月 | 法定調書・給与支払報告書の提出、償却資産申告 | 低い |
2〜3 月中旬 | 所得税確定申告、12 月決算法人の申告 | 極めて低い |
3 月下旬〜4 月 | 申告後の整理、3 月決算法人の決算準備 | 中程度 |
5 月 | 3 月決算法人の申告 | 低い |
6〜10 月 | 月次業務中心、9 月は 6 月決算法人の申告 | 高い |
この表を前提にすると、送信の主戦場は 6〜10 月に置くのが現実的です。逆に、11 月から翌 5 月にかけては送信量を絞るか、反応があっても面談を後ろ倒しにできる文面(後述する中間 CTA)に切り替える設計が必要になります。
ここで注意したいのは、「繁忙期には送らない」だけでは不十分だという点です。10 月に送った分の反応が 11 月に返ってくることは十分にあります。送信月ではなく、反応が返る見込みの月で余力を判断してください。
相手企業側のカレンダー(決算期・期首から逆算した接触時期の考え方)
受信側の企業には別のカレンダーがあります。顧問税理士の見直しは、期の切り替わり前後に検討されやすい性質があります。
- 決算月の 3〜4 か月前: 次期の体制を考え始める時期にあたります。決算・申告の直前に切り替えるのは実務上難しいため、この時期の接触が検討に乗りやすくなります
- 期首直後: 新しい期の体制を固める局面です。前期の決算対応で不満が残っていた場合、見直しの動機が最も強い時期でもあります
- 決算月の直前〜決算月: 経理部門の負荷が高く、新しい検討に着手する余力がありません。この時期の接触は避けます
日本企業は 3 月決算が多いため、期首直後の 4 月と、決算 3〜4 か月前にあたる 11〜12 月が接触の候補になりますが、いずれも自事務所側の繁忙期と重なります。この衝突をどう解くかが、会計事務所の送信タイミング設計の実質的な論点です。
現実的な解は二つあります。一つは、3 月決算以外の企業(9 月決算・12 月決算など)を意図的にリストに含め、自事務所の閑散期と相手の検討時期が重なる組み合わせを作ることです。もう一つは、繁忙期に送る場合は初回接触の CTA を面談ではなく資料送付や情報提供に設定し、面談の日程調整を閑散期に寄せる設計です。
反応から初回面談までのリードタイムを起点に送信量を決める
送信量は「何件送れるか」ではなく「何件の面談を実施できるか」から逆算します。
たとえば、所長が月に確保できる初回面談枠が 4 件だとします。面談まで到達する割合を仮に送信数の 1% と置くと、月の送信上限は 400 件相当になります。この見積もりを持たずに送信量を増やすと、反応があっても日程が合わず、返信が遅れ、結果として印象を悪くします。反応に対して遅い返信を返すくらいなら、最初から送らないほうが信用は守れます。
初回反応から面談実施までのリードタイムも見込んでおきます。経営者は日中の予定が埋まっていることが多く、日程調整に 1〜2 週間かかるのは珍しくありません。この期間が繁忙期に食い込む場合は、送信時期を前倒しする判断が必要です。
実務上は、面談枠から逆算した月次の送信上限を先に決め、その枠内でセグメントA とセグメントB の配分を組む順序で設計すると、運用が破綻しにくくなります。
曜日・時間帯の検証は自事務所のデータで行う
送信の曜日・時間帯については一般論が流通していますが、会計事務所の送信先(新設法人の経営者、中小企業の経理担当者)が読むタイミングは、業種横断の一般論とずれる可能性があります。
最初のうちは仮説を置いて送り、送信履歴と反応を紐づけて記録してください。数か月分たまれば、自事務所のリストにおける傾向が見えてきます。他社の数値をそのまま採用するより、少数でも自事務所のデータを持つほうが判断の精度は上がります。
記録する項目は、送信日時・セグメント・文面のバージョン・反応の有無・反応の種類(返信/資料請求/面談希望)程度で十分です。この記録がないと、文面を改善しても効果を判定できません。
文面設計|税務判断に踏み込まずに専門性を伝える 4 要素

規制で使えない訴求を先に潰したうえで、では実際に何を書くのかを整理します。税理士の営業方法として文面を組み立てる際は、4 つの要素に分解して考えると、書ける内容と書けない内容の線引きがしやすくなります。
文面の 4 要素と、会計事務所における各要素の書き方
問い合わせフォームからの営業のやり方として、文面は次の 4 要素で構成します。
要素 | 役割 | 会計事務所における書き方 |
|---|---|---|
1. 受信側の課題認識 | なぜあなたに送ったのかを示す | 相手の状況(設立時期・決算月・制度対応など)に触れ、その局面で一般に発生する実務を挙げる。相手の現状を評価する書き方はしない |
2. 専門性の根拠 | なぜ自事務所なのかを示す | 対応可能な業務範囲、取り扱いのある業種、事務所の体制(人数・対応方法)を事実として書く。他事務所との比較はしない |
3. 初回接触で提供する価値 | 相手にとっての受け取る意味を示す | 資料の送付、制度改正の情報提供、業務範囲と料金体系の提示など。この時点で個別の税務判断は提供しない |
4. 低ハードルの CTA | 次の行動を明示する | 「ご興味があれば資料をお送りします」「30 分程度のご説明の機会をいただけますか」など、断りやすい形にする |
要素 1 でつまずく事務所が多いのは、相手の課題を推測して書こうとするからです。相手の内情は分かりませんし、断定すれば誤認のおそれに近づきます。書くべきは「相手の課題」ではなく「相手の局面で一般に発生する実務」です。「設立から半年が経過する時期は、初回決算の準備と消費税の届出の確認が重なります」という書き方であれば、事実の記述にとどまります。
要素 4 では、いきなり顧問契約や訪問面談を求めないでください。顧問契約は長期の信頼を前提とする取引であり、初回接触で決まることはまずありません。CTA のハードルを下げるほど、返信が返る余地が広がります。
訴求テーマの棚卸しとセグメント別の使い分け
書ける訴求テーマを一度棚卸ししておくと、セグメントや時期に応じて文面を組み替えやすくなります。
訴求テーマ | 主な対象 | 書き方の注意 |
|---|---|---|
記帳代行・月次試算表 | セグメントA(創業期)、経理体制が手薄な企業 | 提供する業務範囲と頻度を具体的に書く。「経理が楽になる」といった効果の断定は避ける |
給与計算・年末調整 | 従業員を採用し始めた企業 | 社会保険は社労士の領域と重なるため、対応範囲の線引きを明示する |
インボイス制度への対応 | 全セグメント | 制度の一般的な説明にとどめ、個別企業の課税判断には踏み込まない |
電子帳簿保存法への対応 | 経理体制の見直しが起きている企業 | 保存要件の一般説明と、体制整備の相談を受け付ける旨を書く |
補助金・資金調達の支援 | セグメントA、成長局面の企業 | 採択や融資実行を保証する表現は使わない。支援できる範囲を書く |
事業承継・資産承継 | セグメントB(世代交代局面) | 税額の見通しを具体的に書かない。相談の受付までにとどめる |
セグメントA には創業期に必ず通る実務(記帳・給与計算・初回決算)を、セグメントB には制度対応や事業フェーズの変化に伴う実務(インボイス・電子帳簿保存法・事業承継)を軸にすると、文面が自然になります。
なお、複数のテーマを 1 通に詰め込むと焦点がぼやけます。1 通 1 テーマを基本とし、テーマごとに文面を用意してください。
個別の税務判断を断定しない書き方
会計事務所の文面が難しいのは、専門性を伝えようとするほど税務判断に近づいてしまう点にあります。「御社の状況なら〇〇が適用できます」と書けば説得力は増しますが、相手の詳細を知らずに書いた判断は事実に合致しない広告になりかねず、誤認のおそれにも触れます。
対処としては、「可能性があります」という語尾でぼかす方法が思いつきますが、これは限定的な効果しかありません。断定を避けても、読み手が期待を持つ構造は変わらないためです。より確実なのは、判断そのものを文面に含めず、判断が必要な論点があること自体を示す書き方です。
避けたい書き方 | 置き換えの方向 |
|---|---|
御社の規模なら〇〇の特例が使えるので税負担が下がります | 〇〇の特例については、事業年度や設備の取得時期によって適用可否が分かれます。該当しうる場合の確認事項を整理してお伝えできます |
インボイス対応で御社は不利になっている可能性があります | インボイス制度の下では、取引先の登録状況によって仕入税額控除の取り扱いが変わります。取引構造に応じた確認の観点をご説明できます |
顧問料を見直せば年間で数十万円削減できます | 記帳代行・年末調整・決算申告を含む場合の料金体系を、業務範囲とあわせてご提示しています |
この書き方は、専門性を「答えを出せること」ではなく「論点を正しく切り出せること」で示す方向です。会計事務所にとってはむしろ本質的な訴求であり、規制にも適合します。そして、論点を具体的に切り出せる文面は、初回相談への自然な接続を生みます。
会計事務所の文面に固有の NG 表現チェックリスト
送信前の確認項目として、次のチェックリストを文面ごとに通してください。
- 他の税理士・会計事務所と比較する表現(「今の税理士より」「他の事務所と違い」等)が含まれていないか
- 報酬額を記載する場合、含まれる業務範囲と前提条件が併記されているか
- 節税効果・還付額・採択可否を断定する表現が含まれていないか
- 相手企業の現状を評価・診断する表現(「対応が不十分です」等)が含まれていないか
- 個別の税務判断(適用可否・税額の見通し)を提示していないか
- 税務行政庁在職時の具体的な役職名を記載していないか
- 顧問先の名称・事案内容を、同意なく記載していないか
- 「必ず」「絶対」「最安」など、過度な期待を抱かせる語が含まれていないか
- 件名・冒頭文が煽る調子になっておらず、士業の文書として読めるか
- 差出人として事務所名・氏名・連絡先が明記されているか
このチェックリストは、日税連の禁止類型を文面の可否判断に翻訳したものです。文面テンプレートを更新するたびに通す運用にしておくと、職員や代行会社が文面を触った場合の逸脱も検知できます。
反応後のフォローアップ設計|初回接触から顧問契約までの導線
送信の設計が整っても、反応後の導線がなければ顧問先は増えません。会計事務所が顧問先を増やす過程では、フォーム営業の反応は入口であって結論ではない、という前提で導線を組みます。
初回接触で契約を狙わない — 中間 CTA の設計
顧問契約は、依頼側にとって年間数十万円規模の継続的な支出であり、かつ金銭情報を預ける判断です。初回接触の 1 通で決まることはありません。したがって初回の CTA は、契約ではなく次の接点を作るものに設定します。
中間 CTA の候補としては、次のような形があります。
- 業務範囲と料金体系をまとめた資料の送付: 比較検討の材料を渡す形。相手のペースで検討できるため断られにくい
- 制度改正・法改正の情報提供: インボイス制度や電子帳簿保存法の実務対応など、一般的な情報の提供。専門性を示しつつ売り込み色が薄い
- 短時間のオンライン相談: 30 分程度で、現状の体制と論点整理までを行う形。訪問より心理的ハードルが低い
いずれの場合も、その場で個別の税務判断を提供しないことは変わりません。中間 CTA の役割は、判断材料を渡して検討の土俵に乗ってもらうことです。
期首・決算期に紐づく契約サイクルと、逆算した育成期間の見立て
顧問契約は期の切り替わりで動きやすいため、反応があってから契約に至るまでの期間は数か月単位で見込む必要があります。4 月に反応があっても、実際の切り替えは次の期首や決算後になるケースがあります。
この時間差を前提にすると、フォローアップは「返事がなければ終わり」ではなく、検討時期が来るまで関係を保つ活動になります。
- 反応があった企業は、検討再開の想定時期(決算月の 3〜4 か月前など)を記録しておく
- その時期に合わせて、制度改正の情報提供など売り込みでない接点を 1 回設ける
- 検討が具体化した段階で、業務範囲と料金の個別提案に移る
この設計を持たないと、反応があった企業を「今すぐ決まらないから見込みなし」として手放すことになり、フォーム営業の投資対効果を大きく下げます。
反応がなかった相手への再送方針(頻度・間隔・品位保持の観点)
反応がなかった企業への再送は、慎重に設計する必要があります。会計事務所の場合、送信量の問題ではなく品位・信用の問題として扱ってください。
- 間隔: 短い間隔での再送は、受け取る側に催促と映ります。最低でも数か月単位の間隔を空けます
- 回数: 同一企業への送信は回数の上限を決めておきます。上限に達した企業は除外リストに移し、以後は送りません
- 内容: 再送時は前回と同じ文面を送らず、テーマや局面を変えます。同一文面の反復は、受け取る側に自動送信の印象を与えます
- 記録: 誰にいつ何を送ったかを記録しておかないと、上記の判断ができません。記録の仕組みは再送方針の前提です
再送の可否判断で迷ったときは、「この頻度で自事務所に届いたら、この税理士に依頼したいと思うか」を基準にしてください。士業の営業では、この感覚が規制の条文と同じくらい実効的な歯止めになります。
自事務所運用と代行・ツールの選択軸
最後に実行体制です。フォーム営業を自事務所で回すか、代行に委託するか、ツールを使うかは、工数とコントロールのトレードオフで判断します。
自事務所で運用する場合(工数・繁忙期・品位保持のコントロール)
自事務所で運用する最大の利点は、文面と送信先を完全にコントロールできることです。除外リストに含めるべき紹介元や提携先は所長の頭の中にあるため、判断の精度は自事務所が最も高くなります。税務判断に踏み込まない文面の線引きも、税理士本人が引くのが最も確実です。
一方で工数の問題があります。送信先リストの作成、フォームの探索、入力と送信、結果の記録という一連の作業は、件数に応じて時間を消費します。所長が申告実務の主戦力である事務所では、この工数が繁忙期に確保できません。
現実的な運用としては、次の分担が考えられます。
- 税理士が担当する: 文面の作成と最終確認、除外リストの判断、反応後の対応
- 職員が担当する: リストの作成、送信作業、結果の記録
- 繁忙期の扱い: 送信を停止するか、面談を伴わない中間 CTA に切り替える
職員に送信作業を任せる場合、除外リストと文面チェックリストを明文化して渡すことが必須になります。暗黙知のまま任せると、紹介元への誤送信が起きます。
代行に委託する場合(工数削減とブラックボックス化のトレードオフ)
フォーム営業代行に委託すれば、リスト作成から送信までの作業工数はほぼゼロになります。繁忙期でも送信を継続できる点も利点です。
ただし、代行に任せると次の情報が見えにくくなる傾向があります。
- どの企業に送ったのか(送信先の選定基準と実際のリスト)
- どのような文面で送ったのか(テンプレートの改変の有無)
- 何件送って、何件が到達し、何件が失敗したのか
会計事務所にとって、送信先が見えないことは特に深刻です。紹介元や提携金融機関に送られていた場合、それを知るのは相手から連絡が来たときになります。また、代行会社が文面を独自に調整した結果、比較広告や税務判断に踏み込んだ表現が入り込む可能性もあります。文面は自事務所の名前で送られるため、責任は税理士側に残ります。
代行を使う場合の最低限の確認事項
代行への委託を検討する場合、契約前に次の 4 点を確認・合意してください。
- 送信先選定基準の開示: どの条件でリストを作るのかを事前に示してもらい、自事務所の除外リストを反映できるか確認します。除外リストの適用が仕組みとして担保されるかがポイントです
- 文面の事前確認と変更管理: 送信する文面を税理士が確認し、確定した文面から代行側が変更する場合は事前承認を必要とする運用にします
- 送信結果の可視化: 送信先の一覧、送信日時、成否、反応の内訳を報告してもらいます。集計値だけでなく企業単位で確認できるかを見ます
- 税務判断に踏み込まない文面ルールの合意: 税理士法 52 条の観点から、代行側が個別の税務判断を含む記述や回答を行わないことを契約書または覚書に明記します
この 4 点が確認できない代行会社は、会計事務所にとってはリスクが利点を上回る可能性があります。
ツールを比較する際の観点
自事務所運用の工数を下げる手段としてツールを使う場合、比較の観点は次のように整理できます。
観点 | 確認すること |
|---|---|
送信の実行方式 | 完全自動送信か、入力までを自動化して送信は人が行うセミオートか、手作業の補助か。会計事務所では最終送信を人が確認する形のほうが誤送信の抑止に働きます |
CAPTCHA の扱い | CAPTCHA を突破する仕様か、突破しない仕様か。CAPTCHA は受信側が機械的な送信を望まない意思表示であり、迂回する行為は送信元である事務所の名前で行われることになります |
送信先の除外運用 | 除外リストを登録して自動で突合できるか。判断できない場合に送信を止める側に倒す設計(fail-closed)を基本としているか |
プロセスの透明性 | 送信履歴・失敗診断・反応の記録を画面上で確認できるか。代行のブラックボックス化を避ける目的でツールを選ぶ場合、ここが中心の判断軸になります |
リスト作成 | 業種・所在地などの条件で内蔵データから絞り込めるか、外部リストの取り込みが前提か |
フォローアップ設計 | 反応に応じた分岐や、返信の検知ができるか。顧問契約のように育成期間が長い商材では、記録が残る仕組みが効いてきます |
料金体系 | 従量制か、月額固定か、買い切りか。送信量が繁忙期に大きく変動する会計事務所では、変動に耐える体系かを確認します |
秋霜堂株式会社が提供する Form Pilot は、このうち「送信先を選ぶ」側に設計の重心を置いたフォーム営業自動化サービスです。CAPTCHA の突破は行わず、CAPTCHA 等で完全な自動送信ができないフォームでは入力までを自動化して送信ボタンは人が押す方式を採っています。また、他社(取引先・別チャネル)が接触済みの企業ドメインを外部 API から取得して送信リストと突合し、判断できない場合は送らない側に倒す設計を基本としています。
会計事務所の場合、除外の中心は自事務所固有の紹介元・提携先です。どのツールを使う場合でも、この固有の除外リストを運用に組み込めるかを最初に確認してください。
会計事務所がフォーム営業を始める前のチェックリスト
ここまでの内容を、着手前に確認すべき項目として整理します。
着手前チェックリスト
# | 項目 | 確認内容 |
|---|---|---|
1 | 会則・広告細則の原文確認 | 所属税理士会の会則、日税連の「業務の広告に関する細則」「運用指針」を原文で確認したか。不明点は税理士会に照会したか |
2 | 送信先セグメントの決定 | 新設法人(セグメントA)と乗り換え検討層(セグメントB)のどちらを主軸にするか決めたか。両方送る場合、文面を分けたか |
3 | 除外リストの作成 | 提携金融機関・紹介元・他士業・同業事務所・接触済み企業・顧問先の主要取引先を書き出し、ドメイン単位で管理できる形にしたか |
4 | 文面の NG チェック | 比較表現・断定表現・個別の税務判断・過度な期待を抱かせる語が含まれていないか、チェックリストで通したか |
5 | 年間の送信カレンダー | 自事務所の繁忙期と相手企業の決算期を重ね、送信月と送信量の上限を決めたか。反応が返る月で余力を判断したか |
6 | 反応時の対応体制 | 月間の初回面談枠を決め、そこから送信量を逆算したか。返信の担当者と回答期限を決めたか |
7 | 実行体制の決定 | 自事務所で回すか代行に委託するか決めたか。委託する場合、選定基準の開示・文面の事前確認・結果の可視化・税務判断に踏み込まない文面ルールの 4 点を合意したか |
7 項目すべてに答えられない状態で送信を始めると、規制上の逸脱か、紹介ネットワークの毀損か、反応の取りこぼしのいずれかが起きやすくなります。逆にいえば、この 7 項目に答えを出せた時点で、フォーム営業を実行するかどうかを自分で判断できる状態に到達しています。
紹介中心の獲得構造と両立させる位置づけ
最後に、フォーム営業を事務所の営業活動の中でどこに置くかを整理しておきます。
会計事務所の新規顧問先獲得が紹介中心であることは、前述の調査データが示すとおりです。この構造は、フォーム営業を導入しても変わりません。フォーム営業は紹介を置き換えるものではなく、紹介の流入が細ったときに「接触する量を自分で決められる」経路を持っておくための備えです。
そう位置づけると、送信量の最大化を目指す設計は自事務所の利益に反することが分かります。件数を追えば除外の精度は落ち、紹介元への誤送信が起きます。紹介という主軸を守りながら補助的な経路を持つには、「送ってよい相手にだけ、士業の文書として読める文面を送る」設計以外に選択肢がありません。
この設計は手間がかかります。除外リストの整備も、文面のチェックも、繁忙期を織り込んだカレンダーづくりも、すぐに終わる作業ではありません。ただ、この手間は品位保持義務と紹介ネットワークを同時に守るための投資であり、会計事務所がフォーム営業を継続的な獲得経路として使えるかどうかを分ける部分でもあります。
関連情報
送信先の除外運用や送信履歴の可視化を仕組みとして持ちたい場合は、Form Pilot のサービスページで設計思想と機能をご確認いただけます。CAPTCHA を突破しない方針や、接触済み企業の自動除外の考え方についても記載しています。
本記事に関連する内容は、以下の記事でも扱っています。
- 士業のフォーム営業 — 社労士・行政書士の広告規程を軸にした設計
- フォーム営業の送信除外リスト — 除外リストのカテゴリ分類と更新運用
- フォーム営業の法的リスク — 個人情報保護法・利用規約・特定電子メール法の 3 観点
よくある質問
- 会計事務所がフォーム営業を行うこと自体が税理士法違反になりますか?
業務広告自体は平成13年の税理士法改正以降、原則自由です。ただし税理士法39条により日税連・所属税理士会の広告細則を守る義務があり、比較広告や誇大広告など禁止類型に触れる文面を送れば違反になり得ます。
- 「今の顧問料より安くできます」という一文だけ避ければ問題ありませんか?
その一文に限らず、現在の顧問税理士を比較対象に立てる表現全般が禁止類型に該当します。報酬額の記載自体は禁止されていないため、比較ではなく自事務所の料金体系と業務範囲をセットで示す書き方に置き換えてください。
- フォーム営業を代行会社に委託すれば、税理士法上の責任からは解放されますか?
解放されません。文面は自事務所の名前で送信されるため責任は税理士側に残ります。委託時は送信先選定基準の開示・文面の事前確認・税務判断に踏み込まない文面ルールの合意を契約段階で行ってください。これらを契約書に明記しておかないと、送信後に問題が起きた際の責任の所在が曖昧になります。
- 新設法人と乗り換え検討層、どちらから着手すべきですか?
比較広告の制約を受けにくく文面設計がしやすい新設法人(セグメントA)から着手するのが現実的です。乗り換え検討層は反応が取れても検討期間とリードタイムが長くなる点を踏まえて配分してください。反応数だけでなく成約までの期間も踏まえて、事務所のリソース配分を段階的に見直すとよいでしょう。
- 申告繁忙期に反応が来てしまった場合はどう対応すればよいですか?
繁忙期は送信量を絞るか、初回CTAを面談ではなく資料送付や情報提供に切り替え、面談の日程調整を閑散期に寄せてください。送信月ではなく反応が返る見込み月で対応余力を判断することが重要です。無理に対応を急ぐと本来の申告業務に支障が出るため、優先順位を明確にしておきましょう。



