「デザインをおしゃれにしてほしい」とお願いしたのに、完成したシステムは見た目はきれいでも操作しにくく、社内のスタッフから不満が続出してしまった。そんな経験をお持ちの方や、同様の話を耳にしたことがある方は多いのではないでしょうか。
実は、この問題の根本には「UIデザイン」と「UXデザイン」の違いを理解しないまま発注してしまった、というミスが潜んでいます。2つのデザインは似て非なるもので、それぞれに担う役割がまったく異なります。
開発会社との打ち合わせで「UI/UXについてはどうお考えですか?」と聞かれて言葉に詰まる発注者の方は少なくありません。しかし、この2つの違いを理解していないと、発注書に書くべき要件が曖昧になり、完成物との認識ずれが生じやすくなります。
本記事では、UIデザインとUXデザインの違いをゼロから解説するとともに、発注時に何をどう伝えればよいか、完成物を受け取ったときに何をチェックすればよいかを、実務で使える形でご説明します。
システム開発の費用を正しく理解するガイドブック――相場・見積チェックリスト・予算策定テンプレート付き

この資料でわかること
発注検討者がシステム開発の費用体系を正しく理解し、「この見積は適正か」「どのくらい予算を確保すれば良いか」を自分で判断できるようになること。
こんな方におすすめです
- システム開発の発注を初めて担当する方
- 複数社の見積もりを比較・評価したい方
- IT投資の社内稟議を通す根拠を固めたい方
入力いただいたメールアドレスにPDFをお送りします。
UIデザインとは何か — 見た目・操作性を設計する仕事

UI(User Interface)とは、ユーザーとシステムやサービスが直接「接する」部分のことです。画面に表示されるボタンの色や形、文字のサイズと書体、ナビゲーションのレイアウト、アイコンの形など、ユーザーが目で見て手で操作するすべての要素がUIにあたります。
UIデザインの仕事は、視覚的に整理されていて、操作が直感的に分かる画面を作ることです。ブランドカラーを適切に使い、ボタンとリンクが区別しやすく、どこをクリック・タップすればよいかが迷わずわかる画面が「良いUIデザイン」といえます。
UIの具体的な構成要素
UIデザインで決まる主な要素は以下のとおりです。
- カラー: 背景色、文字色、アクセントカラー(ボタンや強調表示に使う色)
- タイポグラフィ: フォントの種類・サイズ・行間・太さ
- レイアウト: 情報の並び方、余白の取り方、グリッド構成
- コンポーネント: ボタン、フォーム、カード、モーダル、ナビゲーションバーなどのUI部品
- アイコン・イラスト: 操作を補助する視覚要素
発注者がUIとして指定できること
発注側がUIデザインについて具体的に伝えられる情報としては、次のものがあります。
- 自社のブランドカラー(使いたい色・避けたい色)
- 参考にしたいサイトのURL(「このサービスのような雰囲気にしてほしい」)
- フォントの方向性(「細めで洗練された印象」「太めで力強い印象」など)
- 避けたいデザインの例(「ポップすぎるのは避けたい」など)
逆に、「おしゃれにして」「かっこよくして」といった抽象的な指示は、デザイナーによって解釈が大きく変わります。具体的なビジュアル参照を用意することが、認識ずれを防ぐ最大の手段です。
UXデザインとは何か — 体験全体を設計する仕事
UX(User Experience)は、ユーザーがサービスや製品を使う際に得る「体験全体」を指します。単に画面のデザインにとどまらず、サービスに辿り着くまでの流れ、目的を達成するまでの操作の流れ、使い終わった後の感情までを含めた概念です。
UXデザインの目標は「ユーザーが迷わず、ストレスなく、目的を達成できる体験を設計すること」です。どれだけ視覚的に美しいUIであっても、ユーザーが求める操作を直感的に見つけられなければ、UXは低いといえます。
UXの範囲(画面外の体験も含む)
UXはシステムやアプリの「画面内」だけでなく、次のような広い範囲を含みます。
- サービス到達前: 検索や広告、紹介を経てサービスを知り、アクセスするまでの体験
- 初回利用: 最初にどこから始めればよいか迷わないか、新規登録がスムーズか
- 主要タスクの達成: 目的の操作(購入・申し込み・情報入力など)が完了できるか
- エラー・困ったときの対応: エラーメッセージが分かりやすいか、ヘルプに辿り着けるか
- 使用後の印象: また使いたいと思えるか、満足感が残るか
UIとUXの包含関係
UIはUXを構成する要素の1つです。良いUX(体験)を実現するためには、良いUI(インターフェース)が必要ですが、良いUIだけがあってもUXは成立しません。情報構造が整理されていなかったり、必要な機能が見つけにくかったりすれば、UIがきれいでも体験は悪いものになります。
関係を一言で表すなら「UIはUXの一部」であり、UXはUIよりも広い概念です。
UIとUXの違いを整理する

UIとUXは「対になる言葉」として語られることが多いため、混同されがちです。以下の比較表で整理します。
観点 | UIデザイン | UXデザイン |
|---|---|---|
対象 | 画面の見た目・操作要素 | 体験全体(サービス利用を通じた感情・行動) |
主な成果物 | デザインカンプ、スタイルガイド、コンポーネント集 | ユーザーリサーチ、ペルソナ、カスタマージャーニーマップ、ワイヤーフレーム |
評価指標 | 視覚的一貫性、ブランド整合性、操作の直感性 | タスク完了率、エラー率、満足度スコア(NPS等) |
担当者 | UIデザイナー | UXデザイナー(場合によってUIデザイナーが兼任) |
発注者が指定しやすい内容 | 色・フォント・参考サイト・コンポーネントの方向性 | ユーザー目標・主要タスク・優先度 |
よくある発注失敗パターンとその原因
失敗パターン1: 「おしゃれなデザインにしてほしい」だけを伝えた
UIの方向性しか伝えていないため、UXの観点(ユーザーが何を達成したいか、どの操作を最優先にすべきか)がデザイナーに共有されません。結果として、見た目は美しくても目的の操作が見つけにくい画面が完成します。
失敗パターン2: 競合サービスのURLを渡して「これと同じ感じで」と伝えた
UIの参考にはなりますが、自社サービスのユーザー目標や利用シーンが異なれば、同じUIが適切とは限りません。UX設計なしにUIを「借用」すると、見た目は似ていても体験の質は大きく変わります。
失敗パターン3: デザイナーに任せきりにして途中確認をしなかった
UIとUXはどちらも設計初期の段階でフィードバックが重要です。仕上がってから初めて確認すると、根本的な構造の修正が難しくなり、手戻りコストが増大します。
発注時にUIとUXの要件を分けて伝える方法

発注の打ち合わせや要件定義書では、UIに関する要件とUXに関する要件を意識的に分けて伝えることで、開発会社・デザイナーとの認識合わせがスムーズになります。
UI要件として書くべき項目
UIデザインに関して発注者側から伝えられる代表的な要件は次のとおりです。
- ブランドガイドライン: 既存のロゴ・カラーパレット・フォント定義があれば共有する
- 参考URL: 「このサービスのデザイントーンに近づけてほしい」と具体的に伝える(3〜5件が目安)
- デザインの方向性: 「シンプル・ミニマル」「信頼感・誠実さを重視」「活発・親しみやすい」などのトーン
- 避けたいデザイン: 競合他社との差別化のために「このような見た目は避けたい」という例を用意する
- 対応端末・画面サイズ: スマートフォン重視か、PCメインか(レスポンシブデザインの優先度)
UX要件として書くべき項目(ユーザー目的・タスクフロー)
UXデザインに関する要件は、「誰が、何をしたいか」を中心に整理します。
- 主なユーザー像(ペルソナ): 「30代の中小企業の経理担当者が主なユーザー」「スマートフォンしか使えないシニア層向け」など
- 主要タスク(実現したいこと): ユーザーがこのサービスで達成したい主な操作を優先度付きで列挙する(例: 「商品を検索して購入する」「月次のレポートをダウンロードする」)
- 使用状況・利用シーン: 「移動中にスマートフォンで使う」「週1回まとめて処理する」など、いつどこで使うかを伝える
- エラー・例外への対応方針: 「入力ミスが多い可能性があるため分かりやすいエラーメッセージが重要」など
「参考サイトを渡す」だけで終わらないためのヒント
参考URLを渡すことはUIの方向性を伝えるうえで有効ですが、それだけでは不十分です。参考サイトを渡す際には次の情報も添えましょう。
- 参考にしたい具体的な点(「このサイトのナビゲーションの整理の仕方が好き」「カラーリングを参考にしてほしい」)
- 参考にしたくない点(「レイアウトはシンプルにしたい」)
- 自社サービスと異なる点(「ターゲット層が異なるため、雰囲気は似ているが文字の大きさは読みやすさを優先したい」)
デザイナーへの要件定義書の書き方
要件定義書やRFP(提案依頼書)にデザイン要件を記載する際、次の5項目を含めると認識合わせがしやすくなります。
1. 目的(なぜこのシステム・サービスを作るのか)
例: 「社内の勤怠管理を効率化し、月次の集計作業を自動化することで、担当者の工数を月10時間削減する」
2. ターゲットユーザー(誰が使うのか)
例: 「主なユーザーは30〜50代の製造業スタッフ。PCの操作に不慣れな層も含まれる。モバイルでの利用は現場での確認程度で、主にPCを使用する」
3. 成功指標(どうなればよいか)
例: 「既存システムと比較してタスク完了時間を半分以下にする」「入力ミスを現在の水準から30%削減する」
4. UI要件(見た目・操作要素の方向性)
例: 「既存のブランドカラー(青・白)を継続使用。参考サイトA・Bのシンプルなレイアウトを参考にしてほしい。フォントは読みやすさを最優先で選定してほしい」
5. UX要件(ユーザーが達成したいこと・優先順位)
例: 「最優先タスク: 出勤・退勤の打刻(1タップ以内で完了できること)。次点: 自分の勤務履歴の確認(今月分を5秒以内に表示できること)。エラー時は日本語で分かりやすいメッセージを表示すること」
この5項目を埋めるだけでも、開発会社・デザイナーとの認識合わせが格段にスムーズになります。
完成物を受け取ったときのレビュー観点
デザインの成果物を受け取った際、発注者として確認すべき観点をUIとUXで分けて説明します。
UIのレビュー観点
- 自社のブランドカラー・フォントが正しく使われているか
- 依頼した参考サイトのトーンと整合しているか
- ボタン、リンク、見出しなどの見た目に一貫性があるか(同じ役割のUIパーツが同じデザインになっているか)
- スマートフォンとPCの両方で問題なく表示されるか
UXのレビュー観点
- 主要タスク(要件定義書で定義したもの)を迷わずに完了できるか
- 操作の流れが要件定義のタスクフローと一致しているか
- エラーが発生したとき、何が問題でどうすればよいかが分かるか
- 慣れていないユーザーが初めて使うときに迷う箇所がないか(実際に触って確認する)
デザインの評価は主観的になりがちですが、上記の観点を軸にすることで「個人の好み」ではなく「要件への適合度」を基準にした建設的なフィードバックができるようになります。
UIデザイン・UXデザインの費用相場

デザイン費用は案件の規模や依頼内容によって幅がありますが、2025年時点での国内の一般的な相場の目安を紹介します。
(参考: picks design「UIUXデザイン発注の相場完全ガイド」)
案件規模別の目安
案件タイプ | 費用目安 | 主な内容 |
|---|---|---|
小規模なサイト改修・UI改善 | 30万円〜80万円 | 既存サービスの部分的なUI修正、色・フォント調整など |
中規模のサービス・サイト制作 | 80万円〜150万円 | 新規サービスのUIデザイン一式、ワイヤーフレーム含む |
大規模なシステム・アプリ開発 | 150万円〜300万円以上 | UXリサーチ・ペルソナ・CJM作成、UI設計・全画面デザイン |
UIのみ・UXのみ・統合発注の違い
近年は「UI+UX統合発注」が主流になっています。統合発注のメリットは、UIとUXの一貫性が保たれ、デザイナー間の連携コストが下がることです。
UIのみの発注は「既存の情報構造・UXは変えず、見た目だけ刷新したい」場合に適しています。一方、新規サービス開発や使い勝手の根本的な改善を目指す場合は、UXリサーチからスタートするフルセット発注が推奨されます。
費用を抑えるポイント
- 参考サイトや方向性を具体的に伝える: 認識合わせの工数が減り、手戻りが少なくなる
- スコープを明確にする: 「どの画面をどこまでデザインするか」を事前に合意する
- フィードバックを段階的に行う: 完成後の大幅修正はコスト増の最大原因。ワイヤーフレーム段階でのフィードバックが最も費用対効果が高い
UIデザインの発注先を選ぶ際の判断基準や、実際の発注フローについて詳しく知りたい方はUIUXデザイン発注ガイド2026もあわせてご参照ください。
UIデザインとUXデザインの違いを理解することは、発注者が開発会社と対等なコミュニケーションを取るための基礎知識です。「見た目(UI)」と「使いやすさ(UX)」の2軸で要件を整理し、発注書や打ち合わせで具体的に伝えることで、完成物との認識ずれを大幅に減らすことができます。
デザインの発注を控えている方は、本記事で紹介した5項目の要件定義テンプレートをぜひ打ち合わせ前に準備してみてください。
システム開発の費用を正しく理解するガイドブック――相場・見積チェックリスト・予算策定テンプレート付き

この資料でわかること
発注検討者がシステム開発の費用体系を正しく理解し、「この見積は適正か」「どのくらい予算を確保すれば良いか」を自分で判断できるようになること。
こんな方におすすめです
- システム開発の発注を初めて担当する方
- 複数社の見積もりを比較・評価したい方
- IT投資の社内稟議を通す根拠を固めたい方
入力いただいたメールアドレスにPDFをお送りします。



