プロジェクトを立ち上げたものの、気づけば「報告書は届いているのに、何も決まらない」という状況に陥っていないでしょうか。毎週定例会議を開き、進捗を共有しているにもかかわらず、肝心な判断が先送りになり続け、プロジェクトが迷走してしまうケースは決して珍しくありません。
こうした状況の背景には、しばしば「経営層を巻き込んだ意思決定の場」が機能していないという問題があります。そこで必要とされるのが、ステアリング会議(ステアリングコミッティ)です。
ステアリング会議は、プロジェクトの方向性を決定し、現場では解決できない課題を上位レイヤーで判断するための会議体です。正しく機能させることができれば、プロジェクトのガバナンスが大幅に改善し、意思決定のスピードと精度が上がります。
この記事では、ステアリング会議の定義・役割・メンバー構成から、設置の手順、アジェンダの作り方、そして形骸化を防ぐための実践的な対策まで、順を追って解説します。
システム開発 完全チェックリスト――発注前・発注中・完了後の3フェーズで使えるチェック集

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ステアリング会議(ステアリングコミッティ)とは
語源と正式名称
ステアリング会議は、英語の "steering committee"(ステアリングコミッティ)を日本語化した表現です。"steering"は船や車の「操舵(舵取り)」を意味し、"steering committee"はそのまま「舵取りの委員会」と訳されます。プロジェクトの進行方向を定め、組織全体を正しい方向に導く機能を持つことが名称の由来です。
略称として「ステコミ」とも呼ばれます。IT業界やプロジェクトマネジメントの現場では「ステコミ」という略称が定着しており、本記事でも以降は「ステアリング会議」「ステアリングコミッティ」「ステコミ」を同義語として使用します。
ステアリング会議の位置づけ
ステアリング会議は、プロジェクト体制図の最上位に位置する意思決定機関です。プロジェクトマネージャー(PM)が現場の実行責任を担い、PMOがプロジェクト計画の管理・横断支援を担うのに対し、ステアリング会議は組織として「プロジェクトをどの方向に進めるか」を決定します。
設置が特に重要になる状況としては、以下が挙げられます。
- 複数の部門や組織が関わる大規模なプロジェクト
- 外部ベンダー(システム開発会社・コンサルティング会社など)に外注している場合
- 経営層の意思決定が必要な局面が発生しやすいプロジェクト
- 投資規模が大きく、リスク管理が重要な場合
プロジェクト定例会議・PMO との違い
ステアリング会議と混同されやすい会議体との違いを整理します。
会議体 | 参加者 | 主な目的 | 一般的な開催頻度 |
|---|---|---|---|
ステアリング会議 | 経営層・部門責任者(スポンサー) | 方針決定・重要事項の承認 | 月1回前後 |
プロジェクト定例 | PM・担当者 | 進捗確認・課題共有 | 週次・隔週 |
PMO | PM・PMOスタッフ | 計画管理・横断支援 | 随時 |
最も重要な違いは「目的」です。定例会議が「進捗を確認して共有する場」であるのに対し、ステアリング会議は「決める場」です。定例会議で解決できない課題、現場レベルでは判断できない事項を、権限を持つ経営層が意思決定するための場がステアリング会議です。
ステアリング会議の目的と役割
意思決定の場としての機能
ステアリング会議の最も重要な役割は、意思決定です。プロジェクト推進において、PMや現場担当者には判断できない次のような事項が発生します。
- 優先順位の変更: 予算・リソースが限られる中で、どの機能を優先するかの判断
- スコープの変更: 当初計画を変更する場合の承認(追加開発・機能拡張やフルスクラッチでの再開発など)
- 追加投資の判断: 計画外のコスト発生に対する対応方針の決定
- プロジェクトの継続・中断: 重大なリスクや状況変化に対応するための最終判断
これらの判断を「次回の定例で」「担当に確認して」と先送りにし続けると、プロジェクトは徐々に迷走します。ステアリング会議がその場で決定を下すことで、プロジェクトは推進力を維持できます。
リスク管理と課題解決
現場レベルでは解決できない課題や、組織横断で判断が必要なリスクをステアリング会議でエスカレーションし、対応方針を決定します。
ステアリング会議に持ち込むべき課題・リスクの例としては、次のものが挙げられます。
- 部門間の利害対立で進まなくなっている調整事項
- 外注先(ベンダー)との契約条件に関わる問題(システム保守費用の妥当性も含む)
- 予算超過や大幅なスケジュール遅延
- セキュリティ・法令遵守に関わるリスク
- 主要メンバーの体制変更
ステークホルダー間の調整
複数の部門や外部ベンダーが関わるプロジェクトでは、各ステークホルダーの利害が対立することがあります。ステアリング会議は、こうした利害調整を経営層レベルで行うための場でもあります。
外注プロジェクトでは、ベンダー(開発会社)のプロジェクトマネージャーが報告者としてステアリング会議に参加し、発注者側の経営層が判断を下すという構図が一般的です。
ステアリング会議のメンバー構成
参加者の選定基準
ステアリング会議のメンバー選定で最も重要な原則は、「判断できる権限を持つ人で構成する」ことです。
判断権限がない担当者レベルの参加が増えると、会議の場で「確認してから回答します」という応答が増え、意思決定が遅延します。本来「決める場」であるはずのステアリング会議が、担当者が集まる報告会になってしまうのです。
参加人数は最大10名程度が目安です。それ以上になると実質的な議論が難しくなり、会議が形骸化しやすくなります。
標準的なメンバー構成
発注者(クライアント)側の参加者:
- プロジェクトスポンサー(役員・事業部長など最終責任者)
- IT部門長・情シス担当(システム導入を統括する立場)
- 業務部門長(主要ユーザー部門の責任者)
受注者(外注先)側の参加者:
- 外注先のプロジェクトマネージャー(報告者として参加)
- 外注先の経営幹部(重要な局面では参加を要請することも有効)
受注者側のPMは「委員会のメンバー」ではなく「報告者」として参加することが基本です。判断・決定は発注者側が担います。
外注プロジェクトでのポイント
システム開発を外注している場合、ステアリング会議の設計において特に注意すべきことがあります。
発注者が主体的に運営すること: 外注先(開発会社)が会議の設計を主導してしまうと、「開発会社側に都合の良い報告会」になりやすい状況が生まれます。発注者側がアジェンダを設計し、「何を決めてほしいか」を明示する必要があります。
ベンダー幹部の参加を要請する: 重要な課題が発生した場合は、外注先の経営幹部(プロジェクト担当役員など)にもステアリング会議への参加を要請しましょう。PMレベルでは決断できない事項も、幹部レベルが参加することで即座に解決できることがあります。
報告形式を発注者側から指定する: 外注先が経験不足の場合、ステアリング会議向けの報告がどのようなものであるべきかを理解していないことがあります。報告項目(全体進捗・課題・リスク・判断事項)と形式をあらかじめ指定することで、報告の質を担保できます。
ステアリング会議の設置・立ち上げ方

どのようなプロジェクトに設置すべきか
すべてのプロジェクトにステアリング会議が必要なわけではありません。以下のチェックリストを参考に、設置の必要性を判断してください。
設置を強く推奨する状況:
- 複数の部門にまたがるプロジェクトである
- 外部ベンダーに発注している(特に複数社)
- 投資額が1,000万円以上、または期間が半年以上
- 経営層の承認が必要な意思決定が発生しうる
- 業務プロセスの変更や組織横断的な影響がある
- 過去に「進捗は把握していたが判断が遅れて失敗した」経験がある
逆に、担当者1〜2名で完結し、意思決定の範囲が限定されている小規模プロジェクトであれば、ステアリング会議なしで進めることも合理的です。
設置の手順
-
スポンサーを決定する 最終意思決定者となるスポンサー(役員・事業部長など)を確定します。スポンサーが曖昧なプロジェクトは、ステアリング会議を設置しても機能しません。
-
メンバーと役割を明確にする 各参加者が「何を判断する役割を担うのか」を明文化します。「経営層なら誰でもOK」ではなく、具体的な権限と責任を定義します。
-
開催頻度とトリガー条件を決める 基本は月1回程度。加えて「フェーズ完了ごと」「重大課題が発生したとき」などの緊急開催条件も定めます。「必要に応じて開催」という曖昧な定義は、後で形骸化を招きます。
-
プロジェクト計画書に記載する 開催スケジュールをプロジェクト計画書に明記し、参加者全員に事前に共有します。開催スケジュールが計画に組み込まれることで、参加者の優先順位が高まります。
-
第1回の議題を設計する 第1回のステアリング会議では、プロジェクトの全体目標・成功基準・ステアリング会議自体の役割と運営ルール・KPIの定義などを確認します。「何をこの会議で決めるか」のルールをメンバー全員で共有することが重要です。
開催頻度とタイミングの考え方
状況 | 推奨開催頻度 |
|---|---|
定常的な進行期 | 月1回 |
フェーズ移行時 | フェーズ完了ごとに1回 |
重大リスク・課題発生時 | 緊急開催(2週間以内) |
キックオフ〜計画確定期 | 週1〜2週に1回 |
効果的なアジェンダの設計方法
アジェンダの基本構成
ステアリング会議のアジェンダは、「判断事項の審議」を中心に構成することが基本です。以下は標準的な構成例です。
ステアリング会議アジェンダ(60〜90分)の例
項目 | 時間目安 | 内容 |
|---|---|---|
1. 前回決定事項の確認 | 5分 | 前回の決定事項・アクションの進捗確認 |
2. 全体進捗報告 | 10〜15分 | スケジュール・マイルストーン・コストの現状報告 |
3. 判断事項の審議 | 20〜30分 | 今回決めてほしい事項の議論・承認 |
4. リスク・課題の確認 | 10分 | 主要リスクの評価と対応方針の確認 |
5. アクション・次回議題の確認 | 5分 | 決定事項に基づくアクション整理と次回議題の共有 |
議題が多すぎると、個々の議題への議論が浅くなります。原則として1回のステアリング会議の議題は3〜4項目程度に絞ることを推奨します。
事前共有の重要性
ステアリング会議を「決める場」として機能させるためには、事前準備が欠かせません。
- アジェンダと資料は3〜5営業日前に配布する: 当日に初めて資料を見た状態では、十分な判断ができません
- 判断事項を明示する: 「この議題については、この会議で○○を決めてほしい」という形で、判断が必要な事項を資料に明記します
- 事前に関係者の意見を確認する: ステアリング会議での議論が円滑になるよう、事前に各参加者の立場・懸念を確認しておきます
「報告会」にならないための工夫
ステアリング会議が形骸化する最も多いパターンは「報告会化」です。毎回進捗を報告するだけで何も決まらない状態になると、参加者の時間が浪費されるだけでなく、参加意欲も低下します。
報告会化を防ぐための実践的な工夫を紹介します。
詳細報告は書面・資料で済ませる: 数値・グラフ・スケジュールの現状は資料に記載し、会議の場では「判断が必要な事項に絞った議論」に集中します。
未決事項を可視化する: 「滞留課題リスト」を管理し、判断が先送りになっている事項を見える化します。ステアリング会議ごとに未決事項の件数が減っているかを確認することで、会議の機能を評価できます。
議事録を即座に共有する: 会議終了後できるだけ早く(当日〜翌日)議事録を共有します。「誰が・何を・いつまでに」を明確にしたアクションリストを必ず作成します。
ステアリング会議が形骸化する原因と対策

よくある形骸化パターン
せっかく設置したステアリング会議が機能しなくなる(形骸化する)には、共通したパターンがあります。
パターン1: 報告会化 毎回の議題が「進捗報告」だけになり、判断事項がない。参加者は聞くだけで終わり、何も決まらない。
パターン2: 参加者の問題 「経営層に参加してほしいが時間が取れない」という理由で、担当者レベルが代わりに参加するようになり、意思決定が行われなくなる。
パターン3: タイミングの問題 「必要に応じて開催」としたところ、「今月は課題がないから開催しなくていいか」が続き、事実上消滅してしまう。
パターン4: 議題の多すぎ 議題が10件以上あり、1件あたりの議論が5分程度になってしまう。形式的な承認だけが行われ、実質的な判断がない。
パターン5: 目的の曖昧さ 「何のための会議か」がメンバー間で共有されておらず、参加者が受け身になっている。
形骸化チェックリスト
定期的に以下のチェックを行い、ステアリング会議が機能しているかを確認しましょう。
チェック項目 | 機能している状態 | 要見直しのサイン |
|---|---|---|
決定事項の有無 | 毎回「決定事項」が1件以上ある | 毎回承認のみ、または何も決まらない |
参加者の権限 | 全員が判断権限を持つ | 担当者レベルの参加が増えている |
開催の継続性 | 計画通りに開催されている | 延期・キャンセルが2回以上続いている |
議題の数 | 1回あたり3〜4項目以内 | 毎回8項目以上ある |
事前共有 | 資料が3日前に届いている | 当日に資料が配布される |
判断事項の明示 | 「決めてほしいこと」が資料に記載されている | 議論の末「持ち帰り」が続く |
機能するステコミに変える改善アクション
形骸化の兆候がある場合、以下のアクションで改善を図りましょう。
1. 「今日決めること」リストを毎回作る ステアリング会議ごとに「今回の会議で決定すべき事項」を1〜3件リストアップし、アジェンダの冒頭に明記します。
2. 議題を削減する 議題が多すぎる場合は、「報告項目」を資料での事前共有に移し、会議の場には「判断・議論が必要な事項だけ」を持ち込むよう徹底します。
3. スポンサーが「決める姿勢」を示す スポンサー(最高責任者)が積極的に判断し、「この会議は決める場である」という文化を体現します。スポンサーが受け身でいると、他の参加者も受け身になります。
4. 定期的に「会議の成果」を振り返る 月1回の開催であれば、四半期ごとに「決定件数・未決件数・平均判断リードタイム」を集計し、会議の質を定期的に評価します。
5. PMをサポートする体制を整える プロジェクトマネージャーがステアリング会議の準備(資料作成・参加者への事前調整)に過度な工数をかけないよう、PMOや発注者側のサポートを設計します。
まとめ
ステアリング会議(ステアリングコミッティ)は、プロジェクトの方向性を経営層レベルで決定するための意思決定機関です。正しく設計・運営することで、判断の遅延を防ぎ、プロジェクトのガバナンスを確立できます。
機能するステアリング会議の核心は3点です。
- 「判断できる人」で構成する: 権限のない担当者が集まる場にしない
- 議題を「判断事項」に絞る: 報告だけで終わる会議にしない
- 開催頻度を計画に明記する: 「必要に応じて」では形骸化する
システム開発を外注している場合、ステアリング会議は発注者がプロジェクトのガバナンスを確立するための重要な仕組みです。外注先(開発会社)に任せきりにするのではなく、発注者主導でアジェンダを設計し、意思決定の場として機能させることが、プロジェクト成功の鍵になります。なお、外注先とのシステム保守費用の妥当性確認もステアリング会議で取り上げるべき重要なテーマの一つです。
ステアリング会議の設計・プロジェクト管理体制の構築については、秋霜堂株式会社にお気軽にご相談ください。TechBandのサービスを通じて、プロジェクトの立ち上げから運営まで伴走支援いたします。
システム開発 完全チェックリスト――発注前・発注中・完了後の3フェーズで使えるチェック集

この資料でわかること
システム開発の外注・発注を初めて経験する担当者や、過去に失敗を経験した担当者が、発注プロセスの各フェーズで「何をチェックすべきか」を明確に把握できるようにする。
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