ChatGPTやClaude、Gemini——生成AIツールを業務で使い始めた企業が急増しています。文書の作成やコード生成、画像制作など、活用シーンは多岐にわたります。一方で、「生成AIの著作権問題があると聞いた。でも、具体的に何がリスクで、自社として何をすればいいのかが分からない」と感じている担当者の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、生成AIの著作権リスクを「学習段階」と「出力・利用段階」という2つのフェーズに分けて整理し、企業が今日から実践できる対策をチェックリスト形式でご紹介します。法律の条文を丸暗記する必要はありません。リスクの全体像を把握し、担当者として「次の一手」を判断できる状態になることを目指してください。
なお、本記事は一般的な判断軸の提供を目的としており、法的助言ではありません。具体的なケースへの対応は弁護士・弁理士などの専門家へご相談ください。
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この資料でわかること
ChatGPT・生成 AI の社内展開を担当しているが「何から始めれば良いか分からない」情シス・総務・DX 推進担当者に対し、ルール策定・安全な利用環境整備・部門展開のロードマップを一気通貫で提示し、「自社で着手できる」という確信と具体的なアクションプランを持ってもらうこと。
こんな方におすすめです
- 社内ChatGPTの利用ルールを策定したい方
- 情報漏洩リスクを回避しながらAIを展開したい方
- 部門別のプロンプト活用例を知りたい方
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生成AI著作権リスクとはどのような問題か

AIが著作権問題を引き起こす仕組み
著作権問題の核心は、「AIは大量の著作物を使って学習し、それに似た出力を生成する」という仕組みそのものにあります。
AIモデルは、書籍・ニュース・ブログ・イラスト・コードなど、インターネット上に存在する膨大なコンテンツを学習データとして取り込んで作られています。このプロセスには、他者が著作権を持つコンテンツが数多く含まれています。
学習の結果、AIは「人間が書いたような文章」「プロのイラストに似た画像」「既存ライブラリに似たコード」を生成できるようになります。この仕組みが著作権問題を引き起こす2つの段階を生み出しています。
- 学習段階のリスク: 著作物を無断で学習データとして使用することが権利侵害にならないか
- 出力・利用段階のリスク: AIが生成したコンテンツが既存の著作物に酷似し、著作権侵害とみなされないか
この2つのフェーズを区別して理解することが、リスク管理の第一歩です。
2025〜2026年に問題が拡大している背景
AI著作権問題が急速に注目を集めている理由は、具体的な訴訟・摘発事例が相次いでいるからです。
2025年には、読売新聞・日本経済新聞・朝日新聞の大手新聞3社がそれぞれAI検索サービス「Perplexity AI」を著作権侵害で提訴しました(詳細はH2-4で後述)。また、2025年11月には、生成AIで作成した画像に対して著作権侵害で書類送検されるという、国内初の摘発事例が出現しました。
海外では、2025年2月に米国でAI学習データに関して著作権侵害を認めた重要判決(Thomson Reuters v. Ross Intelligence)が下されています。
「知らなかった」では済まない時代になっています。特に、業務でAIツールを活用する企業は、自社の利用形態がどのリスクに該当するかを把握しておく必要があります。
【学習段階】AIを「作る・使う」際の著作権リスク
著作権法30条の4とは?「非享受目的」の意味
日本では、著作権法第30条の4という規定があります。これは「著作物に表現された思想・感情を自ら享受したり、他人に享受させたりすることを目的としない場合には、必要な限度で著作物を利用できる」という内容です。
「享受」とは、著作物をコンテンツとして読んだり楽しんだりすることです。AIの学習データ収集は、「コンテンツを楽しむため」ではなく「情報を統計的に処理するため」という目的なので、原則として適法とされています。
文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」(2024年3月)でも、情報解析目的のAI学習は著作権法第30条の4の2号「情報解析の用に供する場合」に該当し、著作権者の許諾なく行えるとされています。
これは日本の特長的な規定で、著作権問題を過度に恐れてAI活用を止める必要がないことを示しています。ただし、この規定には重要な例外があります。
例外に当たるリスクの高いケース
著作権法第30条の4には「ただし書」があります。「著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない」という例外です。
文化庁のガイドラインでは、次のようなケースが例外(著作権者の許諾が必要)と考えられるとされています。
リスクの高いケース:
- 有償で提供されているデータベースや学習用データセットを、利用規約に反して無断で学習データとして使用する
- 特定のクリエイター・作家の作風を意図的に模倣するために、その作品を集中的に学習させる(いわゆる「過学習」)
- AI出力に学習データの著作物の表現がそのまま含まれることを意図した学習を行う
企業がサードパーティのAIサービス(ChatGPTなど)を利用する場合、学習データはサービス提供者が管理しているため、企業側での直接的な学習データリスクは限定的です。ただし、カスタムモデルの開発や社内モデルのファインチューニングを行う場合は、使用する学習データの権利確認が必要です。
使用するAIツールの学習データを確認する方法
現在利用しているAIツールの学習データリスクを把握するためのステップです。
- 利用規約・プライバシーポリシーを確認する: 主要なAIサービスは学習データのポリシーを公開しています。「Training Data」「Content Policy」「Copyright」などのキーワードで検索してください
- 著作権ポリシーページを確認する: OpenAI(ChatGPT)、Anthropic(Claude)、Google(Gemini)等はそれぞれ著作権に関するポリシーページを公開しています
- 企業向けプランの利用を検討する: 多くのサービスで、企業向けプラン(Enterprise等)では入力データが学習に使用されない設定が提供されています
特に、自社の機密情報・顧客情報・内部資料をAIに入力する場合は、その入力内容が学習データとして使用されるリスクにも注意が必要です。
【出力・利用段階】AIが生成したコンテンツの著作権リスク
著作権侵害の2要件(類似性・依拠性)
AIが生成したコンテンツを業務で利用する際に特に注意すべきなのが、出力・利用段階のリスクです。著作権侵害が成立するためには、一般的に以下の2つの要件が必要とされています。
依拠性: 侵害とされる作品が、元の著作物を参考にして(依拠して)制作されたこと
類似性: 侵害とされる作品が、元の著作物と表現において実質的に類似していること
AIが生成した出力物がたまたま既存著作物に似ている場合、「依拠性」の判断が難しくなります。ただし、AIが大量の著作物を学習していることを考えると、完全に否定することも難しい状況です。
実務上のポイントは「類似性」です。生成されたコンテンツが既存の著作物と著しく似ている場合はリスクが高く、確認が必要です。
AI生成物に著作権は認められるか
AI単体が自律的に生成したコンテンツには、原則として著作権は発生しないとされています。著作権法が保護する「著作物」は、「人の創作的な表現」が必要だからです。
ただし、人間が詳細な指示(プロンプト)を工夫して作成した場合、「人の創作的寄与」が認められれば著作権が発生する可能性があります。
2025年11月の千葉県警の摘発事例では、「プロンプトを2万回以上入力・修正するなど詳細な指示と修正を繰り返して生成した画像」について著作物と判断されています。つまり、入力者の創作的工夫の度合いによって、著作権の有無が変わりえます。
このことは企業にとって2つの意味を持ちます。
- AIが生成したコンテンツをそのまま使う場合、自社の著作権を主張しにくいことがある
- 逆に、他者がAIで生成したコンテンツを無断利用することがリスクになる場合もある
特に注意が必要な利用シーン
業務でAIを使う際、以下のシーンでは特に慎重な確認が必要です。
広告・マーケティング素材: AIが生成した画像や文章を広告に使用する場合、既存ブランドや著名なビジュアルとの類似リスクがあります。商業利用は個人利用より責任が重くなりがちです
コード生成: GitHub Copilot等のAIコーディングツールは、オープンソースのコードを学習しています。生成されたコードが特定のライセンス条件(GPLなど)に違反していないか確認が必要な場合があります
文章・記事作成: 特定の著者・メディアの文体を意識したプロンプトで生成した文章は、類似性の問題が生じる可能性があります
翻訳・要約: 著作権のある文書の翻訳・要約もAI利用の際に注意が必要です。翻訳権・二次著作権の問題が生じる場合があります
国内外の最新判例・事例から学ぶリスクの実態(2025〜2026年)
日本の大型訴訟:新聞社 vs Perplexity AI
2025年、日本の大手新聞3社がAI検索サービスPerplexity AIを提訴しました。
- 読売新聞: 2025年8月7日提訴。約21億6,800万円の損害賠償請求
- 日本経済新聞・朝日新聞: 2025年8月26日提訴。各22億円の損害賠償請求
争点は、Perplexity AIのボットが新聞社の有料記事を無断でクロール・複製し、AIが記事内容に基づく回答をユーザーに送信したことが著作権侵害にあたるかどうかです。
企業への示唆: この訴訟が示すのは、「AIサービスが無断利用しているコンテンツを業務に組み込む場合のリスク」です。有料メディアや著作権管理が厳格なコンテンツをAIに入力する際は、利用規約の確認が重要です。
海外での重要和解・判決事例
Thomson Reuters v. Ross Intelligence(米国・2025年2月)
2025年2月11日、デラウェア地区連邦地方裁判所は、法律調査AIサービス「Ross Intelligence」がWestlaw(Thomson Reuters)の判例要約データを無断でAI学習に使用したことについて、著作権侵害を認める判決を下しました。
「AI学習のためのコンテンツ利用はフェアユース(公正使用)に当たる」というAI企業側の主張が退けられたこの判決は、有料データベース・コンテンツのAI学習利用について厳しい見方を示しており、日本企業にとっても重要な参考事例です。
事例から読み取れる「リスクが高いのはこんなケース」
判例・事例を整理すると、以下のケースでリスクが高いと考えられます。
リスクレベル | ケース |
|---|---|
高 | 有料データベース・有料メディアの記事をAIに大量入力して分析・学習させる |
高 | 特定のクリエイターの作品スタイルを模倣する意図でプロンプトを設定する |
高 | AI生成コンテンツをチェックなしで商業利用する(広告、商標、出版等) |
中 | 著作権管理が不明確なOSSコードをAIで生成・流用する |
中 | AI検索サービスが返す要約を一次ソースとして使用する |
低(要確認) | 公開情報をもとに文章生成し、結果を確認後に利用する |
これらのリスクを「自社の業務に当てはめて考える」ことが、次のセクションで解説する実務対策の出発点になります。
企業が今すぐ取り組むべきAI著作権リスク対策

「リスクは理解したが、具体的に何から始めればいいか分からない」という方のために、今日から着手できる5つのステップをご紹介します。
ステップ1: 使用するAIツールのポリシー確認
まず、現在使用しているAIツールの著作権・コンテンツポリシーを確認しましょう。
確認先の例:
- OpenAI(ChatGPT): ユーザー利用規約・著作権ポリシー
- Anthropic(Claude): 使用ポリシー
- Google(Gemini): 利用規約
確認すべきポイント:
- 入力データが学習に使用されるか(Enterprise/APIプランでは通常オフ)
- AI生成コンテンツの著作権帰属に関する記載
- 生成コンテンツの商用利用に関する条件
ステップ2: 社内ガイドラインの最低限の整備
法務部がない中小企業でも、最低限のガイドラインを文書化することが重要です。以下のような構成を参考にしてください。
社内AIガイドライン(最小構成)サンプル:
1. 対象ツール: 業務で使用を許可するAIツールの一覧
2. 禁止事項:
- 顧客の個人情報・機密情報の入力禁止
- 有償コンテンツの無断入力禁止
- AI生成物のコピー&ペースト(確認なし)禁止
3. 確認義務:
- AI生成コンテンツを外部公開・商用利用する際は上長確認を行う
4. 記録:
- 重要な成果物にAIを使用した場合はその旨を記録する
5. 更新:
- 本ガイドラインは四半期ごとに見直す
文化庁の「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」(2024年7月31日公開)には、AI利用者向けのチェックリストが掲載されています。ガイドライン策定の参考資料としてご活用ください(文化庁サイトから参照可能)。
ステップ3: AI生成物の使用前確認フロー
AI生成コンテンツを外部公開・商用利用する前に、以下の確認フローを設けましょう。
使用前チェックリスト:
- 生成された文章・画像・コードを検索エンジンやリバース画像検索で類似コンテンツを検索した
- 特定のクリエイターや著作物の特徴が過度に反映されていないか確認した
- コード生成の場合、生成コードにコメントとして残る著作権表示・ライセンス表記を確認した
- 使用目的・使用場所(社内のみ/外部公開/商業利用)を確認した
すべての利用にこの確認が必要なわけではありません。「外部公開する」「商業利用する」「他社に成果物として納品する」という場合に実施することをお勧めします。
ステップ4: 記録と更新の仕組みづくり
AIを使用した業務の記録を残す習慣は、万一問題が起きた際のリスク軽減に役立ちます。
記録に含めると良い項目:
- 使用したAIツール名とバージョン(または日付)
- 主なプロンプト概要(機密でなければ)
- 生成物の使用目的・使用場所
- 確認した事項(類似性チェック等)
また、AI著作権の法制度は急速に変化しています。文化庁の発表やニュースを定期的に確認し、ガイドラインを年1〜2回は見直すサイクルを設けましょう。
【システム開発委託時の注意点】AI生成コードの著作権帰属を契約書で明確化する
AIを使った開発を外部企業に委託する場合、または外部企業に開発委託して受注側がAIを活用する場合に重要な観点です。
発注者として注意すべきポイントは以下のとおりです。
契約書に明記すべき項目:
- 成果物の著作権帰属(発注者か受注者か)
- 成果物の制作にAIを使用する場合の事前合意・通知義務
- AI生成コードに第三者の著作権が含まれていた場合の責任範囲
- 学習データに問題があった場合の瑕疵担保(損害賠償)の規定
秋霜堂株式会社では、システム開発委託の契約書策定について、AI活用時代に合わせた実務的なアドバイスを提供しています。AI活用を前提とした開発委託をご検討の際はお気軽にご相談ください。
専門家への相談が必要なケース
本記事で解説した内容はあくまで「判断軸の提供」です。一般的な考え方の整理であり、個別の事業・案件への適用については必ず専門家にご相談ください。
弁護士・弁理士への相談をお勧めするケース:
- 競合他社または自社が著作権侵害を主張する紛争が発生した、または発生しそうな場合
- AIを使って開発した成果物の著作権帰属について、取引先との間で認識のずれがある場合
- AI活用ツール・サービスを自社で開発・提供する場合
- 大量の著作物コンテンツを利用したAI学習・サービス構築を検討している場合
- 海外企業との取引で、著作権の扱いについて合意が必要な場合
相談先の探し方:
- 日本弁護士連合会 弁護士検索(ITや知的財産を専門とする弁護士を検索可能)
- 日本弁理士会 弁理士相談窓口(特許・著作権等の知的財産専門家)
まとめ
生成AIの著作権リスクは、「知らないこと」が最大のリスクです。ただし、闇雲に恐れる必要もありません。
本記事で解説したポイントを振り返ります。
- 著作権リスクには「学習段階」と「出力・利用段階」の2つのフェーズがある
- 日本の著作権法第30条の4により、AI学習目的の著作物利用は原則として適法だが、「著作権者の利益を不当に害する場合」は例外
- 出力・利用段階では「類似性」と「依拠性」の2要件に注意が必要
- 2025年には国内外で訴訟・摘発事例が相次ぎ、法的リスクは現実のものになっている
- 今日からできる対策は「ツールのポリシー確認」「社内ガイドライン策定」「使用前確認フロー」「記録の習慣づくり」の4ステップ
「AI活用を止めるのではなく、リスクを管理しながら推進する」バランスが重要です。
AIの活用においては著作権以外のリスクも存在します。AIが誤った情報を生成する「ハルシネーション(幻覚)」問題についても、合わせて理解しておくことをお勧めします。→ 生成AIのハルシネーション(幻覚)とは?企業が知っておくべき対策と活用ガイド
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