オフショア開発とは?メリット・デメリット成功のポイントまで解説
システム開発やアプリ開発の外部委託を検討する中で、「オフショア開発」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。オフショア開発は、コスト削減やIT人材の確保を目的として海外に開発業務を委託する手法ですが、一方で「コミュニケーションが難しい」「品質管理が大変」といった声も聞かれます。
本記事では、システム発注に慣れていないご担当者様にもご理解いただけるよう、オフショア開発の基本的な意味から、具体的なメリット・デメリット、そして導入を成功させるための重要なポイントまで、わかりやすく解説します。

目次
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オフショア開発とは?
「オフショア開発(Offshore Development)」とは、システム開発やスマートフォンのアプリ開発、Webサイト制作、さらには完成後の運用・保守といった業務を、海外の事業者や現地の子会社に委託することを指します。
「オフショア(Offshore)」とは「岸(shore)から離れた(off)」、つまり「海外」を意味する言葉です。
オフショア開発の需要が高まっている理由
今、多くの日本企業がオフショア開発に注目している背景には、大きく2つの理由があります。
国内のIT人材不足
少子高齢化の影響もあり、日本ではシステム開発を担うIT人材(エンジニア)が慢性的に不足しています。
エンジニアの人件費高騰
人材が不足すれば、当然ながら人件費(単価)は高騰します。
こうした国内の課題を背景に、「開発コストを抑えつつ」「豊富な開発リソース(人材)を確保する」という2つの目的を同時に達成できる手段として、海外に目を向けるオフショア開発の需要が高まっているのです。
ニアショア開発との違い
オフショア開発とよく似た言葉に「ニアショア開発(Nearshore Development)」があります。両者の違いは、委託先が「海外」か「国内の地方都市」かという点です。
オフショア開発 | ニアショア開発 | |
|---|---|---|
委託先 | 海外 | 国内の地方都市 |
コスト削減幅 | 大きい | 中程度 |
コミュニケーション | 言語や文化の壁がある | 壁がない |
コスト削減の効果を最大限に追求するならオフショア開発、コストはそこそこに抑えつつ、日本語での円滑なコミュニケーションを重視するならニアショア開発、という使い分けが一般的です。
オフショア開発のメリット
オフショア開発を導入することで、企業はどのような恩恵を受けられるのでしょうか。ここでは、代表的な5つのメリットをご紹介します。
開発コストの削減
オフショア開発を導入する最大のメリットは、開発コストの大幅な削減です。
委託先の国にもよりますが、現地のエンジニアの人件費は、日本のエンジニアと比べて大幅に安い傾向があります。ケースによっては、日本のエンジニア単価の2分の1から3分の1程度で済むこともあり、プロジェクト全体で平均30%程度のコスト削減に成功したという実績も珍しくありません。
優秀なIT人材・開発リソースの確保
前述の通り、日本ではIT人材の不足が深刻で、優秀なエンジニアを採用するのは非常に困難になっています。
一方、ベトナムやインドといったオフショア開発が盛んな国々では、国策としてIT教育に力を入れており、若く優秀なIT人材が豊富に育っています。国内では集めるのが難しい優秀なエンジニアや、大規模開発に必要なチーム(開発リソース)を、海外で確保できる点は大きな魅力です。
最新技術(AI・クラウド等)を活用した開発
AI(人工知能)、ブロックチェーン、クラウドといった最先端技術は、専門的な知見を持つエンジニアがいなければ開発が困難です。
オフショア開発先、特にインドなどは、こうした最先端技術分野の教育が進んでおり、専門知識を持つエンジニアが世界中から集まっています。こうした人材を確保することで、自社の新規事業やDX(デジタルトランスフォーメーション)を力強く推進できます。
柔軟なリソース調整と開発体制の構築
プロジェクトを進めていると、「急遽、追加機能が必要になった」「思ったより開発が順調なので、次のフェーズ(段階)を前倒ししたい」といった状況の変化はつきものです。
オフショア開発、特に後述する「ラボ型契約」では、プロジェクトの状況に応じて、必要なエンジニアの数を柔軟に増やしたり減らしたりすることが容易です。変化に対してスピーディーに開発体制を組み替えることができます。
グローバル展開への足掛かり
海外のIT人材と協働することで、日本人だけでは生まれにくい多様な視点やアイデアを開発に取り入れることができます。
また、開発パートナーとの協力を通じて現地の市場や文化への理解を深めることは、将来的に自社の商品やサービスを海外市場へ進出(グローバル化)させる際の、貴重な足掛かりとなり得ます。
オフショア開発のデメリットと「失敗」を招く要因
コスト削減など大きな魅力があるオフショア開発ですが、当然ながら良いことばかりではありません。導入後に「こんなはずではなかった」と後悔しないよう、デメリットや失敗を招きやすい要因を正しく理解しておくことが重要です。
コミュニケーションの壁
オフショア開発における最大の失敗要因であり、最も大きな壁が「コミュニケーション」です。
単に「日本語が通じない」「英語で話す必要がある」といった言語の壁だけではありません。それ以上に深刻なのが、文化や商習慣の違いです。
例えば、日本では「このくらい言わなくても分かるだろう」「いい感じにやっておいて」といった、いわゆる「行間を読む」「空気を読む」文化が当たり前に存在します。しかし、海外ではこのような曖昧な指示は一切通用しません。指示内容にないことは実行されず、こちらの意図とは全く異なるものが出来上がってくる原因となります。
品質管理の難しさ
「オフショア開発で作ったシステムは品質が低い」といった話を聞くことがありますが、これは現地のエンジニアの技術力が低いから、とは限りません。
主な原因は、日本と現地の「品質」に対する基準や習慣の違いにあります。 例えば、日本では当たり前に行われる厳格なテスト工程も、現地では「そこまでやる必要はない」と認識されている場合があります。その結果、テストの工数(作業時間)が見積もりから不足し、バグ(不具合)が多いまま納品されてしまう、といった事態を招きます。
マネジメントの複雑化
委託先が海外になることで、国内での開発に比べてプロジェクト管理(マネジメント)が格段に複雑になります。
物理的な距離
すぐに顔を合わせて打ち合わせができない。
時差
リアルタイムでのやり取りが可能な時間帯が限られる。
進捗管理の難しさ
言葉の壁もあり、作業が順調なのか、問題が発生していないかの把握が遅れがちになる。
セキュリティリスク
重要なデータを海外に持ち出すことになるため、情報漏洩などのセキュリティ対策がより重要になる。
これらの管理業務に対応するため、国内開発よりも多くの管理コスト(手間や時間)がかかることを覚悟しなくてはなりません。
小規模開発ではコストメリットが出にくい
オフショア開発は、前述のようなコミュニケーションやマネジメントのための追加コストが発生します。
そのため、開発規模が一定以下(例えば、10人月以下 ※)の小規模なプロジェクトの場合、こうした管理コストが開発費の削減分を上回ってしまい、期待したほどのコストメリットが出ない(むしろ高くつく)可能性があります。
※「人月(にんげつ)」とは?:
システム開発の見積もりで使われる単位で、「1人のエンジニアが1ヶ月働いた場合の作業量」を「1人月」と数えます。
オフショア開発を成功させるための4つの重要ポイント

では、これらのデメリットや失敗要因を乗り越え、オフショア開発を成功させるためには、どのような点に注意すればよいのでしょうか。特に重要な4つのポイントを解説します。
【要件定義】プロジェクトの目的・背景まで共有する
オフショア開発で最もやってはいけないのが、仕様書だけを渡して「あとはよろしく」と「丸投げ」することです。曖昧な指示は、認識のズレを生む最大の原因です。
単に「何を作るか(機能)」だけでなく、「なぜこのシステムが必要なのか(開発の背景)」「誰が・どのように使うのか(ユーザー像)」といった目的や背景までを具体的に共有しましょう。そうすることで、開発チームがプロジェクトの全体像を理解し、指示書にない細かな部分でも意図を汲んだ判断ができるようになります。
【コミュニケーション対策】体制とルールを構築する
言語や文化の壁を乗り越えるためには、精神論ではなく、具体的な「体制」と「ルール」を構築することが不可欠です。
体制の構築
日本語と現地の言葉、さらに技術的な知識も併せ持つ「ブリッジSE」という橋渡し役の人材を活用するのが最も効果的です。
ルールの構築
「週に1回は必ずビデオ会議を行う」「チャットでの質問には24時間以内に必ず返信する」など、定例ミーティングの頻度や、連絡手段(チャットとビデオ会議の併用など)を明確にルール化します。
【品質対策】品質管理の仕組みを構築し、役割分担を明確にする
品質の低下を防ぐため、開発をスタートする前に「品質」に対する目線合わせを行います。
「どういう状態になったら“完成”とみなすか」というテストの基準を日本側と開発側ですり合わせ、その基準を守るための仕組み(例:作成したプログラムを別のエンジニアがチェックする「コードレビュー」の実施、定期的なテストの実施日設定など)を構築します。
その上で、「どこまでを開発側が担当し、どこからを日本側がチェックするのか」という役割分担を明確にしておくことが重要です。
【パートナー選定】コストだけで選ばず、実績と得意分野を見極める
オフショア開発のパートナー(委託先企業)を選ぶ際、コストの安さだけで選定するのは非常に危険です。
必ず、「自社が作ろうとしているシステムと類似の開発実績があるか」、そして「その会社の得意分野(例:金融業界のシステムに強い、AI開発が得意など)は何か」を見極めましょう。実績が豊富で、自社の業界や技術分野に強みを持つパートナーであれば、コミュニケーションもスムーズに進みやすくなります。
作業時間削減
システム化を通して時間を生み出し、ビジネスの加速をサポートします。
システム開発が可能に
オフショア開発の導入に適している案件・適さない案件
ここまで解説してきたメリット・デメリットを踏まえ、どのような案件がオフショア開発に「向いている」のか、逆に「向いていない」のかを整理します。
オフショア開発に「向いている」案件
コスト削減を最優先したい案件
開発予算が限られており、品質やコミュニケーションの難易度よりもコスト削減を優先したい場合。
国内でリソース確保が困難な案件
大規模なシステム開発や、AIなど特殊な技術が必要で、国内ではエンジニアを集められない場合。
要件定義が明確で仕様変更が少ない案件
作るものが明確に決まっており、開発途中の変更がほとんど発生しない見込みの案件(例:既存システムの単純な移行など)。
オフショア開発に「向いていない」案件
要件が曖昧な案件
「とりあえず何か新しいサービスを立ち上げたい」など、まだ何をどう作るかが固まっていない企画段階の案件。
仕様変更が頻発する案件
開発しながらデザインや機能を柔軟に変えていきたい、アジャイル開発(短期間で開発とテストを繰り返す手法)を前提とした案件。
小規模すぎる案件
開発規模が小さい(目安として10人月以下)案件は、管理コストが上回り、コストメリットが出にくいため推奨されません。
「安すぎる見積もり」の危険性とは?価格だけで選ぶリスク
複数の開発会社から見積もり(相見積もり)を取った際、一社だけ極端に安い見積もりが出てくると、非常に魅力的に見えるかもしれません。 しかし、その「安さ」には必ず理由があります。価格だけに飛びついて失敗する典型的なリスクを3つご紹介します。
開発者のスキル不足
安さの最も単純な理由は、人件費、つまりエンジニアの単価が安いことです。これは、経験の浅い若手エンジニアばかりでチームが構成されていたり、コミュニケーションが非常に難しい海外のチームにさらに丸投げ(再委託)されていたりする可能性を意味します。
その結果、納品されたシステムにバグ(不具合)が多かったり、処理が異常に遅いものになったりと、品質の低下に直結します。
品質の欠如
見積もり金額を無理に抑えるため、発注者からは見えにくい「テスト」や「品質管理」といった重要な工程が、大幅に省略されている可能性があります。
一見、システムは動いているように見えても、実際に大勢の人が使い始めると次々と不具合が発覚し、結局、その修正費用で高くつくという「安物買いの銭失い」の典型的なパターンに陥ります。
スコープの欠落
最も悪質なケースです。発注者が「当然、この機能も含まれているだろう」と思い込んでいる必須機能(例えば、ECサイトの会員登録機能や、パスワード再発行機能など)を、意図的に見積もりの作業範囲(スコープ)から外しておくのです。
そして契約後に、「その機能は見積もりに入っていません。追加費用として〇〇万円必要です」と高額な追加費用を請求する手口です。契約書にサインする前に、作業範囲(どこからどこまでを対応してくれるのか)を徹底的に確認する必要があります。
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オフショア開発の主要委託先

オフショア開発の委託先として、日本企業はどの国を選んでいるのでしょうか。ここでは、主要な4カ国とその特徴をご紹介します。
ベトナム
現在、日本企業から最も人気の高い委託先がベトナムです。 IT教育が非常に盛んで、若く優秀な人材が豊富にいます。また、親日的で国民性が勤勉であること、日本との時差がわずか2時間と、コミュニケーションが取りやすい時間帯が多いことも強みです。
フィリピン
フィリピンの最大の特徴は、世界トップクラスの英語力です。公用語の一つが英語であるため、英語でのコミュニケーションが非常に円滑に進みます。 人月単価(エンジニア1人あたりの月額費用)はベトナムよりやや高めになる傾向がありますが、欧米企業からの委託も多く、グローバルスタンダードな開発が進めやすい国です。
インド
インドは伝統的なIT大国であり、その技術力は世界でもトップクラスです。 特に AI、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータといった最先端技術分野において、非常に高度なスキルを持つエンジニアが豊富に揃っているのが特徴です。
ミャンマー
「ポスト・ベトナム」として近年注目されているのがミャンマーです。 最大の魅力は人月単価の安さで、国によっては20万円台から発注可能なケースもあります。ただし、政治情勢が不安定になる場合があるため、その動向には常に注意が必要です。コストメリットを最優先する場合の選択肢となります。
オフショア開発の契約形態
オフショア開発の契約形態には、大きく分けて「ラボ型契約」と「請負型契約」の2種類があります。それぞれの特徴を理解し、プロジェクトに合ったものを選びましょう。
ラボ型契約
「ラボ型契約」とは、一定期間(例:半年、1年)、自社専属のエンジニアチームを確保する契約形態です。「ラボ(Labo)」=研究所のように、自社の開発チームを海外に持つイメージです。
メリット
・期間内であれば、仕様変更や機能追加に柔軟に対応できる。
・長期的に同じチームで開発するため、ノウハウや自社業務への理解がチームに蓄積される。
デメリット
・開発作業が少ない月でも、一定の固定費用(チームの人件費)が発生する。
向いている案件
・長期的なプロジェクト、仕様変更が多い案件、継続的な運用・保守。
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請負型契約
「請負型契約」とは、「このシステムを〇〇円でいつまでに作る」という成果物の完成・納品に対して対価を支払う、日本でも一般的な契約形態です。
メリット
・成果物が明確なため、予算とスケジュールが確定しやすい。
デメリット
・契約後に仕様変更や機能追加を行う場合、その都度、追加の見積もりと費用交渉が必要になる。
・ノウハウが開発会社側に残り、自社(チーム)に蓄積されにくい。
向いている案件
・要件が明確に固まっている単発のプロジェクト。
社内にシステム開発部門を提供するTechBandのご紹介
オフショア開発のような外部委託では、コミュニケーションの壁や品質管理、認識のズレといった課題が失敗の原因となりがちです。もし、国内で信頼できる開発パートナーをお探しなら、秋霜堂株式会社の「TechBand」という選択肢があります。
TechBandは一般的な受託開発とは異なり、「あなたの会社にシステム開発部門をご提供する」というコンセプトのサービスです。システムの納品そのものではなく、テクノロジーによる「ビジネスの加速」を目的としており 、ビジネスを支える内部組織のように活動します。
開発は、採用通過率5%のハイスキルなエンジニアチームが担当。1週間の短サイクルなアジャイル開発を採用し、密なコミュニケーションを取りながら進めるため、認識のズレを防ぎます。仕様変更や機能追加にも、追加見積もりではなくスケジュール調整で柔軟に対応可能です。
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