「リリースのたびに、日曜の深夜にサービスを止めています」。この運用を何年も続けている情報システム部門は少なくありません。停止のたびに告知を出し、当番を組み、翌朝の問い合わせ増加に備える。作業そのものは 30 分でも、その前後に発生する負荷は決して小さくないはずです。
そこにベンダーから提案が届きます。「ブルーグリーン構成にすれば、サービスを止めずにリリースできます」。魅力的な提案ですが、同じ資料には初期費用と月額インフラ費用の増額も並んでいます。深夜作業をなくしたい気持ちはあっても、その追加費用を経営層にどう説明すればよいのか。提案書を開いたまま、手が止まってしまう場面です。
判断が止まる原因は、多くの場合「仕組みが分からない」ことではありません。「毎月いくら増えるのか」と「本当に元に戻せるのか」の 2 点に、自分の言葉で答えられないことです。とくに後者は、アプリケーションは切り戻せてもデータベースは切り戻せないという非対称性があり、ここを曖昧にしたまま承認すると、後から「想定と違った」となりやすい部分でもあります。
裏を返せば、この 2 点さえ整理できれば、稟議は「削減できる停止時間」と「増える費用」を並べて書ける状態になります。そして次回のベンダー打合せでは、提案を鵜呑みにするのではなく、確認すべき項目を持って臨めます。
本記事では、ブルーグリーンデプロイメントの仕組みを非エンジニアにも分かる言葉で整理したうえで、「ダウンタイムゼロ」と言い切れない部分、費用が増える箇所と増えない箇所の切り分け、データベースの制約、カナリアリリースやローリングアップデートとの使い分け、そして承認前にベンダーへ確認すべき 7 つの事項までを解説します。
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ブルーグリーンデプロイメントとは?ダウンタイムを避けるリリース手法の基本

ブルーグリーンデプロイメントとは、同じ構成の本番環境を 2 つ用意し、稼働中の環境(Blue)とは別の環境(Green)に新しいバージョンを配置して動作確認したうえで、利用者からのアクセス先を一斉に切り替えるリリース手法です。IT 用語辞典でも「新旧の本番環境を用意して接続先を切り替えることで入れ替えを実施する方式」と定義されています(e-Words: ブルーグリーンデプロイメント)。
日常の言葉に置き換えるなら、営業中の店舗を改装するのではなく、隣の区画に新しい店舗を先に建てておき、開店準備が整ってから看板と入口の案内を掛け替えるイメージに近い手法です。従来のやり方が「営業を止めて店内を工事する」だとすれば、ブルーグリーンは「営業したまま隣に建て、切り替える」やり方になります。
この考え方自体は新しいものではなく、ソフトウェア設計の分野では 2010 年に Martin Fowler 氏が「BlueGreenDeployment」として整理した記述が広く参照されてきました(Martin Fowler: BlueGreenDeployment, 2010年)。クラウドの普及によって環境の複製が現実的なコストで行えるようになり、近年になって中堅規模のシステムでも選択肢に入るようになった、という流れです。
Blue環境とGreen環境が担う役割
ブルーグリーンデプロイメントの仕組みを理解する起点は、2 つの環境がそれぞれ何をしているかを押さえることです。
環境 | 役割 | 利用者からのアクセス |
|---|---|---|
Blue(ブルー) | 現在稼働しているバージョンを動かす環境 | 受けている |
Green(グリーン) | 次にリリースするバージョンを配置する環境 | 受けていない(切り替え後に受ける) |
リリースの流れは次の 4 ステップになります。
- Blue と同じ構成の Green 環境を用意する
- Green 環境に新バージョンを配置し、本番と同じ構成のまま最終確認を行う
- アクセスの向き先を Blue から Green へ切り替える
- 問題がなければ旧 Blue 環境を一定期間保持したうえで撤去する(問題があれば向き先を Blue に戻す)
重要なのは、Blue と Green の役割は固定ではなく、切り替えのたびに入れ替わるという点です。今回 Green だった環境は、切り替え完了後は「稼働中の環境」になり、次回のリリースでは旧 Blue 側が新バージョンの配置先になります。提案書で「Blue/Green を交互に使う」と書かれている場合はこの運用を指しています。
従来のメンテナンス停止型リリースとの違い
従来のメンテナンス停止型リリースとブルーグリーンデプロイメントの違いは、「利用者からアクセスを受けている環境そのものを更新するかどうか」にあります。
観点 | メンテナンス停止型 | ブルーグリーンデプロイメント |
|---|---|---|
作業対象 | 稼働中の環境を直接更新する | 待機中の別環境を更新する |
利用者への影響 | 作業時間中はサービス停止 | 切り替えの瞬間のみ(ゼロダウンタイムに近い) |
作業時間帯 | 影響の少ない深夜・休日に限定されやすい | 業務時間内でも実施しやすい |
問題発覚時 | 切り戻し作業を停止時間内に実施する必要がある | アクセスの向き先を戻すだけで済む |
事前確認 | ステージング環境での確認が中心 | 本番と同一構成の環境で最終確認できる |
停止型リリースの最大の制約は、作業時間と切り戻し時間の両方を、あらかじめ確保した停止時間の枠内に収めなければならないことです。想定外の問題が起きた場合、限られた時間の中で原因調査と切り戻し判断を迫られます。深夜作業が固定化しやすいのは、この「万一に備えた時間枠」を業務時間中に取りづらいためです。
ブルーグリーンでは、新バージョンの配置と確認を「利用者に影響しない環境」で行うため、この時間的な制約から解放されます。なお、ビルド・デプロイ・リリースといった用語の関係を整理しておきたい場合は、デプロイとは何かを先に押さえておくと、以降の議論が読みやすくなります。
「ダウンタイムゼロ」と言い切れない部分
提案書やベンダーの説明では「ダウンタイムゼロ」と表現されることがありますが、実務上は**「限りなくゼロに近づけられる」であって、条件によっては数秒から数分の影響が残る**と理解しておくのが正確です。期待値をここで正しく設定しておくと、後の合意形成が楽になります。
影響が残りうるポイントは主に 3 つあります。
1. 切り替え時点で処理中だったリクエスト
切り替えの瞬間に、Blue 環境で処理の途中だったリクエストが存在します。決済処理や長時間かかる帳票出力などがこれに当たります。既存の接続を処理し終えてから切り離す設定(コネクションドレイニング)を入れるかどうかで挙動が変わるため、設計上の論点になります。
2. DNS の TTL による切り替え遅延
DNS で切り替える方式の場合、利用者側やネットワーク機器に古い接続先情報がキャッシュとして残ります。この保持時間(TTL)が経過するまでは、一部の利用者が旧環境にアクセスし続ける可能性があります。AWS のマネージド機能でも DNS の伝播遅延の有無がダウンタイムの長さに影響することが示されており、DNS 伝播を経由しない接続方式のほうが短時間で切り替わると案内されています(AWS: Amazon RDS ブルー/グリーンデプロイでダウンタイムが 5 秒未満に短縮、2026年1月)。
3. セッション情報の引き継ぎ
ログイン状態やカート情報をアプリケーションサーバーのメモリ上に保持している構成では、環境が切り替わった時点でその情報が失われ、利用者がログアウトされる可能性があります。セッション情報を外部のデータストアに逃がす設計になっているかどうかが分かれ目です。
これらはいずれも「ブルーグリーンだから起きる欠陥」ではなく、設計で対処すべき項目です。逆に言えば、提案書に「ダウンタイムゼロ」とだけ書かれていて上記の扱いに触れていない場合、確認すべき論点が残っているサインだと考えられます。
ブルーグリーンデプロイメントのメリット|停止時間と復旧時間の短縮
ブルーグリーンデプロイメントのメリットは技術記事では「ダウンタイム最小化・ロールバック容易・本番同等テスト」と整理されることが多いのですが、稟議に書くためには、それぞれを「自社にとって何が減るのか」に翻訳する必要があります。
リリース時のサービス停止をなくせる
最も分かりやすいメリットは、リリース作業のためのサービス停止が不要になることです。ここで減るのは、単に「停止していた時間」だけではありません。
- 利用者への影響: 停止時間中の売上機会・業務停止時間・問い合わせ対応
- 告知・調整の工数: 停止告知の作成、社内関係部署・顧客への事前連絡、問い合わせ窓口の準備
- 深夜・休日作業の負担: 立ち会い要員の確保、代休・深夜手当、翌営業日のパフォーマンス低下
- リリース頻度の制約: 「停止できるのは月 1 回だけ」という制約が外れ、必要なタイミングで出せるようになる
とくに 4 点目は、稟議では見落とされやすい効果です。停止型リリースでは「次の停止枠まで待つ」ために修正が滞留しますが、無停止でリリースできれば、小さな改善を細かく届けられるようになります。
障害時のロールバック(切り戻し)が数分で済む
2 つ目のメリットは、切り戻し(ロールバック)の速さです。停止型リリースでは、問題が発覚した時点で「旧バージョンを再度配置し直す」作業が必要になり、その間サービスは不安定なままです。
ブルーグリーンでは旧 Blue 環境をそのまま残しているため、アクセスの向き先を戻すだけで復旧できます。切り戻しの所要時間は、新バージョンを配置し直す時間ではなく、切り替え操作そのものの時間になります。
ただし、この「戻すだけ」が成立するのはアプリケーション側に限った話です。データベースまで含めると事情が変わるため、この点は後述の「データベースのスキーマ変更は切り戻せない」で詳しく扱います。
本番と同じ構成で最終確認ができる
3 つ目は、本番と同一構成の環境で最終確認ができることです。ステージング環境はコスト上の理由からサーバー台数やスペックを本番より小さくしていることが多く、「ステージングでは問題なかったのに本番で起きた」というトラブルの温床になります。
Green 環境は本番と同じ構成で用意されるため、負荷分散の挙動・外部連携・証明書設定など、構成差に起因する問題を切り替え前に検出できます。AWS のホワイトペーパーでも、ブルーグリーンデプロイメントは「同一の 2 環境間でトラフィックを移す」ことでダウンタイムとロールバック能力に関するリスクを緩和する手法として位置づけられています(AWS: Blue/Green Deployments on AWS)。
効果を稟議で数字にする考え方
追加費用を伴う施策である以上、効果側も数字にしておきたいところです。厳密な算定は難しくても、次の 3 軸で整理すれば、経営層への説明としては十分に機能します。
軸1: 停止時間の削減
月間のリリース停止時間 × 12ヶ月 で年間の停止時間を出します。BtoC サービスであれば 停止時間 × 時間あたり平均売上 で機会損失額を、社内システムであれば 停止時間 × 影響する従業員数 × 時間単価 で業務停止コストを概算できます。
軸2: 深夜・休日対応の工数削減
1回あたりの立ち会い人数 × 拘束時間 × 深夜割増を含む単価 × 年間リリース回数 で算出します。前後の準備・翌日の後処理を含めると、作業時間そのものより大きくなることが一般的です。
軸3: 障害時の復旧時間短縮
過去 1〜2 年のリリース起因の障害について、発生件数 × 1件あたりの復旧所要時間 を算出し、切り戻しが数分で完了する前提での短縮幅を見積もります。件数が少ない場合でも、「万一の際の最大影響時間が何時間から何分になるか」というリスク低減の表現で記載できます。
これらを合計した年間の削減効果と、後述する年間の追加インフラ費用を並べれば、稟議の骨格は完成します。効果が費用を下回る場合でも、「リリース頻度を上げられる」「障害時の最大影響を抑えられる」という定性的な価値を添えて判断を仰ぐ形にできます。
ブルーグリーンデプロイメントのデメリット|インフラ費用とデータベースの壁

ここからが本記事の中心です。ブルーグリーンデプロイメントのデメリットは、多くの解説で「サーバーコストが 2 倍」「データベース管理が複雑」と要約されます。しかし、この粒度のままでは稟議は書けません。どこが常時 2 倍になり、どこはならないのか。データベースの何が複雑なのかを分解していきます。
サーバー・ロードバランサーが二重になる費用構造
「コストが 2 倍」という表現は、正確には「環境を二面持つ期間について、その構成要素の費用が二重に発生する」という意味です。したがって費用の増え方は、構成要素ごとに「常時二重」「切り替え期間のみ二重」「二重化不要」の 3 つに分かれます。
構成要素 | 二重化の必要性 | 費用への影響 |
|---|---|---|
アプリケーションサーバー | 切り替え期間のみ(運用方針による) | Green を常時起動しておくか、リリース時のみ起動するかで大きく変わる |
ロードバランサー | 常時 1 台(切り替え装置として共用) | 二重化ではなく、切り替えの仕組みとして必要。既にあれば増分は小さい |
データベース | 方式による(後述) | 一時的にレプリカを持つ方式なら切り替え期間のみ |
ストレージ・ファイル領域 | 共有する構成が一般的 | 二重化しない設計が取れることが多い |
監視・ログ基盤 | 切り替え期間は両環境分 | 従量課金の場合は一時的に増加 |
各種ライセンス | 契約形態による | サーバー数課金の場合は要確認 |
ここから導かれる実務的なポイントは 3 つあります。
ポイント1: 「常時二重起動」か「リリース時のみ起動」かで費用は大きく変わる
クラウドの従量課金を前提にすれば、Green 環境をリリース作業の前に立ち上げ、切り替え完了と監視期間の終了後に停止する運用が可能です。この場合、追加費用は「月に数時間から数日分」であり、月額が 2 倍になるわけではありません。一方、切り戻しに備えて旧環境を長く保持する方針であれば、その期間分の費用は発生します。提案書に「インフラ費用 2 倍」と書かれている場合、それがどちらの前提なのかは必ず確認すべき点です。
ポイント2: 旧環境を残している間は課金が続く
AWS のマネージド機能に関する公式ドキュメントでも、切り替え後に保持している旧環境のインスタンスは、削除するまで計算リソースとストレージの料金が発生し続けると明記されています(AWS: Limitations and considerations for Amazon RDS blue/gre…)。「切り戻しに備えて旧環境を 1 週間残す」という運用方針は、そのまま 1 週間分の追加費用を意味します。保持期間は費用に直結する意思決定項目だと捉えてください。
ポイント3: オンプレミス環境では前提が変わる
物理サーバーで運用している場合、環境の複製は「必要なときだけ立ち上げる」ことができず、機器の追加購入という初期投資になります。この場合、費用構造はクラウドとまったく異なり、投資回収の考え方も変わります。自社がオンプレミス構成であれば、ブルーグリーンの適用範囲を一部に限定するか、後述する別手法を検討する余地があります。
データベースのスキーマ変更は切り戻せない
ブルーグリーンデプロイメントで最も注意すべきなのが、アプリケーションは切り戻せてもデータは切り戻せないという非対称性です。ここは提案書に書かれないことが多く、承認前に必ず確認したい論点です。
問題は 2 つあります。
問題1: 切り替え後に書き込まれたデータの扱い
Green 環境に切り替えた後、利用者は新環境に対してデータを書き込み続けます。この状態で「やはり問題があったので Blue に戻す」と判断した場合、切り替え後に書き込まれたデータをどう扱うかという問題が発生します。単純に向き先を戻せば、その間のデータは旧環境側には存在しません。
問題2: スキーマ変更は一方通行になりやすい
テーブル構造の変更(列の削除・型変更・制約追加など)を伴うリリースでは、新バージョンでしか読めない形にデータが変換されているため、旧バージョンのアプリケーションを再び動かしても正しく動作しない場合があります。
この問題への標準的な対処は、スキーマ変更とアプリケーション更新を分離し、新旧どちらのバージョンからも読み書きできる状態を経由するという段階的な進め方です。Martin Fowler 氏の記述でも、スキーマを両バージョン対応の形に変更してからアプリケーションを更新し、旧バージョン向けの互換部分は不要になった段階で削除する、という順序が示されています(Martin Fowler: BlueGreenDeployment)。具体的には次のような手順になります。
- 新しい列・テーブルを追加する(既存の列は消さない)
- 新旧どちらのバージョンからも動作する状態でリリースする
- データの移行を完了させ、新バージョンでの稼働を安定させる
- 旧バージョンが使っていた列・テーブルを、切り戻しの可能性がなくなった段階で削除する
この進め方を取る場合、1 回のリリースが複数回に分割されるため、その分の工数と期間が必要になります。「ブルーグリーンにすれば全部無停止で出せる」わけではなく、DB 変更を伴う改修では追加の設計・作業が発生する、と理解しておくのが実態に近い認識です。
なお、データベース側にもブルーグリーンの仕組みを提供するマネージド機能がありますが、そちらにも固有の制約があります。たとえば AWS の該当機能では、切り替え後に旧環境の時点への復旧履歴が引き継がれないため、バックアップ保持要件がある場合には別途計画が必要になると明記されています(AWS: Limitations and considerations for Amazon RDS blue/gre…)。データベースを含めた無停止化を提案されている場合は、こうした制約の確認が欠かせません。
切り替え直後の運用負荷
3 つ目のデメリットは、切り替え直後に発生する運用上の負荷です。深夜作業がなくなる代わりに、別の作業が現れる点は事前に共有しておく必要があります。
- 旧環境の保持期間の管理: いつまで残し、誰が削除を判断するのか。前述のとおり保持期間は費用に直結します
- 二重監視の期間: 切り替え後しばらくは新旧両環境の状態を見る必要があり、監視設定・アラート先の整理が必要です
- 切り替え判定の担当者と基準: 「Green で問題なし」と誰がどの基準で判断するのか。エラー率・レスポンスタイムなどの閾値を事前に決めておかないと、判断が属人化します
- 切り戻し判断の期限: 「切り替えから何分以内なら戻す」という時間の線引きを決めておかないと、DB のデータ差分が広がってから戻せなくなります
これらは運用ルールとして事前に文書化できる項目です。導入時の設計と同じ比重で、運用ルールの合意を取ることが実務上は重要になります。
ブルーグリーンデプロイメントを実現する3つの切り替え方式

「どの方式で切り替えるのか」によって、切り替え速度・切り戻し速度・追加費用のすべてが変わります。提案書の記述を読み解くために、代表的な 3 方式を押さえておきます。
ロードバランサーで切り替える方法
サーバーの手前に置いたロードバランサーの振り分け先を、Blue から Green へ変更する方式です。
- 切り替え速度: 速い(設定変更が即座に反映される)
- 切り戻し速度: 速い(設定を戻すだけ)
- 追加費用: ロードバランサー自体は 1 台で足りるため、この方式固有の増分は小さい
- 向くケース: すでにロードバランサーを使った冗長構成になっている場合。処理中リクエストの扱いも設定で制御しやすい
一般的な Web システムであれば、この方式が第一候補になります。既存構成にロードバランサーがあるかどうかで初期費用が変わるため、提案書の初期費用が大きい場合は、この部分の新設が含まれていないかを確認するとよいでしょう。
DNSで切り替える方法
ドメイン名に紐づく接続先の情報(DNS レコード)を、Blue の IP アドレスから Green の IP アドレスへ書き換える方式です。
- 切り替え速度: 遅い(キャッシュの保持時間に依存する)
- 切り戻し速度: 遅い(戻す際も同様にキャッシュの影響を受ける)
- 追加費用: 小さい(DNS の設定変更のみ)
- 向くケース: ロードバランサーを介さない構成や、環境が別のネットワーク・別リージョンに分かれている場合
この方式の注意点は、前述した TTL によるキャッシュ残留です。TTL の設定によっては、切り替え後もしばらく一部の利用者が旧環境にアクセスし続けます。切り戻しの際も同様の遅延が発生するため、「即座に戻す」という前提が崩れる可能性があります。DNS 方式が提案されている場合は、TTL をどう設定するのか、切り替え前に短縮しておく運用になっているのかを確認してください。
クラウドのマネージド機能で実現する方法
クラウド事業者が提供する専用機能を使う方式です。AWS では、アプリケーション側のデプロイサービスやコンテナ基盤に加え、データベースについても専用のブルーグリーン機能が用意されています。
たとえば AWS のマネージドデータベースにおける該当機能では、切り替えは通常 1 分未満で完了し、切り替え中のデータ損失は発生しないと案内されています。また 2026 年 1 月には、単一リージョン構成でデータベースのエンドポイントに直接接続するアプリケーションの場合、切り替え中のダウンタイムは通常 5 秒以下になったことが公表されています(AWS: Amazon RDS ブルー/グリーンデプロイでダウンタイムが 5 秒未満に短縮、2026年1月)。
一方で、マネージド機能には対応範囲と前提条件があります。同機能の公式ドキュメントでは、対応するデータベースエンジンが限定されていること、特定の構成(一部のレプリカ構成など)では利用できないこと、切り替え後にリソースの識別子が変わるため関連する設定の見直しが必要になることなどが列挙されています(AWS: Limitations and considerations for Amazon RDS blue/gre…)。
- 切り替え速度: 速い(機能として最適化されている)
- 切り戻し速度: 方式による(データベース側は制約が大きい)
- 追加費用: 環境を二面持つ期間のリソース費用。旧環境を保持している間も課金が継続する
- 向くケース: 該当クラウドを利用中で、対応要件を満たしている場合
提案書で「クラウドの標準機能を使うので簡単です」と説明されている場合、自社の構成がその機能の対応要件を満たしているかは確認すべきポイントです。対応外の構成であれば、構成変更の作業が別途発生する可能性があります。
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他のリリース手法との違いと使い分け|カナリア・ローリングとの比較

ブルーグリーンデプロイメントは、ダウンタイムを避けるリリース手法のひとつであって、唯一の選択肢ではありません。提案を評価するうえでは、他の手法との違いを知っておくと判断の軸が増えます。
カナリアリリースとの違い
カナリアリリースは、新バージョンを一部の利用者だけに先行公開し、問題がないことを確認しながら公開範囲を段階的に広げていく手法です。
ブルーグリーンとの最大の違いは、切り替えが「一斉」か「段階的」かにあります。ブルーグリーンは全利用者を一度に新環境へ移すため、問題があれば全員が影響を受けます。カナリアは最初の影響を数パーセントの利用者に限定できる代わりに、新旧 2 つのバージョンが同時に動く期間が発生し、その間の挙動やデータの整合性を考慮した設計が必要になります。
観点 | ブルーグリーン | カナリアリリース |
|---|---|---|
切り替え単位 | 全利用者を一斉に | 一部の利用者から段階的に |
問題発生時の影響範囲 | 全利用者 | 先行公開分の利用者のみ |
新旧バージョンの並行稼働 | 原則なし | あり(設計上の考慮が必要) |
監視体制の要求水準 | 中(切り替え後の全体監視) | 高(利用者群ごとの比較監視) |
実装の複雑さ | 比較的シンプル | 振り分けと比較分析の仕組みが必要 |
判断の目安として、利用者数が多く、不具合の影響を最小化したいサービスではカナリアが、環境の切り替え自体をシンプルに保ちたい場合はブルーグリーンが向きます。カナリアリリースの詳細やリスク管理の観点は、カナリアリリースで個別に整理しています。
ローリングアップデートとの違い
ローリングアップデートは、複数台あるサーバーを 1 台ずつ順番に新バージョンへ入れ替えていく手法です。常に一定台数が稼働しているため、サービスを止めずに更新できます。
ブルーグリーンとの違いは、環境をもう一面用意しないことです。既存のサーバー群の中で入れ替えを進めるため、インフラ費用の増加はほとんどありません。その代わり、更新の途中では新旧のバージョンが混在した状態になり、切り戻しは「再び 1 台ずつ戻す」作業になるため時間がかかります。
観点 | ブルーグリーン | ローリングアップデート |
|---|---|---|
追加インフラ費用 | 環境二面分(期間限定も可) | ほぼ不要 |
切り戻し速度 | 速い(向き先を戻す) | 遅い(1 台ずつ戻す) |
更新中のバージョン | 混在しない | 一時的に混在する |
本番同等環境での事前確認 | できる | できない |
必要なサーバー台数 | 環境二面分 | 複数台構成であること |
インフラ費用を抑えたい場合はローリング、切り戻しの速さと事前確認を重視する場合はブルーグリーンという整理になります。
フィーチャーフラグと組み合わせる考え方
ここまでの 3 手法はいずれも「環境やサーバーの単位」で切り替える方法ですが、機能の単位で公開を制御する方法もあります。フィーチャーフラグと呼ばれる仕組みで、新機能をコードに含めたままスイッチで無効にしておき、任意のタイミングで有効化するというものです。
ブルーグリーンと組み合わせると、次のような運用が可能になります。
- 新機能をオフの状態にしたままブルーグリーンで環境を切り替える(この時点では利用者の見え方は変わらない)
- 環境の切り替えが安定していることを確認する
- 機能のスイッチを段階的にオンにする(問題があればスイッチを戻す)
この組み合わせにより、「環境切り替えに起因する問題」と「新機能に起因する問題」を切り分けられるという利点が生まれます。ブルーグリーンの導入費用が見合わない場合に、まずはこちらから検討するという選択肢もあります。詳細はフィーチャーフラグで解説しています。
自社の条件から選ぶ判断軸
4 つの手法を並べると、選択の軸は次のように整理できます。
判断軸 | ブルーグリーンが向く | 他の手法が向く |
|---|---|---|
利用者規模 | 中規模まで(一斉切り替えの影響が許容できる) | 大規模ならカナリア |
追加インフラ費用の許容度 | 期間限定でも二面分を許容できる | 許容できないならローリング |
DB スキーマ変更の頻度 | 少ない/変更を分割できる | 大きな変更が頻繁ならメンテナンス枠の併用 |
監視体制 | 切り替え後の全体監視ができる | 群別の比較監視ができるならカナリア |
事前確認の重要度 | 本番同等環境での確認が必須 | ステージングで十分ならローリング |
切り戻し速度の要求 | 数分以内に戻す必要がある | 許容時間が長いならローリング |
なお、これらは排他的な選択肢ではありません。通常のリリースはローリング、大きな変更のときだけブルーグリーンといった使い分けや、ブルーグリーンとフィーチャーフラグの併用も一般的です。提案が単一の手法に固定されている場合、「他の手法と比較したうえでの結論か」を確認する価値があります。
承認前に確認したいブルーグリーンデプロイメントの7つの確認事項
ここまでの内容を、ベンダー打合せでそのまま使える確認事項に落とし込みます。各項目には、そのまま口頭で使える質問文を添えました。
費用と構成に関する確認事項
確認1: どの切り替え方式を採用するのか
「切り替えはロードバランサー、DNS、クラウドのマネージド機能のどれで実現しますか。その方式を選んだ理由も教えてください」
方式によって切り替え速度・切り戻し速度・費用のすべてが変わります。DNS 方式であれば TTL の設定方針も併せて確認します。
確認2: 追加費用の内訳と、常時発生する分と一時的に発生する分の切り分け
「追加のインフラ費用について、常時発生する分と、リリース作業の期間のみ発生する分に分けて内訳を提示いただけますか」
「2 倍」という説明だけでは稟議は書けません。構成要素ごとに分けた内訳を求めるのがポイントです。あわせて、旧環境を保持している期間の課金についても確認します。
確認3: データベースをどう扱うのか
「データベースは二面用意しますか、それとも共有しますか。共有する場合、スキーマ変更を伴うリリースはどのような手順になりますか」
本記事で扱った制約が最も現れる部分です。共有する構成であれば後方互換を保つ変更手順の説明を、二面用意する構成であればデータ同期の方式と切り替え時の扱いの説明を求めます。
障害時の運用に関する確認事項
確認4: 切り戻しの判定基準と実行者
「切り替え後に問題が起きた場合、誰がどのような基準で切り戻しを判断しますか。判断の期限は設けますか」
エラー率・レスポンスタイムなどの具体的な閾値と、判断の期限(切り替えから何分以内か)を文書として残せる形で確認します。この期限は、データベースの差分がどこまで許容できるかと連動します。
確認5: 旧環境の保持期間と削除の判断
「切り替え後、旧環境はいつまで保持しますか。削除は誰がどのタイミングで実施しますか」
保持期間は費用に直結します。「念のため長めに残す」運用が、そのまま想定外の費用増につながらないよう、期間と責任者を明確にしておきます。
確認6: 切り替え時の処理中リクエストとセッションの扱い
「切り替えの瞬間に処理中だったリクエストはどう扱われますか。ログイン状態やカートの情報は引き継がれますか」
「ダウンタイムゼロ」の実態を確認する質問です。決済など中断が許されない処理がある場合は、その処理を名指しして挙動を確認してください。
契約・SLAに関する確認事項
確認7: SLA・利用規約・保守契約への影響
「今回の構成変更により、稼働率の目標値や保守契約の対象範囲に変更はありますか。メンテナンス告知の運用も変わりますか」
停止を伴わないリリースに移行すると、これまで「計画停止」として稼働率の計算から除外していた時間の扱いが変わる場合があります。顧客に SLA を提示しているサービスであれば、この機会に条件を見直す価値があります。あわせて、切り替え作業が保守契約の範囲内か、別途費用が発生するのかも確認しておくと安全です。
これら 7 項目に対する回答が揃えば、稟議に必要な情報はおおむね揃います。回答が曖昧な項目があれば、そこが導入後にトラブルになりやすい箇所だと考えて、書面で残しておくことをおすすめします。
ブルーグリーンデプロイメントが向くケース・向かないケース
最後に、自社に適しているかどうかの判断材料を整理します。導入しないという結論も、十分に合理的な選択です。
向くケース
- 24 時間稼働が前提の BtoC サービス: 停止できる時間帯が存在しないため、無停止リリースの価値が最も大きくなります
- 業務時間中に止められない基幹系システム: 停止のために夜間・休日作業が固定化している場合、工数削減効果が明確です
- リリース頻度が月数回以上: 頻度が高いほど、停止調整のコストと深夜対応の負担が積み上がります
- クラウド上で稼働し、構成の複製が容易: 環境の複製が数時間で完了する構成であれば、追加費用を期間限定に抑えられます
- 切り戻しの速さが事業上の要件: 障害時の最大影響時間を数分に抑えたい場合、切り戻しの速さが直接の理由になります
向かないケース
- 大規模なスキーマ変更を伴う改修が中心: リリースの分割が必要になり、想定した無停止化の効果が得られにくくなります
- オンプレミス環境で環境複製の初期投資が重い: 機器の追加購入が必要な場合、投資回収の見込みが立ちにくくなります
- 深夜停止が業務上すでに許容されている: 停止による実害が小さいのであれば、費用増に見合わない可能性があります
- リリース頻度が年数回: 削減できる工数が限られるため、常設の仕組みとして持つ意義が薄くなります
- 切り替え後の監視体制を確保できない: 切り替え判定と切り戻し判断を行う体制がないまま導入すると、仕組みが機能しません
向かない場合の代替案
導入を見送る場合でも、停止時間の負担を減らす方法はあります。
- メンテナンス時間そのものを短縮する: デプロイ作業の自動化により、停止時間を数十分から数分に縮める
- ローリングアップデートを検討する: 複数台構成であれば、追加費用をほぼかけずに無停止化できます
- フィーチャーフラグから始める: 機能単位の公開制御であれば、インフラ構成を変えずに段階的なリリースが可能です
- 適用範囲を限定する: システム全体ではなく、更新頻度の高い一部のコンポーネントだけをブルーグリーン構成にする
「全面導入か、現状維持か」の二択で考える必要はありません。段階的に適用する道筋を提示できれば、稟議は通しやすくなります。
まとめ
ブルーグリーンデプロイメントとは、同一構成の環境を 2 つ用意し、待機側に新バージョンを配置して確認したうえでアクセス先を切り替える、ダウンタイムを避けるためのリリース手法です。本記事の要点を整理します。
- 仕組み: Blue(稼働中)と Green(待機)を用意し、切り替えのたびに役割が入れ替わる。従来の停止型リリースと異なり、稼働中の環境を直接更新しない
- 「ゼロ」の但し書き: 切り替え時点の処理中リクエスト・DNS の TTL 残留・セッション情報の引き継ぎは、設計で対処すべき論点として残る
- 費用: 「2 倍」ではなく、構成要素ごとに「常時二重/期間限定/二重化不要」に分かれる。旧環境の保持期間はそのまま課金期間になる
- データベース: アプリケーションは切り戻せてもデータは切り戻せない。スキーマ変更を伴う場合は、新旧両対応の状態を経由する段階的なリリースが必要になる
- 他手法との使い分け: 大規模サービスならカナリア、費用を抑えるならローリング、機能単位の制御ならフィーチャーフラグ。併用も一般的
- 承認前の確認: 切り替え方式・費用の内訳・DB の扱い・切り戻し基準・旧環境の保持期間・処理中リクエストの扱い・SLA への影響の 7 項目
次に取るべき行動は明確です。手元の提案書について、「切り替え方式はどれか」「追加費用の内訳はどうなっているか」「データベースのスキーマ変更をどう扱うか」の 3 点をベンダーに確認してください。この 3 点の回答が揃えば、稟議に必要な「削減できる停止時間」と「増える費用」を並べて書ける状態になります。
そして、回答を受け取ったうえで「自社にはまだ早い」と判断することも、十分に価値のある結論です。ローリングアップデートやフィーチャーフラグ、メンテナンス時間の短縮といった代替案を含めて比較し、自社の条件に合った進め方を選んでください。
リリース方式の承認をはじめ、発注前・発注中・完了後の各フェーズで確認すべき項目を体系的に整理した資料として、システム開発 完全チェックリストをご用意しています。本記事の 7 つの確認事項とあわせて、社内の意思決定プロセスを見直す際にご活用ください。
リリース構成の見直しや、ベンダー提案の妥当性の整理でお困りの場合は、お問い合わせフォームからご相談ください。現状の運用体制のヒアリング段階からのご相談にも対応しています。
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- システム開発の発注を初めて担当する方
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よくある質問
- ブルーグリーンデプロイメントを導入すると、インフラ費用は本当に2倍になりますか?
常時2倍になるとは限りません。Green環境をリリース時のみ起動する運用なら追加費用は月に数時間〜数日分に抑えられますが、旧環境の保持期間が長いほど課金期間も延びるため、保持期間の設定が費用を左右します。
- 月1回程度のリリース頻度でも導入する価値はありますか?
リリース頻度が月数回以上、または深夜作業の負担が大きい場合は効果が出やすいですが、月1回程度で深夜停止がすでに許容されている場合は費用対効果が薄く、まずはメンテナンス時間の短縮やローリングアップデートの検討をおすすめします。
- データベースを含めて完全に無停止にすることはできますか?
アプリケーションは切り戻せますが、データベースのスキーマ変更は原則切り戻せません。新旧両対応のスキーマを経由する段階的なリリースが必要になり、その分工数と期間が増える点を踏まえて計画する必要があります。
- ベンダーから「クラウドの標準機能を使うので簡単」と言われた場合、何を確認すべきですか?
対応データベースエンジンが限定されていることに加え、一部のレプリカ構成では利用できない場合があり、切り替え後にリソースの識別子が変わるため関連設定の見直しが必要になることもあります。自社の構成がこれらの対応要件を満たしているかを事前に確認してください。
- カナリアリリースやローリングアップデートではなくブルーグリーンを選ぶべき判断基準は何ですか?
切り戻しの速さと本番同等環境での事前確認を重視するならブルーグリーンが向きます。追加インフラ費用を抑えたいならローリング、不具合の影響範囲を最小化したいなら大規模サービス向けのカナリアが適しています。



