委託先の開発会社から「AIエージェントを使って実装を効率化しています」と報告を受けたとき、あるいは社内のセキュリティ委員会から「委託先のAI利用状況を確認して報告してほしい」と指示されたとき、多くの発注担当者が最初に直面するのは「何を聞けばいいのか分からない」という壁です。禁止すれば安全に見えますが開発は止まり、許容すれば自分が説明責任を負うことになります。
この板挟みが解けない理由は、「二次利用」という言葉が指す範囲が人によってバラバラだからです。委託先は「学習には使っていません」と答え、法務は「利用規約を確認してください」と言い、監査は「ログはどこに残るのか」と聞いてきます。三者が別々の層の話をしているため、確認したつもりでも抜けが残ります。
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公表した「情報セキュリティ10大脅威 2026」の組織編では、「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」が8年連続で2位に入り、さらに「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が2026年に初選出で3位となりました(IPA 情報セキュリティ10大脅威 2026)。委託先とAI利用という二つの論点は、いま同時に管理が求められている領域です。
本記事では、AIエージェントの二次利用データを3つの層に分けて定義したうえで、発注時に委託先へ確認すべき7項目のチェックリスト、契約・NDAで押さえるべき条項、そして「全面禁止すべきケース」と「条件付きで許容してよいケース」の線引きを、発注者の立場から整理します。読み終えたときに、委託先へ送る質問リストと見積依頼書に追記する文言が手元に残ることを目指します。
なお本記事は確認項目と判断軸の整理であり、法的助言ではありません。個別の契約・案件についての最終判断は、必ず自社の法務部門や弁護士の確認を経てください。また各AIサービスの仕様・プラン体系・初期設定は頻繁に変更されるため、記載内容は2026年9月時点の一般的な考え方として参照し、具体的な設定状態は必ず各サービスの最新の利用規約と管理画面で確認してください。
フリーランス新法対応 業務委託発注の法律・契約リスク点検ガイド

この資料でわかること
業務委託でエンジニアに発注する企業担当者・法務担当者が、2024年11月に施行された「フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)」への対応を含め、業務委託契約に関する法律・契約実務を体系的に把握し、自社のコンプライアンス体制を整備できる状態にする。
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AIエージェントの二次利用データとは?3つの層で整理する

生成AIの二次利用とは、利用者が入力した内容やAIが生成した出力が、「そのやり取りに応答する」という本来の目的以外の用途で再利用されることを指します。実務上よく使われる呼び方ですが、法令上の定義語ではありません。だからこそ、話し手ごとに指している範囲がずれます。
発注者として管理するには、二次利用を次の3つの層に分解して考えると抜けが減ります。
層 | 何が起きるか | 発注者が確認すべきこと |
|---|---|---|
第1層: モデルの学習・改善への利用 | 入力・出力がモデルの再学習や評価データセットに使われる | 学習利用のオプトアウト設定、または契約上の学習利用禁止の有無 |
第2層: 事業者側でのログ保存・人手レビュー | 入力・出力が事業者のサーバーに一定期間保存され、不正利用の監視や品質改善のために人が閲覧しうる | 保持期間、保存リージョン、人手レビューの有無と条件 |
第3層: 第三者提供・再委託先での取り扱い | 推論基盤のクラウド事業者、監視ベンダー、連携先SaaSなど、AI事業者の先にいる別の事業者にデータが渡る | サブプロセッサーの一覧、再委託の承諾条件、越境移転の有無 |
多くの発注者が確認しているのは第1層だけです。「学習には使われません」という委託先の回答は第1層の話であり、第2層のログ保持と第3層の再委託については何も語っていません。この記事のチェックリストは、この3層すべてに質問を割り当てる構成になっています。
生成AIの二次利用と「学習利用」「第三者提供」の違い
3つの言葉は重なりながらも指す範囲が異なります。混同したまま委託先と会話すると、双方が「確認済み」と認識したまま論点が残ります。
- 学習利用: 第1層のみを指します。入力データがモデルの重みの更新に使われるかどうかという、技術的にきわめて限定された話です。
- 第三者提供: 個人情報保護法上の概念です。個人データを本人以外の第三者に渡す行為を指し、原則として本人の同意が必要になります。AI事業者に個人データを渡す行為がこれに該当するかは、事業者側での取り扱われ方によって変わります。
- 二次利用: 上記2つを含む、より広い実務上の総称です。ログ保存や人手レビューのように、学習でも第三者提供でもないが情報が事業者側に残る状態も含みます。
個人情報保護委員会は2023年6月2日に「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」を公表しています(個人情報保護委員会)。ここでは個人情報取扱事業者に対して、生成AIサービスに個人情報を含むプロンプトを入力する場合には、あらかじめ特定した利用目的の達成に必要な範囲内であることを十分に確認すること、そして入力した個人データが当該サービス提供事業者の機械学習に利用されないことを確認することが求められています。機械学習に利用される場合、個人情報保護法違反となる可能性が指摘されている点は、発注者が委託先に確認を求める根拠として押さえておく価値があります。
つまり「学習に使われないことの確認」は、単なる社内ルールではなく、監督官庁が明示的に求めている確認行為です。委託先に質問することは過剰な要求ではありません。
生成AIの入力データが学習に回る3つの経路
生成AIの入力データが学習に使われるかどうかは、単一のスイッチで決まるわけではありません。経路は主に3つあり、どれか1つでも開いていれば「学習に使われない」とは言い切れなくなります。
経路1: 契約プランと初期設定
同じサービスでも、個人向けの一般プランと法人向けプラン、API利用では、入力データの取り扱いの初期状態が異なるのが一般的です。個人向けプランでは学習利用がデフォルトで有効になっており、利用者自身が設定でオフにする必要がある場合があります。一方、法人向けプランやAPI利用では学習に利用しないことが規約や契約で定められていることが多くあります。ただし各サービスの仕様は変更されるため、委託先が使っている具体的なプランについて、最新の規約と管理画面で確認してもらう必要があります。
経路2: フィードバック送信・不具合報告
応答に対する「良い/悪い」の評価ボタンや、不具合報告フォームからの送信は、学習利用のオプトアウト設定とは別枠で扱われる場合があります。設定上は学習オフでも、開発者が良かれと思って押したフィードバックボタン経由で、そのやり取りの内容が事業者に共有される可能性があります。
経路3: 連携ツール・拡張機能側の規約
AIエージェントは単体で動くとは限りません。エディタの拡張機能、コードレビュー支援ツール、チャットボットの連携アプリなど、間に挟まるツールがそれぞれ独自の規約を持ちます。中核のAIサービスが学習に使わなくても、中継しているツールが自社のサービス改善のためにデータを保持することがあります。委託先が「どのモデルを使っているか」だけでなく「どのツール経由で使っているか」まで確認しなければ、この経路は見えません。
AIエージェントで二次利用の範囲が広がる理由
ここまでは生成AI全般の話です。AIエージェントの場合、二次利用として管理すべき対象がさらに広がります。理由は3つあります。
横断参照: チャット型の生成AIでは、利用者が意図的に貼り付けた内容だけが入力されます。一方AIエージェントは、与えられた権限の範囲でリポジトリ、ファイルサーバー、チケット管理システム、データベースなどを自律的に読みに行きます。利用者が「入力するつもりがなかった」情報が入力データに含まれる可能性があり、入力範囲を人が事前に列挙できません。
自律実行: エージェントは目的を達成するために複数のステップを自分で計画・実行します。「エラーの原因を調べて」という指示から、ログファイルの検索、設定ファイルの読み込み、本番相当データの参照へと連鎖することがあります。1回の指示に対する情報アクセスの量と範囲が、指示の文面からは推測できません。
中間出力の生成: エージェントは思考過程や作業計画、要約、コードの差分といった中間生成物を作ります。これらは元データの要約や再構成であり、機密情報の実質的な写しになりえます。にもかかわらず、契約書の「秘密情報」の定義が「発注者が提供した資料」に限定されていると、この中間出力は保護対象から漏れます。
この3点があるため、AIエージェントを使う委託先に対しては「何を入力しないか」というルールだけでは足りず、「どこに接続しているか」という権限設計まで確認する必要が出てきます。権限の切り分け方についてはAIエージェントの権限設計で詳しく整理しています。
委託先のAIエージェント利用でデータ利用範囲が問題になる理由
「委託先が使っているツールの規約は、委託先とツール事業者の間の話であって、発注者には関係ない」と考えたくなるところですが、この整理は成り立ちません。発注者には委託先を監督する責任が残り、かつ委託先が結ぶ契約を発注者は直接コントロールできないという非対称な構造があるためです。
個人情報を生成AIに委託先が入力した場合の責任の所在
個人情報保護法第25条は、個人データの取扱いを委託する場合、委託先に対して必要かつ適切な監督を行うことを個人情報取扱事業者に義務づけています。個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)では、この監督の具体的内容として、適切な委託先の選定、適切な内容の委託契約の締結、委託先における個人データの取扱状況の把握が挙げられています(個人情報保護委員会 個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編))。
つまり、委託先が自社の判断で顧客データを生成AIに入力した場合であっても、発注者側の監督が適切だったかが問われる構造になっています。「委託先が勝手にやったこと」で終わらせられるとは限りません。これが、情報システム部門の担当者が委託先のAI利用を確認しなければならない法的な背景です。
一方で、監督義務が求めているのは「取扱状況の把握」であって「AI利用の全面禁止」ではありません。把握できていない状態が問題なのであり、条件を定めて把握したうえで許容することは、監督義務の観点からも成立します。この点は、社内でAI利用の可否を議論する際の重要な前提になります。
なお、契約形態や責任分界点の設計全般についてはAIエージェント開発 契約の注意点も併せて参照してください。
AIエージェント経由の情報漏洩が発生する典型パターン
AIエージェントによる情報漏洩は、悪意ある攻撃よりも、権限設計と運用の隙間から発生するケースが想定されます。発注者が確認できる形に翻訳すると、次のようなパターンに整理できます。
パターン | 起きること | 発注者が確認できる形 |
|---|---|---|
権限の過剰付与 | 作業に不要なリポジトリやデータベースにもエージェントがアクセスできる状態になっている | エージェントに付与しているアクセス権限の一覧を提出してもらう |
本番データの混入 | テスト用のつもりで本番相当のデータをエージェントに参照させている | 開発環境で扱うデータのマスキング方針を確認する |
個人アカウントの併用 | 委託先の担当者が個人契約のAIアカウントを業務で使っている | アカウント種別(法人契約/個人契約)を申告してもらう |
ログの残存 | 入力内容が事業者側に一定期間残り、契約終了後も削除されていない | 保持期間と削除手続を書面で確認する |
出力物の再利用 | エージェントが生成した中間出力を、委託先が別案件のテンプレートとして流用する | 成果物と中間生成物の帰属・利用範囲を契約で定義する |
連携ツールの追加 | プロジェクト途中で新しい拡張機能やSaaS連携が追加され、経路が増える | ツール追加時の事前申告義務を定める |
このうち発注者が最も気づきにくいのは、最後の「ツールの追加」です。契約時点で確認したツール構成は、半年後には変わっている可能性があります。一度きりの確認ではなく、変更時の申告を運用に組み込む必要があるのはこのためです。
再委託・外部ツール連携が生む「見えない経路」
もう一つの死角が、再委託と外部ツールの多層構造です。発注者から見ると委託先は1社ですが、その先には次のような層が積み重なっています。
- 委託先の開発会社
- 委託先が起用しているフリーランス・協力会社
- 委託先が契約しているAIサービス事業者
- AIサービス事業者が利用しているクラウド基盤・監視ベンダー(サブプロセッサー)
- エージェントが接続している外部ツール・SaaS
発注者が直接契約を結んでいるのは1のみです。2以降には、発注者の契約条件が自動的には伝播しません。伝播させる唯一の手段は、委託先との契約に「同等の義務を再委託先に課すこと」を明記し、その履行状況の報告を求めることです。
ここで現実的な落としどころを決めておくことも重要です。4のサブプロセッサーまで個社ごとに審査するのは、中堅企業の情報システム部門の工数では現実的ではありません。多くの場合、3のAIサービス事業者が公開しているデータ処理条項(DPA)やサブプロセッサー一覧の提示を委託先経由で受け、その内容が自社の基準を満たすかを確認する、というところが妥当な深さになります。どこまで掘るかを事前に決めておかないと、確認作業が終わらなくなります。
発注時に確認すべきAIエージェントのデータ取り扱いチェックリスト

ここからが本記事の中核です。AIエージェントのデータ取り扱いについて、委託先にそのまま送れる7項目の質問と、その回答をどう評価するかを整理します。
重要なのは、質問を送ることではなく「どんな回答なら合格とするか」を先に決めておくことです。合格ラインが決まっていないと、曖昧な回答をそのまま受け取ってしまい、確認したという記録だけが残ります。
# | 何を聞くか | 合格ラインの目安 | 回答が曖昧な場合の追加質問 |
|---|---|---|---|
1 | 使用するAIツール・モデル・契約プランの種別(個人プラン/法人プラン/API/自社ホスティング) | サービス名・プラン名・契約主体が具体名で列挙されている | 「開発者個人のアカウントを業務で使用しているケースはありますか」 |
2 | 学習利用のオプトアウト状態と、それを裏付ける証跡 | 管理画面のスクリーンショット、または規約・契約書の該当条項の提示がある | 「フィードバック送信機能や不具合報告経由でデータが共有される経路は無効化されていますか」 |
3 | 入力データのログ保持期間・保存リージョン・人手レビューの有無 | 保持期間が日数で示され、保存リージョンと人手レビューの条件が説明されている | 「ゼロデータ保持(ZDR)の設定は利用可能ですか。可能な場合、適用されていますか」 |
4 | AIエージェントが接続しているシステム・データソースの範囲 | 接続先の一覧と、各接続に付与している権限(読み取り/書き込み)が示されている | 「本番環境のデータベースやファイルサーバーへの接続はありますか」 |
5 | 再委託先・連携ツールでの取り扱い | 再委託先の有無、連携ツール名、それぞれに同等の義務を課している旨が示されている | 「AIサービス事業者のサブプロセッサー一覧を提示いただけますか」 |
6 | 操作ログの取得可否と発注者への開示可否 | エージェントの操作ログを取得しており、求めに応じて開示できると回答している | 「開示可能なログの粒度(実行コマンド単位/セッション単位)はどの程度ですか」 |
7 | 契約終了時のデータ・ログ・中間生成物の削除手順 | 削除の対象範囲・時期・完了報告の方法が示されている | 「AIサービス事業者側に残るログの削除は、どの手続で実施しますか」 |
この7項目は、先ほど整理した3つの層に対応しています。項目1・2が第1層(学習利用)、項目3・6が第2層(ログ保存と人手レビュー)、項目5が第3層(第三者提供・再委託)、項目4がAIエージェント特有の権限範囲、項目7が契約終了時の後始末です。
以降では、特に判断に迷いやすい項目について補足します。
使用ツールとプラン種別を最初に確認する理由
最初にプラン種別を聞くのは、これが後続のすべての質問の前提になるからです。プランが分かれば、そのサービスの規約を読むことで学習利用・ログ保持・サブプロセッサーの一次情報にたどり着けます。逆にプランが不明なままだと、以降の回答が正しいかを発注者側で検証できません。
特に注意したいのが、法人としての契約と、開発者個人のアカウント利用が混在しているケースです。開発会社が法人プランを契約していても、個々のエンジニアが使い慣れた自分のアカウントで作業していれば、法人プランの保護は及びません。項目1の追加質問に「個人アカウントの業務利用の有無」を必ず入れておく理由がここにあります。
なお、この質問は委託先を疑うためのものではありません。委託先の側も「どこまで聞かれるのか」が分からないまま作業していることが多く、確認項目が明示されることで社内整理が進むという側面があります。質問リストは、疑いではなく前提合わせの道具として渡すのが実務的です。
AIに学習させない設定の状態をどう証跡として確認するか
AIに学習させない設定については、「オフにしています」という口頭・メールでの回答だけでは、監査や社内報告の証跡としては弱いのが実情です。次のいずれかの形で裏付けを取っておくと、後日の説明に耐えます。
- 管理画面の状態: 学習利用の設定項目が無効になっている画面のスクリーンショット。取得日が分かる形で保管する
- 規約・契約条項: 法人プランやAPI利用で、入力データを学習に利用しない旨が規約や契約に明記されている場合、その条項の該当箇所を特定する
- データ処理条項(DPA): AIサービス事業者が提供しているDPAを委託先経由で入手し、学習利用・保持期間・サブプロセッサーの記載を確認する
このうち最も証跡として強いのは規約・契約条項です。設定はいつでも変更できますが、規約上の約束は変更時に通知される可能性が高く、後から確認もできます。スクリーンショットだけに依存すると、「確認した時点ではオフだった」という一時点の記録しか残りません。
また、設定の確認は一度で終わりにせず、契約更新のタイミングや半期ごとに再取得する運用にしておくと、サービス側の仕様変更にも追随できます。
ログ保持期間・保存先・人手レビューの確認方法
ログ保持は第2層の中心的な論点でありながら、確認が漏れやすい項目です。学習に使われなくても、入力内容が事業者側に一定期間保存され、不正利用の監視のために人が閲覧しうる設計になっているサービスは珍しくありません。
確認すべきは次の3点です。
- 保持期間: 何日間保存されるのか。ゼロデータ保持の設定が選べる場合、それが適用されているか
- 保存リージョン: どの国・地域のデータセンターに保存されるのか。海外リージョンの場合、越境移転の論点が発生する
- 人手レビューの条件: どのような場合に人が閲覧しうるのか。不正利用の疑いがある場合に限定されているのか、品質改善のためのサンプリングも含むのか
保存リージョンについては、自社が顧客と結んでいる契約に「日本国内保管」の条項が入っていないかを先に確認しておくと、判断が速くなります。顧客との既存契約が制約になっている場合、AI利用の可否は自社の判断だけでは決められません。
再委託・連携ツールと契約終了時の削除の確認方法
再委託と契約終了時の削除は、確認の深さを事前に決めておかないと際限がなくなる領域です。次の線引きが一つの目安になります。
再委託について確認する範囲
- 委託先が起用するフリーランス・協力会社の有無と、その人員にも同等のAI利用ルールが適用されているか(ここは必ず確認する)
- 委託先が利用するAIサービス事業者のDPA・サブプロセッサー一覧(提示を求めるが、個社ごとの審査までは求めない)
- サブプロセッサーの変更時に委託先経由で通知が来る運用になっているか
契約終了時の削除について確認する範囲
- 委託先の環境(ローカル、社内サーバー、リポジトリ)からのソースコード・設計資料・出力物の削除
- エージェントの実行ログ・中間生成物の削除
- AIサービス事業者側に残るログについて、削除申請の手続があるか、または保持期間の経過を待つのか
- 削除完了の報告書の提出
最後の「削除完了の報告書」は、形式的に見えて重要です。報告書という成果物を定義しておくことで、削除作業がプロジェクト終了時のタスクとして計画に組み込まれます。定義がないと、クローズ作業の中で優先度が下がり、実施されないまま案件が終わります。
委託先との生成AI利用に関する契約・NDAでデータ利用範囲を明記する
チェックリストの回答を得たら、次はそれを契約に固定します。口頭やメールでの確認だけでは、担当者が変わった時点で前提が失われますし、問題が起きたときに責任の所在を示せません。
以下は条項の趣旨の整理であり、そのまま使える条文案ではありません。実際の起案・レビューは必ず法務部門または弁護士に依頼してください。
生成AI時代の秘密保持契約で定義を見直すべき範囲
AI秘密保持契約という独立した契約類型があるわけではなく、既存のNDAの定義を見直すことで対応するのが基本です。生成AIを前提にすると、従来のNDAでは次の3点が抜けやすくなります。
1. 秘密情報の定義に「入力内容」と「中間生成物」を含める
多くのNDAは秘密情報を「開示者が受領者に開示した情報」と定義しています。この定義だと、委託先がAIエージェントに入力したプロンプト、エージェントが生成した要約や作業計画、コードの差分といった中間生成物が、秘密情報に該当するかが曖昧になります。「秘密情報を加工・要約・再構成したものを含む」旨を明記することで、この隙間が埋まります。
2. 「AIサービスへの入力」を開示・提供行為として位置づける
秘密情報を第三者に開示してはならない、という条項があっても、AIサービスへの入力がそれに該当するかは解釈が分かれる余地があります。外部の生成AIサービスへの入力を、事前承諾を要する行為として明示的に列挙しておくと、解釈の争いを避けられます。
3. 保存・保持の禁止と、許容する場合の条件
「複製してはならない」という条項は、AIサービス側でのログ保持を想定していません。事業者側のログ保持を許容するのか、許容する場合の期間と条件をどうするのかを、明示的に決めておく必要があります。
再学習禁止・削除・監査ログ開示の3条項
秘密情報の定義を見直したうえで、AIエージェント利用を前提に追加を検討する条項が主に3つあります。
再学習・二次利用の禁止
委託先自身が受領した情報を自社のモデル学習に使わないこと、および委託先が利用するAIサービス事業者が学習に利用しない設定・契約であることを、委託先の責任で確保する旨を定めます。前者と後者は別の話なので、両方を書き分けることが重要です。委託先が「自社では学習させていません」と言っても、使っているサービスの設定が学習オンであれば意味がありません。
データ・ログの削除
削除の対象範囲(ソースコード、設計資料、出力物、実行ログ、中間生成物)、時期(契約終了後◯日以内)、方法、完了報告の義務を定めます。AIサービス事業者側に残るログについては、委託先が削除申請を行う義務と、事業者の仕様上削除できない場合の報告義務に分けて書くと現実的です。
監査・報告と操作ログの開示
発注者が求めた場合に、利用ツールの一覧、設定状態、エージェントの操作ログを開示する義務を定めます。あわせて、利用ツールを変更・追加する場合の事前通知義務と、インシデント発生時の通知期限(例: 認知後◯時間以内)を規定します。ここが実務上いちばん効きます。契約に開示義務が書かれていれば、定例での確認が「お願い」ではなく「合意事項の履行」になり、確認作業が回りやすくなります。
公開されているモデル契約書・ガイドラインの使い方
条項をゼロから起案する必要はありません。公的機関が公開している資料を出発点にできます。
- 特許庁「オープンイノベーション促進のためのモデル契約書(AI編)」: 秘密保持契約書の逐条解説が公開されており、AI開発を前提としたNDAで何を定義すべきかの考え方を確認できます(特許庁 オープンイノベーションポータルサイト)。想定シーンが記載されているため、自社の状況との差分を見つけやすい構成になっています
- 経済産業省「AI・データの利用に関する契約ガイドライン 1.1版」: データの利用等に関する契約と、AI技術を利用するソフトウェアの開発・利用に関する契約の主な課題・論点・契約条項例が整理されています(経済産業省 リアルデータの共有・利活用)。データの帰属や利用範囲の考え方を整理する際の土台になります
- 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.1版)」: AIの開発・提供・利用にあたって必要な取組の基本的な考え方が示された非拘束的なガイドラインです(AI事業者ガイドライン(第1.1版))。社内のAI利用ポリシーや委託先向け基準を作る際の枠組みとして参照できます
これらはいずれもAIエージェント特有のログ・自律実行・再委託の論点を直接扱っているわけではないため、そのまま貼り付けるのではなく、本記事のチェックリスト7項目で得た回答を反映させる形で使うのが現実的です。作成した条項案は必ず法務部門のレビューを経てください。
全面禁止すべきケースと条件付きで許容してよいケースの線引き

ここまでの確認を進めると、次に必ず出てくるのが「で、結局どこまで許すのか」という問いです。全面禁止にすれば説明は楽ですが、副作用があります。全面許容にすれば開発は速いですが、説明責任を果たせません。
判断を属人的にしないために、データの区分と利用形態の2軸でマトリクスを作り、社内で合意しておくことをおすすめします。
データ区分×利用形態の線引きマトリクス
データ区分は次の3つに分けます。
- 区分A: 個人情報・要配慮個人情報(顧客名簿、従業員情報、健康・信条に関する情報、マイナンバー等)
- 区分B: 営業秘密・設計資産(未公開の設計書、ソースコード、価格情報、業務ロジック、取引条件)
- 区分C: 公開済み・非機密情報(公開されているAPI仕様、OSSのコード、一般的な技術質問)
利用形態は3つに分けます。
- 形態1: 個人向けプラン(個人契約・消費者向けプラン)
- 形態2: 法人向けプラン(事業者向け契約で学習利用の扱いが規約・契約に定められているもの)
- 形態3: API・自社環境(API経由の利用、自社クラウドテナント内での実行、ローカルモデル)
この2軸を組み合わせると、次のような線引きになります。
形態1: 個人向けプラン | 形態2: 法人向けプラン | 形態3: API・自社環境 | |
|---|---|---|---|
区分A: 個人情報 | 禁止 | 原則禁止(仮名化・匿名化した場合のみ個別承諾で検討) | 条件付き許容(DPA締結・保存リージョン確認・ログ最小化・利用目的の範囲内であることの確認が前提) |
区分B: 営業秘密・設計資産 | 禁止 | 条件付き許容(学習利用オフの証跡・ログ保持期間の確認・操作ログ開示が前提) | 許容(設定確認と監査ログの取得を前提) |
区分C: 公開情報 | 条件付き許容(成果物の権利・ライセンス面の確認のみ) | 許容 | 許容 |
このマトリクスの使い方は、委託先ごとに「どの区分のデータを、どの形態で扱うか」を1枚で合意することです。区分Aを扱う案件で委託先が形態1を使っているなら、そこが交渉ポイントになります。逆に、区分Cしか扱わない調査業務で形態1を禁止しても、リスク低減の効果はほとんどありません。
条件付き許容のセルについては、条件の中身を必ず文書に落としてください。「条件付きOK」とだけ書かれたマトリクスは、運用段階で「条件を満たしているか誰も確認していない」状態を生みます。
なお、区分Aの取り扱いは個人情報保護法の規律が直接かかる領域です。マトリクスの適用前に、自社の個人情報保護責任者と法務部門の確認を経ることを前提としてください。
全面禁止を選んだ場合に発注側が負うコスト
「区分にかかわらず一律禁止」という選択肢も当然あります。ただし、それが無コストの安全策ではないことは、意思決定の前に共有しておくべきです。
- 見積単価の上昇: 委託先がAI活用を前提に生産性を織り込んで見積もっている場合、禁止するとその前提が崩れます。工数見積が積み増しになるか、単価が上がるかのいずれかで吸収されます
- 納期の伸長: 定型的なコード生成・テスト作成・ドキュメント整備にかかる時間が増え、スケジュールに影響します
- 委託先の選択肢が狭まる: AI活用を前提に体制を組んでいる開発会社やフリーランスが、条件面で折り合わず受注を見送る可能性があります
- シャドー利用の発生: これが最大のリスクです。禁止したにもかかわらず現場判断で使われた場合、発注者は利用実態をまったく把握できません。把握できていない状態は、条件付きで許容して把握している状態より監督義務の観点で不利になります
- 確認コストは消えない: 禁止しても「使っていないこと」の確認は必要です。確認作業そのものはなくなりません
つまり全面禁止は、リスクをゼロにする選択ではなく、コストと不確実性の配分を変える選択です。この整理を持って社内の議論に臨むと、「なぜ条件付き許容にしたのか」を説明しやすくなります。
判断に迷ったときの社内エスカレーション基準
情報システム部門が単独で判断すべきでないケースを、あらかじめ決めておきます。基準がないと、判断を抱え込むか、逆にすべてを法務に投げることになり、どちらも機能しません。
次のいずれかに該当する場合は、情報システム部門で完結させず上申する、という線引きが一つの目安になります。
- 要配慮個人情報・特定個人情報(マイナンバー)が扱われる可能性がある → 個人情報保護責任者・法務部門へ
- 自社が顧客と結んでいる契約に、再委託や第三者提供の事前承諾条項がある → 営業部門経由で顧客への確認を先行させる
- データの保存リージョンが海外になる(越境移転が発生する) → 法務部門へ
- 委託先が確認事項への回答を拒否する、または回答が2回以上曖昧なまま → 調達・購買部門と連携し、契約条件の見直しを検討
- インシデントの兆候がある(意図しないデータ参照が判明した等) → 定められたインシデント対応フローへ即時移行
この5つを社内で合意しておけば、日々の判断は情報システム部門で回しつつ、重い論点だけを確実に上げられます。
確認結果を見積依頼・要件定義・運用に落とし込む手順

チェックリストとマトリクスを作っても、それが個別案件の一度きりの作業で終わっては意味がありません。次の発注でも同じ基準を使えるよう、既存のプロセスに埋め込みます。
見積依頼書・RFPに入れる記載例
最も効果が高いのは、見積依頼の段階で確認事項を伝えることです。契約直前に持ち出すと交渉が難航しますが、見積前であれば委託先も条件を織り込んで見積もれます。
見積依頼書に追記する文言としては、次のような1〜2文が出発点になります。
本件の遂行にあたり生成AI・AIエージェントを利用される場合は、利用予定のサービス名・契約プラン・入力データが提供事業者の機械学習に利用されない設定または契約であることを、提案書にご記載ください。
当社が別途指定する機密区分に該当する情報については、当社の事前の書面による承諾なく、外部の生成AIサービスへ入力しないものとします。
前者は情報提供の依頼、後者は制約の提示です。両方を入れることで、委託先は「使ってよいが申告が必要」と理解でき、隠して使うインセンティブが下がります。
あわせて、先ほどのチェックリスト7項目を別紙として添付する形にしておくと、提案時点で回答が揃います。案件ごとに質問を作り直す必要がなくなり、複数社を比較する際の評価軸も揃います。
キックオフと定例で確認を継続する仕組み
発注後は、確認を単発イベントから継続プロセスに変えます。組み込む先は既存の会議体で十分です。
- キックオフ: 利用するAIツール・接続先システム・データ区分の合意内容を議事録に残す。ここで残した記録が、後日の監査対応の一次資料になります
- ツール変更時: 新しいAIツール・拡張機能・SaaS連携を追加する場合の事前申告を、契約上の義務として運用に反映する
- 定例(月次): 議題に「AI利用状況の変更有無」を常設項目として置く。変更がなければ「変更なし」と記録するだけで、記録の連続性が保てます
- 四半期ごと: 利用ツール一覧と設定状態の再提出を求める。サービス側の仕様変更に追随するための棚卸しです
- 契約終了時: 削除完了報告書の受領をクローズ条件に含める
この5点を運用手順書に書いておけば、担当者が交代しても確認が途切れません。
社内AI利用ポリシーとの接続
委託先向けの基準は、社内のAI利用ポリシーと同じ機密区分を使うのが効率的です。区分が二重管理になると、どちらを基準に判断すべきかで現場が混乱します。
社内ポリシーが先にある場合は、その機密区分をそのまま委託先向けマトリクスの「データ区分」に流用し、利用形態の軸だけを追加します。社内ポリシーがまだ整備されていない場合は、委託先向けの基準を先に作ると、社内適用時に整合が取れず作り直しになりがちです。社内向けのルール整備から着手する方が結果的に早く、その手順はChatGPT社内利用ルール策定テンプレートで具体的に整理しています。
また、社内ポリシーと委託先向け基準の両方を、AI事業者ガイドラインが示す枠組みに沿って位置づけておくと、監査や取引先からの照会に対して「何を根拠に設計したか」を説明しやすくなります。
まとめ|AIエージェントの二次利用データは「聞き方」を決めれば管理できる
AIエージェントの二次利用データをめぐる問題は、技術の問題というより「何を、どの粒度で、いつ聞くか」が決まっていないことに起因します。本記事で整理した流れを振り返ります。
- 3つの層で定義する: 二次利用を「モデルの学習・改善」「事業者側のログ保存と人手レビュー」「第三者提供・再委託」の3層に分ける。「学習には使っていません」という回答は第1層の話でしかない
- 7項目のチェックリストで聞く: 使用ツールとプラン種別、学習オプトアウトの証跡、ログ保持期間と保存リージョン、エージェントの接続範囲、再委託・連携ツール、操作ログの開示、契約終了時の削除。質問と同時に「どんな回答なら合格か」を先に決めておく
- 契約に固定する: 秘密情報の定義に入力内容と中間生成物を含め、再学習禁止・削除・監査ログ開示の3条項を検討する。特許庁のモデル契約書や経済産業省のガイドラインを出発点にし、法務部門のレビューを経る
- 線引きマトリクスで判断する: データ区分(個人情報/営業秘密・設計資産/公開情報)× 利用形態(個人向けプラン/法人向けプラン/API・自社環境)で禁止・条件付き許容・許容を決め、条件の中身まで文書化する
- 見積依頼と運用に埋め込む: 見積依頼書に1〜2文を追記し、キックオフ・定例・四半期棚卸し・契約終了時のクローズ条件として運用に載せる
全面禁止は安全な選択に見えますが、コストの上昇と、把握できないシャドー利用という別のリスクを生みます。監督義務が求めているのは禁止ではなく取扱状況の把握です。条件を定義して合意し、その履行を継続的に確認する方が、説明責任を果たすうえでも現実的です。
まずは委託先1社を選び、本記事のチェックリスト7項目をそのまま送るところから始めてみてください。回答が返ってきた時点で、自社にとっての論点がどこにあるかが具体的に見えてきます。
関連情報
外部委託時の契約・法務面の点検項目を体系的に確認したい方は、フリーランス新法対応 業務委託発注の法律・契約リスク点検ガイドをご覧ください。業務委託の発注時に押さえるべき契約・法務の確認事項をまとめています。
外部委託時のAI利用範囲の設計や、開発体制の見直しについてご相談がある場合は、お問い合わせフォームからご連絡ください。要件の整理段階からご相談いただけます。
フリーランス新法対応 業務委託発注の法律・契約リスク点検ガイド

この資料でわかること
業務委託でエンジニアに発注する企業担当者・法務担当者が、2024年11月に施行された「フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)」への対応を含め、業務委託契約に関する法律・契約実務を体系的に把握し、自社のコンプライアンス体制を整備できる状態にする。
こんな方におすすめです
- フリーランス新法への対応状況を社内で点検したい企業担当者
- 業務委託契約書・NDAの記載事項を確認したい法務担当者
- 偽装請負リスクを把握し指揮命令の境界線を整理したい開発マネージャー
入力いただいたメールアドレスにPDFをお送りします。
よくある質問
- 委託先が「学習には使っていません」と回答すれば、それ以上の確認は不要ですか?
不十分です。その回答は「モデルの学習・改善への利用」という第1層の話にすぎず、事業者側のログ保存・人手レビュー(第2層)や再委託先・第三者提供(第3層)は別に確認が必要で、特に契約終了後もログの保持期間内は事業者側に情報が残るため注意してください。
- 個人情報を扱わない案件でも、委託先にAI利用状況の確認は必要ですか?
必要です。個人情報を含まない案件であっても、営業秘密や未公開の設計資産(区分B)を扱う場合は法人向けプランでも条件付き許容が基準となり、学習利用オフの証跡やログ保持期間の確認が前提になるため、確認自体を省略すべきではありません。
- 委託先が複数のAIツールを併用している場合、チェックリストは1回送れば足りますか?
足りません。学習利用の設定やログ保持条件はツール・プランごとに異なるため、委託先が使用する全てのAIツール・連携先それぞれについて7項目を確認する必要があり、たとえばコーディング支援ツールとチャットボットを併用している場合は両方の設定を個別に確認してください。
- 既存のNDAにAI利用に関する条項がない場合、契約を結び直す必要がありますか?
結び直しは必須ではありません。秘密情報の定義に入力内容・中間生成物を含める旨や、再学習禁止・削除・監査ログ開示の3条項を追加する覚書・特約で対応するのが現実的で、既存NDAへの追記の方が委託先との合意形成もスムーズに進みます。
- AI事業者のさらに先にいるサブプロセッサーまで個別に審査すべきですか?
個社ごとの審査は中堅企業の情シス工数では現実的ではありません。AI事業者が公開するDPAやサブプロセッサー一覧の提示を委託先経由で受け、自社基準を満たすかを確認する程度が妥当な深さで、どこまで掘るか事前に線引きを決めておくことが実務上重要です。
- AI利用を全面禁止にすればシャドー利用のリスクは避けられますか?
避けられません。禁止しても現場判断で使われる可能性があり、その場合は利用実態がまったく把握できなくなり、この状態は条件を定めて許容し把握している場合よりも監督義務の観点でむしろ不利になるため、条件付きで許容する方が現実的な対応です。



