「副業に興味はあるけれど、うちの会社は副業禁止かもしれない」。そう思って、最初の一歩を踏み出せずにいるエンジニアの方は少なくありません。収入をもう少し増やしたい、本業以外の技術に触れてスキルの幅を広げたい。そんな前向きな気持ちがあっても、「就業規則で禁止されていたら」「バレて評価が下がったら」という不安が先に立ってしまいます。
実は、就業規則を最後まで読んだことがある人はそれほど多くありません。入社時に渡された書類のどこかに副業のルールが書いてあった気はするけれど、正確には覚えていない。周囲に副業をしている同僚もおらず、誰に聞けばよいかも分からない。こうして不安だけが先行して立ち止まってしまうのは、自然なことです。
ですが、結論からお伝えすると、副業は法律で禁止されているわけではありません。たとえ就業規則に「副業禁止」と書かれていても、正しく確認し、合法的かつ正攻法で続けていく道は十分に残されています。大切なのは、隠れてコソコソ続ける方法ではなく、リスクを正しく評価して後ろめたさなく続けられる形を選ぶことです。
本記事では、就業規則で副業規定を確認する方法から、禁止規定にどこまで強制力があるのか、禁止でも選べる副業の形、会社へ申請して堂々と続けるための伝え方までを順に解説します。読み終えるころには、自分のケースで何から手をつければよいか、その道筋が見えているはずです。
まず就業規則で副業禁止規定を確認する方法
副業を考えたとき、最初にやるべきことは「自分の会社の就業規則を確認する」ことです。ここを飛ばして体験談や副業ランキングばかり読んでいても、不安は解消されません。まずは事実を確認しましょう。
就業規則のどの章に副業規定があるか
副業に関するルールは、就業規則の決まった場所に書かれていることが多いです。確認すべきは主に次の3つの章です。
- 服務規律・遵守事項: 従業員が守るべき行動ルールをまとめた章。「許可なく他社の業務に従事してはならない」といった形で副業規定が置かれやすい箇所です。
- 副業・兼業に関する章: 副業を制度化している会社では、独立した章を設けて申請手続きまで定めていることがあります。
- 懲戒事由: 違反時の処分を定めた章。副業規定に違反した場合の扱いが書かれていることがあります。
この3つの章を探し、「副業」「兼業」「他社」「許可」「届出」といったキーワードを目で追ってみてください。
「禁止」「許可制」「届出制」の違いと見分け方
副業規定は、すべてが「全面禁止」ではありません。実際には次の3パターンに分かれ、自分がどれに当たるかで取るべき行動が変わります。
- 全面禁止: 「副業を行ってはならない」と書かれているパターン。ただし、後述するとおり一律禁止が常に有効とは限りません。
- 許可制: 「会社の許可を得た場合に限り副業ができる」というパターン。申請して認められれば堂々と続けられます。
- 届出制: 「副業を行う場合は事前に届け出ること」というパターン。許可制よりハードルが低く、届け出れば原則認められます。
近年は国の方針もあり、全面禁止から許可制・届出制へ移行する企業が増えています。許可制・届出制であれば、堂々と始められる可能性は高いといえます。
就業規則が見当たらない・曖昧なときの確認先と聞き方
そもそも就業規則がどこにあるか分からない場合もあるでしょう。労働基準法では、常時10人以上を雇う事業場には就業規則の作成と従業員への周知(誰でも見られる状態にしておくこと)が義務づけられています。社内ポータルや共有フォルダ、人事・総務に置かれているはずなので、まずはそこを探してみてください。
規定を読んでも「許可が必要なのか分からない」と曖昧なときは、人事・労務に直接確認するのが確実です。その際は「副業を考えているのですが、当社では何か手続きが必要でしょうか」と制度の確認という形で聞くと角が立ちません。いきなり「副業していいですか」と尋ねるより、ルールを正しく把握したいという姿勢で相談する方がスムーズです。
エンジニアの副業禁止規定にどこまで強制力があるか
就業規則に「副業禁止」と書かれていると、「もう一切できない」と諦めてしまいがちです。しかし、その規定がどこまで強制力を持つのかを理解しておくと、過度に怯える必要がないことが分かります。
副業は法律で禁止されていない
大前提として、副業そのものを禁止する法律はありません。勤務時間外をどう過ごすかは、本来は労働者の自由に委ねられている部分です。
国も副業・兼業を後押しする方向へ動いています。厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、労働者の自律的なキャリア形成を支援する観点から、副業・兼業を原則として認める方向性が示されています。一律の全面禁止は、合理的な理由がなければ認められにくいと考えられています(出典: 厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説」2025年3月版)。
つまり、就業規則に「副業禁止」と書いてあるからといって、それが無条件に有効で、どんな副業も一切できないというわけではないのです。
それでも企業が制限できる4つのケース
とはいえ「何をやってもいい」という結論にはなりません。前述のガイドラインでも、企業が副業を制限・禁止できる正当な理由として、主に次の4つのケースが挙げられています。
- 労務提供上の支障: 副業による疲労や時間の圧迫で、本業に悪影響が出る場合。
- 業務上の秘密の漏洩: 他社での副業を通じて、自社の企業秘密や機密情報が漏れるおそれがある場合。
- 競業・利益相反: 自社と競合する事業に従事したり、自社の利益と相反する立場に立ったりする場合。
- 企業の名誉・信用の毀損: 副業の内容が会社のブランドや社会的信用を傷つけるおそれがある場合。
逆にいえば、これらに該当しない範囲であれば、企業が一方的に制限する正当な理由は乏しくなります。自分が始めようとしている副業がこの4つに触れないかを点検することが、リスク評価の出発点です。
エンジニアが特に注意すべき利益相反・情報漏洩
エンジニア、とりわけSESや受託開発に携わる方が特に気をつけたいのが、「競業・利益相反」と「秘密漏洩」です。
たとえば、本業で受託している顧客の競合企業の開発を副業で請け負うと、利益相反に直結します。本業のプロジェクトで得た設計やソースコード、ノウハウを副業先に流用すれば、秘密漏洩として深刻なトラブルになりかねません。これは就業規則以前に、契約や信義の問題でもあります。
安全圏に立つには、「本業と競合しない領域」「本業の情報を持ち込まない案件」を選ぶことが鉄則です。技術スキルそのものは自分の資産ですが、特定の顧客情報や成果物は会社・顧客のものである、という線引きを意識しておきましょう。
副業禁止でも合法的に副業できる3つのケース
禁止規定は無条件に強くはないものの、制限される正当な理由もある。では、リスクを抑えながら現実的に選べる副業にはどんな形があるのでしょうか。ここでは「続けやすさ」の観点から3つのケースに整理します。
雇用契約が発生する副業と業務委託の違い
まず押さえたいのが、副業の「契約形態」です。副業は大きく、雇用契約を結ぶ形(アルバイト型)と、業務委託契約で請け負う形(フリーランス型)に分かれます。
ここがエンジニアにとって重要な判断軸になります。雇用契約を結ぶアルバイト型は、労働時間が本業と通算される仕組みがあり、会社が把握しやすくなります。本業と副業の労働時間を合算して残業代を計算する必要が生じるため、本業への届け出が求められやすく、就業規則の網にもかかりやすいのです。
一方、業務委託は「成果物や業務の完成に対して報酬を受け取る」形態で、労働時間の通算は原則発生しません。働く時間や場所を自分でコントロールしやすく、本業と両立しやすいのが特徴です。エンジニアがスキルを活かして副業するなら、業務委託型の方が選びやすいケースが多いといえます。
ケース1: 労務提供を伴わない副業
株式や投資信託などの資産運用、不要品の販売(フリマアプリ等)は、そもそも「労働」を提供するものではないため、就業規則でいう「副業・兼業」には当たらないと整理されることが一般的です。本業への支障も利益相反も生じにくく、リスクは低めです。
ただし、これらはエンジニアが「スキルを活かして稼ぐ」目的には直接つながりにくいカテゴリで、技術力を収入や実績に変えたい人にとっては選択肢が限られます。キャリアを伸ばす副業を考えるなら、次のケース2・ケース3が本命になります。
ケース2: 成果物・発信型の副業
技術ブログの運営、Zenn や note での記事執筆、技術書・教材の販売、登壇など、自分の知見をコンテンツとして発信する副業です。広告収入や販売収入は雇用関係を伴わないため、「副業禁止」の網にかかりにくく、利益相反も起きにくいのが利点です。
しかも、アウトプットの過程で知識が整理され、本業のスキルにも還元されます。会社に「本業にも良い影響がある」と説明しやすい点でも、後ろめたさなく続けやすい形です。ただし、本業のプロジェクトの内部情報を記事に書かないなど、情報の扱いには引き続き注意しましょう。
ケース3: 業務委託型の開発案件
エンジニアのスキルを最も活かせる本命が、業務委託型の開発案件です。前述のとおり業務委託は労働時間の通算が発生しにくく、稼働時間や場所を自分で調整できるため、本業と両立しやすい働き方です。Web開発、アプリ開発、技術顧問、スポット相談など、形態もさまざまです。
案件を探す際は、フリーランス・副業向けのエージェントやマッチングサービスを活用するのが一般的です。週1日・10時間程度から始められるリモート案件も増えており、本業に支障を出さずにスタートできます。選ぶときは、本業と競合しない領域か、稼働時間が無理のない範囲かを必ず確認しましょう。この「業務委託で本業と両立する」形こそが、長く後ろめたさなく続けるための土台になります。
会社に副業を申請して堂々と続ける方法と伝え方
合法的に選べる副業の形が見えてきたら、次は「会社にどう伝えるか」です。隠れて続けるのは精神的な負担が大きく、長続きしません。許可制・届出制の会社なら、正式に申請して堂々と続けるのが、結局はいちばん安心できる道です。
申請・届出の基本手順と求められる情報
許可制・届出制の会社では、副業を始める前に所定の申請書・届出書を提出します。フォーマットがあればそれに従い、なければ人事・労務に相談しましょう。一般的に申請時に求められる情報は次のとおりです。
- 副業先・取引先の名称や事業内容: 競合関係や利益相反がないかを会社が確認するため。
- 業務内容: どんな作業を、どの程度の責任で行うか。
- 想定稼働時間: 週・月あたりの時間。本業への支障がないことを示す材料になります。
- 契約形態: 雇用か業務委託か。業務委託であれば労働時間通算の懸念が小さいことを補足できます。
これらを事前に整理しておくと、申請がスムーズに進みます。
断られにくい伝え方の3つの観点と例文
申請が通るかどうかは、伝え方で印象が大きく変わります。会社が副業を制限する正当な理由(前述の4ケース)に「該当しない」ことを、先回りして示すのがコツです。次の3つの観点を押さえましょう。
- 本業を優先する姿勢: 稼働は休日・時間外に限り、本業のパフォーマンスに影響を出さないことを明確にする。
- 利益相反がないこと: 副業先が本業と競合しないこと、機密情報を持ち込まないことを伝える。
- スキル還元の見込み: 副業で得た知見が本業にも良い影響を与えうることを添える。
たとえば、次のように伝えると角が立ちにくくなります。
「業務時間外で、当社と競合しないWeb開発の業務委託案件を月20時間ほど検討しています。本業を最優先し、機密情報の取り扱いには十分注意します。新しい技術に触れる機会にもなり、本業にも還元できればと考えています。手続きについてご相談させてください。」
「やらせてください」と許可を請う形よりも、「ルールに沿って進めたいので相談したい」という姿勢の方が、誠実な印象を与えられます。
申請が通ると得られるもの
正式に認められると、何より「隠さなくてよい」という安心感が手に入ります。バレるかどうかに怯える必要がなくなり、副業に集中できます。
そして、堂々と続けられることは、実績を着実に積み上げられることを意味します。業務委託の案件を継続的にこなしていけば、ポートフォリオが充実し、より条件の良い案件にもつながります。副業を一時的な小遣い稼ぎで終わらせず、継続的な収入源として育てていく。その出発点が、正々堂々と申請して始めることなのです。
副業がバレるリスクと、正攻法で備えるための基礎知識
それでも「バレる経路が気になる」という方は多いでしょう。ここでは、副業が会社に知られる主な経路と、本記事のスタンスである「正攻法での備え」を整理します。
副業が会社に知られる主な経路
副業が会社に知られるきっかけは、主に次のようなものです。
- 住民税の金額の変化: 副業の所得が増えると住民税が上がり、給与天引き額の変化で会社が気づくことがあります。
- SNSでの実名発信: 副業に関する投稿が同僚や上司の目に触れるケース。
- 社内での噂・人づて: 知人に話したことが巡り巡って伝わるケース。
中でも、税金まわりは仕組みを理解しておくことが特に重要です。
税務処理は「隠す」より「正しく行う」
本記事のスタンスは、コソコソやることではなく、確認・申請・適切な税務処理という正攻法で備えることです。
注意したいのは、「副業の所得が年20万円以下なら何もしなくてよい」という誤解です。所得税の確定申告が不要になる場合でも、住民税の申告は別途必要になることがあります。所得税と住民税は別の手続きである、という点は押さえておきましょう。
住民税の申告方法(普通徴収の選び方)や確定申告の具体的な手順、バレる経路への対策については別記事で詳しく解説しています。税務面を正しく処理しておきたい方は、あわせてエンジニアの副業がバレない対策をご覧ください。
よくある質問(FAQ)
副業を検討するエンジニアからよく寄せられる疑問をまとめました。
Q1. 就業規則に「副業禁止」とある会社で副業したらクビになりますか?
副業を理由にした懲戒や解雇が常に有効になるわけではありません。一律の全面禁止は、合理的な理由がなければ認められにくいと考えられています。ただし、本業に明らかな支障が出た場合や、競合先での就労・情報漏洩があった場合は、正当な制限事由に当たり処分の対象になりえます。リスクを避けるには、申請して認められた範囲で行うのが確実です。
Q2. 副業禁止の会社が副業を禁止できる法的根拠はありますか?
副業そのものを禁止する法律はありません。会社の根拠はあくまで就業規則です。その制限が認められるのは、労務提供上の支障・秘密漏洩・競業や利益相反・名誉信用の毀損という正当な理由がある場合に限られます。これらに当たらない範囲の副業まで一律に禁止することには、合理性が乏しいと考えられています。
Q3. 副業で年20万円以下なら申告も確認も不要ですか?
いいえ、注意が必要です。所得税の確定申告は副業所得が年20万円以下なら原則不要ですが、住民税の申告は別の手続きであり、20万円以下でも必要になる場合があります。所得税と住民税を混同しないようにしましょう。具体的な申告手順はエンジニアの副業がバレない対策で詳しく解説しています。
Q4. SES・受託エンジニアが特に気をつけるべきことは?
最も注意すべきは、競業・利益相反と情報漏洩です。本業で関わる顧客の競合企業の開発を副業で請け負ったり、本業のプロジェクトで得た設計・ソースコード・ノウハウを副業先に流用したりすると、深刻なトラブルになります。本業と競合しない領域を選び、本業の情報は一切持ち込まないことを徹底してください。
Q5. 会社に副業を申請したら評価が下がりませんか?
伝え方次第で懸念は大きく下げられます。本業を最優先する姿勢、本業と競合しないこと、機密情報を扱わないこと、本業にも還元できる見込みを示せば、会社が警戒する理由は少なくなります。むしろ、ルールに沿って正式に相談する誠実な姿勢は、信頼につながることもあります。
まとめ
副業に踏み出せない不安の多くは、「自分の会社のルールを正確に知らない」ことから生まれます。最後に、本記事で解説した進め方を整理します。
- 確認する: 就業規則の服務規律・副業の章・懲戒事由を読み、「全面禁止」「許可制」「届出制」のどれかを把握する。
- 強制力を理解する: 副業は法律で禁止されておらず、一律禁止も無条件に有効ではない。一方で、本業支障・秘密漏洩・競業や利益相反・信用毀損という正当な制限事由には注意する。
- 合法的な形を選ぶ: 業務委託型なら労働時間の通算が発生しにくく、本業と両立しやすい。発信型や業務委託型がエンジニアの本命。
- 申請して堂々と続ける: 許可制・届出制なら正式に申請し、本業優先・利益相反なし・スキル還元の3点を伝えて認めてもらう。
隠れて続けるよりも、正攻法で進める方が、結局は安心して長く続けられます。とくに業務委託型の開発案件は、本業と両立しながら実績と収入を着実に積み上げられる働き方です。副業を一時的な小遣い稼ぎではなく、継続的な収入安定化の手段として前向きに捉えてみてください。その第一歩は、今日、自分の会社の就業規則を開いてみることから始まります。



