フリーランスや外部の専門家に業務を依頼するとき、口約束だけで進めてしまうと後々のトラブルにつながります。「業務範囲はここまでのはずだった」「追加費用の話が出てきて驚いた」—こうした認識のズレは、明確な契約書がなければ防ぎようがありません。
業務委託契約書は、そのトラブルを未然に防ぐための最重要ツールです。特に発注者(委託者)側は、自分たちの利益を守るために契約書を正しく整備する必要があります。
しかし、「何をどこまで書けばいいか分からない」「テンプレートをダウンロードしたけど、これで本当に大丈夫か確認したい」という方も多いのではないでしょうか。
本記事では、業務委託契約書に記載すべき13の項目を、発注者の視点で解説します。各項目が抜けると起きやすいトラブル事例と、発注者として押さえるべきポイントもあわせて紹介しますので、ぜひご自身のテンプレートの確認にお役立てください。
業務委託契約書とは?発注者が必ず作成すべき理由

業務委託契約書とは、企業がフリーランスや外部の事業者に業務を委託する際に取り交わす書面です。委託する業務の内容・報酬・期間・権利の帰属など、取引に関わる重要な条件を文書として明確にする役割を持ちます。
業務委託契約書の役割と位置づけ
業務委託契約書は、「言った・言わない」のトラブルを防ぐための証拠書類です。契約条件が文書化されていれば、認識のズレが生じたときも書面を確認することで解決できます。一方、口約束だけで進めると、業務範囲の拡大・支払い遅延・成果物の権利など、さまざまな場面でトラブルが発生しやすくなります。
発注者側が作成するメリット
業務委託契約書は、発注者(委託者)側が作成するのがおすすめです。発注者が作成することで、自社にとって有利な条件(業務範囲の明確化・権利帰属・解除条件など)を盛り込みやすくなります。相手方(受託者)が提示した契約書をそのまま使う場合、受託者側に有利な条件が含まれていることがあるため、発注者は内容を十分に確認する必要があります。
フリーランス新法との関係(2024年11月以降の義務化)
2024年11月1日に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(通称:フリーランス新法)」が施行されました。この法律により、企業がフリーランスに業務を委託する際、以下の事項を書面または電磁的方法で明示することが義務化されています(厚生労働省・公正取引委員会)。
- 業務の内容
- 報酬の額
- 支払期日
- 給付の受領日または役務提供を受ける期日・場所
- 契約解除の際の事前予告(6ヶ月以上の契約の場合、30日前までの通知)
これらは業務委託契約書に盛り込む13の項目とも深く関わっています。法的義務を満たす意味でも、契約書の整備は欠かせません。
業務委託契約書に記載すべき13の項目

以下の13項目が、業務委託契約書に必要とされる主要な記載事項です。発注者として特に注意が必要な項目には「重要度:高」を付けています。
# | 項目名 | 概要 | 発注者にとっての重要度 |
|---|---|---|---|
① | 委託業務の内容 | 何を・どこまで委託するかの定義 | 高 |
② | 委託料・報酬 | 金額・支払条件・追加費用の取り決め | 高 |
③ | 支払条件・時期・方法 | 支払タイミングと方法の明示 | 高 |
④ | 成果物の権利 | 著作権等の帰属先の取り決め | 高 |
⑤ | 再委託の可否 | 第三者への再委託を認めるかどうか | 高 |
⑥ | 秘密保持 | 機密情報の取り扱いルール | 高 |
⑦ | 反社会的勢力の排除 | 暴力団等との関係排除 | 中 |
⑧ | 禁止事項 | 成果物の二重譲渡等の禁止 | 中 |
⑨ | 契約解除の条件 | 解除できる条件と手続き | 高 |
⑩ | 損害賠償 | 賠償額の範囲・上限 | 高 |
⑪ | 契約期間 | 開始日・終了日・自動更新の有無 | 中 |
⑫ | 合意管轄 | 紛争時に利用する裁判所の指定 | 中 |
⑬ | その他(一般条項) | 協議条項・完全合意条項 | 低 |
各項目の解説と発注者が押さえるべきポイント
①委託業務の内容
内容: 何を委託するのか、どこまでが委託範囲なのかを具体的に定める項目です。
発注者として押さえるべきポイント: 業務内容は「具体的かつ詳細に」記載することが最重要です。「システム開発業務一式」「マーケティング業務に関する作業」のような曖昧な表記は避け、「要件定義フェーズにおける画面設計書の作成(10画面分)」のように、何を・どこまで・どのレベルで行うかを明示します。
書き漏れ・記載が曖昧だと起きるトラブル例: 「仕様変更への対応も含まれると思っていた」「テストも契約範囲内のはずだった」という認識のズレが発生します。発注者が想定した業務を受託者が「契約範囲外」と主張し、追加費用を請求するケースは非常に多く発生しています(BUSINESS LAWYERS「業務委託契約のトラブル事例」)。
②委託料・報酬
内容: 報酬の金額・消費税の取り扱い・支払条件・追加作業が発生した場合の費用ルールを定める項目です。
発注者として押さえるべきポイント: 税込み・税抜きの区別を明記し、「月次固定報酬〇〇円(税別)」のように具体的な金額を記載します。また、修正対応や仕様変更が発生した場合の追加費用の計算方法も事前に取り決めておくことで、後から想定外の請求を受けるリスクを減らせます。
書き漏れ・記載が曖昧だと起きるトラブル例: 「修正は何度でも無料だと思っていた」「仕様変更ごとに追加請求が来て予算を大幅に超えた」というトラブルが発生します。
③支払条件・時期・方法
内容: いつ・どのような方法で報酬を支払うかを明示する項目です。
発注者として押さえるべきポイント: フリーランス新法により、業務完了後60日以内に支払うことが義務化されています。「毎月末締め翌月末払い」など具体的な支払スケジュールを定め、「検収完了後〇日以内」という検収と連動した支払い条件にすることで、未完成の成果物に対する支払いリスクを避けられます。
書き漏れ・記載が曖昧だと起きるトラブル例: 支払期日が不明確だと、受託者から支払い催促が繰り返される・法的手続きに発展するケースがあります。
④成果物の権利
内容: 委託業務で生まれた成果物(プログラム・デザイン・文章等)の著作権・その他の知的財産権が誰に帰属するかを定める項目です。
発注者として押さえるべきポイント: 特約がなければ、著作権は受託者(制作者)に帰属するのが原則です。発注者が成果物を自由に活用したい場合は、「著作権(著作者人格権を除く)を委託者に譲渡する」と明記するか、または「無制限・永続的な利用許諾を付与する」旨を記載する必要があります。詳しくはシステム開発の著作権は誰のもの?発注者が知っておきたい権利帰属と契約のポイントをご覧ください。
書き漏れ・記載が曖昧だと起きるトラブル例: 受託者が同じ成果物を他社に提供する・著作者人格権を行使して修正を拒否するといった事態が起きます。特にシステム開発では、ソースコードの権利帰属を明確にしないと、後から改修を外注する際に問題が生じます。
⑤再委託の可否
内容: 受託者が委託業務の全部または一部を、さらに別の第三者に委託(再委託)できるかどうかを定める項目です。
発注者として押さえるべきポイント: 機密情報や個人情報が含まれる業務では、「事前の書面による承諾なしに第三者への再委託を禁止する」と明記することが情報漏えいリスクの軽減につながります。フリーランスが実際には別の人物に作業をさせていたというケースを防ぐためにも重要な項目です。
書き漏れ・記載が曖昧だと起きるトラブル例: 知らないうちに機密情報が第三者に渡っていた・スキルレベルが想定と異なる人物が作業していたといった問題が起きます。
⑥秘密保持
内容: 委託業務を通じて知り得た機密情報・個人情報の取り扱いを定める項目です。
発注者として押さえるべきポイント: 機密情報の定義(何が「機密」にあたるか)、目的外利用の禁止、契約終了後の情報の廃棄・返還、違反時の損害賠償を明記します。個人情報が大量に絡む業務では、別途NDA(秘密保持契約書)を締結することも検討してください。
書き漏れ・記載が曖昧だと起きるトラブル例: 社内の機密情報・顧客情報が競合他社や第三者に漏えいするリスクがあります。
⑦反社会的勢力の排除
内容: 受託者が反社会的勢力(暴力団等)でないことの表明・保証と、関係が判明した場合の契約解除を定める項目です。
発注者として押さえるべきポイント: コンプライアンス上の必須事項です。多くの企業がビジネスパートナーとの取引において反社チェックを義務付けており、契約書への記載は標準化されています。
書き漏れ・記載が曖昧だと起きるトラブル例: 後から受託者が反社会的勢力と関係していることが発覚した場合、契約解除の法的根拠が弱くなります。
⑧禁止事項
内容: 受託者が行ってはならない行為(成果物の無断転用・競業行為・二重受注等)を列挙する項目です。
発注者として押さえるべきポイント: 自社の状況に応じたリスクを具体的に想定し、禁止事項として列挙します。たとえば「委託業務期間中は、委託者の同意なしに同種のサービスを提供する競業行為を禁止する」などです。
書き漏れ・記載が曖昧だと起きるトラブル例: 成果物が他社にも販売されていた・同じ期間に競合他社でも同様の業務をしていたといったケースが起きます。
⑨契約解除の条件
内容: 契約を途中で解除できる条件・手続き・解除後の精算方法を定める項目です。
発注者として押さえるべきポイント: 受託者のサービスレベルが期待に満たない場合に備え、発注者がいつでも解約できる権利を確保しておくことが重要です。「受託者が契約義務を履行しない場合は、相当期間を定めて催告の上、解除できる」とともに、「重大な契約違反の場合は催告なしに即時解除できる」旨を記載することが有効です。
書き漏れ・記載が曖昧だと起きるトラブル例: 業務の質が著しく低いにもかかわらず契約を解除できない・解除時の精算方法が不明確で費用が発生したというケースがあります。
⑩損害賠償
内容: 契約違反や業務上のミスが生じた際の損害賠償の範囲・上限額を定める項目です。
発注者として押さえるべきポイント: 受託者が賠償責任を「直近〇か月の支払総額を上限とする」と制限しようとすることは一般的ですが、故意・重過失によるミスにまで上限を適用されると発注者は十分な補償を受けられません。「故意または重大な過失による損害は上限の対象外とする」という条件を設けることで、発注者のリスクを軽減できます。
書き漏れ・記載が曖昧だと起きるトラブル例: 重大なミスによって多大な損害が発生したにもかかわらず、賠償額が低額に制限されてしまうケースがあります。
⑪契約期間
内容: 業務委託契約の開始日と終了日、自動更新の有無を定める項目です。
発注者として押さえるべきポイント: 開始日・終了日を明示した上で、自動更新がある場合は「〇か月前までに書面による異議がなければ自動更新する」という条件を明確にします。また、フリーランス新法では、6ヶ月以上の契約を中途解除または更新しない場合は30日前までの予告が義務化されていることも念頭に置いてください。
書き漏れ・記載が曖昧だと起きるトラブル例: 意図せず自動更新されてしまった・契約終了のタイミングで認識のズレが生じたというケースがあります。
⑫合意管轄
内容: 契約に関して紛争が生じた場合に、どの裁判所で争うかを合意する項目です。
発注者として押さえるべきポイント: 発注者の所在地に近い裁判所を指定することで、万が一の紛争時における移動コストや手間を削減できます。「本契約に関する訴訟は、委託者の本店所在地を管轄する地方裁判所を第一審の専属管轄裁判所とする」という形で記載するのが一般的です。
書き漏れ・記載が曖昧だと起きるトラブル例: 受託者の所在地(遠方の場合も)の裁判所を指定されてしまい、裁判対応のコストが増加するケースがあります。
⑬その他・一般条項
内容: 協議条項(未定事項や変更が生じた場合は双方が誠実に協議する)・完全合意条項(本契約書が当事者間の完全な合意を構成する)などの一般的な条項です。
発注者として押さえるべきポイント: 「本契約に定めのない事項については、民法その他の法令に従い、誠実に協議して解決する」という協議条項を設けることで、想定外の事態が発生した際の対応方針を担保できます。
書き漏れ・記載が曖昧だと起きるトラブル例: 契約書に記載のないケースが発生した際に、どちらが費用を負担するかで争いになるケースがあります。
業務委託契約書を作成するときの3つの注意点(発注者編)
注意点1:業務範囲を「別紙仕様書記載の業務」だけで完結させない
テンプレートでは業務内容を「別紙仕様書に記載する」と書いておき、別紙は後で作成しようとする方がいます。しかし、仕様書の内容が曖昧だと、契約書に記載しても意味がありません。業務委託契約書の価値は、別紙仕様書の具体性に大きく依存します。仕様書は「何を・どのレベルで・いつまでに」が第三者でも理解できる形で記載されているか確認してください。
注意点2:テンプレートをそのまま使わず、自社の状況に合わせる
ダウンロードしたテンプレートは汎用的に作られており、自社のビジネスや取引条件に最適化されていないことがほとんどです。特に①委託業務の内容、④成果物の権利、⑨契約解除の条件、⑩損害賠償は、自社の状況に応じてカスタマイズが必要な項目です。テンプレートの文言がそのまま使えるかどうか、一項目ずつ確認することをおすすめします。
注意点3:口頭合意の後から書類を整備しない
「まず仕事を始めてから、後で正式な契約書を用意しよう」という進め方は非常にリスクが高い方法です。口頭合意の段階で業務が進んでしまうと、後から作成した契約書の内容が「口頭で合意した内容と違う」と争いになります。業務開始前に契約書を締結することは、双方のトラブルリスクを下げるための基本的なルールです。
発注者が業務委託契約書を確認する際のチェックリスト

自社の業務委託契約書(またはテンプレート)に、以下の項目が適切に記載されているか確認してください。
# | チェック項目 | 確認ポイント |
|---|---|---|
① | 委託業務の内容 | 業務範囲が第三者でも理解できる具体性で記載されているか |
② | 委託料・報酬 | 税別/税込み区別・追加費用ルールが明記されているか |
③ | 支払条件・時期・方法 | 具体的な支払スケジュールと支払方法が記載されているか(業務完了後60日以内) |
④ | 成果物の権利 | 著作権の帰属先(譲渡または利用許諾)が明確か |
⑤ | 再委託の可否 | 再委託の禁止または条件(事前承諾必要等)が記載されているか |
⑥ | 秘密保持 | 機密情報の定義と目的外利用禁止・廃棄義務が記載されているか |
⑦ | 反社会的勢力の排除 | 反社排除条項が含まれているか |
⑧ | 禁止事項 | 自社のリスクに対応した禁止事項が具体的に列挙されているか |
⑨ | 契約解除の条件 | 発注者が解除できる条件(業務不履行・重大違反等)が記載されているか |
⑩ | 損害賠償 | 故意・重過失を上限の適用外とする条件が含まれているか |
⑪ | 契約期間 | 開始日・終了日・自動更新条件が明示されているか |
⑫ | 合意管轄 | 発注者側に有利な裁判所(自社近隣)が指定されているか |
⑬ | その他 | 協議条項・完全合意条項が含まれているか |
このチェックリストを使って、現在お手元にあるテンプレートや過去に使用した契約書を見直してみてください。
業務委託契約書の作成が不安な場合の対処法
業務委託契約書の整備は、外部人材を活用する企業にとって避けては通れない課題です。一方で、「法律の専門家でない自分が作れるか心配」という方も多いと思います。以下の3つの選択肢から、自社の状況に合った方法を選んでください。
1. テンプレートを活用して自分でカスタマイズする 厚生労働省・公正取引委員会が公開するフリーランス新法対応のモデル契約書や、弁護士監修のテンプレートを活用し、本記事のチェックリストと照らし合わせてカスタマイズする方法です。コストを抑えたい方に向いています。
2. 弁護士・行政書士に依頼する リスクの高い取引(高額な委託費・機密性の高い業務・長期契約など)は、専門家に契約書の作成またはレビューを依頼することが最もリスクを低減できます。
3. 外部人材活用プラットフォームのサポートを活用する Workee のようなプラットフォームでは、契約に関するサポートや標準的な契約書の雛形を提供していることがあります。初めて外部人材を活用する企業にとって、プラットフォームのサポートを活用することで、契約面の安心感が高まります。
業務委託契約書は、一度作成して終わりではありません。取引内容・法改正・新たなリスクに応じて定期的に見直すことで、安定した外部人材活用の基盤を整えることができます。



