「この技術について、いま現場のエンジニアは本当はどう評価しているのだろう」——新しいライブラリやツールを検討するとき、こう感じた経験はないでしょうか。公式ドキュメントは導入を勧める立場で書かれ、検索上位の記事は数か月前の情報のまま、LLM に聞いても学習データの鮮度には限界があります。一番生々しい評価は Reddit のスレッドや X のポスト、Hacker News のコメントに転がっているのに、それらは別々のプラットフォームに散らばっていて一つずつ追うのは現実的ではありません。
この「最新かつ生の声が散在していて拾いきれない」という課題に正面から取り組んでいるのが、GitHub で公開されている OSS「last30days-skill」です。任意のトピックについて、直近30日の SNS やコミュニティの投稿を横断検索し、賛同票やいいねといったエンゲージメントで重み付けしたうえで、AI が1本のブリーフに統合してくれます。
本記事では、last30days-skill が何をするスキルなのか、その仕組み、無料で使える範囲、そして gpt-researcher など類似のディープリサーチツールとの違いを、公式リポジトリの README とドキュメントをもとに整理します。導入を検討する際に「自分の業務で使う価値があるか」を判断できる材料の提供を目的としています。なお本記事は実際の動作検証は行わず、公開されているドキュメントの記述にもとづいて解説します。
last30days-skillとは何か
last30days-skill は、任意のトピック(人物・企業・製品・技術・「A vs B」のような比較)について、直近30日の SNS やコミュニティ上の生の声を横断検索し、エンゲージメントでスコアリングして AI が1本のブリーフに統合する、AI エージェント向けの「Agent Skill」です。Claude Code をはじめ、Codex・Cursor・Copilot・Gemini CLI など50を超える Agent Skills 対応ホストで動作します。
開発者の mvanhorn 氏は、AI 分野は毎日のように状況が変わり、Reddit や X の有識者が最も早く実態を把握している一方で、LLM の学習データは数か月遅れるという問題意識からこのスキルを作ったと説明しています。プロジェクトの詳細は公式リポジトリ(mvanhorn/last30days-skill)で公開されています。
「Googleは編集者を集約する、last30days-skillは人々を検索する」というコンセプト
このスキルの設計思想を端的に表すのが、README に掲げられた「Google aggregates editors. /last30days searches people.(Google は編集者を集約する。/last30days は人々を検索する)」というフレーズです。
一般的な検索エンジンは、メディアやブログといった「編集された記事」を上位に並べます。これに対して last30days-skill が拾いに行くのは、Reddit で実際に賛同票を集めたコメントや、X で専門家が交わした議論、Hacker News での開発者同士のやり取りといった、人々の生の反応そのものです。README ではこの考え方を「SEO relevancy(検索エンジン最適化的な関連性)ではなく social relevancy(社会的な関連性)」と表現しています。つまり「検索エンジンで上位に出るか」ではなく「実際に人々が反応したか」を重視するという点が、出発点から既存の検索とは異なっています。
リポジトリの基本データ(執筆時点)
導入を検討するうえでまず気になるのが、プロジェクトの規模と活発さです。本記事執筆時点(2026年6月14日調査)の公式リポジトリの基本情報は次のとおりです。
項目 | 値 |
|---|---|
スター数 | 41,413 |
フォーク数 | 3,358 |
主要言語 | Python |
ライセンス | MIT |
最終更新 | 2026年6月10日 |
アーカイブ / フォーク | いずれも該当なし(現役で活発に更新中) |
スター数は4万を超え、GitHub Trending でも上位に取り上げられた実績があります。最終更新は調査時点の数日前であり、アーカイブもフォークもされていない現役のプロジェクトです。ライセンスは商用利用にも比較的扱いやすい MIT で、README によればトラッキングやアナリティクスは持たず、リサーチはローカルに留まる設計とされています。これらは「健全に保守されているか」という観点での一つの判断材料になります。
なぜ「直近30日のSNS横断」が必要なのか
last30days-skill の価値を理解するには、既存の情報収集手段が抱える限界を整理しておくと分かりやすくなります。エンジニアが新しい技術や製品を評価するとき、主な情報源は次の3つに分かれますが、それぞれに弱点があります。
第一に、検索エンジンです。Google などは編集された記事を中心に返すため、現場の率直な評価や失敗談にはたどり着きにくく、SEO を意識した宣伝色の強い記事が上位を占めることもあります。
第二に、LLM への質問です。生成 AI は便利ですが、学習データには数か月単位の遅れがあり、リリースされたばかりのツールや直近の評価の変化を反映できないことがあります。
第三に、SNS やコミュニティを直接見る方法です。Reddit・X・YouTube・Hacker News などには最も鮮度が高く率直な声がありますが、これらは別々の「walled garden(壁に囲まれた庭)」、つまり API・認証・トークンがプラットフォームごとに異なる独立した世界です。一つずつアカウントを切り替えて検索し、コメントの賛同数まで読み込んで横断的に整理するのは、手作業では大きな負担になります。
last30days-skill は、この3つ目の「最も生きた情報があるのに最も拾いにくい」領域を、AI エージェントの力で一度に横断検索できるようにすることを狙っています。自分の業務でこの課題に心当たりがあるかどうかが、採用を検討する最初の判断ポイントになります。
last30days-skillの仕組み
last30days-skill が1つのトピックをどのように調査してブリーフに仕上げるのか、その流れを見ていきます。README の「How it works」では、処理は次の7つのステップで進むと説明されています(出典: 公式リポジトリ README)。
- ユーザーがトピック(人物・企業・製品・技術・「X vs Y」など)を入力する
- エージェントが「誰・どこが重要か」を解決する(関連する X ハンドル・GitHub リポジトリ・subreddit・ハッシュタグ・チャンネルを特定する)
- 全ソースを並列で検索する(マルチクエリ展開を行い、エンゲージメントでスコアリングする)
- タイトルやリンクだけでなく深いデータを取得する(YouTube の全文トランスクリプト、賛同票の数、キャプション、予測市場のオッズなど)
- 同一のストーリーはプラットフォームをまたいで1つのクラスタに統合する
- ソース引用付きの1本のブリーフに統合する
- その後セッションが「その分野の専門家」となり、フォローアップ質問や根拠ある推論に使える
ポイントは、単に検索結果のリンクを集めるのではなく、コメントの賛同数や動画の全文といった「深いデータ」まで取りに行き、エンゲージメントを軸にスコアリングする点です。
検索前に「誰が重要か」を解決する pre-research brain
仕組みの中で特に独自性が高いのが、ステップ2にあたる事前解決の処理です。README では、v3 で導入された Python 製の「pre-research brain(事前リサーチの頭脳)」が、実際に各ソースを検索する前に、対象となる人物・コミュニティ・リポジトリを特定すると説明されています。
たとえば「ある人物について調べたい」とき、いきなりキーワード検索をかけるのではなく、まずその人物の X ハンドルや GitHub アカウント、関連する subreddit を割り出してから検索に入ります。この事前解決によって、単純なキーワード検索では拾えなかった関連情報を発見できるとされており、README では v3 の中核機能の一つとして位置づけられています。
エンゲージメントでスコアリングする統合
last30days-skill は、集めた情報を関連性だけで並べるわけではありません。README によれば、関連性とは別に「ユーモア・ウィット・バイラル性(拡散されやすさ)」を採点する「Best Takes」という第二の評価軸を持ち、印象的なコメントを拾い上げます。さらに「Cross-source cluster merging」により、Reddit・X・YouTube などにまたがって語られている同一の話題を、エンティティ(実体)ベースで1つにまとめます。
これにより、重複を排除しつつ、実際に人々が強く反応した情報を上位に据えたブリーフが生成される設計になっています。この仕組みが自分の知りたいトピックでうまく機能しそうかどうかは、後述するユースケースと照らし合わせて検討すると判断しやすくなります。
横断検索できるソースと無料で使える範囲
導入を検討するうえで最も気になるのが「どこまで無料で試せて、何にコストがかかるのか」という点でしょう。last30days-skill は「Bring your own keys(自分の鍵を持ち込む)」というモデルを採用しています。各プラットフォームは独立した認証の世界ですが、ユーザー自身の鍵やブラウザセッションを橋渡しすることで、AI が一度に横断検索できるようにする、という考え方です。
README の「Sources」表をもとに、対象ソースとキーの要否を整理すると次のようになります(出典: 公式リポジトリ README)。
ソース | 取得内容 | キー・認証の要否 |
|---|---|---|
賛同票付きのコメント・率直な意見 | 不要(無料) | |
Hacker News | 開発者のコンセンサス・技術的な議論 | 不要(無料) |
Polymarket | 実マネー裏付けの予測市場オッズ | 不要(無料) |
GitHub | PR の速度・リポジトリ・リリースノート | 不要(無料) |
X / Twitter | ホットテイク・専門家スレッド | ブラウザログインで無料 |
YouTube | 全文トランスクリプト | yt-dlp の用意で無料 |
Bluesky | AT Protocol の投稿 | アプリパスワードで無料 |
TikTok / Instagram / Threads / Pinterest | クリエイターの視点・キャプション等 | ScrapeCreators キー(一定数無料、以降従量) |
Perplexity Sonar | 引用付きの Web 検索 | OpenRouter キー(従量) |
Web | 編集記事・ブログ比較 | Brave Search キー(任意) |
Digg | AI キュレーターのリーダーボード | 任意の CLI |
ゼロ設定で即動く無料ソース
表の上段にある Reddit・Hacker News・Polymarket・GitHub の4ソースは、追加の API キーやログインなしで動作するとされています。エンジニアにとって関心が高い「開発者コミュニティでの評価」は、まさにこの Reddit・Hacker News・GitHub から得られる部分です。つまり、特別な設定をせずとも、開発者コミュニティの声を中心にした横断リサーチを試せる構成になっています。
鍵・ログインで広がるソースとコスト感
一方で、より広いカバレッジを求める場合は段階的にソースを足していけます。X はブラウザログイン、YouTube は yt-dlp、Bluesky はアプリパスワードといった形で、いずれも無料の範囲で追加できます。TikTok や Instagram などは ScrapeCreators のキーが必要で、一定数までは無料、以降は従量課金になります。Web 横断検索の Perplexity Sonar(OpenRouter 経由)も従量課金です。
このように、まずは無料ソースで試し、必要に応じて鍵を追加して範囲を広げるという段階的な導入ができる点は、コストを抑えながら評価したいエンジニアにとって判断しやすい設計といえます。従量課金のソースを使う場合は、各サービスの料金体系を別途確認しておくと安心です。
導入方法と対応ホスト
last30days-skill は複数の AI エージェントホストに対応しており、README の「Install」表では環境ごとのインストール方法が示されています。代表的な導入先と手順は次のとおりです(出典: 公式リポジトリ README)。
- Claude Code(推奨): プラグインマーケットプレイス経由で追加
- Codex / Cursor / Copilot / Gemini CLI など50以上のホスト:
npx skills add mvanhorn/last30days-skill -g - claude.ai(Web):
.skillファイルをダウンロードし、Settings > Capabilities > Skills からアップロード - OpenClaw:
clawhub install last30days-official
推奨環境とされる Claude Code では、README に次のコマンドが示されています(README からの抜粋・改変なし)。
/plugin marketplace add mvanhorn/last30days-skill
/plugin install last30days
出典: https://github.com/mvanhorn/last30days-skill (README)
導入後の実行例として、README では人物名を渡す次のような使い方が示されています(README からの抜粋・改変なし)。
/last30days Peter Steinberger
出典: https://github.com/mvanhorn/last30days-skill (README)
すでに Claude Code や Cursor を使っているエンジニアであれば、いずれかの手順で自分の環境に組み込めるかどうかを、上記の対応ホスト一覧から確認できます。なお本記事では実際のインストールや実行は行っていないため、手順の詳細や前提となる依存関係は導入時に公式ドキュメントで確認することをおすすめします。
主なユースケース
last30days-skill が自分の業務のどの場面で効くのかを具体的にイメージできると、採用判断がしやすくなります。README の「What people actually use it for(人々が実際に何に使っているか)」では、次のような使い方が挙げられています。
- 会議や商談の前に、相手の直近30日の活動(X・Reddit・YouTube・GitHub)を把握する
- 「A vs B vs C」のツール比較を、ライブのスター数まで含めて整理する
- 何か話題が起きたとき、予測市場のオッズも交えてリアルタイムの状況を把握する
- 旅行前の下調べや、新しい分野をコミュニティの評価から素早く学ぶ
エンジニアの実務に引きつけると、特に役立ちそうなのが2つ目の「ツール比較」です。README では、トピックが人物のときに GitHub の著者スコープのクエリへ切り替える「person-mode」や、上位の競合を自動で発見して並列比較する「--competitors」オプション、出力を共有しやすい HTML として書き出す「--emit=html」、専門用語を平易に言い換える「ELI5 mode」といった機能が紹介されています。たとえば README の実行例では、HTML ブリーフの生成は次のように指定します(README からの抜粋・改変なし)。
/last30days OpenClaw --emit=html
出典: https://github.com/mvanhorn/last30days-skill (README)
自分が普段どんなリサーチに時間を取られているかを思い浮かべ、これらのユースケースと重なる部分があれば、試す価値が高いと判断できます。
類似ディープリサーチツールとの違い
ディープリサーチを支援する OSS は last30days-skill 以外にも複数存在します。採用を検討する際は「他のツールではなく、なぜこれなのか」を整理しておくことが重要です。ここでは代表的な2つの類似プロジェクトと比較します。
比較表(対象ソース・スコア軸・形態・時間軸)
観点 | last30days-skill | assafelovic/gpt-researcher | LearningCircuit/local-deep-research |
|---|---|---|---|
主な対象ソース | SNS・コミュニティのエンゲージメント(Reddit 賛同・X いいね・Polymarket オッズ) | Web・ローカル文書 | 学術 DB・専門 DB・私的文書(arXiv・PubMed 等) |
スコアの軸 | social relevancy(人々が反応したか)+新鮮さ | 関連性・事実性 | 事実性・QA 精度 |
形態 | Agent Skill(Claude Code 等のホストに差し込む) | 単体アプリ / フレームワーク | ローカル動作重視のフレームワーク |
時間軸 | 直近30日のリーセンシーを設計の中心に据える | 任意 | 任意 |
gpt-researcherは、Web とローカルデータに対して引用付きの詳細なリサーチレポートを生成する自律型ディープリサーチエージェントです。事実ベースで網羅的なレポートを作るのが得意な一方、対象は編集された Web 記事や文書が中心で、コミュニティの生のエンゲージメントを一次データにする設計ではありません。
local-deep-researchは、完全ローカル動作とプライバシーを重視するディープリサーチで、arXiv や PubMed などの学術・専門 DB に強みがあります。事実 QA や知識ベース構築には向きますが、大衆プラットフォームの世論やトレンドを直近30日で追う、という用途には設計の力点が異なります。
これらに対し、last30days-skill の固有性は「SNS のエンゲージメントを一次データにする × 直近30日のリーセンシーに絞る × Agent Skill という形態でホストに差し込む」という3点の組み合わせにあります。事実性の高いレポートを求めるなら gpt-researcher や local-deep-research、コミュニティの最新の生の評価を求めるなら last30days-skill、という棲み分けが見えてきます。
どんな人に last30days-skillが向くか
以上を踏まえると、last30days-skill が特に向いているのは次のような人です。
- 公式ドキュメントや LLM だけでは追いきれない、技術や製品の「いまの現場の評価」を知りたいエンジニア
- 複数ツールの比較を、コミュニティの反応や GitHub の勢いまで含めて手早く整理したい人
- Claude Code や Cursor などのエージェント環境をすでに使っており、リサーチ機能をスキルとして差し込みたい人
逆に、引用付きの厳密な事実調査や学術文献の網羅的なレビューが主目的であれば、前述の他ツールのほうが適している場面もあります。
導入前に押さえておきたい注意点とまとめ
最後に、採用判断の前に押さえておきたい点を整理します。
まず健全性の面では、ライセンスは MIT で、README によればトラッキングやアナリティクスを持たずリサーチはローカルに留まる設計とされ、1,012 件のテストが通過していると記載されています。スター数4万超・現役更新中(アーカイブもフォークもされていない)という点も、保守の活発さを見るうえでの材料になります。
一方で注意したいのが、複数のプラットフォームを横断する性質ゆえの前提です。TikTok や Instagram などは ScrapeCreators の従量課金キー、Web 横断は OpenRouter キーが必要になるため、無料ソース以外を本格的に使う場合はコストが発生します。また、X はブラウザログイン、Bluesky はアプリパスワードといったように、各プラットフォームの認証や利用規約が前提となる点も理解しておく必要があります。
本記事で紹介した数値や仕様は、いずれも執筆時点(2026年6月14日調査)の公式リポジトリの記述にもとづくものであり、実際の動作検証は行っていません。活発に更新されているプロジェクトのため、導入を決める際は公式リポジトリの最新の README とドキュメントを確認してください。
まとめると、last30days-skill は「Google は編集者を、自分は人々を検索する」という発想で、直近30日の SNS やコミュニティの生の声を横断検索し、エンゲージメントで重み付けして1本に統合する AI エージェント向けスキルです。Reddit・Hacker News・GitHub などを無料で試せるため、まずは自分の関心テーマで小さく動かしてみて、コミュニティの最新評価を素早く把握したいというニーズに合うかどうかを見極めるのがよいでしょう。事実性重視のディープリサーチとは役割が異なるツールであることを理解したうえで、自分のリサーチワークフローに組み込む価値があるかを判断する材料にしてください。


