システム開発を外部のエンジニアに依頼したとき、打ち合わせで「要件定義はどうしますか?」「API連携が必要ですか?」「インフラはクラウドで構築しますか?」といった言葉が飛び交い、うまく理解できないまま「はい」と答えてしまった経験はないでしょうか。
開発が進むにつれて「思っていたものと違う」「追加費用が発生している」という状況になることは、発注者のITリテラシー不足が原因の多くを占めています。
しかし、エンジニアになる必要はありません。発注者として最低限のITリテラシーを知っているだけで、開発の成否は大きく変わります。
本記事では、システム開発の発注者・非エンジニアが身につけるべきITリテラシーを5カテゴリに整理し、自己診断チェックリストと学習ロードマップをあわせて解説します。「何から始めればいいか」が分からない方も、この記事を読み終えれば具体的な方向性が見えてきます。
システム開発 完全チェックリスト――発注前・発注中・完了後の3フェーズで使えるチェック集

この資料でわかること
システム開発の外注・発注を初めて経験する担当者や、過去に失敗を経験した担当者が、発注プロセスの各フェーズで「何をチェックすべきか」を明確に把握できるようにする。
こんな方におすすめです
- 初めてシステム開発を外注する担当者
- 過去の発注で失敗を経験した方
- ベンダー選定の基準が分からない方
入力いただいたメールアドレスにPDFをお送りします。
ITリテラシーとは?発注者が知っておくべき意味と定義
ITリテラシーの基本的な意味
ITリテラシーとは、「IT(情報通信技術)に関する情報を正しく理解し、活用する能力」のことです。単にパソコンが操作できるというだけでなく、情報を収集・評価・活用する力や、セキュリティリスクを正しく認識する力も含まれます。
一般的にITリテラシーは以下の3つの要素で構成されます。
- 情報基礎リテラシー: 情報を探し出し、真偽を見極めて活用する能力
- コンピューターリテラシー: デジタル端末やソフトウェアを使いこなす能力
- ネットワークリテラシー: インターネット・ネットワーク・セキュリティを適切に使用する能力
システム開発の「発注者」に必要なITリテラシーとは何が違うのか
一般的なITリテラシーの話は「会社全体のデジタルスキル底上げ」を前提としており、Office操作やメール・チャットツールの使い方が中心です。
しかし、システム開発を発注する立場に必要なITリテラシーはこれとは異なります。必要なのは以下の3点です。
- 開発工程の理解: 要件定義から保守・運用まで、システム開発がどんな工程で進むかを把握する
- IT用語・概念の理解: エンジニアが使う専門用語の意味を知り、打ち合わせで対等にコミュニケーションできる
- 発注者としての判断基準: 費用・スコープ・品質・契約の妥当性を自分で判断できる
エンジニアと同じレベルの技術知識は不要です。「何を確認すべきか・何を質問すべきか」が分かれば十分です。
発注者がITリテラシー不足だと起きる4つの問題
要件定義で「思っていたものと違う」が起きる
システム開発の失敗原因の多くは「発注側と開発側の要件認識のズレ」です。「在庫管理ができるシステムが欲しい」と伝えても、「在庫管理」の具体的な意味(画面設計・データ保持期間・外部システムとの連携等)が共有されていなければ、全く異なるシステムが出来上がることがあります。
ITリテラシーがあれば、「機能要件(何ができるか)」と「非機能要件(どんな品質で動くか)」の区別をつけて要件を整理でき、ズレを未然に防げます。
追加費用・納期遅延の妥当性を判断できない
開発中に「仕様変更が発生したため追加費用が〇〇万円かかります」と言われたとき、その金額が妥当かどうか判断できますか?
ITリテラシーがあれば、「この変更はスコープ内か否か」「準委任と請負、どちらの契約か」「追加工数の根拠を確認する」という視点で交渉できます。知識がなければ、提示された金額をそのまま受け入れるしかありません。
セキュリティ・品質の確認ができない
個人情報を扱うシステムや社外からアクセスするシステムでは、セキュリティ要件が非常に重要です。「セキュリティ対策はお任せします」とだけ伝えると、暗号化の有無・アクセス権限設計・ログ管理といった重要事項がそれぞれの担当者の判断に委ねられてしまうことがあります。
テスト・検収でチェックすべきことがわからない
開発会社からシステムが納品されたとき、「これで完成です」と言われても何をどう確認すればよいか分からない、という状況が発生します。機能テスト・セキュリティテスト・パフォーマンステストなどの種類を知っていれば、検収時に必要な確認ができます。
システム発注に必要なITリテラシー5カテゴリ

発注者が最低限身につけるべきITリテラシーを、5つのカテゴリに整理します。
カテゴリ1: 開発工程の基本を理解する
システム開発は一般的に以下の工程で進みます。
- 要件定義: 「何を作るか」を明確にする。発注者が最も深く関わる工程
- 基本設計: 画面・機能・データ構造など、システムの全体像を設計する
- 詳細設計: エンジニアが実装できるレベルの内部仕様を設計する
- 実装・テスト: プログラムを作成し、動作を検証する
- リリース: 本番環境への移行。データ移行・切り替えを行う
- 保守・運用: 不具合対応・機能追加・監視
発注者として特に重要なのは「要件定義」と「リリース・検収」の段階です。要件定義で何を明確にすべきかは、システム開発の要件定義を成功させる完全ガイドで詳しく解説しています。
カテゴリ2: 押さえておきたいIT用語・概念
打ち合わせでよく出てくる用語を厳選して解説します。
用語 | 簡単な意味 | 確認すべきこと |
|---|---|---|
API | 別システム・サービスと連携するための接続口 | 何と何をつなぐか、セキュリティ対策はあるか |
クラウド | インターネット経由でサーバー・ソフトウェアを利用する形態 | どのクラウドサービスを使うか、費用は月額か |
フロントエンド | ユーザーが直接触れる画面(ブラウザで見る部分) | どんな画面が必要か、スマートフォン対応か |
バックエンド | データ処理・ロジックを担うサーバー側の部分 | 処理速度・同時接続数の想定はあるか |
データベース(DB) | 情報を整理して蓄積する仕組み | どんなデータを、どれくらいの量・期間保存するか |
要件定義 | 開発するシステムの仕様・機能・目的をまとめる工程 | 担当者・作成スケジュール・合意フロー |
機能要件・非機能要件 | 機能要件=何ができるか。非機能要件=どんな品質で動くか | セキュリティ・パフォーマンス・可用性の要件は明確か |
カテゴリ3: プロジェクト管理の基礎知識
- 工数(マンアワー): 作業量の単位。「1人が1時間で完了する作業量=1時間/人」。工数が増えると費用が増加する
- スコープ: 開発対象の範囲。スコープ外の追加要望は費用・期間に影響する
- マイルストーン: 進捗確認の節目(例:要件定義完了・テスト完了等)
- ウォーターフォール: 工程を順番に進める開発手法。仕様変更が難しいが管理しやすい
- アジャイル: 短いサイクルで機能追加・改善を繰り返す開発手法。変更に柔軟だが継続的な関与が必要
カテゴリ4: セキュリティと品質要件
発注者として最低限知っておくべきセキュリティ用語:
- 暗号化(HTTPS・TLS): 通信内容が盗聴されないための仕組み。個人情報を扱うシステムでは必須
- 認証・認可: 誰が使えるか(認証)、何ができるか(認可)を制御する仕組み
- アクセスログ: 誰がいつシステムを使ったかの記録。不正アクセス対応・監査に必要
- 脆弱性診断: システムのセキュリティ上の弱点を検査すること
品質要件として押さえるべき観点:
- パフォーマンス: 何人が同時に使えるか、処理速度はどれくらいか
- 可用性: システムの稼働率・障害時の復旧時間の目標値(例:99.9%稼働保証)
カテゴリ5: コスト構造と契約の基礎
請負契約と準委任契約の違いを理解することは、発注者にとって最重要事項のひとつです。
契約形態 | 内容 | 発注者のリスク |
|---|---|---|
請負契約 | 成果物(完成したシステム)の納品に対して報酬を支払う | 仕様が不明確だと「完成」の基準が曖昧になる |
準委任契約 | 開発作業(工数)に対して報酬を支払う | 仕様変更が多いと費用が膨らむ可能性がある |
一般的には、要件定義・基本設計フェーズは準委任、実装・テストフェーズは請負で契約するケースが多いです。ただし開発形態によって異なるため、契約時に必ず確認しましょう。
発注者向けITリテラシー 自己診断チェックリスト

以下の質問に「はい/いいえ」で答えてください。「はい」の数で現状レベルを確認しましょう。
開発工程の理解(5項目)
- 要件定義とは何か、1行で説明できる
- システム開発の工程(要件定義→設計→開発→テスト→リリース)を順番に言える
- 「基本設計」と「詳細設計」の違いを説明できる
- リリース後の「保守・運用」フェーズが何を指すか分かる
- 「上流工程」「下流工程」という言葉の意味が分かる
IT用語・概念(5項目)
- APIとは何かを相手に説明できる
- クラウドとオンプレミスの違いを知っている
- フロントエンド・バックエンドの違いを知っている
- 機能要件と非機能要件の区別がつく
- データベースとは何かをざっくり説明できる
コスト・契約(5項目)
- 工数(マンアワー)とは何かを知っている
- 準委任契約と請負契約の違いを知っている
- スコープ変更が費用・期間に影響することを理解している
- 追加費用の発生条件を開発会社に確認できる
- 検収基準(何をもって完成とするか)を事前に合意する必要性を知っている
判定目安:
- 12〜15個: 発注者として十分な基礎知識があります
- 8〜11個: 主要な工程・用語の知識はあります。コスト・契約面の学習を優先しましょう
- 4〜7個: 開発工程の基本から順に学習を始めましょう
- 0〜3個: ITパスポート程度の学習を最初のステップとして強くお勧めします
ITリテラシーを高めるための学習ロードマップ(発注者向け3ステップ)

Step 1: 開発工程・用語の基本を習得する(目安1〜2ヶ月)
まず「ITパスポート試験」(IPA主催)の参考書を読むことを推奨します。ITパスポートは国家試験ですが、発注者に必要な知識(システム開発工程・プロジェクト管理・セキュリティ・契約基礎)が体系的にまとめられており、試験合格を目指さなくても「教科書」として使えます。
受験情報: 受験料は7,500円(税込)。全国で随時受験可能(IPA公式サイト参照)。
追加で以下のリソースも活用しましょう:
- IPAの「DXリテラシー標準(DSS-L)」: ビジネスパーソン向けのDX基礎知識が整理されています
- 自社サイトのブログ記事(システム開発の工程解説・要件定義ガイド等)
Step 2: 実際の発注場面で知識を活用する
知識を得たら、実際の打ち合わせや発注プロセスで使ってみましょう。
実践的な習得のコツ:
- 打ち合わせ前に「今日の打ち合わせで出そうな用語」を3つ事前に調べる
- 要件定義書のテンプレートを使って自分で要件を整理してみる
- 開発会社に「なぜそうするのか」を1つずつ質問する習慣をつける
Step 3: セキュリティ・コスト・品質の専門知識を深める
基礎が身についたら、セキュリティ(情報セキュリティマネジメント試験)・プロジェクト管理(PMP等)の知識を深めることで、より高度な判断ができるようになります。ただし、このステップは開発頻度が高い方向けです。多くの発注者はStep 1〜2の知識で十分です。
知識不足をカバーする社内体制・外部リソースの活用法
社内でできる体制づくり
ITリテラシーは個人で全てを習得する必要はありません。以下の仕組みで知識不足を補えます。
- 確認チェックシートの整備: 発注時・検収時に確認すべき項目をリスト化し、チームで共有する
- IT担当者との連携: 社内のIT担当者(情シス等)がいる場合は、打ち合わせに同席してもらう
- 議事録の徹底: 打ち合わせの決定事項を必ず文書化し、後から確認できるようにする
- RFP(提案依頼書)の活用: 開発会社に依頼する内容を文書にまとめることで、認識のズレを防ぐ
信頼できる開発パートナーの見つけ方
ITリテラシーを補う最も確実な方法は、「発注者の知識不足を前提として伴走してくれる開発パートナー」を選ぶことです。
優れた開発パートナーは以下のような姿勢を持っています。
- 専門用語をわかりやすく言い換えて説明する
- 発注者が理解できない要件定義の部分を一緒に整理してくれる
- スコープ変更や追加費用の発生条件を事前に明示してくれる
- 「なぜそうするのか」という理由を丁寧に説明してくれる
秋霜堂のTechBandは「社内に開発部門ができたようだ」という評価をいただいているように、発注者の立場に立った構想段階からの伴走を強みとしています。詳しくはシステム開発とは?開発手法・工程・費用・外注メリットまで徹底解説をご参照ください。
まとめ
システム開発の発注者・非エンジニアに必要なITリテラシーを整理しました。
- ITリテラシーとは、IT情報を正しく理解・活用する能力。発注者には「開発工程の理解・IT用語・プロジェクト管理・セキュリティ・コスト・契約」の5カテゴリが特に重要です
- ITリテラシー不足の問題として、要件定義のズレ・追加費用の判断困難・品質確認の不全・検収失敗の4つが代表的です
- 自己診断チェックリストで現状を把握し、不足しているカテゴリから学習を始めましょう
- 学習ロードマップは3ステップ。まずITパスポートの参考書で基礎を習得することをお勧めします
- 個人の知識だけでカバーしなくてよい。チェックシート・信頼できる開発パートナーの選択で補完できます
最初から全部を知る必要はありません。まず開発工程の全体像と、打ち合わせで頻出するIT用語から把握していきましょう。
システム開発についてより詳しく知りたい方は、システム開発とは?開発手法・工程・費用・外注メリットまで徹底解説をあわせてご覧ください。
システム開発 完全チェックリスト――発注前・発注中・完了後の3フェーズで使えるチェック集

この資料でわかること
システム開発の外注・発注を初めて経験する担当者や、過去に失敗を経験した担当者が、発注プロセスの各フェーズで「何をチェックすべきか」を明確に把握できるようにする。
こんな方におすすめです
- 初めてシステム開発を外注する担当者
- 過去の発注で失敗を経験した方
- ベンダー選定の基準が分からない方
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