建設業のシステム開発ガイド|2024年問題対応・会社選定・費用相場まで解説

建設業界では、2024年4月から時間外労働の上限規制が適用されました。この「建設業の2024年問題」を受けて、労務管理のデジタル化や業務効率化への取り組みが急務となっています。しかし、「どのシステムから手をつければいいのか」「建設業特有の業務に対応できる開発会社をどう選べばいいのか」と悩む経営者・担当者の方は多いのではないでしょうか。
市販のパッケージソフトを試してみたものの、受発注の複雑な関係性や現場の工程管理といった建設業特有のフローには対応しきれず、「結局カスタム開発しかない」という結論に至ったケースも少なくありません。
しかし、システム開発の世界は専門用語も多く、費用感も分かりにくい。稟議を通すための根拠となる数字も見えない。そんな状況でベンダー選びを進めることへの不安もあるでしょう。
本記事では、建設業向けのシステム開発を検討している経営者・担当者の方に向けて、2024年問題対応で優先すべきシステムの種類から、開発会社の選び方・費用相場・補助金の活用方法まで、発注判断に必要な情報を体系的に解説します。

目次
システム開発 完全チェックリスト――発注前・発注中・完了後の3フェーズで使えるチェック集

この資料でわかること
こんな方におすすめです
建設業のDXが急務な理由|2024年問題が突きつけた課題

2024年問題が建設業に与えた影響
2024年4月から、建設業には時間外労働の上限規制が適用されました(厚生労働省)。原則として月45時間・年360時間を超える時間外労働ができなくなり、違反した場合は6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
これまで建設業は長時間労働が常態化していました。令和3年度の建設業の年間総労働時間は1,978時間で、全産業平均(1,632時間)より350時間以上長い状況でした。4週8休を取得している企業は2割以下にとどまっており、45.2%の企業が4週4休以下という実態がありました。
この規制によって生じる問題の総称が「建設業の2024年問題」です。単純に残業を減らすだけでは工期が守れなくなるため、業務プロセスそのものを効率化するDXが不可欠となっています。
建設業DXが遅れている3つの理由
建設業でDXが遅れてきた背景には、以下の3つの要因があります。
1. 紙・FAXが業界の標準であり続けてきた
受発注業務、工事台帳、図面のやりとりなど、多くの業務が紙やFAXで行われてきました。元請・下請・孫請という多重下請構造の中で、全員が同じデジタルツールを使うことへの合意形成が難しく、デジタル化が進みにくい構造的な問題があります。
2. 建設業特有の業務フローに対応したパッケージソフトが少ない
施工管理・受発注管理・工事台帳・積算など、建設業の業務は業界固有のルールが多く、汎用的な業務システムでは対応できないことが多いです。市販のプロジェクト管理ツールや勤怠管理システムを試してもフィットしないケースが頻出します。
3. ITリテラシーの差異と高齢化
建設業では55歳以上の割合が36.7%(全産業平均32.4%)と高く、29歳以下は11.7%(同16.9%)と低い状況です(国土交通省資料)。現場作業員のITリテラシーに差があるため、システム導入後の定着にも課題が生まれやすい環境です。
デジタル化しないリスク
2024年問題への対応が遅れた場合、以下のリスクが具体化します。
- 法令違反・罰則リスク: 時間外労働上限規制の違反による罰則
- 受注機会の損失: 発注者側(特に大手ゼネコン・官公庁)がデジタル対応を求め始めており、未対応の企業は取引から外れるリスク
- 人材流出の加速: 働き方改革が進まない企業を若手・中堅人材が避けるようになり、採用力が低下する
建設業2024年問題対応で最初に着手すべきシステムとは

「DXをしなければ」と思っていても、どこから手をつけるかが分からないと、結局何も動き出せません。ここでは優先度別に、着手すべきシステムを整理します。
優先度高:受発注管理システム(元請・下請間の効率化)
元請・下請・発注者間で行われる発注書・請書・請求書のやりとりを電子化するシステムです。2024年問題対応として最優先で検討すべきシステムの一つです。
理由は2点あります。第一に、インボイス制度(2023年10月開始)への対応でペーパーレス化が求められているからです。建設業では下請業者が免税事業者のケースが多く、インボイス対応の受発注管理が急務となっています。第二に、受発注業務が電子化されると、工事台帳への転記作業・請求書の紙管理・FAX送受信などの付随業務が大幅に削減でき、間接業務時間の圧縮につながるからです。
優先度高:勤怠・労務管理システム(36協定対応)
2024年問題の直接的な対応として、勤怠・労務管理のデジタル化は最優先事項です。
建設業では現場作業員の日々の勤務状況を把握することが難しく、「どの現場で何時間働いたか」を正確に集計できていない企業が多くあります。月次の集計を紙のタイムシートで行っている場合、36協定の管理が実質的に機能しないリスクがあります。GPS打刻・QRコード打刻・顔認証など、現場での勤怠記録に対応したシステムを選ぶことが重要です。
優先度中:施工管理・工事管理システム
工程管理・品質管理・安全管理・写真管理などの施工管理業務をデジタル化するシステムです。ANDPAD(23万社以上が利用)やグリーンサイトなど、建設業特化のSaaSサービスも普及しています。
一方で、自社特有の業務フロー(例:専門工事ごとの品質チェックシート、発注者への定例報告フォーマット)に合わせる場合はカスタム開発が必要になることもあります。
優先度低(長期投資):BIM/CIM・積算システム
BIM(Building Information Modeling)やCIM(Construction Information Modeling)は、3次元モデルで設計・施工・維持管理を一元管理する次世代技術です。国土交通省が公共事業での活用推進を進めているため、将来的には対応が必要になりますが、中小建設会社にとっては当面は優先度低と判断して差し支えありません。積算システムも同様に、まずは受発注・勤怠・施工管理の基盤を整えてから検討することをおすすめします。
建設業向けシステムの種類と特徴
建設業で活用されるシステムは、大きく「市販パッケージ活用」「パッケージカスタマイズ」「フルスクラッチ開発」の3形態に分類できます。
受発注管理システム
元請・下請間の発注書、請書、請求書の電子化を担うシステムです。
機能 |
概要 |
|---|---|
発注書・請書の電子化 |
紙・FAXでのやりとりをシステム上で完結 |
承認ワークフロー |
決裁者への回覧・承認を電子化 |
インボイス対応 |
適格請求書の発行・受領・保存 |
発注先管理 |
下請業者の情報・取引履歴の一元管理 |
市販SaaSで対応できる場合は導入コストを抑えられますが、自社の書式・承認フローが複雑な場合はカスタム開発が選択肢となります。
施工管理システム
工程・品質・安全管理をデジタル化するシステムです。写真管理・日報管理・図面管理などの機能が含まれます。ANDPADやグリーンサイトのような建設業特化のSaaSサービスが普及しており、月額数万円から導入できます。
勤怠・労務管理システム
建設業特有の要件(複数現場への日々の配置、現場ごとの勤務記録、多様な勤務形態)に対応した勤怠管理システムです。GPS打刻や顔認証など、現場での記録に対応した機能が重要です。
工事台帳・原価管理システム
工事ごとの売上・原価・利益を管理するシステムです。工事台帳の自動集計・受発注との連携・請求書との突合など、会計との連動が重要です。既存の会計ソフト(弥生会計、freee等)との連携が必要なケースが多く、カスタム開発が求められる場面もあります。
BIM/CIM・積算システム
設計・施工の3次元モデル活用や積算業務の効率化を担うシステムです。大手ゼネコン・官公庁との取引が多い企業には将来的な対応が必要になりますが、まずは上記の業務系システムの整備を優先することをおすすめします。
建設業向けシステム開発会社の選び方|5つの評価ポイント

「どの開発会社に頼めばいいか分からない」というのが、多くの建設会社の担当者が抱える最大の悩みです。ここでは建設業向けシステム開発会社を選ぶ際の5つの評価ポイントを解説します。
ポイント1:建設業の業務知識・法規制対応の実績があるか
最も重要な評価ポイントは、「建設業の業務を理解しているか」です。
確認すべきことは以下の通りです。
- 建設業向けシステムの開発実績があるか(受発注管理、施工管理、工事台帳など)
- 建設業法(建設キャリアアップシステム連携、一人親方の管理等)を理解しているか
- インボイス制度・電子帳簿保存法への対応経験があるか
「業種問わず対応します」という会社ではなく、建設業の商流(元請・下請・孫請の関係性)や工事管理特有の課題を理解しているベンダーを選ぶことが、プロジェクト成功の鍵です。
ポイント2:電子契約・建設業法への対応力
2023年のインボイス制度開始、2024年の電子帳簿保存法義務化など、建設業を取り巻く法規制の変化が続いています。また、建設業法第19条により建設工事の請負契約は原則として書面での締結が義務付けられていますが、相手方の承諾を得た上での電子契約も認められています(国土交通省)。
開発するシステムがこれらの法規制に対応できる設計になっているかを確認してください。特に受発注管理システムや契約管理システムを開発する場合は、法令への準拠性は必須要件です。
ポイント3:既存システムとのAPI連携・データ移行対応力
すでに会計ソフトや積算ソフトを使用している場合、新しいシステムとの連携が必要になります。データ移行やAPI連携の対応実績があるかを確認してください。
確認ポイント:
- 既存の会計ソフト(弥生会計、freee、勘定奉行等)との連携実績
- 既存データのCSVインポート対応
- APIドキュメント提供の可否
ポイント4:保守・アフターサポート体制
システムは開発して終わりではなく、法改正・業務変更への対応や障害時のサポートが継続的に必要です。
確認ポイント:
- 障害発生時の対応時間・窓口(電話/メール/チャット)
- 月額保守費用の目安と対応範囲
- 機能追加・改修の対応可否と費用感
- 担当エンジニアの引き継ぎ体制(属人化リスク)
ポイント5:要件定義からの伴走力(プロジェクトマネジメント力)
「要件を明確に言語化できない」「何を発注していいか分からない」という状態でも、要件定義の段階からしっかりと伴走してくれる会社を選ぶことが重要です。
特に建設業は業務フローが複雑なため、発注者側が完璧な要件を書けない場合がほとんどです。ヒアリングを通じて課題を整理し、プロトタイプを作りながら方向性を確認していくアジャイル的なアプローチを取れる会社が安心です。
初回相談・ヒアリングの質で、「自社の業務を理解しようとしているか」「業務の本質的な課題を一緒に考えてくれるか」を判断してください。
建設業向けシステム開発の費用相場
システム開発の費用は、開発形態(フルスクラッチ/パッケージカスタマイズ/SaaS活用)と機能規模によって大きく異なります。
開発形態別の費用比較
開発形態 |
費用相場 |
向いているケース |
|---|---|---|
フルスクラッチ開発 |
200万円〜2,000万円超 |
業務フローが独自で既存パッケージが合わない場合。長期的な拡張性・拡張可能性を重視する場合 |
パッケージカスタマイズ |
50万円〜500万円 |
既存の建設業向けパッケージをベースに、自社の独自要件を追加する場合 |
SaaSクラウドサービス |
月額1万円〜10万円(初期費用別) |
標準機能で対応できる場合。スピード優先・低コストで始めたい場合 |
フルスクラッチ開発の費用は、開発工数×人月単価で決まります。受発注管理システムの場合、小規模(2〜3名体制・3〜4か月)で300万円〜600万円程度、施工管理・工事台帳と連携した中規模システムでは800万円〜2,000万円程度が目安となります。
機能別の費用目安(フルスクラッチ開発)
機能 |
開発工数目安 |
費用目安 |
|---|---|---|
受発注管理(基本機能) |
3〜6人月 |
200万円〜500万円 |
施工管理システム(基本機能) |
4〜8人月 |
300万円〜700万円 |
勤怠・労務管理(現場対応) |
2〜4人月 |
150万円〜350万円 |
工事台帳・原価管理 |
3〜6人月 |
250万円〜500万円 |
複合システム(上記の組み合わせ) |
10人月〜 |
800万円〜2,000万円超 |
※上記は目安であり、要件の複雑さ・データ移行対応・既存システムとの連携によって大きく変動します。
費用に影響する主な要因
- データ移行: 既存の紙台帳・Excelをシステムへ移行する工数
- 外部サービスとの連携: 会計ソフト・建設キャリアアップシステム等とのAPI連携開発費
- ユーザー数・拠点数: 利用者が多いほどインフラコスト・ライセンス費が増加
- 保守・運用費: 月額2万円〜10万円程度の保守契約が一般的
補助金・助成金を活用してシステム開発コストを削減する

システム開発コストを補助金で削減できれば、投資判断のハードルが大きく下がります。建設業のシステム開発に活用できる主要な補助金を紹介します。
IT導入補助金(2025年度〜デジタル化・AI導入補助金)
中小企業・小規模事業者のITツール導入を支援する補助金です。建設業も対象業種に含まれます(資本金3億円以下、常勤従業員300人以下)。
2025年度は「デジタル化・AI導入補助金」として実施されており、主な補助条件は以下の通りです(IT導入補助金公式サイト)。
項目 |
内容 |
|---|---|
補助率 |
購入費用の1/2以内(最大2/3) |
最大補助額 |
450万円 |
対象 |
ITツール(ソフトウェア・SaaS)の導入費用 |
注意点 |
IT導入支援事業者を通じた申請が必要。フルスクラッチ開発への適用は原則対象外 |
IT導入補助金はSaaSや既製パッケージの導入に向いており、フルスクラッチのカスタム開発には直接適用できないケースが多い点に注意が必要です。
ものづくり補助金
ものづくり・商業・サービス補助金(通称「ものづくり補助金」)は、中小企業の設備投資・IT投資を支援する補助金で、システム開発(機械装置・システム構築費)も対象となります(中小企業庁)。
項目 |
内容 |
|---|---|
補助率 |
1/2〜2/3 |
最大補助額 |
通常枠で750万円〜4,000万円(枠によって異なる) |
対象経費 |
システム構築費・機械装置費・外注費など |
注意点 |
革新的な取り組み(生産性向上・新サービス創出等)であることの説明が必要。単純な業務システム導入は採択が難しい場合もある |
ものづくり補助金はカスタム開発にも適用できる可能性がある一方、採択には「革新性」の説明が必要です。建設業でのICT施工や工程管理の高度化など、自社ならではの取り組みとして位置づけることで申請しやすくなります。
補助金申請で注意すべきポイント
- 先に発注しない: 補助金は採択後に発注・契約するのが原則です。採択前に発注してしまうと補助対象外になります
- 交付決定後に着手: 採択後の交付決定を受けてから開発を開始してください
- IT導入支援事業者の活用: IT導入補助金を使う場合は、登録済みのIT導入支援事業者(ベンダー)と一緒に申請する必要があります
- 補助金は後払い: 一般的に、実績報告後に補助金が入金されるため、一時的な資金繰りへの対応が必要です
建設業システム開発を成功させるためのチェックリスト
発注に踏み切る前に、以下のチェックリストで準備状況を確認してください。
発注前の社内確認チェックリスト
確認項目 |
確認内容 |
|---|---|
□ 課題の明確化 |
何に困っているか(業務ボトルネック)を具体的に言語化できているか |
□ 対象業務の範囲 |
どの業務をデジタル化するか(受発注/施工管理/勤怠/工事台帳)が決まっているか |
□ 現状の業務フロー |
現在の業務の流れ(誰が・何を・どの順で)を整理できているか |
□ 利用ユーザーの特定 |
誰がシステムを使うか(管理者・現場作業員・経理など)と人数が把握できているか |
□ 予算の仮設定 |
開発費・保守費の予算感(稟議を通せる金額)が決まっているか |
□ 導入スケジュール |
いつまでに稼動させたいかの目標が設定されているか |
□ 社内体制 |
プロジェクト推進役(担当者・責任者)が決まっているか |
開発会社への確認事項チェックリスト
確認項目 |
確認内容 |
|---|---|
□ 建設業実績 |
建設業向けシステムの開発実績(できれば事例紹介・ヒアリング可能か)があるか |
□ 要件定義支援 |
要件が固まっていない状態でも要件定義から支援してもらえるか |
□ 技術スタック |
開発言語・フレームワーク・インフラ(クラウド)の選定根拠を説明してもらえるか |
□ 連携対応 |
既存の会計ソフトや外部サービスとのAPI連携実績があるか |
□ 保守体制 |
開発完了後の保守・障害対応の体制と費用が明示されているか |
□ 契約形式 |
請負契約か準委任契約か。追加開発時の費用精算ルールが明確か |
□ 成果物の帰属 |
開発したソースコードの著作権・所有権がどちらに帰属するか |
導入後の評価指標チェックリスト
評価指標 |
確認内容 |
|---|---|
□ 業務時間削減 |
対象業務(受発注処理・勤怠集計等)の処理時間が削減されたか |
□ 時間外労働時間 |
月次の時間外労働時間が規制内(月45時間以内)に収まっているか |
□ エラー・手戻り削減 |
データ転記ミス・記入漏れ・請求書エラーが減少したか |
□ 現場定着率 |
現場スタッフが実際にシステムを使っているか |
□ ROI(投資回収) |
開発コスト・保守費用に対して、業務効率化による時間・コスト削減で回収できているか |
建設業のシステム開発は、「何を作るか」と同時に「どの会社と作るか」が成功を左右します。2024年問題対応で急務なシステムの優先順位を明確にしてから、建設業の業務を理解したパートナーと一緒に段階的にDXを進めることをおすすめします。
システム開発 完全チェックリスト――発注前・発注中・完了後の3フェーズで使えるチェック集










